強欲少女のヒーローアカデミア 作:pastel
壊理の勇気を振り絞った言葉とは別に、場の状況が和解を許さなかった。そもそも治崎は腕を無惨に切り落とされ、顔は痛みと失血で青白く、虚ろな瞳だけがレグルス達を見上げていて───超重傷である
意識が遠のく中、壊理の言葉を反芻するように目を閉じる。そして彼の身体は力なく崩れ落ち、気を失ってしまった
このままではやり直す云々以前に死んでしまう。死なせる訳にはいかない、こんな所で死ぬなんて絶対に許さない。
所詮自己満足の我儘でしかないこの感情を、壊理は絶対に譲れなかった。医療知識などない、病院が何処にあるかなど分からない、今この場で治崎廻を救うことの出来る唯一の方法は───私の、個性
そこで思いとどまる。何故なら壊理の目の前には誰よりも何よりも信頼できる存在が居るから───治崎廻を生かす事自体がレグルスの意思に背く行いであるのは理解しているが、自分が頼る事の出来る人間はレグルスしかいない
「お姉さん、この人を───!」
「あぁ、トドメを刺してくれって?」
「ち、違うよ! 助けてあげて欲しいの、このままじゃ死んじゃう……!」
レグルスは瞬時に表情を硬くした。瞳は重く淀み、口元に浮かんでいた薄い笑みは消え、いつもより数段低い声色で「あのさぁ」と話を切り出す
「私は、君と対等な関係でありたいと思っているんだよ。ただそれは、上にいる私が階段を降りて君と目線を合わせているだけであって、私が君と同価値って訳じゃないんだよ。私がどれだけ君に譲歩と配慮をして日々を過ごしているか分かった上で、私の意に背くってのは流石にどうなのかなぁ? 私は君の笑顔が、好意を伝えながら幸せそうに笑う君の顔が好きだから、こんなにも自分を曲げてやってるって言うのにさぁ! 結局は私といる幸福より、そこの死に損ないを優先するってわけか。私と過ごす今という時間、私と生きる未来という財産よりも、そこの死に損ないが君につけた傷の方が───過去の方が色濃く残ったって事でしょ? それってつまり、君と対等であろうとわざわざ目線を合わせてやってる私から目を逸らしたって事だ、私の権利の侵害だ。それは許せないなぁ!」
私といて幸せだって言うなら、私の事が好きだって言うなら私以外を求めるなよ。私は、私という完成された個だけが存在する王国に君を招き入れてやったんだぞ……! 自分が認めた相手に裏切られる程間抜けな事なんてない、それでも処女かどうかすら定かではない君を手元に置いておいたのは君が私にとって……。
彼女にとって壊理は夜空に輝く唯一の星であり、どんな闇も照らす光に等しい。その光を誰とも分かち合いたくない、それは私の為にだけ存在するべきだと───壊理の純粋な愛はレグルスの心を満たすが、治崎を救おうとするその行動は、彼女の猜疑心を爆発させるには充分だった
日に日に独占欲が強まり、それと同時に不安も高まっていく。壊理が自分を裏切ったのではないかという猜疑心と、壊理の愛が自分以外に向けられた事による嫉妬心が小さな王の心を蝕む
「私の意に背くのであれば、君であろうと殺すしかない。でもそれは私の本意じゃない、あくまでもそうせざるを得ないって話だ。それがどれだけの苦痛か分からない君じゃないだろう? だから君の弁明を聞こう、私は常に冷静でいるけど、君の言葉の意図を100%理解できるとは限らない。だから勘違いさせないよう、全力で配慮してくれ。私は君の可愛い顔を血で汚したくはない、なぁ……分かるだろ?」
次の瞬間壊理の小さな身体が瓦礫に叩きつけられる。レグルスは彼女の首に手をかけ、表面上の冷静さを精一杯装いながらも指に力を込めていく
そんな彼女のどこか悲しげで寂しげな光を宿している瞳から壊理は目を逸らせなかった
───壊理は動じない、動じる訳にはいかない。こんな事は何度もあった、きっとこれからも事ある事にこうなるんだろう。
それは一重に、自分の愛がレグルスにとってまだ信用しきれるものじゃないから。自分の事を好きでいてくれるレグルスを、他でもない自分のせいで不安にさせてしまうのだと……
だから、信じてくれるまで好きを伝え続けるんだ。
「……我儘、言ってごめんね。私、その人の事すごーく嫌いだから、死んで逃げられるなんて嫌だったの。その人が生きてたら、また昔のことを思い出して泣きそうになっちゃうかもしれない。でもその時、お姉さんと一緒なら、きっと平気だって思えたの。私のヒーローは、いつだって私を安心させてくれるから。だから今もね、すごーく勇気をもらってるの」
───1人じゃ、治崎廻に真っ向から反論するなんて絶対に出来なかっただろう。例えレグルスのように”無敵”だとしても、勇気なんて湧きやしないだろう。ここに至るまでの軌跡全て───レグルスという絶対的な安心を与えてくれる存在が居てこそ、心から信じれる好きな人だからこそ歩めた道なのだと。
「……理解に苦しむよ、本当に意味が分からない。今君のことを殺そうとしてる私から、勇気をもらってるって? 馬鹿にするのも大概に───!」
自己愛と比例する他者への猜疑心がレグルスの理性を侵食していた。壊理はレグルスの手首を強く握る。
怯えたりなどしない。その手が一切の温度を感じさせない無だとしても、それが彼女の暖かさだと思うから
「ううん、馬鹿になんてしてないよ。お姉さんは私のヒーローだから、私も勇気を沢山貰えるの。今も、その人を助けるより殺す方が私にとって幸せになるって、思ってくれてる。そんな優しい人に、怖いなんて思わないよ。貰ったお洋服が汚れないように、私が傷つかないように今も守ってくれてる。そんな優しいお姉さんが私は1番大好きなの」
愛。そこにあるのは、ただ1人の少女の純粋な愛だった。与えられた優しさ、勇気、安心、それらが本質かどうかなど分からない。きっとこれからの未来でお互いの理解を深めていくんだろう
そして目に見えるものが変わろうとも、きっとそれすら愛おしいと感じれるのだろう。それ程までに好きな彼女を信じて……その”好き”を信じる自分を信じるのだ
壊理の言葉を聞き、深い溜息を吐くレグルスに壊理の愛は───
「そんな執拗に言わなくたって一回で伝わるけど? 君の心から溢れた愛が言葉になって私に届いたんだろうけど、溢れすぎて最早好意の安売りだ。ちょっとは自重してくれる? 言っておくけど君の考えに賛成したわけじゃない、ただ君がそこまで私のことを信じてくれているなら、私もそんな君のことを信じてやる。それが、対等な関係ってやつでしょ?」
届き得た。個として完成された人間が、他を信じて自分を曲げるなんて馬鹿げた話だが……壊理の愛にはそれ程の価値がある、ということにしておこう。
これ以上恐怖で押さえつけようとしたら、きっと壊理は笑ってくれなくなると思ってしまった───それだけは、絶対に……
「はぁ、とはいえこの男を助けるのは得策とは言えないと思うんだけど……でもこれで君が幸せになって、その幸せが愛になって私にだけ向けられるなら、まぁ──────はぁあ、仕方ない」
「ふふっ、ありがとうお姉さん」
壊理を背負いなおし、倒れている治崎を指でつまむ。例え近くに病院があったとして、原型を留めているとは思えない。恐らく付近にいたヒーロー達も相当な数が崩壊に巻き込まれているだろう
時間がかかれば、それだけ死柄木達に逃走の猶予を与えることになる。だがそんな事、取捨選択にすらならない。全てを手に入れる力と余裕が私にはあるのだから
***
───敵連合アジト周辺
「……これで最後か。転送された奴らと通信は繋がらないし、一体何をしているのだあのメリケンは……! おい塚内、何か情報来てるか!? ギガントマキアの侵攻が止まってからおかしな事続きだ!」
『崩壊』を逃れ空を飛ぶ脳無を一掃し、この場にいた者達の救助もこなしたエンデヴァーは次の行動に移ろうとしていた。転送以降連絡の取れないオールマイトの方へ行くか、この災害の中心地───死柄木達の方へ行くか
「オールマイトの方は恐らく通信機器をやられてる。だが連合のボス、オール・フォー・ワンと戦闘をしてるのは確かだ。となるとマキアを止めたのは他の誰かって事になるが、まさか……」
「最悪の事態を想定して動くしかない、とりあえず応援要請と避難区域を更に広げろ。どちらにせよこの状況下で中心地にいけるのは俺くらいだ。黒霧が動けない今、確実に奴らを捕らえる───!」
レグルスが轟家に来訪した日から、何処となく雰囲気の変わったエンデヴァー。それは一人のヒーローとしてではなく、一人の人間として……親としての成長と言えた
夏雄にトラウマを植え付け焦凍に甘い毒を盛ったあのクレイジーガールの言う事を全て真に受けた訳では無いが、それでも彼女の言葉は自身に刺さる部分が多かった、というだけだ。
「やはり視野の広い君をここに配置して正解だった。治崎廻の奪還含め、君に任せる」
「シャッ!」
「塚内警部、エンデヴァー! な、何か……何か来ます!」
警官の一人が声を震わせた。彼が観測したのは倒壊した建物を破壊しながら此方に迫る何か───。
警戒の叫びが隊内に響き、彼らの視線は遠くの地平を埋め尽くす脅威に釘付けだった。もしやマキアは死んでおらず、我々を屠りに戻ってきたのか……はたまた、二度目の『崩壊』か。
土煙の中、近づくにつれ段々と顕になってくるシルエット。一人の男を引き摺り、一人の少女を背負いながら等速直線運動で戦場を闊歩するその者の正体は───!
「あのさぁ、こんな重傷者を助けに来ないで放置って一体どんな教育受けてきたわけ? 人間性が欠落してるにも限度ってものがあるでしょ。そりゃ掌から溢れたぶんの責任も取れなんて無茶なこと言うわけじゃないけど、どうにか拾い上げようとするくらいの姿勢っていうか努力は忘れちゃダメでしょ。それはヒーロー云々じゃなくて、人として当然の常識だ。他者を救えば自分も救われる。自分が救われれば自分を愛している人間も救われる。その幸せの輪ってやつを自身の怠慢一つで千切るってのは流石にどうなのかなぁ? それって、君らが最低限の努力さえすれば救われたかもしれない人達への無礼にあたるよね? それはよくないな、他者の権利の侵害だ。私は君らと違って見て見ぬふりとか出来ない慈悲深い人間だからさ、例え直接的な被害を被ってなくても弱者の気持ちを考えると胸が痛くて仕方ないわけだよ。ほら、力の大きさと心の余裕って比例するじゃない? 誰よりも寛大な私は常に弱者に寄り添ってるわけ。その弱者に対して礼を失するってことは、その程度の価値すら見出してないってことだ。つまり弱者に心身共に寄り添ってる私の行いすら否定するってことにならないかなぁ!?」
離れた場所でもハッキリと聞こえてくるレグルスの支離滅裂な権利論法を聞き、額に汗を滲ませるエンデヴァー
塚内の予想が当たってしまった───最悪の事態。この混戦状態の神野区、その中心にいたのは彼女だった
彼女の正面に位置する障害物は全てすり抜けるように破壊されていく。その姿、まるで自然災害が人の形を借りたかのようだ
「いいか、絶対に撃つんじゃないぞ! 最優先は連合でも治崎廻でもなく奴と敵対しない事だ!! 任せろ、彼奴の相手は───俺がする!」
「エ、エンデヴァー! 君を疑う訳じゃ……いや君を疑っている! アレとコミュニュケーションを取れる自信が君にあるのか!?」
当然の疑問。ファンへの対応すら堅物で不器用なこの男に、よりにもよってレグルスとの対話など可能なのだろうか。しかしエンデヴァーの表情に不安の色は見えない。
「ふん、誰に向かって言っている……自信などあるに決まっているだろう。俺はあの小娘を家に招き、食卓を囲んだ事があるのだからな……!」
「な、何だって……!?」
「流石はNo.2……!」
「エンデヴァーさんマジパネェ……」
「それは散々な目にあったと聞いてたんだが!?」
「ええい黙っていろ! そもそも奴が居なくとも、アレがもう一度来れば今度は助けきれないかもしれん、だからお前達は退いて避難補助にあたってくれ! もう脳無も出てこんだろう」
彼の言う通り覚醒した『崩壊』の情報が足りない今、飛べない者がこの場に留まるのは悪手。この状況における最良の手段はエンデヴァーの提案だった
退避する塚内らを背にエンデヴァーは燃える瞳で正面を見据え、炎が彼の肩から噴き上がる。それはまさに恐怖を焼き尽くす勇ましさの表れだった
「何だ君一人だったの? ヒーロー飽和社会なんて言われてるのに、肝心な時には誰も助けに来ちゃくれないなんて本当に嫌だよねぇ? もし君達が最悪を想定した上で行動して今の状況に至るならそれは言い逃れできない程の怠慢だ、怠惰だ。ビルボードチャート上位を揃えればとりあえず大丈夫だろうなんて油断してるから、あんなクズ共にいいようにされるんだよ。それともわざと危機的な状況に陥って、より観客が喜ぶような舞台を作ろうとしてるのかな? もしそうなら、他の為人の為って考え方を捻じ曲げ過ぎじゃない?」
エンデヴァーの目の前に悠然と現れたレグルス。背には壊理を、手には治崎を。彼女が連合と戦闘していたのは予想できたが、状況は思っていたよりずっと複雑そうだ
───爆豪勝己を逃がした治崎廻が連合から報復を受け、レグルスが救助したのか……? いやこの小娘に限ってそれは無い。断じてない
そもそも治崎廻、壊理、レグルス……この三人には切れない因縁があったはずなのだから、益々理解が追いつかない。
「ひ、久しぶりだな……色々と話したい事があるだろうが状況が状況なんで単刀直入に聞かせてもらうぞ、その男をどうするつもりだ……?」
エンデヴァーの問いに対してレグルスは首を傾げる。一体何を言っているのかと心底不思議そうな様子である。
そんな彼女にコソコソと耳打ちする壊理、漸く合点がいったのか何かに気づいたような表情をするレグルス
少女達の場違いな雰囲気に気が緩みそうになるエンデヴァーだったが、未だレグルスにつまむような形で掴まれている両腕が欠損した治崎を見て気を取り戻す。
目の前にいるのは片手間に隕石を落とせる正真正銘の化け物だということを忘れてはならない
「あぁ、そうそう、うっかり忘れてたよ。でもこれって私の落ち度じゃなくて此奴の落ち度だよね? 忘れてたって事は、逆説的に覚えていた時期があったって事じゃない? ただ単に私の中でこの事に対する優先順位が低かったってだけで、口約束だからと反故する人間とは違うんだって事を言いたいのさ。分かる?」
「あ、あぁ……分かるとも。そういう事は誰にだってあるものだ……それでその男は───」
───言葉の途中で彼が目にしたのは不機嫌そうに目を細め、口をへの字に曲げるレグルス。会話の主導権を握ろうとしただけでこれである。
「あのさぁ、会話の流れを断ち切って無理矢理話題を逸らすってのは……いくら何でも非常識なんじゃないの? そりゃ効率だけを追い求めれば会話なんて無駄なことでしかないんだろうけどさ、それを求めてない相手にまで強要するってのは、ちょっと人としてどうかと思うんだけど。別に社交辞令でも何でもいいから、最低限の態度は見せるべきだよね? それか、どうしても急いでるなら相手に謝罪してから本題に入るべきだ。普通私くらいの年齢になれば、この程度のことは当たり前に理解していると思うんだけれど。やっぱりNo.2にまで上り詰めると自分が特別だとか勘違いしちゃうのかな? 君の息子はそれなりに礼儀正したかったのに、親である君が無礼なのってどう考えてもおかしいと思うんだけど」
「……すまん。俺が悪かった、だが今は一分一秒が惜しいんだ。迅速に対応する為にも、その男についての話を聞かせてもらえないか?」
「そうそうそれだよ、それが聞く側の態度ってやつさ。君の歳でも学べることはまだまだ沢山あるみたいだ、良かったね。自分より二回りくらい歳下の人間に常識を教わるって相当恥ずかしいことだと私は思うけど、君が羞恥心よりも学ぶことを優先したなら一歩前進だ。それで……あぁそう、この男ね。恐らく私が個性を解いた瞬間死ぬだろうから速やかに治療を受けさせてやってくれ、全くどこまで人に迷惑をかければ気が済むんだろうね此奴は。あと、此奴が目覚めても刑務所には絶対に入れるな、入れた瞬間その刑務所を破壊する。タルタロスだろうと3分もかからないよ、分かった?」
堂々とした犯行予告、そしてそれを難なく遂行できる力が彼女には備わっている。彼女は言った、治療を受けさせ目が覚めても牢屋には入れるなと。
これは半ば強制的な取引だ。だが彼女の方から要望を素直に出してくれるならこちら側も対応しやすいというもの
「……了解した、後は俺が引き継ごう。この男を牢屋に入れることはないだろうが、理由だけ聞かせてもらえないか? 言いたくないなら言わなくてかまわない、すまん……少し気になってな」
「うーん……そうだなぁ、別に私がそいつを生かしたいって訳じゃないんだけど。まぁ強いて言うなら、その男には今後一生苦しみ続けて欲しいってだけかな。壊理の為、私の為に苦しみながら生きてくれれば幸いだ。どうせ何者にもなれない空虚な人生だったんだから、私達が手を加えて、生きる理由を作ってやったってわけだよ、どう? これで満足? 私急いでるから時間を無駄にしたくないんだけど。分かる? 無駄話に付き合わされるこっちの身にもなってよね」
どこか不服そうに腕を組みながら訳を話すレグルス。その言葉から読み取れる事としては彼女達と治崎の因縁が、こういう形で決着がついたという事。
そして彼女が意志を曲げるほど、壊理の存在は彼女の中で大きなものだという事。太鼓持ちなんかじゃなく、真に対等な立場だからこそこういう結果に収まったのだろう
だが直接レグルスの傍若無人ぶりを見たエンデヴァーからすれば、彼女に自分以外の人間を慮る心を持ち合わせていた事が何よりの衝撃だった。
「そうか、話してくれて感謝する……」
彼女の地雷を踏み、敵対することだけは絶対に避けなくてはならない。それに再びどこかへ行こうとする彼女を引き止めた所で頷くわけがない、だからここは見過ごすしかない、だが───。
「お前は……ヒーローか? それとも───」
悪意を持って人を傷つけるのならば、ヒーローとして対処しなければならない。彼女の境遇、精神、個性、それら全てを加味しても、自身をヴィランと名乗るならば───無視をする訳にはいかない
「───ヴィランか? くだらない質問をどうもありがとう。なんか人のことを正義か悪のどちらかに分類したがるよね、この世界の住人って。しかもタチの悪い事に、正義も悪も定義が曖昧なんだよね。例えば人を殺して人を救った人間はどちらに分類される? 殺された人間の命と救われた人間の命を天秤にかける権利が果たして第三者にあるのかすら疑問だよ。だから私は、何があろうと”壊理の英雄”であり続ける。壊理の幸福と未来を守る事で私の幸福と未来が阻まれる事を禦ぐ。それが私にとっての正義だ、だから君の質問に答えるなら、私は───」
彼の質問に答えると言いながら、彼女の視線は壊理に向けられている。
独占欲、自己愛、自己顕示欲、承認欲求……それに伴う猜疑心。あらゆる感情や欲求を拗らせた彼女にとって、純粋な愛を向けてくれた壊理の存在は『強欲の権能』より余程救いになっている。
だからこそ、それを手放さない為に……壊理に笑顔でいてもらうために───。
強欲なる少女は、名乗りをあげる
「壊理が一の英雄───レグルス・コルニアス」
自分の幸せの為に、他者の幸せを優先する。
世界はそれを、愛と呼ぶ