強欲少女のヒーローアカデミア   作:pastel

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6話『強欲VS脳無』

 平和の象徴オールマイトの決めゼリフを言いながら余裕の表情で前に出ていくレグルス。彼女は心の中でほくそ笑む

 

 完璧である、これが彼女の目的。私の権利を侵害して来た屑共の計画を破綻させ、私を不合格にした満たされていない者達で満たされているこの学校に対して私がどれだけ完璧で完成された人間かを見せつける。

 

 1度雄英に落ち人も殺してるしヴィラン連合に勧誘すらされているが彼女は未だに英雄になる事を諦めてはいなかった

 

「お前……レグルスだろ? 先生に言われたから仕方なくお前を参加させてやったのにこのクソガキ……俺達を裏切るのか?」

 

「裏切る? まるで私達が仲間だったかのような言い方じゃないか。そんな事あり得るわけないだろ? 君の頭がおかしいのは分かったから、そんな自分勝手な妄想は自分の心の中に留めておいてくれる?」

 

「このクソ女がぁ……! オールマイトは居ないし裏切り者には妨害されるし……あぁ! イライラするなぁ! ……殺せ! 脳無! そいつを……その女を今すぐに殺せぇ!」

 

「自分のやりたい事が上手く行かなかったからって癇癪を起こして他人に八つ当たりするなんて子供のする事だよ。頭が悪い上に口も悪いなんて欠陥が多すぎる人間だな君は」

 

 間違った情報を掴まされ目標のオールマイトは不在、参加させたくなかったイカレ女に裏切られ煽られ……短時間で度重なるストレスに死柄木は首を掻きむしりながらただ憎悪と殺意のみで脳無に命令する

 

 切断された腕の再生を終えた脳無がレグルスに襲いかかる。

 

 ……腕が治ってる……あの化物にも個性が備わってるのか? 再生という事はいくら真空波で切断したって無意味か。もしくは”脳”を吹き飛ばせば再生しようとしたって脳がないんだから個性も使えなくなるかもしれないけど……

 

 自分より遥かにスピードの高い相手をどう攻略するか考えていたレグルスだが、これといって何か攻撃をする訳でもなくただ棒立ちで脳無がこちらに殴りかかる様子を見ていた。レグルスの体では食らえば一撃で頭どころか上半身ごと粉砕されるであろうパンチを彼女はため息を吐きながらただ待ち構えていた

 

「……はぁ?」

 

 殺れると確信していた死柄木が困惑するのも無理はない、無くなったのはレグルスの上半身ではなく脳無の足だったからだ。バランスを崩した脳無に手を突き出すと一瞬で脳無の両腕が消し飛ばされる

 

 笑わずにはいられない、あいつら自慢の”おもちゃ”が私一人に文字通り手も足も出ない状況になってる事に。そのまま倒れ込んでくる脳無の上半身を蹴り上げ消し飛ばそうとするが──────獅子の心臓発動から5秒経過。脳内に危険信号が鳴り響き個性を解除するレグルス。再び止まっていた心臓が鼓動を始めた

 

 獅子の心臓唯一にして最大のデメリットは心臓の鼓動が止まる事。最大5.6秒まで使えるが使用後に大きな負担がかかってしまう為レグルスは本当に攻撃を”当てる”寸前と攻撃が”当たる”寸前の1.2秒しか個性を使わない事を心がけていた。だが今回彼女は慢心と死柄木への対抗心のせいで心臓への負担よりも舐めプする事を優先してしまった。

 

 発動中、この世界の一切を拒絶する獅子の心臓は、5秒間止まっていた心臓が急に動き出す苦しみだけはどうしようもなかった。彼女の「権能」は独立したものではなくこの世界のルールに則り「個性」という枠組みに収まっている為、彼女自身の肉体もその個性にある程度適応できるよう作られていた。簡潔に言えば1.2秒程度心臓が止まった所で彼女の体は苦しみを感じず、負担が少しずつ蓄積されていくだけだが5.6秒の時間停止を行った場合彼女の許容上限を超え、苦痛を感じてしまう訳だ

 

 痛む心臓を抑えながら急いで息を整えるレグルス、そしてその一瞬の隙はオールマイト並のパワーとスピードを有する怪物の前では致命的だった

 

「ふぐうぉおぉおお!?」

 

 手足の再生を終えた脳無に殴り飛ばされるレグルス。パンチが当たる瞬間に獅子の心臓を発動させ、少しでも休む為に即解除する。パンチの威力は殺せたがその勢いは殺せずそのまま噴水に衝突し、オブジェを壊しながら水に落ちる

 

 全身がびしょ濡れになり、体の節々に痣が出来て所々切ってしまったのか血も流れている。満身創痍な彼女は悔しさを隠しながら平気な顔をする。依然として優勢なのは私であると周囲に見せつける為に

 

「全くお前もバカげた力だな、でも勘違いしないでよね。お前が私を前にしてまだ生きてるのは私の慈悲と、周りへの配慮に過ぎないんだからさ!」

 

「ゲームのかませキャラみたいな奴だな、お前なんかが脳無に勝てるわけない。何せそいつは対オールマイト用に作られた”兵器”素の身体能力をオールマイト並にし、尚且つ”超再生”と”ショック吸収”付き……個性が強くても本体が弱けりゃ意味ないんだよ……レグルス・コルニアス」

 

 レグルスと死柄木はお互いを子供だと評価し、罵りあっていた。この2人に親近感など芽生えるはずもない。あるのは同族嫌悪だけだ。まぁお互い自分の方が大人であると思ってるので同レベルなのに気付く事はないが

 

 死柄木は脳無の力を過信し私の敗北を確信しているみたいだけれど、私からすれば愚かとしか言いようがない。そもそも私が最初から本気で殺しに行けば脳無も死柄木も黒霧も既に死んでる。

 

 ……もし私が”完全”であれば奴の土俵に立ち近距離で徹底的に相手をねじ伏せ私の力を見せつけた上で盛大に抹殺してやるのに……! 

 彼女は自身の権能に絶対的な自信を持っていた。他を寄せ付けない全能の力、それを本気で振るえばそれは相手が自分と対等な存在だと勘違いしたまま死んでしまうんじゃないか? そんなふざけた真似を許せない彼女はその日から慢心した上で徹底的に力の差を見せつけ勝利する事を自分の中の掟として掲げていた

 

 そんな彼女の薄っぺらい決意もこの状況では揺らいでしまうのも仕方なかった。久方ぶりに感じた痛みや苦しみを必死で耐える彼女に、これ以上慢心を続けれるキャパシティーは無い

 

 ──────最優先事項はあの脳無を殺すこと……手段は選ばない。私1人であの脳無を倒す、それが何よりも重要だ

 

「行け脳無、とっととトドメをさせ。これ以上その女の戯言を聞いてたら耳が崩壊しそうだ」

 

「あのさぁ、今のを見てて気づかなかったの? 効かないんだよ君達の攻撃なんて! 殴り続けていれば勝てるとでも思ってるわけ? 浅はかにも程があるよ! お前も……そうやって速度に任せて馬鹿正直に突進してきて、私が無抵抗で殴られてやるとでも!?」

 

 そう、いくら殴られたって私には効かない。結局の所こいつはオールマイト並の身体能力を有してるからと言って工夫した攻撃が出来るわけじゃないんだ。ただ突進し殴る蹴るしか能のない木偶の坊だ

 

 私は……違う

 

「わざわざ近付いて来てくれてご苦労さま。そんなに死にたいならお望み通り再生に使う肉片すら残さず木っ端微塵にしてやるよ!」

 

 ”水”を掴み脳無に向かって思いきり押し出す。押し出された無数の水滴は世界の法則から解き放たれ弾丸のように脳無に向かって飛んで行く……時間停止が付与された水は最早散弾銃なんて比にならない威力だ。当たれば体中に穴が開き、爆ぜる。それはショック吸収を持つ脳無も例外ではなかった

 

「いくらダメージを吸収する個性を持ってるとはいえ、世界の法則から逸脱した私の攻撃を防げる訳ないよね。君達、本当にこんなモノでオールマイトを殺そうとしてたのかい? だとすれば、愚かで哀れで……そして凄く滑稽だね。でも頑張った方だと思うよ? だけど相手が悪かったのさ、満たされていない君達と満たされている私では最初から勝負になんてなってないんだよ。ご愁傷さまだね」

 

 勝利に酔いながら上機嫌にペラペラと噴水につかりながら話すボロボロのレグルス。いつまで経っても再生される事の無い脳無だったモノを見ながら悦に浸るさまは傍から見ればかなりの変人である。

 

 だが彼女が轟を救い、その上相澤先生を苦しめた脳無を撃破したのはこの場にいる全員が目にしていた。彼女が誰なのか、何故あんな悪意と殺意を一身に浴びて怖くないのか、何故あそこまでボロボロになっても笑いながら敵と戦えるのか。

 初めて純粋な悪意に晒され怯えていた少年少女達の目に映る彼女は、紛れもなくヒーローだった

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