強欲少女のヒーローアカデミア 作:pastel
───別に、他人から愛されたいとかそんな卑俗的な事は全く思っちゃいない。愛とか恋とか友情とか信頼とか……そんなの全部幻想で、それを信じる事が立派だとでも思ってる虚飾に塗れた愚者とは違う、私は私でしかなくて誰と関わろうが不変であり続けられる。個の時点で完成された人間だと、それを証明してくれる権能を授かった。つまり他者と関わる事なんて無益で無意味な事なんだ。個で完結すれば権利を侵害される事も私財を奪われる事も自我を否定される事もない。それに気づいた私といつまでも気づく事なく虚飾に塗れた人生歩んでるお前ら。どっちが間違ってるかなんて考えなくても分かる事をお前らは分からない。分かろうともしない、だから嫌なんだ。常に損をするのは上に立つ者だ、個として生きる事を目的とせず他者からの評価でしか自分の存在価値を確認できない弱者に対して私はいつだって配慮を忘れなかった。無視していれば相手は私に悪印象を抱く、それが嫌だから時間を割いて無益な話にも付き合ってやってるんだ。私という存在の意味を勝手なイメージで決めつけられるなんて許せない。人の話を聞かない無愛想で自分勝手な人間と蔑まれたり、可哀想な人間だと憐れまれるなんて絶対に嫌なんだ。だからいつだって私は考えを曲げてお前らの価値観に合わせてやってるんだ。それが当たり前だと思ってる奴らも、自分はそれに気づいてるぞって他とは違う特別な存在だと勘違いしてる奴らも全部全部気持ち悪いんだよ。私の事を理解した気になるな、私に寄り添おうとするな。必要ないんだよそんな優しさは。優しいんだねとか凄いんだねとか、そんな言われなくたって理解してる事を他人の口から聞かされた所で気色悪いだけだ。そうやって私を理解した気になって、寄り添ってる自分に酔ってるだけなんだろ。私という道具を使って自分の優越感を満たしてるだけなんだろ。私を見下してるから簡単に私の事を認められるんだろ? 人は自分の想像を超える存在を認められない。宇宙の外側はどうなってる? なんて質問に答えられる奴いる訳ないじゃないか。本当に私を理解して、本当に私を認めて、本当に私を愛してるなら軽々しく笑うな。ヘラヘラ笑うな。近寄るな寄り添うな愛を求めるな期待するな見下すな馬鹿にするな憐れむな! 他者との関係に依存して他者の影響無しに自我を確立できないお前らにそんな権利はないんだよ。子供とか伴侶とか、欲に塗れた関係に価値を覚えてるような卑俗な連中と、私が同列に扱われるなんて耐えられない。愛してるとか好きとか、文字の羅列を飾って想いを伝えるなんて馬鹿げてる。なら形で示すのかと思えばまるで馬鹿の一つ覚えみたいに生殖行為しかしない。結局の所、お前らが価値を覚えてる愛とか恋とかってのは後から着いてきた付属品で、自分の欲望を満たした末に得たものではしゃいでるだけだ。恥ずかしいとは思わないのかよ。そんな卑俗で『強欲』が生む薄汚れた結晶を人は愛と呼ぶのなら、今私を照らしてるこの光は一体なんて呼べばいい? 私を一度は否定して、それに対する許しなんて得れないはずだ。あの女が決めたルールが消えたとして、私の権能が許すはずもない。なんで、そんな脆くて孤独でちっぽけで瞬きすればいつの間にか消えそうなくらい小さい癖に、どうしてどんな星よりも光ってるんだ。そんなに光らなくたって充分感じ取れる。そんなに光らなくたって別に怖くなんてない。こんな暗闇に、独りぼっちでいたって別に何も不安じゃない。命の危機を救って英雄気取りか? 独りぼっちの私に手を差し伸べて虚栄心を満たしてるのか? それとも本当に……私の傍に居たくて、ただ私に応えたくて、ただそれだけの事で不条理を乗り越えたっていうのか? 分からないよ、意味が分からない。なんで他者の為にそこまで出来るんだ。そんなのまるで……いや、ありえない。どうせ今も嘲笑ってるに違いない、私を愛せるのは私だけだ。私にだけ許された私の為にある権利だ。そうだ、信じる価値なんてないだろ。期待したものに裏切られるなんて屈辱は耐えられない。殺したって絶対に曇りは晴れないんだから。でも……クソが、なんで私が取捨選択を迫られなきゃならない。ふざけてる、不条理だ。私が1番……許せない、のは───この光を確かめずに失う事だ
息を吹くだけで消えてしまいそうな1粒の光。それは全てを求めた結果全てを失った憐れな王が初めて心まで感じた人の暖かみだった。それを愛とは認められないのか、認めた上で目を逸らしてるのか。
この光を失いたくない、もう二度と独りになりたくない……そう素直になれる人間だったなら、どれ程幸せな人生を送れたのか。結局自分が無意識に求めているものも、手に入ればそれは脆い自尊心を砕く材料にしかならなくて、なのに肥大化した自己愛とプライドのせいでいつまでも自尊心が塵になる事はなく、必死に取り繕えば求めている物がどんどん遠くなっていって。そんな出口のない迷宮から抜け出そうとも思えなくて……
でも例えば、そんな迷宮に足を踏み入れて……全てを照らしてくれる何よりも明るい光があったなら───どれだけ歪でも、どれだけ利己的でも受け入れて迷宮から抜け出す為の道標となってくれるなら……それは彼女にとって唯一心の底から信じれる愛の形かもしれない
***
壊理の所へ戻ったホークスは目に映る惨状に思考が追いつかなかった。建物が立っていたはずの場所は何も無かったかのように更地となり、周りの植物、生物、建物……全てが『無かった』頃に巻き戻っていく。その中心に泣いている一人の少女……壊理がいた
羽を動かし壊理の元へ飛ばそうにも途中で消滅し、生身で行けば同じようになる可能性が高い為巻き込まれないよう距離を取りながら民間人を救ける事しか出来なかった
「個性の暴走……! しかもこれ……治崎、こういうのは先に伝えるべきだろ……!」
《何故? 魔女を殺すまでの取引だ。俺は公安に雇われたが、ヒーローになるなんて言ってない。ましてや俺の娘でもない壊理の事について話す義務は無い、精々頑張れホークス》
無慈悲に通信が切れる。物間の治療を受け目を覚ました治崎は個性の有用性から公安にスカウトされ、レグルスへの復讐を目的にそれを承諾。明確な証拠が無い以上限りなく黒に近いグレーとして存在した治崎に頭を悩ませていたホークスは、無理矢理にでも壊理の個性について吐かせるべきだったと後悔した
楽観的な思考をしていたかもしれない。治崎が明言する事は無かったが嘘はついていなかった。自分にも落ち度があるからこそ後悔せずにはいられない。このまま何処まで被害が及ぶのか、もしかしたら壊理自身に作用するかもしれない。何がトリガーになって暴走したのか分からない以上、イレイザーヘッドを待つしか……
───その時、夜空に輝く一等星が地上に降り立つ。獅子座の名を冠した小さな王……その身は炎で燃え盛り、されど肉体はおろか衣服まで一切燃えていない。被害の中心部に降り立ち壊理を抱きかかえても巻き戻しの影響は受けず、一息吹けば炎は四散した
「……れぐ……るすお姉、さ……ん……」
「そうか……君だったのか、壊理。私は君の事を誤解してたみたいだ、素直に謝罪するよ。仮初の言葉で事実を飾る事なんて誰にでもできる。でもね、言葉にせず人に想いを伝える事が出来る人間は極小数しかいない。それは私と君だ。君の想いが遠くにいた私に、ハッキリと伝わってきたよ。鬱陶しいくらいに光り輝いててね。でもそれが目印になって、ここまで戻ってこれたんだ。今は少し立て込んでるようだから、後でゆっくり話そう。2人きりで、誰にも邪魔されずに。だから安心して眠ってくれ、後のことは任せて……もう大丈夫──────私はここにいる」
レグルスを見て安心したのか角の光が消え涙の跡を残しながら瞼を閉じる壊理と、それを何よりも大切に抱きしめるレグルス。周囲の状況と2人の立場に目を瞑れば感動の再会とも言えるが……
2人の出会いなんて最悪だ。別にレグルスは壊理を助けようと死穢八斎會を襲撃した訳でも無ければ、壊理も置いていかれたくなくてレグルスに縋っただけで……だけどその後の生活は親からの愛情を失った壊理にとってかけがえのないものになっていった。子供ながらに、壊理はレグルスを愛していた。紛れもなく、壊理の愛が時間という理を超えてレグルスを救ったのだ
「何で、何で生きてるんだ……さっき撃破したと、報告が来たのに……」
「何で? どうして? どうやって? 君達って本当にそればかりだよね。聞いてばかり、委ねてばかり、なのにそれを知る為の努力は放棄する。本当にどうしようもなく無知無能、流石の私も呆れるよ。配慮と譲歩を常日頃から心掛けてるとはいえ、それに甘えて怠惰を正当化するような奴に慈悲を与える必要は無いと思わない? 特に、目の前の問題から目を逸らして都合の良い事だけ受け入れるような奴にはね。でも勘違いしないで欲しいのは、そう思ってるだけで慈悲を与えない訳じゃないって事。だって私が見捨てちゃったら、いよいよそいつらの存在価値が無くなっちゃう訳で……まぁ何が言いたいかってさ、私を見てないでちゃんと地に足つけて現実見ろよって事……はぁ、ここまで言っても察せないとか論外だね。”上”見ろよ」
人差し指で空を指し、壊理に向けた笑顔とは真反対の邪悪な笑顔でホークスに語りかけるレグルス。言われた通り空を見上げてみれば─────燃え盛る隕石が夜空を照らしていた
「せっかく宇宙まで行ったんだし、気持ち程度の土産だよ。ほら、冥土の土産とかたまに聞くじゃない? 正確には死後の世界に持っていく土産話の事を言ったりするらしいけど、些細な事だよね。自分が死んだ原因を土産話にしたらいいじゃないって私は思うわけ。だってそれこそ冥土でしか話せない事でしょ? その場にあった話題を選ぶ、それが人との会話における当然のマナーであり、ある種の義務みたいなものだ。でも話の内容が面白くないとただの自己満足になって場が白けるかもしれないよね? それは気の毒だから、私からもある程度手伝ってやろうと思った訳。ほら共通点があると親近感が湧いたりするじゃない? 私は湧かないけど。君達って群れる上でそういう棲み分けするの好きでしょ? その趣向を私は尊重してやったんだよ。私はね、慈悲深いんだ」
絶望的な状況に言葉も出ないホークスに対し、レグルスは自身の力と余裕を誇示するかのように話を続ける
「君達は失敗を認めず乗り越えようとするから失敗を繰り返す。今に満足せず更に向こうへなんて言うから足元が見えなくなる。上を見続ければ自分の惨めさから目を逸らせるからだろ? 努力をしない事は甘えだと君達は宣うけれど、私からしてみれば努力すれば何とかなると思ってる考えが甘えそのものだね。結局自分の頭で考える事を放棄して、他者に何かを委ねた時点で個としての格が下がってる事に気づけよ。これだから、人と関わるのは嫌なんだ。無価値で無意味な癖にストレスが溜まる。損得で物事を判断する利己的な人間にはなりたくないけど、流石の私でも許容範囲を超えてるとしか言いようがない。だってそれは私が損をすることで得をする人間がいるって事だ。そんなの許していいはずがない、立派な権利の侵害だ」
レグルスは言いたい事を一方的に話終え壊理を連れて歩き出す。確実に殺すのであれば隕石よりも惑星事落とすし、何なら自分で動いた方が確実だ。彼女の怒りは持続しない、ただ少し根に持ってささやかな嫌がらせに留めるだけだ
「俺の翼じゃ燃えて終わる……! でもNo.1達が到着するまで何とか耐えるしかない───」
徐々に接近してくる隕石に対し少しでも時間を稼ごうとした瞬間───飛来する隕石に向かって飛行している燃え盛る男を目にした……No.2ヒーローエンデヴァーの姿を
「エンデヴァーさん!? 何で───いや、ここ任せます! 俺は2人を!」
「言われるまでもない。この程度、俺一人で何とでもなる。赫灼熱拳─────」
***
───き……ろ
────起き……ろ……
────「私が起きろって言ってるんだから起きろよ、仏の顔も三度までって言うだろ? 別に私は三度までしか許せない器の小さい仏じゃないけど。流石に三度目で相手に応えるくらいの態度は示そうよ、それが最低限の努力ってやつじゃないの?」
目を覚ました壊理の視界はレグルスの顔で埋まっていた。眉間に皺を寄せて「私、不機嫌です」と言わんばかりの表情で───人気のない公園に2人の少女は居た
「……ぁ、私……」
上手く声が出せなかった。レグルスが怒ったのも、自分から離れていったのも、個性が暴走して周りに迷惑かけたのも全部自分のせいだと自責の念に駆られていたから。本当に悪いのはレグルス一人だが、それを指摘できる人はいない
また自分のせいで怒らせてしまうのでは、悲しませてしまうのでは……そういった不安な気持ちとは裏腹に、レグルスが自分の元に戻ってきてくれた事がどうしようもなく嬉しくて、安心して───色んな想いが涙になって溢れ出す。それでも顔に喜色を浮かばせて、掠れた声で伝える
「───ぁ……あり…がとう……。」
涙を流しながら、それでも笑顔で感謝の言葉を伝える壊理を前に、彼女は何も言わず掌を重ねた。いつもなら嘲笑ってると一蹴する笑顔も、自分勝手だと見放す涙も、今は何だか否定する気になれなくて。彼女の道標となった光に対していつものように語る事も出来ず、ただ掌を重ねる事が精一杯の答えだった
壊理も同じように掌を重ね、そっと包み込む。少女の愛を受け入れたレグルスの掌は凍っていた時が溶けるかのような暖かさに包まれていた───。
本質は何も変わっていません。それでも愛を受け入れる事でレグルスの空っぽな心は充分救われるでしょう、それで満足しないから『強欲』なんですがね