■ ■
1
変化は劇的だった。
校舎も校庭も何ら変化はない。いつもの変わり映えしない校舎、まだ中まで侵略されていない普通の校庭。そこだけは変わっていない。
変わったのは、つまりそれ以外の全てだった。
空は青色のままで、雲もそこにある。だが、それだけだ。まるでそっくりそのまま現実の景色が絵に描かれた様な不自然さを醸し出しながら、景色だけが其処に立っている。
空間の断絶。この場合は『隔離』と言った方が正しいかもしれない。■■■■■によって、アビドス高等学校の校舎と校庭―――つまりは、アビドス高等学校というそれ自体が丸ごと別空間に隔離されたのだ。
■■■■■が使用したのは、『タロット魔術』。
その名前の通りタロットカードを用いるその魔術は、大アルカナ22枚と小アルカナ56枚の何れかを引き出し、そのカードに込められた意味を現実化させる魔術だ。
用いたタロットカードは『魔術師』。頭には無限のマーク、手には聖なる杖。机には
■■■■■=■■■曰く。
「修行者も普遍も
魔術師というカード一枚で、他のタロット全ての代用とする荒業。
現代の魔術師達に聞かせれば、なんと馬鹿馬鹿しいと一蹴に伏すだろう。だが、相手が■■■■■という達人であれば話は別だ。
それこそ、一人の魔術師を捕まえてその話を聞かせた後に■■■■■がそう言っていたと言葉を付け足すだけで、『それなら間違いない』と首を頷く程に。
「な、なにこれ!? どうなってんの!?」
「ん…凄い」
『相変わらず凄まじい範囲ですね。校舎と校庭ヲ丸ごと隔離させるとは』
「せ、先生…何をしたんですか?」
「んー、簡単に言うとアビドス高等学校を丸ごと別空間に隔離させたんだ。正確には
「??????????」
「あー、うん。そうだよね分からないよね。まぁ、取り敢えず! 結論から述べると校舎とかに被害が出ない様にしたから皆は派手に暴れて良いよって事さ!」
目をまん丸にしてぽかーんと口を開けるアヤネに、■■■■■はダメだこりゃと説明を放棄して結論からぶん投げた。
いきなり現実離れした出来事が発生するのを目の当たりにした時点で
そもそも、彼女達に『魔術』を説明して理解させた所で、■■■■■にも彼女達にも利点なぞ何もない。
魔術とは正しい使い方さえ分かっていれば、ただの名前にすら必殺の意味を宿らせるもの。真に魔術を理解しているならば、ただの言葉や動作で以てして魔術は機能する。
例えそれが非力な者であっても、才能が無くても使える。そもそも魔術とは、そういった者たちによって編み出された技術なのだから。
「さっ、御膳立てはバッチリだ。私も皆のサポートするから、頑張っ
、と。
音も立てず。見えもせず。しかし、確かに何かが弾けたその刹那。
「ごっ、ヴぼっ……!?」
赤が、吐き出された。
目から。
耳から。
口から。
まるで滝の様に、ドバドバと鮮血が溢れて止まることなく吐き出されていく。
爆ぜた。体の中で、何かが爆ぜた。内臓全てに衝撃を迸らせて、焼き尽くさんとする何かが。
確実に、幾つかの臓器が機能を停止した。
「せ―――先生っ!?」
「がふっ、げほっげぼぶふっ……やっ、てくれる…。物理的な現象じゃ軽減されるからって、内部から炸裂させるか…!」
『火花』には形がない。それは人々の運命―――不幸―――の顕れだ。つまりは概念的なものであり、だからこそ目に見える様な、耳に聞こえる様な形など持つ訳がない。
だが、『飛沫』によって操作された火花は概念的なものではなく物理的なダメージとして現象化される。
かつてアレイスターと上条が戦闘し、上条がアレイスターの得意魔術である『霊的蹴たぐり』の火花をぶつけられた際は、肋骨が抉れる様な衝撃と共に真横に吹き飛び、文字通りの血反吐を吐いた。
だが、■■■■■は違った。物理的なダメージが体外に現れるのではなく、内部から現象化して爆ぜた。
シッテムの箱による物理防御システムを掻い潜り、■■■■■という人間の内部から『火花』は爆発したのだ。
「あー……やっば。まさか内臓からクるとか思わねぇよクソが…」
「大丈夫ですかっ、先生!?」
「大丈夫、だいじょーぶだから。心配しなくて良いよ、アヤネ。ちょっと幾つか内臓が機能停止してるだけ」
「ぜんぜん大丈夫じゃないですよねそれっ!? ど、どうしましょう!? 医療キットでどうにかなりますか!?」
「いやそんなカエル顔の医者じゃないんだから…」
学園都市の名医、カエル顔の医者。
例えそれが致命傷であろうが、死んで当然の状態であろうが、必ず生きて返す事から『
■■■■■も彼の世話になった事がある。あの大悪魔との戦闘の所為で暫く学園都市に入院したのが、そのカエル顔の医者の病院だった。
あの医者なら医療キットだけでもどうにかしてくれそうではあるが、まだ高校生で医療知識なんて揃っていない彼女では到底無理な話だろう。
だが、■■■■■はそこに一つの答えを見出した。
「あー、いや、そうでもないかも。アヤネ、ちょっと試しに『
「す、スキル? えと、どうすれば……」
「ドローン使って医療キット私にぶん投げるだけ」
「そんな乱暴な方法で良いんですか!?」
「そういうもんだから。あと出来れば早めでお願します内臓が一気に爆ぜたからそろそろ意識がぁぁぁ…………」
「分かりましたやりますやりますから死なないでください先生ー!?」
アビドスに来てからよく死にかける教師である。しかも全部自業自得なのがまた何とも。やはり魔術師か。
まぁ、兎にも角にも。このままでは先生が死んでしまう。ほぼ初対面ではあるが、それでも目の前で死人が出るのを放っておける程、アヤネは冷たい人間ではなかった。
バババババッッッッッ!!!!! と、小さな風切り音が連なった。
コントローラーも何も使わず、まるで意思だけで動かす様にドローンを事も無げに操作し、注文通りに医療キットを■■■■■へとぶん投げた。
「ぐべらっ!?」
「わぁ!? す、すみません先生!」
「ん。クリーンヒット」
「だ、大丈夫大丈夫。投げろって言ったの私だし……」
十字と共に現れる暖かな光が■■■■■を包む。紅白で構成された医療キットによってもたらされた神秘は、さながらゲームでよく表現されるヒーリングのイメージだ。
ぶん投げられた医療キットはその姿形を消失させ、『飛沫』によって致命傷を負った■■■■■を一瞬にして回復させてみせた。
「うわ……本当に治ったよ。一か八かだったんだけどな」
「そんな危ない橋だったんですか!?」
「ボロボロの橋で優雅にタップダンスするみたいな賭けだったよ……はー、ビックリしたビックリした。まさか内部で爆発するとは思わなかったなー。マジで簡単に魔術使えねぇじゃん」
『アレイスターが使うものとは全くノ別ものですわね。アレは物理的ニ体表ニダメージヲ与えるものでしたが、センパイは内部から散ると。まぁ、縛りとしてハ妥当と言えば
はっきり言って、■■■■■=■■■という存在は
『神秘』という概念が存在するキヴォトスにおいて、魔術師という存在自体がある種の特異点であるというのに、その魔術師の中でも極まった場所に立つ彼は、もはやキヴォトスにおける異物と言っても過言ではない。
過ぎた力が、どれだけ恐ろしいものか。それはアンナ=キングスフォードも身を以て知っている。
アレとは違い、■■■■■自体は真っ当な人間だ。だが、だとしてもこの世界において『
「とんでもねぇ縛りプレイだよ、全く。まぁ良いや。それは後でどうにかするとして、今はアビドスを守るのが先だ。シロコも頑張って」
「了解。先生のサポート、期待してる」
「勿論。死に掛けた手前だが、全身全霊でサポートさせていただくよ」
気を取り直して、戦闘開始だ。
アビドスを不良共から守り抜く為に、少女達は引き金を引く。
2
「いきなり景色が違和感だらけになってどういう事!?って焦ったまま戦って何とかなったー良かったーって思って帰ってきたら部屋に血溜まりがあるとか本当に訳分からないんだけどッッッ!?!?!?」
状況が終了していざ教室に戻るや否や目に入ったとんでもない光景に、セリカは声を荒らげざるを得なかった。
劈く様に凄まじいひび割れ音が爆発したと思えば、アビドスの景色が異様なまでに変化していた。何処を見てもまるで絵を見ているかの様な違和感に包まれながら、戦闘する羽目になった時点で訳が分からない。
そんな状態ながらに何とか勝利すれば、世界は呆気なく当たり前の様に戻って見慣れた現実が帰ってきた。キャパがオーバー寸前になりながらも、セリカは勝利した喜びで誤魔化そうと教室まで戻ったのだが。
その結果、彼女の目に最初の映ったのは血溜まりの上でヘラヘラ笑う大人(先生)であった。
そりゃ声を荒げたくもなる。異議の一つや二つくらい申し立てても文句は言えないだろう。
「うへー、セリカちゃん落ち着いてー? 気持ちは分かるけどさ」
「いやー、申し訳ない。まさか内側から爆ぜるとは思わず……」
「内側から爆ぜるって何よ!? ていうかなんでそれで生きてんの!?」
「無駄に頑丈なもんでさ。それに、どんな攻撃であれ『Magick:
「本当になんで生きてんのっ!?」
大悪魔コロンゾンとの死闘は熾烈を極めたものだった。懐かしいもんだよ、と■■■■■はアレすらも笑い話にして吹っ飛ばした。
『Magick式魔術』。アレイスターが提唱した魔術理論、即ちセレマの術式。人間が真の意志に目覚めて神となる『ホルスの時代』の魔術は、
同じMagick式魔術を用いて相殺しようと試みたものの、突発的だったのもあって完全に相殺は出来ず半身が消し飛ぶ始末だ。
そんな状態になりながらも生き永らえ、さらには入院して数ヶ月で完治するのだから、達人というのはなんと不思議な生き物だろうか。
「先生。さっきのアレ、どうやったの?」
「あ、私も気になります。なんかこう、景色が違和感だらけになったと言うか……」
「はっ! そ、そうよ! ソレの説明しなさい!」
「おじさんも気になるなー」
半数は興味本位か好奇心。半数は警戒。
なるほど、妥当と言えば妥当だろう。摩訶不思議な力程、見ていて面白く、それでいて不安を煽るものはない。
ホシノはまさしくそれだ。感情こそ気が抜けている様に見えるが、その目の奥には疑いの意思が強く篭っている。
心底から、彼女は■■■■■という人間を信じていない。いや、と言うよりは、大人というそれ自体を信じていないのか。
「どうやったも何も、単なる『
「それの詳しい説明が欲しいんだけど……」
「いやぁ、これはこれで説明難しいんだよねー。簡単に言えば、タロットカードに込められた意味を現象として具現化するって魔術。というか、これくらいしか説明出来ないね。君達にとって魔術とか毒だから」
魔術とは、つまる所『別世界』の常識や法則を利用し、現世にそれを引っ張り出して現象として表しているものだ。
その魔術の使用方法が記された書物を一般的に『魔導書』と呼び、その魔導書を解読する事が出来た魔術師が振るう魔術は、殆どが大規模な効果を及ぼす。
だが、その『別世界』の常識や法則も現世にとっては有毒なもの。宗教観念というフィルターが薄い人間なら、目を通しただけで脳を汚染されてしまい、発狂か廃人となってしまう。
魔術の説明とは、即ちその別世界の法則をどう利用したのかの解説であり、タロット魔術の説明とは■■■■■が自ら記した《原典》の解説である。
「『タロット魔術』の説明は、突き詰めてしまえば私が記した
「な、何よそれ……」
「あと、もう1回見せてっていうのも無理だ。正確には出来はするんだけど、魔術を使ったら私の内部が物理的に爆発します」
「それこそなんで!?」
「私がそういう風に
意思は変わらない。■■■■■は魔術の全貌を話すつもりなど欠片もなかった。
それは不要なものでありイレギュラー。神秘と銃火器が共同しているこのキヴォトスにおいて、『
キヴォトスの生徒達の中には、『
例えるならば、トリニティの生徒会である『ティーパーティー』の百合園セイア。彼女は『予知夢』という形で『
その『神秘』と『魔術』が交わればどうなるか。予知夢の共有? 予知夢の具現化? 何がどうなるのかが全く想像出来ない、まさしく未知数と言うべき道が分岐する。
なればこそ、全貌を明かす必要など皆無。少女のこれからをぶち壊す障害を嬉々として語るバカに成り下がるつもりなど、彼には毛頭ない。
それが絶対として、誰かの助けにならない限り。
「まぁまぁ。何はともあれ勝てたんだしさー、別に良いんじゃない?」
「ん、そうだね。終わり良ければ全て良し。先生の指揮のお陰か、いつもより戦い易かった。すごい量の装備に物資、そして魔術。大人ってすごい」
「今まで寂しかったんだね、シロコちゃん。パパが帰ってきてくれたお陰で、ママはぐっすり眠れまちゅ」
「いやいや、変な冗談やめて! 先生困っちゃうじゃん!」
「ホシノが3年生でシロコが2年生、それが家族となれば……おいおいヤベェよ弁明の余地もねぇ倫理ガン無視死刑まっしぐらな犯罪じゃねぇかロリコンどころの話じゃねぇよアレイスターでもそこまでしなかったぞッッッ!?」
「なんかめっちゃ考え込んでるっ!? 冗談よこれ!?」
なんかとんでもなく複雑な家庭事情が展開されてしまっていた。母親が高校3年で、その娘が高校2年生とか父親の倫理観が完全に終わっている。見境のない異常者よりもよっぽど異常だ。極刑待ったナシである
勿論これは冗談だ。別にその様な複雑極まる家庭環境がある訳ではないので悪しからず。
『仮ニそうだとした場合、ホシノさんハ1歳でシロコさんを産んだ事ニなり
「そ、それもそうか。現実的に有り得んよな。焦った、ガチ目に焦ったぞ俺は。キヴォトスは常識に囚われちゃいけないっていう常識に囚われたままだった…」
「うへー、危うくとんでもない誤解を招くとこだったよー」
「いや悪いの先輩だからね!?」
どっちもどっちである。
まぁ、
「まずはアビドスにようこそ、先生。私達は、アビドス対策委員会です。私は、書記とオペレーターを担当している1年のアヤネ。こちらは、同じく1年のセリカちゃん」
「どうも」
「2年のノノミ先輩とシロコ先輩」
「よろしくお願いします、先生〜」
「ここまで運んできたのが、私。……あ、別にマウントを取ってる訳じゃない」
「そしてこちらが、委員長の3年生、ホシノ先輩です」
「いやぁ〜よろしくー、先生」
「こちらこそ、よろしくね」
言葉は交わす。視線も交わす。だが、そこに馴れ合いの意志はない。
ホシノの警戒心の高さは、強い不信感の表れだ。それに気付かない程、■■■■■も耄碌はしていない。だが、さりとてそれを不満に感じている訳でもなかった。
寧ろ、感心しているまであった。
その圧倒的な神秘に胡座をかかない姿勢、見ず知らずの大人に対する見定めと警戒。およそ高校3年の少女が持ち得るものではない。
もし■■■■■が怪しい行動を取れば、彼女は即座に一切の躊躇もなく■■■■■を撃ち殺すだろう。それだけの事が、彼女には出来る。その意思もある。それを丁寧に隠し切っているのだから、全く恐ろしい少女だ。
(とは言え、何処かやる気無さげにも見えるな。諦観癖があるって所か。ついでに言えば、今の性格も元の性格まんまって訳でもない。多分、多かれ少なかれ彼女に影響を与えた誰かが下地になってるな。となると、彼女にはそれ相応な過去があるって考えるのが妥当か……はぁ。本当にやだねー、キヴォトスは。なんでこうもうら若き少女達が重いもん抱えてるんだか)
バレない様に、小さなため息を漏らす。
子供の内くらい、難しい事なんて考えもせずに生きるべきだろうに。■■■■■はそう思わずにはいられなかった。
自分が子供の頃から不自由であったからこそ、大人になってから廃れていったからこそ。子供は自由であり笑顔であるべきだ。それが少女達であるなら尚更だ。とは言え、自由であり過ぎるのも考えものではあるが。
片や友達と遊ぶ事も出来ず、書類仕事ばかりをする風紀委員長。それが校風であるとは言え限度がある。
透き通る様な青春とはこれ如何に。■■■■■は訝しんだ。
(まぁ、今はそれを気にしても仕方ないか。取り敢えずはアビドスの問題に取り組まないと。その過程で仲良くなれたら重畳って所でいくか)
「ご覧になった通り、我が校は現在危機にさらされています……先生が居なかったら、さっきの人達に学校を乗っ取られていたかもしれませんし、感謝してもしきれません……」
「そんな大袈裟だよ。私なんて内臓破裂して血反吐を吐きながら指揮してただけだぜ?」
「いえ十分すぎますよ!? 寧ろ死に掛けながらも指揮をしてくださった事にどちらかと言えば感謝より申し訳なさが勝ちますよ!?」
「いやまぁ、それに関しては完全に私の自爆だからね。そこは気にしなくて良いんだけども。まぁ、それは兎も角として。そもそも、その『対策委員会』っていうのは何なんだい? ずっと気になってたんだ」
謎の暴力集団が学校を乗っ取ろうとしているのも、■■■■■からすればよく分からない。
アビドス高等学校は確かに大きな学校だが、しかしそもそも地域が砂漠地帯。言ってしまえば、こんな学校を占拠した所で利になる要素なんて欠片もない筈だ。
彼女達の口ぶりから察するに、アレはよくアビドスに襲撃を仕掛けてくるのだろうが、尚更意味が分からなかった。
アレの為だけに、わざわざ対策委員会なんて思い付く訳もないだろうし。
「ご説明すると、対策委員会とは……このアビドスを蘇らせる有志が集った部活です」
「うんうん! 全校生徒で構成される、唯一の部活なのです! 全校生徒と言っても、私達5人だけなんですけどね」
「え、5人だけ? 君達以外の生徒は居ないの?」
「他の生徒は転校したり、学校を退学したりして町の外に出て行ったから」
「あー……なるほど。まぁ、こんな状態だ。そりゃそうもなるか…」
何処を見ても砂、砂、砂。そこかしこが砂に侵略されつつある光景を見れば、そうするのも納得してしまう。
学校に通えるとか通いたいとかではなく、そもそも住む場所まで侵されつつあるのだ。そう簡単に残る事を決断出来るものではない。
「うん。学校がこのありさまだから、学園都市の住民の殆どが居なくなって、カタカタヘルメット団みたいな三流のチンピラが学校を乗っ取ろうとする始末なの」
「ネーミングもそうだけど本当にダッセェなカタカタヘルメット団……悪党に拘ってた頃のあの子に見せてやりたいね」
『悪党ですらねェよバカですかァ? テメェらはただ暴れ回りてェだけの三下だろォが。ンなくだらねェお遊びに付き合ってやる義理はねェ、退け』
現統括理事長がチンピラ生徒達を呆気なく一蹴する未来が見える見える。アレはどうやっても先生には似合わないな、と■■■■■は一人で納得した。
「現状、私達だけじゃ学校を守り切るのが難しい。在校生としては、恥ずかしい限りだけど……」
「もし『シャーレ』からの支援が無ければ、今度こそ万事休すって所でしたね……」
「まさしくベストタイミングだった訳だ。私の幸運も捨てたもんじゃないね」
ツンツン頭の少年の不幸が移ったものだとばかり思っていたが、どうやら杞憂だったらしい。
来た経緯はまぁだいぶ大人気ないと言うか、ファーストコンタクトからだいぶ信頼が危ういものではあったが、■■■■■としては彼女達を助ける事が出来たならそれで問題無かった。
「だねー。補給品も底をついてたし、流石に覚悟したね。中々良いタイミングに現れてくれたよ、先生」
「うんうん! もうヘルメット団なんてへっちゃらですね、大人の力って凄いです☆」
「とは言え、それで諦める奴らじゃないけどね」
「あー、確かに。アイツらしつこいもんね」
「こんな消耗戦を、いつまで続けなきゃいけないんでしょうか……ヘルメット団以外にも、問題は山積みなのに……」
頭を抱えるアヤネに、■■■■■はやっぱりかと心中で確信を持つ。
アビドスの問題解決は、かなりの長期戦になる。きっと一つの学校だけではどうにもならない何かが、底では動いているのだと。
アビドスの復興を志す者達によって構成された対策委員会。それが今日まで一切として成果を見せなかったのは、きっと砂漠化だけが原因ではない筈だ。
「なら話は早いね。取り敢えず第一関門突破を目指そう。どうせゴールは目の前だ、サクッとクリアしようじゃないか」
「どういう事ですか?」
「カタカタヘルメット団がうざったいんだろう? なら、そもそもの根っこから断てば良い。丁度、ホシノもそう考えてたんだろう?」
「うへー、先生ってもしかしてエスパーだったりするの?」
「言い得て妙だね。まぁ、このくらいなら魔術なんて使う必要もない。生徒の事ならなんでもお見通しだよ。具体的には触れてしまえばスリーサイズまでまるっとお見通し「ん゛ッッ!!」ちょ待てまさかのアンナ女史じゃなくてシロコからだと!? それはちょっと流石に予想がぶべらっ!?」
学生コスの後輩からではなく、今まさに問題に取り組んでいる最中の学校の生徒からの鋭い上段蹴りが炸裂した。
スカートであるというのに恥じらいもなく、―――スリーサイズを把握させられたという恥じらいが原動力なのだが―――シロコは■■■■■の顔面目掛けて蹴りを叩き込んだ。
あまりにも予想外な人物からの強襲、しかもそれが生徒なのだから■■■■■が対応出来る訳もなく。
絶対領域に守られたシロコの上段蹴りを顔面にもろに喰らった■■■■■は、後頭部から凄まじい勢いで地面に叩き付けられた。
アンナ=キングスフォードはやれやれと液晶の中でため息を吐いた。
『本当ニ懲り
「え、えぇ…」
「おっけー。じゃ続けるよー」
「本当に続けるんだ!?」
「と言っても、殆ど先生が言った通りだけどね。カタカタヘルメット団は数日を置いてからまた学校に攻めてくる。そういうサイクルが出来てる。なら、今度はこっちが攻めるんだよ。今なら敵も消耗してるから、今の内にヘルメット団の前哨基地を叩こうって作戦だよ」
カタカタヘルメット団の戦闘力は決して高くはない。シロコが言った様に殆どがチンピラで、戦術的な利の有無も判断がつかない子供ばかり。
だが、問題なのはその物量に任せた消耗戦だ。例え撃退されても、前哨基地で補給や回復を済ませれば敵はそれだけで再び襲撃出来る。対してアビドスは状態が状態である為、補給も儘ならない。
ゲームで例えるなら休憩地点となる村の有無だ。ヘルメット団にはそれがあり、アビドスにはそれがなかった。アビドスは、今日までそれに苦しめられてきたのだ。
だが、今はどうだ? シャーレの先生―――■■■■■が持つ『大人のカード』によって補給は万全。敵も消耗して間もない今、この瞬間こそが敵の前哨基地を叩く好機ではないか。
「先生が言った通り、やるならすぐが良いでしょ? 今すぐ叩けば楽になるとおじさん思うんだよねー」
「た、確かに……」
「善は急げ、だね。30km程度だし、すぐに出発しよう」
「そうですね。敵も今襲われるとは考えていないでしょうし!」
「それはそうですが……えっと、先生は大丈夫そうですか?」
「勿論。これくらいで気絶する程、弱くはないからね。さっさとお仕置を済ませてしまおうか」
恩返しは、デカくしてやらなければ。
これよりは報復。これまでしつこく絡んできたうざったい輩に、どデカい仕返しをやりにいこう。
3
アビドス高等学校からかなり離れ、ビルが立ち並ぶ都市辺りまでやってきた対策委員会と■■■■■。
シャーレ奪還の時に走った都市とよく似た並びだ。どうやらアビドス全体が砂漠に呑まれているという訳ではないらしい。少なくとも、此処は至って正常だ。ロサンゼルスみたいに砂に呑み込まれていない。
歩道橋の上を走りながら、
『ヘルメット団のアジトがあるとされるエリアに入りました。半径15km圏内に、敵のシグナルを多数検知。おそらく敵も此方が来た事に気付いているでしょう―――ここからは実力行使です!』
張り切った声を皮切りに、全員が武装を構えた。
「よし来た! やっぱこういう特攻はテンション上がるね!」
『理知的ニ見えて子供っぽいノが何ともですわねぇ…というか、貴方ハ戦わ
「まぁ、そりゃね。チンピラとは言え子供に手は上げれないからねぇ……これで中身が世紀の大変態だったりとか大悪魔だったなら遠慮なくぶち殺せるんだけどなー」
■■■■■は女性崇拝といった思想や主義を展開した男だが、だからと言って相手が女なら絶対に手を出さないなんてフェミニスト的な人間ではない。
ベイバロンをモチーフに女子高生の姿形を取ったIFのアレイスターも、アレイスターの二人目の娘であるローラの姿形に似せたコロンゾンも、■■■■■は容赦なくぶちのめした。特にコロンゾンなんかは、そのアバターをすら半壊させるにまで至った程だ。
要するに、大切なのは中身。
「じゃ―――状況開始だ。シロコはドローンで先行爆撃だ。派手に出迎えてやろう」
「了解。
ババババババッッッ!!!!! と、シロコの言葉を合図にして目を覚ます様にドローンが起動した。
四枚羽の翼が二つ並んだ全体的に白で塗装されたドローンは、左右に各々で四つの小型ミサイルが搭載された武装ドローンだ。たった一機あるだけで爆撃を可能とする兵器は、その二つのカメラで対象を視認して、
ヒュヒュヒューンッッッッッッッッッ!!!!!!!!!!!!!!!!! と、空を切り裂いて解き放たれた。
「ぐわぁっ!?」
「敵襲だ!」
「アビドスの奴等か!? 向こうから攻めて来やがったのか!?」
ドゴーンッッッッッッ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!! と、爆炎と共に黒煙が上がった。
劈く爆音と黒煙に煤けたヘルメット団は、しかし炎に燃やされる事もなければ肉片が飛び散る事もなく、肉体の原型を保ったまま地面に倒れ伏していた。
幾ら小型とは言えミサイル。それを受けたというのに原型を留めているという時点で、■■■■■はドン引きする他なかった。
「うわぁ、マジかよ。小型とは言えミサイルだぞ。それ受けてちょっと制服が焦げる程度とかマジでどうなってんだよキヴォトス人」
『だいぶ今更ですわよ、センパイ』
「それもそうか……。じゃ、次。ホシノは盾を展開して前衛だ。敵の注意を引き付けて」
「オッケー」
「シロコは前衛、セリカは中衛でサポートだ。前のヘルメット団は三人が中心、ノノミはアジト、補給所を狙って。あと私が、合図したらフルオートでぶちかます」
「了解」
「分かったわ!」
「はーい!」
迅速な指揮の下、対策委員会の面々は的確に行動していく。
ドンッ! ドンドンドンッッッッッッッッ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!! と、鋭い銃声が幾つも重なると共に散弾の雨が展開される。
ヘルメット団の主な武装はショットガンにアサルトライフル。主兵装としては十分だが、陣形もろくに取れていない状態では、大した脅威にもなりはしない。
身を隠す程の機動盾で苛烈な攻撃を防ぎながら、ホシノは自らのショットガンで的確に相手にカウンターを叩き込んでいた。
足、胸、腹へと正確に照準を定め、躊躇なく引き金に指を掛けて撃つ。ヘルメットで顔を覆っている以上、ヘッドショットは望み薄だ。
ならば、動きを止めれて尚且つ相手をダウンさせられる部位を撃ち抜けば良い。敵の銃弾に身を晒しながら、盾から伝わる衝撃の全てを正確に殺し、ホシノは冷静にそれをやってのけている。
(やっぱ、この中じゃホシノが1番強いね。しかも今だって本気じゃない。多分盾なんか使う必要もないね、この子。銃弾とか簡単に避けて逆に相手にカウンターを叩き込むタイプのガチ近距離タイプ)
他の皆と違い、ホシノの動きには無駄がない。
冷静かつ的確。正確にして冷徹。相手の行動も予測済みなのか、まるで吸い付く様に照準を合わせて狙い撃つ。
その様は、まさしく狩人のそれだった。或いは仕事人、殺し屋とでも言うべきか。
徹底した効率主義。どこを狙えば相手を即死させられるか。どう動けば相手が行動してくるか。それらの思考を一瞬で済ませ、判断し、行動している。
(これは怖いなー。というか、それで言うならシロコもそうか。まだ青いけど、あの子も結構……というか、可能性で言えばホシノより上かもだな。どちらかと言えば『神秘』の方だけど)
ドローンを駆使しながら、着々と敵を沈めていくシロコ。その実力も然る事乍ら、彼女に宿る『神秘』もまた■■■■■の目を見張るものがあった。
(視た感じ、シロコが
砂『狼』と小『鳥』遊。対策委員会でこの二人だけが、各々の神秘を象徴とする動物の名を持っている。
アヌビスとは、エジプト神話における冥界の神。その姿は、金狼犬かその首を持つ人体。
ホルスとは、エジプト神話における天空神。大地と冥府の神たるオシリスと、エジプトの神々の中で最も崇められたとされる女神イシスの間に生まれた神だ。その姿は主にハヤブサの頭を持った人型で表されている。
『名は体を表す』―――魔術界隈ではよく使われる概念だ。同質の神秘と同じ特徴を表す名前、これだけ材料が揃っているのならば、寧ろ理解しない方が難しいと言えるだろう。
(やっぱ魔術の全貌は語らない方が良さそうだな。いらん事態を巻き起こしかねない)
「第一陣クリア。先生、次はどうする?」
「ホシノは前衛のまま進行。次はセリカとノノミがホシノのサポートに回って、シロコはノノミを引き継いで破壊活動を優先」
「了解」
「アヤネはドローンの準備しといて。保険は掛けておこう」
『了解です!』
戦況は、呆気なく進行していた。
突如の襲撃という訳ではない。彼女達が攻めてきた事はヘルメット団とて把握していた。だからこそ、真っ向から勝負を仕掛けてきた。
何故なら『先生』の存在を知らぬのだ。向こうは補給もままならない状態で攻めて来た、つまりはもう余裕なんてない。そう勘違いしたのだろう。
だが残念かな、現実というのは彼女達の予想から大きく逸れたものだった。
「クソっ! なんで私達が追い詰められてるんだ!? 向こうは補給もままならないんじゃなかったのか!?」
「『先生』だ! シャーレの『先生』がアビドスに着いてるんだよ!」
連邦捜査部シャーレの先生、■■■■■=■■■。その名前は既に、キヴォトスに知れ渡りつつあった。
曰く、『先生』。
曰く、『理解不能の存在』。
曰く、『女好きの変態』。
曰く、『何を仕出かすか分からない男』。
曰く、『
効率的且つ的確な指揮の下に生徒達を動かし、時には『
ただ一つ、訂正する点があるとするならば―――彼がそこらの魔術師なんかとは一線を画す存在であるという事。
ここで、未だ本名すら明かされていない彼の異名を開示しよう。
『近代西洋魔術復興の象徴』。
或いは――――――『
「さぁ、