強欲少女のヒーローアカデミア   作:pastel

35 / 46
35話『混戦地区』

「で、君達も彼みたいに死にたいの? 私、争いとか嫌いなんだけど。だって無益で無意味じゃない? それに個として完結してるからこそ、仲間内の軋轢とか無縁なんだ。心配しなくても、潔く敗北を認めて私に平伏してくれるなら楽に死なせてあげるよ。私は慈悲深いんだ、それに人をいたぶるような趣味なんて無いしね。ほら選択の権利をやるよ、平伏して死ぬか無様に殺されるか。私だったら、絶対敵わない相手と戦うなんて御免だね。そもそも、そんな相手と戦わなくちゃならない程私は生に固執してないしね。常に満ち足りている私はいつでも終わりを迎えられる覚悟を持って、今を精一杯生きてるんだ」

 

「”彼”じゃなくて”彼女”だ、死ねクズ!」

 

「呼び方に拘るのかい? それって物事の外面にこだわるのと同じ判断で、いかにも上っ面な関係性だよね。そういう余計なものでごてごてと飾り付けなきゃ相手の価値を見い出せないって事でしょ? どうせ男だろうと女だろうと誰からも愛される事なんて無いんだから、求められた呼び方に訂正してもしなくても差異なんて無いと思うけどね。まぁそういう人間達が集まった結果敵連合なんかが生まれて、ここまで世間に影響を与えているんだから一概に否定する訳にもいかないよね。社会的弱者の破綻者共による仮初の絆の積み重なりが私に届いたって事かな。群れた所で自分の力が強くなる訳でも無いのに、何故か味方ができると人は強気になる。それって結局自分の価値も相手の価値も正確には見い出せて無いって事の何よりの証明だよね? 筋金入りの馬鹿ってやつだよ、もう生きてるだけで迷惑なんだから死んだ方がいい。事実私ですら感化出来ない程の迷惑を被ってる、許されないよね? 私という存在を軽視した行いだ、私の権利の侵害だ!」

 

 自分達連合はイカれた連中の粒揃いだと思っていたが、それを超える凶人が目の前に現れた。仲間を1人殺され、その怒りを嘲笑うように煽り文句を飛ばしてくるレグルスにトゥワイスはキレるが彼女は話を聞いちゃいない

 

「やべえな……会話が成立しねえ。どうすんだ死柄木、黒霧と荼毘はコンプレスが回収してる。逃げるか?」

 

「前はあんなに威勢良かったくせして、自分より強い相手だと分かれば尻尾巻いて逃げるの? まぁ、人として最低限の尊厳とか矜恃は抜きにして、自分の命を守る判断をしたと言えば少しは聞こえがいいかもね。少なくとも自分より強いと理解して、尚戦おうとする連中よりはマシだと思うけど。だからこそ君達ってどうしようもなく愚かなんだよ、そうやって考えられる頭があるのに、まともな教育を受けてないせいで自分より弱い相手には何してもいいって陰険な考え方しか出来ないんだからさ。本当、人としての品性とか道徳ってものが致命的に欠けちゃってるよね」

 

 逃走の提案。しかし、死柄木はその言葉をまるで聞こえていないかのように、無視してただ呆然と佇んでいた。彼の手は無意識に首元へと伸び皮膚を掻きむしる音だけが静寂の中で不気味に響く

 視線は一点───正面に立つレグルスに固定されていた

 

「─────死柄木……?」

 

 その瞳には燃え上がるような激しい憎悪が宿っている。暗い眼窩の中で揺れる感情は、憎しみを超えて狂気じみた執念に近いものだ

 抑えきれぬ殺意がそこに渦巻いているのが見て取れる

 

「彼はもう死ぬ覚悟を決めたってさ。君達も仲間なら彼の意志を尊重してあげなよ、それが信頼ってものなんじゃないの? それとも、彼だけ犠牲にして自分だけは生き残ろうなんて非道な事考えてるわけ? 窮地に陥って初めて他を切り捨てて個として生きようとする人間は、どちらにせよ独りじゃ生きていけないんだから死んだ方がいいよ……って、あぁごめん、そんな勇気すら抱けないって事か。私とした事が、弱者への理解と配慮が珍しく欠けていたよ。この謝意は言葉でなく行動で示させてもらおうか、私は誠実な人間だからさ」

 

「……うるさいです、一度私達に無様に殺されておいてどれだけ自分の事を棚に上げれば気が済むんでしょう? 言ってる事も空っぽで、自分の事しか愛せない惨めな人が、私達を、マグ姉を嘲笑う権利なんて無いです」

 

 尊大な態度で話を自己完結させる凶人に対しトガは一歩前に出て、鋭い声で切り返した

 

「─────はぁ?」

 

 その瞬間、レグルスの顔から余裕の笑みが消えた。眉がピクリと動き、瞳に暗い影が差す。彼女の雰囲気に空気が重くなり、漏らした低い声には、苛立ちと怒気が混じっている

 

「取り繕った余裕は脆いものです、気の小さい人ほど自分が弱いのを隠したがります、自分を強く見せたくて人を上から見下すのです。周りの人なんて「完璧な自分」を映す鏡でしかない、可哀想な人ですね」

 

 口角を上げ、ナイフを手に軽く遊ばせながら挑発的に首をかしげる。連合のメンバーは二人の間に漂う緊張感に息を潜ませていた

 

「……あのさぁ、聞いてもない事をペラペラと偉そうに人様の事を理解した気になって一体何様のつもりなのかな? 私の器が大きいからこそ、今の今まで君達は生を謳歌できてるって分かんないかなぁ? いや考えなくても分かるでしょ、察せるよね普通はさ。私の力をその目で見たのなら、もう私の強さは想像上の物じゃなくて現実になってるんだよ。でも弱い人間程、現実から目を背けるんだよねぇ。都合の良いものしか目に入れない、だからこそ自覚も成長も出来ないなんて……可哀想な人間だよ君達は。勘違いしないで欲しいんだけど別に否定する訳じゃない、理解してやってるんだ。私は君達の惨めな意志を理解し尊重した上で私の権利を行使するだけに過ぎないんだから」

 

 レグルスは一瞬の沈黙の後、口元に無理やり笑みを貼り付けた。片手を軽く振って髪をかき上げ、余裕を取り繕うように肩をすくめてみせたがその裏には抑えきれぬ苛立ちが滲んでいた

 

「そう、だからまずは君から殺す。対して強くもない癖して一丁前に口だけは回る。君みたいな奴を見ると不快なんだよ、そう不愉快だ。それは許せない、私の気持ちを無視してる。君みたいな人の気持ちを考えれないくせに文句だけは垂れるクズってよくいるけど、総じて何も成し得ず、何者にも成れず死んでいく。何故か分かる? 身の丈に合わない物を望んで、それを手に入れられるのが当たり前だと思ってるからだよ。君は何を望んでこんなクズの掃き溜めで生きてるのかな?」

 

 彼女の瞳はトガを睨みつけたまま鋭く光り、指先が微かに震えているのが隠せていない。さっきまでの自信満々な態度とは裏腹に、頬がわずかに引きつり、言葉の端々に怒りが漏れ出していた

 

「隠したって無駄ですよ、怒ってますよね? あの時もそうでした、怒って顔を赤くして、切られて血を流して顔を青くして涙を──────」

 

 トガはそんな彼女を見て、さらに楽しげに目を細める。彼女が追い打ちをかけるように渋谷での事を言うと、レグルスの表情が凍りつき───次の瞬間、彼女の姿がブレて消えた

 

 レグルスは、本気を出せば風よりも疾く動ける。それこそ、”移動”という過程を省略する事すら可能───つまり彼女の姿が消えたと認識した時には既に、移動したという結果が出た後なのだ

 

「口では何とでも言える、だから勘違いする。私が君達とのお喋りに付き合ってやってたのは、いつでもこうしてやれたからに過ぎない。常に現実は薄氷の上、でも『強欲』な馬鹿共は皆上を向いて歩いてるから気づけない、だからこうなる。さっきも言ったけど言葉を聞いて返事するかどうかは個人の自由だ。で、私は慈悲深いから基本的に誰であろうと話を聞いて理解を示してあげようとしてるわけ。皆が皆、君らみたいに人の話も聞かずに攻撃するような蛮族じゃないんだよ」

 

「─────うっ……ぐ……ぅあ───」

 

 彼女はトガの首を片手で締め上げ、身体を軽々と持ち上げていた。顔には冷たい嘲笑が浮かび、トガの仲間達に向かって見せびらかすように彼女を掲げている

 

 トガは首を締められながらも、苦しげに息を吐きつつ彼女の腕に爪を立てて抵抗している。そんな事レグルスは意に介さないが

 

「トガちゃん!! クソ、離せ馬鹿野郎!!!」

 

「馬鹿? 馬鹿は君だろ、状況が見えてないの? 人質が取られてるって見て分からないのかな? ───おっと、動くな! そこから一歩でも動けば彼女を消し飛ばす。比喩じゃないよ、肉片なんて残りすらしない。君達が彼女を助けようと私の命令を破れば、私はそうせざるを得ないんだよ。それはもう私という道具を使った君達の殺人だ。この人殺し共め───!」

 

 彼女の支離滅裂な言葉にも、前後の行動を見れば相応の説得力が生まれる。トガを肉片すら残さず消し飛ばす事など造作もなく、それに対する忌避感など1ミリも無いだろう

 

「ダメだこいつ、根元からイカれてやが……あ? 彼奴が背負ってるのあれ───子供か……?」

 

 レグルスの背中に縮こまった少女が見える。暗闇と土煙のせいで今まで見えていなかったのか、あまりにも場違いなこの状況……彼女は子供を連れてきている

 彼女と無関係なわけが無い、どう考えても───あれが弱点

 

 そして、一番最初にその事に気づいたのは今彼女の最も近くにいるトガだが───

 

「───!? な……ん、で……?」

 

 ナイフを持ち替え、壊理を刺そうとしたが結果は刃が塵となる形で終わった。レグルスが触れている物は何であろうと『獅子の心臓』の対象となる、そして壊理は今の彼女にとって生命線であり獅子の尾に等しい

 

「何で? って私が聞きたいよ、あまりの馬鹿さ加減に流石の私も理解が追いつかない。ただ明らかな事はある、君は愚かにも罪を犯してしまった。私のおかげで未遂に終わったけど、もし私が居なかったら君はそのまま壊理を傷つけていたよね? それはダメでしょ、流石に。許されるわけないよね? 私は寛大だから、ある程度の無礼は許すよ? でもそれは私に対しての無礼だから許してあげれるだけさ。不幸になるのが私だけならまだ良いって話で、私の周りを傷つけられれば怒るのは当然だ。それは誰しもが持っていて当然の復讐の権利だ、だから私がそれを行使するのだって当然の権利なんだよ。子供を傷つけてまで生に執着する人間なんてロクなもんじゃない、私達の安寧の為に死んでくれ」

 

 レグルスは首を締める手に力を込め、彼女を仕留めようとしていた。トガの顔が苦痛に歪み抵抗が弱まるその刹那、暗がりから冷ややかな声が響いた

 

「またそうやって奪うのか? ────魔女」

 

 レグルスが動きを止め、振り返るとそこにはかつて自らの手で葬ったはずの治崎廻が立っていた

 

「──────え、なん……で? お姉さん、何で、あの人が……」

 

「何故生きてるのか? 助けられたんだよ、ヒーローに。壊理、嬉しかったか? 魔女に助けてもらえて、受け入れてもらえて。だが魔女はお前の事なんて見ちゃいないぞ、見てるのはお前の瞳に映る自分だけだ。そいつは英雄じゃない、英雄になどなれない」

 

 その言葉に、レグルスの顔が怒りと混乱で引きつった。トガを締める手が緩み彼女が地面に崩れ落ちて咳き込む中、レグルスは治崎を睨みつけた。さっきまで嘲笑を浮かべていた表情は崩れ落ち、壊理の言葉に答える余裕も無い

 

「──────どいつもこいつも、自分を棚に上げて好き勝手言いやがって……どこまで私を虚仮にすれば気が済むんだよ? あ゛ぁ!? 一度私に無様に負けておいて、今更何なのさ!? まさか、そいつらと組めば私に勝てるかもって淡い期待でも持っちゃったわけ? それで、そんな厚顔無恥な事を堂々と言えちゃうのか。ありえないよ、君が生きてる事には驚いたけど所詮それだけ、君みたいに何一つ成し得る事が出来ない空虚な人間に出来る事なんてその程度なんだよ! どれだけもがき足掻いたって無意味なんだって、あれだけやってまだ理解できてないのかよ!?」

 

 子供の癇癪のように地を踏みつけ、その度に地震でも起きたかのように衝撃が生まれる。今の彼女にとって治崎廻は自らの失敗を映す鏡だ、存在そのものが自らの完璧さを否定する要素になる

 

「……壊理、お前のヒーローは世間からヴィラン───魔女と呼ばれ恐れられている存在だ。その魔女に依存した、そして委ねた。自分が良ければ他はどうなってもいいと考えたんだろ? その結果がこの大惨事、街は壊れ人は死にそれすら意に介さない。このままそいつと居れば、お前もヴィランとして扱われる。ヒーロー達から狙われ世間から迫害を受けるぞ、呪われた存在としてな」

 

 治崎の言葉を聞き、壊理の身体に刻まれた恐怖が身を震わせる。だが不変である以上涙は出ない。怖くて苦しくて悲しくて、それでも涙は流せない───狂う事は許されない

 

「そうやって世間からの評価とかを重要視して正義や悪を定義してるからいつまでも正解に辿り着けないんだよ。憐れな男だな、命を救ってもらってする事が、こんなくだらない戯言を私達に向かって言うだけなんてヒーローも報われないよね。立場や身分関係なく人を救おうとする精神は美徳とも言えるけど、ちょっと自己中心的過ぎるとも思っちゃうなぁ。お前みたいなの救う価値なんて無いだろ。もう一度私に殺されるだけなのにさぁ!」

 

 腕を振り上げ十八番の真空波を放っても素早い身のこなしで躱される。初見時は何をされたのかすら分からなかったが、情報さえ集まれば余裕を持てる。だがトガを捉えた時のような高速移動をされてしまえば依然として勝ち目は無い

 

 以前と同じく、地面を棘のように迫り出す攻撃も彼女に到達した瞬間塵と化すのを見るに打点はほぼ無いに等しい

 

「こんっの……ちょこまかと───!」

 

 既に周辺被害はとんでもない事になっている。一つ一つの攻撃が物理法則を無視し、尚且つ解除するまで何処までも飛んでいくのだから当たり前だが。歩く厄災を殺したのは、それを超える厄災だったというだけ

 

「だーっ! あっっぶねぇな!! 余裕だぜ!」

 

「今の内に逃げますか? 殺しますか? 刺しますか? 私は刺したいです、弔君。今すぐ刺しましょう」

 

 彼らは『壊理』と呼ばれる少女がレグルスの無敵を攻略する鍵だと見切りをつけていた。だがまだ不明な点は多い、倒すにしても相当な難易度だが───生きやすい世の中を求める彼らにとってレグルスとの因縁には決着をつけなければならない。マグネを弔う為にもだ

 

「─────そうだな、とりあえず……彼奴を壊せればそれでいい。全部全部、彼奴が居たら意味が無い。この痒みは彼奴を壊さなきゃ治まらない! レグルス───お前が、嫌いだ!!」

 

「あっそ、子供みたいに癇癪起こしちゃって、恥ずかしいったらありゃしないよ。もう少し人としてさぁ、落ち着いて話すとか出来ないわけ? そうやって感情に身を任せたところで君自身に凄まじい力が宿るわけでも無いのにさ。出来ることは現実から目を背けることだけだ、君達まとめて私に殺されて終わりだよ。ご愁傷さまだね」

 

 彼女はいつもの調子でペラペラと語る。常に自分が優勢であると、相手に見せつけてやらねばならないからだ。そして言った、『凄まじい力が宿る訳でも無い』─────死柄木は口角を上げ、ゆっくりと地に触れる事でその言葉を否定しようとしていた

 

 ***

 

 一方その頃、レグルスと連合の戦いから離れた場所では、オール・フォー・ワンとヒーロー達が激しい戦闘を繰り広げていた。しかし彼の圧倒的な力に押されヒーローらは防戦一方、勝利の糸口を見いだせずにいた

 

「ははは。オールマイト、君は随分と無理をしてるみたいだね。オーバーホール……リカバリーガールを超える治癒個性をミルコやインゲニウム、その他諸々に使っていたみたいだけど───君達はアレを1番使うべき人間には使わなかった、それが敗因だよ」

 

「彼の個性を利用してあの頃の肉体を取り戻したのか───!?」

 

 文字通り何も無い空虚な顔ではなく、鋭さを持った男らしい顔立ちで不敵に微笑んでいる。彼はオーバーホールを利用して肉体の傷を完璧に癒し、かつての端正な容姿すら取り戻していた

 

「状況が大きく変わった今、君達程度に遅れをとるわけにはいかなくてね。それは君達だって理解してるはずだ───僕は長い人生設計を立てていてね、目的は同じだとしても基本的に何か一つの道に固執する事は無い。用意していた道がダメだったら「あぁダメだったか」と落胆して別の道を歩くだけだ。でもたまにいるんだよ、用意した道を全て踏み潰していく怪物ってやつが。何もかも奪い去っていく『強欲』を……僕は奪い取りたい」

 

「奴のお喋りに付き合うな俊典、動揺を誘ってるだけだ!」

 

 彼は気分良く言葉を紡ぎ、その余裕たっぷりの声色で圧倒的な自信を示している。事実あらゆる攻撃を受け流し、多数の個性を組み合わせた広範囲攻撃で反撃を行う彼にヒーロー達は弄ばれていた

 

「その為ならギャンブルだって厭わないんだぜ? 寧ろ、迷わず賭けるさ。もうルーレットは回ってる、さぁどうするオールマイト?」

 

「───これ以上貴様の好きにさせるものか!!」

 

 オール・フォー・ワンは拳を構え、殴りかかるオールマイトに対し余裕を崩さず芝居がかった声で語る。防御を行う様子は無い───妙だ

 

「どうやら貰う前に見ていた情報が残っていたみたいでね、面白い物が見れたよ。まさか平和の象徴って肩書きの裏で、子守りまで兼業してるとは。 いやぁヒーロー稼業も多忙で大変だねえ、感心するよ、本当に」

 

 その言葉と同時に彼の腕が不自然にうねり、エネルギーが渦を巻いて緑谷達の隠れる瓦礫へと向かって放たれ───それを平和の象徴は見逃さずに一瞬で救い出した

 

「───何故君達がここに居るのか今は問わない、早く逃げなさい! 爆豪少年は保護されたと連絡が来た、ここは我々に任せて。さぁ走って!」

 

「お見事。流石は平和の象徴、憎たらしい程速い救助だ。そんなにも力を持て余しているのに、生徒1人救えないとは。そういえば、君達は彼女と同じクラスだったね。オールマイトが居なかったせいで起きてしまった渋谷の悲劇、表では語られていない部分を聞いていかないか? レグルス・コルニアスに何があったかをね」

 

 ───彼の言葉に込められた真意など分からない、それでも緑谷達が足を止めるには充分すぎる話題だった

 

「足を止めるな!! 早く退けー!!」

 

「話の邪魔をするなよ《発条化》+《膂力増強》+《瞬発力》+《押し出し》+《電波》」

 

 次の瞬間、彼の手から衝撃波と目に見えない電磁パルスが融合した広範囲攻撃が放たれた。EMP効果が周囲の電子機器を瞬時に焼き切り、ヒーロー達の通信装置やサポートアイテムが悲鳴を上げて機能を停止した

 

 同時に、衝撃波が爆発的な勢いで広がりオールマイト含むヒーロー達を容赦なく吹き飛ばし緑谷達も切島と氷壁ですら相殺しきれなかった

 

「短い間だったけど、ヒーロー科として輝いていた彼女は職場体験先で弔達から襲撃を受けた。彼女は単身で彼らに立ち向かい敗れてしまった……悲しい事に彼女はそこで───死んだんだよ」

 

「なっ───う、嘘だろ……デタラメだ、だって彼奴は……」

 

「いや? 嘘なんかじゃないさ、彼女は彼処で死んだ。そりゃもう凄惨な現場だったよ。全身を切り刻まれ、傷を焼かれ、そしてまた抉られる。彼女は個性を使って延命し、それが苦痛を引き伸ばす結果となった。そして最後は頭部を塵にされ死んだのさ、助けを求めて必死に声を上げたのに誰も彼女を助けなかった。今の彼女は、ヒーロー達の怠慢が引き起こした結果なのかもしれないね」

 

 上機嫌にレグルスの死に様を語る彼に、轟は拳を握りしめる。オール・フォー・ワンの言ってる事が本当かどうかは分からない……それに今の状況は反論する時間すら許さない、ヒーロー達の為に一刻も早く退かなければならない

 

「まぁ、彼女は遅かれ早かれああなっていた。例え最初から雄英に通っていたとしてもね、彼女の精神性は周りの環境がどうなった所で変わるものじゃない。この社会とは根本的に相容れないのさ、勿論その社会でヒーローを目指している君達ともね。怪物の心を持った人間、それが彼女なんだから」

 

 冷酷さと愉悦が混じり合った声が、戦場へ不気味に響き渡る。彼はその嘲笑を隠そうともしない

 

「───貴様が人の心を語るな!! オール・フォー・ワン!」

 

「人聞きが悪いな、僕が人じゃないみたいな言い方はよしてくれよ《転送》+《衝撃反転》」

 

 オールマイトは渾身の力を込めた拳を叩き込もうとしていた。その拳が空気を切り裂きながら迫る瞬間、オール・フォー・ワンの口元に薄い笑みが浮かんだ。彼は軽く手を振るような仕草で個性を発動させ、次の刹那、グラントリノがオールマイトの正面に瞬時に転送された

 

「─────ぐっ……ぁ───!?」

 

「す、すみません───!」

 

 拳の力がグラントリノを貫く前に反転し、オールマイト自身の腕に凄まじい衝撃が跳ね返った

 

「僕は君が憎い、だけど君に固執する訳じゃない。何せ展開次第じゃ全てがご破算だ。それでも戦いたいというなら受けて立つよ? 僕が後どれだけ耐えられるかの話だけどね」

 

 戦場の均衡は、オール・フォー・ワンの手中に握られつつあった

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。