強欲少女のヒーローアカデミア   作:pastel

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40話『オールイン』

 ───人は過ちを犯してもやり直す事が出来ると、誰もがそう言う。顔も知らない誰かが作った1の上に立って、ゼロから始められると。

 だが犯した過ちの大きさによっては、その1に立つ事すら出来ない時がある。人は一人じゃ生きられない、誰かに1を作ってもらわなければゼロからは始められない。這い上がるには、信用し信頼されるしかないのだ。

 

 分倍河原仁は、敵連合に出会って漸く自分が救われる為の一歩を踏み出せたのだ。落ちる所まで堕ちた最底辺の人間を受け入れてくれた彼らなら、信用できると思った。信用できるのは自分だけ、それでも今の自分から脱却する為に人を信用したかった。

 

 皆、過去を隠した集まりだ。ここに至るまでの動機も環境も、きっと何もかもが違う……中には社会的に認められず大人の身勝手でここまで落とされてしまった者も居るだろう。

 連合は良い奴らだ、こんなにも馬鹿な負け組を認め、受け入れ、求めてくれた。信頼してくれた───! 

 

 それなら俺は、応えなきゃならねえんだよ

 俺が俺である証明なんて、此奴らが俺を信頼してくれてる。その事実だけで充分なんだよ! 

 

 無限増殖『サッドマンズパレード』

 

「『二倍』の恐ろしさを味わいやがれよヒーロー!」

 

 突如トゥワイスの分身が無数に溢れ出した。彼は対象を2倍に増やす個性を自分に使う事でその個性の真価を極限まで発揮し、瞬く間に無限増殖の永久機関を構築していた。

 

 まるで蟻の軍勢のように四方から押し寄せ一人が二人に、二人が四人に増殖し、叫び声と笑い声が戦場を埋め尽くした。

 

「俺達は無敵だ! ははっ、やってやろうぜ!」

「期待に応えなきゃなぁ!」

「トガちゃん見ててくれよ! 俺のかっけーところ!」

「馬鹿言え俺だ!」

 

「凄い! 凄いです仁君!」

 

「やったぜ! トガちゃんに褒められた!」

「今のは俺を褒めたんだよ!」

「違うだろ俺だ!」

「馬鹿言え俺だ!」

 

 分身達の声が重なり、戦場に混乱の渦を巻き起こす。

 

 ───最悪の状況、そう言わざるを得ない。戦力差が文字通り絶望的すぎる。

 

「お前達、エンデヴァーの名において個性使用を許可する! 死なない事を最優先に動け!!」

 

「とんでもねえ事に首突っ込んじまったな……!」

「っ! これ、耐久面はめちゃめちゃ脆いぞ! でも数が多すぎる!」

 

 緑谷はフルカウルを構え、素早い動きで分身を弾き飛ばすが増殖の速度に圧倒される。轟は氷結を放ち広範囲の制圧を狙うが、所々に作られるコンプレスの分身がそれ自体を圧縮し無効化されてしまう。

 

 まだ『崩壊』のコントロールが完璧でない以上、無限増殖と崩壊の共存は難しい。それに死柄木の狙いは緑谷達でなくレグルス、その一点に集中している。

 

「なぁトゥワイス、先生───」

 

 死柄木の口から聞かされる、衝撃の作戦。オール・フォー・ワンでさえ少し目を見開いているが、死柄木の顔に不安は無い。

 

「え、それマジで? マジでやんの!?」

「……ふむ、相当なギャンブルだぜ?」

 

 この作戦を決行するだけで命運が分かれてしまうくらいには危険な賭けだ。だが死柄木は邪悪な笑みを深めるだけ。恐怖も不安もありはしない、全てはレグルスを壊す為なのだから。

 

「───オールインだ」

 

 そして緑谷達もまた、この絶望的な状況を覆す為の策を練っていた

 

「やるしかないんだ……僕ら二人で!」

「つってもな、なんか作戦あんのか?」

 

「あの仮面のヴィランは恐らく圧縮して閉じ込める的な個性だから轟君の氷結をいくら出そうがジリ貧で終わっちゃうんだ、しかも分身は本体の奪還を狙ってるからエンデヴァーはそこにも注意を向けて動かなくちゃいけないのとそもそも人を抱えてるせいで手一杯なんだ。考えろ、エクトプラズム先生と違って分身自体が自我を持ってる所を見るにこの増殖を最初に起こした本体を叩けば分身は消える確証も無いし、そもそも現実的じゃない、なら───一撃で全部倒すしかない」

 

 次々と現れるトゥワイスに、レグルスと緑谷達の間に分厚い壁が築かれ分断されてしまう。好き放題する連合の様子に苛立ちを隠せないレグルスはその脚を動かせずにいた。

 

 目の前の肉壁を粉微塵にしてもいいが、自分を散々虚仮にした彼奴らが苦しんでるのはいい気味でいい気分になる。喜悦を邪魔されるというのは何にも耐え難い権利の侵害だ、だから───。

 

「何を見てるんだよ? 僕だけは助けてくださいって命乞いでも始める気かい? 別に誰がどんな目で人を見ようがその程度で悪い事にはならないと思うけど、相手が不快な気持ちになればそれは悪い事だよね? 不躾な視線を向けられると、私は相手に見下されてるんじゃないかとつい疑ってしまうんだよ。その考えが正しいかどうかなんてのはこの際関係なく、その可能性がある時点で私はその事に対して相応の手段を取れる権利を得る。そしてそれは、誰しもが許されて当たり前の正当な権利だ」

 

 騒がしい戦場だというのに、オール・フォー・ワンはそんな事意に介さずレグルスを見つめている。言葉を投げても返事をせずただただ黙りこくったまま此方を見据える様子はとても不気味だった

 

 言葉を聞いた上での無視、その事に我慢出来るほどレグルスの器は大きくなかった。極小の器は既にキャパシティを大幅にオーバーしているのだから。そして「あのさぁ」から始まる彼女の口撃

 

「私がせっかく無礼な君に教えを説いてるのに無視ってどんな教育受けてきたわけ? これが世間話だったら別に聞き流すのも構わないけどさ、今はそういう状況じゃないでしょ。まず君は、私に無礼を働いた立場なんだから最低限私の話は聞いて、返事をすべきでしょ。礼を失する態度をとって相応の責任を取れるわけがないよね? そりゃあ彼奴が狂うわけだよ、まともじゃない人間が教育した人間がまともなわけが無い。まぁ環境さえ悪くなければ人としての常識とか礼儀ってのは自発的に学んでいくものだから、全て君が悪いって事でもないけど、保護者ってのはその上で全ての責任を背負う生き物だよね? 私、何か間違った事言ってるかな?」

 

「───すまないね、今まで他の人と話をしていたものだから君に気づかなかったよ。言いたいことは多いのに声が小さいから耳に入らなかったや。あはははっ」

 

 明らかに此方を馬鹿にするような発言を聞き彼女の顔は赤みを帯び額には青筋が浮かび、握り潰した拳は小刻みに震えている。

 それと同時に彼女の堪忍袋の緒が切れる音が戦場に響いた

 

「君如きが私を嗤えると思ったのか……? ───自惚れるなよ三下がぁ!!」

 

 言葉と共に地面を力強く蹴り飛ばし、その一撃で土と石が爆発的に舞い上がった。蹴り飛ばされた無数の破片は、時間が凍結し全てを貫通する弾丸となってオール・フォー・ワンへ高速で疾走した。レグルスの怒りはこの壮絶な弾幕に結晶化し、オール・フォー・ワンを呑み込まんと迫る。

 

 だがいくら速いとはいえ直線運動の域を超えない攻撃など、感知系個性を兼ね備え強化しているオール・フォー・ワンが回避できないわけが無い。

 

「……君を初めて見た時、どんな手を使ってでも此方に引き込まなかった事を酷く悔やんでいるよ。正当な手段を踏み成長を重ねられれば何にも劣らない王になれただろうに。まぁ今からでも遅くは無いけどね」

 

「───あぁ? 私が誰かの下につかなきゃ存在価値を見い出せないほど矮小な人間だと思ってるってこと? どこまでも筋違いな考えで思い上がりやがるんだ、自分は特別な人間だと、力を得た人間は勘違いする。周りは自分より下で、自分だけが選ばれた……愛された人間なんだと。気色悪いんだよどいつもこいつもぉ!!」

 

 前に抱えていた壊理を背負い直し、先程の手段は絶対に取られないよう反射を制限する。その気になればこの場にいる人間なんて一秒もあれば肉片すら残さず殺してやれる。だがそれは許さない

 

 私をここまで虚仮にしておいて断末魔の一つも聞かせず勝手に死ぬなんて身勝手を私は許さない。一人ずつだ、まずはこいつを……!! 

 

「あぁ憎くて仕方ないだろう、自分以外の全てが、不変である自分に干渉しようとしてくるその現実に怒りが湧いて仕方ないだろう。なら君は、唯一認めている『自分自身』が敵として現れた時、一体どんな顔をするのかなぁ?」

 

「……? あのさぁ、惚けたこと言ってないで私に謝れよ! しっかりと犯した過ちに対して謝罪して、相応の態度を示して命だけはって惨めに生き足掻くなら、せめてもの慈悲として楽に死なせてやるからさぁ」

 

 レグルスは彼が口にした言葉の意図が掴めなかった。そもそも自分は一人しかいないから完成された個なわけで、彼のいう自分自身が敵として現れるという事は即ち───強欲の大罪司教が現れる事を意味する

 

 だがそれだけは有り得ない。この世界の「レグルス・コルニアス」は彼女なのだから。彼の言うことは正真正銘妄言である、はずだ───。

 

「必要なのはデータと明確なイメージ、それさえあれば内部の構造から個性因子の形まで全て同一の複製を作れる。一つのものを二つにするのだから、複製されたものもまた、本物と言える」

 

 エアウォークで宙に浮き自然とレグルスを見下せる構図を作る。彼に戦意はなく、ただ必要な情報を集めるだけに徹していた。

 そしてそれも終え、彼に伝え終わった事で死柄木発案の作戦が決行される。

 

『何かごちゃごちゃうるさいと思えばお前か。偽物のくせにこの世で最も満たされて、最も個して完成された存在を自称するだなんて笑わせてくれるよ。壊理も壊理だよ、そんなのと一緒にいる理由なんてないじゃないか。理解に苦しむよ、君は私の心臓だろ? なら私と共に居て、私と共に幸せを分かち合うのが役目だ。そんな対等な関係を私は望み許したんだから、それをしないって事はつまり私への裏切りに値する。この不埒な浮気女め!』

 

「はぁ!?」

「えっ? 何でお姉さんが二人いるの!?」

 

 いや、少し考えれば分かる事。ただ思考を放棄しているレグルスとそんなレグルスに身を任せている壊理には理解が及ばなかった。だが目の前にいるのは間違いなく『レグルス・コルニアス』であるという事だけは、事実として存在していた。

 

 オール・フォー・ワンの個性コンボによりレグルスの身体情報をデータとして算出、要であるトゥワイスに伝える事で行うレグルスの二倍化。

 複製体は性格、記憶までもが本人と同一な為一歩間違えれば彼女と敵対している連合は壊滅していた。だがこの策以外に現状レグルスの個性に対する打開策が無いのも事実

 

 故に賭けたのだ、結果はどうだろうか。『レグルス』は既にレグルス達を敵として扱っている。最強の矛と盾を持った駒を使い、最強の矛と盾を持った敵を倒す

 

「あのさぁ、急に現れてきて何なんだよお前。次から次へと人が出てきて、どいつもこいつも礼儀ってものがなってない人として最底辺の奴ばかり。黙って聞いてれば私を偽物扱いか? 私は私だ、本物であり完璧な、完成された人間。そして壊理はそんな私と唯一対等でいる事が許された、私を愛することが許された人間だ。誰からも愛されないからって嫉妬は見苦しいよ? 独り身の女の嫉妬ほど見るに堪えないものってないよねぇ!」

 

『あのさぁ、自分の事を棚に上げて散々言ってくれてるけど、どう考えても君が言えたセリフじゃないよね? 本物になり損ねといて現実を受け入れられず、手当り次第に奪ったものを愛でてるだけだろ? 或いは、そこら辺の雑草に水をかける事が親切だとでも思ってるのかな君は。他者を利用しないと自分の存在意義を確立できない一個人としての価値とかたかが知れてるよ。私は嫉妬なんてしないし、した事もないし、したいとも思えない。ただ愛される事を受け入れ私を愛す事を許した唯一の相手が別の女に身を寄せてるのを見たら少なからず怒りを抱くのは当たり前だ、正当な権利だ。奪われた物を取り戻そうとする事が嫉妬だとか宣うなら、自分の手に収まらないものを奪おうとする事も他者への嫉妬になると思うけど?』

 

「え、えっと……わ、私のために争わないで!」

 

 前にドラマか何かで見た台詞を言ってみるも、残念ながらヒロインの声に全く耳を貸さない二人の主人公

 

「壊理、彼奴は偽物だ。私ほど完成されている個はこの世に二人も存在していないし、君が愛することのできる私という存在も一人しかいない。戯言に耳を貸さない方がいいよ、聞いてたら耳が腐っちゃうかもしれない」

 

『いや私が本物だよ、戯言吐いてるのは君だろ? 現実から目を背けて妄想に耽るのは個人の自由だけど、周りにもその価値観を押し付けるのってどれだけ身勝手で『強欲』な人間なんだろうね。全くどうかしてるよ』

 

「あっはっはっはっは」

『ははははは!』

 

 自分同士で終わりのない口喧嘩をするレグルス達、場の状況も相まって文字通り地獄絵図である。本物と本物、或いはどちらも偽物。そして両者の心臓が一つ。和解の二文字は存在しない。

 

「───死ね!!」

『───殺す!!』

 

『Re:ゼロから始める強欲攻略戦』───開幕




複製レグルスさんの台詞は『』つけてます
トゥワイスの複製って本体が死んでも残ってましたっけ
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