強欲少女のヒーローアカデミア 作:pastel
互いを受け入れ対等となった彼女達にとっての幸せは一緒に居る事。周りはそれを無視する訳にも行かなければ、わざわざ介入する訳にもいかない───壊理を味方につけ、壊理自身もそれを受け入れているなら裏から少しだけ手を回し先にある障害を取り除けば獅子の尾は踏まれる事も無い……
それがホークスの判断であり、後にヒーロー全体の意思となるが……例えヒーローやヴィランが態度を変えてきたとして世間は現実を見ない。気持ち程度に寄越した隕石とエンデヴァーの対決も世間はまるで映画を見ているかのような盛り上がりを見せるだけ
スターの個性を秘匿する為誰も知らぬ所で起こった戦いも当然世間は知らない。日米No.1が手を組んでも倒せなかった自分の力を誰も理解しない
それがどうしようもなく許せなかった。じゃあ今すぐ国を沈めるか? 違う、別の国で同じ反応をされるだけで状況は何も変わらない。”全てを手に入れる”なら壊理が個性を自分の意思で使えるようにならなければいけない。今は待ち、自分達の慈悲によって成り立っている平穏を謳歌させる
「あぁ言い忘れていたよ。これから一緒に生きていく上で私から幾つか伝えたい事があってね。そう身構えなくてもいい、無理難題を押し付ける訳じゃないからね。ほら、笑った顔が不細工だから表情変化を禁じる奴とかもこの広い世界にはいる訳だけど、私は違うからね。だって君はどんな表情でも可愛いんだから、それを制限するのは君と私の権利の侵害だ。私が言いたいのは、個性を使いこなせるようになって欲しいんだよね。私と対等な関係でいる以上は自分の力くらい使いこなせないと。まぁそんなに重く捉えなくていいよ、自分のペースでやっていけばいい。そうこれはある種の試練みたいなものだ、私への愛を確かめる試練。私を真に愛しているなら、きっと試練を突破できるはずだよ。勿論、私も協力するとも。2人で乗り越えてこそ愛を確かめられる、そうだろ?」
「うん! 私、怖いけど頑張るよ……!」
壊理は自分の個性についてあまり理解していないようだが、レグルスは凡その性質を見抜いていた。
まず原則として『小さな王』は一度心臓が消えれば二度と対象は宿主にならない。そして新秩序に定められたルールにより何十億もの心臓は全て潰された。壊理に至ってはレグルスと出会った時点で擬似心臓が治崎に分解されてた訳だが……
心臓の所有者が死亡した場合のみ子孫に心臓が移動する仕組みになっている以上レグルスの意思で新生児に心臓を宿す事は不可能
つまり『小さな王』は形だけ保ったまま存在意義を失い空の箱になったはず。何故、新秩序・小さな王の性質と矛盾しているのに全てを押し退けてそこに存在しているのか───これは時間という理から逸脱した存在であるレグルスだからこそ正解を導き出せた。壊理は『時を巻き戻している』
壊理が宿してる心臓は2つ目ではなく1つ目のままだ。心臓が宿っていた状態まで時を巻き戻したからこそ『小さな王』の性質と矛盾していても共存出来てる訳で……
「今思えば、私達の出会いも運命の巡り合わせだろうね。この関係は結果論じゃなくて、なるべくしてなったって事だよ。偶然が重なったにしては無視できない点が多いもの。私達2人に向けた福音って所かな───そういえば、君は彼奴らの所で既に擬似心臓が取り除かれていたみたいなんだけど……まさか汚されたりしてないよね? いや一応確認だ、本当に形式上のものでしかない。答えなんて分かりきってるのに一々質問しないといけない日本のやり方は面倒だよね、私も常々思ってる。でもね、万が一があってはいけないでしょ? 思い込みはいつだって身を滅ぼす。だから敢えて聞かせてもらうよ───壊理、君は処女かな?」
「……しょじょって何?」
キョトンとした顔で首を傾げる壊理と余裕のある笑みを浮かべながら尋常ではない汗を流しているレグルス。大気圏に突入しても汗一つかかなかったのにどういう原理なのだろうか
いくら女性同士だろうと6歳の子に対して言っていい事と悪い事がある。彼女の名誉を守る為補足すると、レグルスは壊理に向ける独占欲が強いだけでそこに邪な気持ちは無い。勿論、処女かどうかで壊理の価値を決める訳でもない。少し拗らせすぎてるだけだ
「そうか……君は心まで処女なんだね、いや処女である事に価値を感じる訳じゃないけど。私は許せないんだ! 処女が何かすら知らない純粋無垢な君に手を出した奴が居るかもしれないと考えただけで虫唾が走る! 私の壊理に手を出したって事は私にとって替えの効かない大切な物を奪ったって事だろ! 許せない許せない許される訳が無い、これから先私達が生き続ける限りその汚れは色濃くなっていくんだ。耐えられない耐えられないよ何でそんな絶望を抱えながら生きなきゃいけないんだ。これ程の不条理があっていいのかよ、よりにもよって私達に降りかかるなんておかしいだろお! あの男共を全員殺したせいで罰を与える事すら叶わないっていうのか……? 死ぬ事で罪から逃げやがって殺してやろうか!!?」
髪を掻き毟りながら憎悪を抱いて止まないレグルス。十八番の被害妄想が膨らみ続けた結果、極小の器では耐えられるはずもなく無事脳が破壊されていた
「えっと……私は大丈夫、ずっと一緒……だよ?」
「あぁ言われなくても一緒に居るとも。君の過去は気にしない、そうさ巻き戻せば汚れも消せる。私は処女じゃない事が分かれば即ミンチにするあの男とは違うから、君の全てを受け入れるとも。うん、全然気にしたりしないよ。相手に対してそういう心配をするのは相手を信じていない何よりの証拠だ。相手は自分を裏切るような人間だと心のどこかで思ってるから心配する。自分の自信が足りない事を相手のせいにするって有り得ないよね?」
果たしてどちらの方が大人だろうか。レグルスが情緒不安定になった時は壊理が落ち着かせるのが一種の日課になっていた。もし彼女が治崎廻の生存を知れば一体どうなってしまうのか、想像もしたくない
レグルスの生存を知りストレスで倒れた治崎が彼女の前に現れる可能性は現状低い事が不幸中の幸いか───
***
───雄英高校の会議室
「サーが言っていた、未来は我々の勝利という結果で終わるはずだったと……そしてその未来を彼女達の想いが変えたとも。全て私の責任だ……! 取り返しのつかない事を───」
「まぁそう重く捉えなくて良いでしょオールマイトさん。巡り巡って愛を受け入れられる人間になれたんですから、ちょっかいかけるのは野暮ってもんすよ」
「貴様は何故そんなに楽観的なんだホークス! その男が奴を殺し損ねたせいで危うく街が焦土になる所だったんだぞ!? 俺がいたからいいものを、あんな事が奴の気分次第で幾らでも起こりうるなんざ、冗談じゃない!」
「俺は大真面目ですよエンデヴァーさん。1人の時点で日米No.1が手を組んでやっとだったのに、その弱点を全てカバー出来る最強の武器が備わった。鬼に金棒所じゃない、俺達にできるのは彼女達の尻尾を踏まないよう行動する事ですよ。アニマルセラピーとかどうです? 彼女猫飼ってたでしょ」
「イレイザーが甲斐甲斐しく世話してる猫か? 本当に大切なら直ぐにでも連れ戻しに来るだろ。相手は雄英のセキュリティなんて息1つで吹き飛ばせる女だぞ」
『強欲の魔女討伐作戦』失敗の原因、彼女の協力者である壊理の個性……それらを全員で確認し、今後について話し合っていた
「彼女をもう一度倒そうとするなら壊理ちゃんをどうにかしなければならないが、そうすれば彼女は手を抜かずに全力で戦うだろう。リスクとリターンが釣り合ってないのもあるが、そこまでして彼女達に力を注ぐよりも周りを先にどうにかした方がいい。他でもない敵連合についてさ!」
「最近になってまたヒーロー殺しが活動を始めました、彼の行動範囲から情報を集め連合の居場所を突き止めます。これ以上我々は後手に回る訳にはいかないが……連合をどうにかしたとして背後にいる黒幕に手が届くかどうか……」
「一旦切り替えるしかない、最後に勝つのは正義だ。連合の事、彼女達の事、頭が痛くなる事案が続いているが皆で頑張ろう。話は変わるがホークス、治崎君について───」
***
───敵連合アジト
「何許可なく活動再開してんだステイン、足が着いたらどうしてくれる? 雄英の合宿襲撃が控えてるんだ、成功しても足が着いてちゃヒーローが飛んでくる。信念や大義を立派に掲げるのは良いが自分勝手にされちゃ困るな、チームだろ」
数ヶ月前レグルスと対峙し結果的に敗北で終わった連合はめげる事無く次の計画を実行に移そうとしていた。雄英高校の林間合宿先に襲撃を仕掛け、生徒を攫う
「俺と貴様は利害の一致で組んでいるに過ぎない。作戦も俺は参加しない、レグルスがヴィランとなり雄英やヒーローの信頼が一度は落ちてもまだ贋物は平然と生きている。信念なき殺意に何の意味がある? 死柄木」
「───やっぱ気に入らないなぁ」
一触即発の雰囲気。戦力増強の為ヒーロー殺しを引き入れた死柄木だが、トガや荼毘とは違い根本的に合わない相手だった。今の社会を壊す事が目的の2人だがその先に望む結末は全く違うものだ
「そもそも今の社会が気に入らないから贋物のヒーローを殺して回ってるみたいだけど、地道な活動過ぎて泣けてくるねえ。ヒーロー飽和社会を壊したいならまずオールマイトを殺すべき───」
「言葉には気をつけろ死柄木……次は殺す」
反応出来ない速度で肩を刺され床に倒される死柄木。だが痛みに悶えることも無くステインを睨みつけている───最早お互いを味方とは思ってないだろう
「このヒーロー飽和社会、作り上げたのは他でもないオールマイトだ。平和の象徴として君臨したから他のヒーローは暇になりタレント業みたいに変化していったんだ。オールマイトが作りあげた社会を壊す為にオールマイト以外を殺して回る、根本的な解決になる事はない。殊勝な事だなステイン、ヒーローブリーダーに改名したらどうだ?」
「貴様ッ───!」
「信念掲げて社会壊しにいってる奴が、結局最後はヒーローに頼るってのはおかしいよな? 俺気づいたんだよ、ゼロから始めるっていうのはそういう事じゃなくて……一旦全部壊してからじゃないとダメだってさ。レグルス、ヒーロー、社会、もう何もかも壊してから初めてゼロになるんだ。誰かが作り上げた1に興味は無い……だからお前も死んでくれ」
肩に刺さった刃物を崩壊させ───それに触れているステインにまで崩壊が伝播した。最後は声もあげず塵となったステインに対し死柄木は興味無さそうに立ち上がる
「雄英襲撃……まぁいいか、レグルスはラスボス。レベリングは大事だな。先生……あんたの提案なんだから勿論手伝ってくれるよな?」
《僕自身はまだ手を貸せないけど、最強の助っ人を貸し出すよ。だが今回だけだ、次からも”彼”を使いたければ君自身の力を認めさせる事だ》
「あんたから『最強』ってワードが出てくるのか、期待しとくよ。崩壊も成長してきてる、全てを壊すのは時間の問題だ」
連合の目的は、レグルスの存在が最大の障壁となる。死柄木もレグルスも互いを無視できる性分ではない。信念、大義、そんなものは絶対的な力に踏み躙られて終わる。そしてその力を手にするのはいつだって彼らのような人間だ
「黒霧、招集かけろ。計画の最終確認だ」
林間合宿の難易度急上昇中!!