強欲少女のヒーローアカデミア   作:pastel

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33話『心の在り方』

 少女が『レグルス』になったのは偶然では無い、転生が偶然の産物であってもその後の運命は必然である

 

 英雄達への劣等感、『レグルス』への同族嫌悪、他者の評価無しに解消できない感情は他者の評価を心から受け入れる事が出来ない彼女にとってあまりにも苦痛なものだった

 だがその心の内に溜まった泥を認識し、苦痛だと思えるだけまだマシなのだ

 

 彼女が『レグルス・コルニアス』では無かった頃と比べれば、の話だが。常に満たされない承認欲求と自己顕示欲を抱え、力も無いのに自分が正しいと信じきって、なのに自分が否定される事に酷く怯えて、他人に苛立ち続けて……そんな彼女に周りは優しくした

 

 彼女は『可哀想』な人だったから───

 他者からの評価で成り立つ自己愛と、他者からの評価を見下しと受け取ってしまう猜疑心に苦しむ彼女を『可哀想』だと憐れんだ

 

 そんな優しさを彼女は拒絶して、怒りをぶつけて───それでも優しくしてくれた人間を殺した。片っ端から殺せば悪人と変わらないから最後まで自分に固執して、憐れんで可哀想がって馬鹿にしてくる優しい人間だけを殺した。相手に権利を侵害されたから、私は悪くない

 心の中でそう言い聞かせ、いくら周りから責められても罪を認めなかった

 

 彼女は最後まで自分に優しくしてくれた人間の事を殆ど忘れている。男か女か、家族か友人か恋人かも分からない。覚えているのは独りぼっちで泣いていた自分に優しい言葉をかけてくれた事と、最後まで優しい笑みを浮かべていた事だけ

 

 それを愛とは思わなかった。自分が悪いとも思わなかった。ただ見下されて馬鹿にされて拒絶したのに変わらず権利を侵害してくるから殺した。独りに戻った彼女は苦しみ続けたが、一番の問題はその苦しみが自分から生まれていると認識していなかった事

 

『強欲の権能』何てなければ、彼女を認めてくれていた存在も死に、その満たされない自己愛だけが残った彼女は只管自分で自分を褒め称え、どうやっても独りじゃ満たされない事から目を逸らし、『完成された個として満ち足りていた』と呪いをかけ続けた

 

 そうして最後は誰にも見られず、誰にも見つけられず、誰の心にも残らず惨めで無意味な人生を終えた

 

 皮肉にも『レグルス・コルニアス』として超条社会に生まれ変わった事で、彼女は初めて自分を見る事ができた。自己愛で心を守り、自己愛から目を逸らした彼女は物語の存在でしか無かった『レグルス・コルニアス』を俯瞰して見た事で初めて自分は彼と同じかもしれないと自覚して、その自己愛をレグルスへの同族嫌悪に変換した

 

『私はレグルスとは違う』そう言い聞かせ、必死に目を逸らした。権能を得た事でやっと自分が正しかったと証明されたかと思えば、周りの人間は、この世界は、魔女因子は、私を『レグルス・コルニアス』だと笑ってきて……違う、違う違う違う違う!! 私はあの男じゃなければ、あの男を倒した英雄達よりも上の存在なんだって───

 それを周りへ証明して心の闇を消そうとして、彼女は最上を目指してしまった

 

 その先に待っていたのはどうやっても辿り着けない高みにいる英雄への劣等感、それを馬鹿にされてるんじゃないかという猜疑心。彼女が正しい事の証明として授かったはずの絶対的な力は、彼女に生きる事を強要しその上で湧き出る劣等感から目を逸らさせない為の足枷だった

 

 唯一できたのは『レグルス』を反面教師にして絶え間ない同族嫌悪と劣等感から逃げ出そうとした事だけ、それも無意味。『レグルス』だから強欲なのでは無い『強欲』だからレグルスなのだ

 

 ───罪は生まれたこと

 ───罰は生きること

 

 彼女が愛を受け入れてもそこは変わらない。人の本質が人によって変わるならば、彼女は強欲の罪を背負ってはいない

 

 ***

 

 世間は雄英高校と敵連合の話題で持ち切りだった

 それもそのはず、ヒーロー科の林間合宿が敵による襲撃を受け……その結果は正しく完全敗北という形で幕を閉じた

 

 歩く災害……『ギガントマキア』による無差別な暴力を受けて皆多かれ少なかれ傷を負い、意識不明の重体者、行方不明者は出ても死者が居なかったのは奇跡としか言いようがない

 

 テレビ、SNS、どこを見ても雄英高校、敵連合と……当然彼女だってそれを目にするわけで───

 

「あんな見てくれだけの建造物建てて自分達の力を誇示しよう何て考えるからクズ共に見下されて良いようにされるんだ。本当にどうしようも無い連中だよね、まだ不完全だった頃の私にすら誰も勝てなかったんだよ。彼処は弱者の集まりだ、そしてそれに対して好き放題言う無知無能な外野……全部ひっくるめて見るに堪えないね。彼処は数あるヒーロー高校の中でも日本一と謳われているけど、それはオールマイトとかエンデヴァーみたいな世間で名を馳せてるヒーローを輩出したからであって、あの学校に行けば自動的に英雄になれる訳じゃ無い。それを学校も、生徒も理解せず履き違えてるから身の丈に合わない物に手を伸ばしてると気づけないんだろうね」

 

「ゆーえーって、お姉さんもいたの?」

 

 穏やかに尋ねる壊理。以前より少しだけ距離が縮まった2人は平々凡々として穏やかで安寧した日常を送っていた。まさにレグルスが言う無欲で争いなんて程遠い、自らが理想とする生活を───

 

「あぁ、居たよ? 私の価値を見誤ったクソ共に力を示してやったのさ。敵を蹴散らし体育祭を華麗に優勝、でもそれを自慢するつもりは無い。結果として残っただけであって、私はその名誉や名声に縋る程器の小さい人間でもないしね。雄英に居たかどうかは些細な事で、私の価値はそこで決まらないって事だよ」

 

「お姉さんやっぱり凄い人だったんだ……」

 

 漠然とした事しか分からないが、テレビに映ってるような学校に居て何やら優勝したのであればそれは凄い事なんだろうと解釈した。流石はレグルスお姉さん、都合の良い事しか話さない

 

「よく分かってるじゃないか、流石は私の壊理だね。賢くて顔も可愛い、そして人を純粋に愛せる何よりも尊い心を持っている、君はやっぱり素晴らしい子だ。そんな君に提案があるんだけど……敵連合を皆殺しにしてやろうと思うんだけど一緒に来てくれるかな? 大丈夫、心配しなくても私の傍にいれば君の安全は保証される。ほら、特等席で君が大好きな英雄の活躍を見られるんだよ。嬉しいだろ?」

 

 彼女は穏やかな瞳で狂気的なことを自然に、まるで日常の話題のように語る。傍に置いておきたい独占欲と自分は曲げない独善的な所がレグルスらしい

 

 壊理は彼女の事を愛しているがそれは依存とも呼べる形であり、まず何よりも彼女と一緒に居る事を優先する。殺人に対する嫌悪感はあれど、それは彼女を拒む理由にはならない

 治崎廻含む死穢八斎會を殺した事で自分が救われたのだから、レグルスが誰かを殺すとしてそれを間違いなんて言わない。彼女の正義があって自分の安心があるのだから

 

「───うん、一緒に行く。怖いけど、お姉さんと一緒だったら平気だから……」

 

 笑顔に影を残しながらも、レグルスの手を握って不安を掻き消す。過去に何度も、何度も自分の目の前で人が殺される所を見せられた。「お前のせいだ」と治崎に脅され抵抗する事すら諦めさせて───そんな絶望を彼女は消してくれた。何があっても彼女と居ると安心できる、だから平気だ

 

 ───お姉さんが幸せなら私も幸せだから

 

「君は本当に良い子だ。大丈夫、君が彼奴らを手にかける訳じゃない。私の傍に居てくれればそれでいい、君の愛を身近で感じていたいんだ。怖いなら目を閉じていてもいい、安全は保証する。君を守る事を最優先に全力を尽くそう」

 

 英雄に対する見方を変え、自分の中に眠る強欲の一端を理解した彼女は結局何をすべきか分からなかった。英雄なら”正しい”事をするのが正義で、でも正しいのは自分で周りはそれを否定してくる

 

『小さな王』を覚醒させて世界から認められたい強欲を表した時と比べ、壊理以外に心臓が無くなった今少しだけ気が楽になった……気がしなくもない。他者なんて彼女にとっては虚栄心を満たす為だけの道具に過ぎないのに、まるで重荷を下ろしたような感覚で……

 

 目的を見失い、また新しい目的を見つけたとしてそれを達成する為に自分を曲げる事なんてしたくない───ならどうすべきか、彼女は考えた

 

 最初はこの世界のやり方に則って職業ヒーローとしてNo.1に立つ事を目的としていたが、その為に積み上げた物は敵連合により破壊され、ささやかな復讐をしただけで世間は敵扱い

 

 無知無能なクズ共が何を指標に正義だの悪だの宣うのか……それは力だ、正義を主張する絶対的な力であるオールマイトの存在が大きい。なら自分も自分の正義を主張し世に力を示せばいい、それが最も簡単な支配の形だ

 

 勝者が正義なんて考えで、その勝者が法律中心の腐った社会に委ねてるから大衆だってこんなに腐りきってるんだ。そこに身を投じて英雄なんて言われた所で何も嬉しくない

 

 私は───私が正しいと思った事をする。今も昔も変わらない、私はそれを悔やんだりはしない




オリジン回でチラ見せしていた主人公の過去話をひとつまみ
レグルスさんの精神性本当に救われ無さすぎて悲しい
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