強欲少女のヒーローアカデミア   作:pastel

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34話『悪辣なる強欲』

 ───数日前林間合宿襲撃と同時刻

 

「本当に荼毘君達だけで大丈夫なんですか?」

 

「まさか先生があんな化け物貸してくれるとは思わなかったから予定変更だ。俺らはこっち……極力騒ぎは起こさずに攻略する。ステルスゲーだ」

 

 公安本部の正面にあるビルの屋上にて、夜風に吹かれながら死柄木とトガ、そしてMr.コンプレスはこれから行う作戦に備えていた。目的は公安に匿われている『治崎廻』

 

 ステインを殺した後でチームにヒーラーが欲しいとボヤいていた所をオール・フォー・ワンに聞かれ、提案されたのが───

 

 ───『元極道の若頭、個性はリカバリーガールをも超える治癒性能を秘めている。欲しいと思わないか弔? 君の嫌いな魔女の気まぐれで仲間を殺され、ヒーローに扱き使われてる憐れな男を助けてやりなさい』

 

「オーバーホール……良いね、強個性の敵予備軍が今や全てを失い公安で雇われの身か。同じレグルス被害者の会として助けてやらなきゃな。此奴を仲間にできれば相当有利に進められる」

 

「でも何で隠密行動なんです? 弔君なら全部壊すのかと思いました」

 

 当然の疑問。死柄木は派手な方が好きだ、公安なんてヒーロー陣営でもお偉いさんが集まる場所を壊せばさぞ気持ちが良いだろう

 

「まぁ理由は幾つかあるけど……1つが、話題を雄英襲撃に集中させたい。そもそも雄英はヒーロー科の生徒が敵になって、既にその評判が地に落ちかけてる。その上で俺らに生徒が誘拐されたとなれば大騒ぎだ、雄英は形だけ保ったまま機能を失う事になる。そこまで追い詰めるのは俺らじゃなくマスコミだ、だから事件を重ねるより1つに集中させたい」

 

「フムフム」

 

「2つ目が……公安をぶっ壊したとして隠蔽されるか、治崎廻に責任を擦り付けて公安はお咎め無しになる可能性がある。だから内部に潜入して、表には分からないよう事を片付ければ……公安だけに伝わる脅しになる。後、どうせ事件のインパクトじゃマキアには勝てないしな」

 

「なるほどなるほど」

 

「そんで3つ目……せっかく隠密作戦にピッタリなエンターテイナーが参加したんだから、やんなきゃ勿体ないだろ? トガの変身で潜入、圧縮で俺らの身を隠して目標も容易に回収できる。楽しそうじゃん」

 

 嬉々として作戦を語る死柄木と相槌を打ちながら話を全く理解していないトガ。でも死柄木が愉しそうだからまぁいいかと結論を出した

 

「期待に応えられるよう、おじさん頑張っちゃうぞ!」

 

 少数精鋭の公安攻略はとてもスムーズに進んだ。潜入さえ出来ればこちらの物、対象を圧縮か崩壊させれば痕跡は残らない。セキュリティすら容易に突破できる始末

 そうして治崎の元まで辿り着いた彼らは勧誘を始めようとしたが……彼は死柄木達が現れても布団から出ずに虚ろな目で天井を見つめていた

 

「本当にこの人なんですか?」

 

「極道って感じしないね、ストレスで倒れた社畜みたいだ」

 

「俺達は敵連合、単刀直入に言うがお前を勧誘しに来た。ここは窮屈だろ? 治崎廻」

 

 覇気のない元極道に疑り深い目で見るトガとコンプレス

 目の前に居るのは絶対に治崎廻のはずなんだが……返事が無い。いや返事をする気が無いのか

 

「こりゃ重症だね」

 

「人の話聞かないとかレグルス以下か? いや彼奴は返事するだけで人の話聞いてるわけじゃないけど……はぁ、おい何か返事し───」

 

「───ッ!! 魔女の名前を出すな!!」

 

 急に大声を出して起き上がる治崎に対し彼らは動じない。後ろの2人は面白い物を見る目に変わり、死柄木はポケットに手を突っ込んだまま見下ろしている

 

「彼奴がトラウマになってんのか? 分かるわー、その気持ち。俺達も1回彼奴の事殺したのに生き返ってさ、今でも夢に出てくんだよな。お前、彼奴と戦ったんだろ? 何か分かんない? 時間停止の個性のはずなのに何で生き返ったのか。リプレイ機能でも着いてたのかな」

 

「彼奴は……俺達の心臓に汚い癌を植え付けて、その上全てを奪っていった。何をやっても彼奴は殺せない、宇宙に飛ばされても帰ってきたんだ。何かを成そうとしてるなら無駄だ……彼奴が来れば全てが無に帰すんだ……もう放っておいてくれ……!」

 

 身体を震わせながらレグルスについて語る様はかなりのトラウマになっていると見える。一度は復讐を企てたが日米No.1が殺しきれなかった事を知り完全に戦意喪失した治崎は連合に協力する気など無さそうだ

 

「心臓に癌……? よく分かんねえな、心停止する個性とシナジーのある別個性か? あの土壇場でそれを発現させた? つくづく癪に障るなあの女は……別に力合わせてレグルス倒そうなんて言わねえよ、お前には家のヒーラーとして加入して欲しいんだ。ここよりは居心地良いと思うぞ」

 

「流石に宇宙に行っても死なない不死身の人間と戦いたくは無いのです。今度こそ殺されちゃうもん」

 

 治崎は悩むような素振りを見せていた。彼はこれまでのことを振り返りながら、未来について思いを巡らせる

 

『個性は人類が罹った病気の一種である』

 そんな古い学説を目にして以降その思想が脳にこびりつき、拾ってくれた組長へ恩を返す為に死穢八斎會の復興と個性によって成り立つヒーロー社会の在り方を根本から変革する計画を建て───壊理を利用した

 

 個性の研究、壊理の肉体を使用した実験……血を抜き肉を切り瀕死になれば分解・再構築によるリセットを行い、繰り返す───まだ完成品には至らなかったが『個性消失弾』を作成する方法を編み出し、これからと言う時に───

 

 その全てが一人の魔女により奪われた。組長や手下達は無慈悲に殺され壊理も連れていかれ……死穢八斎會は終わりを迎えた。時代の流れによる組織解体なんかじゃない、訪れたのは気まぐれな厄災だ

 

 目が覚めた時、身体は元通りになっていて……話を聞きオーバーホールをコピーして治療に当たってくれた雄英生が居た事を知った

 自分が最も忌み嫌う英雄症候群の病人が自分の命を救ったと聞いて複雑な気持ちになったが、全てを奪われたままでは終われないと瀕死の状態で延命措置を行ったのは他でも無い自分だ

 しかもオーバーホールは生半可な知識で使えば完璧な再構築は出来ない、雄英生の時点で自分にも及ぶ精度で個性を扱った雄英生に少し興味が湧いていた

 

 そして公安に雇われレグルスへの復讐も兼ねて利害の一致で協力していたが……あんな化物を殺せる訳がなかった。目的を失い公安連中に扱き使われる日々、ストレスで倒れ今に至る

 もし、自分を救った雄英生に会っていれば何か変わっていたかもしれないがタラレバは無意味だ

 

 壊理を利用した事が罪だとは思わない。自分の中に残る後悔は親父を守れなかった事と結局何も成し得ずに奪われて終わってしまった事のみ。全て奪われた末個性を英雄症候群の病人共に利用されて、そうなった原因の魔女と行動している壊理に罪悪感など抱くわけも無い

 

 英雄も敵も関係なく、魔女が来れば終わりだ。正義や悪は、あの女の前じゃ意味を成さない。この世界全てが魔女の遊び場に過ぎないんだから

 

 だからこのままなぁなぁとヒーローへの道を歩ませられ、個性を利用されて終わるのは御免だ。魔女を殺す事は叶わなくても、魔女から何かを奪う事は出来る。馬鹿かもしれないがどの道自分に失う物なんて何も無いのだから───

 

「……良いだろう、お前の傘下に加わってやる」

 

 まさか加入して1週間も経たずにヒーロー達の襲撃を受けるなんて想像出来るはずも無い。だがそれすらもどうでもいい、成るように成るだけだ

 

 ***

 

 時は今に戻り、街中の建物に貼り付けられたディスプレイに雄英の緊急会見が映し出されていた

 

《───最悪の事態、即ち生徒が殺害される事と仰いましたが……生徒が敵になるのは最悪では無いと?》

 

 例え話をしている訳では無いと全員が分かっている、他でも無い……現在世間から『強欲の魔女』と呼ばれ敵として扱われている元雄英生……レグルスの事だ

 

《前例があり、そのせいで今回爆豪君が狙われたとしても同じ事が言えますか? 言葉巧みに彼を拐かし悪の道に染まってしまったら? 彼女のように人を傷つけるようになってしまっても、最悪では無いと言えますか?》

 

 明らかな挑発、だが反論は出来ない。街の住民はあれこれ言いながら会見を見ているが、ポジティブな意見は無い。雄英批判、ヒーロー批判、爆豪に対する偏見やレグルスについても───

 

《爆豪勝己の粗暴な行動については、彼の理想の強さに起因しています。そして───》

 

「見るに堪えないな」

 

 レグルスが冷たい笑みを浮かべながら右腕を高く振り上げた瞬間、真空波が凄まじい勢いで放たれ、目の前のビルに直撃した

 一瞬の出来事……まるで脆い紙細工のように木っ端微塵に砕け散り、風に舞う灰と化した。

 彼女の瞳には、破壊の余韻すら楽しむような喜悦の色が浮かんでいる

 

 煩わしい悲鳴から離れる為場所を変え、壊理を片手で抱き上げながら思案する。連合が派手な行動をしたなら、続いて目敏いヒーロー共は反撃に出て結果的に居場所を掴めると思い歩き回っていたのだが……

 

 ───「おい、神野にトップヒーロー総出で何かやってるってよ!」

 

「何て都合の良い奴らだ、風は私に吹いてるみたいだね。行こうか壊理」

 

 そう言って歩き出すレグルスと不安そうな表情で彼女を見上げる壊理。

 彼女が強いのは知っている、だけど自分がいれば足手まといにも程がある。もし自分のせいで彼女が傷つけば───それは耐えられない

 

「……っ、お姉さん……本当に戦わなくちゃいけないの? 私、お姉さんの邪魔になったりしない……?」

 

「うん? 君が何を思って不安を抱いてるのか知らないけど、安心しなよ。君の傍に居るのは世界最強だ、君1人抱えた所でハンデにすらならない。それとも、私じゃ力不足だと……そう言いたいのかな?」

 

 不機嫌そうに目を細め、苛立ちを隠しきれずに鋭い声を漏らす。他者を想う心が、凶人には理解できなかった。理解できない癖に人の話を無視できない彼女は言葉に込められてる意味を曲解する

 

「そんな事ない! お姉さんは強いの知ってるから……弱いのは、私。個性も、全然使えないし……」

 

「なんだ、そんな小さい事を気にしてたのかい? 心配しなくても、君が弱くたって君の価値が下がるわけじゃない、君は君だ。それ以上でも以下でもない、だからそうやって自分を卑下するのは辞めようか。それは君を信じてる私の気持ちを疑うのと同じだ、つまり私の気持ちを軽視してるって事だ。私の権利の侵害だ、それは許せないなあ」

 

「ごめんなさい、でも私───ううん、何でも……ない」

 

 レグルスからすれば、壊理は弱者でしかない。一度壊理に命を救われた事だって自分を愛していると証明した結果に過ぎず、壊理自身に自分の足りない部分を補うような強さは無いと思っていた

 いや、そもそも足りない部分を自覚してないからお話にならない

 

「素直に非を認めるなんて人として当然の事なのに、それを出来ない人間が世の中事の他多い。君はやっぱり素晴らしい子だ、君に沈んだ表情は似合わないよ? ずっと幸せそうな顔で笑っていてくれ、君は笑顔が一番可愛いからね」

 

 ***

 

 敵連合はヒーローたちの猛攻にさらされ、もはや壊滅の危機に瀕していた。黒霧は意識を失って倒れ、全ての脱出口は完全に封鎖されていた。もはや打つ手はないように思われたが───

 

 ───「マキア、彼らを連れて退くんだ」

 

「主よ───仰せのままに!!!」

 

 突如として地面を震わせる轟音とともに現れたのは、歩く災害とも称されるギガントマキア。AFOの呼び声に応じた彼は、周囲のヒーローたちを次々と蹴散らし、死柄木たちを回収するとそのまま走り出した

 

「クソっ、最悪だ。これからって時に邪魔しやがってつくづく俺をイラつかせるなぁプロヒーロー……!」

 

 首を掻きながら走るマキアの上で悪態をつく死柄木と、連合に囲まれ脱出出来ずにいる爆豪

 アジトにいたヒーロー達はオール・フォー・ワンの転移により脳無格納庫跡地に強制移動され、周りで控えていたエンデヴァー達は脳無との戦闘に手を焼いていた

 

 このままでは神野区を抜け途轍も無い被害を及ぼすだろう、だがそれを止められるヒーローは居ない

 

「───誰か!! 誰か奴を止めろおー!!!」

 

 そんな叫びもマキアの侵攻に掻き消される

 一歩踏み出すたびに大地が悲鳴を上げて割れ、衝撃が周囲に広がった。近くのビルは耐えきれずに次々と倒壊していった。

 その巨体が進む先には破壊の爪痕だけが残され、まるで自然災害が通り過ぎたかのような光景が広がっていた

 

「おい、あれヒーローか……?」

 

 スピナーが目を凝らして正面を見据える。建物がどんどん倒壊していき、その影響で煙が辺りに立ち上っているせいでハッキリとは視認できないが───誰かいる

 

「どうでもいい、全員轢き殺されるだけだ」

 

「そうだ! 轢き殺せー!!」

 

 どんな相手だろうとマキアの前では警戒するに値しない、そんな彼らの視界にぼんやりと映る細身のシルエット……オーバーホールはそれに見覚えがあった。忘れもしない……あれは───

 

「雄英生……一度しか言わない、死にたくなければ今すぐ逃げろ」

 

「───はっ?」

 

 路上に棒立ちする人物は、マキアが迫っても逃げる素振りを見せない

 無手。無防備。無警戒。そして、無慈悲で無邪気で無作為な悪意

 それはただ無造作に腕を振り上げ───全てを捩じ伏せる

 

「全く、やめてほしいなぁ。何もしてないのに轢き殺せだなんて、とてもじゃないけど人間のすることだとは思えない。でも社会から抜け出して常識に囚われず好き勝手やってる君達にとっては、これも普通の事なのかもね。そんな自分の強欲を満たす為に平気で人を貶める感性を私は欠片も理解できないし、しようとも思えないけど。でも否定をするつもりは無いよ、私は君達と違って他者を想いやれる人間だからさ」

 

 軽く腕を振り上げただけでギガントマキアを粉微塵にしたその圧倒的な力とは裏腹に、彼女の声は柔らかな響きを帯びていた

 辺りに広がる破壊の残骸を一瞥しながら、彼女は涼しげな笑みを浮かべている

 

「おい……おいおい冗談だろ、何そっちから来てくれてんだよラスボス……!」

 

 土煙が舞う中、彼らはよろめきながらも立ち上がり鋭い視線をレグルスへと向ける

 崩れ落ちた瓦礫の間で、彼女と対峙する彼らの姿からは怒りと警戒心が滲み出ていた。緊張が張り詰める中、両者の間に静かな火花が散っている

 

「謝罪の一つも無いの? まぁ君達みたいなどうしようも無い人間が、自分の非を認めて素直に謝罪できる訳無いか。流石に人としてどうなのって思うけど、まぁそれくらい横柄じゃなきゃ敵なんて名乗れないのかもね。私は、そこまで横柄な態度で人と接するのは無理そうだ……良心の呵責ってやつかな、ほら私って慈悲深いじゃない? 基本的に私は───」

 

「ごめんなさいね、今貴女のお喋りに付き合ってる暇無いのよ!」

 

 仲間の制止の声を無視して突進するマグネ。命知らずだと自分でも分かっている。だが目の前の化け物相手に少しでも時間を稼ぎ、大事な仲間達を───マグ姉と慕ってくれた皆を守りたかった

 

「あのさあ、人が気持ち良く喋ってるのに邪魔しないでくれないかなぁ? 私は今喋ってたわけ。それを邪魔するっていうのはさ、ちょっと違うんじゃないかな。間違ってると思わない? 喋る権利が、だなんてものを主張したくはないけどさぁ、それでも喋ってる人がいたらそれを邪魔しないなんてことは一種の暗黙の了解ってものじゃない。それを真剣に聞くか聞かないかはそっちの自由だから文句は言わないけど、言わせないって判断するのはどうなのかなぁ? それって君達の自由を許容した私の自由を踏み躙ってもいいと、そう判断したって事だろ? それだけは、許せないなぁ」

 

 次の瞬間、彼女の手が一閃しマグネの身体は無慈悲に粉微塵となって散った。血と土煙が舞い上がり、断末魔すら上げずに跡形もなく消えた……

 

「───ま、まぐ……姉?」

 

「誰であろうと訪れる死ってのは呆気ないものだよね。でもいずれ必ず終わりが訪れるとわかっているからこそ、生きている人間は生きている間の幸せを追求しなきゃならない。だから私は、自分の幸せのハードルが低くて済むことにとても充足感を覚えているんだよ。これでもし私が『強欲』だったら、ありとあらゆるものを欲しがって、手に入れない限り満たされない欲深だったとしたら、生きている間に幸せになることなんてできなかったかもしれない。でも、幸いにも私はささやかな幸せで満たされる感性に恵まれて生まれる事が出来た」

 

 彼女は胸に手を当て、口元を歪めて彼らを嘲笑う

 

「満たされている私は聞きたい。死んだ君は、満足して死ねたかい? 死ねたのならおめでとう。満たされてなかったなら、ご愁傷様だ」

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