強欲少女のヒーローアカデミア   作:pastel

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29話『レグルス・コルニアス』

 目の前の少女を見て、オールマイトは珍しく笑顔を崩しそうになる。それはレグルスの癇癪に不快感を覚えた訳ではなく、ただ自分の不甲斐なさ故の焦燥だった

 

 例えNo.1ヒーローだろうとその手に収まる数には限度がある。人間である以上当たり前の事だが”全ては救えない”

 それは自分のいない所で不幸な目にあっている人だけではなく、手が伸ばせる場所にいるのにその手を取ってくれない人間もいるという事

 

 オール・フォー・ワンとはまた違う。悪意を持って人を傷つけている訳では無い。無自覚な悪意を持って、それが正しい事だと信じきっているのだ。気に入らない相手に自分の力をひけらかしたい、そんな自己顕示欲の塊が───レグルス・コルニアスという少女だ

 

 ───我々が救える存在では無い

 

 ───死が救いになる事もある

 

 本当に、それしか道はないというのか? 

 

「でさぁ、なんか色々小細工とかしてくれたみたいだけど……君達程度の力じゃ何しても無意味なんだっていい加減気づいたりしない訳? 少しくらいさ、疑問に思ったりするでしょ。諦めが悪いのか、ただの馬鹿なのか……それとも私を馬鹿にしてるのかな?」

 

 オールマイトの葛藤など露知らず白の凶人は停止された地面から抜け出し日米No.1を煽る。2人の威圧感は並の人間が気を保てるようなものじゃないが、レグルスは何処吹く風。

 

 如何なる状況でも自分が優位であると信じて疑わない残念な頭がその余裕を作り出していた

 

「靴を脱いで脱出か……古典的だが感情的になっていても咄嗟の判断は忘れないんだな。相澤君達の教えの賜物だな! どうするスター?」

 

「勿論───SMASHだ」

 

「おいおいおい、私にあんな事しておいてその態度ってどういう事だよ? 普通の人なら罪悪感を抱いてる所だよ? 人間性が欠落してるにも限度があるでしょ!? あぁ限界さ、流石の私でもね!」

 

 地面を蹴り飛ばし、抉られた破片が弾丸のような速度で2人の元へ飛んでいく。それでも彼らは焦らず躱す。事前情報が無ければ拳圧やらで吹き飛ばそうとしたかもしれないが、彼らは既に破片の一つ一つが当たれば即死の威力を秘めている事を知っている

 

 砂を投げ散らかしたり石を蹴ったり、幼稚な攻撃方法の一つ一つが致命傷になる事を初見の人間は理解できない。相手の個性が判明しているというアドバンテージにこれ程感謝した事はないだろう

 

「君が彼らと共にヒーローへの道を歩めないのが私は残念でならないのだレグルス少女!」

 

 俊敏に移動するオールマイトにレグルスの攻撃は当たらない。破片が飛ぶ速度は申し分ない。だが予備動作が毎度大きすぎて、予測が容易すぎるのだ。ナイトアイに頼るまでもない

 

「ちょこまかと──────」

 

「おいおい、私は仲間外れか?」

 

 オールマイトにレグルスの意識を集中させスターが隙を見て触れに行くミスディレクションに、レグルスは勿論気づいている。自身の動体視力を超える速度を持つ兎、常に相手の思考を読んで虚を突いてくる通形との訓練は後ろ向きの向上心を持つレグルスの身体がよく学んでいる。無防備な背後を守るなどレグルスにとっては”息を吐く”だけで事足りる

 

 彼女の動作の一つ一つが命を奪う武器と化す。だから彼らはお互いの危機を絶対に見逃さない───

 

「下がれスター! デトロイト───」

 

「見た目通り、脳まで筋肉で出来てるみたいだね君ら。本当笑っちゃうよ、不変である私にその愚鈍な拳が届くでも思っちゃったの? 何やっても理解しない奴って、たまにいるんだよね。理解する努力の放棄ってやつかな?」

 

 真正面から殴りかかるオールマイトに対し勝ちを確信した笑みを浮かべるレグルス。片手を振るうだけで平和の象徴だろうが殺せる訳だが───真空波が出ない

 

「『大気』3m先、私の正面に大気は存在できない!」

 

 そして初めて目の当たりにする『新秩序』発動の瞬間───スターが宣言した瞬間に周りの大気が消えた事からレグルスは反撃の機会を失い……そんな隙も許さずにNo.1の拳が衝突する

 

「スマァァァッッッシュ!!!」

 

「───んぐッ、ぁが───!?」

 

 その拳圧だけで周りの建物を破壊するオールマイトの拳が直撃したレグルスは容赦なく吹き飛び、その先にあるハリボテの建物を破壊しながら煽り文句も忘れない

 

「威力の問題じゃないって気づけよ単細胞が! 私の個性を理解して尚立ち向かおうとする君達の思考回路が私には理解できないね! 自分の力に自惚れてるのかもしれないけどさ、頭が残念じゃ宝の持ち腐れってやつだよ」

 

《ユーモアに溢れているな、彼女》

 

「ジョークでもなさそうだけどな!」

 

 体制を立て直し、あのアメリカ女の個性について思考する

 

 個性を使う対象に宣言するのが発動条件? 末端だろうと触れていればそれに該当するもの全て対象になるのか? 範囲は? 距離は? そもそも大気の存在を消したのは応用か? 地面に貼り付けられたあの感覚は完全に今のと別物だ、こいつら以外にも誰かいる? それとも全部あのアメリカ女一人の個性か? 言ったことが現実となる個性? ルールの上書き、概念の書き換え───まさか

 

「虚飾の権能……?」

 

 もし本当にそうならば───取るに足らないな

 

「はぁ、損した気分だよ。本当にくだらない、で? 君達のやる事なす事全部無意味だって分かったと思うけど、これからどうするつもりな訳? ていうかさ、女の方は初対面だよね? 不条理の連続で触れる暇なかったけどさ、冷静に考えたらおかしな話だ。普通初対面の人間相手に呼吸を出来なくさせたり殴りかかったり、星条旗背負ってる割にあまりにも横暴過ぎると思うんだけど? それともアメリカってのはそういう奴らの集まりなのかな。君の個性も、その自己中心的な性格をよく表してるよ」

 

 虚飾の権能に出来ることは幅が広いなんてもんじゃないが、その実直接的な影響は私に限れば与えられない。アメリカ女の個性がそれに類似するものだったとして『レグルス・コルニアス』を対象とした時点でその効果は意味を成さない。優先されるのは、正しいのはいつだって不変である私だ

 

 ただ地面に縫い付けられたかのようなあの感覚だけは解せない。あらゆる概念を書き換えたとして私はその影響を受けないはず───待て、不変の羽と空気をぶつけた時と同じ現象が起きてないか? 

 

 その長い白髪に片手を突っ込み掻きながら目の前の最強を挑発する最凶。彼女の新秩序に関する推察は概ね正しいが、一つ行き違いがあるとすれば───彼らが狙っているのは本体ではない

 

「個性に気がついたか……だが、分かっていても対処のしようがないってのが最強なんだぜお子ちゃま」

 

「はあぁぁ? ただ歳食ってるだけで周りを子供扱いかよ? 人に対してそんなマウントしか取れないなんて惨めな女だな。あーやだやだ、君みたいな自分が上等な人間だと信じて疑わない奴さ、たまにいるけど私からしてみれば滑稽過ぎて毎度見る度に腹抱えて笑いそうになっちゃうよ。だってさ、ふっ……あはっ……いや、私という至上の存在を前にしてもそうやって取り繕ってる所がもう……あまりに満たされてない憐れな存在過ぎて……笑っちゃ……ふっ、あっははははは! 対処のしようがないから、さ、最強って……お前じゃなくて私の事だろ! あっはっはっ! あはははは!」

 

 白髪を掻き回し空を仰ぎながら爆笑する凶人。もう彼女の中から不安要素は消え去った。どう足掻いたって影響を与える事などできないのだから。No.1渾身のSMASHすら無傷、大気が消えようが死なず、おまけに概念を書き換えれるといえど直接的な影響は何一つ受けやしないのだから。誰も私を否定できない、やはり私は絶対だ、いつだって正しい。君達に私を否定する権利がない事は世界が証明している。私の許しも無しに、世界が許すものかよ

 

 そう、私の絶対性を否定していいのはお前だけだ───ラインハルト

 

「さぁて、この小さな都市ごと海の底に沈めてやるよ!」

 

 空高く舞い上がるレグルス……その勢いは収まること無く雲がある高さまで数秒もかからず移動できる───そう、得物は『雲』だ

 

「正念場だなマスター、後詰は任せるぞ!」

 

「あぁ、ヒーローとは常にピンチをぶち壊していくもの!! こっちも任せるぜ、スター!」

 

 ───停止した雲を集め、やる事など一つ……天高くに舞い上がり真っ暗な夜空に佇む真っ白な少女の手の上に作り出される巨大な氷塊、それは彼女の誰よりも強い自己愛を映し出した宝石のようで───

 

「さぁ、避けれるもんなら避けてごらんよ! それとも、無力な拳で壊してみるか!? 墜ちろ───

『アル・ヒューマ』」

 

 絶対不変の氷塊が真下にある小さな都市の中心部目がけて落下していく。周りの空気を切り裂く音だけが夜空に鳴り響き───彼女は見下ろしながら静かに笑みを浮かべる

 

 その光景を目の当たりにしたヒーロー陣は、漸く理解する。この女が本気になれば日本を海に沈めるなんて片手間で行えると。だが絶望はしない───彼女と相対している英雄はそんな不条理を笑い飛ばすような存在だから

 

「フッ……『大気』私の真上に向けて500m先の大気は時間を止める!」

 

 時を止めた『不変』に対抗するにはこちらも『不変』を創り出せばいい。どちらが優先される事もなく、相殺が永遠に続きそこに留まり続けるのは先程の検証が証明している───故に、一枠使って氷塊を塞き止める

 

 非生物に対する自由度こそ新秩序の真髄。

 

 もし氷塊に付与された時間停止が解除されれば不変の大気に押し負け塵となり、そうでない限りそこに留まり続ける。とても分かりやすい目印を作り出してくれたレグルスにスターは笑みを浮かべるが───

 

「───君が私の真似事をしているのは察してたよ、思った通りの動きだ。でも、不愉快だなぁ。私というただ一人に許された絶対的な権能を模倣するなんて……この身の程知らずが。小細工ばかりで相手を楽しませる事も知らない自分勝手な女め……! 自由を象徴した国に生まれたからって他者に配慮せず勝手していい訳じゃないだろ、履き違えるなよ三下が」

 

 ───氷塊はブラフ。新秩序に関してある程度理解した時、次に知りたいのは回数制限だった。見えない巨人、真空状態、地面の時間停止、これら全てスターの仕業だと確信していた。 だが効果は永続では無い……もしくは永続だが回数制限がある為新たに個性を使うには一個前を解除しなければならないと言ったところか

 

 先程靴を回収した時に地面が元通りになっていたのは確認済み。制約として個性を使って上書きできるのは1回のみか? それとも、ルールの上書きが非生命に限らず生命、人に対しても扱えると仮定して自強化、もしくは私に使うよう温存している? 非生命、生命に1個ずつ付与できるってルールがあるとか? 生命に使う場合、名を宣言するという制約はどう作用する? 自我が確立していない者に対して使った場合適用されるのか? 猫のパックに『パック』と宣言してルールは付けられるのかな? 

 

『大気に触れればレグルスは死ぬ』とか言い出さない所を見るにあくまでルール設定が出来るのは宣言した対象のみ、その影響までは設定出来ないんだろう。はたまた出来るけど私相手だからやらないのか……

 

 ……らしくないな、取るに足らない存在だろ

 

 氷塊に新秩序を使わせ、本体を狙う。無尽蔵に時を止められるレグルスに対し回数制限がある新秩序はかなりの遅れをとる。未だ上空で塞き止められてる氷塊だって、いくらでも作ることが出来るのだから。法外すぎる新秩序だが付け入る隙はいくらでもある

 

「口が達者な小娘だな! 時間を止めるだか何だか知らないが、私の前じゃガキの我儘でしかない。無敵気取りで喚いてるだけにしか見えないぜ、三流! その細腕で私の筋肉装甲を破れるとでも?」

 

「はぁ? 自分の事棚に上げて何だよその言い草は、ガキの我儘はそっちだろ。今が気に入らないから自分の好きなようにルール変えますってどう考えてもガキの我儘だろ。きっと根本的に君はそういう独善的な人間で、その身に合った個性が備わったんだろうね。私は自己中な人間ですって看板ぶら下げながら生きてるようなもんだよ、恥ずかしくないの? お前みたいな奴に侮辱される筋合いないんだよ、思い上がるな格下がぁ!」

 

 相手の目で追える程度のスピードでスターに迫るレグルス。彼女のやり方は相手の悉くを否定して心を折ってから殺す。相手が鍛え上げられた肉体に自信を抱いてるならそれを完全否定してこそ勝利なのだ

 

 ───ホークスの見え見えの罠にかかり、スターのあからさまな挑発にも乗る。その絶望的な煽り耐性、脆い自尊心がいつだって彼女の首を絞める

 

「恐怖で動けないのか? それとも、恐怖を抱く勇気すらないのかな? 虚飾に塗れた希望を信じて生きるからそうなるんだよ、自称英雄!」

 

 新秩序により強化された拳と時間停止された不変の拳がぶつかり合う──────が、触れた物全てを否定し自身の正当性を相手に押し付ける、そんな不条理を込めた拳は無慈悲にスターの腕を消し飛ばした

 

 それでも笑みを浮かべ続けるスターに、レグルスは等々頭がイカれたかと嘲笑するが的外れもいいところ。彼らは絶望しない、絶望的な状況に追い込まれる程希望を輝かせる人間なのだから

 

「いいや? 恐怖を勇気に、ピンチをチャンスに変える、それが私達だ! 『レグルス・コルニアス』!!」

 

「何を──────あぶぇ!」

 

 残った片腕で顔を殴り『宣言』を終えたスター

 

 レグルスは時間を止めている、それ故に新秩序をレグルスに対し使った所で効果は望めない。例えば『レグルス・コルニアスの身体は〜』と言った所でその影響をレグルスは受けない

 

 だがそれは『新秩序』が付与されていない訳では無い、付与された上で適用されない。これが適切な表現だ。だが彼らは知っている、彼女の無敵の攻略法を……レグルスの身体に影響を与えなくとも『レグルス』に影響を与えられる唯一のルールを──────

 

「レグルス・コルニアスの心臓はレグルス・コルニアスの肉体以外には存在できない!!」

 

 レグルスに影響は無い、だが『小さな王』により世界全体へ渡っていた擬似心臓はそのルールと矛盾する事で間接的に影響を受ける事となる

 

 いくら概念を書き換えれると言えど範囲制限は当たり前だが存在する。だが此度の宣言、対象は『レグルス・コルニアス』であり『擬似心臓』では無い

 

 世界との一方的な絆が断ち切られ──────彼女の『不変』は砕け散る

 

 傲慢な王は、独りの人間へと堕ちた

 

「何を言うかと思えば! 正真正銘の馬鹿だな!」

 

 冷笑を浮かべ残った腕も吹き飛ばそうと腕を振り上げ……髪が顔にぶつかる。海の上にあるこの仮想都市では冷たい夜風に髪が靡いて──────冷たい? 

 

「ふっ……はぁ、まだ気づいちゃいない……のか? 墜ちたんだぜお前は……ようこそ世界へ。歓迎するぜ」

 

『強欲の権能』が──────破られた

 

「……お前ぇぇえええええ!!!!」

 

 激高して石片を投げ飛ばそうとするレグルスにスターは苦痛に耐えながらも余裕の笑みを隠さない。腕を失った痛みで気を保つ事に精一杯なのだ。氷塊を止める事と擬似心臓の対策に2枠使っている為応急処置としてのルール付けもできない

 

 あくまで擬似心臓が時間停止を永続で行えるようにしてるだけ、という認識の為解除する事ができないのだ。もし再度擬似心臓が付与されれば勝ち目はなくなる

 

「テキサス─────スマァァッッシュ!!!」

 

「なっ────────────」

 

 絶大な拳圧で声すら上げられず吹き飛ばされるレグルス。数ヶ月ぶりに感じた”痛み”は元より貧弱な彼女が耐えれるものでは無い。ハリボテの建物に衝突し血を流しているが、彼女は倒れない

 

 痛みへの耐性がある訳でもない、No.1のスマッシュをもろに受けて満身創痍だが──────彼女は悪い意味で諦めが悪いのだ

 

「な、んで……なんで? 強欲の、権能を……!」

 

「我々を舐めていたのだろう? 自分の心臓を対象に分け与える個性……恐らく誰にでも付けられる、『獅子の心臓』と合わせればとても強大な力だ。だからこそ──────君は欲張りすぎた」

 

 彼女を否定し身を滅ぼさせたのは他でもない彼女自身の『強欲』だ。1人2人と少ない人数に絞って宿主を選んだ方が『小さな王』に気づかれる事も無かっただろう

 

 クズで愚かな弱者と評価していた彼らに足元を掬われ、世界全体に及ぼした権能の影響が自らの首を絞め────彼女を肯定し認めてくれる……愛してくれる存在は終ぞ消えた

 

「ふざけるなぁ……! ふざけるな! 許さない! 許さない許さない許さない! お前ら全員! 判別もつかない程の血溜まりに……!!」

 

「我々がそれを……させると思うのか?」

 

 時間停止を解除され、生身となった彼女が初めて相対するNo.1ヒーローの威圧感。恐怖なんて感じていないはずだ、こんな筋肉だけが取り柄の無頼漢に私が恐怖するはずが、遅れを摂るはずがない……今すぐ権能を使ってその笑顔を消し飛ばしてやる……だから震えを止めて動け!! 

 

「ちょ、ちょっと待てよ! 卑怯だとか思わないのか君達!? 2人がかりで寄って集って暴力を振るうなんて、人としてどうかしてんじゃないのかよ!? 仮にも英雄を名乗るなら正々堂々1体1で勝負するべきだろ! 英雄っていうのは、どんな状況だろうと自分の使命を優先し私情度外視で、あるべき自分で居続ける存在の事を言うんだ! 例え同格の存在がいたって、あらゆる要素を加味して最強で居続ける、それが英雄なんだよ! お前らなんか、あの男の足元にも及ばない、その貼り付けたような笑顔で何かを守れるとでも思ってるのか? ッッ反吐が出る!!!!」

 

「君の言う『英雄』がどんな男なのか我々は知らない。だが仮にそんな英雄が居たとして、人である以上全てを救う事などできないのだ。常に何かを失い続け、それでも掌に収まる分は必ず救う。それを無視して使命を優先し『英雄』であり続けるというのは『英雄』にしかなれないという事だ。レグルス少女よ──────降伏してくれ」

 

 これはヒーローが与える最後のチャンスだ。当然レグルスが敗北を認めるはずがない。至上の存在である自分が目の前のクズ共の手を取って、敗北を認めればきっとこいつらは思い上がる。『強欲の魔女』を倒したぞと喜ぶ。『レグルス・コルニアス』は弱かったと蔑まれる。そんなの、許せるはずがない!! 

 

「だ、まれ……黙れ、黙れ黙れ! 勝ったと思い上がるなよ、自分の方が上等だと勘違いするなよ。私の余裕と慈悲があったからこそお前達の首は今も繋がってるんだぞ……! なのに何だ? さっき迄必死だった癖にちょっと優位にたったと勘違いすれば直ぐ優越感に浸って偽善を振りまくのか? 気色悪いクズ共が……! 満ち足りていないクズ共が……私の、権利を……!」

 

 この状況でも一切態度の変わらないレグルスを見て、彼らも覚悟を決める。もはや、やむを得ない

 

「君を救えなかったのは我々の責任だ。許してくれなど言わない、願わくば君が、愛を受け入れられる人間に生まれ変わらん事を……さらばだ──────レグルス・コルニアス」

 

「はッう、ぐっ──────」

 

 オールマイトの拳が迫り空へ打ち上げられるレグルス。その勢いを永遠に維持したまま、仮想都市を上から見渡せる程の高度まで行き、やがて段々と真下の仮想都市が小さくなっていく

 

 ──────『獅子の心臓』を発動し久々に味わう心停止の苦痛。『小さな王』が無かった時、ある程度身体が痛みには慣れていたが長い間その痛みを忘れていたことで身体が驚いている

 

 獅子の心臓を解除しても心臓が急に動き出す苦痛に胸を痛めるだけで勢いは消えない。物理法則を度外視した、絶大な威力を誇るSMASHの加速を保存したまま時を止めたのだから──────彼女は落ちない

 

 このまま行けば宇宙まで上昇し続ける? 落ちても地面を掘り進めて海に──────嫌だ、嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ!! 

 

 

 ──────『レグルス・コルニアス』のように惨めな死に方は絶対に嫌だ! 違うんだよ、あんな奴とは格が違うんだよ! こんな事許されないよ、許されていいはずがない。何処かに、この世界の何処かにまだ私が残っているはず、それさえあればもう一度完全な状態に……! 何処だ? 何処にある、何処にいる……無い、居ない、何処にも居ない! あんな女の戯言に全員同意したっていうのか? 全員私を否定したって言うのか? 私を独りにしてもいいって? 独りぼっちでいい気味だなって嗤ってるのか? 何で、どうしてそんな非人道的な行いを容易く行えるんだ。身の丈に合わないものを望んで生涯這いずり回って、もがき苦しんで、それでも諦めず足掻く程『強欲』な癖にどうして私の事だけ否定するんだよ。どうして私が独りになる事を許せるんだよ。おかしい、普通じゃない、これじゃ私が馬鹿みたいじゃないか。完璧で完全だったはずだ、心身共に揺らぐ余地のない至上の存在なんだ! お前らに否定されていい存在じゃない、そんな権利ない、許しも得れない。ただこの不条理な世界を必死に生きて、小さな小さな幸福で満足してたった独りで満ち足りた人生を送っていただけなのに、どうしてそれを嗤われなきゃならないんだ! 『レグルス・コルニアス』のようにはなりたくなかった、だから殺しも最小限に抑えた。他者への譲歩と配慮を忘れなかった。身勝手な強欲も許容して私財を分け与えた……私を否定した人間にも、未来という財産を守る為に優しくしてやったのに、なんでなんだよお! 皆に嗤われながらそのちっぽけで惨めな生涯を終えたあの凶人とは違うんだ、それをどうして認めてくれない!? 私も見られてるのか? 彼奴のように、嗤われてるのか? 私を見て、私の事を、私は彼奴と同じだと嗤ってるのか? ふざけるな!!! 私は悪くない、どう考えてもお前らが悪い。そうだろうラインハルト? お前は私を認めてくれるはずだ、私はお前より上等な人間だ。例え心臓がなくともお前は腰につけた剣を抜いて私を認めてくれるはずだ。その存在を、完璧な私を、完成された個である事を他でもないお前が証明してくれるんだろ? だから今すぐ私を助けろ! こんな所で惨めに死ねばあの自称英雄のクズ共に喜ばれて終わる。功績の一つとしてその歴史が残る限り永遠に嗤われ続ける。そんなの許せるわけないんだよ、世界に愛された私の寵愛を否定したクズ共になんで私が嗤われなきゃならないんだよお! 私はお前らに愛を分け与えた、お前らだって私を愛せよ、それが義務だ。愛を受け入れられる人間? ふざけるな、私を愛さなかったのはお前らだろ! 私は独りになんかなるものか、彼奴のように死ぬものか! 私は悪くない。私は悪くない! 私は『レグルス・コルニアス』じゃない。ダメだ、このままじゃ──────ぐっ、うぅ……なんでいつもこうなるんだ、私が何をしたっていうんだよ。ただ平々凡々と生きていただけだろお……なんで権利を侵害されて、それを許しても許さなくても変わらないんだ。いつもいつも私には何もせず、根こそぎ奪い終わったら私を独りにして何処かへ行くんだ。不条理だ不平等だ、こんな結末絶対に許さない。絶対、絶対絶対絶対──────

 

 宇宙空間へ放り出され、暗闇の中『獅子の心臓』使用から5秒経とうとして脳が警告を出す。解除後1秒も経たずに発動なんて何度も繰り返せない、心停止の苦痛にある程度耐えれる身体でも鍛えなければ意味が無い

 

 心停止か真空状態で窒息するか──────この暗闇の中、独りぼっちで死ぬのか。精神は未だ健在でも肉体の方は限界を迎える。我慢しようとしても身体のリミッターが強制的に『獅子の心臓』を解除しようとしたその時───

 

 

 

───暗闇の中に光る小さな愛が彼女の瞳を照らした

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