とある教師の青春記録   作:全智一皆

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第九章 銀行を襲う This_is_a_good_thing

 

■  ■

1

 

 強盗は犯罪であるという世間一般な風潮に対して、いやいやちょっと待てと、■■■■■=■■■は反論の意義を申し立てる。

 まずそもそもとして、善と悪の視点について詳しく語り合おうじゃないか、と。

 確かに、強盗というのは悪ではある。人のもの、店のものを勝手に盗み奪うというのは、人間として決してすべきではない悪辣極まる行為であるというのは確かだ、それは認めよう。

 だが待ってほしい。それは『強盗』という『結果』だけを見たものであって、決して『強盗』をする『過程』までを知ったなら、それも覆るものではないのか?

 かの有名な石川五右衛門(いしかわごえもん)や鼠小僧だって、立派な盗賊だったのだ。そんな彼等がどうして強盗犯だの何だの罵られるのではなく、同志(レジスタンス)の如くに持ち上げられるのか?

 世界にはかつて『義賊』なる者達が居た。悪に立ち向かう為に悪を為し、義を果たす賊達の事だ。

 石川五右衛門もねずみ小僧も、果てはビリー・ザ・キッドだって立派な義賊だが、やっている事は犯罪だ。昔だから見逃されていたとかそんなんではなく、今も昔も盗賊というのは至って普通に犯罪者だったのだ。

 そんな彼等を『義賊』と呼んで称えるのは何故か? それこそ、『義を果たす』という『理由』があるからに他ならない。

 所謂、大義名分というやつだ。これがあるのとないのとでは、悪行と言ってもその意味合いが大きく変わる。

 どんな悪行であっても、正当な理由があれば人々からの関心、理解を得られるというのが世の常であり人の常。

 であれば、だ。つまるところ―――

 

「銀行強盗だって、正当な理由があればやっても良いって事よネ☆」

 

 ■■■■■が言いたいのはそういう事だった。

 早い話、『オタクらが悪い事やってんだからこっちも奪って良いッスよね?』である。

 

「ん!」

『いやいやいやいや!?!?!? それとこれとじゃ色々と話が違ってきますよっ!?』

「ウソだろ今のでいけねぇのかよ!?」

「ん!?」

「なんで揃いも揃って今のでいけると思ったのよ馬鹿じゃないのッ!?」

 

 セリカのご尤もなキレッキレのツッコミが、今日も今日とて飛んでくる。

 此処はアビドスからかなり離れた地区。アビドスと比べて圧倒的とも言える程に賑わいがあり、建物もアビドスのそれよりかなりの多さ、規模を誇るものばかりだ。

 しかし、其処は決して真っ当な都市という訳ではなかった。

 『ブラックマーケット』―――連邦生徒会の目を掻い潜り、非合法な活動で商売を繁盛させては違法な武器や資金を流通させている、文字通りの『闇市(ブラックマーケット)』である。

 そんな危険地帯に、何故わざわざアビドスの面々が足を踏み込んでいるのか?

 

「んー、確認もかねてもう一度説明した方が良いんじゃない?」

「了解。では、改めて■■■■■先生がこのブラックマーケットに来た理由を説明しよう!」

「なんでそんなワクワクしてんのよ……」

「そりゃワクワクするさ―――ようやく、本格的に外道に反撃する為の理由が一つ手に入るんだ。これが嬉しくなくて何になる」

 

 思わずアビドス全員がうわぁ……と、軽く引いてしまう程の悪辣極まる顔を浮かべながら、■■■■■は上機嫌に説明し出した。

 

「最初に気になったのは、セリカが拉致された時だ。セリカが拉致された場所を調べてみたら、随分とデカイ傷跡が残されていた。それもそうだ、なんせ対空砲だからね。カタカタヘルメット団は確かにチンピラにしては装備が揃ってはいたが、あれは商売が出来るタイプじゃない。対空砲なんて高額な品が、いったい何処から持ち出されたんだってね」

「た、対空砲……私、そんなのに撃たれたんだ…」

「本当によく生きていてくれたよ。いくらキヴォトスの生徒達が頑丈とは言え、流石に対空砲となったらかすり傷じゃ済まないからね」

 

 銃撃が致命傷に繋がらないキヴォトスの生徒達には驚かされてばかりだが、それが対空砲となれば流石に話は変わる。

 これまでの銃撃戦で、アサルトライフルもサブマシンガンも、果てはガトリングガンですら大した怪我にならないのは理解していた。そこは心配していなかった。

 だが、対空砲だ。そんな、(おおよ)そ人間に直接撃つ事などない兵器が撃たれたと知った時は、さしもの■■■■■も血の気が引いた。

 

「確信に至った理由は現金輸送だ。これが王朝風の異世界だったならまだしも、インターネットが普通に普及して社会的に組み込まれて構成されているこのキヴォトスにおいて、わざわざ仮想通貨を用いずに現金でやり取りをしている―――多忙である筈のカイザーローンが、だ」

 

 カイザー・ローンの元締めであるカイザーコーポレーションは、キヴォトスにおいても名の知れた会社だ。悪名高い、という意味ではあるけれど。

 表も裏も忙しい会社が、何故わざわざ現金輸送という、足を運ぶだなんて時間の無駄を惜しんでまでやり取りをするのか。

 疑問から解答を導き出すのに、大した時間は掛からなかった。そもそもの前提として会社が黒なのは把握済みだったのだ、それが分かっているなら答えなんて呆気なく理解出来る。

 

「事前の調査で、ブラックマーケットについては把握していたからね。此処にカイザーローンがある事も。それで現金輸送と来た。どれだけインターネットが普及してようが、現金を管理するのはいつの時代も銀行だ。黒だらけのこのブラックマーケットで、しかも悪名高いカイザー系列の会社が運営するカイザーローンに現金を輸送している―――この要素が揃っているだけで、もう既にきな臭いだろ?」

「結論を言えば、返済に充てた利息は全て、ブラックマーケットの違法行為に充てられていた。確認の為に『滞空回線(アンダーライン)』をバラまいて、そこで取得(インストール)した情報(ログ)から逆算したら大当たりだったよ」

 

 『滞空回線(アンダーライン)』。

 キヴォトスではない『学園都市』に散布されていた、70ナノメートルのシリコン塊。

 学園都市の統括理事長であったアレイスターが、暗部を含めたあらゆる事態に即座に対応する事が出来た正体がコレだ。

 人の目では決して捉える事の出来ないソレは空気を漂う様に移動しながら活動し、風を受けて自家発電を行う為に半永久的に情報収集を可能とする。

 これと言い『オジギソウ』と言い、■■■■■は『学園都市』、ひいてはアレイスターが開発した科学の殆どを『盗作』している。

 しかも、ご丁寧に自己流で『改造』まで施して性能を格段に向上させている始末だ。

 尚、自分の作品を盗作されたに留まらず改造までされた本人は、

 

『気に留める必要など無いさ。かの偉大なる先輩も、こと科学力においてはこの私を上回る事など出来なかったというだけの事だ。アレイスター=クロウリーは科学で■■■■■=■■■に勝ったんだ、寧ろ誇らしいまである。とは言え、とは言えど、だ。それはそれとして――――――勝手に人のもん盗作した挙句に改造して私が作った時よりも性能アップさせるとか私が言うのもアレかもしれないが科学者としての恥とかねぇのかよあの紳士気取りの変態フェミニスト野郎はッッッッッッッッッッッッッッッ!?!?!?!?!?!?!?!?!?』

 

 納得している様で普通にキレていた。あれでも自分の科学にはわりと自負があったらしい。

 

 まぁ、閑話休題(それはともかく)

 

「ふざけた話だ、ハナから借金を完済させるつもりなんて向こうには無かったんだよ」

「碌な事に使われていないって、何処かで思ってはいたけど、まさか本当とはね〜」

「腹立つぅ…! 改めて聞いても本当に腹立つ!」

「うん。けど、だからこそ此処に来た」

「その通り。私達はさらなる大義名分を手に入れ、本格的にクソ企業をぶち壊してアビドスを救う為に銀行を襲うのだ!」

「いぇーい☆ 張り切っちゃいますよ〜!」

『うぅ…まさか本当に銀行強盗をする事になるなんて……』

 

 銀行強盗なんて滅多にない経験に、実はわりと本気でワクワクしているクソ教師。やっと銀行を襲える…! と、ソワソワして耳をピコピコするシロコ。やけに楽しそうなノノミ。

 これだけ見るとアビドスはヤベー奴の溜まり場かと思ってしまっても仕方ない。実際、洒落にならないくらいにはヤベー奴等が勢揃いな訳だが。

 主に■■■■■とシロコとホシノの三人である。

 

 そんなアビドスの面々が、いざ銀行強盗! と張り切って銀行を目指して歩き出した―――その直後だった。

 

 ドドドドドドッッッッッッッッッッ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!

 

 もはや日常的に聞き慣れてしまった、鋭い銃声(おと)が熱を伴って鳴り響いた。

 

「わわわっ、そこどいてくだーい!!!!!」

「なんて事だ……まさかこのキヴォトスにおいて青春ラブコメ系の作品でありがちなヒロインとのぶつかり合いという王道展開が見られるとは!!!! クソっこんな事なら食パンでも咥えておけばよかぶぼぁっ!?」

 

 ガラの悪い不良共を背景にして全力疾走を決め込んだ、気品のある洒落た白い制服姿に物珍しい感じのマスコットのバッグをからった少女は、ブレーキなんて効かせれる訳もなく慣性の法則に従うままに■■■■■の腹へとダイレクトアタックを仕掛けた。

 華奢な身体から想像のしようもない、さながらアメフトのタックルの如き勢いで肺の空気が口から飛び出してきた■■■■■は、呆気なく崩れ落ちた。

 

「かっ、ぉ……こ、れは、なかな、か、ぅぉ……」

「うわぁ!? ご、ごごごめんなさいごめんなさいっ!! だ、大丈夫ですか!?」

「だ、ぃ、じょぶ……ひっ、ふぅぅ…………な、ナイス、たっく……がくっ」

 

 ■■■■■=■■■。享年■■■歳。死因、女子高生による全力疾走タックル。

 ここに安らかに眠る。

 

『先生ー!?』

「さっきまであんなに元気だったのに…!」

『あらあら。簡単ニのされるとハ、相変わらず(女性)ニだけは脆くなり(ます)わね、センパイ』

「うるせぇよ水着制服系魔女っ子後輩……あー、空気が上手い。腹パンならぬ腹タックルがまさかここまでキツイとは……今度アレイスターに仕掛けてやろう」

「あの、大丈夫ですか…? ぶつかってしまって、本当にごめんなさい!」

「いやいや、気にしなくていいよ。お陰で王道の展開を味わえた。まぁ、それは置いておくとして―――」

 

「取り敢えず交戦準備と行こう。強盗前の準備運動だ、派手にやっちゃおう!」

「えっ、ご、強盗!?」

「おっと失礼、今のはアドリブで」

 

 想定外の客人が増えはしたものの、これはこれで醍醐味というものだろう。

 さぁて。先に罪滅ぼしという訳ではないけれど、取り敢えず、強盗をする前に女の子を魔の手から救うとしようか。

 

 

2

 

 

 ブラックマーケットなんて名前だから、決して治安が良いなんて思ってはいなかったけれど、正直これは楽観視が過ぎたのかもしれない。

 飛び交う罵声は女子のそれじゃないし、追われていた少女―――もとい、トリニティ総合学園の生徒である阿慈谷ヒフミが、そもそも追われていた理由がまず野蛮だった。

 トリニティはキヴォトスに数あるマンモス校の一角であり、名の知れたお嬢様学校だ。そんな学校の生徒を人質に取れば、たんまりと身代金が請求出来る。

 要約するとそういう話だった訳で、だからこそ―――■■■■■は決して容赦をしなかった。

 

「いやはや身代金なんて物騒なものだよ。うら若き少女を誘拐して多額の金を寄越せだなんて、全く最近の子達はどうしてもこうも物騒なのか。流石の私も理解に苦しむばかりだ」

 

 ざざざざざざざざざざッッッッッッッッッ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!

 

 劈く様な羽音(はおと)がした。

 まるで大量発生した害虫飛蝗を思わせる程の荒々しいそれが発生した直後、銃火器を片手に持って特攻してきた不良少女達は呆気なく武装を解除された。

 より正確に言うならば武装解体か。ブラックマーケットに到着した時点で既に展開していた『オジギソウ』によって、不良少女達の武装は作物の如くに食い荒らされた。

 

「それ先生が言うー? 銀行強盗しようとか言い出した癖に」

「いやいや、私達の銀行強盗にはしっかりとした大義名分があるのだよホシノ。そう、これは革命! これまで散々人の金を搾ってきた悪人に鉄槌を下す正義! だから銀行を襲うんだ!」

『やってる事は完全に悪事ですよっ! 正当性を謳うには無理があります!』

「そんなバカな…!? 私の理論には何の狂いもなかった筈だ!」

「詭弁以外の何もんでもなかったわよ!? いやまぁ襲うけど! 私達が汗水流して稼いだお金が非合法の活動の援助に使われてるとかめっちゃ腹立つから八つ当たりもかねて銀行は襲うけどっっっ!!!!」

『ついにセリカちゃんまで銀行強盗の支持をしだしちゃった!?』

 

 マトモなのは私だけですか!? 通信越しに頭を抱えるアヤネにはちょっとばかし悪いとは思うものの、だからと言って今更止めますとは言えない。

 ■■■■■としても腹立たしい事だ。女性、しかもうら若き少女達が死に物狂いで働いて稼いだお金を、あろう事か非道に費やしているなど言語道断である。

 正直ぶっ飛ばすだけでは全く釣り合わない。会社を丸ごとぶっ潰した挙句に人生にリーチを掛けなければ割に合わないくらいには、■■■■■は憤っていた。

 

「まぁ、それはそれとして。これからどうするのかな、不良少女達? 君たちの武器は、文字通り食い荒らされてしまった訳だ。これ以上の争いは無意味だと■■■■■先生は思うのだがね」

「■■■■■…!? お前、シャーレの先生か!」

「ふふん、どうやら私はかなりの有名人になってしまった様だ」

「魔術を使って生徒にいかがわしい事をすることで有名なあの!?」

 

 びし、と固まった。ついでに空気も凍った様な気がした。

 

「おぉぉぉぉい!?!?!? なんだその不名誉な噂はッ!? 誰だ、誰がそんなふざけた噂流したァ!? まさかリンちゃんか!? やっぱ根に持たれてたのかごめんなさいでもだからってキヴォトスに噂流すのは違くなぁい!?」

「根に持たれてたって自分で言ってんじゃない!? 噂でもなんでもなく完全に自業自得じゃない何やってんの!?」

「いやしてないしてない本当にしてません! ちょっと心の何処かにはこっそりやっちまおうかなって気持ちが無くも無くなくだったけれども誓ってそんな事はしてないです! というか魔術使ったら俺が血反吐吐くの知ってるでしょ!?」

『そ、そうですよ! 先生はそんな事しません!……してません、よね?』

「徐々に自信無くさないでくださいアヤネさん本当にやってないんですよ信じてェェェェェェェ!!!!!!!」

 

 ここまで虚しい絶叫も中々ないだろう。しかも大の大人が。

 とは言え、自業自得もいい所である。一応未遂ではあるものの、それでも未遂だ。やろうとしたという事に変わりはない。

 この男もアレイスターも大してこれといった変わりはない。どちらにせよ変態だ、しかも女好きで惚れっぽい。本当にどうしようもない達人達である。

 

「血反吐を吐いてまでそんな変態行為に及ぶ程、俺は変態じゃねぇ! 何なら今ここで証拠見せてやろうか!? 内臓が破裂した様な衝撃と一緒にどばどば吐血する男の様が見れるぞ!?」

「「「「いや見たくねぇよ!?!?!?」」」」

「ですよね分かってた! 俺としても見られたくないし!……まあ、とは言えども、だ」

 

 ふぅ、と切り替える様に目を閉じる。

 武装は解除した。魔力を変換した身体能力の強化であれば、ヘイローを持つ彼女達とも拮抗は出来るが、■■■■■としては女性と事を荒らげる様な事は望みではない。

 だからと言って、このまま見逃すなんて甘い判断を下す事も出来ないのが現状だった。ブラックマーケットとはかなりの繋がりが感じられる彼女達を手放しにするのは、こちら側のリスクになりかねない。

 そうなると、必然的に―――彼女達をどうにかしなければならない。

 

「仕方ない。このまま返すと色々と仕事が増えちゃうからね―――気が引けるけれども、()()()()()()()()()()()()

 

 ぱちん、と。中指と親指で肌を弾き、乾いた音が軽く響いた。

 それから間もなくして、不良少女達は困惑した様な顔をして周囲をぐるりと見渡し始めた。まるで、気が付けば何処かも分からない場所に居たかの様に。

 

「よし、これで大丈夫かな。さ、早いところ銀行まで行こごぶふっ」

 

 天丼ネタの如く、■■■■■は吐血した。ついでにポキッと軽く何かが砕ける音もした。

 『飛沫』によって向けられる、事象としての火花にはこれといった一貫性がない。体内で炸裂して内臓がほとんどおしゃかになる事もあれば、戦闘機が突撃してきたかの様なマッハレベルの衝撃が来る事もある。

 

「ひぃっ!? ち、ちが、血が血が!?!?」

「ちょ、落ち着いて! 大丈夫だってこの人よく吐血するから!」

「それどこも大丈夫じゃないですよねっ!?」

 

 もはや見慣れてしまった所為か諸々がバグりつつあるセリカだが、ヒフミはあたふたとしながらポケットから取り出したハンカチで、■■■■■の血反吐を拭う。

 本来これが普通の反応の筈なのだが、アビドスの面々はもう既に慣れてしまっている。そう時間が経たずに、

 

 ババババっっっ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!

 

 羽音を立てながら、小さなドローンが現れては医療キットをぶん投げた。

 

『もうっ、先生は気軽に使い過ぎです! もう少し自分を労わってください!』

「そうしたいのは山々なんだけどねぇ。無抵抗になった女の子達をフルボッコにして黙らせるとかしたくもないし、させたくもないんだよ私は。必要経費ってやつさ」

 

 目的達成の過程で衝突せざるを得ない戦闘ならばいざ知らず、その必要がない戦闘は可能な限り避けたい。

 そもそも女の子同士を戦わせる事自体が■■■■■にしてみれば嫌なのだが、そういう世界観となっては抗う術もないし、何より彼女達が主役なのだ。

 文字通りの部外者である自分が彼女達の生き方に口を出すのも野暮だろう。

 アヤネのスキルで全快した■■■■■は、吐血による鉄臭さを消す口直し(自業自得)を探しながら歩いて、全く度し難いもんだねぇと零した。

 

「あんまり自分を蔑ろにしちゃダメだよー、先生」

そうだねぇ。(えぇ…?)もう少し自重しないと(それ君が言うのかね?)

「もうちょっと隠す努力しようよ先生。完全に漏れちゃってるよ本音」

「おっと失礼。これはアドリブで。ん? あれは……え?」

 

 ふと、足が止まった。

 おかしいな、これは何かの見間違いか? そんな事を考えながら目を擦って、■■■■■は自分達から少し離れた場所の看板をサングラス越しに直視する。

 

 『百鬼夜行連合学院産たい焼き・ブラックマーケット店舗』

 

 全然見間違いじゃなかった。普通にデカデカと学校の名前が出てやがった。あの可愛らしい狐面を被ったお嬢様口調の黒髪狐耳系美少女生徒の在学校の名前がはっきりと看板に書かれてやがったのだ。

 

「いやいやいや何考えてんの流石にバカじゃねぇの????? そんな堂々と学校の名前さらけ出して商売してんじゃねぇよ此処ってブラックマーケットだろ完全非合法の危険地帯だろ!? なんでそんな所で商売やってんだよキヴォトスの生徒達の危機管理能力ガバ過ぎんだろどうなってやがるっっっっっっっっ!?!?!?!?!?!?!?!?!?」

 

 あまりにも迂闊過ぎて、さしもの■■■■■も驚嘆せざるを得なかった。まぁ、キヴォトスに来てから既にもう何度もびっくりしている様な気もするけれど、とにかく驚いた。

 危険人物と危険物だらけの圧倒的なブラックゾーンに堂々と自校の名前掲げて店をやり繰りするとか、正直に言って正気の沙汰ではない。■■■■■が生徒なら絶対にこんな場所に店は開かない。

 頭おかしいのはゲヘナくらいのものだとばかり思っていた―――かなり失礼である―――のに、まさかの学園が来やがった。意外性ナンバーワンとはまさにこの事か!

 

「たい焼きですね! 小腹も空いてきましたし、皆で食べましょう!」

「え、スルー? 普通にスルーですか? もしかしてこれ私がおかしいのか? キヴォトスだと危険地帯にわざわざ学校が店を出すのって珍しくもなんともないのですかね?」

「い、いえ、そんなことはない筈ですけど……」

「分からん……キヴォトスってマジで訳分からん…いったい誰が作ったんだ。それでもってこのキヴォトスを管理してた生徒会長ちゃんスゲェな。私、心から尊敬しちゃう」

 

 やっぱキヴォトスの学校は揃って何処かおかしいのだと認識せざるを得ない。特にゲヘナ・トリニティ・アビドスは。

 ゲヘナに関しては治安は最悪だし思考はおかしいしで完全に世紀末である。マトモなのがヒナとか帰宅部とかそれくらいだ。

 トリニティは一見すればごくごく普通のお嬢様校だが、蓋を開ければまぁ何ともどす黒い事か。誰も彼もが言葉の裏に蹴落とし合いを潜めているとか、■■■■■も流石にドン引きである。

 ゲヘナはトリニティを、トリニティはゲヘナを嫌い合っていてもはや憎み合ってすらいると言われているものの、■■■■■にしてみれば正直どっちもどっちでしかない。

 それに比べてアビドスはそういった面は無いし、そもそもの絶対数があまりにも少な過ぎるという皮肉にも平和な学校だが、この学校は単純に神秘の純度が桁違いという意味でおかしい。

 特にシロコとホシノの二人が、だ。

 

「はぁ……もういいや。気にするだけ無駄だ、うん。甘いものでも食べて一息つこうかね、ヒフミは何味がいい?」

「えっ? わ、私も良いんですか?」

「勿論だとも。君だけ自払なんて酷いことはしないさ。さっきまで逃げてたんだろう? 疲れた体に糖分は良いよ、朝も昼も夜も食後のデザートを欠かさない私が保証する」

『結構多くないですか?』

「甘党だからねぇ。取り敢えず、たい焼き食べながら色々と話そう。腹拵えは大事だからね」

 

 言い方は悪いけど懐柔の意味も込めて、だけれどね。

 含んだ様に笑った■■■■■は、『大人のカード』を取り出してたい焼き屋へと歩き出した。

 

 

3

 

 

いふぁ(いやぁ)なふぁなふぁうふぁいへ(中々美味いね)はふぁもはるほほははら、(皮もさることながら、)くひーふもへっひんふぁ(クリームも絶品だ)

『お行儀ガ××(悪い)ですわよ、センパイ。しっかり飲み込んで(から)喋りなさい』

 

 何言ってるかさっぱり分からないが、何となく絶賛してる事だけはニュアンス的に分かった。だとしても礼儀的にそういう事は控えてほしいとは思う所だが。

 大の大人でしょう貴方。

 たい焼きを買ってから、見晴らしのいい場所まで歩くこと約数分。ブラックマーケットという非合法な世界も、キヴォトス全体に比べればほんの僅かな領域にしか過ぎない。

 空は明るく晴れ晴れとしていて、澄んだ青と太陽は見ていて清々しい気持ちになれる。これだけを見れば、此処が危険地帯だなんて誰も思いはしないだろう。

 

「んぐっ……それは失礼。たい焼きなんて久しぶりに食べたものだから、ついね。というか、アンナ女史とアロナは食べないのかい? 言ってくれればいつでも送るけど」

『何気ニ初耳な情報ヲいきなり開示しやガり〼×(まし)たね(この)野郎。では餡子ノものヲ一つお願いし(ます)

『クリーム! クリームが良いですっ!』

「餡子とクリームねー、ちょっと待ってて。えーっと、『自分だけの現実(パーソナルリアリティ)』」の応用でミクロな世界に干渉出来れば……お、行けた」

 

 ぱきっ、と。軽く何かが砕けた様な快音が響いた直後、■■■■■が袋から取り出した二つのたい焼きが消失した。

 だが正確には、それは消失ではなく転移だった。

 『自分だけの現実(パーソナルリアリティ)』―――『学園都市』の『能力者』であれば誰もが有する力にして『超能力』の根源。この概念があるからこそ、学園都市の能力者達は『能力者』足り得る。

 自分だけの現実(パーソナルリアリティ)によってミクロな世界を認識し、歪める事で、『超能力』という形でマクロな世界に現象を引き起こす。

 要は、それの応用だ。

 ミクロな世界を認識出来るのならば、歪めるとかではなくそもそもミクロな世界に事象を入力すれば、マクロな世界にまで持ってこれる。

 分子、原子によって構成された緻密と詳細の宝庫であるミクロな世界。量子世界とも言えるそれに、認識した量子を入力する事で様々な事象を発生させる応用技。

 『万象統治(インターフェア)』―――()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()だ。

 

「た、たい焼きが消えました!? それも、魔術なんですか?」

「いんや、これは魔術じゃなくて超能力の類かな。魔術と超能力、つまり神秘と科学は決して相容れないなんてよく言われるけど、実際のところは合わせ鏡だ。どこまで行っても平行線なのに、うちの後輩が区切りを作った所為で今や殆どの人がそれに気付かない」

 

 まぁ、それはそれで好都合ではあったけれども。そう付け加えて、ウマウマとたい焼きを頬張る。

 本当に不思議な人だなぁ、なんてヒフミは思った。

 魔術師だなんて噂を聞いた時点で多少の興味はあった。このキヴォトスに外の世界から魔術師がやって来たなんて、今を生きる平凡な女子高生としてはどうしても好奇心を抑え切るのは難しい。

 とは言え実際に見てみれば、どうにも魔術師には見えなかった。

 下に行けば黒くなっていくくすんだ灰の様な白髪に黒塗りのスクエアタイプのサングラス、右耳に結晶ピアスを着けた、ラフな格好の上にローブの様な黒いコートを羽織った青年。

 たまに変な事を口走るが、それ以外は至って普通な様に思えた。少なくともヒフミにとっては、■■■■■=■■■はそう見えていた。

 

「ふぅ…しかしデカイねぇ、あの銀行。これから彼処に強盗しに行くと考えるとワクワクする」

「えっ、」

「ん?」

「え、えぇぇぇぇぇっっっっっ!?!?!?!? ご、強盗って、あの闇銀行にですかっ!? よりによっむ!?」

 

 思わず叫ぶ様に声をあげて、口元を人差し指で抑えられるシチュエーションを体験することになった。

 な、ななな!? 昔何度か少女向けコミックで見た事がある展開だけどまさか私がそれに遭うなんて……!?

 同校の同級生である正義実現委員会が見たなら確実に『えっちなのは駄目! 死刑!』なんて言いそうな展開である。

 

「しー! 声がデカイよヒフミさん強盗計画バレちゃうでしょっ!? 私これでも結構な緊張感持ってんだよ!?」

『さっきと言ってる事違い過ぎません!?』

「俺だけならともかく生徒も巻き込んでんだから緊張くらいするに決まってんじゃんか! しかも内1人は他校だし! 正直俺1人で勝手にやりたかったところだけどそれじゃ皆が納得しないでしょ!?」

「まぁ、そうだねぇ」

「ん、銀行強盗に連れて行かないのは良くない。私だけでも連れていくべき」

「シロコ先輩、文句言うところそこなの…?」

 

■■■■■を心配してなのか、それとも単に銀行強盗がしたいだけなのか、真意がさっぱり分からない発言だ。

 どういう教育があればこんなアウトロー的な思考になるというのか。それでも乙女らしい感性があるのだから、そこら辺がギャップなのだろう。

 ヒフミの唇から指を離し、周囲で騒がれていないかを確認してほっと胸を撫で下ろした■■■■■は、再びたい焼きを頬張った。

 

「んぐんぐ……ヒフミは、ブラックマーケットについてはリサーチ済みなんだよね?」

「は、はい。闇銀行はブラックマーケットの中でも特に大きな銀行の一つ。なんでも、キヴォトスで行われる犯罪の15%の盗品があそこに流されているとか……」

「そう。強盗に誘拐に横領、そんな犯罪で得た財貨が違法な武器や改造に使われ、また犯罪が起きて財貨を得て、また使われる……そんな悪循環を作っている」

「なにそれ、銀行が犯罪を煽ってる様なものじゃない!」

「その通り。このブラックマーケットじゃ、銀行すらも立派な犯罪組織なのさ。けれど、そんなブラックマーケットにも秩序・治安はある。どれだけ黒く汚れていようが、それでも大切にしているものがある。だからそんな奴らに仕事を任せる事もある―――」

『お話の途中すみません! そちらに武装した集団が向かうのを確認しました! まだバレてはいない様ですが……』

「ほらね」

 

 それくらいは分かっていた。碌な事に使わないとは言え、それでも大金だ。護衛の一つは付けて当然だ。

 ■■■■■はすぐに立ち上がり、早く早くと手招きをして、少し離れた場所の建物の影に隠れる様に駆け込んだ。

 ブロロ―――キキィッッ、と大きな車が銀行の前で停止した。

 奇しくも―――()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「今月の集金です」

「ご苦労様、早かったな。では、こちらの集金確認書類にサインを」

「はい」

 

 輸送車から降りた機械頭の男すら、完全に同じだ。これでは言い訳のしようもない。

 書き慣れた様にサラサラと書類にサインを書き込み、

 

「いいでしょう」

「では、失礼します」

 

 事務的な作業を終えた後だった。

 現金輸送車に詰め込まれた現金を全て降ろして、車は去っていった。

 

「え……あれ、あの人って」

「あれ…? は、なっ!? あいつ、毎月うちに来て利息を受け取っている、あの銀行員じゃない…」

「うへー……先生の言う事は正しかった訳だねー」

「え、えぇっ!? じゃあ、本当にカイザーローンに借金を…?」

『車も間違いなくカイザーローンのものです……』

「カイザーコーポレーションは合法と違法の境界(グレーゾーン)を渡り歩く多角化企業だ。トリニティにも進出して、確か『ティーパーティー』も目を光らせていた。それだけの相手って訳さ」

「『ティーパーティー』……あのトリニティの生徒会が、ね。相当だね」

 

 キヴォトスにおいてもかなりの歴史を持つトリニティ、その生徒会である『ティーパーティー』が目を光らせている。

 アビドスの古参であり、その実情をよく知るホシノだからこそ、『ティーパーティー』が目を光らせている事の意味、その重さを理解出来た。

 

「先生の言う通り、完全にクロだね。私たちが支払った現金は全て、この闇銀行に振り込まれていた」

「私たちはブラックマーケットに犯罪資金を提供してたって訳…? ふざけんじゃないわよっ!」

 

 アビドスの面々が重い顔を浮かべる度に、■■■■■はその目を鋭くして闇銀行の方を睨み付けた。

 忌々しい。許されるのなら、今この場で『霊的蹴たぐり』を使用して航空ビッグバン爆弾で銀行を丸ごと破滅に追いやりたい。

 だが、それは駄目だ。これはアビドスの皆の為に企てた作戦でもある。彼女達が行うからこそ、この強盗には意味がある。

 

「という訳で、さっきサインした書類を手に入れる事。それが私達の目的だ。皆、準備はいいかい?」

「ん、勿論」

「ここまで来たらヤケよ! 好き放題暴れてやるわ!」

「これはこれで楽しそうですね〜☆」

「おじさんも張り切っちゃおうかなー」

『全力でサポートします! 皆さん、頑張ってください!』

「え、えっ? あの、私は……」

「ヒフミは……うん、ヒフミも一緒にやろうか!」

「えぇっ!? や、やるって、もしかして……」

 

「私達と一緒に、強盗犯(共犯者)になってよ!」

「――――――えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?」

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