Problem child in Parallel universe【更新停止】   作:無名篠(ナナシノ)

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第六話 東の白き最強 その②

 

 

魔王・白夜叉。

 

自分を指してそういった少女は小柄な体からは想像がつかないほどの『スゴ味』を放った。ジン達のコミュニティが倒そうとする相手であり、この世界の ”天災” と恐れられている存在、それが ”魔王”。

その魔王がいま目の前にいる。だがその圧倒的存在感を前に、四人は言葉も出なかった。

十六夜は背中に心地よい寒気を感じながら白夜叉を睨んだ。

 

 

「白夜と夜叉………なるほど、あの水平に廻る太陽やこの雪原の土地はオマエを表しているってことか」

 

「如何にも。この永遠に世界を薄明に照らす太陽こそ、私が持つゲーム盤(・・・・)の一つだ」

 

 

十六夜の反応を愉快そうに笑いながらとんでも無いことを口にした。世界一つ創造したような神業をただのゲーム盤に過ぎないのだと言うのだ。驚愕しないほうがおかしい。

 

 

「この広大な土地がただのゲーム盤ですって………!?」

 

「如何にも。して、おんしらの返答はどちらかな? ”挑戦” ならば手慰み程度に遊んでやろう。だが ”決闘” を望むのであれば魔王として、命と誇りの限り闘おうではないか」

 

 

飛鳥と耀、そして十六夜は即答できずに返事を躊躇った。

もし ”決闘” を受け彼女を倒すことができた場合、『東側最強』の称号を手に入れられる。しかし相手は魔王。簡単には勝たせてはくれないだろうし、逆に簡単に殺されるかもしれない。

それに彼女はゲーム盤を出現させただけで、主なギフトは見せていないため力は未知数。だが勝ち目がないのは一目瞭然だった。

それでも自分たちで吹っかけて、強すぎたからやっぱり辞めますというには彼ら自身のプライドが邪魔をした。

 

暫しの静寂の後────諦めたように笑った十六夜が挙上し、

 

 

「参った。やられたよ。降参だ、白夜叉」

 

「ふむ? それは ”決闘” ではなく ”挑戦” を受ける、という解釈でいいのかの?」

 

「あぁ。これだけのゲーム盤をいとも簡単に用意出来るんだ。アンタには資格がある。────いいぜ。今回は黙って試されてやるよ、魔王様」

 

 

苦笑を浮かべ投げやりに答える十六夜。それを白夜叉は笑い飛ばした。”試されてやる” とは可愛らしい意地の張り方があったものだと。それもプライドの高い十六夜ならではなのだろう。

 

 

「くくく………して、他の童達も同じか?」

 

「………えぇ。私も試されてあげてもいいわ」

 

「右に同じ」

 

「禿同」

 

 

悔しそうに顔を歪ませる二人と、肩をすくめながら答える伏明。それを見て満足そうに笑う白夜叉。

五人のやり取りをヒヤヒヤしながら見ていた黒ウサギは、ホッと胸を撫で下ろした。

 

 

「も、もう! お互いにもう少し相手を選んでください! ”階層支配者” に喧嘩売る新人と、新人に売られた喧嘩を買う ”階層支配者” なんて冗談にしても寒過ぎます!」

 

「ここが極寒だからだろ? そんな薄着してるから………」

 

「気温の話じゃないですよ!? それに白夜叉様が魔王だったのはもう何千年と前の話じゃないですか!!」

 

「なに? じゃあ元・魔王様ってことか?」

 

「はてさて、どうだったかな?」

 

 

カラカラと笑う白夜叉にがっくりと肩を落とす黒ウサギと三人。それと「あ、この人超面倒くさそう」と印象付けた伏明であった。

 

 

 

 

□■□■

 

 

 

 

あの後、グリフォンの登場により四人の受ける試練が決まり、白夜叉は ”主催者権限(ホストマスター)” にのみ許された輝く羊皮紙に指を奔らせて記述した。

 

 

『ギフトゲーム名 ”鷲獅子の手綱”

 

・ プレイヤー一覧

逆廻 十六夜

久遠 飛鳥

春日部 耀

 

 

・クリア条件 グリフォンの背中に跨り、湖畔を舞う。

 

・クリア方法 ”力” ”知恵” ”勇気” のどれかでグリフォンに認められること。

 

・敗北条件 降参か、プレイヤーが勝利条件を満たせなくなった場合。

 

 

宣誓 上記を尊重し、誇りと御旗とホストマスターの名の下、ギフトゲームを開催します。

 

 

”サウザンドアイズ” 印』

 

 

一瞬、伏明の名が記されていない事に疑問を思ったが、本人が「やらない」と公言していたことを思い出し、そこにはたいして触れることはなかった。

まず勢いよく手を挙げたのは耀。様々な動物と人語を解し、『友達』になる彼女にとってグリフォンというのは『夢』同然の存在であった。現に今、目を猛烈に輝かせて見つめている。その様子に苦笑いを漏らす三人。

 

 

「OK。先手は譲ってやるが失敗するなよ」

 

「気を付けてね、春日部さん」

 

「俺は見てるだけだけど………まぁガンバ」

 

「うん、頑張る」

 

 

三者三様の応援に静かに意気込んだ耀は、ゆっくりとグリフォンに近づいていく。一歩一歩近づくにつれてグリフォンの大きさとその偉大さに息を呑む。しかし、そこに『恐怖』は無かった。

翼を大きく広げ、巨大な瞳をギラつかせて威嚇を続けているグリフォンをこれ以上刺激を与えないように、耀は慎重に話しかけた。

 

 

「えっと………初めまして、春日部耀です」

 

『ッ!?』

 

 

耀の言葉にグリフォンはピクッと反応を示すと、瞳から警戒心が薄れ、僅かに戸惑いの色が浮かんだ。

その様子を見て白夜叉は感心したように扇を広げ、目を細める。

 

 

「ほう、あの娘、グリフォンと言葉を交わすか………面白い」

 

「グリフォンとの会話ってそんなに珍しいなのか? アレを見る限り誰でも出来そうに見えるんだけど」

 

「確かに、アレだけを見ればの。だがおんしはどうだ? 彼奴が何を話してるか分かるまい?」

 

 

白夜叉にそう言われ、頭を掻く伏明。確かに彼にはグリフォンが何を話しているのかわからない。甲高い声で鳴いているようにしか聞こえないからだ。それでも耀は嬉しそうに会話している。

 

内容はだいぶ物騒だが。

 

 

「幻獣種との対話は同一種かそれ相応のギフトがなければなし得ない。黒ウサギでも全ての種と対話は難しい。あの娘のギフトは恐らくそれを凌駕する程のものであろう」

 

「………ギフトっていろんな種類があるんだな」

 

「ギフトは『才能』とも呼べるものだからの。形が決まった『力』があれば、あやふやな『原石』もある。例えば『魔法』。それでおんしは一体何を想像する?」

 

 

白夜叉の問いに伏明は頭を軽く捻らせる。普通なら不可能な事象を想像することだろう。彼も例に洩れず、ありきたりなイメージを思い浮かべた。

 

 

「………空を飛んだり炎を操ったり?」

 

「それもここでは ”ギフト” として存在する。炎に関するギフト、風や浮力に関するギフトなどな」

 

 

そう言って白夜叉が指差す先には、フワフワと泳ぐように不慣れな飛翔を見せる耀がいた。風を纏って浮いているその姿は、白夜叉を除いたその場にいる全員を驚かせた。

伏明は頭を抱え、困ったようにしわを寄せると一言。

 

 

「………なんかもう、頭痛くなってきた」

 

「この程度で参るとはだらしがないな。そんなことではこの先身がもたんぞ?」

 

 

挑発的な目で伏明を流し見した後、”試練” をクリアした耀と彼女のギフトを考察している十六夜達の下へと歩いていった。

 

 

そして───

 

 

 

「だらしなくて悪かったな。俺はお前らみたいな逸脱した力なんか知らないし見た事も無い。ごくごく普通の人間なんだよ……」

 

 

一人になった伏明は、どこか楽しそうな雰囲気の彼らを見るや否や、陰鬱な気持ちでそう小さく呟くのだった。

 

 

 

 

□■□■□

 

 

 

 

白夜叉も交えた耀のギフト考察はあっという間だった。父から貰った木彫りによる後天的なギフトだったり、その木彫りは両親が作り出した独自の系統樹だったり、それがギフトとして確立されたスゴイ品だったり。

系統樹の複雑な幾何学模様に刺激されたのか興奮気味に買い取りを申し出る白夜叉だったが、即答で拒否されていた。

その時の白夜叉の顔はお気に入りの玩具を取り上げられた子供のようであった。

 

しかし、詳しい力については ”異種族と会話できる”、”友になった種から特有のギフトを貰える” ということだけしか分からずじまいだった。これ以上は上層に住むの鑑定士でなければ不可能らしい。

その言葉に驚愕したのは黒ウサギだった。

 

 

「え? 白夜叉様でも鑑定出来ないのですか? 今日は鑑定をお願いしたかったのですが」

 

「ゲッ………よりにもよって鑑定か。専門外どころか無関係もいいところなのだがの」

 

 

困ったように白髪をかき上げ、着物の裾を引きずりながら四人の顔を一人一人ジッと見つめる。

 

 

「ふむ………なるほど………うむ………む?」

 

 

ただ一人、伏明に対してだけは眉をひそめた。

 

 

「これは、信じられん………だとしたら何の為に………一体誰が………?」

 

「あの………白夜叉様?」

 

 

顔を俯かせてブツブツと何かを考える白夜叉。不安に思った黒ウサギが声をかけるも反応を示さない。

 

 

「………おんしは一体なんだ?」

 

 

ふと、白夜叉が静かに訊ねた。

 

 

「なんですかその質問………なんの力もないただの人間ですよ、白夜叉サマ」

 

「『ただの』人間か………うむ」

 

 

白夜叉はもう一度見定めるように伏明を見た後、グリフォンのゲームにも使用した羊皮紙を取り出しゲーム内容を記述していく。

 

 

『ギフトゲーム名 ”運試し”

 

・ プレイヤー一覧

城之内 伏明

 

 

・クリア条件 テーブルに並べられたカードの中から『絵札』選ぶ。

 

・クリア方法 選べるカードは四枚のみ。

 

・敗北条件 降参か、プレイヤーが勝利条件を満たせなくなった場合。

 

 

宣誓 上記を尊重し、誇りと御旗とホストマスターの名の下、ギフトゲームを開催します。

 

 

”サウザンドアイズ” 印』

 

 

「は?」

 

 

手渡された契約書類に目を通し、伏明は素っ頓狂な声を出す。それもそうだろう。やらないといって納得していたのにも関わらず、急に自分がプレイヤーとしてゲームを組まれたのだから。

 

 

「では、早速始めるとしよう。黒ウサギ、舞台のセットを頼む」

 

「え? あ、はい。それは構いませんが………」

 

「ちょっと待て、黒ウサギ」

 

 

急すぎる展開に、十六夜が異を唱えた。これには飛鳥と耀の二人も同感のようで、ジッと疑問の目で白夜叉を見る。

 

 

「なぁ白夜叉、伏明自身やらないとハッキリ言った。お前はそれを承諾した。にも関わらず契約書類のプレイヤーにはそいつの名がある。これはどういうことだ?」

 

「………なに、試練は受けないと言うたがおんしら三人だけゲームをしては何かと不公平だと思ってな。それだけだ」

 

「ハッ、それはまた親切なホストマスター様だな」

 

 

十六夜が探るような目で見るも白夜叉は無表情を崩さないため、真意はわからない。

邪険な雰囲気が再び流れ始め、黒ウサギがオロオロしだした時、

 

 

「………ルールは単純に ”運” で絵札をめくるか。うん、白夜叉サマ。やらせてもらいますこのゲーム」

 

 

話の中心にいた人物が呑気な声をあげた。

 

 

「良いのか?」

 

「え、何が? だってせっかく白夜叉サマが用意してくれたもの、やらなきゃ損でしょ。事実やってみたかったし」

 

 

やってみたかった、そう告げた伏明の目は好奇心に満ちていた。

危うい──聞けばガルドとの一件の時に飛鳥達は彼をもう一度気絶させたとかなんとか。

黒ウサギは伏明の危うさを実感すると同時に、余計な事をしてくれたと感じていた。

 

 

「ふ、伏明さん! そう簡単に受諾しては────」

 

「大丈夫大丈夫。これ見る限り四回カードめくるだけだからヘーキだって」

 

 

(ダメだ………ギフトゲームの本質を理解していない……このままじゃ……!)

 

 

ギフトゲームは受けてしまえば辞退することは可能だが、それは実質ゲームの敗北を意味する。このような遊び程度のゲームならば問題ないが、本当に全てを賭けたゲームならば───

 

 

(やはり彼は……)

 

 

 

ムニュン

 

 

 

「へっ?」

 

 

とここで、なんとも気の抜けた音が聞こえた。黒ウサギ本人としては聞き覚えがあるというか、身に覚えがあるというか、直にされているというか。

少し頭を下げてみれば見慣れた小さい手が黒ウサギ自慢の胸を後ろから鷲掴んでいた。

 

 

「ムホホイホホホ! なーに湿気った顔をしておるのだ黒ウサギ! 隙だらけだからつい揉んでしまったぞ!」

 

「ふぇ!? 白夜叉様!? ちょ、やめて下さい〜!」

 

「よいではないか〜よいではないか〜」

 

 

『つい』でセクハラに走るあたり、本当に東側最強のホストマスターなのか疑いたくなるが、ポンッと世界を顕現したり、身の毛がよだつ程の存在感があったりと、それが事実なのは間違いない。

でもやっぱりそう見えないのはセクハラ行為を躊躇いなくするからだろう。

 

 

「ふぅ、黒ウサギ成分も取れたことだし、早速始めるとしようかの。ホレ黒ウサギ、いつまでへこたれておるのだ」

 

「誰のせいですか! 誰の!!」

 

 

ウガーッ! と吠えつつも黒ウサギはボードゲーム用のテーブルを出現させ、いそいそと準備を始めた。

その側で今か今かと待っている伏明、飛鳥、耀。

 

 

「で、結局伏明一人でやるのか?」

 

「なんだ小僧。不服か?」

 

「いや? ただ『運試し』なんてシンプルなゲームであいつはどうやって観客を沸かせるのか、それだけが気がかりでな。盛り上がりに欠けるほどつまらないものはない。だろ?」

 

 

そう言った十六夜の表情は好奇心旺盛な子供のようであり、冷静に見極めようとする策士のようだった。

 

 

 

「それでは! これよりギフトゲーム『運試し』を開始します! 進行はこの黒ウサギがお務めさせていただきます♪」

 

 

そして黒ウサギの宣言で、『運試し』のゲームは幕を開けた。




お久しぶりです、私です。
こんな感じでグダグダ更新が続きますので、改めて「これでもいい」というかたは是非是非お待ちください。

よろしくお願いします。

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