とある教師の青春記録   作:全智一皆

8 / 11
第七章 便利屋68 The_back_of_an_outlaw_I_admired

 

■  ■

1

 

「それでは……アビドスの定例会議を始めます!」

「よっ、待ってました!」

「いや、そんなワクワクするものじゃないでしょ、会議って」

 

 まるでいち推しの芸人の登場を祝うかの様な掛け声を出した■■■■■を、セリカは馬鹿を見る目で制した。だが、そこには以前の様な刺々しさはなく、どちらかと言えばただ呆れているといった感じだった。

 セリカが誘拐され、それを助け出してからもう一日が経過した。

 いきなり奇襲されて誘拐、それからまたいきなり解放されて戦闘と、色々な出来事が重なった所為でセリカの疲労が限界を迎えた。

 それで彼女が倒れてしまったのもあってか、暫くの休憩を経てから今日に至った訳である。

 ■■■■■が倒れた彼女を遅くまで診ていた甲斐もあってか回復は早く、そのお陰でセリカも、シロコやノノミまでとはいかずとも■■■■■に心を開いてくれている。

 そんなこんながあって、また5人揃って今日を迎える事が出来たアビドス対策委員会は、■■■■■も交えて定例会議を開いている最中だった。

 

「えー、今日は先生もいらっしゃいますので、いつもより真面目な会議が出来ればいいなと思います」

「は〜い☆」

「もちろん」

「うへ、よろしくねー、先生」

「正直、先生が居たらさらにごちゃごちゃになるんじゃ……」

「生徒からの酷い言い様に先生は悲しみが深くて仕方ない。私がいったい何をしたと言うのか……」

 

 思い当たる節がないといった具合で首を傾げる本職魔術師の変態副業教師■■■■■。いや寧ろ思い当たる節しかないだろというツッコミは野暮だろうか。

 やってる事が生徒へのストーカーとセクハラ(今の所は主にリンに対してだけだが)という時点で、教師としての落第点は百点満点だろうに。

 

「と、ともかく、会議を始めます! 早速議題に入りますが、本日は私達にとって非常に重要な問題……『学校の負債をどう返済するか』について、具体的な方法を議論します」

「ふむ。まぁ、今のアビドスの問題の大部分はそれだからね。それをどうにかしない限りは、砂漠化の問題解決にも取り組めない」

 

 アビドスが直面している問題は、大きく分けて二つある。

 ・積み重なった莫大な借金によるアビドス高等学校の廃校。

 ・アビドスという地区を飲み込む可能性のある砂漠化。

 もはやまともな活動をしている学校などこのアビドス高等学校以外になく、そしてそのアビドス高等学校すらが借金によって踏み潰されそうになっている現状だ。

 廃校が確定すれば、砂漠化という問題への対処すら出来ないまま終わってしまう。だが、それは逆に言えば廃校の問題さえ解決出来れば、砂漠化への対処に取り組めるという事でもある。

 例え廃校を覆せたとしても、それでアビドスに人が戻ってくる訳じゃない。そもそもの原因は、突如として発生した大規模な砂嵐による砂漠化なのだ。

 それを解決し、アビドスという地区の存在を何らかの方法で知らしめる事によってようやく、アビドスに人が戻ってくる。

 その果ての見えない遠く長い道を歩む為にも、まずは借金をどうにかしなければならない。

 

「はい。先生の仰る通りです。ですので、やはり私達の第一目標は借金の返済です。ご意見がある方は、挙手をお願いします!」

「はい! はい!」

「はい、1年の黒見さん、どうぞ!」

「……あのさ、まず苗字で呼ぶのやめない? ぎこちないんだけど」

「せ、セリカちゃん……でも、折角の会議だし……」

 

 猫耳ツンデレ少女はどうやら苗字呼びがお気に召さなかったらしい。

 アヤネとしては、■■■■■という先生も同席した会議だから雰囲気を出したかったのだろう。

 

「まぁ、そうだねぇ。私としても堅苦しいのはあんまりね。とは言え折角の会議だし、たまには真面目になるのも良いかな?」

「ほら、先生もこう言ってる訳だしさー。こういうおかた〜いのも良いんじゃない?」

「ですよね! こういうのも委員会っぽくてイイと思います☆」

「そ、そう……まぁ、先輩達がそう言うなら良いけど。とにかく! 対策委員会の会計担当としては、現在我が校の財政状況は文字通り絶望的! 破産の寸前としか言いようがないわ!」

 

 椅子から立ち上がり、声を張るセリカ。それに対して■■■■■は、

 

「え、何これめっちゃ可愛い。誰これ? シロコ?」

 

 話そっちのけでホワイトボードに描かれている可愛らしいミニキャラに釘付けになっていた。

 

「ん、私」

「めちゃ可愛なんですけど。ちなみにこれ誰が書いたのこれ?」

「私でーす☆」

「良いねー、ホワイトボードにこういうの書くのめっちゃ青春感じるわー。ちょっと写真撮っていい? あ、ついでに私も書いてよ。並んでる感じ「初っ端から人の話無視してんじゃないわよッッ!?」ごめんごめんごめんって! 謝るから銃口向けないでェ!?」

 

 この男は本当に期待を裏切らなかった。

 ついさっき真面目にするのも良いかとか発言したのに、数秒足らずでそれをひっくり返しやがった。何故そうも自分から信頼を失くす様な事ばかりするのか甚だ疑問である。

 

「ったく! ノノミ先輩も先生と一緒に乗らないでよ! さっきも言った通り財政状況は最悪なの! このままじゃ廃校! 皆分かってるでしょ?」

「まぁねー」

「毎月の返済額は、利息だけでも788万円。私達も頑張って稼いでるけど、正直利息の返済にすら追い付けてないのが現状なの」

「利息だけで788万か…そういえば、セリカはバイトしてるけど、他の皆はどうやって稼いでるの?」

「指名手配犯を捕まえたり、苦情を解決したり

ボランティアをしたり……そういう積み重ねで頑張ってきたわ。けど、それも限界がある」

 

 バイトを一つ二つ重ねた所で、得られる収入など塵も同然。バイトをしながら指名手配犯の逮捕、地区の苦情の解決、ボランティアといった小さな積み重ねで、アビドスはやり繰りしてきた。

 だが、セリカはそれにも限界があると言った。実際にその通りで、それは全員も気付いている事だったのだろう。対策委員会の面々は首肯を返した。

 

「つまりセリカが言いたいのは、一攫千金。見返りがデカイ山場で一発狙おうぜ!って事かな?」

「そう!」

「デカイ山場って……例えば?」

「これ!」

 

 問い掛けを待っていましたとばかりの笑みを浮かべたセリカが取り出したのは、一枚のチラシだった。

 

「うわぁ……」

「『ゲルマニウム麦飯石ブレスレットであなたも一攫千金』……ねぇ……?」

 

 ■■■■■はあからさまに顔を顰め、ホシノはあちゃーと困り顔。まさか本当に自分の言葉が当たるなんて思いもしていなかったのだ。

 

(確かに騙され易そうとは言ったがあくまでそれは『易そう』であって別に確信までしていた訳じゃなかったのに本当に騙され易いとかマジかよっっっ!!!! えっ、俺これどうすりゃ良いの!? こんな自信満々な笑みを浮かべてるツンデレ系猫耳少女に『それ騙されてるよ』って残酷な事実を告げなきゃいけねぇのか!?)

「これでガッポガッポ稼ごうよ!」

「えっと…セリカちゃん…」

「この間、街で声を掛けられて、説明会に連れて行ってもらったの。運気を上げるゲルマニウムブレスレットってのを売ってるんだって!」

「ん…」

 

 意気揚々と語り続けるセリカだが、これにはシロコも困惑せざるを得ない。もう言い訳の余地もなく完全に騙されている。

 なんでそんなあからさまなものに引っ掛かってるんだろう私の後輩……と、寧ろ疑問を抱いている始末だった。

 

「これね、身に着けるだけで運気が上がるんだって! で、これを周りの3人に売れば……って、どうしたの?」

「却下ー」

 

 判決はあっさり下された。小鳥遊ホシノ委員長の判決により、黒見セリカの案は当然の如く却下である。

 

「えーっ!? な、なんでっ!? どうして!」

「ホシノ助けて…私ちょっと心が痛い……!! こう、魔術師的に何とも言えないのが本当に辛いっ! けどこれだけは言える! もうちょっとセリカに色々教えるべきだと私思いますのよ! この子ちょっと高校生にしては純粋過ぎない!?」

 

 持ってるだけで運気が上がるブレスレットなんてありませんと断ずる事が出来ないのは、ひとえに■■■■■が魔術師だからだ。

 だって身近に居るんだもん。へそ出しというかもはや腹出しとすら言えるくらいに裾結びしてる半袖のTシャツに、片方の裾の根元をぶった切ってる所為で太もも全体が見えるジーパンを着ている、痴女呼ばわりされても全然文句が言えない奇抜なスタイルをした天草式の女皇様が。

 アレの場合はアクセサリーじゃなくて格好だが、あんなのでもしっかりと魔術的な意味が込められているし、そのお陰で魔力を上昇させているんだもん。

 だからこそ、否定したくても否定が出来ない。運気が上がるよーとかいうありきたりなそれよりヤベー格好してる存在を知ってるから。

 

「私もちょっとびっくりしてるよー。まさかこんなマルチ商法に騙されるなんてねぇ」

「な、なに? どういう事!?」

「それ、マルチ商法だから……」

「儲かる訳がない」

「へっ!?」

「そもそもゲルマニウムと運気アップって関係あるのかな……先生はどう思いますか?」

「うーん……そう、だなぁ……。まぁ、一概に無いとは言えない、かな…? 多分、何も効果ないと思うけど。『偶像の理論』使ってたとしても、運気にまつわる石の伝承とか殆どないし……」

 

 当たり障りなく、セリカをあまり傷付けない様に言葉を選ぶ■■■■■。とは言え、彼としてもそのブレスレットの効果は到底期待出来なかった。

 『偶像の理論』―――姿や役割が似ているもの同士は相互に影響し、性質も状態も能力も似るという、類感魔術を基とした魔術理論が応用されていたとしても、残念ながら運気が絡む石という伝承はそう多くはない。

 まずそもそもとして、此処は■■■■■が知る魔術も神秘もその前提から違うキヴォトスだ。本当にただの石を加工しただけのブレスレットだろう。

 

「えっ、そ、そうなの? 私、2個も買っちゃったんだけど!?」

「セリカちゃん、騙されちゃいましたね。そんな所も可愛いです☆」

「うぅ……!!」

「セリカちゃんは世間知らずだねー。ちゃんと勉強しとかないと、悪い大人に騙されてる人生とんでもない事になっちゃうよー?」

「そ、そんな……悪い人達には見えなかったのに……。お昼の分のお金も抜いて買ったのに……」

 

 ぐすっとセリカの目尻に涙が浮かび、

 

「よーし()ちょっと出掛けて(ぶち殺して)来るから皆で会議進めといてねー」

 

 案の定■■■■■は動き出した。ご丁寧に素を出して。

 このキヴォトスに来てから分かった事はまだ大した数じゃないが、■■■■■にとって決定的な事がある。

 それは―――この世界には、()()()姿()()()()()()()()()()()という事だ。

 だいたいが機械か動物だ。悪い言い方をすれば、マトモな姿形をした存在なんてキヴォトスには存在していない。

 ■■■■■もアレイスターと同様に、ツンツン頭の少年のような善人という訳では断じてない。彼が女性に優しく、真摯に向き合おうとするのはひとえに彼が大切な女性を二人も失ったが故だ。

 ■■■■■=■■■は決して褒められた人間ではない。彼の名前がアレイスターやアンナ=キングスフォード、クリスチャン=ローゼンクロイツに埋もれたのは、ひとえにそういう理由だ。

 達成する目標が、世界から理不尽を一掃して誰もが当たり前に笑って当たり前に泣ける世界を作るという目標が、結果的に人々を『火花』という理不尽から救うというだけで、彼は善人では決してないのだ。

 それが女性に涙を流させる存在であるならば、尚のこと。

 

「ん、私も同行する」

「砂狼院…!」

「同行しないでくださいっ!? 先生もシロコ先輩も落ち着いてくださいよ!」

「これが落ち着いていられるかっ! 見なさいセリカを! 完全に騙されて昼食のお金をドブに捨ててしまったのと自分でそれに気付けなかった悔しさから涙を流してノノミに慰められてるじゃないか! これを見て行動するなって方が無理だろ!?」

「でも先生ー、実は眼福とか思ってるんじゃないのー?」

「そんな事実は断じてありません。えぇ、ありませんとも。普段はツンツンしてるけど仲間想いな女の子が本当はポンコツな一面があってそれを恥ずかしくしてるのを母性高めな先輩が優しく慰めてるなんてそれはもう天国みたいな景色に眼福とか思っている訳、なななななないに決まってますよ。それはそれとしてちょっと写真撮っていいかなっ!?」

「先生っ!?」

 

 それからも会議は難航し……

 

「スクールバスで他校の生徒を拉致れば頭数増やせるよね! ゲヘナとか!」

「ゲヘナは勘弁して。ヒーちゃんに怒られるから……」

「お知り合いなんですか!?」

 

「銀行を襲うの。1億円は手に入る。皆の覆面もある」

「じゃあ私は不動産詐欺で。100億はくだらないね」

「どっちも犯罪ですよ!?」

 

「スクールアイドルとかどうでしょうか!」

「オッケイそれ採用! プロデューサーは任せたまえ! 衣装はどんな感じにしようか!?」

「却下」

「そんな殺生なっ!?」

「そんなにですか!?」

 

 難航し難航し……遂に、

 

「―――――――――もう、いい加減にしてくださァァァァァァァァァァァァァァァいッッッッッッッッッッッッッッッ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

 

 アヤネがガチ切れし、その机をちゃぶ台返しの如くひっくり返した。

 アヤネだけはガチ切れさせない様にしよう。■■■■■はそう誓ったが、残念ながらいつか彼女のヘリによってミサイルアタックされる羽目になるので無駄である。

 

 

2

 

 

 案の定、散々な結果で会議は終わり、アヤネは機嫌を損ねた。そんな彼女の機嫌を治す為に、アビドスの面々は再び柴関ラーメンへと足を運んだ。

 むすー、と可愛らしく頬を張る耳長系眼鏡っ娘。なんと可愛らしい事だろうか。これは是非とも写真に収めねば……と、普段の■■■■■ならしていた所だが、流石にそれをするとまた本気で怒られそうなので自重した。まだ抑え込める自我があったらしい。

 

「ごめんってー、アヤネちゃん。機嫌治してよー」

「……怒ってません」

「怒ってる人の定番が来たね。いやー、思ったより楽しくて調子乗っちゃったよ。ごめんね、アヤネ。ほら私のチャーシューあげるから」

「ん、私のもあげる」

「……ありふぁほうほざいまふ」

 

 チャーシューを頬張るアヤネ。これまた可愛らしいシャッターチャンスだが、我慢だ■■■■■=■■■。彼女を怒らせない為にも我慢だ。

 まぁ、それはそれとして。

 正直な所、■■■■■は最初から真面目に会議するつもりなどなかった訳である。徹夜して諸々を調べ終えた彼は、カイザー・コーポレーションという会社自体が黒である事を既に知っている。

 潰す事自体は実に簡単だ。だが、問題なのは会社を潰したとしても根本的な解決にはならないという点にこそある。

 

(こういう力技で解決出来ないのが、何とも面倒なんだよなぁ……会社が潰れてしまえばそりゃ借金自体は解決出来るんだろうけど、それじゃダメだ。私が自ら皆の努力を崩すみたいなもんだし。それに、あくまで黒なのが分かっただけで決定的な理由がまだ分からん。これが無きゃ大義名分も作れないし)

 

 カイザー・コーポレーションが黒なのは確定。しかし、その目的の全貌が未だ見えてこない。わざわざアビドスを狙う理由が不明な以上、迂闊に行動は出来ない。

 大義名分があるのとないとでは、行動に大きな差が出てくるのが世の常だ。どんな蛮行もそれ相応の理由があれは一定の支持が得られる。分かり易く言えば戦争だ。

 『国を守る為』という大義名分があれば、人を殺しても罪には問われないし、寧ろ殺した分だけ英雄になる。あらゆる行動に理由は付き物で、どうにも離れられない。

 そもそもアビドスは借金をした側だ。それがカイザー・コーポレーションを潰すとなれば、それ相応の大義名分が必要になる。

 

(あとはバックの存在が気になるぐらいなんだけど……これはまだ時間が掛かりそうかな。まぁ、神秘(オカルト)について一定の知識を持ってる事は確定してるからわりと絞られそうだけど。まぁ、あんま大した連中じゃないだろうし警戒はしなくていいか。いざとなったら叩き潰せば良いよね)

 

 神秘(オカルト)という分野となれば、■■■■■=■■■の右に出る者などそう多くは居ない。

 強いて挙げるとするならば、『主神の槍(グングニル)』を手に入れた魔神オティヌス・薔薇十字の祖たるクリスチャン=ローゼンクロイツ・三次元での肉体(アバター)を手に入れた大悪魔コロンゾンくらいのものだ。

 こと魔術戦において、このキヴォトスで彼に勝利する事が出来る人間など存在しない。神秘(オカルト)という概念に携わった時間が、文字通り違い過ぎる。

 

 まぁ、そんな事はさておいて。

 

「あ、あのー……」

 

 ガラガラッ、と音を立てて開かれた扉から、一人の少女が舞い込んできた。

 一言で言えば紫一色だった。ヘイローも帽子も髪もピンも目も服もバッグも果ては携帯したショットガンさえも、全てが紫でぶっちゃけ毒々しいったらありゃしない。

 しかし目にすべきはそこではない。目にすべきは―――その丈の短いスカートだ!

 

「丈短過ぎんだろ…!? あんなんちょっと風が吹いただけでその絶対領域が犯されて本来見えない筈の聖域の扉がオープンする事間違いなしじゃねぇか本当にキヴォトスはどうなってんだよ最高だなッッッ!!!」

「ひ、ひぃ!? ごめんなさいごめんなさいっ! 私みたいなカスなんかが面白くもない身体を晒してごめんなさいっ!」

「何を謝るんだ! もっと自分に自信を持ちなさい! 君は何処か危うげな雰囲気があるけれどそれも含めて魅力であり可愛らしいのだとッ!」

「は、はいぃ!?」

「まずその子供感溢れる太ももへの解説から始め『えいっ☆』おい待て電源入れてねぇぞ!? どうやって電源をぐぼぁっ!?」

 

 若返り系おっとりお姉さん女学生による達人パンチが、定番の如く■■■■■の顔面に炸裂してノックアウト。■■■■■は呆気なくぶっ倒れた。

 絵面としては、気弱な女子に言い寄る不審者を正体不明(タブレット端末のOS)のオカルティックな格好のお姉さんがオカルティックな力で撃退した感じである。

 

「え、えっと……」

「あぁ、気にしないでください。いつもこんな感じなので。それと、いらっしゃいませ! 何名様ですか?」

「その、ここで一番安いメニューって、お、おいくらですか?」

「一番安いとなると……580円の柴関ラーメンですね! 看板メニューなんで、美味しいですよ!」

「あ、ありがとうございます! 早くアル様に伝えないと…!」

 

 少女はささっと外に出て行った。もしかして親子連れなのかな? と、少女の言動からセリカは考えてみたが、どうやらそういう訳ではなかったらしい。

 またもやガラガラッと音を立てながら開かれた扉。そこから人数は増えて、一気に三人も追加が入ってきた。

 何やら悪人顔を浮かべる、厚いコートを羽織った少女に、大きなバッグを持った如何にも悪戯好きそうな少女に、何処かダウナーな感じを漂わせるパーカー少女。

 

「えへへっ、やっと見つかったねー、600円以下のメニュー!」

「ふふふ。ほら、何事にも解決策はあるのよ。全部想定内だわ」

「そ、そうでしたか。流石は社長、何でもご存知ですね…!」

「はぁ…って、え?」

「4名様ですか? お席にご案内しますね」

「いや、あの……そこの人、倒れてるけど。大丈夫なの?」

「えぇっ!?」

「あ、気にしないでください。自業自得なので」

 

 ニパッと笑うセリカ。彼女も■■■■■の扱いを心得てきたようだ。全然容赦がなくなってきた。

 実際、彼の自業自得なので残当ではあるのだが。しかし、どうやらそれを見過ごしは出来なかったらしい。

 

「ちょっと、貴方大丈夫!? しっかりしなさい!」

 

 まさかのめっちゃ悪人顔を浮かべてた少女の方が、その表情を心配に染め上げて駆け寄って来た。多分根が真面目な子なのだろう。

 ぐらぐらと揺らされ、ハッ! と目を覚ました■■■■■は、

 

「目の前に実に高校生らしい中々のメロ『えいっ☆』間髪入れずにまた来やがっぐぶぉっ!?」

 

 目を覚まして早々に眼前に写り込んだ、シャツの上からでも分かる実に高校生らしいふくよかな双丘の感想を口走ろうとしてまたもやぶん殴られた。

 

「なんでぇ!?」

「うわー、凄い音したね! 死んじゃったんじゃない?」

『ご(安心)ヲ。この程度でくたばる程、やわな男でハあり〼×(ません)わ。半身ガ肉塊となって消し飛んでも生きた男ですノで』

「えぇ……」

 

 いや、流石にそれは無理があるでしょ。

 ダウナー系な雰囲気を漂わせる、白と黒が混ざった髪の色白の少女―――鬼方カヨコは心中で断言した。

 身体の半分が肉塊になって消し飛んでも生き残るなんて、それはもはや人じゃなくて化け物の類だろう。実際、言い得て妙ではある。

 魔術の達人というのは、皆揃って化け物だ。人の姿をしているだけで、人と同じ精神をしているだけで、振りかざす力があまりにも人の手から離れ過ぎている。

 代表的なのはアレイスターだ。あの『人間』は、自分が『人間』である事に拘り、魔神にならない様に制御こそしているものの、それでも『人間』とは言い難い。

 0と1だけでは言い表す事の出来ない高次元の存在―――それが、『人間』アレイスター=クロウリーという男だった。

 そして、そんな男の先輩である彼もまた、その例には漏れず。

 

「ぶはっ! アンナ女史殴るにしてももうちょっと加減してくんねぇかな!? この子まで巻き込まれたら危ねぇだろ!?」

『ほら』

「……嘘でしょ」

 

 無傷だった。顔面に強烈な一撃を叩き込まれ、呆気なく吹き飛ばされたこの男は、しかしその顔面はおろか、体の何処にも一切の傷を負っていなかった。

 カヨコから見て、■■■■■の顔面にあの一撃は間違いなく入っていた。目には見えない、まるで空間ごと殴りつけるかの様な鋭い衝撃が走った事は間違いなかった筈だ。

 にも関わらず、■■■■■はケロッとした顔で起き上がった。気絶もせず、まるで何事もなかったかの様に、平然と。

 

「いやー、失礼失礼。あまりにも丈の短いスカートを着ていたもので、教師としてついね。ハルカちゃん、どうか自信を持ってくれ。君はとても可愛らしい子だとも。なのでもうちょっと丈を長くしようか、変な大人に何をされるか分かんないから」

「そうよ! 今のこの人みたいなのが何時来るか分からないんだから!」

「さりげなく私の事を変な大人呼びしたねセリカ。何も間違ってないから否定しないけど」

「え、えっと……ていうか、な、なんで、私の名前を…?」

 

 自己紹介なんてしていない。何なら、今此処に居る彼女達は誰一人だって互いの名前を呼んでもいない。

 にも関わらず、目の前の大人は最初から知っていた様に自分の名前を―――伊草ハルカという名前を出した。

 その大人は、何を当たり前な事をと言わんばかりの表情で、

 

「なんでって、そりゃあ―――私はシャーレの『先生』だもの。この学園都市キヴォトスに在学している生徒は勿論の事、停学中の生徒に退学した生徒、転校した生徒に転入した生徒、卒業した生徒から中退した生徒まで―――つまる所、この学園都市キヴォトスに居る全ての生徒の名前を把握しているからに決まっているだろ? 教師が生徒の名前を知らない、憶えてないとかあっちゃダメでしょ」

 

 『先生』として当然であると、言い切った。

 

「まぁそれはそれとして、色々と話は聞いてたよ。ついでに推測も出来た。全く、嘗められたものだ―――お金が無いなら私が全額出そうじゃないか! こういう時に大人ってのは便利なもんだよねー!」

 

 大人のアンタがそれ言うのかよ。

 その場に居る全員が一言一句違わず同じ事を思ったが、決して口には出さなかった。

 

 

3

 

 

 陸八魔アルは、ハードボイルドに夢を見て、アウトローというものに憧れを抱く一人の学生であり、金さえ払われればどんな事でも請け負う何でも屋―――『便利屋68』の社長である。

 彼女が目指すは一流の悪党。一日一悪を掲げ、その日々を立派なアウトローになる為に費やしている。

 まぁ、要するに―――悪役にカッコ良さを見出している生真面目な女の子という訳である。

 

「……あんなに良い子達が、アビドス…? 内緒で私達の分までお金を払ってくれたあの先生も…?」

 

 彼女達は依頼を受けて、このアビドス地区へとやって来た。

 依頼主はカイザーコーポレーションの傘下、カイザーPMCの社長。アビドス高等学校の生徒達を鎮圧し、校舎を占領した後にカイザーPMCへの引渡し。

 なのだが…何とも運命は残酷なもので、ついさっき一緒にラーメンを食べながら、様々な事を語り合った彼女達こそがそのアビドスであり。

 そして、アウトローとして奢られる訳にはいかないと引き下がらなかったアルを退け、大人としての誇りとして彼女達の分まで奢ったあの■■■■■先生までもがアビドスで。

 つまりは、もう何のいい訳もしようがない程に、『恩を仇で返す』というやつである訳で。

 

「アルちゃん、まだ言ってるのー? さっき割り切ったじゃん。仕事でしょ、し・ご・と」

「う…うぅ……」

「あ、アル様を困らせるなんて…! 今から皆殺しにしますか!?」

「いや、だから今こうして向かってるでしょ。突っ走らなくていいよ、ハルカ」

 

 仕事は仕事だ。生真面目で優しい彼女だが、それも仕事であるなら割り切る。そういう職業であり、そういう立場にあるのだ。

 

「そうね……よし。さぁ、目的地はもう目と鼻の先よ。全員、準備は――――――」

 

 いいかしら。そう言い切ろうとした、直後の事だった。

 バババババババッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!

 重苦しい風切り音が、空から彼女へと落とされていく。

 敵が居るぞ、敵が攻めて来たぞと、衛兵が声を()げるかの様に、鳴り響く風切り音の正体は―――白を基調としたカラーリングのドローンだった。

 

「―――ん、()()()()()()()。本当にやって来た」

「だよねぇ。はぁ、出来れば戦いたくはなかったんだけどなー。とは言え来てしまったなら仕方ないね。先手必勝―――見敵必殺だ。ぶちかましてやろう、シロコ」

 

 ヒュー、ドドドドドドどッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!! と、幾つもの爆発が唸りをあげて襲い掛かった。

 理不尽な爆発が一斉に連鎖し、小型のミサイルなら解放された爆炎と黒煙が、切り詰めた金で雇ったバイト達を片っ端から熱していった。

 

「うわぁっ!?」

「どうなってんだ!? なんでこっちの襲撃がバレてんだよっっっ!?!?!?」

「――――――ど、どうして…!?」

「分かんねぇのかよ!?」

 

 何処から漏れた? どうしてバレた? どんなボロを出した…!?

 突如の襲撃。予想もしていなかった奇襲は、完全にコチラ側を先読みしているが故のものだった。

 

「……あぁ、そっか。確かに、それならそうか」

 

 遮蔽物となるビルの物陰へと飛び込み、愛銃であるサイレンサー付きのピストルの薬室(チャンバー)確認(チェック)しながら、盲点だったとカヨコは吐き捨てる。

 

「相手には、シャーレの先生が居た。このキヴォトスの生徒全員の名前を憶えている大人が居たんだ。それなら当然――――――私達のプロフィールだって、知ってるに決まってる…!」

 

 ■■■■■=■■■。

 連邦捜査機関シャーレの先生。この学園都市キヴォトスに在籍する生徒、退学・中退した生徒、卒業した生徒の全ての名前を記憶していると断言した男。

 名前を知っているという事は、つまりプロフィールを知っているという事。所属している学校、所属している部活まで知り尽くしているという事に他ならない―――!

 

「―――ゲヘナ在学の生徒が、なんでわざわざこのアビドスまでやって来たのか。便利屋という何でも屋を起業しているなんて事前情報を持っていれば、推測なんて簡単過ぎるね。ついでに雇い主も察しがつく。というか、ヘルメット団すらも雇われだったね、多分。彼女達がその後釜という訳か」

 

 理解力。それこそが、魔術師と敵対する上で最も気を付けなければならない武器だ。

 仕組み(メカニズム)。効果。弱点。魔術師は敵対し、魔術で制し、その果てに敵の悉くを見抜き、理解し、そして組み伏せる。神秘(オカルト)という概念を極めれば極める程、しかしてその脆弱性というものが露呈する。

 言ってしまえば、僅かばかりのズレで、魔術というものは成立する事自体が困難になる超緻密な機械だ。だからこそ、それを理解されてしまえば一瞬にして何もかもが瓦解する。

 この男は―――それを魔術以外の事にも正確に、的確に活用出来る。

 

「お金がカツカツだって言ってたよね。なら、多分あの子達も雇われだ。もう如何にも私はバイトですって言わんばかりの格好してるし。多分、時間が来たら勝手に帰っていくタイプのやつだね。取り敢えずは防戦で行こうか。陣形は崩れたし、その場に応じて指揮しよう」

「りょーかい。うへー、先生が味方でよかったよ。敵になってたらと思うと、おじさん怖いなー」

「私はあまねく女性の味方だとも。敵になる事なんてまずないよ。それが文字通り女の皮を被っただけの大悪魔とか中身が歴史に名を残す超絶変態の『人間』でもない限りはね」

「すごく的確な例えが出てきたね……」

「そりゃマジで居たからねぇ…」

 

 これの何が凄いって、この2人は今も生きているという事である。何なら内一人はその大悪魔の皮に魂ごと宿ってしまっている訳だし。

 全く恐ろしい事この上ない。過去の実験が長い時を経て、しかも『火花』によって実った結果が大悪魔との肉体同居だとは、全く恐れ入る。

 ■■■■■だったら絶対にお断りである。

 

「まぁ、今日は様子見だ。泳がせればボロが出るか、或いは雇い主から連絡が来るだろうしね。逆探知が出来れば根城の場所を抑えられる」

「様子見なのに先制攻撃して良かったんでしょうか…?」

「どうせ襲撃してくるのが分かってるなら、こっちから歓迎してあげないと。おもてなしの精神は大切だぜ?」

「そのおもてなし物騒過ぎませんか!?」

「え、キヴォトスならこれくらい普通じゃない?」

「普通じゃありませんよっ!?」

「なんだと…!?」

 

 初日から銃撃戦に巻き込まれてからちょっとばかし感覚が狂ってしまっている気がする。普通なら、おもてなしで小型ミサイルロケットなんざぶっぱなさないのはその通りだ。

 ■■■■■もだいぶキヴォトスに染まりつつあるらしい。ぶっちゃけ良い傾向ではない。寧ろ最悪だ。倫理的な問題で。

 まぁ、それはさておくとして。

 ■■■■■にとって、この状況は好機と言わざるを得ない。何せ誰に雇われたのかが判明すれば、アビドスにとっての大義名分が一つ出来上がる。アビドス反逆の狼煙をあげられるのだ。

 

(敵はカイザーコーポレーション……或いは、その傘下。目的はアビドスにある何か。おそらく神秘(オカルト)に連なるモノ。裏で手を引いている何かが居るのも確定だ。本社にせよ傘下にせよ、これが分かれば大義名分が一つ得られる。これがあるかないかでだいぶ変わるからねぇ。利用する様な形で申し訳ないけど協力してもらうよ、便利屋の皆)

 

「子供から金巻き上げて、挙げ句その大切なものをぶち壊そうとする野郎だ。逆にこっちがぶっ壊してやるから覚悟して待っとけよ」

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。