強欲少女のヒーローアカデミア   作:pastel

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28話『強欲の魔女討伐作戦』

 対『強欲の魔女』用仮想都市───

 それはセメントス、治崎、ピクシーボブ

 その他有用な個性を持つ者、雄英のテクノロジーを駆使して海上に作られたハリボテの町だ

 

 レグルスとの戦闘を想定した場合、誰が戦っても大規模な被害が出てしまう事は分かる。ならば完全に使い捨てのフィールドを建ててしまえば良い、というのがヒーロー側の結論だった

 

『獅子の心臓』の特異性とレグルス自身の性格を考えれば空も海も安全地帯にはならないのだが、最優先は市民達の安全だ。空よりも海の上で戦闘をした方が逃走された場合にも対応しやすい

 

 此度の作戦で最前線を務めるのは2人の英雄

 

『オールマイト』『スターアンドストライプ』

 

 日米No.1のタッグ、これだけでどんなヴィランすら戦意を喪失し自ら刑務所へ向かうだろう。片方だけで市民には希望を、ヴィランには絶望を与えられるのに

 2人揃えば敵無しである───

 

 擬似心臓の付与範囲が日本は疎か海外にまで行き渡っている事が判明した時点でアメリカ側も日本の交渉に乗らざるを得なかった。まぁ乗らなかったとしてスターの自由は止められないだろうが……

 

 最強2人に最前線を任せ、他のヒーローは周辺で待機。といっても万が一に備え数名いるだけだ。戦う人間が3人共人外の域に到達している為No.2のエンデヴァーだろうと介入など出来るはずもない

 

 ホークスの『合図』を聞き、各々覚悟を決め準備を進める。『強欲の魔女討伐作戦』とあるが、これは最終手段として”殺害”も視野に入れているという事。倫理観や道徳を問われる判断ではあったが、最早やむを得ない。

 

 1人の為に多数が犠牲になる事をこの世界は許容しない。世界の形は常に「一人は皆の為に」なのだ

 

《来るぞ、2人共》

 

 ナイトアイからの連絡が入り身を引き締める2人の英雄。サー・ナイトアイ……オールマイトの元サイドキックである彼はオールマイトがこの作戦に参加する事を知った瞬間、オールマイトに予知の使用を提案した

 

 勝てれば別に良い。だが負ければ───あの日見た凄惨な死を迎えたオールマイトが現実になれば───

 世界は終わる

 

 だからこそもう一度未来を見て……最悪の結果が出ようと一緒に未来を変えよう、そんな希望論で

 

《大丈夫だ、いつも通りやれば───勝てる》

 

 ***

 

「で、あれがそうなの? いかにもな陰気臭い場所だね。でも彼奴らみたいなクズにはお似合いの場所だと思うよ、どんな人間であれ居場所っていうのは必要だろ? ほらゴミがゴミ箱に捨てられるようにさ。クズにもクズ用の居場所があったって別にバチが当たる訳じゃないと私は思うんだ。大事なのはその居場所で満足する事、でもね? この世にはより高みに登ろうと身の丈に合わない物を望む馬鹿でクズで強欲な人間が事の他多い。本当に度し難いよ、そう思うだろ? それの何が悪いって、そいつら同士で奪い合いをしない所だ、常に矛先は無欲で理性的で争いなんて好まない───私のような人間に向く。許せないよ、許しちゃいけないよ。だってそれは他者の、私の権利の侵害だよね?」

 

 仮想都市上空に浮遊する2人の影───

 強欲と剛翼が姿を現した

 

「(時を止めた状態での空中移動なんて想像もつかないが、簡単なわけないだろう。これ程のポテンシャルを秘めていて、何故───)ねぇ、一つだけ最後に聞かせてもらってもいい? もう会えないかもしれないし……」

 

 最後に一つだけ───そう語りかけるホークスの顔は……その表情に潜む感情は───凶人には、理解できないものだった

 

「これ以上君に時間を割く程暇じゃないって言ったろ? まぁ私という存在を前にして惜しみなく別れられる程往生際のいい人間が少数である事は私も身をもって理解してる。完成された個である私に、完璧で完全な私に、少しでも近づきたい、理解したい。その強欲を私は許容しよう、その余裕と慈悲を持って───君の質問に一度だけ答えよう」

 

「君は何で、英雄を目指してたんだ?」

 

「───皆、そればかり聞く。そんなにも人の為に生きたいって気持ちを理解できないのか? まず、それは……私の事を聞いてないよね? 君が知りたいのは私じゃなく、私が英雄を志すキッカケになった英雄の事だろ───ふざけるな、ふざけるなふざけるな! 私は『剣聖』より上等なんだぞ! だからあんな男の事を聞くな! 話すな! 思い出させるな!!」

 

 彼女の中にある数多くの地雷の中でもトップレベルに威力の高いものを踏んでしまったらしい。怒りによるものなのか恥辱によるものなのか……はたまた両方か───顔を赤く染めたレグルスに、ホークスは静かに別れを告げる

 

「そうか───残念だ」

 

「は? お前─────なッ──ああぁああ!?」

 

 剛翼を切り離し、レグルスの背中まで移動させ押し出す。彼の羽は一枚一枚がそれなりのパワーを秘めている。時間を止めているとはいえ物体としては存在するレグルスはそれに抵抗出来ず地へ落ちていく───

 

「───俺じゃ、助けられない」

 

 ***

 

 ヒーロー側が勝利する上での最低条件───それは

 

『レグルスに触れること』

 

 羽に押されて落ちてくるレグルスを見上げ、アメリカNo.1は先手を打つ

 

「悪いなマスター! 出番はこれで終わりかもしれない! 『大気』大気は私の1000倍の大きさで固まる!」

 

 スターは大気にルールを設定し1000倍の大きさの空気巨人を形成する。巨人は空気で出来ているため視認できず、スターの形に固まることからスターの動きに沿って自由に操作できる───そして最も強力な点はこの空気巨人が触れたものへ───新秩序(ニューオーダー)を付与できるという事

 

「流石……ぶっ飛んだ個性の使い方だな!」

 

 巨人の掌がレグルスを上から潰そうとしているかのように迫り来るが、そう簡単には行かない───レグルスは背中に触れている羽と空気を不変とする事で相殺、その場に留まらせ身体の自由を取り返していた

 

 そして次に対応すべき───見えない脅威

 

 見えない、だが彼女は知覚していた。巨大な何かが周りの空気を押し退けてこちらへ迫ってきている感覚を───彼女の作り出す真空波に似たような何かが、目の前に存在する事を感じ取っていた

 

 それでも、大気の巨人だろうと絶対不変の存在の前では意味を成さない。『新秩序(ニューオーダー)』はこの超人社会でもトップレベルに法外な力だろう。ルールの書き換え……まさしく全能、個性を逸脱した児戯のような無体の力だが───レグルスの時間停止はそのルールという枠組みから外れるものだ

 

 腕を振り上げれば刃と化すが掌で押し出せばまるで砲撃のような真空攻撃を放てる。そして両手でやればより広い面積に触れることで───

 

「あのさぁ! 急に人を地に落とそうとするってあのバカ鳥どうかしてんじゃないのかよ!? 自分の質問が的外れな事理解せずに癇癪でも起こしたのか? 子供かよ! あんなのがヒーロー名乗って街中飛び回ってるとか想像しただけで反吐が出る!!」

 

 見えない巨人への対応、ホークスへの愚痴もかかさない。変な所で器用なレグルスだが───そんな癇癪一つで大気の巨人は四散した

 

 依然として『新秩序(ニューオーダー)』に定められたルールは継続、空気の巨人は再び形成されるが───スターは解除を選択した

 

 ルールを定められるのは二つが限度、一つは自身への身体強化に使用している。それを解除して空気巨人を強化したとして……一度解除しなければならない手間が発生する。その隙とレグルスの個性を考えればこれ以上は不毛である、そう考えた

 

「ハッハッハ! 私の出番を残してくれたのか? もう大丈夫、私が───行く!!」

 

「随分元気そうだなマスター! とりあえず、彼奴を降ろしてくれ!」

 

 オールマイトの脚力はミルコの比にならない。一瞬で目標へ到達できるが……スターはその動きに合わせ完璧なタイミングで個性を使用する

 

「いくぞ!! 『大気』私が見ている方向の400m先、大気は存在できない!」

 

 当然のようにレグルスとの距離感を把握した上で個性を使いレグルスの周りが真空状態と化す。勿論レグルス本体には効果がない───だが大気が消えた事によりお得意の真空波が使えなくなり、その場からも動けなくなってしまう

 

 そして迫るNo.1───だが

 

「───消えた!? サー! 何処から……」

 

《背後だ! オールマイト!!》

 

 目の前で姿を消したレグルスに対し、冷静にナイトアイの指示を仰ぐ。真空状態の中、何故彼女はそこから突然消えて背後へ回っているのか……

 

 レグルスが残像すら残さぬ高速移動が出来るという事は知っている。だがそれは真空状態で、ましてや浮いてる状況では不可能なはず……その考えは彼女自身に否定される事となる

 

 真空状態の中だからこそ相手の見えない動きを察知できず背後を取られてしまう……完全に裏目に出てしまった───レグルスの近接戦闘データが足りなすぎる

 

「ちょっと君達! 一体全体何がしたい訳? 百歩譲って何か凄い大事な理由があったとして、それは私に許可無く攻撃していい理由にはならないでしょ? 常識とかそういう話じゃない、それ以前だ。人間として大事な部分が欠落し───」

 

 背後を取ったとしてそのまま殺しはせず、自分の正当性と権利を全て説明しなければならない面倒な性格に感謝しながらオールマイトはレグルスを掴み、回転する

 

「オクラホマ───スマァッシュ!」

 

「おまッ───のわぁあああああ!?」

 

「真下だぜ!! スター!!!」

 

 その遠心力でレグルスを地上目がけて投げ飛ばし───情けない声を上げながら、なすがままに落下していくレグルスにヒーローは手を止めない

 

「───ふッざける……な、こんなぁ馬鹿な事……!」

 

「『地面』私の前方400m先を中心に半径5mの地面は───時を止める!」

 

 これは検証も兼ねている。レグルス自身の肉体とルールを付与された物がぶつかった場合はどちらが優先されるのか───時を止める、そんな世界の法則を超越したルール同士が衝突すればどうなるか

 

 落下中に何とか体制を立て直し足から地面に触れた瞬間───レグルスの身体が凍りついたかのように静止した。落下の勢いが急に消え、まるで地面と足の接触面が”固定”されているかのように───止まった

 

 自身を不変とし全てを無視する『獅子の心臓』

 対象の不変を強制し外部の干渉を拒む『新秩序(ニューオーダー)

 

『不変』と『不変』が衝突し、拮抗した結果───どちらもお互いの干渉を受けない、そしてお互いが存在を拒む事で『時間停止』による上書きを行えず、そこに停止し続ける結果となった

 

 オールマイトとスターは並び立ち、凶人と相対する

 

「は、はぁ!? 何だよこれ! お前ら、いくら私が余裕のある人間といえど限度ってもんがあるんだぞ!? そうやって人の優しさに漬け込んで自分勝手な行動するとか人として有り得ないだろ、常識くらい理解しとけよ人として生きていくならさぁ。そもそも、何の権利があって私にこんな事するんだよ、誰の許しがあってこんな事出来るんだよ。私という存在を無視して、さも自分が正しいかのように生きるのは辞めろよ。そんな権利ないんだ。人に嘘をついて貶めて、挨拶より先に殴りかかって、その奇妙な個性で私の……! 私の私の私の私の私の!! 邪魔をするな!! だから自称英雄のゴミクズは嫌いなんだよ、自分が正しいと信じて、相手が悪いと決めつけて、他者の権利を奪い取って身勝手に行使して、それが周りの為になると本気で思い込んでるような救いようのないクズ共が、死ね! そもそも、平和の象徴とか言われてる男のする事がこれかよ? ただ自分の力を見せつけて、弱者の心理を利用してるだけだろこの悪党が。他が為に振るった暴力は美談になるんだ、反吐が出る! 全部自分の為なんだろ、自己中心的なエゴで人の権利を踏みにじって、無知で無能で無力な市民に虚飾に満ちた希望を与えてるだけのヴィランが。死んだ一般人が最後まで思ってた事は何だと思う? 『オールマイトが来てくれるから大丈夫』だ。最後までそんな虚飾に満ちた希望に縋るしかない状況に招いたのはお前のエゴのせいだ。反省しろよこのクズが、希望っていうのは絶望の一歩手前だ。過程に過ぎないんだよ、そんな偽りを撒き散らす為に私のような無欲で理性的で平和主義で誰よりも慈悲深い、完璧で完成された個を犠牲にしようとするとかちゃんちゃらおかしいだろ! 完成された個より不特定多数の弱者共を優先すべきって判断したんだろ? それは私の事を軽視してる、私の存在、その価値、その意味を、君は無視していいと判断した訳だ? 切り捨てていいと判断した訳だ? それってさぁ私という個人の権利の侵害だよね!?」

 

『どす黒い白』そんな印象が初対面であるスターの中に生まれた。確かに状況だけ見ればレグルスは被害者でしかないが───今までの言動を全て棚に上げた上で癇癪を起こしている時点で、もはや救いようがない

 

 彼女の心を救えるヒーローは居ない。いや、ヒーローだから彼女を救えないと言った方が正しい

 

 彼女はあらゆるものを認めず拒むが……そんな中でも『英雄』に関しては1人だけ、認めている存在がいる。そのせいでこの世界のヒーローは完全な劣等型であり、自分にも剣聖にも及ばない恩着せがましいクズという印象が着いてしまっている

 

 そんな存在の言う事を聞く訳も無ければ、ヒーローも救いようがないと判断してしまう。身勝手な子供などいくらでもいる。レグルスだけ、その存在を無視する訳に行かないのは単身で世界の均衡を壊せる絶対的な力を持っているからだ

 

 ヒーローだからこそ救えない存在

 ───それがレグルスである




新秩序に関して独自解釈、設定モリモリです
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