現役JKの16歳。男子クラスメイト達をよく煽っていて、うざがられている。
尚、男子たちはそんな彼女を好きなのは俺だけだろうなと思っている。
そして、メイスはそのことを察している。
「失礼しまーす」
件の配信から3日、SDS本社の一室。
ノックの後、扉を開けて入ってきたのは憧れのあの人だった。
彼女はいつもの特殊部隊装備ではなく、年相応の格好をしている。
下がデニムパンツで少し大人な格好であるが、それ以上に可憐な顔が雰囲気を中和してアイドルのような印象を受けた。
「お、お久しぶりです?」
なんと言っていいか分からず思わず疑問形になる。
そんな私を見てくすりと彼女は笑った。
「なんで疑問形?」
「いや、その……ダンジョンとは印象が全然違ったから」
「あー、防具で身長を少し上げてるんだよね。ダンジョン外であれを着るわけにはいかないし」
いや、身長ではなく美少女であることの方なんだけど……とは言えなかった。
マネージャーから失礼がないよう散々言われていたからだ。
すると再びノックの後に今度は私のマネージャーが入ってくる。
「城ケ崎様。この度はお時間をいただきありがとうございます。新垣メイスのマネージャーをしております花畑愛といいます」
マネージャーが名刺を渡しアキラさんが対応する。
「それではまず、今回のコボルトのドロップ品の分配についてですが――」
〇
「では、これで成立ということで」
「はい。ここにサインすればいいですか」
「はい、お願いします」
アキラさんがさらさらとサインをする中、私は彼女に話しかける。
「良かったんですか。金額的にアキラさんが損をしているんですけど」
マネージャーからじろりと睨まれる。
しかし、助けてもらった以上彼女が損をするのは嫌だった。
「ええ。むしろ私がもらった素材は使い所が少ないから値段は安いけど、希少性は高いから、全然大丈夫。あと、敬語じゃなくていいよ」
「そうなんだ、全然知らなかった」
サインが終わり書類をマネージャーに渡す。
「さて、これで前回のコボルトのドロップ品に関しては取引が終わりましたが、メイスから城ケ崎様にお話があるみたいです」
「はい!」
私は椅子から立ち上がり深呼吸をしたのち、マネージャーと相談し覚えてきた内容を話す。
「まずはこの前は助けていただきありがとうございます。本当に助けられました」
あ、敬語でしゃべっちゃった。
私は咄嗟に考えていた内容をできるだけ普段の口調で話すようにする。
「それであの時の配信の切り抜きが今バズってて、めっちゃ登録者増えたんです。あ、増えたの。それでえー。あー、その、とにかくコラボ動画を一緒に撮ってくれませんか」
途中で話すことを忘れたためいきなり結論を話してしまった。
私は頭を下げてお願いをすると彼女はあっさりとそれに了承した。
「はい。ぜひ一緒に撮らせてください」
「いいんですか?!やったぁ!じゃあ、動画内容なんだけど――「ありがとうございます。それで出演料に関してですが――」
マネージャーが業を煮やして私の話に割り込んでくる。
するとアキラさんはそれを手で制止させる。
「出演料に関してはいりません。その代わり出演の条件が2つ、いや3つあります」
「なんでしょう」
「一つは動画は2本とって1本は私のチャンネルで流してほしいです。2つ目は私を紹介する際、DFTの城ケ崎晶ではなく、アキラチャンネルの城ケ崎晶と紹介してください。3つ目は……メイスさんへのお願いなんだけど」
「は、はい!」
唐突に話を振られ私は勢いよく返事をする。
「私、結構メイスさんの配信が好きで見るんですよ」
「そうなの?!ありがとう!」
「だから、いつもの配信の視聴者に対する感じで私に接してほしいな」
「そんなことでいいの?もちろんいいよ……ってそれって……」
いつもの配信ってメスガキキャラで……
「ちょ、ちょっとま――「良かったぁ。了承してもらえて。上手くいくと思うんだ、私たち」
マネージャーが止めようとした瞬間、アキラさんが話をかぶせる。
マネージャーの顔が引きつるが私はむしろチャンスだと思った。
SDS内で私のメスガキに合わせてくれる人がいないことが、悩みだった。
ツッコミや笑ってくれる人はいるけど、私のノリに合わせてくれる人がいなかったからだ。
そのノリに付き合ってくれる人。しかも絡んでも視聴者から文句が少ない女性。
彼女こそ私を『分からせ』るのに最適な人物だった。
「アキラさん」
「ん?」
「ザコって言っても怒らないですか?」
彼女は笑って答えた。
「全然。むしろメイスさん、いやメイスちゃんも安心していえるでしょ。誰がどう見ても私はザコじゃないから」
そこまで分かってくれたのか。
私がほかの配信者に絡みにくい一つの理由で、事情を知らない人が見たら私が誹謗中傷しているように見える点があった。
しかし、彼女の姿を見て少なくともザコと思う人はいないだろう。
「アキラさん、私、メスガキになります」
「望むところだよ。じゃあ、動画内容について話そうか」
〇
コラボ動画の内容について話終え、アキラさんを見送った私は大きく伸びをする。
「上手く話がまとまってよかったね、マネージャー」
と横を見ると思った位置にマネージャーがいない。
よく見るとその場にへたりこみため息をついていた。
「どうしたの?」
「どうしたのじゃないわよ!」
マネージャーが少し大げさに怒る。
「分かってるの?!相手はDFTの隊員、それも最前線の隊長よ!
何かこちらが不手際があったらSDSなんて片手間に潰すことだってできるのよ。
本来は緊張しすぎて失神するレベルよ!」
「それは100回くらい聞いたけど、アキラさんがそんなことするかな……」
助けてもらった配信後、アキラさんのことを調べたマネージャーが泡を吹いて倒れたのを今でも覚えている。
今回の交渉も何度も失礼がないよう注意されていた。
「まぁ、かなり話が分かる人だったけど……それでも自分自身が有利だと分かっている交渉はしてきたわ」
マネージャーは少し落ち着いたようで立ち上がる。
「はぁ、でもこれはチャンスでもあるの。なにせDFTと繋がる可能性もあるからね」
「今回条件ではアキラチャンネルとしてって言ってたけど?」
「勿論従うわよ。でもここで好印象を残していたら、DFTの職員にも良い噂を流してくれるかもしれないでしょ?もしDFTと取引できたらかなり大きいことよ」
マネージャーは頑張ったわねと私の頭を撫でた。
私はアキラさんのすごさを再認識して嬉しくなる。
「やっぱりアキラさんってすごい人なんだね!」
マネージャーは撫でるのをやめて緊張がほぐれた表情で言う。
「メイスは……いつも通り接すればいいわ」
「いいの?メスガキキャラになっちゃうけど」
「本人が了承してるしいいでしょ。それに、メイスは無邪気だけど物事をしっかり考えられる子だから、そこは信頼してるわ。事務処理、不祥事やトラブルの対応は私たちの仕事だから」
私は胸を張ってこたえる。
「うん!任せて!」
Dungeon Force Technology
ダンジョン関係の商品、サービス、研究を行っている世界的な大企業。
他の企業と比べても頭一つ抜けており、最前線攻略を牽引している。
ダンジョン攻略部最前線室は24名の隊員で構成されており、精鋭中の精鋭。
元陸軍特殊部隊員や元民間軍事会社所属など、実戦経験者が多く採用されている。
その中でも現在の第01部隊長は一際若く、入隊時は実力に疑問視されていた。
しかし、幼い頃からの計画的な肉体作りや、厳しい条件下のダンジョン攻略訓練、DFTに入社するための多言語習熟などが功を制し、入隊後3年で隊長の座まで上り詰める。
尚、そのエピソードを隊員に語った結果、日本の暗部がダンジョン攻略のため秘密裏に教育した忍者の末裔なのではないかと今でも疑われている。さらに本人的にはゲーム感覚で楽しんでいたことが分かった結果、日本人の侍の血を目覚めさせてはいけないという戒めができた。