TS転生者によるダンジョン配信攻略記   作:三つ眼の荒木

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プロローグ

 

『長期休暇ですか』

『そうだ。ミス城ヶ崎』

 

 940階層での激闘を終えた翌日、私は上司に呼び出され長期休暇の打診をされた。ついにこの時がきてしまったか。

 

『それは私がお役御免ということでしょうか』

『なんで、そう悲観的に捉える。この前の940階層では大活躍だっただろう、ミス城ヶ崎。いや、ダンジョン攻略部最前線室、第01部隊長城ヶ崎晶殿』

 

 どうやら解雇通知ではなかったらしい。

 良かった。この企業に入社して5年。若くして部隊長にまで昇進したけれど、責任だけが重くなりいつクビになるか分かったものじゃない。

 上の人間は数字ばかり見てダンジョン攻略について詳しくはないが、少なくともこの上司は見る目があるようだった。

 

『では、なぜ?本社の長期休暇制度の適用はまだだったと記憶してますが』

『なに、言葉通り暇になるからだよ。君たちが想定以上に早く攻略してくれたおかげか、941階層以降の攻略許可が下りていない。それに君はここに入社してから一度も長期休暇を取っていないだろう?君の国では普通なことかもしれないが、時には心の休養も必要だ』

 

 まだ攻略許可が下りていないのか。それだけ950階層の攻略権をどの企業も欲しがっているということだ。特に50の倍数は階層主が強い分得られるメリットが大きいのも影響しているのだろう。

 

 それにいい機会だ。久しぶりに日本に帰国し、あの計画を進めよう。

 

『分かりました。ご厚意に甘えたいと思います。ところで一つご質問、というより確認が』

『なんだね?』

『本社では副業は禁止されていませんでしたよね?』

 

 

 長いフライトを終え日本に着くと、大きく手を振る人が目に付いた。

 母さんだ。

 

 わざわざ仕事を休んで迎えに来てくれたみたいだ。

 私は荷物を受け取ると彼女の方へと向かう。

 

「ただいま」

「おかえりなさい、晶。5年ぶりね。すっかり大きく・・・・・・って全然変わってないわね」

「当然よ。18歳から最高(ベスト)肉体(コンディション)を維持してる」

 

 ダンジョンで【スキル】が重要だからといって、鍛えない理由にはならない。【スキル】により身体能力が大きく上がっても、外での身体能力との差でうまく体を動かせないこともあるからだ。

 

「いや、背の方よ。まぁ18から伸びる方が珍しいけど」

「ああ、そっちね。見通しが悪くて不便なことも多いけど、その分攻撃を避けやすいから重宝してるよ」

「はいはい。晶はそういう子だったわね・・・・・・」

 

 立ち話を終えた後も、母さんの近況を聞きながら彼女が乗ってきた車で実家へと向かう。彼女が近況を話し終えると私の話に話題が戻った。

 

「でも帰ってくるなんて意外だったわ」

「ええ。少し日本でしたいことがあってね」

「したいこと?」

「副業よ。といってもかなり本気だけど。いつクビになってもおかしくないから」

「でも隊長なんでしょう?」

「隊長だからこそよ。ラスボス倒せなかったとき責任取ってクビなんてことがあるかもしれないし、ラスボス倒しても用済みだから部隊解散で降格とかね」

「ラスボスってなによ」

 

 母さんが笑いながらつっこむ。前世のゲーム用語を使ってしまうのが癖になってしまった。

 私はすこし小声で彼女に話す。

 

「この話はオフレコにしてほしいけど、後5年もしない内に私たちは1000階層にたどり着くの。そこにいる奴が多分ラスボス」

「分からないじゃない。1001階層があるかも」

 

 まぁ、その感覚も分かる。

 しかし、最初のゲートがダンジョンの500階層につながったこと、そして500階層から離れれば離れるほどモンスターが強くなることを考慮すると、500階層がダンジョンの真ん中であり1000階層が一つの終着点と考えるのは有力な仮説だ。それに・・・・・・

 

「最前線にいると分かるけど最近モンスターが指数関数的に強くなってるの。1000階層が最終階層と仮定したら納得がいくわ」

 

 もしダンジョンを創った奴がいるのなら、1000階層というグランドフィナーレに向けて最後の追い込みをしているように感じる。

 

「まぁ、ダンジョン馬鹿だったあなたがダンジョン以外の道を考えているだけでも少し安心したわ。日本にいる間はゆっくり副業を探しなさい」

「いや、ダンジョンには潜るよ」

「え?」

「副業はダンジョン配信よ。私がダンジョンから離れるわけないじゃない」

 

 ダンジョン配信、その名の通りダンジョン攻略をエンタメとして配信する事業のことだ。

 世界中で見られる一大コンテンツだが、その中でも日本は大いに盛り上がっていた。

 

「いつもしてるんじゃないの!?」

「会社は配信してないのよ。最前線だから機密の情報も多いしね。

 だからあくまで個人勢として攻略配信するつもりよ」

「はぁ、やっぱりあなたはダンジョン馬鹿ね」

「しょうがないじゃない。ダンジョン好きなんだから」

 

 この世界に転生しダンジョンの存在を知った時はそれは興奮したものだ。

 そして、新しく生を授かったからには全力で楽しもうと心に決めた。

 

 ダンジョン攻略のために生まれてすぐにやれるだけの努力をした。その甲斐がありこの若さで最前線まで来ることができたけれど、最前線攻略だけが楽しみ方じゃない。

 

 ダンジョン配信も全力で攻略する。そして全力で楽しもうじゃないか。

 

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