強欲少女のヒーローアカデミア 作:pastel
壊理の英雄であろうとするか、その強欲を埋める為に世界の英雄であろうとするか……或いは、そのどちらも取るか。
あぁ……本っ当に人を苛立たせるのが得意な奴らだ、まるで人を理解したように上から目線でものを言ってくる。言っただろ、壊理が一の英雄だと。自分の目で見たものと耳で聞いたものは素直に受け入れるべきだ。今に満足してるんだ壊理も私も。
「何、手を差し伸べてるつもり? 世間で魔女なんて言われて恐れられてる私を更生させようとか、身の程知らずな事考えてるわけ? あのさぁ、君らが必死こいて私に何か言おうが基本的にはどうでもいいんだけど、優しさを押し付けてくるってのは頂けないんだよなぁ。だってそれって、私を下に見てるって事だ。私という存在、その意味を軽く見てるって事だ、私の権利の侵害だ。それは、許せないなぁ」
彼の声が届いたかどうかは定かではない。だが帰ってきたのは拒絶の言葉。エンデヴァーの放った言葉は、言うには少し遅すぎた。
再び彼らに敵意を向け、治崎廻以外全員判別もつかないほどの血溜まりにしてやろうかと考えている中再び空間を切り裂いて現れる───黒い靄
───姿は見えず、声だけが聞こえる。悪意に満ちていてその雰囲気だけで息が止まってしまうような……絶対悪の声が
「そうだ、それが正しい。彼らは君達の事を何とも思っちゃいない。打算を込めて手を伸ばしているだけに過ぎないのさ。彼らの手をとれば、彼らに一生見下されたまま首輪を付けられることになる。そんな事は人として絶対に許してはならない、だから怒れ、憎め、恨め、その糧が君達の輝かしい未来を作るんだ」
「オール・フォー・ワンだ……! 何で、オールマイトと戦ってたはずじゃ───」
「下がれお前達!!」
オールマイトと戦闘をしていたという敵連合の頭。個性を奪い与える個性、それだけが情報として渡されていた。流石に負傷し、尚且つ気絶している男二人、子供二人を守りながらの戦闘は困難を極める。
「壊理、怯えるな。私が何の為に君を守ってるか分かるだろ」
「ご、ごめんなさい。私さっきからずっと怖くて、もう離れたくないよ……」
「はぁ、悪かったよ。私もらしくなかったのを認めよう、反省を生かせないほど愚鈍な人間でも無いからさ。もう二度と離さないよう君の要望に応えて君を守り続けてやろう。ていうか一体何なの? 顔も見せずに急に話しかけてきて、礼儀ってものがなってないんじゃないのかなぁ?」
「おっと、すまないねぇ。じゃあ初対面だし自己紹介から済ませようか。僕はオール・フォー・ワン、魔王と呼んでくれてもいい」
そうして姿を現す黒いスーツに身を包み、端正な顔立ちをした白髪の男。ゆったりとした歩みは、まるで王が玉座に赴くかのごとく威厳に満ちていて、口元に浮かべた微笑は狡猾で残酷だった。
「魔王? 随分と御大層な二つ名だね。現代日本に君臨する魔王は世界観に合わせてスーツを着こなさないといけないわけ? そりゃあ几帳面な事だ、まぁ支配者としての在り方を表すって意味なら似合ってるとは思うけど。で、何の用なわけ? 次から次へと人がやって来て、私はもう参ってるんだよ。人と関わるのは好きじゃないし、意味すら感じない。無意味な事を進んで行いたいほど、私は退屈な人間じゃないしね。相手からすれば私と会話できるってだけで無意味じゃなくなるのかもしれないけど、いい迷惑さ」
「君に用があるというよりは、君達に用があると言った方が正しい。僕はね、許せないのさ。君達はただお互いを大切に想って、誰にも邪魔されず静かに過ごしたいだけなのに、ヒーローは君達の力を恐れてどうにか首輪を付けようと必死なんだよ。君達を止められないヒーローが無力なだけだというのに、酷い話さ。無能な民衆だって、君を寄って集ってヴィラン扱いだ。全く誰がこんな世の中にしてしまったんだろうね」
黙って続きを促すレグルスと機嫌良く語る魔王。
「僕はねぇ、君達の将来を楽しみにしているんだよ。君達の権利は、何者にも侵されていいはずのないものだ。君達ばかり損をしていると言うのに、正当な怒りを抱く権利すら与えてくれないヒーローが憎くて仕方ないだろう───憎しみを解き放つんだ、全ては君の為にある。それとも、彼らだけじゃ怒りは治まらないかな?」
「何だ、そこの男共より何倍も話が通じるじゃないか。やっぱり他者を理解するには他者の気持ちを尊重する所から始めないといけないってのがよく分かるよね。ヒーロー云々って馬鹿の一つ覚えみたいに思想を押し付けてきて、この世界に話の通じる奴は居ないのかと疑うところだった。確かに、私の権利を侵害して来た相手には相応の怒りを覚えてるわけだけど……そのワープゲートから姿を現しておいて自分は無関係だと思ってるのは───都合が良すぎるんじゃないかな?」
レグルスは平然とオール・フォー・ワンを見据え、まるで旧友に話しかけるような気軽さで会話している。お互いに薄い笑みを浮かべながら牽制しあう様は緑谷達を置き去りにしていた
「勿論、僕は敵連合と無関係じゃない。黒霧を作ったのは僕でもあるしね、まぁ言うならば連合の支援者と言ったところかな。敵連合はあくまで弔がリーダーの組織だからね。彼のやりたい事をやれるようにサポートしてあげるのが僕さ。君と弔達の因縁は深い、春の雄英襲撃、あれから弔は君にお熱でねぇ。ヒーローへの憎しみが嘘みたいに鳴りを潜めてしまったんだ」
「発端は君らの癖に、思い通りにならなかったら癇癪起こしてしつこく付き纏ってくるの、はっきり言って人としてどうかと思うよ。支援者って言っても相当親しいみたいだけど? 別にヴィランとかどうでもいいけどさぁ、最低限人としての常識とか尊厳ってものを捨てさせるのはダメでしょ。教育がなってないんじゃないの?」
「ははは、それはすまない。僕は教育者としてはまだまだ未熟みたいだ、僕はやりたい事を伸び伸びとやらせたい教育方針を取っていたから、その影響かもしれないねぇ。でも欲望を我慢するっていうのも変な話だろ? 良心、道徳、倫理、全部顔も知らない誰かが作ったものだ。世の中を円滑に動かしたい誰かがね。そんなものに縛られては、権利なんて無いも同然さ」
「一理あるね、法律とかもその類だ。自分の無知無能さから目を逸らす為に上の者、下の者、全員に足枷をつけて安心感を得てるだけ。世の中に蔓延る不条理ってやつは、平等に人を襲うというのに。法律を守ろう、守るのが当たり前。法律を守ってない奴が人に迷惑をかける事なんて日常茶飯事の癖に、それにしか縋るものがないからいつまでも足枷を外せない何て、どこまでも馬鹿で笑えてくるよね。そういう意味じゃ君のやり方が間違いとは言いきれない。ただ、そのせいで私が迷惑を被ってるのだから話は別だよ」
先程までの感情的な様子が嘘のように淡々と会話するレグルス。彼女の中で標的は緑谷達から再び連合に移ったらしい。余程の事が無い限り怒りが持続せず目の前の出来事にのみ集中するチグハグさも彼女の厄介な点だ
「それは残念だ、僕達はそれなりに気が合いそうだったのに。さてどうすれば君の怒りは治まるのかな? 彼らを殺すか、それとも弔達を殺すか───この社会全てを壊すか。選ぶといい、僕も相応の責任は取ろう。それが誠意ってものだろう?」
「ふぅん、自分が今どんな立場にいるか理解してるみたいだね。皆が君みたいに謙虚な態度で身の程を弁えてくれたらどれ程この世界は生きやすいのかなって毎度想像してしまうのだけれど、まぁ叶うはずのない願望だ。でも私を馬鹿にした人間は全員殺してやりたい、それは叶って当たり前の権利だ。でもさぁ、この国の人間を全員殺したところで状況って変わらないじゃない? それに社会の歯車を崩しちゃうと、私達が損をするんだよ。それはいけない、権利の侵害だ」
「……損とは?」
オール・フォー・ワンの問いかけに、間髪入れずに「単純だ」と返し、一拍置いて言葉を紡ぐ───。
「壊理が林檎を食べられなくなる」
───静寂。誰も声を上げられず、微かに頬を引き攣らせる魔王と激しく首を振っている壊理が印象的な瞬間だった。
「ヒーローになれるとか人を傷つけないで欲しいとかそこの男共は好き勝手言ってくれたけど、もう充分なんだよね。君ら知ってるかい? 好物の林檎を食べて幸せそうに笑う壊理の顔。あれさえあればもういいんだってば、私がそれ以上を望んでると公言した事があるか? 君らしつこいから、この際はっきりと言わせてもらうけど、私は既に壊理にとって一番の英雄である事を選んだんだから君らの気持ちは余計なお世話なんだよ! 優しさを求めていない人間に対して優しくするのって、相手を見下してるって事だし相手にとっての”今”を奪う行いだ。今という時間に幸せを感じている人から幸せを奪って、未来を阻む行いだ。他者の権利の侵害だ!」
彼らの言うヒーローとは、極論平和の奴隷なのだ。職業的なヒーローだろうと法律に反しているヴィジランテだろうと、自己犠牲の精神で人助けなんて正気の沙汰じゃない。
英雄への劣等感は残り続ける、それでも尚壊理の隣に居続ける事を彼女は自分の意志で選んだ。緑谷達の想いだって嘘ではない、それでも今の彼女達にとってそれは間違いでしか無かった。
「……僕はっ!」
「───落ち着け緑谷! 今俺らが勝手すんのはダメだ、それに彼奴はもう、あぁなったら梃子でも意志曲がんねえだろ。それに、大切な人を安心させられるのは立派なヒーローなんじゃねえのか」
なりたい自分になるために、きっとその目標を彼女は見つけたのだろう。なら自分達に出来ることはもう何も無いと、僅かながら心に抱く無力感から目を逸らし目の前の少女達を認めるしかない。
もしも壊理が、人並みにヒーローを知って人並みに善悪の区別がついていれば、レグルスの行いを間違いだと指摘し別の道を歩ませる事も可能だったかもしれない。だがもし壊理がそういう人間だった場合、彼女達の間に愛は生まれない。
だからこの結果は必然なのだ
「唯一心を許した存在への絶対的な信頼か、素晴らしいじゃないか。君にも誰かを愛せる心があったとは、いや驚いたよ。まさか本気でそんな事を宣うとは。だけど、それもまたいい。誰にでも向けられる純粋な憎悪。満たされる事の無い『強欲』そして他者を真に愛せる心───君こそ、理想だ。あぁ欲深い僕を許してくれ弟よ」
「はぁ? こいつも話が通じない人種だったか。居るんだよねえ自分勝手な会話をして、会話の主導権を握ってる自分に酔うやつ。優しい私はどんな状況でも会話に付き合う程度の態度は示すけど、こうも独り善がりな行いに利用されると悲しいよ。どうしてくれるのかなぁ!?」
お前が言うなとこの場に居た男達の考えは統一された
「───来てるな。僕は”次”を見据える。だから今日この場で、今までの総決算といこう。君は言ったね、未来を阻まれる事は権利の侵害だと───その通りだ。ヒーローとは禦ぐものであり、ヴィランとは侵すもの。誰もが自分の未来を阻まれない為に、他者の未来を阻むんだ」
空間を割いて現れたのは連合の面々。相手の戦力は本気を出そうものなら文字通り桁が違う。そしてこちら側は雄英生が二人と怪我人を抱えたNo.2ヒーロー、そして協力は期待できないレグルスと壊理で一組
そんな絶望的な状況は、死柄木が地に触れることで決定的なものになろうと───。
「っと危ねぇ、まぁそう来るよな。トゥワイス、コンプレス増やせ。とりあえず奪還だ。時間停止……人に作用すると一切の個性が適用されないらしい。ほんと個性だけはつえーな、崩壊も効かない。あのガキを殺せないとなるとどう攻略するか……」
レグルスを注視していた死柄木は彼女の手から放たれた真空波を見逃さなかった。彼女の攻撃はその威力は勿論の事、速度まで兼ね備えた最強の矛だが現状一つだけ弱点がある。予備動作関係なく、彼女が飛ばした時の止まった物体は直線にしか動けないということ。
反射の仕組みもそれに近いものだと推測できる。『獅子の心臓』その本質は停止した物体に変化を拒ませるという特性にある。停止された物体は内部のエネルギーが凍結し、レグルスによって新たに存在が書き換えられる
ただその過程で物理法則の影響を受けなくなるから幾ら運動量を加えようとも放たれた物体は真っ直ぐにしか飛べない。
とはいえ、脳無戦で見せた吐息地雷のように停止した物体をそこに留まらせるか慣性に従って直線に動くかはレグルスに選択権があるって事だ。
これはレグルス本人にも言える事、無敵中に吹き飛ばされたりしてるのは普段から慣性や重力にはある程度従う状態にしてるからだ。
例えるなら、自身が受ける影響一つ一つにONOFFのスイッチがあるようなものか。全てをOFFにした時の最高速度がトガを捕まえた時のあれか───分かってきたぞ、『獅子の心臓』
オーバーホールの情報から考えるに、他者に自分の心臓を預けることで心停止のデメリットを無視してる可能性が最も高い。他者への停止は心停止の対象にならないのも確認済み。心停止は『獅子の心臓』特有の法則ではなく、あくまで個性発動のトリガーって事か
心臓の預け先はあのガキ……んで前に生き返ったのも恐らく心臓を預けてる事と関係があるはず。
時間が止まってようが物体は物体、個性が覚醒して伝播するようになったみたいに、相手の個性因子に直接干渉してぶっ壊せれば俺達にも勝機がある……いや、現実的じゃないな
はっ、本当にどうしちまったんだ俺は。彼奴が憎くて憎くて仕方ないはずなのに、無性に試してみたくてイライラする。昔の事を思い出して個性が覚醒したから頭がトんじまってんのかもなぁ
「おうよ、任せろ! やなこった!」
「エンデヴァーいるぞ……な、何か策あんのかよ?」
臆するスピナーに対し、返事をしたのはトガだった
「決まってます」
時間稼ぎ、制圧───そのどちらもを可能にする連合の切り札
「沢山増やしましょう、仁君」
この戦いが総決算になるのなら、その先に生きやすい世の中があるのならもう出し惜しみは必要なく、過去のしがらみに縛り付けられる必要もない。”今”から脱却するのは、彼らの方だ───。