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1
■■■■■はまたもや見知らぬ場所に立っていた。
つい先程までは薄暗いけど綺麗に整えられた研究室みたいな地下に居たというのに、いざ手渡されたタブレット端末に接続コードを入力して起動してみれば、また知らない場所だ。
綺麗な青空の下に広がるその空間は、一言で言えば壊れ掛けた教室だ。壁が一部ぶち破られており、外の世界は澄んだ青い空と海で構成されていて、なんか机と椅子が積み立てられている。
これだけ見れば、何処かポストアポカリプス的な世界に取り残された神秘的な景色に見えない事もないのだが、しかしそれはこの教室に居る
今日だけで二度知らない場所に飛ばされる(一度目はキヴォトス、二度目は此処)側からすれば、堪ったものではない。
天国とか地獄とか神話とか新天地とか、そういう現実離れした場所は何度も見たし実際に体験したけれど、だからと言って慣れるかと言われればそれは否だった。
しかもそれに加えて―――死人と出会うなど、何とも夢みたいな話だ。■■■■■はそう思い、ニコニコとしている本人を前にして隠す事無く深いため息を吐いた。
「無礼を承知と言うかもう敢えて自分から色々と踏み抜くのを自覚して発言するけどアレだけ退場する気満々の雰囲気出しといてなんで君生きてんだよ流石にあの老骨が可哀想になってきたよ?」
「おやおや、感動の再会だと言うノにのっけから酷い言い様ですねぇ」
「いや嬉しいよ? 君とこうしてまた会えた事も会話出来る事も嬉しいんだけどさ、それはそれとして疑問は疑問だろ。本当になんで生きてんの?」
嬉しいけどなんで? という複雑な感情に追い回された気分の■■■■■は、まじまじと目の前の
円上に鍔の広い縦長帽子、特徴的な丸渕の眼鏡、白とオレンジを貴重としたセーラー服に水色のパレオという何とも奇抜な格好をした、およそ18歳くらいの少女。
少し、いやかなり若返っている。めちゃくちゃ若返ってなんかそれを謳歌していらっしゃる。ニコニコとした笑顔がなんかめっちゃ機嫌が良さそうに見えるのは気の所為ではない筈だ。
「んふ☆ ではなんて言って欲しいノですか、■■■■■センパイ。ぶっちゃけ
―――アンナ=キングスフォード。
かの『黄金』の代表たるウェストコットやメイザースに師事したとされ、さらにはあの『窓口』の一人たるアンナ=シュプレンゲルの原型とも噂される伝説の魔術師。
悪女たるアンナ=シュプレンゲルに対抗する為に、再び表舞台へと顔を出したアレイスターが整えた秘策。最高にして最悪の魔術師と評された『人間』であるアレイスターを以てして実力を認めざるを得ない
完全に死んだとされた筈の彼女が、どういう訳か若返って、尚且つ本来なら一人しか居ない筈のオペレートシステムに並んでいるのだ。
「うんやっぱ普通に可哀想だよCRC! いやそりゃいけ好かない奴だしめっちゃ自業自得の黒歴史ありありクソおじ風青年だったけれどもさ! 流石にあんな会話繰り広げた後でやっぱお前と一緒なの腹立つから一人で行けとか鬼畜にも程があるぞお前!?
「では人目ニつか
「ほんっとに酷いなお前!? よくそれで周囲への奉仕の為にとか抜かしたな!? というかなんで学生コス!? めっちゃ若返ってるから気分良いんだろうけど疑問は多々あるぞなんでその豊満な胸と尻と太ももが全然変わってねぇんだよ矛盾してんだろ!? いや個人的にはめっちゃアリなん「えいっ☆」ぐぼぁっ!?」
グーだ。一切の遠慮なく、全力の籠った強烈なグーパンチが■■■■■の顔面に炸裂した。
えいっ☆なんて口から出た可愛らしい言葉とは全く真逆。マジで笑えない威力の籠ったそれは音にもならない神速のストレートだった。顔面が凹むどころか首から真上が吹っ飛ぶくらいの威力だった。
「女性ニ対する言葉じゃあり
「誰の所為だと思ってんの? ったく……はぁ、もういいや。取り敢えず迎えさせなさい」
無遠慮に、■■■■■はアンナ=キングスフォードを抱き締めた。もうなんの躊躇いもなく、まるで子供を抱き締めるかの様に。
よく帰ってきた―――そう祝福する様に。
「あらあら。教師が生徒ニセクハラは今ノご時世では
「死んだと思った後輩が実は生きていて、しかもそのまま地獄で頑張って一人の少年を生き返らせた代わりにまた死んだんだ。先輩として労いくらいはさせろ。たまには他人に褒められろよ、後輩」
「でハ、遠慮なく受け入れ
あまねく人々の努力に報酬を。報われない努力などあってはならない。努力とは即ち当人の必死の結晶であり、例え短いものであろうと確かに築かれた一つの証なのだから。
何より、それが女性の成したものであるのなら尚更、それが報われない訳にはいかない。誰もそれを褒めず、報わないというのなら、私は自らそれを褒め讃えよう。
■■■■■は男女関係なく、努力というものを否定しない。何故なら彼もまた
「……あのー、そろそろ私に触れてくれませんかー? 寝てたらいつの間にか大人の世界が展開されてて入りにくいんですけどぉ……」
「誰この子? 君の補佐?」
「おそらく」
「まさかのいきなり
■■■■■が夢で出会った少女とよく似た少女が、不満を爆発させて声を張り上げた。
2
幻想的な景色が広がる教室は、詰めて言うならばタブレット端末『シッテムの箱』のホーム画面であり、メインOSを自称する少女―――アロナの城の様なものらしい。
つまりそうなると、今の■■■■■は、現在進行形でその肉体も意識もデータの中に入り込んでいるという事になる訳で。
「なに? シッテムの箱には人間を量子化させてデータ領域に引きずり込む機能でも付いてるの? 正直人生で初めての経験だよ」
「そんな機能ついてないですよ!? それに、
より一層訳が分からなくなってきた。■■■■■は、マジでどうなってるんだ…? と頭を抱えて天を仰ぐ。澄んだ青空をこれ程までに忌々しいと感じるのは、後にも先にも今日だけだろう。
確かに自分は此処に居る。どういう理屈かは分からないが、■■■■■=■■■はその肉体も精神も魂も全て同一であり
しかし、アロナが言うには今も画面の向こうの自分はアロナと会話しているらしい。此処に本物が居るにも関わらず、
「ではセンパイはある意味で『スワンプマン』状態ニあると? 『人間』の形してるだけで出来る事が『魔神』ノ領域ニ片足どころか腰半分浸かってる様ナ人
「なんで私の知り合いは口を開いて間もなく私への罵倒が飛んでくるのかね。本当に不思議で仕方ない。私アレイスターみたいな事何もやってないよ?」
「主に言動ノ問題かと思い
おっとり女史高校生からの鋭い指摘が飛んできた。ぐうの音も出ないド正論である。
行動は兎も角として発言に問題があるのは全くその通り過ぎて何も言えなかった。フォローのしようがない。だってその発言の所為でリンから度々叱られていたのだから。
「じゃあどうしようもないね。女性に対する思いは真摯かつ正直に伝えなければ」
あっさりと反論する事を諦めて、悪びれもなく適当な事言いやがるこの男。或いは馬鹿正直過ぎると言うべきか。
伊達にマリア崇拝だったり女性崇拝の思想展開の著作を幾つも出していないという事か。それにしては随分と女性に対する欲がダダ漏れである。
まぁ、それはそれとして。■■■■■は話を戻す様に、というかと言葉を繋げた。
「それで言ったら話は戻るけど、なんで君が居るんだよ、アンナ女史。アロナ、自分以外のオペレートシステムなんて認識してたかい?」
「―――いえ、そんなシステムは認識していません。先生がシッテムの箱に触れるその時まで、確かにメインOSはアロナだけでした」
「……なるほど。これは中々複雑になってきたね。切っ掛けが私だと仮定したとして、そうなるとどうしてアンナ女史が選ばれたかだね。魔術的な繋がりで選ばれると仮定するなら、アンナ女史よりもアレイスターか弟子達が来る筈なんだが」
■■■■■が『
アレイスターもまた彼の影響を強く受け、自らを■■■■■の生まれ変わり等と称していた過去がある。彼の言葉である『魔術とは意志によって変化する科学である』という言葉も、■■■■■の影響を受けたが故のものだ。
魔術的な繋がりによって人選されると言うならば、アレイスターか、もしくは彼に直接師事した弟子達が選ばれる筈だと■■■■■は考察した。
「あ――――――」
「どうかしましたか、先生?」
だが、ふとそれは消え失せた。あった、見落としが。決定的な見落としが、自分にはあった。
「―――『火花』だな」
「……なるほど。確かニ、
「ひばな? なんですか、それ?」
「アロナちゃん、世ノ中ニハ知ら
「急に怖いこと言わないでくださいよっ!?」
魔術を行使した際に、必ず散るもの。我々が『運命』と呼ぶものの正体。アレイスターと■■■■■にとって最も大切なものを奪った、憎悪すべき絶対悪。
■■■■■にとってそれは、人の意志を歪め、弱め、衰えさせる、破るべき障害だ。絶滅しなければ、撃滅しなければならないソレが、アンナ=キングスフォードを呼び寄せたのだと仮定すれば、辻褄が合う。
何せ彼女は死人だ。状況的にはアレイスターと何ら変わりはない。アレイスターも死ぬ筈だったのが火花の作用によって、大悪魔コロンゾンの肉体へと魂が移る事となったのだ。
死んで消えゆく筈だったアンナ=キングスフォードの魂とそのアンドロイドとしての体が、火花の作用によって『テクノロジー』という繋がりと■■■■■の後輩であり知人という縁によって、シッテムの箱へと入り込んだ。
例え世界が違えども、魔術を行使出来るというだけで気付くべきだった。もしこのまま魔術を使い続ければ、『火花』は生徒達にすら影響を及ぼすかもしれない。
―――巫山戯るな。
「今後、魔術の使用は本当に極力控えなきゃだね。生徒達にまで被害が出ちゃ
『飛沫』。アレイスター=クロウリーが開発した魔術の一つにして、『火花』の落下地点を人為的に操作する事が出来る魔術。
アレイスターよりも前に『火花』に抗い続け、その果てに失敗した■■■■■にとって、その魔術はあまりにも画期的で、希望の光に他ならなかった。
■■■■■程の達人であっても、自分とその周囲15m以内で行使された魔術によって発生した火花しか操作出来ない代物だ。これをたった一人で作り上げたと言うのだから、やはりあの『人間』は天才だと再認識させられる。
「意志は受け継がれるとはよく言ったものだ。
「アレもまた、一人ノ若者ですわ。世界の理
「今でも変わってないさ。
「えぇっ!? 先生、キヴォトスの外に帰っちゃうんですか!?」
「……うん、今更だけどめっちゃ本筋から逸れてるね。そこら辺の話は事態を収集してから話そうか、うん」
長らく置いてきぼりにしていたアロナに多少の罪悪感を覚えたのか、■■■■■は苦笑を浮かべて話を本筋へと戻した。
サンクトゥムタワーの行政権、その復活。それをするには連邦生徒会長の残したこのシッテムの箱が必要不可欠であり、アロナによってそれが可能であるという事。
アロナはドヤ顔を浮かべながら、無い胸を張って断言する。中々に可愛らしい。見た目通りの反応である。
「サンクトゥムタワーの問題は解決出来ます! サンクトゥムタワーのアクセス権を修復しますので!」
「おぉ、流石はメインOS。それじゃあお願い出来るかな?」
「分かりました! 少々お待ちくださいね……」
(ぶっちゃけアンナ女史も出来るんだろうけどアロナの為に黙っておこう)
(一応OSとして居る訳ですし出来
二人は心優しい魔術師だった。無垢な子供から笑顔を奪う様な無粋な真似など出来る訳がない。
今の所、ポストアポカリプス的な教室の中で一人の少女がむむー……と目を閉じて何か念じる様な仕草を取っているという、何ともシュールな光景が広がっているばかりである。
時間にして一分かそこら辺ぐらい経ってから、出来ました! とアロナは良い笑顔を二人に向けた。あらやだこの子めちゃ可愛い。
「サンクトゥムタワーの制御権は無事に回収出来ました。サンクトゥムタワーは、私アロナの統制下にあります。今のキヴォトスは、先生の支配下にあるも同然です!」
「おいおいマジかよ最高じゃねぇかそれじゃちょっとキヴォトスにあるカメラの映像でも」
「えいっ☆」
「ごふがぁっ!?」
「せ、先生ー!?」
また魔術の達人による顔面ストレートが炸裂した。
性懲りも無く発言をするからそうなるのが何故こうも分からないのだろうかと、アンナ=キングスフォードは不思議で仕方なかった。
壁を突き破ってさよならホームラン並の勢いで彼方に飛んでいく■■■■■。文字通り星になった訳だが、数分もしてから■■■■■は何事もなかったかの様に戻ってきやがった。
流石は、黄金の魔術師達の師であるアンナ=キングスフォードをすら後輩呼ばわりする魔術師とでも言うべきか。それにしては威厳が欠片もないが。
「じょ、冗談はさておいて「割りと本気でしたよね?」
ソンナコトナイヨ。と、取り敢えずその権限は生徒会に戻してね……」
「良いんですか? 連邦生徒会に権限を戻しても……」
「勿論。このキヴォトスの在り方を決めるのはキヴォトスの若者達だ」
「部外者である私が制御するなんて、無粋な真似はしてはならないんだよ」
此処は自分の知る
自分はあくまでも部外者。■■■■■=■■■は統括理事長になるつもりなど毛頭無い。キヴォトスを定めるのは、このキヴォトスで今を生きている若者達なのだ。
3
カチッ、と部屋に明かりが灯り始めた。
天井に備え付けられた幾つもの直感型LEDランプが作動し、それまで暗かった筈のシャーレを光が照らす。
制御権が戻った事で、システムの諸々が復旧したらしい。連邦生徒会の直轄組織であるシャーレも例に漏れてはいないのだろう。
■■■■■はシッテムの箱から目線を外し、
「リンちゃん、どう? 復活した?」
「……………先程、連絡が取れました。無事に制御権は戻り、これで前の様に連邦生徒会で行政管理が進められます」
「だいぶタメがあったな今。具体的に言うなら、またリンちゃん呼びしやがったコイツいやだなー無視したいなーだけど無視したらコイツまたお得意の魔術とかいうオカルト使って私の下着覗こうとしてくるから答えなきゃなっていう考えの下にタメがあったね」
「そこまで分かっているなら止めてください、先生」
「いやー、ちょっと難しいね。別にリンちゃんだけじゃないよ? これからも生徒には沢山の愛称付けていくつもりだから」
「……先が思いやられますね」
どれだけ言っても効果が無いなら言うだけ無駄である。リンちゃんと呼ばれる度に連邦生徒会長の顔が脳裏のチラつくが、それは伏せておく。
目の前の男はどうにもそれには似つかない。ワカモの時と言い、普段のちゃらけた雰囲気がまるで嘘であるかの様に鋭くなる。そういう点を含めて、リンは未だ■■■■■を完全には信用出来ていない。
いや寧ろ、出会って数時間程度の大人をそう簡単に信用出来る人間などそう多くない。此処は学園都市キヴォトス、『学園都市』程ではないにせよ多少の闇は蠢いている。そしてそれを掴むのは大人だ。
■■■■■としても、その警戒心に文句を言うつもりはなかった。それくらいじゃないと簡単に騙されるというものだ。
「そこは真面目にやるさ。別に嫌われたい訳ではないし、寧ろ仲良くしたい方だよ私。人との距離を詰めるならまず呼び方からってものだ」
「それが最初から限界突破し過ぎているから引かれますよ、間違いなく」
ぐさりと正論がぶっ刺さった。
なんか見た目が胡散臭そうな大人がいきなり愛称を付けて呼んだ所で不気味以外の何ものでもないのは、まさしくその通りである。
「おぅんまさに正論……誠に痛み入るよ。……さて、雑談はこれくらいにするとして。リンはこれからどうする? サンクトゥムタワーに帰るのかい?」
「本当に切り替えが早いですね……。そうですね、生徒会長の残したものも渡した事ですし、私の役目は終わった様なものですから。戻ってすぐ管理の業務をこなさないといけないので……」
「おうふ……連邦生徒会の多忙さを垣間見ちまった気分だよ。見た目が完全OLのそれで貫禄があるとは言え子供がしていい顔じゃねぇよキヴォトスの行政はどうなってんだ…? いやまぁ、あんな子達が居るくらいだから別に良くはないんだろうけども」
ぶっちゃけ地獄みたいな光景だったのは確かだ。
ヘルメット被った女子生徒にスケバンがライフル持ってヒャッハーしてる学園都市とか、絵面的にも中々お目にかかれない。
アレイスターの『学園都市』でも女性が銃火器持って暴れるなんて決して多くはなかった。学生が暗部であったりするのは別に珍しくはなかったけれども、それとは別ベクトルでキヴォトスは色々とはっちゃけ過ぎている。
そんな不良生徒だけに留まらず、ゲヘナなんて物騒な名前の学園もある程だ。しかも中には超常現象によって学区としての機能を失った学園すらあると言う。そんなキヴォトスを、連邦生徒会という組織だけが行政管理をしているのだ。
その連邦生徒会を束ねる連邦生徒会長が不在の今、代行としてその業務を果たしているリンの苦労は計り知れそうにない。
■■■■■は激怒した。まだ若い女の子が既に労働を経験して疲れ果てているという現実に。
今すぐにでも仕事をせねばなるまいと熱意に駆られ始めていた。
「あぁ、そうだ。折角ですから、シャーレをご案内します。今日から此処が先生の活動場所になる訳ですから」
シッテムの箱を手渡して仕事は完了、ではあるのだが、それはそれとして親切心からリンはシャーレを案内すると切り出した。
■■■■■と生徒達によって取り戻したシャーレ。今後は多くの生徒がシャーレを頼り、そして■■■■■は多くの生徒達の下に訪れる事となるだろう。それだけシャーレという組織が齎す影響と言うのは大きなものだ。
あらゆる規則も罰則も受け付けない超法規的組織。下手して手中に収まってしまえば、キヴォトスの脅威にすらなりかねない特異点だ。
まぁ、彼が先生である限りはそう簡単に墜ちる事などないだろうが。
「お、それはありがたい。いやー、一度で良いからこういうビルみたいな建物に住んでみたかったんだ。仕事とは言え嬉しいものだね」
「魔術師というのは貧乏なものなのですか?」
「いや、私の生まれの問題だよ。わりと貧しい家の出だったからね」
名のある魔術師も最初から豊かであった訳ではない。寧ろ、そういった生まれであったからこそ魔術という道に走ったのだ。
■■■■■もまたその例に漏れず、彼の家は決して豊かなものではなかった。貧乏の家に生まれ、尚且つ病弱な幼少期を過ごし、しかしそこから大成したのが■■■■■である。
他で言うならばメイザースか。あの魔術師は別に生まれが貧乏だった訳ではないが、普通の人間として生活費やら何やらを全て魔術の研究だったりにつぎ込んだろくでなしだった。
その点で言えば、■■■■■は他の魔術師に比べればわりと良識的な生活を送っていたとも言える。
「これでも頭は良かったから、そこら辺は何とか出来たんだけど、それから先は行ったり来たりだった。挙句の果て死に切れず田舎で隠居決め込む始末だ」
「妥当ですね。聡明な人らしい発言は今の所ゼロですし」
「自業自得だろうけど生徒からの信頼度がゼロスタートとかマジ厳しい。何なの? アンナ女史と言いヒューズと言いリンと言い眼鏡キャラは揃いも揃って私に対する当たりが厳しい呪いか何かでもあるの? 先生かなり悲しいよ?」
「此処がシャーレのオフィスです、先生」
「遂にしっかり無視される様になってしまったっ…!!!」
残当ここに極まれりである。
というか最初から自業自得なのを分かってるのに何なの?もクソもない。当たりキツくされたくないなら言動を直せという話だ。
しかしこの男は直さない。何処かズレたプライドと信念があるのだ。
まぁ、それはそれとして。
なんか子供が書いた様な可愛らしい張り紙が貼られた扉を開けば、そこには綺麗なオフィスが広がっていた。
広い空間に設置された大きな机の上にパソコンと積み重ねられた書類。壁には予備、或いは護身用の銃が幾つか掛けられてあった。
ポットだけでなく電子レンジもあり、普通に此処だけでも寝泊まりが出来るくらいには良いオフィスだ。■■■■■はおぉー! と、まるで少年の様に目を輝かせて興奮気味になっていた。
「ひろーい! いや本当に広い! こんな綺麗な場所で仕事出来るとか最高だよコレ! 夢が一つ叶ったー!」
(なんか子供みたいにはしゃいでる……本当にこの人の事がよく分かりませんよ生徒会長……)
「日本の田舎生活も全然楽しかったけど、やっぱ都会も良いね! アレイスターなんかとは違って良い場所手に入ったぞー! 年がら年中ビーカーの中とかイカレてんだろあの馬鹿は! ちょっとこれは自慢出来るぞよし早速写真取ってあの少年に送ろう! さぞかし羨ましがるだろうな!」
『なんか勝手に消えたと思ったら豪華なビル一本丸ごと所有して可愛らしい女子生徒達とキャッキャウフフな学園都市生活とか羨まけしからげふんげふんちょっと上条さんもたまには別の学園都市を見てみたいなーとか思ったりしてるんですよね是非とも連れて行ってくださーい■■■■■せんぱーい!!!!』
なんか見えた。ツンツン頭の男子高校生がガラケー片手に血涙流しながら必死に懇願してるイメージが鮮明に見えてしまった。何この少年ちょっと怖い。
下手すりゃマジで管理人のお姉さんみたいな生徒が現れる可能性がガチで高い学園都市だ、そりゃ行きたくもなる。同級生だから可能性あるし。
まぁ、そうなった場合は暴食シスターとビリビリ娘と元魔神の隻眼妖精が足並み揃えてやってくる訳なので願いは叶いそうにはないのだけれども。
「少年は魔術師じゃないから別に後輩ではないんだがね。あとそれだと取り巻く少女達が怖いし強火オタクがなんかしそうだからヤダ」
「強火オタク…?」
「私が元居た学園都市の新しい統括理事長の事だよ。少年のオタクなんだ、それこそヒーローとか言っちゃうくらい。少年が此処に来たいとか言ったら気に食わなくてなんかするよあの子」
「先生のお知り合いは個性的な方が多いですね……」
「どっちかと言えば少年の知り合いなんだけどね。少年の『繋がり』であり、少年が紡いだ絆だ。かく言う私もその一人」
「凄い御方ですね……」
「うん。本当に凄い子だ。だからこそ―――」
生きて帰ってきてくれて、本当によかった。
「なァんか失礼な事言われた気がするなァ…」
『いきなりどうしたんですご主人?』
「べつにィ。そういやアイツ何してんだ?」
『なんか消えてますね。あのド変態野郎の事ですしまた引き篭ってるんじゃないですかね。あ、もしてかしてアレですかご主人? いつも遊びに来てくれる人が来てくれなくて実は寂しかったり!? あーん可愛らしいご主人もすてごふぉっっっっ!?!?!?!?!』
「うぜェ」