ガイコツ海賊 作:秀沢
ユグドラシル最終日、ギルドアインズ・ウール・ゴウンの玉座に腰掛け、モモンガはその終わりを待っていた。
玉座の下にいるアルベドやセバスたちや、ギルドメンバーのエンブレムを見渡しながら満足感を覚えるが、一人でサービス終了を迎えることにはやはり寂しいものを感じる。
23:55:48、49、50―
モモンガは最後の瞬間を過去の仲間たちとの記憶を蘇らせ味わっていたが、それは途中で止まる。
(―こんなことしている暇なんてないじゃん!)
モモンガはユグドラシル最終日を派手に終わらせるために、ナザリック地下大墳墓の地表部に大量の花火を準備していたことを思い出した。
終わりが刻一刻と迫る中、スタッフ・オブ・アインズ・ウール・ゴウンを手に持ち、右手の薬指に嵌めた指輪―リング・オブ・アインズ・ウール・ゴウンを急いで発動したのち、地表に転移した。
「急げ、急げ」
急いで花火の点火をサービス終了のタイミングでタイムセットする。そして、準備が完了したモモンガは、多少興奮した気持ちでそのときを待った。
23:59:45、46、47―
時間になった途端、すべての花火が一斉に点火しモモンガの体が光につつまれた。
(ああ…楽しかったな)
数秒後にモモンガが消え現実が突きつけられる。そして、何もないただのサラリーマンである鈴木悟に戻ることになるのだ。
ただ、このあとに、憂鬱な現実が待っていることがわかっていても、モモンガはこの一瞬を楽しむことができた。
光が収まった後、いつもの自分の部屋が見えると思っていた。しかし、まるで想像とは違う景色が目の前に広がっていた。
「......は?なにこれ」
モモンガは思わずつぶやく。
モモンガを包むような濃い霧が見渡す限り広がっている。霧で視界が遮られているため、何も見えないが辺りには建物も人も何もないようである。
現実世界のガスマスク越しに見るような光景だが、下には海―湖かもしれない―が一面にあるため一目で違うと分かる。
ユグドラシルの世界には、このようなエリアがいくつか存在していたなと思い浮かぶが、その世界はサービス終了したばかりである。
(な、なんだこれ.....サービス終了が延期された?)
ユグドラシルのサービス終了延期など、幾多の可能性が脳裏をよぎり、現状を把握しようと通話回線をオンにしょうとして―手が止まる。
コンソールを浮かべるボタンを押しても、コンソールが現れないのである。
モモンガは焦燥と困惑を感じながら、他の機能も試していくがどれも手ごたえがない。
(ど、どういうことだ?)
というかどうやって下に降りればいいのか。<飛行>の魔法で飛んでいる状態からコンソールがない場合の操作の仕方がわからないが、自然とそれは不要ということに気付く。
モモンガは自らの思いのまま魔法を操作できると当然であるかのように理解できたのだ。
異常事態ということがわかる。しかも、自分の骸骨の手もゲーム上と比べて、自分の手という実感が強い。さらに、この理解できない状態にあるにも関わらず、平然としている自分が怖い。
自分の状態が一切わからない状況に、恐慌に陥っていたが、ふと仲間の言葉が思い浮かぶ。
焦りは失敗の種であり、冷静な論理思考こそ常に必要なもの。心を鎮め、視野を広く。考えに囚われることなく、回転させるべきだよ、モモンガさん。
(ああ、そうでしたね。ぷにっと萌えさん)
まず、ここがどこなのかを知ることだ。
(誰かいればいいのだが....)
この霧の状態では、周辺に何があるのか誰かいるのか目視ではわからないため、<飛行>で飛びながら周りを確認していく。
巻き込まれたプレイヤーがPKをするとは思えないが、この理解不能の謎な状態が解明されない限り、秘密裏に行動すべきかもしれない。
そう思いモモンガは魔法を発動する。
<完全不可知化>
これである程度は周りから見られないはずである。ただ、ユグドラシルであればアイコンがでて自分の状態を確認できたのだが、ゲームから外れた現状では何も把握できず不安が残る。
そんな不安を抱えながらも、周辺を探索しながらこの現状を把握しようとする。
(....なにもないな。はぁ.....もうこの霧から脱出したほうがいいかもな)
1時間ほど近辺をウロウロした結果、情報源も何もなく諦め始めていたモモンガは、周辺をウロウロすることから真っすぐ進むことに変更した。
「ほんとに、ここどこなんだ?...ユグドラシルではないと思うし」
上手くいかないことにイラ立ちながら、飛んでいるとスキルである<不死の祝福>に一体の反応があった。このスキルに反応があったということは、アンデットの種族の個体がいるということだ。
その個体は直線に進んで、だんだんこちらに進んでいる。向こうも飛んでいるか、流れているのかわからないが、やっと見つけた情報源を逃さないためにも、海と空を同時に見れる位置に上下移動する。
近くまで寄っていくと、ゲームで見かけるような大きな船らしき影が見えてきた。
(....船?誰か乗っているのか?)
モモンガは反応している乗船者を確認するために、もっと近づいていく。
(.....ん?)
かすかに男らしき人物の声が聞こえてきた。喋っているというよりは何かリズムに乗っていて歌っているようである。
(.....プレイヤーか?でも、こんな状況で歌うやつなんているのか。とにかく、誰かだけ確認するか)
船上まで飛んでいくと、さらにその歌声が大きく聞こえてくる。
「―ビンクスの酒を届けに行くよ 海風気まかせ波任せ―」
(聞いたことない歌だな。......でも、ここまで近くにきて何もしてこないってことは敵ではないのか?)
甲板に降下し、歌いながら外を眺めている人物をみる。真っ黒な服に包まれ、左腕に杖らしきものをぶら下げながらカップを持っている。そして、何よりも特徴的なのは頭のアフロである。
モモンガと同じスケルトン系のアンデットであり、特徴的な見た目ではあるがユグドラシルでは珍しくはない。
罠の有無を調べ、安全を確認したあと、モモンガは不可知化を解いて話しかけた。
「.....こんばんは。」
「....................」
挨拶に対する返答はないが、こちらを振り返り見つめたことがわかる。
言語を理解する能力がないのか、それとも日本語が通じないのか。まだ情報が不足しているため、モモンガは話を続ける。
「突然で恐縮ですが、とても困っているのです。そこで、お聞きしたいことがあるのですがよろしいでしょうか?」
相手がプレイヤーであることも考え、丁寧に問いかける。同時に、頭を下げ挨拶することも忘れない。
だが、相手は口をあんぐりと開けたと思ったら、何も反応がない。こちらの言葉を認識しているのかは分かるため、反応がないことに戸惑う。
「.....あのぉ、すみません。なにかありましたか?」
こちらの困惑した言葉に反応したのかスケルトンは素早く両手をあげ、甲高い声を響かせた。
「ギャァァァァァァァl!!!!!!ガイコツゥゥゥゥゥゥゥ!!!!」
(.........................えぇ?)