Problem child in Parallel universe【更新停止】   作:無名篠(ナナシノ)

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久しぶり過ぎる更新、大変お待たせしました。
作者としてのプレッシャー、読者の目を考えていたらもう体が重くって重くって………。
えー………となんとか試行錯誤して書きました。楽しく読んでくれると嬉しいです。アレ作文?


第五話 東の白き最強 その①

ガルド騒動からだいぶ時は過ぎ、日が暮れた頃。十六夜を連れて合流した黒ウサギは、知らされた展開に絶句し、ウサ耳と髪を逆立たせ、噴水広場には嵐のような怒号が響き渡っていた。

 

 

「ちょっと目を離した隙に他コミュニティに喧嘩を売るなんて!」

「しかもゲームの日取りは明日!?」

「準備するお金も時間も無い!」

「それなのに相手のテリトリー内で戦うって狂ってるんですか!?」

「どういうつもりがあってここまで発展したんですか!!」

 

 

この黒ウサギの問いに三人の返答は総じて「ムシャクシャしてやった。今は反省しています」であった。

当然それに激おこプンプン丸状態へと変貌した黒ウサギだったが、十六夜によって止められる。

 

 

「別にいいじゃねぇか黒ウサギ。見境なくケンカを売った訳じゃないんだから許してやれよ」

 

「そうはいきません! この ”契約書類(ギアスロール)” を見てください!」

 

 

そういって ”契約書類” をバッと十六夜に突きつける。その ”賞品” の欄にはこう書かれていた。

 

 

「”参加者が勝利した場合、主催者は参加者の言及する全ての罪を認め、箱庭の法の下で正しい裁きを受けた後、コミュニティを解散する” ───確かに自己満足だな。ほっとけば勝手に済む話をリスクを背負ってまで短縮させるんだから」

 

 

ちなみに飛鳥達のチップは ”罪を黙認する” というもので、今回に限らずこれ以降も口を閉ざし続けるという意味がある。

 

 

「しかし時間さえかければ、彼らの罪は必ず暴かれます。だって……肝心の子供達は………」

 

「えぇ、人質は既にこの世にはいないわ。その点を突けば必ず証拠は出るでしょうけど、あの外道を裁くのに時間なんてかけたくないの」

 

 

箱庭の法はあくまでも箱庭都市内のみ有効。無法地帯となっている外は様々な種族のコミュニティがそれぞれの法と秩序の下生活している。

逃げ込まれてしまえばそれまでだが、”契約(ギアス)” を結んでいる限り逃れることはできない。

 

 

「それにね、黒ウサギ。私は道徳云々よりも、あの外道が私の活動範囲内で野放しにされていることも許せないの。ここで逃せば、いずれまた狙ってくるわ」

 

「それはそうですが…………」

 

 

飛鳥の思いに黒ウサギは渋る。だが、ガルドの悪行を考えれば最もなこと。諦めたようにため息を吐き、頷いた。

 

 

「仕方のない人達です。まぁ腹立たしいのは黒ウサギも同じですし、”フォレス・ガロ” 程度なら十六夜さん一人いれば楽勝でしょう」

 

「あ? 何言ってんだよ。俺はやらねぇぞ?」

 

「当たり前よ。貴方なんて参加させないわ」

 

 

フン、と鼻を鳴らす二人。ぽかーんとする黒ウサギだったが、慌てて二人に食ってかかる。

 

 

「だ、駄目ですよ!御二人はコミュニティの仲間なのですからちゃんと協力しないと!」

 

「そうじゃねぇ。そういうことじゃねぇんだよ黒ウサギ」

 

 

先ほどまで軽薄の笑みしか浮かべていなかった十六夜が、真剣な顔で黒ウサギを右手で制する。

 

 

「いいか?これはコイツらが『売った』。そしてヤツが『買った』喧嘩だ。なのに俺が首を突っ込むのは無粋だって言ってるんだよ」

 

「あら、よく分かってるじゃない」

 

「………あぁ、もう好きにしてください…………」

 

 

もうどうにでもなれ。それが丸一日振り回されて黒ウサギが理解した彼らへの接し方だった。

 

 

 

 

 

□■□■□■

 

 

 

 

 

「さて! そろそろ行きますか? 本当なら皆さんを歓迎する為に色々とセッティングしていたのですが……」

 

「いいわよ、無理しなくて。ジンくんから聞いたけど、私たちのコミュニティは崖っぷちなんでしょ? 」

 

 

「おい」

 

 

「も、申し訳ございません。皆様を騙すのは気が引けたのですが……」

 

「もういいわ、黒ウサギ。私は別に気にしてないから。春日部さんはどう?」

 

 

「お〜い、無視してんじゃねぇよ」

 

 

「私も怒ってない。ただ………お風呂とご飯と寝床さえあればいいな、とは思ってる」

 

「それなら大丈夫です! 十六夜さんがこんなにも大きな水樹の苗を手に入れてくれましたから! これなら他所のコミュニティから水を買う必要も無くなります♪」

 

 

「もしも〜し。ちょ、ねぇ聞いてる?」

 

 

「それは良かった。今日みたいに理不尽に湖に投げ出されたから、お風呂には入りたかったところよ」

 

「それには同意だぜ。あんな手荒い召喚は二度とゴメンだ」

 

「そ………それは黒ウサギの責任外の出来事なのですヨ………」

 

 

「いや、いい加減気付けよォォォォ!」

 

 

その掛け声とともに、突如として黒ウサギの耳が誰かに引っ張られた。

声の方へ皆が振り向くと、飛鳥と耀が気絶させた少年が、引きつった表情で立っていた。

 

 

「お前ら無視してんじゃねぇーよ。何回呼びかけりゃあ気が付くんだ」

 

「「「あ、いたんだ」」」

 

「なにそのナチュナルな返し方!? 俺ココにいたよね? ずっと話しかけてたよね? お前らの目は節穴か!! 気付かないフリも大概にしろッ!!」

 

「ちょっ! 痛い、痛いです!」

 

 

叫びながら黒ウサギの耳に力を込める少年。無視され続けたせいで怒りが爆発したのか、どうやら自分が掴んでいるものも見えていないようである。

 

 

「だいたい、さっきから何の話をしてるんだ。コミュニティとか、崖っぷちとか、水樹の苗とかさぁ………お宅らアレなの? 毒電波なの? そういうお年頃なの?」

 

「あ、あの………耳」

 

「あ?」

 

「耳………痛いです」

 

 

涙目で痛みを訴える黒ウサギ。それを見た少年の表情は、驚愕で顔が動かないといった具合だ。

 

 

「…………これは?」

 

「いやだから………黒ウサギの素敵耳です。 それを引き抜きにかかってるじゃないですか………」

 

「素敵耳っつーかウサギ耳……? い、いやいやいやいや。っな訳ねェーよ。 頭に人間には無いパーツ付いてるけどそんな訳ねェーよ。うん」

 

 

突然、誰に対してか分からない言い訳を言い始めた少年。

どっぷりと冷や汗を流し出し、ウサ耳を握りしめる手どころか、体中が小刻みに震えていた。

 

 

「これってアレだろ? 都会なんかでよく見るアレだろ? 頭に付けるサムシング的な何かだろ? いやー、よく作り込まれてるなーホント。この手の感触、触り心地、全てが本物みたいだ」

 

 

触り続けるごとに顔はひくつき、目は死んでいき、滝のように冷や汗を流す。

 

 

「黒ウサギの耳は本物でございますヨ!? 現に引っ張って抜けないじゃないですか!」

 

「本物? ………そ、そんなバカな話がある訳が……」

 

 

少年は恐る恐る引いてみるが、耳は何かに引っかかったように抜けなかった。二、三回繰り返すも結果は同じ。弱々しく耳から手を離すと、

 

 

「ハ、ハハ………そんなバカな……いや、ありえねェよ……だってそんな…………」

 

 

ブツブツと狼狽え、両手で頭を抱えてしゃがみ込んでしまった。

黒ウサギは掴まれた耳をさすりながら、心配そうに少年の顔を伺う。

 

 

「あ、あの〜………大丈夫ですか?」

 

「────ッッ!? 」

 

 

黒ウサギの顔を見た瞬間、少年は思いっきり後ずさった。

 

 

(………混乱している?)

 

 

黒ウサギはそんな少年を見て思わずそう考えてしまった。

 

 

「えーと……彼は【城之内伏明(じょうのうちふせあき)】さん。貴方達と同じく召喚に応じてくれたギフト保持者です」

 

 

見かねたジンが少年、伏明を紹介する。黒ウサギは伏明の反応に疑問を持ちつつも、一から説明をしなくて済んだことにホッ胸を撫で下ろした。

 

 

「伏明さん。彼らがコミュニティ ”ノーネーム” の仲間達です。左から十六夜さん、飛鳥さん、耀さん、そして黒ウサギです」

 

「ヤハハ、これから頼むぜ」

 

「よろしくお願いするわ、城之内君」

 

「………」

 

「………よろしく、十六夜に飛鳥に耀。だが黒ウサギ、テメェはダメだ」

 

「なぜですか!?」

 

「その耳だよ耳。似合ってるけどなんかグニグニしてるし生暖かいしぃ! そこはヘアバンドにしてくれ割とマジで! 300円上げるからァァァァ!」

 

 

ジンの背後に隠れながらそんな風に少女を恐れる情けない男の図がそこにあった。

当然そんな反応をされた黒ウサギは落ち込んだ。

 

 

「あはは……それじゃあ今日はコミュニティへ戻る?」

 

「あ、ジン坊ちゃんは先にお帰りください。私たちは皆様のギフト鑑定に ”サウザンドアイズ” に行ってきます」

 

 

十六夜達四人は首を傾げて聞き直す。

 

 

「”サウザンドアイズ”? 店の名前か?」

 

「YES。箱庭の東西南北・下層上層全てに精通し、特殊な ”瞳” のギフトを持つ者達が集まる超巨大商業コミュニティです。幸いこの近くに支店があるので」

 

「ギフト鑑定というのは?」

 

「勿論、ギフトの秘めた力や起源などを鑑定する事デス。自分の力の正しい形を把握していた方が、引き出せる力は大いに上がります。皆さんも力の出処は気になるでしょう?」

 

 

同意を求める黒ウサギに対し、思う所があるのか複雑な表情で返す三人。だが伏明は、

 

 

「そのギフトっていうの? 悪ぃがそんな素敵能力、俺は持ってねぇぞ?」

 

「そんなはずはありません。『手紙』によって呼び出されたということは、なんらかのギフトを保持しているということになります。貴方が自覚なく使っているのでは?」

 

「使ってねぇよそんなもん。そんな超能力なんざ俺がいた所じゃ ”空想の産物(もうそう)” だしよ。俺は人の腹から生まれた人だからな」

 

 

頑なにギフトを持っていないことを主張する。しかし呼び出された以上何かしらのギフトは持っていると言う黒ウサギ。真相は ”サウザンドアイズ” で証明されることとなった。

 

 

 

 

 

 

そして現在、黒ウサギ達は ”サウザンドアイズ” を目指し歩いていた。

道中の並木道には桃色の花を美しく散らしている花があり、それを見た飛鳥が不思議そうに呟く。

 

 

「桜の木………ではないわよね? 花弁の形が違うし、真夏になっても咲き続けているハズがないもの」

 

「いや、まだ初夏になったばっかりだぞ? 気合の入った桜が残っていてもおかしくないだろ」

 

「………? 今は秋だったと思うけど」

 

 

三人とも話が噛み合わないことに顔を合わせて疑問符を浮かべる。

その様子に黒ウサギは笑って説明する。

 

 

「皆さんはそれぞれ別の時間、場所、世界から召喚されているのデス。元々の時間軸は勿論、歴史や文化、生態系など所々違う箇所はあるはずですよ」

 

「へぇ………パラレルワールドってやつか?」

 

「実際は立体交差平行世界論というものですが………それを語ると一日や二日じゃ時間が足りないのでまたの機会に…………そういうわけで」

 

 

クルッと振り返り、気不味い雰囲気を醸し出しながら後列から離れている伏明に話しかけた。

 

 

「ふ、伏明さーん? そろそろ団体行動に馴染んでくれると嬉しいのですが………」

 

「いやお前待てお前。俺は特別なチート人間でもハイパーナントカ人でも無いってさっきも言ったよね? 一般ピーポーになにを求めてんだよ」

 

 

怪訝な目つきで黒ウサギを見据える伏明。黒ウサギとしては『ギフト』保持者じゃない事自体が信じられない。もし真実ならばコミュニティの戦力低下はもちろん、関係のない人間を巻き込んでしまっている。そうなれば申し訳無さを通り越して心苦しい。

 

 

「別にこういう展開を期待してはいたけどさ、例えるならばレベル1どころか戦力外NPCから始まる主人公みたいになるとは誰が予想したよ」

 

「なに言ってるんですか……」

 

 

訳の分からない例え話に呆れる黒ウサギ。その傍で飛鳥が何かを見つけたのか黒ウサギに問いかける。

 

 

「あ、ねぇクソウサギ。例の支店ってあれかしら?」

 

「え? 今クソウサギって言いました? 言いましたよね?」

 

「言ってないわよ? クソウサギ。いいからさっさと行きましょう」

 

「言ってるじゃないですか!? なんですかクソウサギって! 酷い言われようですけど!?」

 

「うっせぇぞクソビッチ。早くしねぇとその無駄な胸引きちぎるぞコラ」

 

「クソビッチ!? わ、私はクソビッチなんかじゃありません! っていうか原型が無さ過ぎるでしょう!?しかも胸!?セクハラですよ!!」

 

 

ギャーギャー騒ぎながらも ”サウザンドアイズ” 支店に到着した一行。だが既に割烹着姿の女性店員により店の看板が下げられようとしていた。

それに気づいた黒ウサギは急いで走り込み、

 

 

「まっ………!」

 

「待った無しですお客様。うちは時間外営業はやっておりません」

 

 

待ったをかけることも出来なかった。流石は超大手コミュニティと言ったところか。

 

 

「なんて商売っ気のない店なのかしら」

 

「ま、全くです! 閉店時間の五分前に締め出すなんて!」

 

「五分前? 早ェなそれ、どんだけ帰りたいんだよ。多分俺も同じことするけど」

 

「貴方はまともに働いてください!」

 

キャーキャー喚く黒ウサギ。だが店員は、店の前で礼儀も無く騒ぐ黒ウサギ達に流石にイラついたのか、冷めたような目と侮蔑を込めた声で対応する。

 

 

「………なるほど、”箱庭の貴族” であるウサギのお客様を無下にするのは失礼ですね。中で入店許可を伺いますのでコミュニティの名をよろしいでしょうか?」

 

「やべぇって、アレ絶対怒ってるって。だってドス利かせちゃってるもん、青筋立っちゃってるもん」

 

「無駄に黒ウサギが騒ぐからじゃないかしら? ほら、彼女神経質だから………」

 

「いや、それを含めて計算尽くって可能性もあるぜ。怒らせて押しきろう、的な」

 

「………それはないんじゃないかな」

 

「そこ! だまらっしゃい!」

 

「よろしいでしょうか!!」

 

 

あいも変わらず漫才を続ける彼らに業を煮やしたのか大声で怒鳴る店員。彼らもふざけ過ぎたと思ったのか黙った。

疲れる、店員は純粋にそう思った。

 

 

「………ハァ。それで? 名を確認させてもらえないでしょうか? もしや ”無い” 何てことはありませんよね?」

 

「う………それは…その」

 

 

一番辛い所を突かれ言葉に詰まる黒ウサギ。だが十六夜は何の躊躇いもなく名乗りを上げた。

 

 

「俺達は ”ノーネーム” ってコミュニティなんだが」

 

「では何処の ”ノーネーム” 様でしょう。よろしければ旗印を確認させていただいてもよろしいでしょうか?」

 

「………なるほどね、”名” と ”旗印” か」

 

 

十六夜は理解した。この箱庭で ”名” と ”旗印” は必要不可欠。それを持たない、もしくは奪われた者は皆その他の意で ”ノーネーム” と呼ばれる。名前だけなら旗印を見せれば身分証明ができるが、こちらは旗印すら奪われた『身元が知れない不審者』ということになる。

ガルドが言っていた ”ノーネーム” のリスクとは、まさにこの様な状況を示していた。

 

 

「ま、まずいです……このままじゃ」

 

「いぃぃぃやほぉぉぉぉぉい! 久しぶりだ黒ウサギぃィィィィィィィィ!」

 

 

瞬間、黒ウサギが視界から消えた。謎のちっこい影に連れ去られて。

その影と黒ウサギは勢いに任せて吹き飛んだ後、仲良く水路に落っこちた。

十六夜達は目を丸くし、店員は痛そうに頭を抱えた。

 

 

「………この店にはドッキリサービスがあるのか? なら俺も別バージョンで是非」

 

「ありません」

 

「なんなら有料でも可」

 

「やりません」

 

「言ってる場合かよ。おーい、バニー擬き大丈夫かー?」

 

 

真剣な顔で割とどうでもいいやりとりをしている二人にツッコミを入れた伏明は、ぶっ飛んだ黒ウサギに思ってもない言葉を投げ掛けた。

一方、水路に叩き落とされた黒ウサギはひっつく白髪の少女に胸を蹂躙されていた。この少女が先程黒ウサギに突っ込んでいった者で間違いはないだろう。

 

 

「フホホホへへへへヒョヒョヒョヒョヒョ!」

 

 

奇声を上げながら胸に顔をなすり付ける様子は、何処か「風紀委員(ジャッジメント)ですの!」を彷彿とさせた。

 

 

「し、【白夜叉(しろやしゃ)】様!? どうして貴女がこんな下層に!?」

 

「フヘヘへへ! いやなに、そろそろ黒ウサギが来る予感がしておっての。しかしウサギの触り心地は違うのう! ウェヘヘへ、ほれ! ここが良いかここが良いか!」

 

 

涎を垂らしにやけながらも理由をいうが、胸に顔をすり付けることは止めない白夜叉と呼ばれた少女。

 

 

「ちょっ……やめ……いい加減、にして下さい!!」

 

 

それを無理矢理引き剥がし、頭を掴んで店に向かって投げつける。

クルクルと弧を描き綺麗な着地をする寸前のところで十六夜に蹴り飛ばされた。

 

 

「てい」

 

「ゴバァ!」

 

 

だがその軌道上には黒ウサギの醜態を眺めている伏明が。

そのまま距離が近づいていき───

 

 

 

 

ブスリ

 

 

 

 

 

───そんな嫌な音を立てた。

 

 

「ギャァァァァァァァァァァ!!」

 

「お、おんしぃ! 飛んできた初対面の美少女を蹴り飛ばし、あまつさえ人様にぶつけるとは何様じゃ!」

 

「十六夜様だぜ和風ロリ。ちなみにそいつがそこに居たから当たったのであって、俺は悪くない。悪いのはそこにいたそいつだ」

 

「暴君かおんし!?」

 

「ちょっ、ねぇ、これ頭穴空いてない? 大丈夫? ねぇ、これ大丈夫?」

 

 

悪びれることなく自己紹介をする十六夜に驚愕する白夜叉。その傍ではぶつかった頭をさすりながら怪我をしてないか心配する伏明。あの様な痛々しい音を立てたというのに穴は空いていなかった。血は止めどなく流れているが。

一連の急展開に呆気にとられていた飛鳥だったが、思い出したように白夜叉に話しかける。

 

 

「貴女は店の人なの?」

 

「おお、そうだとも。この ”サウザンドアイズ” の幹部様で白夜叉様だよご令嬢。仕事の依頼ならおんしのその年齢のわりに発育がいい胸をワンタッチ生揉みで引き受けるぞ」

 

「オーナー、それでは売り上げが伸びません。ボスが怒ります」

 

 

どこまでも冷静な声で店員が釘を刺す。

水路から上がって戻ってきた黒ウサギは濡れた服を絞りながら複雑そうに「私も濡れることになるなんて」と呟いた。それを聞いた耀は「因果応報」と呟き返した。

その言葉にがっくりと肩を落とす黒ウサギであった。

 

 

 

 

□■□■□■

 

 

 

 

あの後、白夜叉のご厚意でなんとか中に入れてもらえた一行。店は閉めたとのことなので、彼らは白夜叉の私室へと案内された。

 

 

「改めて自己紹介しようかの。私は四桁の門、三三四五外門に本拠を構えている ”サウザンドアイズ” 幹部の白夜叉だ。この黒ウサギとは少々縁があってな、コミュニティが崩壊してからもちょくちょく手を貸してやっている器の大きな美少女と認識しておいてくれ」

 

「はいはい、お世話になっておりますよ本当に」

 

 

投げやりな言葉で受け流す黒ウサギ。その隣で耀が小首を傾げて問う。

 

 

「その外門ってなに?」

 

「箱庭の階層を示す外壁にある門です。数字が若い程都市の中心部に近く、同時に強大な力を持つ者達が住んでいるのです」

 

 

上層から下層まで七つの支配層に分かれており、それに伴って門には数字が与えられている。

黒ウサギが言っていた様に、外門から数えて七桁の外門、六桁の外門、五桁、四桁と若くなるほどに強大な力を持つ修羅神仏が割拠している

 

 

 

「………超巨大タマネギ?」

 

「いえ、超巨大バームクーヘンではないかしら」

 

「そうだな。どちらかといえばバームクーヘンだ」

 

 

うん、と頷き合う三人の身も蓋もない感想にガクッと肩を落とす黒ウサギ。伏明はどうでもよさそうにため息を吐いた。

対する白夜叉は愉快そうに笑いながら二三度頷いた。

 

 

「ふむ、上手いことに例える。その例えに沿うなら今いる七桁の外門はバームクーヘンの一番薄い皮の部分に当たるな。加えて言うなら、東西南北の四つの区切りの東側にあたり、外門のすぐ外は ”世界の果て” と向かい合う場所になる。あそこにはコミュニティに所属していないものの、強力なギフトを持った者達が住んでおるぞ────その水樹の持ち主とかな」

 

 

白夜叉は薄く笑って黒ウサギが持つ水樹の苗に視線を向ける。白夜叉が指したのは十六夜が単独行動をとった際、辿り着いた ”トリトニスの滝” を住処にしていた蛇神の事である。例にもれず蛇神は十六夜にボコボコにされたが。

 

 

「して、いったい誰が、どのようなゲームで勝ったのだ? 知恵比べか? 勇気を試したのか?」

 

「いえいえ、この水樹は十六夜さんがここに来る前に、蛇神様を素手で叩きのめしてきたものですよ」

 

 

自慢げに胸を張って言う黒ウサギに、白夜叉は声を上げて驚いた。

 

 

「なんと!? クリアではなく直接的に倒したとな!? ではその童は神格持ちの神童か?」

 

「いえ、黒ウサギはそうは思いません。神格持ちなら一目で分かるはずですし」

 

「む、それもそうか………ふむ、ならば不思議よの。神格を倒すのならば同じ神格者か、もしくは互いの種族によほど崩れたパワーバランスがある時だけのはず。蛇と人ではドングリの背比べだぞ」

 

 

神格とは神そのものではなく、種族の最高ランクを示す。

蛇に与えれば巨躯の蛇神に。

人に与えれば現人神や神童に。

鬼に与えれば天地を揺るがす鬼神と化す。

更に神格を持つことにより他のギフトも強化される。箱庭のコミュニティは神格を獲得する事を第一に、上層を目指し日々精進するのだ。

 

 

「白夜叉様はあの蛇神様とお知り合いだったのですか?」

 

「知り合いも何も、あれに神格を与えたのは私だぞ? もう何百年も前だがな」

 

 

小さな胸を張り、豪快に笑う白夜叉。

だがそれを聞いた十六夜は物騒に瞳を光らせて問いただす。

 

 

「へぇ………じゃあお前はあのヘビより強いのか?」

 

「ふふん、当然だ。私は東側の ”階層支配者(フロアマスター)” だぞ?この東側四桁以下にあるコミュニティでは並ぶ者がいない 最強の主催者(ホスト)だからな」

 

 

「そう………ふふ。では貴女のゲームをクリア出来れば、私達のコミュニティは東側では最強ということになるのかしら?」

 

「無論、そうなるの」

 

「そりゃあ景気のいい話だ。探す手間が省けた」

 

 

十六夜、飛鳥、耀の三人は剥き出しの闘争心を視線に込めて白夜叉を見る。白夜叉はその視線に対して高らかに笑った。

 

 

「え? ちょ、ちょっと御三人様!?」

 

 

慌てる黒ウサギを右手で制すると、

 

 

「抜け目のない童達よの。依頼しておきながら、私にギフトゲームを挑むか。よかろう! 私も遊び相手には常に飢えておる」

 

「ノリがいいわね。そういうの好きよ」

 

「ふふ………して、おんしはどうする? こやつらは皆ウズウズしておるが」

 

 

そう言って白夜叉は今まで黙りこくっていた伏明へと視線を移す。

当の本人は庭の景色を見ているだけで彼女と視線を合わせようとしない。その態度で彼女は瞬時に察した。

 

 

「ふむ………一人だけ違うようじゃな」

 

「なんだよお前、ノリ悪りぃな」

 

「あら? まさか怖気ずいたのかしら? だらしないわね」

 

「………腰抜け」

 

 

三者三様が彼を挑発するも、怒り散らすどころか何処か達観したように何度目かのため息を吐いた。

 

 

「バカですかお前ら? 今までの会話を思い返してみろ。『白夜叉』なんて大層な名を持ち、『東側最強の ”階層支配者(フロアマスター)”』とか『神格を与えられる』とか聞くからに『強者』のセリフ。そんな奴に敵うとでも思ってんのか? 止めとけ止めとけ、力の差を見せつけられるだけだ」

 

「おんしはその止めどなく流れているその血をどうにかせい」

 

 

投げやりに、しかし的確に自分が挑まない理由を述べる伏明。彼からしてみれば、白夜叉に挑む理由も、ましてや挑む()もないのだから。

 

 

「致し方あるまい? 本人がやらないと言っておるのだからな」

 

「チッ、まぁいいさ。俺らでクリアすればいいだけの話だからな」

 

 

十六夜がそう言うと、他の二人も身構える。その姿は獰猛な獣を思わせた。

 

 

「ふふ、実に血の気が盛んな童達よの。────しかし、ゲームの前に一つ確認したいことがある」

 

「…………なんだ?」

 

 

白夜叉は着物の裾から ”サウザンドアイズ” の旗印───向かい合う双女神の紋が入ったカードを取り出し、壮絶な笑みで一言、

 

 

 

 

「おんしらが望むのは ”挑戦” か────もしくは ”決闘(・・)” か?」

 

 

 

 

刹那、四人の視界に爆発的な変化が起きた。その余りの眩しさに四人は顔を覆う。

覆っていても、脳裏にあらゆる世界の情景が目まぐるしく通り過ぎていく。

黄金麦の大草原、森林の湖畔、白い地平線が覗く丘。

どれもこれも見知らぬ地、記憶になどありはしない。そんな流転を繰り返し、四人を包み込んでいく。

光が収まり目を開けてみると、そこには白い雪原と凍る湖畔───そして、『水平』に太陽が廻る世界(・・・・・・・)だった。

 

 

「……なっ…………!?」

 

 

異常、余りに異常。その異常さに十六夜達は同時に息を呑んだ。

先程まで居た部屋の面影は微塵も無い。

奇跡の顕現。そう呼べる程に、いや、そう呼ぶべきなのかもわからない。言葉では到底表せる事など出来る御技ではなかった。

 

 

「今一度、問おうかの」

 

 

唖然とし立ち竦む四人に、白夜叉は凛ッ! とした ”魔王” の名に恥じぬ威厳で問いかける。

 

 

「私は ”白き夜の魔王” ───太陽と白夜の星霊【白夜叉】。おんしらが望むのは試練への ”挑戦か” ? それとも対等な ”決闘” か?」

 

 

今まさに彼らの眼前にいるのは、人智では測りきれない圧倒的過ぎる存在───神そのものであった。

 

 




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