強欲少女のヒーローアカデミア   作:pastel

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32話『その少女、《強欲》につき』

 ───林間合宿2日目の夜

 

 緑谷と轟は合宿施設の外で顔を合わせていた。別に聞かれて困るような内容では無いが一応場所を選ぶ程度の配慮は忘れない

 

「轟君、まだレグルスさんの事で悩んだりしてるの? 余計なお世話だったらごめんね、でも最近ずっと思い詰めた顔してたから……」

 

「忘れらんねえのは確かだけど、ある程度は吹っ切れた。周りに好き勝手言われちゃいるし実際悪い事だってやってるから、そこは目を逸らさない。……USJの件、今思えばマッチポンプだったんじゃねえかって言ってる奴もいる。俺が救われた言葉も、俺の事情に何かを思って言ってくれた訳じゃないかもしれねえ。ただ……自分より何倍も強い英雄に憧れて、曲がりなりにもそこを目指してた事実だけは変わらない……と思う。オールマイトに憧れてた訳じゃないみてえだが、最強のヒーロー目指してたって点じゃ爆豪に似てるとこあるな」

 

 しっかりとレグルスが与えた影響を感じさせる轟に苦笑いしながら答える緑谷。レグルスが爆豪に似てるなど、両者が聞けば洒落にならないだろう

 

「そ、そっか……思ったより平気そうで安心したよ。僕も、彼女が人に言えないような事情抱えてたり難アリな性格してるのにそれでもヒーロー目指してたのは、それくらい憧れた……超えたいって思ったヒーローが居たからだと思う。レグルスさんがかっちゃんに似てるって、どっちに言ってもめちゃ怒られるだろうけど……あはは……」

 

「……彼奴を助けたいって思っちまうのは、彼奴にとって余計なお世話でしかないんだろうな……なぁ、緑谷ならどうする?」

 

「えっ……と……多分、彼女は助けられる事を求めてないと思うんだ。助けが必要な人間……って思われる事すら苦痛だと思う。プライドが高い人ってそういう所あるから……でも、そうだな……何か声をかけるとしたら僕は───」

 

 緑谷が頭に思い浮かべたのは誰よりもプライドが高い幼馴染みと……自分を選んでくれたNo.1ヒーローの言葉───

 

「何か上手く言えねえけど……緑谷らしいな」

 

「ま、まぁ僕の言葉じゃなくて、受け売りでしかないから! でもこの言葉だって僕から言った所で全く耳を貸さないと思う。それに彼女が今もヒーローになりたいって気持ちが残ってるかなんて分かんないし。だけど……どんな形であれ、憧れってそう簡単に消える物じゃないから……それこそプライドが高い人ほど、いつまでも残り続けると思う」

 

「爆豪がそうだからか?」

 

「それ絶対かっちゃんの前で言わないでね……!」

 

 本質は捉えていないが的は得ている。彼女が事ある事に剣聖だの英雄だの宣うのは他でもない『レグルス・コルニアス』が彼に敗北したからだ。私と彼は違う、と言葉にはしても簡単に割り切れる事じゃない

 

 彼女の原点は劣等感に塗れていた。あの剣聖に、自分なら勝てるなんて断言出来なかったから。どれだけ自己愛を膨らませて自身を至上の存在だと思っても、彼よりは下だと言われてるような気がしてならなかったから───

 

 彼女は彼の強さと自分の弱さを一旦認めて、楽になった。そして追い越そうとすればする程彼と自分の間にある距離が明確になって、周りにもそれを馬鹿にされてるような気がして……何もかもから逃げ出したんだ

 

 終いにはナツキ・スバルのような力だけで言えば圧倒的に下の存在にすら足元をすくわれ、笑われる始末

 

「正直綺麗事でしかないと思う、だけど……命を賭して綺麗事を、理想を現実にするのがヒーローだから」

 

「お前も先輩も、凄いな……俺も追いつかねえと、結局職場体験の時から左のコントロールが課題のまんまだし、今回の訓練で掴まねえとな」

 

「いや僕なんか全然! 轟君には及ばないよ、でも炎が氷結くらい精密なコントロールが出来るようになれば、赫灼熱拳とかも出来るかもしれないし2つ合わせた合体技とかも視野に入るし……ブツブツブツ」

 

 日米No.1と戦い宇宙旅行までして来たレグルスと比べ彼らは平穏な日常を謳歌しているが直ぐに思い知る事となる……レグルスとはまた違う圧倒的な暴力を

 

 歩く災害……そう呼ぶに相応しい怪物と相対する事となる

 

 ***

 

 レグルスお姉さんのパーフェクト個性教室は行き詰っていた。壊理の個性が額に生えた角からエネルギーを放出して対象を巻き戻す、ここまではいい。

 問題なのはそのエネルギーをどう貯めるかだ。先日の個性暴走でエネルギーを使い果たしたのか角はかなり小さくなっている

 

「悩ましいね壊理、私の役に立ちたいという素直で真摯な想いに反して君の個性は中々難儀な性質をしているみたいだ。でもそれは使いこなせない理由にはならない。どれだけ特異な個性でも、体質と合ってない個性でも自分が授かった力は自分だからこそ行使できる至上の権利なんだ。他でもない自分が授かったからこそ意味がある、全ては成るべくして成る。私がこの個性を授かったようにね」

 

「ごめんなさいレグルスお姉さん、上手くできなくて……」

 

 この超人社会において『個性』に人生を狂わされた人間は多い。未だに迫害が続いている異形系や周りから”ヴィラン向き”と蔑まれるような個性持ちは皆一度は思った事があるだろう……『こんな個性じゃ無ければ』と───

 

 そんなのはレグルスにとって戯言も戯言、個性も権能も加護も変わらない。自分だからこそ授かる事が出来た権利……それが彼女の考えだ。だってそれが間違いだと言うのなら、この権能は『レグルス・コルニアス』の物であってお前の物では無いと言外に言ってるようなものだ、そんなの許せない

 

 本来お前は何の価値もない惨めな人間だと、そう言われてるようなものだ。そんなの許されるはずがない

 

「いや構わないさ、個性についてはゆっくりやっていけばいい。身体機能の1部である以上は君の体調を無視してまで努力を強いるなんて事はしないよ。君は今まで自分の意思で個性を使った事はあっても操作まではした事がないよね? そういう今までの経験が足枷となって今一感覚が掴めないのかもしれないね、それとも個性を使えば大変な事になる……と頭の中で思い込んでしまってるせいで無意識の内に制限をかけてしまっているのか……疑問は尽きないね。でも大丈夫、焦らなくても君の個性である以上いずれ君は体の一部のように意識しなくても個性を使えるようになるはずだ。それで、円滑に物事を進める為に一つだけ聞いておきたいんだけど……君はあの場所で彼奴らに何をされていたのかな?」

 

 壊理は個性を使おうとする時、何かに怯えてるような表情をする。もし過去に何かあったとして、その出来事がトラウマになっているなら十中八九死穢八斎會にいた頃の話だろう、そう推測した……というのは建前で、結局過去を隠されたままでは信頼に欠けるし、いつか自分が裏切られるんじゃないかと不安だった

 

 そう素直に言える人間でも無ければ認められる人間でも無いので必死に取り繕う訳だが───

 

「えっと、沢山あの人に……痛い事、されて……血とか、いっぱい……何でそんな事してきたのか分かんないけど……私を助けようとした人は皆、あの人に殺された……」

 

「あんっっっの男……! あぁいや、それは辛い話をさせてしまったね。少し配慮が足りなかった、素直に謝罪するよ。私は非を認められない卑賤な連中とは違うからね。でも大丈夫さ、あの男だけじゃなく君を傷つけた連中は全員この手で殺したから、そう不安がる必要も無い……苦い顔だね、まだ過去の事と割り切るのは難しいか。どうすれば君の気持ちを晴らせるかな? それとも、私じゃ安心できないとでも言うのかな?」

 

 沈んだ表情になっても過去を語ってくれる壊理は相当レグルスの事を信頼してると言える。誰が見たってそう思うだろう、しかし彼女は満足せず不機嫌になる

 

 壊理を心配してる雰囲気で話しているが結局本当に心配なのは自分の事だ。自分じゃ壊理の心を救えないのか、笑わせられないのか……心の底で抱えている自信の無さが隠しきれていない。常に『英雄』という存在に対して劣等感を抱き続けているのもあるだろう

 

「ううん、そんな事ないよ! 私、お姉さんと一緒にいる時が1番安心するもん。お姉さんは、私の一番のヒーローだから!」

 

 笑顔が嫌いだ、私を馬鹿にしているように見えるから。でも彼女の笑顔は好きだ、私といるから笑ってくれるんだって幸せな気持ちになれるから───

 結局ただの他人でしかないのに、剣聖のような英雄にすらなれなかった自分を必要としてくれるのがどうしようもなく嬉しかった。私を認めて、受け入れて、求めてくれるのが嬉しかったんだ

 

「……それは良かったよ、やっぱり君の笑顔は素敵だ。君に暗い表情は似合わない、いつまでもその笑顔を絶やさずに私を見ていてくれ。まぁ、今日はもう疲れたろうから休むといい。それじゃあまた明日───」

 

「待って! あ、えっと……一緒に、寝ちゃダメ……?」

 

「あのさあ、君が私の事を愛しているのは私も重々承知してるよ? だからといってそこまで許した覚えは無いんだけど。そもそも完成された私が眠る必要なんて皆無に等しいわけ、君みたいに無垢な存在が私と時間を共有したいと望むのは、まあ自然なことだと思うよ。誰だって私と共にあれば安寧を得られるのは自明の理だ。君が私を誘う権利があるかどうかはさておき、私がその申し出を受け入れる事で君が幸せになれるなら一考の余地はある。でも、睡眠っていうのはあくまで一個人の問題であってそれを解消する為に他者を利用するっていうのは流石にどうかと思うわけ。そんな利己的な人間になってはいけないよ、自分本位な提案は他者の権利の侵害だ」

 

 グチグチペラペラと中身の無い事を喋り続ける世界一利己的な人間がここに居た。自分の承認欲求を満たしてくれる壊理の好意に満更でもないが、かといって伴侶でもない人間と、いや伴侶だとしても他人と同衾するなんてそんな卑俗な事───

 

「言っておくけど変な気は起こさない事だね、さっきも言ったけど私は個として完成された存在だから何かされた所で一切影響を受けないし睡眠だって取る必要も無いんだから。分かる? 寝首を掻こうとしても無駄なんだよ、君の一挙手一投足は全て私に監視されていると思った方がいい。そもそも理解できないよ、こんな事して一体何の意味がある訳? 私の手を煩わせたいのか、それとも私が居ないと眠る事すら出来ない程脆弱な人間だったのかな君は?」

 

「1人でも寝られるよ、でもお姉さんと一緒の方が好きなの。私、レグルスお姉さんの事大好きだから!」

 

 気づいたら添い寝していた。言葉に籠っているのが純粋な好意だけだと分かっているのに拒む事何て出来るはずもない。大好きだなんて恥ずかしげもなく言う壊理に彼女は背を向け寝たフリを徹底する

 

 愛に対して愛で答える度胸は彼女には無い

 

 絆されてる自覚はある、だからこそ怖い。いつか裏切られたらどうする? 結局私からしてみれば壊理はこの世に残った唯一の心臓で、替えのきかない存在だ。巻き戻しで他にも心臓を増やすっていうのも現実的じゃない、それに加えて壊理からしてみれば私何ていくらでも替えがきくヒーローだ。あんなクソみたいな場所から連れ出して優しくしてやったら、そりゃ誰だろうとヒーローになれる……いつか私から離れて、他人の物になるくらいならいっその事ここで殺して一生私の物に───違う、そんな愛に意味は無い。恐怖で縛り付けても虚しいだけで……最後には笑われて終わる。そんな末路を辿った男を私は知っている

 

 他者を寄せつけない絶対的な力を持っている癖に、1人の少女相手にここまで苦悩しなきゃいけない何て馬鹿な話だ。こうなりたくないから個として生きてたはずなのに……この愛を失いたくないなんて、柄にも無い『強欲』な事を思ってしまうくらい執着してる

 

 人と親密な関係になって初めて理解した、ナツキ・スバルという『英雄』の凄さを。剣聖とは毛色が違う、力なんてまるで無いあの男もまた……唯一無二の英雄だ───

 

 何れ彼らが生まれてきて、今の自分を笑われるなんて御免だ。地位や名声なんて要らない、ただ彼らに認められる存在になりたかったんだ。惨めで独りぼっちだった無意味な人生を乗り越えて、この世界で権能を得て正しさが認められたと思った私の絶望を、いつまでもお前は『レグルス・コルニアス』だと笑われた私を、彼奴とは違うって他でもない彼らに認めて欲しかったんだ───

 

───私はこんなにも『強欲』な人間だったのか




次で神野編ですね
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