強欲少女のヒーローアカデミア 作:pastel
個性把握テスト終了後、体力を使い果たしたレグルスは授業に出る気力も残っておらず保健室で横になっている。実際はまだ動けたが、今はただ1人になりたかった彼女は有無を言わせずにベッドで寝っ転がっていた。
不機嫌オーラが体から溢れ出てるレグルスにリカバリーガールも今はそっとしておくのが最善だと判断する。
はぁ……とんだ無駄骨だったな。何が個性把握テストだ、バカバカしいにも程がある……あんなもので私の力の価値を測れると思ったら大間違いさ、何度も言ってやってるのにまるで理解しないバカばかりだ。完璧な私の何が欠けてるって? 完成されている私にこれ以上何が必要だって? 思い込みで話すのも大概にして欲しいね。まぁ……確かに完璧で完成された無欲で謙虚な私にも欲しいと思えるものは一つだけある。だがそれは私を私と定義する要素ではなく、ただ完璧で完成された私をより完全な存在へと昇華させる為のもの。だがそれは願った程度では手に入らないし、わざわざ私から探しに行くものでもない。例え不完全だろうとその存在は既に完成されている、欲しいものを探し回って他者から奪うなんて強欲な真似はしないさ。私は今に満たされているからね
授業をサボって保健室で寝ている怠惰な彼女は誰がどう見てもヒーローを目指している人間だとは思えないだろう。そもそも何故彼女は英雄を目指しているのか。彼女の英雄願望の原点……それはある1人の男への、憧れと呼ぶにはあまりにも歪んだ感情だった
その男はとある世界で「剣聖」と呼ばれていた。世界に愛された青年で、騎士の中の騎士と周りから称される程正義感と他者への思いやりに溢れていた彼はその世界の英雄だった。
そんな彼に完膚なきまでの敗北を味合わされたのが「強欲」の大罪司教レグルス・コルニアスであり、彼女が持つ権能の最初の所有者だった
英雄に無敵の権能の弱点を看破され、無様に死んでいった彼と同じ名前、容姿、権能を授かった彼女は完璧な自分を脅かす存在がこの次元に存在している事に危機感を覚えていた
勿論あの虫ケラと同じ末路を辿るつもりなんて毛頭ない。だが剣聖が自分の前に現れた時、彼女は果たして彼よりも上の存在と言えるのだろうか? 英雄と世界から認められ世界最強の力に呑まれることも無くただ只管に正しい事だけを行う彼に。高い自尊心と小さすぎるプライドを捨てられない彼女はその事を受け入れたくなかった。だが受け入れるしか無かった、認めてやるしか無かった。それ程までにあの男は規格外の存在だから
その日から彼女は英雄になる事を決意した。英雄と呼ばれる存在になり、かの剣聖と同じ目線に立って初めて奴を越え自分が最も完璧で完成された存在だと証明できる……
彼女自身が敗北した訳では無いのに剣聖へ強い対抗心を抱くのは同じ権能を有していながら何も残すことなく死んだ男のせいだった。自分と同じ権能を持っていながら負ければ、それは間接的な自分の完璧さの否定であるという結論に彼女は至った。これが、彼女が曲がりなりにも英雄を目指している理由である。全ては実際に顔を合わせた事もない男とこの世界に自身の完璧さを知らしめたい。ただそれだけの物語
ー
放課後、レグルスと相澤は体育館にいた。相澤に呼び出された時から何となく何をするか予想はついていたレグルス。大方満たされている私を認められずに性懲りも無く勝負を挑んで来るんだろうと
「あのさぁ、もしかしてその体で私に挑もうとしてるわけ? まさかプロとして経験のある自分なら負傷してても勝てるって思ってるんじゃないよね? 私の力を目の前で見てまだそんな事をのたまうなら、君は筋金入りのバカだね、それとも何? もしかして私の事をバカにしてるのかな? それはもう私を完全に下に見てるってわけだ。見下してるってことだろう? どれだけ君は私の権利を侵害すれば気が済むのかな、君のその生徒に対する虚栄心も私はある程度は許容してあげるけど、それでも限度ってものがあるんだよ? 私が許したからといって、私の権利を侵害する事が許されていい理由にはならないよね? 分かった? すぐ暴力的な手段を選ぶオツムの弱い君の為に噛み砕いて説明してやってるんだけどその思いやりを君は理解してるかい?」
「お前の慈悲深さに感動して言葉も出なかったよ。あぁ言い忘れていたな……お前に戦闘訓練を行ってもらうのは正解だが、あいにく相手は俺じゃない。もう入ってきていいぞ」
合図した瞬間体育館の扉が開く。軽快な声と共に中に入ってきたのは3人の生徒達だった
「失礼しますイレイザー! いやぁすいません! 2人を探してたら来るの遅れちゃって!」
いつだってユーモアを忘れない明るく正義感に溢れた男
「なんでこの空気で平然と入れるんだミリオ……!? ダメだ……胃が持たない……帰りたい……!」
ネガティブであがり症な現在進行形で壁に話しかける男
「天喰くんってばまたノミの心臓が出てるよ〜あっ! 君がレグルスさん? ねぇねぇ! なんでそんなに髪が真っ白なの? なんでそんなに細いのにヴィランを倒せたの? なんでそんなにこっちを睨んでるの? 不思議〜っ!」
好奇心旺盛で、レグルスの髪を触りながら質問攻めをしている少女
彼らは雄英高校のトップに君臨している生徒達、BIG3だった
ー
相澤に招集されたBIG3と軽い自己紹介を済ませたレグルス。彼らが雄英高校に君臨する3トップで、しかも真ん中の金髪、通形ミリオと名乗った男は相澤が知る限り最もNO.1に近い男だと言う。
そんな事ありえない、私を差し置いてこんな男がNO.1だって? いや、私という存在を認知していなかった頃の雄英では確かにこいつがトップだったんだろう。だがそれも今日までだ、雄英のトップをくだしたとあればクラスの連中も、教師も、私から目を逸らすことなんてできない。私という1個人の実力を、完璧さを、完全さを、そしてその間にある絶対的な壁を奴らに思い知らせてやる
「じゃあ始めようか! 君と戦うのは俺だけだよ、後の3人は応援兼コーチだから! 準備はいいかな?」
「あぁいつだって構わないとも。君に先手を譲ってやるよ、私は慈悲深いんだ。わざわざ来てくれた先輩に見せ場を作らせてあげてるんだよ、2度目は心が折れてもう二度と私の前に顔を見せになんて来れなくなるだろうしね」
──────戦闘訓練開始
「……はぁ?」
開始した瞬間ずり落ちる体操服と地面に潜るミリオ。周りは「いつもの事だ」と気にしていなかったがレグルスは激しい嫌悪感に顔を歪めていた。
「お言葉に甘えて行かせてもらうよ!」
ミリオが地面に潜って居なくなった事に気づくのが遅れ、焦って探すレグルス。そんな彼女の背後から男は現れた
「背中ががら空きだよ、常に全方位を警戒してなきゃね!」
「なっ……ぐぅっ!」
予測していなかった意識外からの攻撃に獅子の心臓が間に合わず背中に重い一撃をくらい床に転がるレグルス。立ち上がりミリオを睨みつけながらその個性について考えていた
地中を自由に移動できるのか……? モグラみたいな奴だな。でもパンチの威力は脳無より低い、ならいかに変則的な戦い方をしていても決定打には欠ける。私が優勢だ。見せ場を与える為に一発殴られてやったくらいで図に乗るなよ露出狂が
彼女は自分を殴った相手が脳無とミリオしかいない為比較対象がめちゃくちゃな事にも気づかなかった
「よそ見してる暇あるのかな……!」
続いて正面から殴りかかるミリオにレグルスも対抗する。非常に殺傷力の高い彼女の権能で殺さずにミリオを倒すとなると手段は限られている。彼女は接近してくるミリオに手を伸ばし掴もうとしたがそれは叶わなかった
彼女の手をミリオの体がすり抜けていたからだ。そのまま少しだけ半身をズラしレグルスの鳩尾を殴るミリオ。今度は獅子の心臓を使用した為ダメージは受けなかったが衝撃は殺せず吹っ飛ぶレグルス
彼女は頭の中が真っ白になっていた。時間停止を行えばこの世の全てを拒み、この世の全てに拒む事を許さない自身の絶対的な権能が通用しない無敵の男を前にして。彼女は自身の記憶にのみ存在する英雄の姿を無意識に思い出していた
「……随分と余裕そうじゃないか。もしかしてわざと攻撃を食らってやったのを自分の力だと思い込んじゃったのかな? これなら勝機があるとか思っちゃったわけ? そんなものどこにもありはしないよ、勘違いさせたんなら私にも責任があるから今言わせてもらうけどさ、そうやって自分の力を過信してあたかも私が下にいるみたいな態度してるけど、みっともないから今すぐ辞めた方がいいよ。もう少し謙虚にいれば私に負けたとしても今よりは無様な姿じゃなくなるだろうさ、そうなる事を私に感謝してくれよ? 敗者の事を思いやる慈悲が私には──ぐうぉ!?」
「敵は君の事を待ってはくれないよ! お喋りしてる暇なんて実戦には無い!」
ミリオが密かに床に潜っていた事を見逃していたレグルスは不意打ちをまともにくらい再び床に這い蹲る。自身の喋る権利を侵害されたレグルスは怒りのままにミリオに掴みかかるがその手はすり抜けカウンターを食らう。視認している攻撃には獅子の心臓が間に合うが、意識外からやってくるミリオの攻撃には間に合わず計2回もまともに殴られてしまう。鍛え上げられた肉体から放たれるパンチは重く、2発食らっただけでレグルスの体は立つのが辛くなっていた
何故私の権能が通用しない? 何故お前は私を拒める? 何故なんでどうしてどこにそんな権利があるんだよ、こんなの不公平じゃないか。私の権利の侵害だ。私の権能が有する絶対性を否定していいのは剣聖だけだ。それなのにお前はなんなんだよ、何様なんだよ、何の権利があってどんな意図があって私の邪魔をするんだよ!?
「なんなんだよお前はぁぁぁ──!!!」
レグルスと似たような個性を持っておりレグルスに足りないものを全て持っている男、原作でもっと出てきて欲しかった。
因みに相澤先生はこの3人に手伝いを頼む際にある程度レグルスの事情を話しています。まあ彼らなら信用できるよね