配信魔法が起動されカメラが宙を飛ぶ。
私の隣に立つ彼女は軽く前髪を整え、喉の調子を確認していた。
一方、私は特に何も用意することはない。
いつもの特殊部隊装備に身を包んだ私には前髪の調子などないからだ。
周囲を見渡すと配信魔法以外にもいくつかのカメラが存在した。これは魔法などではなく実際のカメラだろう。
準備が終わったのか、彼女はポーズを取り挨拶を始めた。
「こんざこ~。SDS所属の新垣メイスだよっ。そして~」
彼女にふられ私は挨拶をする。
「こんにちは。アキラチャンネルのアキラです」
「いえ~い!今日は命の恩人であるアキラさんに来てもらいました~」
ぱちぱちとメイスが手をたたく。
初めての雰囲気に戸惑いながらも、私も拍手をした。
今日は私がバズるきっかけとなった、件の少女新垣メイスとのコラボ動画撮影だ。
配信とは違い視聴者からの返答がないため、この反応で良いのか少し不安になる。
「みんなはすでにあの切り抜き動画を見てくれたと思うけどー」
と、彼女はバズる切っ掛けになったダンジョン攻略とともに、私の紹介をする。彼女曰くここら辺はテロップもだして私のチャンネルを紹介してくれるみたいだった。
「というわけで今日の企画は~、アキラさんとガチバトルしてみたー!
あの大企業DFTの最前線チームに所属している晶さんと今日はガチバトルしたいと思います!」
「いいの?私、真剣勝負には一切手を抜かないけど」
「全然OK。私の実力を見せてあげる!ということで今日はSDSの訓練ルームに来ました~!私のチャンネルでは何気に初めてだね」
メイスが周囲を見渡す。私は事前の打ち合わせ通りとある話題を持ち出した。
「へー。
「DDシステム?」
「Denying Death Systemの略。致死性の攻撃を受ける直前に転移されるシステムだね。
これは実際に私がこの部屋に来て、SDSのスタッフさんに言及したことだった。
私は専門外なので詳しくはないけど、蘇生魔法である
SDSではハンターだけでなくプロのD-Sportsプレイヤーがいるため、対人戦闘を積むため導入したらしい。
かなり高価な魔道具なので他の組織にも貸し出しをしていることなどの裏事情を話していると、聞きつけたメイスがそのことも動画で話そうと提案したのだ。
まぁ、私としては一応DFTの社員なので自社製品の宣伝は構わないため了承した。
メイスは、「機材とか言及するのプロっぽい」という理由だけらしいが。
「なるほど。けどこれで全力で戦えるってことだよね」
「うん。遠慮する必要はないよ」
ルールはいたって単純。
タイマーをセットし、音が鳴ると同時に戦闘開始。
致死性の攻撃を与え場外に出す、戦闘不能状態にする、相手がギブアップしたら勝利だ。
メイスがタイマーをセットすると、訓練場の真ん中から少し離れた位置にたつ。
彼女の装備は金属製のメイスにおそらくワニ種の革装備で、
私も彼女から5m離れて正面に立った。
pi----
タイマーから戦闘開始の合図が鳴る――瞬間、私はアイテムボックスから拳銃を取り出しメイスに発砲した。
「へ?」
致死性の攻撃を受けた判定により転移したメイスは呆けた声を上げる。
「な、なにが起こったの?」
「ぼーっとしてたから銃で撃った」
私は手に持つ銃をくるっと回しながら彼女に見せる。
「えー、ず、ずる!銃は日本で禁止だし!」
「いや、一応ダンジョン内は関係ないから……」
ダンジョン内では国境がないため、銃の所持および利用は禁止されていない。銃の製造に関しては国によって規制が厳しいが。
「とにかく銃は禁止!というか飛び道具系禁止!私は
「まぁ確かに……?」
まぁ、大人げなかったかもしれない。
銃での戦闘は日本人は慣れていないだろうし。
ということで仕切り直し。
銃を禁止された私はおとなしく近接武器を持ち出した。
「メイスちゃんにならって私も
「いいの?
「望むところだね」
お互い再び定位置につく。
そして戦闘開始のタイマーが鳴る――瞬間、私は腕を大きく振りかぶり、
「は?」
見事、頭部にクリーンヒットし、致死性の攻撃を受けた判定により彼女が転移する。
本人はぽかんとした様子だ。
「今、何したの?」
「ん?普通に投げた」
すると彼女は頬を膨らませ私を睨みつけた。
「ずるい!メイスに
ややこしいな。
「武器の投擲は立派な戦法なんだけど……メイスちゃんも覚えたら使い勝手いいよ」
「そ、それなら後でやり方教えてほしい……じゃなくて、アキラさんもともと強すぎるんだから武器を持つの禁止!」
「えぇ……」
武器を封じられた私は素手で再び定位置についた。
戦闘開始のタイマーが鳴る――「“カメレオン”」
「ず、ずる――」
言い切る前に彼女のに首に手刀を入れた。
「防具禁止!」
何度目かの転移により起こった彼女はぽかぽかと私をたたく。
「ガチバトルとはいったい……」
私はアイテムボックスから特殊部隊装備を汎用的な布と革の防具に切り替える。さすがに下着姿は嫌なので防具としてほぼ効果のない最低限のものに切り替えた。
さて、実はここまでは台本通り。事前に打ち合わせしていた展開だ。
戦闘企画は彼女から提案してきたのだが、私とメイスでは実力差がありすぎるため、私からハンデをつけようと提案していた。
しかし、折角なら私にボコボコにやられる画を撮りたいと彼女から言ってきたので、徐々にハンデをつけていくという企画で落ち着いたのだ。
そしてここからは台本無し。本当のガチバトルである。
こちらにまともな攻撃方法はなく、相手から攻撃は一撃でも致命傷になりうる。
唯一彼女より優れているのはスキルだけだろう。と言っても身体能力向上系スキルは少なからず彼女も取っていると思われるため、圧倒的な差にはならないはずだ。
先ほど同様既定の位置につき開始の合図を待つ。
pi---
動画撮影中のため口には出せないが、いつもの言葉で戦闘へのスイッチを入れる。
新垣メイスからの対人戦闘訓練の申請を受領。これより戦闘を開始する。