序章 おはよう異世界 A_new_beginning
■ ■
1
「―――私のミスでした」
いきなり過ぎだろ。と、列車の中で男はパクパクと口を開くが、どうやら言葉は出て来ない仕様らしい。
状況把握が全く出来ていない。だってあまりにも突拍子がない事態に陥っているから。
ついさっきまでいつもの様に仕事をしていた筈の自分が、いざ瞬きをしてみればよく分からない場所で、顔も知らない少女と対面する羽目になっているのはどういう了見か。
下手人は目の前の少女か。ぶっちゃけて言えば確証はないが、今こうして自分の目の前に居るのはこの少女だけだ。こんな訳の分からない空間の中、自分に語りかけているであろう少女くらいしか、下手人の候補となる存在は居なかった。
はぁ、と息を吐く。何も起こらない。
すっ、と手を伸ばす。何も起こらない。
ぱくぱく、と口を開く。何も起こらない。
ダメだこりゃ。男は両手を挙げた。所謂ホールドアップだ。
何をするにしても■■が発動しない。普段なら何気ない仕草をするだけで発動する筈のそれが発動しないのなら、ここはそういう空間なのだろうと勝手に解釈する。
男がそんな仕草をしている間にも、少女はお構い無しに説明を続けた。
「私の選択、そしてそれによって招かれた全ての状況」
「結局、この結果に辿り着いて初めて、あなたの方が正しかったことを悟るだなんて」
いまいち要領を得ない短い語り。だが、それだけで男は何となく少女が言いたい事が理解出来た。
―――『
黄■■■の所属ではない男でも『失敗』なんて聞き慣れている。というか、どうにも面倒臭い性格の『後輩』がまさしくそれだ。まぁ、あの『後輩』の場合は『失敗』なんて承知の上で、何ならそれすら組み込んでいたが。
「……いまさら図々しいですが、お願いします、先生」
少女の懇願に対して、男ははてと首を傾げて応える。
自分はいつから先生になんてなったのだろうか? そりゃ弟子を取った事は数あるが、生憎と教職に就いた憶えなぞ欠片も無い。まだ耄碌していない脳の記憶が確かならば、こんな少女を弟子に取った覚えは無い筈だ。
だが、まぁ。こんな可愛い女の子に頼み込まれては断るのも無粋か。男は笑ってそれを承諾した。
「きっと私の話は忘れてしまうでしょうが、それでも構いません」
それは困る。決意が揺るぎそうになる。
「何も思い出せなくても、恐らくあなたは同じ状況で、同じ選択をされるでしょうから」
さて。『後輩』程ではないにせよ、失敗は数ある。後悔だって星の数程。
「ですから……大事なのは経験ではなく、選択」
老耄に対して、何と酷な言葉だ。
「あなたにしか出来ない選択の数々」
……自分にしか出来ない選択か。それはもう、随分長い事焦がれている事だ。
そう思うと同時に、身に覚えのない記憶が脳裏を駆け巡った。砂漠に呑み込まれた学区、完全に崩壊した学園、闇に溶け込んでしまった分校、深紅に染まる学園都市。
見知らぬ少女。見知らぬ世界。何をしようが何が起ころうが、正直な事を言うと男の都合には何の関係もなく、些事にすらなり得ない。
しかし、だからと言って。
別に自分は『主人公』なんかではないし、それ自体にも納得している。そんな事は分かり切っている事だ。
自分の全てを投げ打って、敵も味方も救いあげる
過ちに苦悩しながら、それでも大切なものの為に正しい道を歩む
ただ一人の為に、善悪を超越して死力を尽くす
ただ、まぁ。そういう事を言うと少年からの拳が飛んでくる。止めておこう。男は察しが良かった。
愛する母と恋した少女を亡くした『運命』に憤り、必死になって足掻き続けた己を、果たして主人公と呼ぶかどうかは、
例え主人公でなくとも。
目の前で女の子に頼られたのならば、それに応えない人間なんて存在しない。
誰だって主人公になれる。あの少年の言葉だ、説得力があり過ぎる。あんな言葉を知っていて動かないなんて、それこそ腐った馬鹿というものだ。
「だから、先生。どうか――――――」
そうして、視界が開けていく。朦朧としていた意識が覚めていく。
さて―――何処の誰かは知らないし、何故頼られたのかも分からないが、取り敢えずは女の子を救うとしよう。
2
「い せん せんせ い」
「――――――先生!」
「……わぉ」
目を覚ますと、そこには眼鏡を掛けた巨乳の女性が居るなんて此処は天国か? 男はつい感嘆の声を漏らした。
外は黒で内は紺という凄まじい長髪、エルフを思わせる長耳、後頭部には天使を思わる輪っか。何と属性盛りもりな女性だろうか。おそらく百人に千人が目を奪われる事間違い無しだ。
絶対モテる。そう男が確信しながら目の前の女性を見ていると、寝ぼけているのですかと呆れられた。
これもこれでアリだなと思いながら、眠たげな目を擦って意識をしっかり覚醒させた。
自分の名前は憶えている。自分が誰であるのかも憶えている。自分に何が出来るのかも憶えている。後は此処に来た経緯やらについてだが、これに関しては全く憶えていなかった。
目的も経緯も分からない。だが、自分は女の子を助ける為に此処に居るのだという事は分かっていた。人間、なんとも不思議なものだと男は改めて思った。
「はぁ……寝ぼけている様ですので、状況を説明しましょうか?」
「うーん……そうだね、お願いしようかな。私も色々整理したいしね」
「では、説明します――――――」
少女の説明を簡潔に纏めるとこうだ。
・少女の名前は
・此処は学園都市キヴォトス。その管理を務める連邦生徒会という行政組織があるタワー。
・そして自分は彼女達に呼び出された先生らしい。
・推測形なのは、彼女達もその経緯はよく知らないから。
・それを知っているであろう連邦生徒会長は、もう一週間も行方を眩ませている事。
・連邦生徒会長が呼び出した自分にはどうしてもやってもらいたい事がある事。
・それは学園の運命を大きく傾ける程の事であるということ。
「成程。これは凄いね。結構長いこと生きてきたつもりだけど、こんなに色々分からない事ばかりでバカみたいに重たい使命を持たされるのは初めてだ」
「感心する事ではない気がしますが……こんな状況になってしまった事、遺憾に思いますが、取り敢えず私に着いて来てください」
「ん、そうだね。現実は直視しなきゃ分からない」
リンについて行くまま、エレベーターに乗ってロビーがある場所まで降りていく。
窓から眺める街並みは随分と綺麗なのだが、所々で黒煙が立っていたり炎が見えたりした。うん? 何あれ見間違いかな? 何度も見直すが、どうにも景色が変わらない。どうやら現実らしい。
「よく分からないままにやって来た透き通る様な学園都市が早々にテロ同然の事態に置かれてるとかおかしいだろどうなってんだキヴォトス」
「アレを見ただけで状況を理解したのですか? 聡明なのですね、先生」
「嘘でしょ当たったの!? 出来れば外れてほしかったよこの現実!
自分の『後輩』が都市機能の管理を上手くやっていたという事実を、まさか他の学園都市で思い知らされるとは思いもよらなかった。
あの『学園都市』も決して平和とは言い難いものだったが、しかし常日頃から黒煙が立つなんて事はなかった。
このキヴォトスが常日頃から黒煙立たせるやべぇ場所とまだ確定した訳ではないが、少なくともあんな光景を見せられてしまっては、安全そうという認識は男から完全に消去される他なかった。
チーン、と気が抜ける音と共に降りていたエレベーターが停止し、扉が開いた。その瞬間、
「ちょっと待って、代行! 見つけた、待っていたわよ! 連邦生徒会長を呼んで来て!」
「主席行政官、お待ちしておりました」
「連邦生徒会長に会いに来ました、風紀委員長が現在の状況について納得のいく回答を要求されています」
「トリニティ自警団です、連邦生徒会長に直談判を――」
四人の少女達による会話の嵐がぶっ飛んできた。
わぁなんだ此処はやはり天国か? 男は眼福極まる光景につい涙が出そうになった。
特に黒髪赤眼の娘! 背! 胸! 太もも! デカぁぁぁい説明不要の権化! 幾ら見ても飽きないこの理想郷が広がっているなんてキヴォトスはどうなってんだ!?
内心でテンションが爆上がりしているクソ教師とは違い、リンは額を手で抑えて大きなため息を吐いた。
「あぁ……面倒な人たちに捕まってしまいましたね、まぁ理由は分かり切っていますが」
「分かっているなら何とかしなさいよ! 数千もの学園自治区が混乱に陥っているのよ!? この前なんか、うちの学校の風力発電所がシャットダウンしたんだから!」
素晴らしい太もも少女、
「連邦矯正局で停学中の生徒たちについて、一部が脱走したという情報もありました」
眼鏡に赤タイツの巨乳、
「スケバンの様な不良たちが、登校中の生徒たちを襲う頻度も、最近急激に高くなりました。治安の維持が難しくなっています」
シンプルに可愛い、
「戦車やヘリコプターなど、出所のわからない武器の不法流通も2000%以上増加しています、これでは正常な学園生活に支障が生じてしまいます」
最高の五体の持ち主、
此処が理想郷かと錯覚してしまう程の少女達の集いの場では、その可愛らしい容姿からはどうにも想像出来ない程に物騒な単語ばかりが飛び交った。
無法地帯かよ。
ついそんな言葉を零してしまった。自分の知っている学園都市とは似ても似つかぬ非常事態だ。まぁ、規模で言うならばキヴォトスのそれはどちらかと言えば可愛い部類のものだろう。
少なくとも、その腕一つで世界をぶち壊したり改変したりする事が出来る『魔神』の襲来に比べれば。
とは言え、収集すべき事態である事に変わりはないが。
「こんな状況で連邦生徒会長は何をしているの? どうして何週間も姿を見せないの、今すぐに会わせて!」
「―――残念ながら、その連邦生徒会長は現在行方不明らしいよ」
「えっ!?」
それまで感動するばかりだった男は、そろそろ介入するかと口を開いて事実を告げた。
このキヴォトスでは大人が珍しいものなのか、或いはその発言の内容からか。彼女達の視線が、男へと集まった。
「この大人の方はいったいどなた? どうして此処に?」
「連邦生徒会長に呼び出されたからね。いわゆる『先生』ってやつだよ。まぁ、本職は別だから副業みたいなものになるのかね?」
「副業って……」
「確かにこの御方は先生ですよ、身元は保証します。連邦生徒会長が呼び出したお人です」
「しかし、さっき連邦生徒会長は行方不明になったと……」
その疑問は尤もだろう。だが、男が呼び出されたという事実には一切変わりはない。
その本人も何故自分が呼び出されたのかは一切詳細が分からないけれど、それでも呼び出された事は絶対だ。だから、この男が先生であるという事もまた絶対。
とは言え、先程も言った様にあくまでも副業だ。男の本職は『先生』なんてものには縛られない、
まぁ、
「事実です。結論から言うと、連邦生徒会長が失踪しサンクトゥムタワーの最終管理者がいなくなった為、連邦生徒会の行政制御権が失われました」
「はっ!?」
ユウカが驚きの声を上げた。
彼女はキヴォトスに数ある学園の一つ、『ミレニアムサイエンススクール』のセミナー―――ミレニアムにおける生徒会の通称―――である。連邦生徒会の行政制御権の喪失が、このキヴォトスにどの様な影響を及ぼすのかなど容易に理解出来た。
行政組織である連邦生徒会、その行政制御権が喪失したという事はつまる所、連邦生徒会の機能停止だ。文字通りの意味で、連邦生徒会はあらゆる機能が完全に停止する。
連邦生徒会を連邦たらしめる、言わば権威の象徴。それが失われたのだ、キヴォトス自体の管理は勿論の事、一部の自治区すら危うい立場だ。
これには男も流石に表情を崩し、呆れる他なかった。
「酷過ぎるな、おい。世紀の大変態にして史上最もろくでもないであろう人間のアレイスターですら、しっかり機能も何もかも後継者に託したというのに……」
「あの、先生。流石にそんな人と比べるのは些か酷じゃ……」
「それもそっか。アレイスターと比べるとか生徒会長ちゃんが可哀想だ。誰と比較しても彼奴は偉業より悪行が目立つ」
「とんでもない人とお知り合いなのですね、先生……」
知り合いというか後輩である。顔を合わせたり関わったりしたのは、それこそ片手で数えて収まる程度だが。
どうにも良い後輩とは言い難いが、最高の後輩ではあった。アレもアレで芯は真っ直ぐだった。
「認証を迂回出来る方法を探していましたが、先程解決しました――この先生が、フィクサーとなります」
「……先生が?」
「先生は元々、連邦生徒会長が立ち上げたある部活の担当顧問として、此方に来る事になっていましたから」
「それは?」
「連邦捜査部―――
リンの言葉が鋭く響く。
シャーレ。確かドイツ語でペトリ皿の意味だったか。まぁ、この際単語の意味は大して重要ではない。
連邦と名が付いている時点で、連邦生徒会お抱えの組織である事は確定。部とは言うが、果たして本当に単なる部活扱いなのか疑問だった。
未だキヴォトスを理解した訳ではないが、男は既にキヴォトスにある学園がどのようなものであるのかを半ば理解し掛けていた。
『連邦』生徒会。『セミナー』。『自警団』。どれも普通の学園にある組織と言うには大袈裟なものばかりだが、それこそがキヴォトスの特徴なのだろう。
それに加えて、此処に居る生徒達の後頭部に浮く輪。最初は大して気にもしていなかったが、男はそれを注視してようやく
(『神秘』、『神秘』、『神秘』。キヴォトスは『位相』か何かなのかね。それとも本当に異世界か?
男の本職は
彼女達はそれを大して気にもしないし、そもそも考えようとすらした事はないのだろうが、彼だけは別だった。
(これじゃあ■■が効果を発揮するか分からんな。まぁ、まだ年端もいかない女の子を相手に使う事なんて滅多にないとは思うが……さてさて、果たして
あれは周囲の奉仕の為に活動した立派な女性だ。彼女であれば、
『
とか言うに違いない。……あれ、どっちにしろ巻き込まれてね?
うん、ダメだ。どうにも協力させられる未来しか見えない。勝手に引っ張られて巻き込まれる自信しかない。あのナイスバディお姉さん系後輩に頼み込まれては断り切れん。
「さて、キヴォトスの正常化の為に働きましょうか、皆さん」
「え、」
気が付けばいつの間に話が全て終わっていた。
ちょっと、いや、かなり困る。現在進行形でガチ困っている。
マジで全然話を聞いていなかった所為で何をしなければならないのか本当に分からん。全然さっぱりである。男は担任の話を全く聞かない所為で後悔する学生の気持ちを理解した。
良い大人(年齢不明)がなんと情けない事だろう。
「
「……わぉ」
先生、今日で三回目の驚愕である。
3
ドドドドドドッッッッ!!!!!!!!!!!!
バゴォォォォォンッッッッ!!!!!!!!!!!!!!!!!!
銃撃と砲撃が連鎖した。鼓膜を破らん勢いで連続する戦場の声に、男は唖然としてしまっていた。
ヘルメットを被った制服姿の少女達が銃持って戦車乗ってヒャッハーしてるとか誰が想像出来る。そりゃあんな光景を見たからにはマトモじゃないのは予測していたけども、少なくとももうちょっとお淑やかな方が嬉しかった。
しかし、現実は全く真逆である。なんと惨い事だろうか。
「なんだこれ巫山戯てんのか本当にどうなってんだよこの学園都市は!? 俺が知ってる学園都市はもうちょっと平和でお淑やかだったんですけどー!?」
「ちょ、先生! 頭上げないでください危ないでしょ!?」
あまりに理解し難い現実に遂に口調が崩れた。ここまで暴徒が溢れ返ってると、いっそ清々しくなってくる。
銃撃と砲撃の嵐。圧倒的な面攻撃を前にして、全員は物陰に隠れる事を余儀なくされた。やられてばかりで堪るかと此方も生徒達が攻撃を繰り出すが、どうにも数が減る気がしなかった。
「いたっ!?」
「なっ――――――」
ヒュンッ、と空を切り裂いた銃弾がユウカの額を撃った。
正式な型式など分からないが、連射から鑑みても
男は目を開いて、彼女を見た。そして、呆気に取られた様にあんぐりと口を開いた。
「アイツら、違法JHP弾を使ってる! めちゃくちゃ痛いんだけどっ!?」
「えぇ……マジかよ」
ユウカは全くの無傷だった。正確に言えば、一応の跡が残ってはいるのだけれど、それは決して致命傷ではなかったのだ。
確かに彼女達が凄まじい神秘を宿している事は理解していたが、まさか何の動作も詠唱も要らないものだとは思っていなかった。
常時発動型とでも言うべきか。ただ意識を保っているというそれだけで、この神秘は彼女達に降り掛かるあらゆる全ての害を跳ね除けるのか。
「そういえば、先生は外から来られた方でしたね。このキヴォトスでは、銃弾は致命傷にはなり得ないんです。この輪っか……
「
「あっ、先生!?」
「大丈夫大丈夫。簡単な『マジック』で問題児達にお仕置してくるだけさ」
生徒達の静止を振り切り、男はすくっと物陰から立ち上がった。
「おい、大人が出てきたぞ!」
「自分から出てくるとか、遂に血迷ったか!」
「うわぁ、すっごいテンプレな台詞だな。しかもそれが女子生徒のやつだって言うんだから凄すぎるよキヴォトス。まぁ、それはそれとして。悪い子には灸を据えなきゃならないんでね」
「はっ! 銃も持ってないアンタに何が出来るってんだ!?」
「『マジック』なら出来るよ? それも自慢出来るとっておきが」
「
ドドドドドドッッッッ!!!!!!!!!!!!!!!! と、銃弾が吹き荒れた。
武装した生徒達は6人。つまり解き放たれた銃弾の数にして180から270発。通常の人間ではどう足掻いても回避も防御もしようがないその嵐に対して、男が取った行動は非常に単純だった。
―――振り翳す。
ただ右腕を水平に振り上げて、飛び交うそれに対して翳すという、たったそれだけの動作。もはや無抵抗と何ら変わりないそれは、しかし―――
「ほら、『マジック』だろ?」
「ごがっ、がぁぁぁぁぃぁぁぁ!?!?!?!?!?!?!?!?」
ガガガガがッッッ!!!!!!!!!!!!! と、弾かれた全ての銃弾が不良達の下へと乱雑に返品された。
ヘルメットなどお構い無し。腹も腕も足も、そこに居る6人の不良達の五体全てに対して自分達が引き金を引いて弾いた銃弾達が弾き返された。
決して致命傷にはならない。だが、180か270発もの銃弾が五体それぞれに一斉に襲い掛かってきた激痛は、想像を絶するものだった。
なにをした? なにをされた?
男はただ右腕を振り翳しただけだった。空気を裂くでも固めるでも、そんな大層な事なんてしていない。本当にただ単純な動作を行ったというだけだ。
「がっ、ぐぅぅぅ…………!!!!!!! て、めぇ……なにっ、しやがったぁ!?」
「
そう早く種明かしなんかしたら詰まらないだろう? 男は笑いながらに闊歩した。
「真の理解が生み出すものは、もはや衝突ですらない。アンナ女史の『逸らし』を応用したもの……なんて言っても分からないか。まぁ、さっきも言った様に簡単な『マジック』だ。私が自ら手を出すなんて酷い事は出来ないのでね。それで反省したまえよ」
彼が何かして銃弾を弾いたのではない。銃弾の方が、彼から弾かれた。
それは、確かに―――『
「さぁて―――次はどうする、問題児?」