とある教師の青春記録   作:全智一皆

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第五章 信用と信頼 Obligations_that_must_be_fulfilled

 

■  ■

1

 

 結論から言ってしまうと、案の定と言うべきかカタカタヘルメット団の前哨基地は、それはもう呆気なく壊滅した。

 アジトはもちろん、補給所も粉々に破壊され、もはや襲撃など出来る訳もない。仮に装備を整えたとしても、襲撃した所で返り討ちに遭うのが目に見えている。

 なんせ『先生』。高い指揮と、理屈の分からない正体不明な力を操る正体不明の『大人』が、アビドスには味方としてついている。その強さは散々思い知らされた。

 結果として、カタカタヘルメット団は撤退。もうこれでアビドスを襲う事は無くなり、アビドスは平和を取り戻したという訳で、今回の件はこれにてお終い。

 ……なんて、そんなとんとん拍子で事が進む事もなかった。

 いや、確かにヘルメット団は撤退した。これには何ら変わりない。だが問題なのは、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()という事だ。

 

「勝ったー! これでもうカタカタヘルメット団に苦しめられる事もないわね!」

「えぇ。これでやっと、()()()()()()()()()()()()()()!」

「―――借金?」

「あ、」

 

 不味った、と顔に出すセリカ。だが、そんな言葉を聞かなかったフリなど、■■■■■に出来る筈もない。

 借金。借りた金だ。なるほど、予感というのも中々にバカに出来ない。アビドスの問題がそう簡単なものではないと予測してはいたが、どうやらかなりのものらしい。

 うら若き少女が借金。何らかの事情があるに違いないと■■■■■は確信を持った。

 僅かばかりではあるものの、会話した限りでは皆その様な不当な行いをする様な人間性を彼女達はしていないと、信じたからだ。

 

「借金、へぇ。そうかそうか借金か。なるほど、つまりそれこそアビドスが抱える問題という訳だね。全く水臭いじゃないか、それならそうと最初から話してくれれば良かったのに」

 

 なればこそ、協力しない理由が無かった。

 そもそも、生徒が抱える依頼には全力で取り組む所存であったのだ。その問題がチンピラの掃討から借金返済への協力になったというだけだ。

 おそらく、その借金にも何らかが関わっているのだろうし。

 とは言え、協力を惜しむつもりはない。だが、セリカは■■■■■のそれに拒絶の意を示して返した。

 

「べ、別に話す必要もないでしょ! だってこれは、私達の問題だし!」

「ここまで協力して借金という本題が出たらそれを無視して帰りまーすなんてクソみたいな事をこの()にしろって? それは中々に酷というものだね、全力で拒否させてもらうよ。なんせこの()は、女の子が困っているのなら例え手を振り払われても問答無用で掴み返すタイプの男だぜ?」

「ん、先生らしいね」

「大胆ですねー☆」

 

 助けてほしくなかったとか、そんな言葉は悉く無視を決め込んできた。

 助けたいから助け、そしてその子が笑える様になるまで付き合い続ける。それこそが■■■■■=■■■の在り方であり、彼にとって女の子を見捨てる事はもはや命を捨てる事と同義である。

 例え手を振り払われたとしても、■■■■■は躊躇なくそれを掴んで返す。嫌がったとしても引っ張り出して笑顔にさせてみせる。

 その強さを、その我儘を、あの()()に教えてもらったから。

 

「先生になら話しても良いんじゃない?」

「ホシノ先輩!?」

(え、マジ? まさかのホシノがそれ言うの?)

 

 セリカに並んで、つい■■■■■までもが驚いてしまった。

 ホシノが警戒を解いたという訳ではないが、その警戒も最初のものに比べれば何処か柔らかくなっている気がする。

 多少の気を許した、というよりは利用出来ると結論を出したのだろう。

 

「別に隠す様な事じゃないでしょ?」

「け、けど、だからと言ってわざわざ話す事でもないでしょ!」

「別に罪を犯したーとかそんなんじゃないでしょ? それに、先生は私達を()()()()()()()()でしょー?」

「ほ、ホシノがそんな言葉を…! 先生嬉しくて涙が出そうわぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!!」

「もう泣いちゃってますよ!?」

「うへー、おじさんそんなに冷たかったかなー?」

 

 女性が絡むとやけにメンタルが脆くなるのが玉に瑕である。特にそれが警戒心高めだった女の子なら特に。■■■■■はデレに弱めである。

 まぁ、それは隅に投げ捨てておくとして。

 

「先生は私達を助けてくれた。確かにぱぱっと解決してくれる確証はないけど、それでもしっかり話しを聞いて取り組んでくれるかもでしょ? それとも、セリカちゃんには可能性である先生に頼らず問題をどうにか出来る作戦でもあるのかなー?」

「そ、それは……」

 

 鋭い指摘を突き立てられ、言い淀むセリカ。それは確かにそうだと、■■■■■は首肯する。

 シャーレからやってきた先生というだけで可能性は見えてくる。先の戦闘においても、大きなサポートをしてくれた存在である『先生』に多少なりの信頼、希望を見出すのは確かだ。

 大袈裟な表現になるかもしれないが、現状を打破する事が出来る唯一の可能性こそが今の■■■■■であり、そして魔術師■■■■■はそれが可能な存在。

 頼る事を申し訳なく思う事こそあれど、忌避する理由など無いというのがホシノの意見だ。そんな彼に頼る事なく、問題をどうにか出来る解決があるのならば話しは別だけど、と。

 

「私も、先生は信頼出来ると思う」

「そ、そりゃそうだけど、先生だって結局部外者だし!」

「セリカちゃん……」

「さっき来たばかりの大人でしょ!? 今まで大人達が、この学校がどうなるかなんて気に留めた事なんてあった!? この学校の問題は、ずっと私達だけでどうにかしてきたじゃん! なのに今更、大人が首を突っ込んでくるなんて……私は認めないッ!!」

 

 そう言い切って、セリカはガラッ!! と扉を勢いよく開いて、部室から出て行った。

 そんな彼女を心配して、様子を見てきますとノノミは後を追い掛け、そして教室には気不味い空気が残り、

 

「……なるほどね」

 

 理解した様に、呟いた。

 意見としては、まぁ分かる。確かにその通りだと納得出来る。

 寧ろ、セリカの反応こそがどちらかと言えば常識的だろうとさえ言える。これまで誰一人として学校の存続を気にする事などなく、対策委員会の皆でその問題に取り組んできた。

 それに、今更大人が首を突っ込む? これまで見向きもしなかった大人が、今になって?

 遅い。遅過ぎる。今更、信じられる訳がない。そう不信感と警戒心を積もらせる事は決して間違いなどではない。

 

「すみません、先生…」

「良いよ、謝らなくて。セリカの反応は当たり前だ。察するに、大人に随分と振り回されたんだろう? そりゃあれくらい言いたくなる。今更何なんだよってね。全く、時代が変わろうが世界が変わろうが、クソみたいな大人ってのはいつも居るもんか。難儀なもんだね」

 

 生きた時代が時代だ。■■■■■も汚い大人は何人も目にしてきた。凡人であれ魔術師であれ、クソみたいな存在は何人もだ。

 あの『人間』も、その信念と激情こそ確かに一本筋が通ったものではあるがそれ以外ではクソ同然だ。あのビリビリツンデレ中学生を呪いで死に追いやろうとした事を、■■■■■は未だ忘れていない。

 

「まぁ、取り敢えず話を聞かせてもらえるかい? 全体を把握したい」

「うーんと、簡単に言えばこの学校、借金があるんだよ。ありふれた話なんだけどさ。けどその借金がさー……9億ぐらいあるんだよね」

「へぇー、9億か。そりゃめちゃ多い………………ん? はい? は、ちょ、ま、へ、ほ、はっ、はぁァァッッッ!?!?!?」

『あら〜…メイザースですら背負った事ノ×(ない)額ノ借金ですわね』

 

 9億? 億ってあれ? 一から一気に九も桁を飛ばして辿り着くアレ? 普通のサラリーマンが働いて生涯稼ぐ事が出来る財産が約2億とされているから、それの約4.5倍?

 それを立った5人で返済? 女の子が5人で人間の一生涯で稼げる財産の約4.5倍もの大金を返済しなければならない?

 ちょっと何言ってるか分からない。脳がその現実を理解する事に対して全力で拒否している。頭の中で呆けた顔の猫が浮かび上がるどころかその猫から強烈な猫パンチを顔面に叩き込まれたかの様な凄まじいインパクトだった。

 

「……正確には9億6235万円、です。アビドス……いえ、私達『対策委員会』が返済しなくてはならない金額です」

「ばっ、いやいやあまりにも無理ゲーが過ぎるだろどうなってんだよキヴォトスの借金はッ!? 外の世界の一般サラリーマンが一生涯に働いて稼げるのが約2億なのにそれの約4.5倍の量を学生で返せって人間に対して筋肉だけで空飛んでみろよって言ってる様なもんだぞ!?」

「それを返済出来ないと、学校は銀行の手に渡り、廃校手続きを取らざるを得なくなります。ですが、先生の言う通り実際に完済出来る可能性は0%に近く……殆どの生徒は諦めて、この学校と街を捨てて、去ってしまいました……」

「そして、私達だけが残った」

 

 なんてこった、予想してたよりも現実があまりにもハードモード過ぎて頭痛がしてきた。■■■■■は本気で頭を抱えて天を仰いだ。

 無理ゲーでありクソゲーだ。希望論じゃもうどうにもなりゃしない。こんなのどうやったって彼女達だけでは達成出来るもんじゃない。

 それこそ大規模な銀行強盗か不動産詐欺にでも成功しなければ、絶対に無理だ。こればっかりは魔術師であろうと断言する他にない。

 

「つまりは、アレか。その借金の所為で廃校の危機はやってきたし、生徒も居なくなったし、アビドスという街自体がゴーストタウンになりつつある訳かね」

「そういう事になるねー。とんでもない砂嵐をどうにかする為に頑張ってたのが、それに殺される羽目になっちゃった」

「いよいよ以てアビドスの感染魔術的要素が現実味を帯びてきた……エジプトでもそんな伝承も記録もないぞ。アビドスの気象状態はどうなってんだ。でもまぁ、なるほど。納得したよ。そりゃあんな神経質にもなる。匙をぶん投げるどころかへし折るレベルの難問だろコレ、これまで誰も向き合おうとしなかった訳だ」

 

 毎月の利息を返すだけで精一杯で、その所為で補給すらままならない。いつまでやっても返済の目処は立たず、さらにはチンピラが襲撃してくる始末。

 ぶっちゃけて言ってしまえば、寧ろ問題に向き合おうとする人間の方が稀だ。

 こればっかりはあのツンツン頭の少年にもどうしようもない。話し合いでも拳でもどうにも出来ない『金』の問題なのだ。

 

 ……だが、しかし。

 

「先生のお陰でヘルメット団っていう厄介な問題は解決した。だから、これからは借金返済に全力投球出来る様になったってわけだよー」

「……」

「もしこの委員会の顧問になってくれるとしても、借金の事は気にしなくていいからねー。話を聞いてくれるだけでもありがたいし」

 

 それは、なんだ。見捨てる理由になるのか?

 

「そうだね。先生はもう十分力になってくれた。これ以上は迷惑かけられない」

 

 目の前で、女の子が困っている。

 その人生が、理不尽によって押し潰されてしまいそうになっている。

 それを―――見捨てるのか?

 借金がデカイから見捨てるのか? 普通の人間では返済出来ない様な額だからと諦めてしまうのか?

 彼女達にとって大切な学校が潰れるのを、黙って見過ごすのか? 彼女達の想いが募った場所が奪われるのを、そのまま放置するのか?

 

「―――ハッ。上等じゃねぇか」

「先生?」

 

「やるさっ、あぁ、やるともやってやるともよ! この連邦捜査部が顧問■■■■■=■■■が、アビドス廃校対策委員会の借金返済の問題に全身全霊で取り組もうじゃないか! 9億の借金がなんだってんだ! 女の子が困っているのを見捨てる理由としてはあまりにもちっせぇよそんなもんはッ! こちとら廃れつつあった近代西洋魔術を全部纏めて復興させた男だぜ? 借金問題の解決策の一つや二つくらい捻り出してやるよォッッ!!!!!!!!」

 

 悪戦苦闘なんて珍しい事ではない。四面楚歌なんて何度も経験した。この程度は逆境にすらなりはしない。

 ―――可愛い生徒の為ならば、金の死地にだって飛び込んでやる。

 

 

2

 

 

「さーて……マジでどうしようか」

『やっぱり考え×(なし)でしたわね』

 

 あれだけ大口叩いてみたのは良いものの、しかし実際には借金返済の為の策などこれっぽっちも思い付いてなどはいなかった。

 なんせ額が額だ。100万とかそこらならばまだどうにか出来たものの、9億6235万とかいうバカみたいな桁がずらっと並んでいるのが相手だ。そう簡単に考えなぞ浮かばない。

 

「ぶっちゃけ9億なんて大金稼ぐ手法なんて不動産詐欺ぐらいしかないぞ。もしくはFXか? 占星術……と言うよりは八卦? いや風水か。そこら辺を応用して力場を読むとかして株買い占めてウハウハとか? いやいやあまりにも嫌過ぎるというかそこまでいくともはや過干渉だろうし皆が納得する訳もないんだよなクソっ俺はどうすれば良いんだよマジで借金9億とか無理ゲーにも程があるだろッッッ!!!!!」

『およそ国家予算ニ匹敵しそうな大金が壁ニ成るというノは、何ともですわね。しかもそれが、悪徳金融業者ノものだと言いい(ます)。確実ニ裏ハ()(ます)わ』

「そこなんだよなぁ……ぶっちゃけ借金を返済して解決ってよりは、そこん所を突き止める事の方こそ根本的な解決策なんだよね」

 

 そもそもの話。

 何故その悪徳金融業者は、このアビドスにそれ程までの大金を貸すに至ったのか? という問題に■■■■■は行き着いた。

 都合が良かったから? それもあるだろう。何よりこのキヴォトスでは女子生徒が殆どだ、漬け込む隙など幾らでもある。

 だが、それだけではない筈だ。たったそれだけの事であるならば、わざわざ9億なんて額の借金をさせるまでもない。そう仮定すると、必然的に一つの分岐が生まれる。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 魔術師■■■■■として見ても、アビドスという土地にある『神秘』は膨大だ。それこそシロコやホシノといった逸材を生み出す程に凄まじい。もはや恐ろしいくらいに。

 

「もしも相手が『神秘』にまつわる何か、或いはその『神秘』を研究しようとしているとした場合、アビドスに接触したのも手に入れようとしているのも納得がいく。言わば超格安の優良物件だ、逃す手がない」

『ですわね。アヌビスにホルスと、エジプトの名だたる神格ノ神秘(ちから)を持った若者が既ニ二人。それニ加えてノノミさんノ中学校は()()()()()と……キヴォトスの存在が露見したら、とんでも×(ない)事ニなり(ます)

「きな臭いったらありゃしない。そもそも敵が悪徳金融業者だけってのも、あくまで予測だ。もっとデカイ何かが居る可能性だってある。相手が雑魚なら問題ないんだけどなぁ……」

『貴方ノ相手ヲ務める方が×()憫で仕方()〼×(ません)ねぇ』

 

 悪徳金融業者であれ、神秘を取り扱う者であれ、この男を相手するとなれば万全に万全を重ねたとしてもどうにもなりはしない。

 極力魔術は使わないスタンスを取る様にしたものの、しかしそれを見極めるのは他ならぬ■■■■■自身だ。生徒を絶望の底まで貶め、さらには実験などしようという輩が居るなら■■■■■は躊躇いなく魔術を使う。

 仮に魔術を使えぬとするならば、今度は『科学』の暴力を振るうというだけの話。何もアレイスターだけが、その頂点に立っているという訳ではないのだから。

 まぁ、そんな自慢話は放っておくとして。

 

「取り敢えずはセリカとの友好関係を築く事から始めよう! まずは皆で仲良く話したいしね!」

『些か××(不安)が残り(ます)けど。♂♀(彼女)と仲()くなるノはかなりノ×()易度でハ?』

「いやホシノに比べたら全然でしょ。あの子はもはや諦観ギリギリの所まで行っちゃってるし。本当の意味で信頼度ゼロからスタートしてるのに比べたらマシよあれくらい。というかセリカの反応が普通なんだよ。寧ろあれくらい警戒心とか持っとかないと、社会出たらすぐ引っ掛かる」

 

 ぶっちゃけアヤネやノノミ、シロコの面々は警戒心が足りなさ過ぎて先生心配だよ。■■■■■は老婆心から普通に彼女達が心配だった。

 

「疑う事を知らない訳じゃないんだろうけど、そこら辺がまだまだ子供だ。ちっとばかし純粋過ぎる。良い事ではあるけど、綺麗事ばかりじゃないのが社会だ。まだ早い段階だとは自覚してるけど、流石に心配になる」

『まぁ、それヲ言われると私も思う所ハ()(ます)。冷たい事ヲ言うならば、騙されるのは時間ノ問題ですわ。セリカさんも、アレは騙され()い方な気ガして…』

「分かる。表面じゃツンツンしてるけどあっさり騙されそう」

 

「好き勝手言ってんじゃないわよ! ぶっ殺すわよ!?」

 

 シャー! と、耳を立てた黒髪猫耳学生服少女からの威嚇じみた非難と暴言がいきなり飛んできた。

 アビドスの住宅街まで散策がてらやってきていた■■■■■は、幸運な事に(彼女からしたら不幸)セリカと出くわした。

 

「やっほー、セリカ!」

「どんな神経してればさっきの流れから馴れ馴れしく挨拶出来んのっ!?」

「細かい事は気にしちゃダメだよ。この場合は細かい事っていうか事実なんだけども。まぁ、そんな事は置いておくとして」

「現在進行形で本人目の前なんだけど!? 勝手な偏見言われた本人の事情ガン無視するとか本当にどういう神経してんの!?」

「セリカは学校かい? もしそうなら一緒にどう?」

「本当にコイツ…!!!」

 

 掴み所がないというか、ムカつくというか。本人を前にして何事も無かったかの様に話しを進めていく■■■■■にセリカはご立腹であった。

 カタカタヘルメット団撃退の際の協力には勿論感謝している。だが、それとこれとでは話が別だった。

 普通に腹立つ。勝手に人の偏見を喋ってた人間が当たり前の様に馴れ馴れしく話し掛けてくるのとかすっごい腹立つ!

 

『あまり気ニし×(ない)方ガ()いですわよ、セリカさん。この人ハ(これ)がデフォルトです(から)

「そ、そう……いや、さりげなく味方みたいな雰囲気出してるけどアンタも私の事騙され易そうとか言ってたわよね? ちゃんと聞こえてたよ?」

『んふふ、何ノ事やらさっぱり分かり〼×(ません)ねー☆』

「今すぐそのタブレット叩き割りたい…!」

 

 アンナ=キングスフォード、どうやら格好だけでなく精神も僅かながら子供っぽくなっているらしい。誤魔化す気が欠片も感じられない辺りは、本当にその通りだからというのもあるのだろうが。

 って、そうじゃないそうじゃない。セリカは気を取り直す様にブンブンと首を横に振り、

 

「今日は自由登校だから行く必要ないの。私は忙しいから。さようなら!」

 

 颯爽と逃げ出した。

 セリカは 逃げ出した!

 だが残念かな。その程度では、この男からはどうやっても逃れられない。

 

「黙って行かない辺り、あの子の優しさを感じるね。でもね、セリカ―――それくらいの速度で逃げ切れる程、この大人(わたし)は弱くないぜ?」

 

 魔術など使う必要もない。そもそもが逸脱していた。

 生命力を魔力に変換するのではなく、その逆。魔力を生命力に変換する技術。要するにMPをスタミナに変換するソレを以てすれば、全力疾走を幾ら続けようが身体に支障が来す事もない。

 僅かに腰を落とし、前へ大きく踏み出した右足でグッと地面を蹴って魔術師の疾走が開始して、

 

「学校に行かないなら、これから何処に行くんだい?」

「うわっ!?」

 

 間もなくして■■■■■はセリカの隣に並び、そのまま並走して話し掛けた。

 かのアレイスターはおろかアンナ=キングスフォードすら下した魔術の達人、薔薇十字の創設者にして伝説の聖人たる『暴君』クリスチャン=ローゼンクロイツによる学園都市襲撃が、かつてあった。魔術だけでなく身体能力すらも桁違いだったそれを、真っ向から抑え込んだ立役者は他ならぬこの男だ。

 そんな■■■■■に身体能力で勝負など、それこそ荒唐無稽と言う他になかった。

 

「なんで着いて来るの!?」

「そりゃ何処に行くか知りたいからね。凡その予測はつくけど、やっぱり本人の口から聞きたいからさ」

「説明する気ないわよ! ストーカーなの!? 本当にぶっ殺すわよ!?」

「私は堂々と後を追うから決してストーカーではない!」

「本人の意思ガン無視して追い掛けてる時点でストーカー以外の何者でもないでしょバカじゃないのっ!?」

「ンンンンンンっっっまさに正論! 結構心に来るけどツンデレからの罵倒とくれば寧ろご褒美な気がしてきたねやっぱツンデレって最高だなおい!」

 

 走りも口も止まる事を知らない変態教師■■■■■。

 傍から見れば何ともまぁシュールでもはや恐ろしいとまで言える光景だが、此処はアビドス。それを見て反応する者など皆無である。

 

「誰がツンデレよ!? ツンしかないわよデレなんか欠片もないからっ! いい加減追うの止めて止まりなさいよ!」

「私が諦めるのを諦めなさい」

「本当に面倒くさいッ! 分かったわよ言えば良いんでしょ言えば! バイトよ、バイト! これで良いでしょ!?」

「出来ればバイト先も」

「っっっっ!!!!! 調子のんなー!」

「うっそだろその体勢から回転蹴り打てんのかよ!? マジでキヴォトス人の身体能力どうなってんだよつか俺アビドスに来てから何回顔面殴り蹴られすりゃいいんぐぼあっっっっっ!?!?!?!?!?!?!?」

 

 アビドスに来てから顔面パンチ&キックをもろに炸裂されているのは自業自得以外の何もんでもないので、どうしようもない。

 走っていた身体を跳躍し、そのまま慣性の法則に従って流れる様にしながら身体を回転させ、伸ばした右足の膝が■■■■■の顔面に見事に叩き込まれた。

 勿論、そんな攻撃を食らって■■■■■が無事で済む筈もなく、勢いよく後頭部から倒れて蹴り飛ばされた石ころの如くゴロゴロと道路を転がって行った。

 

「ほんっと……何なのよ、アイツ」

 

 やっぱり大人は信用ならない。

 セリカは目を背ける様に、無理やりそう納得した。

 

 

3

 

 

「という事があってね。見事道路に倒れ込んでいたという訳さ」

「いやー、セリカちゃんも中々やるねー」

「後輩の成長を喜ぶのは良いけど出来れば先生の心配もしてほしかっ「だって自業自得でしょー?」誠にその通りです大変申し訳ございませんでした」

 

 セリカに蹴り飛ばされてから暫くして、■■■■■は対策委員会に連絡を取り合流する事になったのだが、経緯が経緯なので普通にぞんざいな扱いだった。

 先生ってよく分かんないねー、と呆れ気味なホシノによる精神的ダメージは中々だったらしい。

 

『とか言いつつもまたやらかすノでしょうね』

「ん、大丈夫。私がいつでもおぶってあげるから」

「私もやりたいですー☆」

「女子高生におんぶされるとか大人としての尊厳がぶち壊されるというか単純に公開処刑が過ぎる。けど二人におんぶされるならそれはそれで良いかも思ってみたりっっっ!!!!」

「あはは……」

 

 相変わらずブレない大人だ。頼りになるのかならないのかよく分からないコレには、流石のアヤネも苦笑いを浮かべるばかりだった。

 まぁ、それはそれとして。現在、五人が目指すのはセリカのバイト先。

 セリカはアビドスで機能している数少ない店である柴関ラーメンというラーメン屋でアルバイトをしているらしい。

 丁度昼時だし、昼食ついでに先生を交えて交友を深めようという算段である。

 

「先生は大丈夫なんですか? その、顔に膝蹴りがモロに炸裂したって言ってましたけど……」

「これくらいなら平気だよ。術式が無くてもわりと丈夫だからね、私。ぶっちゃけアンナ女史のやつの方が何百倍も痛い」

『別ニ×()闇矢鱈ニ振り翳している訳でハあり〼×(ません)わ。センパイが変な事さえ言わ×()ければ私も何もし〼×(ません)

「いいやこの場合は私は悪くないね。絶対に悪くない。だって目の前にすっげぇ美人が居たら声出さずにはいられないじゃん!? それと同じで目の前に説明不要のデカ『えいっ☆』またかよぐぼぉッッッ!?!?!?」

「先生ー!?」

 

 またもやアンナ=キングスフォードの激強パンチが■■■■■の顔面に炸裂した。本当に懲りねぇなコイツ。一体なんどやれば気が済むのやら本当に謎である。もはや感心すらしてくる程の誠実さだ、悪い方で。

 

「ん……まだ成長途中」

「先生も男の子だねー」

「いやそれどころじゃないですよね!? 先生、大丈夫ですか!?」

「だ、大丈夫だいじょーぶ。慣れてるから。『火花』で内臓破裂した時よりは全然マシだから」

「比較対象の規模がデカ過ぎませんか!?」

 

 燃える剣で半身が肉塊になったり『火花』で内臓が破裂したりと、致命傷ばかり。それに比べれば確かに楽だろうがら比較対象が本当に間違っている。

 しかも半分は自業自得である。『飛沫』がそういう魔術であると言えばそれまでだが。

 

「大丈夫、多分アヤネもいつか同じ事を私にするから」

「えぇっ!? なんでですか!?」

「ヒューズ然り、リン然り、アンナ女史然り、私の経験では眼鏡っ娘は私に対する当たりがバカみたいに強い。今の所当たりが強くないのはチナツとアヤネだけだけど、多分いつか遠慮が無くなる」

「先生が言動に気を付ければ良いだけじゃないのー?」

「ごめんけど私は女性に正直でありたいから無理だね」

「正直過ぎるのも考えものだよー……」

 

 この時はそんなまさかと聞き流していたものの。

 しかし後に、アイドルになりたくないが為に武装ヘリで■■■■■を爆撃するのであながち間違いではなかったと気付く事になるのだが、それはまた別の話。

 そんなこんなで雑談を繰り広げながら歩く事数十分。■■■■■達はやっとアビドスの都市辺りまで辿り着き、セリカのバイト先を知るホシノに案内されるままラーメン屋へと入っていくと、

 

「いらっしゃいませ! 柴関ラーメンです! 何名様ですか? 空いている席にご案内しますね!」

「少々お待ちください! 3番席替え玉追加です!」

 

 頭に白い三角ずきん、柴関ラーメンと記された腰巻を付けたセリカが良い手際でアルバイトに勤しんでいた。

 猫耳がある所為で三角ずきんは後頭まで下がっているが、それでもアルバイトとして客の食べ物に毛などが入らない様に注意を払いながらせっせと働いている様に、■■■■■は学生らしさを感じざるを得なかった。

 ぶっちゃけ、アビドスに来てから学生が学生らしい事をしてる所を全く見ていない。なんせ来てから早々に始まったのが、話し合いでもなくバチバチの銃撃戦だ。

 キヴォトスに来てから既に数週間が経過しそうになるものの、未だ女子供が容易に銃撃戦してるのには慣れていない。そんな簡単に慣れて堪るか。

 

「いらっしゃいませ! 柴関ラーメ……わわっ!?」

「あのー☆ 5人なんですけどー!」

「あはは…お疲れ、セリカちゃん」

「お疲れ」

「み、みんな…どうして此処を……!?」

「うへ〜、やっぱ此処だと思った」

「どうも、セリカ。さっきぶりだね」

『此処がラーメン屋ですか。せっかく復活した訳ですし、一度ハ来てみたかったノですよねー』

「せっ、先生まで……やっぱりストーカー!?」

 

 キッと鋭い目を向けるセリカに、返す言葉もないと■■■■■は頭を下げる。

 既に警戒心はマックス。ストーカー呼ばわりするのもそう思うのも決して無理はない。それだけの所業だった。

 しかし、そんな誤解を解く様に、先生は悪くないよーと、まさかのホシノが■■■■■へと助け舟を出した。

 

「セリカちゃんのバイト先と言えば此処しかないじゃん? だから来てみたの」

「ホシノ先輩かっ…!! ううっ……!」

 

 先輩と同級生に自分のバイトを見られるとか公開処刑以外の何もんでもないんですけどしかもよりによってストーカーも着いて来るし何なのよ本当ッッッ!!!!

 セリカは恥ずかしさと憎しみを込めたごちゃごちゃ複雑な感情をありったけ目に乗せて■■■■■を睨んだ。視線だけで人を殺せそうなくらいに鋭い目だ、マジで怖い。

 申し訳ないとは思ってる。けどアレがデフォなんですと■■■■■は弁明にもならない弁明でどうにかしようとするも、残念ながらと言うべきか案の定と言うべきか、やっぱり意味はなかった。

 そんな、グルル…と今にも噛み付きそうなセリカを窘める様に、

 

「アビドスの生徒さんか。セリカちゃん、お喋りはそこまでにして、注文受けてくれな」

「た、大将……はい、分かりました……席にご案内します……」

 

 如何にもラーメン屋の大将が着る様な格好をした二足歩行の柴犬が腕組んで出てきた。

 

「え、柴犬!? 確かに柴関って名前で柴犬の柴って入ってたけど店長マジでまんま柴犬なのかよっ!? ロボットが公務員だったり柴犬が二足歩行で人語喋る大将だったり何なんだよキヴォトスはマジでどうなってんだよ魔境にも程があんだろッッッ!?!?!?」

 

 脳がこの現実を理解するのを絶賛拒んでいる。

 女子生徒ばっかなだけのみならずロボットがスーツ着たり消防服着たりして公務員やってるだけでも訳分からんというのに、遂に動物が二足歩行で働いてやがるときた。

 キヴォトスとは何なんだろうか? 答えは魔境。否定出来ないのが何ともである。透き通った青春生活の中に必要な要素か、これが?

 

『あらあら可愛いですねー! うーん、実体化出来×(ない)ノが本当ニ悔やまれ(ます)わ! センパイセンパイ、ちょっとアレイスターみたいニ義体作ってもらえ〼×(ません)? 私あれやりたいです、スヌートチャレンジ!』

「人のバイト先で大将に無礼働いてんじゃないわよこのバカ共がァァァァァ!!!!!!!!!!!!」

「元気な連れさんだ。シャーレの先生だったか? 此処まで長かったろ、ごゆっくり」

「あらヤダこの柴犬大将めっちゃ優しい…! これはもうドカ食いするしかねぇよなァ!」

 

 器の広い大将に感涙しながら、セリカに案内されるままに5人席まで辿り着いた瞬間、ビリッ! と■■■■■に電流が走った。

 片方に3人と片方に2人。5人となれば、■■■■■は必ず片方の席に座らなければならない。

 

「あ、先生は私のお隣に! 空いてますよー!」

「ん、私の隣も空いてる」

 

 バカでかい壁が立ちはだかりやがった…!

 アニメや漫画では『どっちのヒロインの隣に座るか』という展開は実にありふれていてもはやお約束とすら言える場面だが、まさか現実でこれに遭遇するなんて一体誰が想像しようか!

 しかも片やママ味を感じるほんのり巨乳系JK、片やクールながら乙女らしさを持つ銀髪ケモ耳美少だと!? これを片方しか選べないとかこの世界は地獄か!?

 

「くそっ、今この時だけはアレイスターが心底から羨ましい! 何が『私の魂は極彩に輝いていた』だよ10億8309万2867通りのIFがあるとか卑怯にも程があるだろ!? 自分が2体同時に存在する事が出来ないのが本当に恨めしいッ…!!! 今からでもやってみるか!?」

「だから人のアルバイト先で無礼働くなつってんでしょ本気でぶっ殺すわよッッッ!? しかも理由が不純過ぎる! エッチなのはダメ! 死刑!」

「セリカちゃんそれセリカちゃんの台詞じゃないよ!?」

「メタが加速しまくってるね〜」

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