「回収終わりました。行きましょうか」
「リン、さっきの良かったぞ。避けないのは見てて気持ちいいわ」
「ありがとう。ハヤトはやるなよ」
「できるの世界でお前くらいしかいねーよ!」
隊列が組み直されて先頭はまたリンになった。
「あれだけ止めてもらえると、後ろの人は何も考えなくていいですね」
「でしょ?うちのリンはすごいんすよ」
ハヤトが自分のことみたいに胸を張る。
「って……いや、俺らもすごいんすよ!全部リンに持ってかれてる気がしてきた。ほら、リンも何か言え!」
「ははは。ハヤトの大剣二刀流も十分すごいよ。世界でハヤトくらいしかやってないんじゃない?」
「リンまでそんなこと言うなよー」
「止まってください」
談笑をしていたがカナメの声に従い足を止める。時雨だけがカナメの前にでた。
「獣型が5匹。フェンリル……」
「フェンリルか。数も多めだしちょっと面倒だな」
ハヤトが背中から大剣を2本とも抜く。どちらも刃渡りは変わらず片手で持つには明らかに重い。
《フェンリルはこの前一回見たな》
《5匹って数が多い。一匹だけでも強いのに》
《炎炎もがんばれー》
カナメの指が二度動いただけでハヤトと時雨が左右へ割れ、リンが正面に残る。私は邪魔にならないよう壁際まで下がった。
「リンばっかりに良い恰好見せられないし一丁頑張りますか」
「パターン5だ。リンは奥の3匹。残り2匹をハヤトと時雨で対処」
「おう」
「了解」
リンが息を吐いて前へ出る。それだけで5匹の頭が揃って彼を向いた。挑発系のスキルを使ったか。
最初に跳んだ一匹が牙をリンの肩へ突き立て、そのまま何も掴めずに通り抜けた。2匹目が前脚を叩きつけ3匹目が足へ食いついこうとするが、どれも地面通り抜けそのまま地面へとぶつかる。
「ハヤト、そのままじゃリンからヘイトを変えない。もう右二歩から。時雨は壁を走って横から」
カナメの声が短く飛ぶが指示が来た時には2人とも動き終わっていた。
右へ流れた一匹へハヤトが踏み込んだ。大剣を上から下へ振りぬきフェンリルの体を叩きつける。もう一本の大剣が斜めに入り前脚を削った。一本を弾いても次が来るのでフェンリルは噛みつく隙を作れない。4撃目に2本が同時にわき腹へ入り、獣の胴が二つに分かれた。
時雨は壁を蹴って高さを取っている。降りながら前脚の爪を根元から落とし、着地した瞬間には刀が首を抜けていた。血は遅れて飛んでくる。
「時雨は後退。ハヤトは一匹吹き飛ばしで戦闘継続。リンは暴れろ!
ハヤトがそのままリンが戦闘しているフェンリルに向けて思い切り大剣を斬りつける。しかし、その際フェンリルの爪がハヤトの体をかすり腹部に傷を負った瞬間、分かっていたかのようにカナメの回復魔法がハヤトへ当たり傷が回復していく。
フェンリルが衝撃で吹き飛ばされるとハヤトは追うように奥へと進んだ。
残る2匹はリンが抱えたままだ。爪も牙も通り抜けていくのにあわせるように、リンは拳と肘を体へと次々に叩き込んでいく。踏み込むたびに地面にひびが入り、空気が振動しているように響いた。
さっきと違うのは足が動いていることだ。人型を相手にしていた時は一歩も動かなかった。明らかにフェンリルの注意を誘導しハヤトへと意識を向けさせないようにしている。
リンとハヤトが最後のフェンリルを倒すのは同時だった。
《やっぱり全員つえー》
《リンがヤバいのは当然として他の3人もえぐいんだよなぁ》
《3匹相手とって無傷なのはヤバすぎる》
《フェンリルがあんなにあっさりと。首切断する時雨かっけぇ》
ハヤトは手数で押し切り時雨は一撃が鋭い。リンは一人で2匹以上相手し圧倒していた。なによりカナメがそんな彼らを完全にコントロールし、一手先に私事と行動を済ませている。
リンという理想の避けタンクとそれをコントロールする頭脳。そして違う強みを持ったアタッカー。4人というパーティにおける最小構成の理想の形だった。
〇
「アキラさん。聞いてもいいですか」
ドロップ品を【アイテムボックス】へ収納しながらリンが話しかけてくる。
「アキラさんが今まで見てきた中で、強い人ってどれくらいいましたか」
「そうですね。私より強い人なら10人以上は知ってます」
「10人。もしかして凪先生ですか」
凪先生とは世界で10指に入るトッププロハンターの一人で唯一の日本人だ。ダンジョンに関わる職業をしている日本人で知らない人はいないだろう。私も面識はないが彼の配信は何度も見て研究をしたことがある。
「凪先生は面識がないので分かりませんね。私が知っている人は全員配信もしていません」
「そんな人たちがいるんですか」
「ええ。最前線だと割とありますね。そういう私だって最近配信を始めましたし。表に出てないだけで強い人はたくさんいますよ」
「失礼を承知で聞きます。その人たちと比べて、僕はどのくらいですか」
うーん、流石に答えにくいな。リンの本気の実力を知らない以上、分からないとしか言えないし。なにより――
「比べ方が難しいですね。強さの定義も人によっては違うでしょうし」
「すみません。こいつ少し負けず嫌いなとこあるんすよ」
ハヤトが間に入り話を遮る。
「負けず嫌いってまだ勝敗が出てもないのに、負けず嫌いもないですよ。ただ気になるだけです。僕がどれくらい強いのか。アキラさんの直感でいいです。どうですか?」
リンの返事だけがほんの少し尖った。
ハヤトの言葉を無視するように再び私に問いかけてくる。
「そうですね。先ほど見た八極拳は私が今まで見た近接格闘術の中でも一番強く見えましたね」
リンは驚いた様子でぽかんと口を開ける。
「八極拳ってよく分かりましたね」
「格闘技オタクが上司……じゃなかった。元上司にいましてね。彼から色々教えてもらいましたが、見た感じではリンさんの方が、技の切れが良かったですね」
それに【認識攻撃無効】のスキルと相性もいい。
懐へ入って一撃で終わらせる八極拳は踏み込んだ瞬間に体が無防備になるし、間合いが遠ければ何もできないので、実際の戦闘では扱いが難しい。
しかしリンにはその代償がほとんど無い。攻撃だと認識したものは当たらないのだから踏み込みの一瞬に隙が生まれず、タンクとして挑発系スキルを積むことで相手から近寄ってくる。弱点だけが抜き取られた形だ。
「だから最強とか、気にしなくていいと思いますよ。ハンターとシーカーは仕事が別ですし、対人と対モンスターでもまるで変わりますし」
「それでも、僕は最強になりたいです。そして強い人と戦ってみたい」
「……リンさんは特殊スキルを持ってますから、それだけで十分すごいと思います」
リンから返事は返ってこなかった。何かを考えていて話がもう耳に入っていないらしい。
これは……見た目によらず、かなりの頑固者だな。
〇
「11A地点、通路の終わりを確認」
「階層主のエリアですね」
カナメが指した先で通路が途切れている。そこには大きな扉が設置されており部屋として区切られていた。
「アキラさん。お願いしてもいいですか」
「ありがとうございます。プロハンターの戦闘を見せていただきましたから、こちらもお見せしましょう」
私は装備を確認する。ここは彼らにならってこの武器達で行こうか。
扉を押すと天井の高い広間が開けた。5人で中へ入ると炎々の4人は壁際まで下がっていく。
部屋の奥に階層主がいた。
虫であることは分かる。ただマンティスジェネラルのような人の形ではなかった。腕が4本あり胴は人間3人分ほどの幅がある。二足で立ってはいるが立ち方が人を真似たものではなく、前脚を持ち上げただけに見えた。平たい背の光り方と頭から伸びる長い触角で、何がもとになっているかは察しがつく。
ブラッタガーディアンか。腕が4本ある分、手数はマンティスジェネラルの倍はあるだろう。
「819階層、階層主のエリアへ到達。これより戦闘を開始する」
スキル
特別な条件下で得られる効果を有した力のようなもの。
ダンジョン内であれば自身が何のスキルを有しているかは直感的に理解ができる。
スキルは3種類に分かれており基礎スキル、儀式スキル、特殊スキルがある。
基礎スキルは【身体能力向上】【アイテムボックス】などの、ダンジョン内で戦闘経験を積んだ数によって自動的に得られるスキルであり、シンプルな効果のものが多い。
儀式スキルは【炎属性無効】などの強力な耐性や身体強化スキルが多く、ダンジョンの特定の場所でアイテムを捧げることで獲得することができる。儀式スキルはどんなスキルであれ情報提供者には賞金が与えられ、他の者が安定してスキルを獲得できるような再現性が情報に含まれる場合は、最低でも100万ドル。スキルの内容によっては1000万$に上るものもある。
特殊スキルは困難な条件下での戦闘を行った者が希に得ることができるスキルであり、条件が非常に複雑なため本人でさえ条件を把握しきれていないものも多い。そのため再現性は著しく低い。代わりに強力なスキルが多く、城ケ崎晶が所持する特殊スキル【雷角轟一】は雷属性の攻撃を無効化と同時に吸収し自身に付与。吸収された雷は一気に開放し攻撃することができるものである。獲得条件は「超広域階層である666階層の秘所に稀に出現する麒麟の亜種の角を生かしたまま切り取ること(初見の必要もあるかも)」と本人は予想している。特殊スキルの情報は再現性が低いため賞金も上がりにくく、情報を公開しない者も多い。