■ ■
「あー、ゴミゴミ本当やだ労働はゴミだよカスだよクソだよ死んじまえよ呪われてあれ」
『初っ端
のっけから机に突っ伏して怨嗟の声を漏らす達人に、もう一人の達人はあらあらと画面の中でにこやかに笑っていた。
■■■■■=■■■が学園都市キヴォトスに呼び出され、ワカモやら制御権やらの騒動を片付けて正式にシャーレとして活動する様になってから早くも数日が過ぎた。
しかし当たり前と言うべきか、騒動の解決で知名度が多少上がったとは言ってもそれは数字で表せば0から1か2上がったくらいのもので、ぽっと出の組織に対して信頼もクソもありはしない訳で。
依頼は全く来ないので周辺の困り事を片付けるほぼボランティア。そんでもってこなさなければならない雑務があまりに多過ぎて、■■■■■は苦しんでいた。
「張り切ってるよ、現在進行形で張り切りまくってるよ? けどさ、なんかこうもやり甲斐のない雑務ばっかだと流石に病むよね。いや事件が無いのは全然良いんだけども。流石に退屈が過ぎる。
『そんなワロタとか病み〜みたいナ感じで学校名使うノ教師としてどうなんです?』
『というか、さりげなくゲヘナ学園の風紀委員長さんと数日で関わりを持ってるのおかしくないですか?』
呆れている様でいて驚いている様な、複雑な感情を言語化するアロナにそれもそうですねぇとアンナ=キングスフォードは頷いてみせる。
キヴォトスに訪れてから僅か数日。しかもその一日はシャーレの奪還とかいうプロローグらしからぬ騒動に巻き込まれていたというのに、■■■■■の行動は実に早かった。
このキヴォトスにある全ての学園と
ミレニアムサイエンススクール。トリニティ総合学園。ゲヘナ学園。百鬼夜行連合学院。訪れた学園は、奇しくもシャーレ奪還の騒動で関わった生徒達が所属する学園だった。
行動力の塊と言うか、時間の縫い合わせが上手いと言うか。
連邦生徒会直轄の組織なだけあって与えられたり溜め込まれたりして、処理しなければならない雑務なんて文字通り山のようにある。■■■■■はそれら全てを処理し、時間を作った。その結果がコレだ。
ゲヘナ学園の風紀委員会を束ねる風紀委員長にして、この学園都市キヴォトスにおいて高い実力を誇る生徒達の一角。
そんな生徒と、■■■■■はたった数日で知り合ったのだ。
「たまたまだよ、たまたま。たまたまゲヘナの近く出歩いてたら暴徒鎮圧してたヒーちゃんと出会って挨拶してたら話し込んじゃってモモトーク交換したってだけ」
『もうその時点で普通じゃないですよねっ!?』
『あと
「びっくりしてた。渾名で呼ばれた事なかったんだろうね。先生がそう呼びたいならって言ってたし、そんな気にしてはなかったよ。……うん、やっぱキヴォトスおかしいわ。あんな小さくて可愛い子が仕事ばっかでろくに友達と休日も過ごせてないとか理不尽極まってるだろ巫山戯んなよ」
■■■■■は激怒した。ぶっちゃけもう何度目か分からないくらいには激怒した。
キヴォトスに来てからというもの、それまで滅多にキレる事のなかった■■■■■は自分でも信じられないくらいにはキレ散らかしていた。主にキヴォトスや学園の環境に。
特にゲヘナなんか本当に酷い。『自由と混沌』がテーマなだけあってか、ゲヘナの風紀はまさしく乱れまくっている。騒動なんか日常茶飯事だと言っても過言ではない程には騒動塗れだったのをよく憶えている。というか忘れられそうになかった。
そしてその後処理だったり何だったりの業務をほぼ一人で完遂するのがヒナだった。数百人は居る風紀委員会が彼女だけで動いている訳ではない。だが、彼女一人で機能しているのではないかと疑ってしまう程の仕事を、彼女はこなしていた。
かつて女性崇拝の著作を出した過去を持つ■■■■■にとってすれば、一人の女子生徒が遊ぶ暇もなく仕事三昧であるなど到底受け入れられるものではない。
「『
『もう今更でしょうけど、ことも
「理屈は理解出来るから多分出来るってだけだよ。試した事なんてなかったし、アレイスターより上手く出来る自信もない」
魔術と科学という対極の二つ―――という認識はあくまでもアレイスターによって区切られたもの―――を使いこなすのは、何もアレイスターだけではない。
なんせこの男は■■■■■=■■■。伊達にアレイスターより先に魔術を科学と主張した男ではない。
『
魔術と科学という区別を作り出した元凶の技術。人間の共通認識や共通価値観を創造するだけでなく実装と破壊すら可能とする、言うなればアレイスターの独断によってパラダイムシフトを起こす技術だ。
そもあの世界の根底たる『
突き詰めてしまえば魔術も科学も平行線。魔術と科学が別々ではなかった時代は確かにあったのだ。それがアレイスターによって区別されたというだけの話で。
アレイスターと同じ道を歩んだ先駆者である■■■■■であれば、その理屈もある程度は容易に予測出来る。なんせ同じなのだ、予測出来ない方が難しい。
「まぁ、流石に冗談だよ、冗談。此処はそういう世界なんだし、部外者の私がそれを変えるつもりはないよ。敵と戦うなら話は別だけども」
『行き過ぎた干渉というノは単ナる厄介ですもの。そこハ弁えてくださいよ、センパイ』
「分かってるよ。あぁ、そうだ」
『はい?』
「なんかアロナが不穏な手紙が何とかって言ってたのを思い出した。雑務も区切りついたし、確認しとこうか」
不穏とか今更だし。
そんな言葉は飲み込んで、■■■■■は書類の山が片付けられた机の上に並べられた手紙達の一つを取り上げて目を通す。
連邦捜査部の先生へ。
こんにちは。私はアビドス高等学校の
今回どうしても先生にお願いしたい事がありまして、こうしてお手紙を書きました。
単刀直入に言いますと、私たちの学校は追い詰められています。
それも、地域の暴力組織によってです。
「アビドス……確か砂漠化に追いやられてしまった学区だったか」
こうなってしまった事情は、かなり複雑ですが……。
どうやら、私たちの学校の校舎が狙われているようです。
今はどうにか食い止めていますが、そろそろ弾薬などの補給が底を突いてしまいます……。
このままでは、暴力組織に校舎を占拠されてしまいそうな状況です。
「殆ど見放されたも同然の場所だ。補給も満足にはいかないだろうに……そんな中で足掻いてたのか」
それで、今回先生にお願い出来ればと思いまして。
先生。どうか、私たちの力になっていただけませんか?
「……なるほど。これはまた、騒動に巻き込まれそうな予感がするね。占術とか使わずとも予測出来る」
手紙を読み終えて、■■■■■は苦笑する。
騒動に騒動。ツンツン頭の少年の不幸体質でも移されたかと思わずにはいられない巻き込まれ具合だ。以前の様な平和な日々は何処へ行ったのやら。
アンナ=キングスフォードはにこやかに笑いながら、答えの分かり切った質問を液晶越しに■■■■■へと投げ掛ける。
『では行か
「おいおい、誰にものを言っているんだアンナ女史。分かった上で聞くなんて人が悪いね」
「―――女の子が苦しんでるんだぞ。残りの雑務なんか踏み倒してでも行くに決まってんだろ」
2
ギラギラと、その肌を焼く様に光差す太陽と道路にすら侵略しつつある砂漠。
何ここ本当に学区か? 砂漠地帯の間違いじゃなくて?
アロナが言うには昔は大きな学区であり名前も知れ渡っていたらしいのだが、異常的な気象が原因で砂漠化が進み、遂には殆どの生徒が学区から離れる事となり過疎化したらしい。
今では名前を知る生徒も数少ないという有様だ。だが、確かにこんな状態では住み続けるにも無理がある。土地的にもかなり厳しく、維持するにも莫大な費用が掛かる事は想像に難くない。
「CRCのトリニタスかと思うくらいの飲み込まれ具合だね。アビドスはロサンゼルスだった?」
『
「あー、それもそうだね。そうなるとアレか、砂漠化が進んだのも気象だけが原因じゃなくただ隠れてただけで感染魔術的な意味があったりするのかね? だとしたらいよいよ解決策が出てこんぞ」
魔術を大雑把に『類感』と『感染』の二つに区切った際の片方。丑三つ時の藁人形やらで有名な『感染魔術』。
一度接触したもの或いは一つのものであったものは、遠隔地においても相互に作用する。それが感染魔術の全てであり、魔術の基礎そのものだ。
アビドスとは古代エジプトにおける聖地の名前。冥府神オシリスを信仰していた地だ。魔術的に『位相』としての要素もあるし、砂漠化が気象的な現象だけが原因ではないと仮定したならば有り得ない事もなさそうだ。
仮にそうだとしたなら、砂漠化の問題解決なんてできっこない。なんせ問題解決を図りたいなら、まず1.145億もの人口と魔術的にかなり古い歴史を持つエジプトからどうにかしなければならないのだから。
まぁ、とは言えども。結局はあくまで憶測に過ぎない。ぶっちゃけてしまえば妄想の域を出ないものだ。
だが、そういう幻想的な思考をするのが魔術であり、そしてそれもまた一つの真髄でもある。
「つーかさぁ……此処、何処よ?」
『さぁ、何処でしょうね?』
魔術師■■■■■、現在進行形でアビドスで迷子状態である。
アビドスは広い。それはもうめちゃくちゃに広い。こんなデジタル社会で地図なんて持ってきている訳もなく、というかそもそもインターネットが通じているのかも怪しい。
理解不能―――木原といった学園都市の科学者なら或いは―――な技術の塊であるシッテムの箱は例外なのか、アンナ=キングスフォードはいつもの調子で言葉を交わしている。
彷徨い歩いて、かれこれ数日。常人なら体力尽きてそこら辺に座り込んでいる所だが、そこは
生命力を魔力に変換する事を逆手に取った逆説的な理論を基にして構築した術式のお陰で、力尽きる事なく歩いていられるのだが。
それはそれとして腹は減るし、喉も乾く。生命力と空腹はどうやら一緒くたには出来ない様だ。
「体力はあるのに喉の乾きと空腹に苦しめられるのってなーんか気持ち悪いね。嫌悪感が勝って歩く気力が無くなりそう」
『素直ニ地図を持ってくれば
「誠に遺憾極まりない。やべぇよこのままじゃ普通に苦しみながら死んじまうよ勘弁してくれどうせ死ぬならありきたりだけど美人の胸の中で死にたかったのにっっっ!!!!」
『そんな冗談を口ニ出来るナらまだ大丈夫ですネ』
「誰かこの鬼畜おっとり系お姉さん魔術師にスパンキングという罰を『えいっ☆』待てよなんで画面越しなのにそれが出来んぶべらっ!?」
バギィッ!! と。
アンナ=キングスフォードが液晶越しに拳を振るった瞬間、理解不能の物理現象が発生して■■■■■の顔面に強烈な一撃を炸裂させた。
流石は魔術の達人と言うべきか。データ的な存在になっても、その魔術の腕は健在らしい。まぁ、ぶっちゃけてしまえばコレは魔術ではないのだが。
シッテム箱には所有者である『先生』を守る防衛機能が備わっているらしく、起動しているだけであらゆる銃弾を弾き返し、向けられた銃口はどういう理屈かねじ曲がるのだと。
アンナ=キングスフォードは、それを利用して攻撃したのだ。
まるで蹴り飛ばされた石ころの如く勢いよくゴロゴロと地面を転がり、後頭部から壁にぶつかる■■■■■。
凄まじい衝撃に視界が霞む。今の彼は単に生命力に溢れているというだけであって、その肉体強度は他の人間と何ら変わりはない。
つまりは―――当たり所が悪ければ、普通に命に関わる。
「…………」
チーン、と。
一人の達人は、それはもう呆気なく意識を失った。自業自得によるカウンターパンチのクリーンヒットで。
■■■■■=■■■の名をここに刻む。
「えっと……大丈夫?」
キキィィ、と。
劈く様な高い音がして、奇跡と言わざるを得ない絶妙なタイミングで一人の少女が現れた。
白い髪のショートヘア頭の上にピョコっと生えた獣耳。白と青の色彩を持つオッドアイ。青を貴重としたブレザーを羽織った制服姿のケモ耳美少女が、マウンテンバイクに乗って気絶中の魔術師(先生)の前に出現した。
「……」
「死んでる…?」
返事がない。ただの屍の様だ。を地で行く沈黙具合に、ケモ耳美少女は本当に死んでいるのではないかと疑ってしまう。
こんな場所で死んでしまうなんて可哀想だ。せめてしっかり葬れる場所まで……と、良心に従って死人(気絶しているだけ)を運ぼうとした瞬間、
『
女の声がした。
気絶状態の魔術師が持っているタブレットから、何処かおっとりした柔らかい声色のお姉さんボイスが。
「タブレットが喋った…?」
『音声機能ニちょこっと細工を。彼だけニしか聞こえ
「は、はぁ……」
『取り敢えずこノ人をおぶって頂け
「! シャーレの?」
ケモ耳美少女は分かりやすく反応した。
連邦捜査部シャーレ。つい最近活動した、連邦生徒会直轄の超法規的組織。彼女の後輩が助けとして手紙を送った相手そのものだ。
『
「ん。アビドス高等学校2年、
『では、シロコさん。先程も申しました通り、こノ人ヲおぶって頂け
「ん……走って間もないから、臭いが…」
一見クール系美少女の雰囲気を漂わせるシロコだが、その実かなり乙女な一面があった。もし■■■■■が起きていたならば、そのギャップにやられてまた惚れていただろう。
ある意味、彼が起きていなくてよかった。気絶させたのは幸いとも言えるだろう。アンナ=キングスフォードの英断である。
『こノ人で
「それはそれで問題な気が…」
『心配いり
「アンナ先生、それはトドメだと思う」
違いない。アンナ=キングスフォードはそうとも言い
まぁ、取り敢えず。
行間1
あぁ、これは夢だ。■■■■■は間もなく理解する。
意識を失った事は鮮明に憶えている。あのおっとりお姉さんによる強烈な何かによって吹き飛ばされ、意識を刈り取られた筈だ。
(手加減ってもんを知らないのかね、あの後輩は。いいや俺は悪くないよ、断じて悪くない。でけぇ胸に溺れて死ぬ事くらい男だったら誰だって抱く夢だろ間違ってないよな!?)
この男は夢の中でも普通に変態だった。
悪びれもしない辺りはいっそ清々しくもあるが、発言に気を付ければ良いだけの事を何故こうも出来ないものか。
(まぁ、それはそれとして……此処は、うん。完全に
フランスはパリ。
フランスの首都であり、ロンドンに並んで欧州を代表する世界都市。長い長い歴史を持つその首都こそが、彼の生まれ育った故郷だった。
―――
『人間』と同じでありながら。
『人間』と同類でありながら。
『人間』の先駆者でありながら。
しかし、
(あぁ……懐かしい。この頃はまだまだ青かったと言うか、熱かったと言うか。本当に若かったんだなぁ、俺)
かつて、
25歳になった時、
そんな時に、
『好きです! 付き合ってください!』
『えぇ…?』
(まぁ、そりゃそうなるわな。司祭の助手やってた奴がいきなり一目惚れで告白してくるんだし困惑するわ。よく相手してくれたよ、君は)
だが、それこそが過ちだった。
―――それが悲劇の始まりであるなんて、■■■■■■=■■=■■■■■は知りもしなかった。
『あ、あぁ……』
母が死んだ。
愛する母が。自分を此処まで育ててくれた母が、
『あっ、あぁぁぁぁ…………』
娘が死んだ。
恋した娘が。自分と真摯に向き合おうとしてくれた娘が、
『――――――――――――あァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!』
慟哭を
堕落した生活の中、■■■■■は
『魔術』によって発生する『火花』。それが生み出す不幸。世界にありふれた不幸も死も、それら全てが『火花』―――所謂『運命』というもので片付けられるのだと。
『運命だと? 巫山戯るなっ、巫山戯るなよッ!! 母さんの自殺が運命だと!? 彼女の死が運命だと!? そんなやすっぽい言葉で全てを片付けろと!? 俺の想いも何もかもが無駄になったのは、積み重ねた全てがぶち壊されたのが、全て運命だから仕方ないってか!? 巫山戯るなよ、巫山戯るな巫山戯るな巫山戯るな巫山戯るな巫山戯るなァァァァァァァァァァッッッッッッッッッッ!!!!!!!!! 世界の悲劇が、今こうしている間にも世界に運命とか言うクソみたいな理不尽が蔓延っているのを、黙って見過ごせってのか!? 子供が死んでいるかもしれない、恋人が殺されているかもしれない、そんな理不尽が埋もれて埋もれて埋もれて、誰もが諦めている!? 誰一人もそれに気付かないで、それを仕方ないとか運命だったとかくだらない理由を口にして片付けるのか!? それが世界だとでも言うのか!? クソが、クソッタレがッ!!! いい訳ねぇだろ!? そんなのが認められる訳がねぇだろ!? なんで誰も立ち上がらねぇんだよ!? なんで誰も怒らねぇんだよ!? 哀しいと思わねぇのか!? 巫山戯るなと思わねぇのか!? 悔しいと思わねぇのか!? このクソみたいな《運命》も《理不尽》もぶち壊したいって、なんで誰も思わねぇんだ!? 行動しようとしねぇんだよ!? あぁ、そうか! そうかそうかそうなのかよ!! そりゃそうだ、なんせ《不幸》だもんな! 《運命》だもんな《悲劇》だもんな《理不尽》だもんなァッ!? そんなもんに振り回されてるからそれを知ろうともしねぇんだろ!? 世界はそういう風に出来てんだろ!? だが残念だったなぁ、クソ世界! クソ魔術師が! 俺は見付けたぞ、この■■■■■■=■■=■■■■■は見付けてやったぞ!? やってやるよ、やってやろうじゃねぇかッ!!! 誰も動かねぇなら、誰もそれを見ようとしねぇなら、誰もが現実から目を背けてその幻想ばっかに目を向けて溺れてるってんなら、俺がテメェらの勝手な羨望が創り出したこのクソみてぇな悲劇を纏めてぶち殺してやるよ!!!! テメェらが創った
(夢ってのは都合のいいものばかり見せるもんだな。でも、まぁ……決意の再確認には丁度良い)
その日、魔術師■■■■■=■■■は誕生した。
あらゆる魔術を総括し、あらゆる理不尽を弾劾する。
全ては―――運命だとか悲劇だとかいうクソッタレな理不尽をぶち壊して、誰もが当たり前に笑って当たり前に泣ける世界を創る為に。
3
「うーん……フローラルな感じを漂わせながらもどこか汗っぽくしかし全く不快感を感じさせないまさしく女の子の綺麗でふつくしいこの匂いは…………」
「ん゛ッッッ!!!!!!!!」
「ちょ待ってなんかデジャぐぼぉあっ!?」
「シロコ先輩っ!?」
ドンッッ!! と、強い衝撃が全身を一気に駆け巡った事で、おぼろげだった意識が完全に覚醒させられる。
わぁ、とアンナ=キングスフォードは画面の中で驚いた。
言葉が発せられて即座に垂れた腕を引っ掴んで横にぶん投げるという一連の動作を、無駄なく達成させる。巧みな身のこなしだ、とても女子高生の動きには見えない。
この世界の女性は、身体の動かし方をよく分かっているらしい。伊達に銃撃戦を繰り返していないという事だろう。
背骨がぁ……と呻きながら、■■■■■は見覚えのない景色に疑問符を浮かべて立ち上がる。
「あー、えっと……アンナ女史、ちょっと説明が欲しい」
『此処がアビドス高等学校ですわ。そして、先程貴方を地面ニ投げ飛ばしたノハ砂狼シロコさん。気
「おぉ…! ありがとうね、シロコ! 数日間も飲まず食わずで行き倒れていた挙句突然訳も分からず吹き飛ばされた所を助けてもらえるとは、まさに奇跡!」
「ん…どういたしまして」
先程の匂い発言には乙女として少し思う所はあったものの、こう強く感謝されると言及がしずらい。
まぁ、決して不快な言葉があった訳ではないし、ここは許すとしよう。どちらかと言えば褒めてもらった方ではある。かなり恥ずかしくはあったが。
「本当に奇跡みたいな出来事っ!? だ、大丈夫なんですか? お水くらいであれば、お持ちしますよ?」
「いやいやそんな事は出来ないよと言いたい所なんだけれども是非お願いします気絶してたのもあってすっごい喉からからで喋れるのもおかしいくらいなんですお゛み゛す゛を゛く゛れ゛ぇ゛……」
「いきなりガラガラになった!? ちょ、しっかりしなさいよ! 水、早くお水!」
「は、はい!」
学校に到着して早々水分不足で死にかけるとは、誰も予想はしていなかっただろう。何なら本人もすっかり忘れていた。
如何にも真面目な雰囲気を醸し出す耳長の眼鏡っ娘―――シャーレに送られた手紙の主であるアヤネから手渡された、紙コップに入った水を一気に呷る。
あぁ、なんて美味しいんだろう……此処は天国か? 今なら全ての存在に感謝が出来てしまいそう…………
『水が美味し過ぎて昇天し掛けて
「えぇっ!?」
「本当に大丈夫なの、この大人…?」
アビドスの面々にコイツ大丈夫かな…? と、別の意味で心配されつつある教師■■■■■。
一応こんなんでもかなり凄い人物ではあるのだが、魔術なんてものが存在しないこのキヴォトスで生きている彼女達だ。それを知る由もない。
まぁ、
「いやー、危ない危ない。川の向こうで無駄に長い髭生やしたいけすかねぇクソ野郎が満面の笑み浮かべてたから危うく川を渡る所だった」
「何が見えたのよっ!?」
「後輩二人を虐めたゴミカス野郎ってだけ言っとくよ。まぁ、そんなどうでもいい事はさておくとして。初めまして、アビドス高等学校の皆。連邦捜査部S.C.H.A.L.Eの顧問『先生』、■■■■■=■■■だ。で、さっきから喋ってるのはこのタブレットの一応メインOSであり、秘書の一人であるアンナ女史」
『アンナ=キングスフォードと申し
「シャーレの先生!?」
目を見開いて驚くアヤネ達に、■■■■■達は首を傾げる。
予想外と言った所か。まるで本当に来るとは思っていなかった具合だ。
あれだけ親切丁寧な手紙を無下にされると思っていたのか? ■■■■■は表には出さずとも、険しい顔を心の内で浮かべた。
勿論それは彼女達への怒りではない。彼女達がそう思った原因―――つまりは、連邦生徒会についてだ。
アビドスは超常現象によって深刻な砂漠化が進んだ所為で、今や住んでいる者も殆ど居ない様な状態。どうにか復興させようと努力していた者たちも居たらしいが、それも上手くはいかなかったらしい。
もはや廃棄されてもおかしくはない学区。そんな所の援助を、連邦生徒会はしなかったのだろう。
大の為に小を切り捨てる。社会でなくてもよくある、常套的な合理的な手段だ。
(まぁ、妥当と言えば妥当か。とは言え、私としてはあまり良い気分になれるものじゃないね)
「わぁ☆ 支援要請が受理されたのですね! 良かったですね、アヤネちゃん!」
「はい! これで……弾薬や補給品の援助が受けられます。あ、早く
「委員長は隣の部屋で寝てるよ。私、起こしてくる」
黒髪ケモ耳少女―――
その直後。
ダダダダダダッッッ!!!
聞き慣れた音が連続で炸裂した。
「じゅ、銃声!?」
「!!」
「やっぱこうなるのかぁ……キヴォトスってもしかしなくともどっかの魔都と同じだったりするのかね?」
『
違いがあるとすれば、あの魔都とは違って麻薬のやり取りもなければ殺傷沙汰もないぐらいか。
キヴォトスが中々に平和的だと思える。やっぱあの都市はおかしい。
■■■■■は無警戒に窓に近寄り、そこから校庭の方を覗く。
スケバン達とは違って、制服やらジャージに頭にヘルメットを被った少女達が、やはりと言うべきか銃を持ってヒャッハーしていた。
「カタカタヘルメット団です!」
「アイツら、性懲りもなく…!」
「ネーミングもビジュアルもスケバンよりインパクトが強いな、おい……アレってちゃんと前見えてんのか?」
『見えてハいるノでしょう。それで、
「そうだねぇ。取り敢えずは応戦―――」
「ホシノ先輩を連れてきたよ! 先輩! 寝ぼけてないで、起きて!」
「むにゃ……まだまだ起きる時間じゃないよー」
「………………わぉ」
またもや、驚愕。これで何度目か。
アホ毛が特徴的な腰まで届く桃色の長髪に、閉じた瞳を思わせる
そして―――
一瞬『超絶者』かと勘違いしてしまいそうになる程に色濃く強い神秘を、この少女はたった一人で有していた。
「ホシノ先輩! ヘルメット団が再び襲撃してきました!」
「ありゃ〜、それは大変だね」
(いやはや、これは凄い。本当に凄い。一瞬だが超絶者かと勘違いしてしまった)
『超絶者』。
それは魔術師でありながらその枠から外れた者達の通称。個人で魔術サイド全体に匹敵すると言われ、それに違わぬ強力無比な術式を巧みに扱う、まさに超絶的な存在。
扱う術式によっては、あらゆる魔術を極めて遂ぞ神にすら至った、魔術サイドのトップたる『魔神』の様に世界規模で影響を及ぼす者も居る超絶者。
彼女―――小鳥遊ホシノは、ソレに匹敵する程の神秘がある。
「こちらは、シャーレの先生です」
「あ、先生? よろしくー、むにゃ」
「先輩、しっかりして! 出動だよ! 装備持って! 学校を守らないと!」
「ふぁあー……おちおち昼寝も出来ないじゃないかー、ヘルメット団めー」
とは、言うものの。
寝ぼける様では、あるものの。
しかし、■■■■■は気付く。彼女の意識は既に覚醒していて、寝ぼけてなどいない。流す様に言葉を交わしながら、しかし確かにその目は■■■■■を捉えていた。
(―――『人は見た目に寄らない』、『能ある鷹は爪を隠す』。よく言ったもんだよ。まさしく彼女の為にある様な言葉だ)
不信と怪訝。見定める様に、彼女は■■■■■を見た。
(これは信用も信頼もされるのに時間が掛かりそうだ……ははっ、俄然やる気が出てきたな。この子は多分、ほっとけないタイプの子供だ)
タブレットを完全に起動させ、懐から
「魔術師とは一なる全てを表すもの。頭上に掲げるは唯一たる
バキッ。
バキバキバキバキバキバキバキバキバキバキバキバキバキバキバキッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
天を割る様なひび割れる音と共に―――アビドスの校舎と校庭の空間が呆気なく断絶した。