《どうですか、1万円の剣は》
「魔力の通り悪いなぁ。安いのはいいけど600番台の階層では使えた物じゃないね」
《やっぱりか》
《安すぎなんだよな、あそこ。どういう生産体制してるんだ》
視聴者と雑談しながら私はダンジョンを歩いて行く。余裕があるのは今いる階層が中層だからだ。いつも配信している800番台ではなく今日は611階層。武器レビュー企画の撮影兼配信をしていた。
「まぁ初心者セットって言ってるくらいだし、510階層くらいまでを想定しているんだろうね」
《それならシンプルシリーズでよくね》
《この前の商品と比べてハズレだったなぁ》
《手斧とか投擲用ナイフとか使う場面ないし、この商品考えた人絶対ダンジョン潜ったことないだろ》
中層は視聴者との雑談を多めにしている。視聴者数が減るかと思ったが特に減少する様子はなかった。中層は多くの人が配信しているため出てくるモンスターも馴染み深いらしい。
すると【探知】スキルに反応があった。
「【探知】スキルでモンスターの気配を確認。12K地点。第一戦闘者を確認。モンスター数4。第一戦闘者一名。様子を見る」
すでに誰かと戦っているようだ。ダンジョンは広いとはいえ600番台上層は攻略者数が最も多い。すれ違うこともあるだろう。
「邪魔しないよう少し待とうか」
立ち止まりコメントを見ると戦っている人物について盛り上がっていた。
《あれメイスじゃね》
《本物だ》
《すご。こんなことあるんだ》
「SDSの新垣メイスさんだっけ」
《知ってるんですか?》
勿論知っている。日本人の配信者については一通り調べたし、彼女については元個人勢ということもあってより詳しく分析した。しかし、あえて少ししか知らない風に答える。
「
《意外です。プロハンターとかの配信はともかくストリーマーの配信も見るんですね》
《メイス、頑張れ!》
《共闘しに行かないんですか?!》
「モンスターとの戦闘は早い者勝ちだから行かないけど・・・・・・ちょっと雲行きが怪しいな」
最後の一匹に攻撃が当たっていないように見えた。というより、正確には攻撃がすり抜けていた。あんなことは当然普通のコボルトにはできない。
「コボルトの亜種・・・・・・というよりは突然変異。
《助けに行った方がいいんじゃ》
《あんなのどうやって勝つんだ》
《コボルトの
離れているため推測の域をでないが、聖属性付与をしたメイスや魔法が効いていなかった。地壁もわざわざ壊していたし
「助けたいのはやまやまなんだけど戦闘に割りこむのはシーカー的には良くないからなぁ。救助要請があったら介入するけど、ドロップ品とかでトラブルの元にならないといいけど」
《あ》
《やばい、腕とんだ》
《これ死ぬぞ》
「いざとなったらフックで助ける。が、ぎりぎりまで待つ」
他人の戦闘には極力介入しない。シーカーやハンター問わずプロの世界の常識だ。ドロップ品の分配でもめるし、死亡した場合落とした装備品の扱いでトラブルが起こる可能性もある。最前線に関してはわざわざ攻略権を買い取って他の企業と被らないようにしているくらいだ。
配信者に関しても誰も死にたくないとは思うが、配信として美味しい展開であるのも事実だ。彼女も配信スタイル的に死んでもいいと思えるタイプのはず。
と思ったところで彼女の悲痛な叫びが聞こえてきた。
「って、やだやだやだ。死にたくない!この装備高かったのに!ロストだけは嫌!ロストだけは嫌!これ高かったんだよ!15万だよ!15万!PS5二個買えちゃうんだよ!こう思うとPS5高いよ!」
あー。助けた方がいいな、これ。
本気でロストしたくないという意志を感じる。私も学生の時、ロストした日は絶望したなー。
「誰か……助けて――「第一戦闘者の救助要請を確認」
言質を取れた私は左腕に着いているフックを彼女に射出し引っかけ思い切り引っ張っる。容体を確認しながら戦闘を代行して良いか確認する。
「あいつ、倒しちゃっていい?」
「あ、はい。どうぞ……」
よし、言質取った。
痛み止め用のポーションを渡しコボルトと対峙する。
「第一戦闘者による戦闘代行許可を確認。これより戦闘を開始する」
中層とはいえ相手は
「レビュー企画だったけど・・・・・・
私は手に持っていた剣をアイテムボックスに入れ、代わりに2本のショートソードを取り出した。剣を構え警戒しながらコボルトへとじりじりと距離を詰めていく。
おそらく特殊なスキルを持ったコボルト。スキルによっては己の死に届きうる存在だ。
コボルトとの距離が2mをきると、コボルトはこちらに走って斬りかかってくる。
普通のコボルトに比べてかなり速い。
私は姿勢を低くし爪を避け2本のショートソードで斬りつける。
確実に当てるため狙うのは胴体。しかしそのどちらもが体をすりぬけた。
コボルトが再び爪で斬りつけてくるが体を横にして避け今度は足を突き刺す。
しかし、体に刺さる感触はなく剣は地面に突き刺さった。
私は剣をそのままに手を離し後方へと跳び距離を取った。
「報告。祝福剣、キリ祓い、足裏への攻撃に効果無し。
《全然効いてないな》
《はや》
《下層に比べたら遅い方だろ》
《あのショートソードにそんな効果があったのか》
《
《【透過】スキルって何ですか?》
ひとまず【透過】スキルでないことが分かって良かった。【透過】は防具をすり抜けて体に直接攻撃してくる。しかし、足裏だけは実体化していないと地面に落ちてしまうので、そこが弱点だった。
しかし、こうなると残る可能性としては攻撃無効系スキルと空間系スキル。空間系だとかなり厄介だ。少なくともソロで戦う相手ではなくなる。
「攻撃無効系スキルと想定し様々な種類の攻撃を試す」
【物理攻撃無効】と【魔法攻撃無効】を両立させるには魔力量が低い。考えられるのは【斬撃無効】と【打撃無効】を持ってるとか?
私はハンマーを取り出し殴りつけるがやはりコボルトの体を透り抜ける。
すぐにハンマーを離し今度は蹴りを入れようとするが、体を通過し空を蹴った。
コボルトが動くより早く上方へと跳び天井を蹴ってコボルトの背後を取る。首を締め付けようとサブミッションをかける。
一瞬体を触れることができるが、しめようとした瞬間再び体をすり抜けた。
一度後方へと距離を取る。
《やばい全然効かない》
《惜しい!》
《無敵だろこいつ》
《611階層にいていい奴じゃない》
《攻撃無効系スキル持ってるって
《スライムとかは意外と持ってるモンスター多いです》
《がんばれー!》
斬撃も駄目、刺突も駄目、打撃も駄目、魔法も駄目、極技も駄目。残るは・・・・・・
私は拳銃を取り出しコボルトへと発砲する。すると、腹部に当たりコボルトは苦しみながら後方へと距離を取る。
《当たった?!》
《いいぞ!》
《うてうてうて》
私はすぐさま発砲を続ける。しかし、今度はコボルトの体をすり抜けていった。
《は?》
《えぐすぎ》
《耐性着くの速すぎだろ》
「最初の一発だけ当たった?やっぱり攻撃無効系スキルじゃない?」
いや、空間系としてもありえないことだ。あの場面で透過できるようにしないはずがない。すると一発目の銃撃に何か意味があったことになる。
もしかして・・・・・・
私はアイテムボックスからグレネードを取り出しコボルトへと向けてゆっくりと投げた。爆発はさせる気はない。裏にメイスさんがいるし何よりコボルトの反応を見たいだけだからだ。
するとコボルトは落ちてくるグレネードを警戒しさらに後方へと下がった。
グレネードはそのまま地面に落ちコロコロと転がる。
避けた。あいつにとっては剣や魔法、打撃武器での攻撃より警戒すべきものだったということだ。
「種が分かった。おそらく【認識攻撃無効】スキルだ」
一発目の銃撃が効いた理由。あれは銃が攻撃する物と認識していなかったからだ。だから二発目以降は銃撃を攻撃と認識していたため通用しなかった。
先ほどのグレネードは攻撃かどうか分からなかったため、スキルが発動しないことを恐れ警戒し距離を取った。
《初めて聞きました》
《分かったところでなんだが》
《なるほどね。銃使うハンター少ないから攻撃だと分からなかったのか》
珍しいスキルだ。ハンターでも取っている人を何人かは知っているが、モンスターが取得しているのは初めてだった。
《攻撃せずに倒すってどうすればいいんだ》
《認識した攻撃を無効って無敵じゃん》
「そうでもないよ。要は認識されなければ良い」
私は銃のマガジンを交換しながら起動ワードを発言する。
「“カメレオン”」
次の瞬間、私の体が周囲の景色と同化し姿を消した。
《え?》
《消えた》
《あれ?どこいった》
「あまり使いたくなかったけどね。姿見えないと配信映えしないし」
という独り言も誰にも聞こえていない。それもそのはずだ。この状態の私を見ることはおろか、音、匂い、体温でさえ知覚することはできない。
私は困惑しているコボルトの眉間に照準を合わし引き金を引く。
発砲音の後にコボルトが倒れた。再度コボルトに発砲し反応がないことを確認する。
《は?!》
《急に倒れた》
《何が起こった?》
《死体撃ちってことはアキラさんでしょうけど・・・・・・》
《どこから撃ってる?》
”カメレオン”を解く。するとジジッという音と電気が迸りながら姿が現れる。ちなみにこの演出は私の特注だ。魔法で姿を隠しているので音もスパークもいらないが格好良いので付けてもらった。勿論、仕事中はオフにしている。
「
《うおおおおおおお!》
《光学迷彩?!》
《かっこよすぎる》
《最高》
《透明になってそこにいたのか》
《こんなあっさり倒すなんて》
《このSF感たまんねぇ~》
《透明化の魔法なんだろうけど、格好からして光学迷彩にしか見えん》
私は落ちている武器だけを回収しメイスさんの方へと戻る。
彼女は座り込みながら呆然とした様子で私を見ていた。
「どう?大丈夫そう」
メイスさんははっとした様子で立ち上がり頭を下げる。
「えっと・・・・・・その・・・・・・ありがとうございました!」
彼女はメスガキキャラで売っていたと思うが、この状況で演じるほどではなかったようだ。
「助けていただいただけじゃなくポーションももらっちゃって・・・・・・お代は――「いいよ。傷口塞ぐだけの安物だし」
「いえ、そんな訳には――「災難だったね。ソロであいつはきつかったでしょ」
あまり配信内でお金の話をしたくないので強引に話を遮る。
彼女はそのことに気づいたのか私の話に合わせてくれた。
「え、はい。私には何が何やら」
「まぁ、パーティだったらもっと楽だったと思うよ」
パーティならタンクが注意を引きつけている間に別の仲間が背後から気配を消して攻撃や、取り囲んで全て認識仕切れないほど攻撃を浴びせるなど、倒す手段がもっとあったはずだ。
「私は一度帰還するけどそっちはどうする?」
「私も戻ります」
「なら送っていくよ。片手じゃきついだろうし」
「ありがとうございます。えっと・・・・・・」
なんと呼べばいいか迷っているのだろう。
私はヘルメットを脱ぎ握手のために手を出す。
「城ヶ崎晶です。アキラって呼んで」
次の瞬間、コメントが雪崩のように流れていく。
《かわいい!》
《めっちゃかわいい!》
《美少女?!》
《あの特殊部隊員女の子だったの?!》
《は?!かわいくて強いとか最強》
《うおおおお!美少女特殊部隊きたあああああ》
《美少女だっ!》
《かわいい》
《まさかの顔出しでしかも美少女》
これを狙っていた。
有名配信者を助けた特殊部隊みたいな奴の素顔が美少女だった。
少なくともその配信者の界隈では絶対に話題になる。
切り抜きは確実。バズる可能性も大いにあるはずだ。
わざわざ600番台の階層データを見直し、
バズるかどうかは時の運だ。しかし、彼女と出会い助けたことは決して偶然ではない。運が良くなるよう努力するのがプロだ。
それにしてもすごい数のコメントだな。おそらくメイスさんの方から来ているんだろうけど。
私は盛り上がっているコメント欄を見て初めての感覚に襲われていた。
この世界に女子として転生し23年。ダンジョン攻略において男でないことに悔しく思う機会は多くあった。
しかし、こう美少女ともてはやされるのも存外悪くない。
配信魔法
初代ダンジョン配信者が創造した魔法。
初めてダンジョンに潜った人が500階層を攻略。
階層主との激闘の末、勝利し一度限りの魔法創造権を有するが、当時の現実世界での配信カメラではぶれぶれで何が起こっているか分からず、コメント欄が荒れに荒れた。
誰にも褒められないどころか誹謗中傷すらかき込まれ、ブチ切れた配信者は勢いでこの魔法を創造。大配信時代の幕開けとなった。
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誤字修正、感想ありがとうございます。
多くの方に見ていただき嬉しいです。
次回は掲示板回。