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1
なんで断ったんだろうなぁ私……陸八魔アルは、事務所の机に項垂れたまま流れる様に後悔の様子を見せつけていた。
自分でも中々に様になるセリフを言えたと思う。あの時は、
(あれ? 今の結構アウトローっぽくない!?)
と自分でドヤっていたものの、しかしいざ事務所に帰って改めて振り返ると、寝返った方が仕事的には断然楽だったと凄まじい後悔の念が襲ってきた。
仕事は失敗して、しかもまだ依頼人にそれを報告する事も出来ていない。相手はあのカイザーPMCの
有り金はほぼ無し。底を尽きかけている。もはや使えるかすらも怪しい程度の端金など、無いも同然と言われても押し黙る他にない。
■■■■■からの提案は、正直に言えばかなり、いやとても魅力的なものだった。そもそも、あの先生が相手となる以上、自分達には勝ち目など一切として存在しないのだ。
魔術と科学を交差する者。ファンタジーとリアルを渡り歩く例外の中の例外。まだその全貌を見た訳ではないが、少なくともアレはこの世の理というものからかなり身体が逸れた存在だというのは、彼女にも理解出来た。
しかし、凄まじいメリットが得られるそれを彼女は断った。便利屋という組織の社長として、ポリシーとして、プライドとして、それを断ってしまった。
「はぁぁぁぁぁ…………」
「社長、ため息デカイ。そんなに後悔するくらいなら最初から受けとけば良かったのに」
「し、仕方ないじゃない! 何でも屋として、そう簡単に雇い主を変えられないし、何よりそんな事したら信用が無くなるでしょ!」
「でもー、このままだとそもそもの仕事だって満足に立ち行かなくなるよね?」
「ふぐぅ……」
金は底を尽きかけで仕事は失敗。こんな状態では次の仕事を貰えるかすらも分からないし、仕事をする為の補給だって儘ならない。
はっきり言って、お手上げだった。或いは袋小路だった。マジでどうしたものか……アルは真剣に頭を抱えていた。
「ど、どどどうしましょう!? やっぱり殺した方が良かったですか!?」
「落ち着いて、ハルカ。アレにはどうやっても勝てないよ、確実に。もし勝てたとしても、それは勝たせてもらっただけ」
「底知れなさがすごいよねぇ、先生って! 何でもお見通しで、その上で遊ばせて、最後にぎゅって何もかも握り潰しそうな感じ。まさにフィクサー!」
あながち間違いでもない評価か。ムツキの■■■■■への評価は、奇しくも元の世界における彼への評価と大して変わらなかった。
■■■■■=■■■を魔術師として一言で表すとすれば、『未知数』だ。衰退した魔術を全盛にまで復興させ、オカルトファザーとすら呼ばれた男が有する神秘の数と強さは、まさに底が知れない。
こと魔術においては、■■■■■を相手取ればアレイスターですら手数が不足する程だ。彼を相手にして優位に立つカードを手にするという前提条件が、まずそもそも困難極まるのだ。
だからこそ、彼を味方に付けられたのはアレイスターにとって幸運だった。彼が居なければ、あの時点からコロンゾンに全滅させられてもおかしくはなかった筈だ。
勿論、彼女達がその事を知っている訳もない。が、■■■■■を敵に回すというのは、それ程までに無謀で勝機が欠片も見出せないものなのだ。
「どうする、社長? もうお金も全く残ってない訳だけど」
「このままやったって勝ち目ないよねー。まぁ、数集めても結果同じだと思うけど」
「や、やっぱりあの時殺した方が…!?」
「ハルカちゃんハルカちゃん、無限ループになってるよ☆」
やっべぇマジでどうしよう? 頭痛の種は全く取り除かれず、何ならそのまま成長していってもはや芽が出てきそうだ。
しかもさらは畳み掛けるのであれば、便利屋68は―――未だ依頼主に報告をしていないのである。
『私達は仕事に失敗しました、大変申し訳ございませんでした』の連絡を入れていない、というそれが、仕事人としてどれだけ重要な事であるかなんて分かり切った事。
信用を丸々失うかもしれないそれを続ける訳もいかず、しかしかと言ってそのまま懇願するにもアウトローとしてのプライドが許さない。
悩みに悩み、打開策はないものかと頭の中を探ったり回したりするものの、結果はやっぱり何も無い。文字通り万策尽きた状態だ。
「くぅっ…仕方ない、皆ちょっと静かにしてて。今から
ジリリリリっっっっ!!!!!! と、受話器が振動した。
(うそぉぉぉぉぉ!?!?!? 向こうから掛かってきた!? せめてこっちから掛けたかったのに向こうから来ちゃったぁ!? 終わった、もうこれ終わったぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!)
ビックリし過ぎてキャラ崩壊が起きてしまった。彼女特有のあの顔である。いつ見ても飽きない顔だ、愉悦。
まぁそれはさておくとして、電話は電話である。
「はははははい、こここここ、こちら便利屋68です」
『……随分と声が震えている様だが?』
「な、なんでもないわ! 気にしないでちょうだい!」
『ではそうさせてもらおう。それで、依頼の方はどうなったのかね?』
「そ、それはぁ……」
答えようとして、つい言い淀んでしまう。
自分達は失敗しました、と正直に言うだけだというのに、しかし人間というのは如何せんそんな簡単な事が出来ないものだ。
プライドだとか、恐れだとか、そういうのが邪魔をして、自分の失敗をどうにか誤魔化そうとする。仕事に取り組む人間ならば、誰もがした事のある経験だろう。
便利屋という仕事をしてはいるものの、しかし結局のところ彼女達は未だ学生の身である。社会経験なんてからっきし、上下関係なんて理解し切っている訳でもない子供には、失敗の白状なんて難しい。
だが―――それを見透かされていた場合は、また異なる形になる。
『完膚なきまでに叩きのめされたのだろう? 予想通りだ』
「へ?」
『良い偵察役になってくれた。だが、失敗は失敗だ、報酬は払えん。ついでに言えば、今後頼る事もないだろう。ではな』
「ちょ!?」
がちゃん、という音の後には、通話が切れた音だけが残った。
……やべぇマジやべぇ。どうしようこれ。怒っている様な雰囲気ではなかったものの完全に失望されてしまっている感じ満々じゃんというか今後頼らないとか言われちゃった。
え、終わり? 便利屋68営業終了のお知らせ不可避コレ?
「……どうする、社長?」
「……」
ただひたすらに、沈黙。
陸八魔アルは、猛烈に不貞寝したくなった。
2
と、これが事の顛末である。
さて、時は戻り……というのは、少し正確ではないか。あれから少し進んで、と表現すべきだろうか。
便利屋68は文字通りの危篤である。別に彼女ら自体が死にかけている、とかそういう訳ではないので、ちょこっと語弊があるかもしれないが、まぁそこはご愛嬌だ。
結局あの後、間抜け面がお似合いの社長さんは融資を受ける! と自信満々に宣言して、現在進行形でブラックマーケットの闇銀行へと踏み込んでいた。
のだが……
「申し訳ありませんが、便利屋68様は融資を受けられません」
「な、な――――――なんですってぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!?!?!?!?!?!?!?!?」
まるでデジャブの様に、間抜け面と叫びが突き出てきた。銀行の中というのもあって、いきなり大声を出したお客様に色んな人―――大体が二足歩行の犬とか猫とか、ロボットの類である―――からの視線が一気に集まった。
お客様、中ではお静かにお願いしますという銀行員の注意なんてお構い無しに、アルはバンッ! と机を強く叩いて問いただし始めた。
「ど、どうして融資を受けられないのよ!?」
「理由と致しましては、お客様の会社、或いは組織が
「し、しっかり稼いでるわよ! まだ依頼料を回収出来てないだけで……」
「それと、従業員は社長を含めて4名のみですが、室長に課長、そして平社員……肩書きの無駄遣いでは? 会社ごっこでもしているのですか?」
「そ、それは……肩書きがあったほうが仕事の依頼を……」
「あとですね、必要以上に事務所の賃貸料が高いです。財務状況に合った物件を見つけていただかないと」
「ちゃ、ちゃんとしたオフィスのほうが……仕事の依頼を……」
「…………」
ごにょごにょとするアルに、銀行員は「うわぁ……マジかこの人…社会のこと何も分かってねぇガチの子供じゃん……」と言わんばかりの困り顔である。呆れ通り越して困ってしまっている。
いやまぁ、そりゃそうもなるか。だってあまりにも会社としても組織としても破綻しているんだもの。ぶっちゃけ『社長』なんて肩書きが本当に無駄遣いでしかない。少なくとも銀行員はそう思っている。
従業員は少ない上に賃貸料は財務状況に見合わずバカ高いし、それを補う為の依頼料が完全に破綻してしまっている。よくもまぁこれまで仕事してこれたなと、逆に驚きなくらいだった。
「ひ、一先ずはより堅実な職に就いてみては如何でしょうか? 日雇いや期間工など、手っ取り早く始められるものもありますよ?」
「やめて慰めないでっー! それ余計に心苦しくなるから!」
流石に哀れに思えて来たのか、ブラックマーケットの銀行員が普通にアドバイスを向ける始末だった。なんなら仕事を紹介して差し上げる勢いですらあった。
なんて情けない……アルは深く溜息を吐いて、頭を悩ませる。
(……キヴォトスいちのアウトローになるって心に決めたのに、私は……)
彼女にとっては、それが夢だった。それこそが、このキヴォトスで便利屋を開く理由だった。
彼女はゲヘナの生徒だが、しかしそれにしては、他のゲヘナ生徒達と違って悪魔らしい要素が薄く、それでいて心優しい女の子だ。だからこそ、『アウトロー』というものに強く憧れていた。
裏で生きながらも義理を守り通し、しかし仕事はクールに片付ける。いざとなればギブアンドテイクだって辞さないが、己のプライドは貫き通すカッコ良さ。
(私が望んでいるのはこれじゃない……何事にも恐れず、何事にも縛られない、ハードボイルドなアウトロー……そう、なりたかったのに……)
今や、そんな姿は微塵もなかった。融資だのなんだの、そんな事に悩まされてばかりの、社会を知らない女の子だ。
(はぁ……私に、ブラックマーケットを敵に回す勇気があれば―――)
本当に、情けない。いっそこの場で涙でも流してやろうか―――そんな風に思った直後の事だった。
バッ! と、全ての明かりが一気に消えて、暗闇と騒音が周囲に訪れた。
「えっ、えっ!? なに!?」
「て、停電!? 何事ですか!?」
銀行のブレーカーが落ちたのか、停電が発生した。
ババババババッッッッッッ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!! と、灼熱が籠った轟音が雷鳴の様に連なった。このキヴォトスでは、誰もが聞き慣れている
「ぐわっ! ああああっっ!!!」
「うわああっ!」
「な、なにが起きて……うわゃっ!?」
ザザザザザザッッッッッッ!!!!!!!!!!!!!!!!! と、まるで風が一息に纏められたかの様な雑音と共に、金属であったであろうものが散り散りになった。
その音を、彼女達は知っている。だって実際に目にして、実際に
それを使えるのは、このキヴォトスでただ一人。
パッ! と、電源が復旧して、深淵の中に一筋以上の光明が突き刺さり、
「全員その場に伏せなさい! 持っている武器は捨てて!」
「言うこと聞かないと、痛い目にあいますよ☆」
「あ、あはは……皆さん、ケガしちゃいけないので……伏せてくださいね…」
覆面付けた制服姿の武装少女達とそれに伴う白髪グラサン青年がドアップしてきた。なんだこの絵面は!?
まぁ、ご察しの通り、ガチで銀行強盗を実行しやがったアビドス廃校対策委員会とその顧問の■■■■■先生御一行様である。
「強盗だ、金を出せっ! くーっ、こういうの1度言ってみたかったんだよねー! やっぱキヴォトスは最高だなって思ったけど考え直すと全然透明じゃないね? 透き通る様な学園生活って何だっけ?」
『
「それもそっか。というか、なんで君まで覆面被ってんだよ。君にはその天動説全肯定アピール満々のとんがり帽子があるでしょ」
『別ニそんなつもりハ欠片も
「覆面似合わねぇなぁ……」
タブレットの中だというのに、ノリに合わせてアンナ女史までもが覆面姿だった。競泳水着の上に白と水色を貴重にした制服を着たとんがり帽子の女性が覆面を被っている姿は、何ともまぁシュールなものだった。
ダセェ、絶妙にダセェ。素が綺麗な顔してる彼女でも、流石にここまで行くとダサい以外の言葉が思い付かなくなってしまう■■■■■。やっぱ女は顔出しが良いと再認識させられた様な気がした。
『そう言うセンパイこそ、全く変装して
「皆の分で覆面無くなっちゃったから仕方ないだろ。まぁ、ほら、私にはこのグラサンがあるし? 問題ないでしょ、多分。仮に問題があってもどうせすぐおさらばするから大丈夫だし☆」
『教師ノ台詞じゃあり
「はいはいセンパイですよ」
『彼処ニ居るの、便利屋ノ皆様じゃあり
「うそマジで???」
ぐるりと周囲を見渡せば、驚き顔のアルとニコニコ笑ってるムツキ、困惑のカヨコとハルカの姿がソファにあった。
うせやろ……■■■■■は唐突に叩き付けられた再会に思わず目を逸らした。
「うーわホントじゃんタイミング悪過ぎんだろ。あの子はあれか、トラブルに巻き込まれちゃう系体質なのかな? つかじゃあ俺の正体バレてんじゃん。めちゃくちゃオジギソウ使っちゃったんだけど。え、どうしようこれ? シャーレの先生が銀行強盗に加担した所を出されたら流石に言い訳出来なくね?」
『言い逃れノ仕様も
「心の底から見たくなかった現実を直視どころか眼球に突き刺してくれてありがとうくそったれっっっっ!!!!!! あーあもういいや認識阻害の魔術使っちゃおう! おらさっさと準備しろよテメェら! その服散り散りにして醜態晒すぞォ!?」
「脅しが最低過ぎるっ!?」
こうなったらヤケクソである。もうどうせ何やってもバレるなら全身全霊全力全開で暴れまくってやるが吉というものだ。多分。
とは言え、結局のところ魔術を使うには至らないのが実際の所だ。『飛沫』のお陰で、魔術で発生する『火花』は全て■■■■■に向けられて炸裂する。一つでも使えば、それだけで内臓が爆発という壮絶な応報が待っている。
だからこその科学だが、しかしそれを女子生徒に向ける気があるか? と問われると、そんな訳ねぇだろと声を荒らげるのが■■■■■という男だ。
「ほらほら、早くしなよ。出ないとリーダーのファウスト(ヒフミ)さんが怒っちゃうよ〜」
「ええっ!? リーダーですか!? 私が!?」
いきなりのコードネームと役職指名にヒフミが驚いた。リーダーなんて役職から最も遠い性格なのにどうして私なんですか!?
「我らが覆面水着団のリーダー、ファウストさんです! ちなみに私はクリスティーナだお♧」
「合ってるの覆面だけじゃん名前の通りなら水着見せてくれよ水着ぃ!!!!! いや勿論制服も良いんだけどもね!? でもやっぱり男の子としては女の子のしかも発育のよろしい娘達の素晴らしい北半球と南半球はしかと目に焼き付け『えいっ☆』ちょまて今強盗ちゅぐぶぼっ!?」
コリもせずセクハラ紛いの発言を投下した最低教師に、後輩からの怒りの鉄拳が空間を超越して飛んで行った。本当にブレない男ねぇなコイツ。
しかし覆面水着団て。覆面はともかくとして、水着団の要素はいったい何処から来たのやらは、実際のところ不明な点ではあった。
まぁ、
ブルー……もとい、シロコはまるでやり慣れているかの様に自然にアサルトライフルを審査員に突き付けながら、急かす様に言葉を紡いだ。
「変な動きをしたら撃つよ。早く指定した書類をこのカバンに詰めて」
「は、はい! 書類でも金でも延べ棒でも何でも詰めますから命だけは!」
「い、いや、お金は別に……書類を…」
「ど、どうぞっ! 詰め込めるだけ詰めました! 好きなだけ持って行ってくださいだからどうかお願いします撃たないでェェェェェェェェ!!!!!!!!!」
「ん、んぅ……」
あまりの気魄に、銀行強盗の主犯格(計画的な意味で)であるシロコも思わず困惑してしまっていた。
ただ書類を入れるだけで良かったのに、先程まで片手だけで持てそうだったバッグがなんかめっちゃ重たそうになっている。
(すげぇ入ってんなあれ……多分億くらい? しかもアレで全部じゃなさそうだし…流石は闇銀行って所か)
伊達にこのキヴォトスで経営されている闇銀行ではない。それもカイザーコーポレーションが関与しているものであるなら、尚のこと。
■■■■■自身、そういった
アレイスターの『学園都市』もそうだ。あの学園都市は、キヴォトスのそれよりも闇深く、穢らわしく、おぞましいばかりだった。
仕組みは分かる。理屈も理解している。そういう仕組みと理屈の下、成り立つ社会があると。だが、
「気に食わねぇ」
アビドスの面々の努力全てを、青春の全てを返済に向けた全てを、容易く無下にした事に納得が出来るのかと言えば、決してそんな訳がなかった。
「しーろーこー、ブツは回収出来たかーい?」
「ん!」
「よーし、じゃあ帰るよー皆! 帰るまでが強盗だからね!」
「そんな『帰るまでが遠足』みたいに言わないでよ! これ強盗だよ!? れっきとした犯罪なのよ!?」
『セリカちゃん、それ、強盗してる私達が言う台詞じゃないような……』
「ほら早く帰るよー。じゃないと―――巻き込まれるよ」
■■■■■の顔から、笑みが消えた。
ご都合の良い理由ならある。どんな犯罪も真っ当な理由があれば正当化されるのが法の穴だ。うら若き少女達が稼いだお金をクソッたれな事業に融資する銀行など、ぶち壊して損などない。
「っ! 皆、逃げるよ!」
「へっ!? ちょ、待って!」
「あはっ! ちょーやばそ〜♪」
「えっ、えっ!?」
そこに一切の躊躇は存在しなかった。
ぱちん、と乾いた音が鳴ってから数秒の間すらもなく、
ザザザザザザザザザッッッッッッッッッッッッ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!! と、認識不可能の科学の嵐は、まるであるもの全てを食い荒らす蟲達の様に猛り出した。
3
「いやー、派手にやった! これこれ、たまには無双気分ってのを味わいたいもんだよね、やっぱ幾つになっても男の子だからさ!」
「バカじゃないのバカじゃないのバカじゃないのっっっっ!?!?!? ほんっっっとにバカじゃないの!?」
「はいごめんなさい別に軽いノリでやった訳じゃないんですだから物騒なソレ降ろしてくださいセリカさぁぁぁぁぁぁぁぁん!!!!!!!!!!!!!!!」
銀行から脱出して早々、いきなりとんでもない事態を引き起こした■■■■■=■■■の眉間にセリカのアサルトライフルが挨拶をぶちかます寸前だった。
分かりやすく説明すれば、という前置きすらもはや不要なまでの単純行動―――つまりは、『オジギソウ』による闇銀行内部の徹底的な掃討。理解を早めるなら『蹂躙』である。
と言っても、周囲の生徒や職員に被害を出したかと問われると、それは否だ。■■■■■はご丁寧に銀行の機器だけを綺麗に破壊しただけで、人間にはその科学を振るわなかった。
だが、言ってしまえば、やり過ぎだった。結局はそれに尽きる。
確かに、アビドスの面々も闇銀行を許すつもりはなかった。当然だ、自分達の苦労を全て意図的に水泡に帰していたのだから。
けれども、それでもあそこまで破壊の限りを尽くす気があったかと言うと、決してそうではない。だってアレでは、強盗どころではなくなってしまうから。
『宣戦布告』も良い所だ。『私達は闇銀行をぶち壊しました、それが出来る戦力があります』と胸を張って宣言したのと何ら変わりない。
セリカは勿論、シロコでさえ決して良い顔はしていなかった。
だが待ってほしい―――■■■■■はそう言葉を紡ぐ。
「何も、ただ書類を奪う為に銀行強盗を提案した訳じゃないんだよ。ターゲットは分散させた方が良いと思ったから、派手にやったのさ」
『その分散というのは……カイザーに対する話ですか?』
「正解。覆面はしてたものの、制服のままだったからね。下手したら簡単にバレてた所だけど、私が確認した限りじゃあ、あの銀行の中にカイザー関連の職員は居なかった。つまり、私達がアビドスである事は知られてない訳だ」
「『覆面水着団』という謎の集団によって、銀行は機能停止に陥った。となれば、カイザーは嫌でもその集団に目を向けざるを得ない、必然的にアビドスへの注意が僅かに散漫化する……って事だね」
敵が多くなれば、その分だけ注意すべき点が増えていく。
今のカイザーはアビドスの砂漠にあるであろう何かに必死だ。そんな中で、銀行が機能停止に陥ってしまったとなれば、手を止める事はなくとも、会社としてそれを確認せざるを得ない。
そうなれば、カイザーは僅かながらではあるものの、必然的にアビドス廃校対策委員会から目を離す。つまりは、その間に徹底的な計画を練る時間と実行準備の時間が作れるという訳である。
Good―――■■■■■は良い顔で親指をサムズアップした。
「ホシノ大正解。後でクジラのストラップをあげよう」
「ほんとっ!? 言ったからね!? 言質取ったからね先生!!」
「あれー? 『子供っぽいよー』とか言われると思ったけどめっちゃテンション高ぇなオイ。でも可愛いからOK! もうぜんっぜんあげちゃう! 何なら水族館連れて行ってあげようかなー!」
「やったー!」
カワイイ。なんだこの可愛い生命はまさかここは桃源郷か???
これまでが『うへ〜』な表情と真剣な表情ばかりだったのもあって、その実に年相応な可愛らしい表情に、■■■■■も驚愕を隠せなかった。
これが本来の彼女なのだろう。なんて可愛らしいんだ…まさか天使か!
「はい可愛いよし決定です今度アビドスで水族館に行きます異論は無いねよし無いねレッツゴー!!!!!」
「早い早い話が早いっ! まだ利息云々の問題解決してないんだってば!! まずはそれを解決してからでしょ!?」
「おっとそうだった。危ない危ない―――億単位のお金を置いていく所だったね」
「……………………へ?」
■■■■■から投下された爆弾に、その場で全員が固まった。
嘘だろ誰も気付いてなかったのかよ? ■■■■■は逆に驚きながら、シロコが持っていた黒いバックから証拠となる書類を取り出して―――その中身をさらけ出した。
金、金、金。バックの中は、これでもかと乱雑に詰め込まれた札束の山で埋め尽くされており、その金額はおそらく億単位。人の一生を遊びで使い切れる程の大金が、そこにあった。
「な、な……!?」
「し、シロコちゃん、遂に…!」
「ち、違う。向こうが勝手に詰めた。私は書類だけって言ったのに……」
「誰しも命の危険が迫れば、極端にしか物事を考えられなくなるものだよ。それがこれさ。いやー、しかしマジで大金だな。これでも借金の半分にも満たないとか額可笑し過ぎんだろ」
いつ認識しても思わず失笑が零れる程の借金額。人間の一生涯で稼げるであろう大金ですら持て余すと言うのだから、末恐ろしい。
だが、勘違いする事なかれ。■■■■■は決して貶しているつもりなどではない。寧ろ、かつてのアビドス生徒達のその必死さに一種の感動すら憶えていた。
それ程までの大金を抱えてまで、自分達の故郷をどうしても蘇らせるたかったのだろう。汚い大人の手を掴んでまで、逃げ出したくなかったのだろう。
それでも届かなかった。逃げざるを得なかった。自らの命、立場、家族までもが危険に晒されるとなってしまったのだから。
だからこそ、何としてもアビドスを復興させなければならない。この大金は僅かばかりではあるものの、しかし復興の確かな一歩を踏み出すに足る資金となる筈だ。
「お、億単位のお金……トリニティでも、こんな金額は見た事ありません」
「寧ろあったら流石に怖い所だけどね。さて、それは置いておくとして、ここで一つ質問です―――君達、もといアビドス廃校対策委員会の諸君は、この大金をどうするつもりだい?」
「そ、そんなの決まってるじゃない!」
「そうだね〜」
「
意見が綺麗に割れた。セリカはえっ? と驚いて、ホシノはあちゃ〜と、分かりやすい困り顔を浮かべた。
「まぁ、そりゃそうなるよねー。でもセリカには悪いんだけど、この場合だと正解なのはホシノです」
「いぇーい」
「な、なんでよ!? だってこれ、闇銀行で使われてたお金なのよ!? これがまた兵器の密輸とかそういう悪いことに使われるよりも、私達が使った方が為になるじゃん!!!」
「私も、セリカちゃんに賛成です。少なくとも私達が使った方が、悪い大人よりも有効的だと思います」
ノノミもセリカの意見には賛成な様だ。実際、彼女達の意見が間違っているという訳ではない。どちらかと言えば、彼女達の意見の方が筋は通っている。
■■■■■もそれは分かる。だからこそ真っ向から否定するつもりなど無かった。
だが―――二人のそれは
「んー、言いたい事は分かるんだけどね。けど、
「ん。先生とホシノ先輩に賛成」
『私もです。……お二人の仰りたい事が、何となく分かる気がします』
「アヤネはともかく、シロコまで賛成なのはちょっと意外だったな……まぁでも、分かってくれてるなら何よりだよ。じゃあホシノ先輩、可愛い後輩達に説明してあげて」
「もちろんだよ〜」
大切なのは、使った後の事。
その大金を使ったとして―――それがいったい彼女達の思考に、どんな悪影響を及ぼしてしまうのか。ホシノは一人の先輩として、それを説き始めた。
「二人の言い分が分からない訳じゃないんだよ? 私だって、悪い大人に使われるのは嫌だし。けどさ〜……
「ど、どうって……」
「
「っ、それ、は……」
結局のところ、行き着くのはそこだった。
どんなに大金であろうが、元が綺麗な金だろうが、しかし所詮は銀行強盗という悪事を働いて手に入れた資金でしかない。
もしこの大金に手を付けてしまえば、後は泥沼だ。アビドスの為だとか、悪い大人に利用されない為だとか、そんな言い訳をし続けて悪事を働き続ける羽目になってしまったら?
下手すればアビドスにさらなるヘイトを向ける事になる。仮に復興に成功したとしても、それが白日のもとに晒されてしまえば、また同じ目に合うのは必然だった。
いや、そもそも―――そんな復興では、
「私は、可愛い後輩達にそんな汚れ仕事させたくないな〜。ね、シロコちゃん?」
「ん。先生も」
「勿論だとも。幾らキヴォトスと言えども、犯罪は犯罪だ。私は、可愛い生徒達を犯罪者にするつもりなんて毛頭ないよ」
「う、うぅ…! あー、もうっ! わかった、分かったってば!!!」
こーさん! セリカは投げやりに、そう言い放った。何処か名残惜しさを残す表情には、しかし、確かにその通りだと納得している冷静さもあった。
彼女だって、アビドスを愛している生徒の一人だ。その末路がどれだけ惨憺なものなのかなんて、想像はつく。
先輩達はそんなアビドスを喜ばないし……先生だって、生徒がそんなことをするのを、喜びはしないよね。
「あーあ勿体ない! こんなにあったら、柴関ラーメンがどれだけ食べれる事か!」
「あははっ、それだと太っちゃいますよ☆」
「た、例えの話よ!」
「何を心配する事があるんだ別に太ったって良いじゃないかいや寧ろ少しくらい肉付きがあった方が」
「アンナ先生、お願いします! 1発キツイの!」
『
画面越しでニッコリ笑いながらぐーぱーと拳を握り開きしてる水着制服JK系魔術師。もう完全に彼女を味方に付けてしまっている様だ。
「ちょい待て俺さっきも銀行内でやられたんだぞっ!? 1日にそんな何発もやられたら流石に俺もきつ『えいっ☆』おい話最後まで聴ぶほぁっ!?!?」
「先生ー!? 大丈夫ですかっ!? 今完全に顎にヒットしましたよね!? いつもの顔面直行じゃなくて真下から顎目掛けての全身全霊のマジブローかまされましたよねっ!?」
『何ノ心配もいり
『それだけで片付けていいんですか!? 白目剥いちゃってますよ!?』
『日常です☆』
『流石に可哀想では!? 先生も悪いんですけども!』
「出来ればそこは味方してほしかったなぁ……」
無理難題にも程がある。自分がどれだけセクハラをしてきたのか数えてみろ変態教師め。
ビリビリ中学生から花冠中学生、果てはスカート捲りの達人から巨乳ナイスバディな目が椎茸中学生にまで、所構わずセクハラ働いた男に味方など居るものか。
とまぁ、そんなこんなでいつも通りの漫才が始まりつつあった区切りで、
「み、見つけたわ!」
―――アウトローに憧れた少女が、まさに憧れの存在へと近付いた。