強欲少女のヒーローアカデミア   作:pastel

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7話『獅子座劇場』

 レグルスが脳無を撃破し、これでもかと悦に浸りながら死柄木を煽っているせいで気が緩みそうになるが依然として周りにいる生徒達は緊張感に包まれたまま動けずにいた

 

 脳無が撃破されたとはいえこの場にはまだ死柄木と黒霧が残っている、ワープゲートと崩壊……いつ仕掛けてくるか分からない状況で警戒を解けるはずもなく、ただ心の中で飯田と先生達の応援が早く来るのを祈るしかない

 

「ねぇ、満たされている私に教えておくれよ。力を過信して現実から目を背けた結果何一つ成果を得られず年下の女にバカにされている気分は一体どんなものなのかさ。私が今後一生知ることは無いそれを体験した君の口から是非とも聞かせて欲しいものだね。いや、私にはそれを知る権利がある、そうだろう? 勝者の特権ってやつさ。だから、お気に入りの玩具を没収されて怒る子供みたいな表情してないで早く答えろよ。それとも今この場で八つ裂きにされたいわけ? バラバラにした後君を壊れたオブジェの代わりとして噴水の中央に飾ってやっても別に私はいいんだけど? 慈悲深い私は矮小な君という存在に唯一残された尊厳を守るチャンスを与えてやってる事に気づかない? それって人としてどうなの? 優しさに気づかないって事はつまりさ、優しさを君なんかに分け与えてくれた慈悲深い人間を軽視してるって事だろ? それは他者の権利の侵害だよ。私の権利の侵害だ、何の力も意味も持たない矮小な君にそんな権利があると思ってる訳?」

 

 そんな緊張感ある生徒達とは裏腹にレグルスのお喋りは止まらない。世界の中心に自分がいると信じて疑わない彼女を止められる者は残念ながらこの場には居なかった

 

 死柄木はレグルスを壊したくて壊したくて仕方なかった。過去最高に苛立っていた彼は血がでるのもお構い無しに首を掻いている

 

 だが自分より遥かにイカれている彼女を見ることで少しだけ彼は冷静になれた。レグルスはあれでオールマイトを殺す為に作られた脳無を単騎で撃破したのだ。控えめに行ってチートすぎる彼女に戦いを仕掛けるにはこちら側の状況が不利すぎる……今はまだその時じゃないと結論をつけ目標を切り替える死柄木

 

「はぁ〜……オールマイトはいつまで経っても来ないし脳無はやられたし……何十人ものプロが来たら流石に無理……今日はダメだね。ゲームオーバーだ、帰ろっか黒霧」

 

「でもその前に……平和の象徴の矜恃を少しでもへし折ってから帰ろう!! ……!?」

 

 少しでも爪痕を残そうと近くに居た生徒へ向かい崩壊させようとした死柄木だが、そんな勝手を彼女が黙って見ている訳が無い。

 

 走り出そうとした瞬間脳内に危険信号が鳴り響く。人間の生存本能として備わっている危機察知能力。自らの命を奪わんとする脅威がその身に近ずいてる事を直感的に感じ取った死柄木は足を止め、後方に大きく跳躍する

 

 それと同時に死柄木が先程まで立っていた場所に何かが衝突し、土煙が舞う。高速で飛来してきた何かが衝突した地面はまるでその部分が綺麗に切り取られてるかのような穴になっていた

 

「動くな……次は当てるよ。君もああはなりたくないだろ? 何度も忠告してやったのに、もしかして言葉より体で理解したいマゾヒストなのかな君は? 別に君の色欲がどんな形でも私にはどうでもいいけどさ、もし私の慈悲を君の身勝手で自己中心的な色欲を満たすために利用しているのだとすればそれは絶対に許されていい事じゃないよね。君が欠陥だらけで異常な人間なのは分かってるけど、だからってやっていい事と悪い事の分別はつけなきゃダメでしょ。それは人間として生きる上で最低限線を引いておくべきものだ」

 

 デコピンの構えを向けながら余裕の表情で死柄木を脅すレグルス。これには死柄木もイライラが天元突破しそうになるが流石にレグルスと生徒達に囲まれた状況でこれ以上動くのは愚策と判断した。彼はまだ意識のあるイレイザーヘッドがこちらを見て抹消を使おうとしていた所を見逃さなかった

 

「……本日はこれにて失礼させて頂きます

 死柄木弔、ここは退きましょう。チャンスはまた来ます」

 

「チッ……あぁ、いつか絶対にオールマイトを殺すよ……レグルスもぐちゃぐちゃに壊してやる……!! お前だけは絶対に!! 指先からゆっくりと体が崩壊していく所を見せてやる……お前自身の体でな……!」

 

「出来もしない事を言うものじゃないよ、だから君はいつになっても満たされないんだ。もっと自分の中のハードルを下げるべきだよ、私のように謙虚で無欲に生きるんだ。平和を愛し、変化を望まず今ある小さな幸せだけで満足すればいい。それ以上を求めればそれは強欲だ、満たされていない人間は皆そう。今に満たされていればいいものを、身の丈に見合わないものを欲しがって身を滅ぼす。どいつもこいつも揃いも揃ってなんにも学ばない。君たちって本当に度し難い生き物だよね、というかさ──────」

 

 黒霧がワープゲートを作り死柄木がレグルスの方を最後の最後まで睨みながら帰っていく。やがて靄は消え完全に彼らは立ち去った

 このUSJ襲撃事件がやっと終わりを迎えたのだ。残っているのはヴィラン達が退散した事に安堵する生徒達とボロボロの相澤と13号、そして今も尚噴水に浸かりながら勝ち誇った表情で独り言を喋り続けているレグルスだった

 

 ー

 

 USJ事件は幕を閉じた。死柄木達が去った直後オールマイトが颯爽と参上し、それに続いて飯田と教師陣が到着し速やかに後始末を行っていった。13号が負傷しているため瓦礫の撤去などの力仕事全般をオールマイトが担当していた。しっかりとヘルメットを着用し作業している、流石NO.1だ

 

 そんな中彼女はと言うと教師陣に一旦保護され、リカバリーガールの治療を受けた後に校長室で事情聴取を行っていた。

 

「あのさぁ、君もしかしてだけど私に何か文句でもあるわけ? 私はただ目の前で友人が殺されかけていたのに誰も助けようとしないから、代わりに動いてやったんだよ? それだけでも私の権利の侵害だ、敵に攫われたって個性なんて使わない理性的で平和主義な私への権利の侵害だよね? それなのに君は私に責任を負わせようとしてるわけ? それが英雄の卵を育て上げる機関のやり方って事なのか? 君は、君達は、雄英高校は自身の危険を顧みずに人を救った英雄に責任を背負わせて、その犠牲の上で成り立っている所だと解釈しても不思議じゃないよね? そもそもさ、私が直接的に救ったのは轟焦凍だけかもしれないけど、間接的に何百人もの人間を救ってる事に気づけよ。あの場にいた人、学校にいる人、この街にいる人、彼らは私がいなければヴィランに殺されてたかもしれないよね? 未来で彼らから産まれてくるはずだった命、その可能性すら奪われてたって事だよ。それを救ってやったんだ私は、それを聞いてなお君は私に何か文句をつけるつもりなのかな? そこの所どうなの?」

 

「すまないねコルニアスさん、私の聞き方が悪かった。君に非はないよ、それは大前提だ。君は一般人という立場でありながら私達の生徒を救ってくれた。その勇気に感謝こそすれ文句なんてある訳ないさ」

 

「ネズミの割には中々話が分かるじゃないか。そう、それでいいんだよ。世の中自分の事を棚に上げて人に文句をつける連中の何と多いことか、全く嘆かわしいよね。怠惰にも程がある」

 

「私は校長だからね! 君の意見を尊重するのさ!」

 

 本来こういった事は警察の役目なのだが1度警察に事情聴取を受けた際に一切会話が成立しなかった為個性ハイスペックを持つ根津校長に彼女は託されていた。根津校長の後ろに立っている付き添いのブラドキングは両者の会話を聞いて考える事を放棄する

 

「コルニアスさん、雄英においでよ! 君は敵に目をつけられてるし親御さんも居ない……外に帰すのは危険すぎる。それに君はヒーロー科志望だったろ? 筆記は足りなかったけど実技試験だけなら、君の成績は全体でも上位なのさ! こちらに居れば、君は英雄への道を歩める。どうかな?」

 

 根津の提案に驚くブラドと対照的に何処ぞの新世界の神を彷彿とさせる笑みを浮かべるレグルスだったが彼女は既に変人認定されていたので特に気にされる事はなかった

 

 まさかここまで話の通じる奴がこの学校にいた事に喜び笑みを隠しきれないレグルス。彼女はようやくスタートラインに立てることになったのだ

 だが彼女がここまでして雄英に入る必要はあるのか? と聞かれればNOだ。最初に入試を受けた時も彼女は日本一の看板を背負った雄英に行けば他よりも機会に恵まれ英雄への近道を辿れると思ったに過ぎないし、その価値すらも自身を不合格にした事により砕け散った

 

 では何故ここまで雄英に固執するのか? それは彼女のちっぽけなプライドと空っぽの虚栄心。自分を認めなかった雄英に力を示してやらなきゃ気が済まない、それだけだった

 

「それはありがたい申し出だね、私はヒーロー科に編入できるのかな?」

 

「悪いけど正式にはまだ無理かな……君を雄英に招待するのはあくまで保護する為だから! でもヒーロー科では過ごせるよ! これは形式上の問題だからね。学校行事にだって参加出来るけど、今の君は雄英生(仮)って所かな! 晴れて正式な雄英生になりたいなら、君の実力を私達に示してもらおう」

 

 どこまでも都合のいいネズミだ……言われなくたって示してやるさ。私とお前らの間には絶対的な壁が存在するという事をね。好成績を示せれば(仮)から正式にヒーロー科の一員になれる事も彼は約束してくれたが、あの程度の屑共に良いようにされてるような連中と切磋琢磨なんてごめんだね。

 

 とりあえず近日行われるであろう雄英体育祭での優勝を持って、私という完成された存在を世に知らしめてやるとしよう。

 

 ー数日後

 

 レグルスが案内されたのはハイツアライアンスという学生寮。雄英敷地内に建っているここに今日から彼女を住ませるらしい。荷物を付き添いのエクトプラズムに持たせ、頭の上に乗ってるパックと共に室内に入っていくレグルス。(仮)とはいえ彼女は今日から雄英生、その体は制服に包まれていた。

 

「荷解キヲ終エタラ呼ンデクレヒーロー科マデ案内スル」

 

「どうもありがとうプラズマ君、皆が私や君みたいに謙虚で誠実だったらこんな社会だって少しは住みよくなるのにね」

 

「”プラズマ”デハナク”プラズム”ダ。ソシテ我ノ事ハ”先生”ト呼べ」

 

「あのさ、私が人をどう呼ぶかは私の自由だ、権利だ。君に命令される筋合いも無ければ応える義務だってこの世のどこにもありはしないんだよ、分かった? それとも君は、そんな私のちっぽけな自由すら奪おうとするわけ?」

 

「ハァ……モウソレデイイ……我ハ玄関デ待ッテイル……(イレイザーハ彼女ノ”無敵”サヲ矯正スル事ガデキルノダロウカ……)」

 

 個性ではなく性格そのものが無敵の彼女に苦労人気質のエクトプラズムはため息を吐く。彼女はあまり物を持たない為荷解き自体はすぐに終えた

 

 予定通りエクトプラズムにヒーロー科まで案内されるレグルス。普段から運動をしていないレグルスは広い雄英敷地内を歩くだけで軽くバテていた。

 

「はぁ……はぁ……なんで私がわざわざ出向いてやらないと行けないわけ? そんなに図々しい連中の集まりなのかなヒーロー科ってのはさ。ねぇ聞いてるのかいプラズマ、私が疲れてるのが見て分からない? 君男だろ、男ならここは私の事を運ぶ場面だよ? 女の子に優しくしようだなんてのは誰に教わらなくたって当然の事だよね? ましてやヒーローなら助けを求めている人に応えるのは当然の義務だろ?」

 

 ついに先生を呼び捨てにするレグルス。体力は尽きかけてるが喋る気力はまだまだあるようだ。実際に見ていなければこの少女が単騎で敵を撃破したなんて到底信じられないだろう、相澤や生徒達の証言がある為疑ってはいなかったがこの調子で本当にヒーローを目指しているのだろうか……? なんて事を歩きながら考えるエクトプラズム

 

 彼は既にレグルスの戯言を聞き流す事を覚えた。賢い男だ




主人公を絡ませたいキャラやイベントが軒並みヒーローサイドな為超絶有能な校長に頑張ってもらいました。校長はレグルスとの会話、生徒達からの情報で彼女の危険性についてはある程度理解しています。その上で敵堕ちしないようこちら側に引き込む事を選択しました
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