TS転生者によるダンジョン配信攻略記   作:三つ眼の荒木

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[現役女性プロシーカーによる801階層ソロ攻略#初配信]①

「これは思ったより厳しいわね」

 ダンジョン配信について調べていくなかで私は独り言とともにため息をつく。

 

 ダンジョン配信者は企業勢と個人勢の2種類に分けられる。

 

 ダンジョン配信者の収益は配信サイトによる視聴者数に応じた広告収益、サブスクライブやギフトといった視聴者から直接いただく投げ銭、そしてモンスターを倒した時に出る素材やアイテムの売却が基本だ。人気になるとスポンサーがつきさらに収益をあげることができる。

 

 企業勢は企業に所属し収益の一部を収める代わりに、ほかの人気配信者とのコラボやスポンサーの斡旋、倒したモンスターの素材を使った限定武器などのコラボ商品販売など、得られるメリットは大きい。

 

 個人勢でもスポンサーがつく人はいるがきわめて稀で、相当人気になるか、偶然スポンサーにその配信者のファンでもいない限りほぼつかないらしい。

 

 なにより企業勢最大のメリットは初配信から多くの人に見られることだ。その企業に所属していることで、いわゆる箱推しのファンによる一定数の視聴者が得られる。

 

 当然企業勢になるのは配信者用の入社試験を乗り越えた人ばかりなので、企業勢になること自体が難しいが、なれば人気になりやすい環境を得ることができる。

 

 一方、個人勢のダンジョン配信者が人気になるには想像以上に厳しい。

 

 人気のダンジョン配信者はほとんどが企業勢。個人勢で人気な人もほとんどが別の界隈で人気のある人か、ダンジョン配信初期から活動している人ばかりだ。

 

 正直、なんだかんだ実力さえ高ければ見てもらえるだろうと思っていたがそうにもいかないみたいだった。人気な人から過疎ってる人まで一通り視聴したが、実力者でも視聴者が少ない人はごまんといた。

 

 唯一の救いなのが女性の配信者はそれなりに視聴者がいるということ。

 女性というだけで一定数の人が見てくれるらしい。しかし、女性配信者も飽和はしていて女性だからと言って人気になれるわけではない。

 

 人気女性配信者の特徴は二つあり、セクシー路線か面白路線だということだ。セクシー路線はともかく、面白路線では様々な企画を考え視聴者を楽しませることで他の配信者と差別化を図っているらしい。

 

 初配信は女性であることを生かして人を集めつつ、ほかの配信者にはない魅力を視聴者に見せる必要がある。それを踏まえて私にできる配信は……

 

 

[現役女性プロシーカーによる801階層ソロ攻略#初配信]

 

 私は配信魔法を起動させる。ドローンカメラの設定は2台。1人称視点のカメラと3人称視点のカメラを使い分ける予定だ。

 

 現在の視聴者数は当然ながら0人。しかし、アーカイブで見返す人がいるかもしれないので、しっかりと挨拶はしておこう。

 

 私は3人称視点のカメラのほうを向き挨拶をする。

 

「初めまして。私はアメリカで現役のプロシーカーをしているアキラといいます。今日は801階層の攻略をソロでやっていきます。コメントや質問してくれたら嬉しいです。答えられる範囲で答えます」

 

 そういうとカメラを自動モードへ切り替える。

 

 私は深呼吸をして気持ちを一度切り替えた。

 

「801階層A00地点より報告。階層主及び希少(レア)モンスターの撃破を目標とし、攻略を開始します」

 

 この報告は実際に最前線で報告するような内容だ。あくまで本部や仲間に対してのものであり、本来ソロ攻略では必要はない。

 

 しかし、今日の自分は現役のプロシーカーとして配信する。視聴者もあまり知られていない現場の雰囲気を知りたいはずだ。

 本物感の演出として、随時報告形式の発言をする予定だ。

 

 800番台のソロ攻略は訓練の一環としてよくやるとはいえ、決して油断はできない。

 

 コメントがくるまでは黙々と攻略をしていく。

 

「03B地点、丁字路を確認。クリア。06方向へと進行」

「08D地点、モンスターの痕跡を発見。獣タイプの爪痕。位置から大型の四足獣と考えられる。要警戒」

「09F地点、正面50mにモンスターを確認。数8。外見よりサイコドグーと思われる。攻撃を開始……クリア。ドロップ品を回収」

 

 配信開始から30分。一度、戦闘もありつつ順調に攻略していく。すると現在装備しているゴーグル型のディスプレイにコメントが表示された。

 

《初見です》

 

「初見さん、こんにちは。コメントありがとう」

 

 ようやく初めてのコメントだ。配信画面を確認すると視聴者数はいつの間にか10人になっていた。コメントをせずとも見てくれていた方がいたらしい。

 

《日本人で800番台の階層をソロ攻略している人初めて見ました》

 

「まぁ、そうね。800からは情報が少ないし海外でもしている人は少ないと思う。750以降からモンスターの強さも跳ね上がってリスクのほうが大きいしね。700階層付近を周回していたほうが懐的にはおいしいし」

 

《現役プロシーカーって本当ですか》

《初見です。BGM代わりに聞いていました》

 

 一人がコメントをするとほかの人もコメントし始める。

 よし。いい循環だ。

 

「初見さんこんにちは。現役プロシーカーって本当ですか、についてだけど本当です。アメリカのDFTechnologyってところでプロシーカーをしているわ。一応ホームページにも日本人女性の名前が載ってるはず。それが私」

 

《すごっ!マジじゃん!》

《DFTって大手どころか最前線じゃないですか。初めて見ました……》

《800番台ソロ攻略するのも納得》

《DFTって配信してたっけ?》

 

「DFTは配信してないね。というか最前線組は基本外部に配信しない方針なの。私は長期休暇をもらったから個人的に配信しているだけ」

 

《余裕があったら装備みたいです》

《本名出てるけど身バレいいの?》

《声綺麗でいいですね!配信者カメラはつけないんですか?》

《初見です》

 

 配信者カメラというのは、1人称3人称とは別に、配信者の上半身あたりを映したカメラのことだろう。多くの配信者が自身のリアクション等も一緒に見せるため画面に小さくだが映しているようだ。

 

「初見さん、こんにちは。装備はこんな感じです」

 

 私は3人称カメラを持ってきて全身を見せる。

 

 視線操作型ディプレイゴーグルの付いたヘルメットとフェイスアーマー、オリハルコンでできた金属板を仕込んだレザーアーマーは黒を基調としており、また肩や胸、腰などにマガジンや小型武器を仕込んである。武器はAR型の魔法武器でサプレッサーを追加でつけていた。

 

 いわゆる特殊部隊風の装備だった。

 

《やばい。めっちゃかっけぇ》

《こんな装備初めて見た》

《声に対してギャップがすごいww》

《超強そう》

《すれ違ったら絶対二度見するわ》

 

 前世が男だった私には理解(わかる)。男はファンタジー風の金属鎧も好きだが、現代や近未来風の実戦武装も大好きだ。なぜなら格好いいから。

 

 配信スタイルにおいて私は普通の女性配信者では難しいと感じていた。なぜなら女性配信者で人気になってる人は親近感があると言われていたからだ。

 

 いわゆる女友達みたいな感じらしい。

 

 しかし私はダンジョンに人生を注いでいるため、この世界の普通の女友達が分からない。前世の記憶を思い出そうにも、前世の私は女友達が一切いなかった。

 

 そしてセクシー路線については論外だ。

 

 人は老いるため見た目での人気はいつか限界が来る。それに安易なエロ売りは将来の首を絞めかねない。

 

 そして何より確実なのは、この女性配信者が飽和している時代、男は胸部装甲(おっぱい)が大きい方を見る。少なくとも前世の私ならそうする。

 

 私みたいなまな板(ぺったんこ)では特殊な性癖の人しか集められないだろう。

 

 だから私は発想を変える事にした。男はエロだけ好きなわけじゃない。格好いいものも大好きなはずだ。

 

 そこでタイトルに女性をあえてつけ、性欲に釣られた男どもの心を『男の子ってこういうのが好きなんでしょ』な装備で鷲掴みにする配信スタイルを考えたのだ。

 

 女性がガチガチの特殊部隊装備を着て高難易度階層を攻略する。このギャップで男共の脳を焼く。

 

《銃かっけえ》

《初めて見る武器だ》

《何の素材でできてますか?》

 

「銃型の武器は日本ではあまり使われてないみたいね。まぁ、作れる企業が少ないし、海外のマーケットは初心者じゃ行きづらいからわからなくもないけど。アメリカではむしろ手に馴染む人のほうが多いから銃型の武器のほうが主流ね。素材についてはすべて企業秘密」

 

 というかまだ一般では公表されていないモンスターの素材も使われている。

 

「コメント少しもどるけど、配信者カメラはつける予定はないかな。目の前にカメラあると邪魔だし。身バレについてだけど――」

 

 話をしている途中で私は背を壁につけ周囲を警戒した。

 

「――【探知】スキルでモンスターの気配を確認。11H地点。大型モンスターと推測。十字路を確認。モンスターを目視で確認。数1。フェンリルと思われる」

 

《フェンリル?!》

《でっか。あんなのソロで倒せるのか》

《名前も初めて聞いたし見るのも初めてだけど、絶対強いのは分かる》

《頑張ってください》

 

 おかしい。【探知】スキルの気配では2匹いる感じがした。これはもう一匹がどこかに隠れているな。

 

「【探知】スキルでは2匹分の気配を感じる。要警戒」

 

 するとフェンリルも私の気配に気がついたようだった。フェンリルは勢いよく地を蹴り、私との距離を詰めてくる。私は後方へと距離を取りながら銃の照準を合わせた。

 

 しかしその瞬間、地面から突如現れた何者かにフェンリルの頭部が食われる。

 

 外見から大型の蛇系モンスター。この階層ならアビスサーペントだと思われるが普通の個体じゃない。

 

 後頭部に角が生えており、色も通常種と比べてより深い黒色。漆黒と表現するような配色だった。また、体の一部をまるで水面のように地面に潜らせている。

 なによりこいつはモンスターに攻撃した。ダンジョンのモンスターは基本的に同士討ちをしないはずだ。

 

 言うならばこいつはダンジョンの理を外れた存在。

 

希少(レア)モンスターを確認。アビスサーペントの竜態亜種と推測。これより戦闘を開始する」

 

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