××年後にBSSする鬱死人   作:純愛派

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匿名なので初投稿です。
吉良ファンに怒られそう。


イヅルくん、あのね

「イヅルく、んぎゃっ……!?

 

 待ち合わせ場所で相手を待っていると、僕の名前と共にどてん、と派手な音がした。振り返ってみれば案の定地面に伏している少女の姿があった。僕はため息を吐き、彼女へ手を差し伸べる。

 

「ああ、もう。ほら立って」

「うう……ごめんねイヅルくん」

「いいよ。もう慣れたし」

 

 僕の手を取って立ち上がった彼女の手は少し擦りむけていて痛々しい。僕より拳二つ分程背の低い彼女は気が緩むといつも足元やら前方やら不注意になるのだ。見たところ、土からはみ出た木の根っこに足を取られたようだった。古びた彼女の草鞋が先程の転倒によって更に襤褸くなってしまっていた。

 

「い、イヅルくん、おはよう」

「うん、おはよう。よもぎくん」

 

 長い前髪の間から困り眉と仔猫のような吊り目を覗かせてはにかむ彼女は名を春夏冬(あきなし)よもぎという。特進学級所属である僕とは違う学級に所属し、出自も全く違うのだが、紆余曲折あり、細々とした交流が続いている。今日のように休日には2人で勉強会をしていることも多い。

 

「何度も言うけど受け身は取った方がいいよ。刀は……抱きしめていたら危ないし、最悪の場合その辺に投げておけばいいんじゃないかな? ちょっと雑に扱ったくらいでは折れたりしないだろうし」

 

 斬魄刀を抱きしめながら上目遣いで僕を伺うよもぎくんに言い聞かせるように言う。信じられないことに、彼女は転んだときいつも斬魄刀を庇うように転倒するのだ。受け身も取らずに転けるせいで彼女は軽い怪我まみれだった。僕が気付いて助けてやれればいいのだが、そう都合よくはいかない。

 

()()()も痛いのは嫌だと思うから、そういうのはあんまり……」

「この子って……そこまで気にすることかい?」

 

 俯いた彼女がぼそぼそと言う言葉につい呆れた声が出てしまった。僕の反応に前髪に隠れた眼は視線を彷徨かせ、困ったような色を浮かべているのだろう。

 斬魄刀を『この子』と呼び、まるで友達のように扱う彼女は死神には向いていないように思う。霊力を持つ以上食い扶持を稼ぐためには致し方ないのかもしれないが、もっと穏やかな生活を送るべきではないかと思ってしまうのだ。

 落ち込んだ彼女の気を紛らわせるために何か言えることはないかと考える。ついでにその悪癖をどうにか出来ないものかと思いついた方便を口にする。

 

「その刀が痛いのが嫌だとしてもさ、よもぎくんが痛い思いをする方がよっぽど嫌なんじゃないのかな」

「! それは考えたことなかった」

 

 髪が跳ねるほど勢いよく顔を上げた彼女の瞳があまりにも輝いていたものだから、思わず息を呑んだ。

 「この子もわたしのこと大事だと思ってくれてたら嬉しいなあ」と破顔一笑する彼女の顔をそっと見つめる。

 焦茶色の髪は(つや)やかとは言い難いがふわふわと柔らかそうだ――実際柔らかである――し、ぱっちりとした瞳を彩る睫毛もある程度の長さがあり、隠れているのが勿体無いくらいだ。小さく華奢な体躯に困り眉も相まって加護欲を掻き立てる風貌をしている。いつも困ったような怯えたような暗い雰囲気だが*1、一度懐くと無防備についてくる様は軽鴨の子のようだ。まあ、ちょうど今しているような笑顔は。

 

(僕しか知らないんだろうけど)

 

「イヅルくん? 行かないの?」

「ああ、ごめん。行くよ」

 

 誰に対してかもわからない謎の優越感を頭の隅に押しやり、よもぎくんと並んで歩き出す。彼女はにこにこと微笑みながら、取り留めもない話をする。自分の学級での話だったり、その辺に咲いている花の話だったり、新鮮味のない話だ。とはいえ、彼女がとても嬉しそうに話すので僕もこの時間が好きだったりする。

 

「今日はね、あのね、おやつも持って来たんだよ」

「勉強会だろう? ……まあ、いいけど」

 

 思い出したように言い、背負った風呂敷からおやつであろう何かを取り出そうとする彼女を制し、大人しく歩くよう勧める。注意散漫でまた転ぶのが見えているからだ。転ぶだけならまだしも、取り出したおやつを土の上にぶち撒けて落ち込む姿まで容易に想像できた。

 全く世話の焼ける、とため息を吐く僕を見て不思議そうに首を傾げるその様は小さな子どものようだ。

 暫く歩くと院所有の建物に着く。自習室に誰もいないのを確認してから奥側の机を陣取る。別に誰が居ようと僕は構わないのだが、人見知りの激しいよもぎくんが構うので毎度恒例の動作と化している。

 

「あ、これおやつ」

「うん、後でね」

 

 彼女の開いた風呂敷には勉強用具とおやつの包みと輪っか状の赤い紐が入っていた。おやつだけではなく遊び道具まで入っているとは本当にやる気があるのかどうか疑問にも思えてくるが、これもいつものことである。気にしていてはキリがない。

 

「イヅルくん、あのね」

 

 読本を開いた彼女が指差した箇所は同じような記述が多く理解し難いであろう用語だった。僕はそんなことはなかったが、僕の所属する学級でも何人かが躓いているようだったので、疑問に思うのも無理はないだろう。

 

「これはね、数十(ページ)後に……」

 

 僕たちの授業の進み方には大きな差があるので彼女に勉強を教えてやるのは復習にもちょうど良い。自分の学習を進めながら、時折よもぎくんの疑問を解消してやっているとそれなりの時間が経っていた。彼女の集中も切れかけているようなので声を掛ける。

 

「一旦休憩しようか」

「ん……うん。おやつ、おやつ食べよ! 中庭行こ!」

 

 先程まで文字を見つめ難しい顔をしていた少女はころっと表情を変え、広げていた本や筆記用具をいそいそと仕舞い、期待に胸を躍らせている。まったく、現金なものだ。

 彼女に倣い、荷物をまとめて中庭へと歩く。軽い足取りで歩くよもぎくんは、目の前の少女が転ばないか気に掛けている僕の気持ちも知らず、ご機嫌に鼻歌――どうでもいいことではあるが、かなり音痴である――まで歌っている。中庭手前で足を止めた彼女はくるりと振り返り、えらく高揚した声色で告げる。

 

「着いたね!」

「そうだね」

 

 もはや悟りの域とも言える程、穏やかな心で見守る僕の表情を一瞬は訝しげに見た。しかし、おやつに意識が向いている彼女は手頃な石の上に腰を下ろし、僕にも早く座るよう促した。

 

「早く食べようよ」

 

 風呂敷から取り出したおやつの包みの中にはよもぎくんの大好物である干し(あんず)が入っていた。この明らかな喜び様から干し杏だろうとは思っていたが、思ったよりも量が多かった。

 

「驚いた? 家で種を植えたあんずがね、成ってたから作ったの」

「へえ、それはすごい。いや、本当にすごいね」

 

 思わず感心してしまった。こういうものは種から育てるのは難しい*2と思うのだが、どの杏も水分が抜けて小さくなっている筈なのにそこそこの大きさをしている。気候やら何やらがいいのだろうか。彼女の住んでいる地区は確か東の二十、と記憶を掘り返していたところで「あのね、」とよもぎくんが続ける。

 

「イヅルくんに一番に食べてもらいたかったの」

「ぼ、僕に……?」

 

 「木の面倒を見てくれてたおばさんには先に渡したけど」という言葉を都合良く聞き流しつつ、差し出された干し杏を受け取る。贔屓目ではあろうが、掌の上の杏は普段のものより数倍美味しそうに見えた。

 

「なんだか感動するな……」

「でしょ? いっぱい杏を食べられるよ」

 

 明らかに見当違いなことを言うよもぎくんにいつもなら呆れるところだが、込み上げてくる感情に支配された僕にはそんなことは出来なかった。

 

(この胸にあるものが――父性か)

 

 僕と彼女は入学式より少し前――十数日程前だろうか――からの付き合いだ。慣れない場所、慣れない雰囲気に緊張で倒れそうになっているよもぎくんに声を掛けたのが始まりだった。あのお上りさん丸出しの幼子がこんなにも成長している……! と胸が熱くなるが、付き合いは2年足らずである。これでは後方保護者面の不審者だ。

 

「イヅルくん、そんなに杏好きだったの? ……今までももっと、うう……分けてあげればよかったね」

 

 僕が脳内で回想を繰り広げている瞬きのような間に、よもぎくんの中では彼女に並ぶ干し杏好きにされてしまっているようだ。何やら複雑な表情*3――自分の取り分が減るからと葛藤しているのだろう――をしながらも、僕の掌の上に杏を追加で乗せようとしているのをやんわりと断る。

 

「いいよ、よもぎくんが食べなよ」

「いや、イヅルくんが食べ、た、ウッ……ウウ……

「今虚いなかった?」

 

 女の子(どころか人)が発するべきでないような声を出しながらも、彼女は僕に杏を押し付けてくる。この頑なさは何処から来るのか、どうにもらしくないので尋ねてみることにした。

 

「えっ、そんなことないよ。いつもわたしは杏を押し付けてるよ」

「それはそれでおかしいだろ」

 

 しどろもどろになりながら弁解しているが、流石に無理がある。彼女を霊術院で1番わかっているであろう僕にそんな嘘は通用しない。いや、誰でもここまで無茶苦茶な嘘を信じたりはしないだろうが。

 別に言いくるめられてあげても構わないのだが、様子がおかしいので心配になる。問い詰めると彼女は渋々といった様子で訳を話し始めた。

 

「あのね、わたしってイヅルくんにおんぶに抱っこの金魚のフンでしょ? イヅルくんに貰ってばっかりで……、何か返さなきゃって思って」

「き、……いや、うん。そんなことはないけれど、それで?」

 

 あまりにも酷い自虐に面食らったが、続きを促し聞きに徹することにした。

 

「わたし、お金もないし頭も良くないから、何も思いつかなかくて。イヅルくんが杏好きならこれしかないと思ったの」

「……そっか。気持ちだけで十分だよ」

 

 僕の言葉に彼女は更に肩を落とす。慰めたつもりなのにどうにも上手くいかなかったらしい。もっと気遣いのできる男ならばよもぎくんを笑顔にできたのだろうか、と悩んでいると彼女は目にいっぱいの涙を溜めて、縋るように僕の腕を掴んだ。周章狼狽する僕に彼女はか細い声で続ける。

 

「イヅルくんは何だったらうれしい? わたしに出来ることなら何でも頑張るよ……」

「な、何でも!?」

 

 

 突如、僕の頭の中に妄想が迸った。

『イヅルくん……、あーん』

――恥ずかしそうな顔で僕にあんみつを差し出すよもぎくん。

『い、イヅルくんが望むなら、その……』

――眉を下げ、潤んだ瞳で、期待したように僕に身を委ね……

 

 

「うん、えっと……鬼道の的とか、使い走りとか。出来ると思う」

 

 

 その言葉に僕の頭の中の妄想はたちまち形を変えた。

痛いよお……

――僕の放った【縛道の一 塞】のせいでおかしな体勢のまま縛られて悲痛な声をあげて泣くよもぎくん。

エッホエッホ……イヅルくんにお弁当届けなきゃ……エッホエッ、ほぎゃあ!!??

――僕の頼んだお使いの弁当を運ぶも、転んでぶちまけてしまい泣くよもぎくん。

 

 思わず、空いている方の手で米神を抑えた。頭痛がするを通り越して頭痛が痛い*4といった感じである。浅ましさやら、情けなさやらがせめぎ合い、どうにかなりそうだ。

 

「と、とくにしてほしいことはないかな」

「イヅルくん、何か声が変だよ」

「声変わりだから大丈夫」

 

 「声変わりってそんな感じなんだ……」と信じ込んでいるよもぎくんを横目に頭を抱える。純粋に僕の役に立ちたいと思っている彼女に対して、僕はなんて不埒なことを考えているのだろう。情けない。これが優等生たる特進の院生の姿か? 立派な死神になると両親に誓ったくせにこの体たらく。一度滝行とかした方が良いのかもしれない。

 一方、よもぎくんはまだ僕のために何かをすることを諦めていないらしく、「でも」と食い下がってくる。

 

「イヅルくん、わたし、何でもするよ。だから、」

「いや……その、本当に大丈夫だから。よもぎくんは何もしなくていいよ」

 

 そもそもこんな幼気な少女に何をさせようというのか。よもぎくんは僕の言葉を受けて、「そっかあ……」と肩を落としている。

 

「……でも、イヅルくんのためならわたし何でもするから、何かあったら言ってね」

「うん。困ったことがあったらお願いするよ」

「わかった! そのときは頑張るね!」

 

 ふんす! と意気込んでいるよもぎくんには悪いがそんな日は来ないだろうなと、やる気が空回りする様子を思い浮かべ苦笑する。

 兎に角、よもぎくんの顔に笑みが戻ったので良しとしよう。それにしても。

 

(よもぎくんって、ホント僕のこと好きだなあ)

 

 

 

*1
なお、後々ブーメランとなる模様

*2
フィクションです。言うたほど簡単にできません。

*3
しわしわ電気鼠(もちろん当時は存在しない)

*4
二重表現




エタらなければ吉良が勝ちます。
なお、いつ陰の者になったのか(Q&Aが……)、五番隊と三番隊の間に四番隊を挟む意☆味☆不☆明な異動(Q&Aが……)、干し柿等、難所がたくさんあるので吉良が負ける可能性も高いと思います。
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