明星の意思、常闇の暁光   作:瑛慈 翔

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【第10話】歪みすぎてよくあること

桜。君は僕と同じこの青空の下で、健やかに帝都ザーフィアス城での生活を過ごしているのだろうか。

いや、5日も経つんだ。もうそろそろ慣れてきた頃じゃないか。

僕は相変わらずあちこち飛び回っているよ。

 

 

まず訪れたのは、学術都市アスピオ。

ハルルの結界魔導器をみてくれる魔導士を探しにきたんだが、そこで盗賊団の情報を耳にした。

 

魔導器の魔核だけを狙う集団で、対象は公共から個人までと幅広く、最近発掘されたばかりのシャイコス遺跡地下にも現れたらしい。

 

 

犯罪者を捕らえるのは、僕たち騎士の役目。

但し、魔核盗賊団を追うには魔核を識別できて、尚且つ遺跡に自由に出入りできる研究者の同行が望ましい。

 

一番適任なのは、以前も話したリタ・モルディオ。

ハルルの結界魔導器の件もあるが、彼女はシャイコス遺跡探索の経験もあり、魔導器についても右に出るものはいない。

是非とも協力願おうと交渉を試みたが、入室して早々ファイアボールが飛んできた。

 

避けれたので大事には至らなかったが、それ以前に街中で魔術を使うのはよくない。

 

注意しようよしたら、ソディアと喧嘩を始めてしまった。

ドサクサに紛れて「私の神聖なる小隊長様に何をする!」とか聞こえてきたけど、僕は君のものになった覚えはないよソディア。

これでは話が始まらないので、ひとまず仲裁に入ると、リタが僕を睨んできた。

 

おかしいな、僕は彼女の怒りを買った覚えは無いのに。

もしかしたら、シャイコス遺跡で桜が僕を選んだことに腹を立てているのではないかと尋ねてみたら、「キモいことを爽やかにほざくな」と、またファイアボールを放ってきた。

 

このままでは埒が明かない。

とにかく盗賊団とハルルの結界魔導器修繕の協力要請を伝えたところ、自分を雇うからには報酬を出せと言ってきた。

 

リタは桜に執念がある。

報酬に彼女の引渡しを要求するのは、目に見えていた。

桜は今帝国の管理下にある。

僕なら、多少の融通なら利くかも知れないが、身の引渡しまでの権限はない。

そうでなくても、こちらの常識に疎い彼女をあまり人目に曝したくない。

 

 

どういう風に断ろうか迷った末。

ユーリに習って「桜以外の要求なら飲むけど、寝言は寝て言えばいいよ」と答えた。

 

気分を害してしまう可能性はあった。

だけど、返事の代わりに拳を返すのは穏やかじゃないと思うんだ。

桜の現状を伝え、心配は無いと説明したけれど、結局リタの協力は得られなかった。

 

君が清く正しく健全でいられるなら、多少の犠牲は目を瞑るさ。

だから、同性愛はダメだよ。

 

 

同行する魔導士にあたっては、ウィチル少年にお願いし、シャイコス遺跡の盗賊団追跡は実行された。

ただ小隊の人数とハルルの結界魔導器修復までに残された時間が少なく。

結果、奪われた魔核をいくつか取り返しただけで、盗人は逃走。

アスピオに帰還後、帝国へ盗賊団の情報を通達。他の騎士団に一時任せた。

 

 

それから、僕たちは当初の目的である結界魔導器を直しにハルルへ戻ったんだが。

ハルルの街で、僕たちは信じられない光景に遭遇した。

 

満開に咲き乱れるハルルの樹。

街を包み込む結界。

 

結界魔導器は停止していたはず。

一体誰が、どうやって直した?

 

超常現象を前に呆然とする僕だったが、ハルルの長が投げかけた言葉で再度現実を疑うこととなる。

 

――「彼女とご一緒ではなかったのですか?」 と。

 

彼女? 恋人という意味なのか?

身に覚えが無い。何故僕の異性関係なんて聞いてくるのだろう。

 

 

意味が飲み込めない僕へ、長はにこやかに"彼女"の特徴を上げていく。

年頃は僕より5、6つ下。黒髪の、少し世間知らずな女の子で――……

ひとつひとつ言葉を飲み込んでいくうちに、どんどん血の気が引いていく。

 

 

君か、君なのか――?

君がここに来たっていうのか?!

 

 

間違いであって欲しい。

君の写真を長に見せて確認したら、残念な事に照合が取れた。

 

帝都にいるはずの君が何故? どうして?

意識が遠のきそうになる僕を追い撃つように、デイドン砦から通達が届く。

 

帝国からのものだ。

ユーリが貴族宅に不法侵入、公務の執行妨害及び脱獄。

城内からエステリーゼ様と桜を連れ去ったとして、賞金首にかけられた。

 

長の話とまとめると、ユーリたちは城を出て、何らかの形でデイドン砦を避けてハルルに立ち寄り、結界魔導器を修復。

僕を追ってアスピオに向かったようだ。

 

 

――桜がユーリたちと結界の外へ?!

 

 

今すぐ迎えに行かなければ。

是が非でも、僕が彼女に会いに行かなくては……っ!

 

 

一目散に引き返そうとすると、ソディアとその他大勢に阻まれた。

 

頼む、通してくれ。

桜が僕に会う為に、魔物が屯する危険な世界へ飛び込んで来たんだ。

今頃僕が恋しくて泣いているかも知れない、そう考えたら放置できないだろう。

というか、ユーリと一緒だなんて余計放っておけるかああああ!!

――と、強引に突っ切ろうとしたら、ソディアが「そんなわけがありません。冷静に桜の気持ちを考えて下さい」と訴えてきたんだ。

桜が僕がいなくても平気と言うのなら、それこそ、そんなわけないよ。

 

確かに桜は空腹でも城内を動き回るほどバイタリティ溢れているけれど、自分の置かれた状況くらいわきまえているはずだ。

僕の立場だって、よく言い聞かせておいたから、理解しているだろう。

なのに、リスクを犯してまで僕を探すのは、止むを得ない事情があるからに違いない。

 

僕に会う為に、わざわざ自分を恋人と偽ってまで。

 

いや、本当に偽っていたのだろうか。

ユーリの親友だとか、友達だからとか、もっと無難な関係を利用するべきだ。

その中で一番難儀な恋人という立場を選んだのは、何か深い理由があるんじゃないか。

よもや、僕に会うのに形振り構っていられないほど、一刻を争っているのだろうか。

 

憶測だけでは判断しがたいが、事を急いて一足違いになるかもしれない。

僕の命を狙う暗殺者に目を付けられても厄介だ。

 

腰をすえて話し合える場所、大陸の最西部にある次の目的地ノール港がいいかもしれない。

ひとまず手紙にしたため、ハルルの長に預けておいた。

ユーリたちがここへ戻ってきたら、渡して欲しいと。

 

大丈夫だよ、桜。

僕たちは必ず再会できる。

それまで、どうか無事であってくれ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

歪みすぎてよくあること

 

それはまたカオスとも言う

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

フレンさん。貴方は私と同じこの青空の下で、能天気に巡礼の旅を満喫しているのでしょうか。

いや、5日も経つんだ。もうそろそろ気付いてもいいんじゃないですか。

私たちが貴様を探して、テルカ・リュミレースを奔走していることに。

 

こんにちは、アクセサリー重装備女子高生です。

白いシルククロークに対して、黄金色の首輪、エメラルドの指輪と赤い宝石のついたプラチナの指輪なんつう、まったく統一感の無いアクセサリーつけてるのは、私のセンスが大気圏外なのではなく、機能性を重視した結果です。

首輪の魔導器は私に降りかかるエアルを拡散してくれるし、右手のソーサラーリングは相手を気絶させる光弾打てるし、ホーリィリングは微量の治癒効果がある。

加えて、これで殴ると激しく痛い。

 

 

ただの女子高生がこれらの便利アイテムを揃えて、若干冒険者らしくなってきたのには理由と目的がある。

 

一つ目は、私のエアルに弱い体質を調べて改善する為。

魔導士リタ・モルディオ氏に助けを請うた際、彼女から貰った首輪の魔導器で病状は軽減された。

但し、私が吸収したエアルの行方は未だ知れず、リタに人間魔導器じゃねーのかと疑われています。

 

二つ目は、元の世界に帰る方法。

これも天才魔導士リタ・モルディオ嬢が、私を調べていけば、いずれわかるんじゃないかと前向きに模索中。

但し、友達のエステルが世界ラヴを謳い文句に、妨害を画策しているので留意しておくこと。

 

三つ目は、帝都下町の魔核を泥棒から取り戻すこと。

魔核泥棒の特徴が小柄のローブ姿で名前がモルディオと言う点から、恐れ多くも爆裂天才魔女っ子リタ・モルディオ様を泥棒と疑っていた。注:ユーリだけ。

シャイコス遺跡で捕まえた盗賊団の一人を締め上げたところ、トリム港にいる隻眼のごつい野郎が黒幕として浮上した。

後日トリム港へ、泥棒をドツきに行く予定。

尚、泥棒の濡れ衣が晴れても、ユーリとリタの仲はカオスです。

 

四つ目は、フレンに会うこと。

エステルは直接伝えたいことがあるらしいが、私もシャイコス遺跡の異変をすっぽかして帰る旨を伝えなきゃいけない。

デイドン砦を抜けて、ハルルへ行き、アスピオへ行って、シャイコス遺跡へ行き、も一度ハルルへ戻ったらしいが、現在に至るまで一度もエンカウントしていないミラクル。

 

 

上記の問題以外にも、変態ドM暗殺者とか、端麗なストーカーとか、カロルの存在意義とか、いろいろ問題は山済みなんだけど、今はとにかくフレンと再会するのが最大の目標だ。

彼が魔導士をつれて、ハルルの結界魔導器を直しに向かったと言うリタの情報に賭けるしかない。

 

とは言ったものの、実はその結界魔導器も私たちが修復済み。

これは紛れも無い事実なんだが、素人が魔導器いじくるなんてありえないらしく、結界に覆われた大樹の街を見たリタは狐につままれたようにその場で立ち尽くした。

 

 

「信じられない。結界魔導器が正常に作動している。この開花量は異常よ」

 

 

結界だけでなく、大樹が絶え間なく花吹雪を散らす様は、玄人から見てもおかしな現象らしい。

狼狽するリタを見たカロルは、ここぞとばかりに胸を張った。

 

 

「へへーん、流石のリタもビックリしたでしょう! 騎士団でもどうにもならなかったこの結界魔導器をボクたちが直したんだよ。

屈強モンスターエッグベアをドカァアンと倒して、その爪とかを素材に使ったパナシーアボトルで、どばあああと! そしたら、ばああああ!って咲いたんだ」

 

「擬音語を多くて説明になってないわよ、ガキンチョ」

 

「やだなあ。それはリタの感性が貧弱――おぶすっ」

 

 

カロル先生がハルル復活を全身全霊で表現したが、あまりにも抽象的過ぎた為に、リタから手刀をお見舞いされた。

脳天に突き刺さるリタの拳、真っ二つに割れる伊達リーゼント。

でかいタンコブこさえてのたうち回る先生を視界から抹殺したリタはスタスタと私の元へやってきて、やや目線を逸らしながら話しかけてきた。

 

 

「桜、あたしちょっと結界魔導器調べに行きたいんだけど」

 

「シャイコス遺跡で見に行きたいって話してたよね。

いいよ。私達ここで待ってるから、行ってきなよ」

 

「あんたもついてくるのよ」

 

「私も?」

 

「桜をわざわざ木の下まで誘い込んで、さては愛の告白か?」

 

「死ね」

 

 

私に寄り添っていたユーリが茶々を入れたら、リタは鋭い眼光でそれを瞬殺した。

 

 

「いちいちうっさいわね。

あんたは関係ないんだから、ここで大人しくガキンチョの世話してなさいよ」

 

「あいにくオレは桜の面倒をみる立場なんでね。

一時たりとも、目ぇ放せねえんだよ」

 

「何それ、シスコン臭いんだけど。いいから、あんたはついてこないで」

 

「桜が行くなら、わたしもついていきます」

 

「エステリーゼまで来なくていいわ。

あんたもこいつらと待ってるの」

 

「そんなこと言わずに女友達同士仲良くしましょう。

後、わたしのことは親しみを込めてエステルと呼んで下さい」

 

「あのねー。いつからあんたとあたしが友達になったの。

適当に仲良くする分は構わないけど。

今回は桜だけ誘ってんだから、エステリーゼはまた今度ね」

 

「何故そこまでしてわたしを拒むのです?

もしや、 女の子同士なのをいいころに、桜と二人きりになった所を力ずくで我が物に?!

なんて羨ま……破廉恥な!

桜の純潔はわたしのこの剣で守ってみせます」

 

「ねえ、あたしの話聞いてる?」

 

「私の純潔守るって言ったら、フレンさんも対象になっちゃうよ」

 

「きちんと手順を踏まなければ、相手がフレンでもフォトン連発木っ端微塵です」

 

「将来有望なイケメン騎士を木っ端微塵て、変わらず思い切りが斜め上ですね」

 

 

よくわからんが、エステルは殺る気だ。

彼女のいらん殺気は漢犬ラピードまでも怯ませる勢いであったが、リタは支離滅裂な思考など微塵も興味が無いようで、尚も私へ詰め寄ってくる。

 

 

「もう、皆して横から口出さないで。

桜はどうするの? あたしについてくるの?」

 

「ここへ戻ってきたのはフレンさんに会う為だから、まずはそっちを済ませてからにしようと思う」

 

「あたしより、あのパツキン騎士を優先するんだ」

 

「そこで拗ねられても」

 

「拗ねてないわよ……っ!

いつまでも捕まらないアホ騎士なんか、放っとけばいいじゃない。

帝国の都合なんて考えるだけ無駄だし、アホ騎士だって、あんたの噂を聞きつければ、向こうから勝手に突撃してくるでしょ」

 

「フレンさんがそんだけ危ない方向に積極的な人なら、尚更私が旅に出た理由も説明しておかないと後が怖いでしょう」

 

「やっぱり、あいつの方が気になるのね」

 

「リタさんが想像しているようなものじゃないよ。

フレンさんの用事が終わったら、すぐ行くから、ね?」

 

「言い訳しなくてもいいわよ。

あたしより、あいつとの一緒にいた時間の方が長いから、情があるんでしょう。

結界魔導器を調べるだけなら、あたし一人でも十分なんだから。

後から来ても知らないんだからね」

 

 

リタはそっけない態度で言い放つと、私の返事を待たずに大樹の根本へと足早に去っていった。

一人で事足りるなら、最初から誘う必要なんてあったのか。それとも他に用があったとか。

原因不明な彼女のツンツンぶりにカロルとユーリも呆れるばかりだ。

 

 

「なんでだろう。今のやりとり、まるで痴情の縺れみたいだったね」

 

「だな。後から来いと言わんばかりの壮大な誘い受けだった。

……マジで告白なのか」

 

「真顔で聞かれても知らんわ」

 

「まあいいさ。そん時ゃ、オレが出歯亀するから、胸張って行って来い」

 

「胸張れるかああああ! 覗くの? 痴漢?!

あんたは妹の初デートに常時追尾する変態兄貴かよ?!」

 

「正面から仕掛けた方がいいってのか」

 

「……本気でリタさんをどーにかする気なのか」

 

「さてね。あいつの出方次第だろ。

それより、フレンだ。見たとこ、騎士の一人も見当たらねーし、こりゃあまた入れ違いになったかな」

 

「入れ違いだったようですな」

 

 

ユーリの嘆息にハモったのは私ではなく、ハルルの長だった。

どこからか、私達の話を聞きつけたんだろうか。

彼は私たちの元までやってくると、深々と頭を下げた。

 

 

「いつぞやはお世話になりました。

急に発たれた時はどうなされたのか心配でしたが、皆様も元気そうで何よりです。

治癒術士のお嬢さんもお変わりなく」

 

「いえ、街の皆さんも普段の生活に戻れたようですね。

先程の入れ違いと言いましたが、フレンはもうここを発ったのですか?」

 

「はい。このハルルの結界魔導器を見て、貴方達のことを伝えたら、大変驚かれましたよ」

 

「ははは、フレンのやつ、これには流石にビビっただろ。

すんげーリアクションだったんだろうな」

 

「ええ、そりゃあもう。

そちらの黒髪のお嬢さんのことをお話したら、卒倒するくらいでしたから」

 

「……マジか」

 

 

これにはユーリが虚をつかれたようだ。

フレンは生真面目な性格だから、こういう局面には慣れていないのかもしれない。

また胃薬が増えてなければいいが。

 

 

「あ、でも、ここを発ったってことは具合良くなったんですよね」

 

「すぐに立ち直りましたからな」

 

「よかった。元気になったんだ」

 

「ええ。それはもう破竹の勢いでした。

特に貴方を迎えに行くと言い出した時は、度肝を抜かれましたよ」

 

「え?」

 

「たった一人で、立ちはだかる騎士たちをなぎ倒し、外の魔物達を一撃粉塵する様は正に鬼神のごとき快進撃。

素人目で判断してよいのかわかりませんが、剣一突きで魔物を2,3匹貫くのはどう見ても人間業ではございませんでした」

 

「……ふ、フレンさん……? それホントにフレンさん?」

 

「愛です、これが愛なのですよ。桜!

ただただ貴方に会いたいが為に仲間の制止を振り切り、並み居る魔物を蹴散らし、死地に向かう。

これを受け取らずに何を受け取るのですか?!」

 

「桜、悪い事言わないから、フレンとかいう騎士に会うのは避けた方がいいんじゃないかな。

ボクが桜の立場だったら、存在そのものに脅威を感じるよ」

 

「怖いよね、恐ろしいよね、生命の危機だよね。

私もカロルと同意見だよ」

 

「てか、そんだけ暴れといて、よく巡礼再開できたな」

 

「他の騎士様の説得もございましたし、一時的なものでしたから。最後は冷静なものでしたよ。

――ああ、肝心な事を忘れるところでした。

フレン様より、預かっているものがございます。コレをどうぞ」

 

 

長は思い出したように懐から一通の手紙を取り出し、エステルへ手渡した。

封筒に折り目正しく納められていた手紙には、ワープロで打ち出したような異世界の文字が丁寧に綴られている。

 

 

「エステル、フレンさんの手紙にはなんて書いてるの?」

 

「これは……ユーリ宛ですね。

『ノール港で待っている。早く追いついて来い。

暗殺者には気をつけるように』だそうです」

 

「なんだ。あいつ、自分が狙われてるの知ってたのか」

 

「そのようですね。ええと、手紙にはまだ続きがあります。

『僕がいない間、桜を頼む。

守るのは当然だが、指一本触れるな。

就寝は野宿であろうとも別々、手をつなぐのも厳禁。これを犯したら、例外無しに叩き斬る。

彼女はこちらの生活に不慣れなのだから、親切丁寧に世話をするように。

但し、常識範囲内であること。

間違っても妙な知識や習慣を植え付けたら、首が胴から離れると思え。

――PS.手を出したら殺す』」

 

「だらだら長文にしなくても、追伸で要約済みじゃねーかよ。

就寝っつったら腕枕したし、帝都出る時や遺跡で手も繋いだから、現時点で既に斬られるのは確定だな」

 

「ユーリ、斬られるんだよ? 下手すれば、息の根止める勢いの文章だよ、これ?!

トルビキア大陸へ行くには、ノール港は避けて通れないし……ああーどうしよう」

 

 

未知なる恐怖に行く手を阻まれ、カロルは頭を抱えてうずくまった。

寧ろこの状況で頭を抱えるのは私とユーリなのだが、ユーリは親友の制裁など慣れているのか眉一つ動かさず、能天気に構えている。

私もフレンの関心が幼馴染にだけ注がれているもんだと内心安堵していたのだが、手紙を読み進めていたエステルが表情を明るくさせ、私に向かって恐れていたことを口にした。

 

 

「桜、喜んでください。貴方宛にもあります」

 

「フレンさんのデスレターが私宛に!?」

 

「ラブレターです」

 

「死の手紙であってるよ。

どうせ内容は説教とか、ハレンチプレイとか、監禁予告とかなんでしょう。

部屋から出ただけで物凄く怒ってたのに、城から出たとなると、どんな制裁が下されるか想像するだけで悪寒が走る!」

 

「やはり想う人からの恋文は嬉しいのですね」

 

「お前の目は節穴か。今のリアクションのどこをどう見たら、嬉しそうに見えるのよ」

 

「皆さんの前で音読されるのが恥かしいのです?」

 

「デスレターが存在するだけで、心臓が止まりそうです」

 

「胸が弾けるくらい照れているのですね。ラブラブです」

 

「ラブラブしませんゾクゾクします」

 

「照れてばかりいては先に進めませんので、早速読んでみますね」

 

「お願い、私の話を聞いてエステル」

 

「『如月 桜へ。

 

ハルルの樹が満開の季節になったね。

君は恙無く過ごしているだろうか。

 

君の事はハルルの長と帝国からの通達でわかったよ。

わざわざ危険を冒してまで、僕を追いかけるということは、それだけ大切な用があるんだろう。

一緒にいた時に気付けなくて、本当にすまないと思う。

 

帝国から、君とエステリーゼ様を城に帰す為に小隊が何人か派遣されたらしい。

エステリーゼ様は知れないが、君の場合はユーリが許さないだろう。

君だって、やっとの思いで城から出てきたんだろうしね。

 

僕も今すぐに君の元へ馳せ参じたいが、この広い世界でまたすれ違ってはいけない。

それから、君に気を遣わせるのは嫌だったから黙っていたんだが、僕は以前から暗殺者に狙われているんだ。

傍にユーリがいるから心配ないとは思うけれど、君まで連中に目を付けられては不味い。

 

腰を据えて話ができるようにノール港で落ち合うことにしよう。

ユーリにも来るように頼んでいたから、悪いけど一緒に来てくれないかな。

 

君が来るまで、僕はいつまでも待っているから、気をつけておいで。

 

フレン・シーフォ』」

 

「桜宛の手紙、ユーリのと全然違うね。真面目で柔らかいよ」

 

「カロルも彼の誠実さが理解できたのですよ。

フレンに会いたくなったです?」

 

「会いたくないです。そんな甘言に騙されるか。

……て、言ったところで、会いに行かなきゃいけないんだよね。

ところで、町長さん、さっきから大切そうに持ってるその大きな袋はなんですか?」

 

「フレン様から貴方へ預かり物です。どうぞ」

 

 

訊ねたら、長はその布袋を私へ差し出してきた。

中身を広げてみると、いろんな色のグミや、形の違う小瓶等々。

見たこともないアイテムがぎっしり詰まっていた。

 

 

「見たことあるのは、アップルグミだけね。

他にもいろんなグミがあるけど、何に使うの?

ユーリ、ちょっと見てみて」

 

「ん? どれどれ……。ああ、この橙色のはオレンジグミっつって、術技回復できるヤツな。

んで、これは両方回復できるミックスグミだよ」

 

「この黄色いのは?」

 

「おいおい、そりゃあレモングミじゃねーか。

なんでそんな高価なモン……あ、パイングミまであんぞ。

あいつ、どこから掻き集めてきたんだ」

 

「凄いよ、ここの大陸じゃあ手に入らないものばかりだ。

異常回復系のボトルやホーリィボトルもある。これだけあれば、ノール港まで余裕だね」

 

「大事にされているんですね、桜。怖がるだけ損です」

 

「時々胸を鷲掴みにさえるような言動があったから、実は怖い人じゃないかって思ってた。

考えてみたら、一緒にいる期間短かったから、よく知ってるわけじゃないんだよね。

ユーリ、フレンさんって、普段はこんな感じなの? フェミニスト?」

 

「実はオレもこういうフレンは初めてで正直驚いてんだ。

あいつ、女性っつーか、誰に対しても公平だからな」

 

「フレンさんは女性に慣れてるって、言ってなかったっけ」

 

「ナンパっぽいイメージしてんなら違うぞ。

女受けしそうな素材は揃ってるが、言い寄られる当人は天然だ」

 

「……まともに恋愛したことないとか。

そ、そんなことないよね。あんな最良物件が今の今まで童て……もとい、恋人一人作らなかったなんて無いよね」

 

「真面目な男がマジになるとハンパないな。

これだけのアイテムを用意するのに、どれ程の苦労と金をつぎ込んだんだか。

こりゃあ、お前が帰るって話、一筋縄ではいかねーかもよ」

 

「大げさな。フレンさんは私の事情知ってるから、回復アイテムを用意してくれたんだよ。

重要参考人の管理っていう帝国騎士の仕事の一環であって、たかだか女子高生相手にそんな……――マジは無い」

 

「はっはっは、自信もて。

幼馴染のオレですら、あいつの奇行に寒気を感じるくらいだ」

 

「はっはっは、ご冗談を。

説得するっつったユーリが、幼馴染の奇怪な行為にひいてどーすんの」

 

「目が笑ってないよ二人とも」

 

「度々すみません。お取り込み中ですが、最後にユーリ殿へこれを」

 

 

二人して引きつった笑いを上げていると、長が恐る恐るユーリへ一枚のポスターを手渡した。

なんだろうか、ユーリが広げたポスターを横から覗き込んで思考が停止する。

皆、最寄のデパートで母の日に展示している小学生低学年が描いた母の絵を一度は拝んだことはあるだろう。

そのクレヨンがのたくったような肖像画がB4のポスターの5分の3くらいを占めて描かれていた。

 

 

「何この落書き」

 

「オレの手配書だな」

 

「ユーリの手配書? この饅頭にヒジキ被せた様な物体がユーリなの?」

 

「うん。ちゃんと名前もユーリ・ローウェルってなってるよ。……似顔絵は最悪だけど。

でも手配書が出回るなんて、よっぽどじゃないか。

賞金は……ごっ、5000ガルド?!」

 

「安いな」

 

「安いの?」

 

「高いよ! 桜が食べたアップルグミが50個も買えるんだよ!」

 

「ごめん、カロル。

私ここいらの物価って、よくわかんなくて。

アップルグミひとついくらだっけ?」

 

「ひとつ100ガルド。

桜って、外に出たことが無いって聞いたけど、アップルグミの値段も知らないの? やっぱり貴族?」

 

「違うっていってるでしょ。私にエステル並みの品性があるように見える?」

 

「ううん。全然ないね」

 

「ありがとうカバンストライク」

 

 

素直に即答してくれたお礼に、その横面目掛けて学生カバンを叩き込んであげた。

少年の純真な心は、軽いドタマと共に大いなる大地へ突き刺さる。

私は地面に顔面擦り付けて痙攣している少年をとりあえず視界から外して、事の重大性を熟慮した。

 

 

「アップルグミが50個って言われても、ピンとこないわ。

もっと庶民的な比較対象ってないの?」

 

「そーだな。5000ガルドを一般市民の視点で鑑みると、人参が125本買えるくらいだな」

 

「ユーリって人参125本分の価値なんだね」

 

「自分で言っといてなんだが、お前にそういう目で見られると凄く傷つくな」

 

「傷つく対象違うでしょ!

桜、この賞金の額は、ユーリの価値じゃなくて罪の重さを表してるの。

脱獄だけで5000ガルドは高すぎるよ。

一体どんな悪行重ねてきたのさ?」

 

 

カロルに問われても、私は答えが出てこなかった。

エステルに至っては、沈んだ表情で硬く口を閉ざしたまま。

脱獄以外の罪と言ったら、騎士の二人を気絶させて、ルブランという中年騎士をを拘束したくらい……。

 

 

「――私のせい?」

 

「藪から棒に何? 桜とユーリの賞金首に関係なんであるの?」

 

「クオイの森で、ルブランがユーリに私を返せって叫んでのを思い出して。

私、シャイコス遺跡の異変に関する重要参考人として城にお世話になってたの。

そこを悪い騎士に騙されて半日監禁されてね。もうダメだって時にたまたま牢屋から脱獄したユーリが駆けつけてくれて、こっそり城から脱出してきたのよ」

 

「助けてくれたってそういう事だったんだね。

でも、帝国側からしたら、桜がいきなり消えたことになるんじゃない?」

 

「わたしたちが帝都から逃げるところをルブランたちに目撃されましたから。

悪い騎士――キュモールが自分の悪行を隠蔽する為に、ユーリが攫ったと偽ったのでしょう。

そしてわたしも……。

すみません、ユーリ。わたしが無理にお願いしたばかりに」

 

「ごめん。そこまで考えてる余裕が無かった」

 

「二人とも頭上げろよ。どっちもオレが自分で選んでやったことに違いない。

ハンクスじいさんが話してたろ。オレ、元々騎士団に目ぇつけられてたんだ」

 

「常々ユーリの存在が桜とフレンの愛の成就の障害になると危惧していましたが、ここまで話が大きくなるとは思いませんでした」

 

「お前の仕業かよ」

 

「違います。桜とフレンのお友達である貴方の風評を落としてどうするんですか。

わたしなら、指名手配される前に音も影も後腐れもなく滅します!」

 

 

理解してもらいたい気持ちはわからないでもないが、力説するような話ではないだろ。

一方ユーリは淡白なもので、私たちのせいで賞金首になったのも深く受け止めていないようだった。

私の存在はデフォルトで迷惑かかるから、出来るだけ大人しくしようと思ってたのに、これではユーリの負担が増えるばかり。

皆が沈み込む中、ユーリはくるりと身を翻した。

 

 

「まあ、これからどうするか。ゆっくり考えるといいさ。

オレのやることは、変わらねーから」

 

「あ、ユーリ。どこいくの?」

 

「ちょっとリタが面倒起こしてねえか見てくる。

お前もついて来いよ。お呼ばれされてただろ」

 

「フレンさんの件終わったら、リタに付き合うんだった。

って、ユーリも来るの? つか、来ていいの? てか、焼き払われるよ問答無用で」

 

「お前も知ってんだろ。

オレぁ、簡単に消される男じゃない。やられる前にやる、これ基本な」

 

「平和の戻った街で、戦争起こす気か貴様」

 

「大丈夫だよ。少なくとも、お前が傍にいれば、リタだって自重してくれんだろ」

 

 

軽い調子で言ってのけるユーリに微かな不安を覚えつつ、彼と共に大樹の根本を目指した。

 

 

 

 

 

 

 

絶え間なく降り注ぐ花びらのカーテンの向こう側。

一回り何メートルあろうかという大木の前で、リタは例の立体映像を展開し、何やらしきりに調べていた。

どのくらい熱中しているかというと、彼女の「有り得ない」とか「あの子何やったの」なんて呟きが聞こえるくらい、私達が近寄っても気付かないくらいだ。

隙だらけの小さな爆弾へ、ユーリは無遠慮に声をかけた。

 

 

「よう。何やってんだ?」

 

「うあっ! なんでユーリが!?

あんたは呼んでないって言ったでしょ、 失せなさい、ファイアボ――」

 

「桜も一緒なんだけどな」

 

「は、はい、リタさん。それ、魔導器の研究……?」

 

「あ、う……っ! き、来たんだ」

 

 

怒り任せに火球を生み出すリタだったが、私が顔を出すと言葉のとおり鎮火。

しばらく神妙な面持ちで私とユーリを見ていた彼女は、ゆっくり肩を落ろした。

 

 

「アホ騎士には会えなかったみたいね」

 

「うん。ノール港で待つって。

よくフレンさんがいないってわかったね」

 

「あいつがいたなら、接着剤みたいにあんたの傍から離れないだろうから。

もしくは、あたしの元にあんたを遣さない」

 

「根に持ってんな、お前」

 

「当たり前でしょう。

最初からあたしに桜を任せていれば、今まで起きた危険のいくつかは避けられたのよ。

変な意地張ってたのか知らないけど、一番辛いのはあいつじゃなくて桜なのに、全然理解して無い。自分勝手だわ」

 

「全部が全部、あいつが悪いんじゃねーよ。

桜を帝国に連れてったのも、フレンを出動させたのも、帝国の命令だ。

あいつは規律に逆らえない性質だからな。

フレンがやらなくても、別の誰かがやってただろうよ」

 

「桜を危険に曝したのには変わりないわ。

ああ、思い出したらだんだん腹立ってきた。

会う場所はノール港だっけ? あのスカした面にファイアボール叩きこんで、シャンパーニュで粉砕してやる……っ!」

 

 

地面を踏み躙りながら憤慨するリタを見て、ユーリは何故か満足顔でその場にどっかり腰を下ろした。

その余裕っぷりに、リタは露骨に顔を顰める。

 

 

「何ムカつく顔してんのよ」

 

「そんな顔してんのか、オレ?」

 

「親友抹殺予告をする少女の前でする表情じゃあないね」

 

「フレンなら、自分に降りかかる火の粉くらい自分でなんとかするだろ。

オレはただ、今のリタを見て心配事が半分なくなっただけだよ」

 

「変なヤツ。

まあ、いいわ。本当は桜だけに説明するつもりだったけど、あんたもいた方が理解得られ易いかもしれない」

 

「どういうこった?」

 

「桜のことに決まってるでしょ」

 

 

二人の視線が私へ集中する。

怯む私を見たリタは一呼吸おいて「長くなるから、あんたもそこに座んなさい」と指示して、淡々と説明し始めた。

 

 

「前にも話したけど、現段階で桜を帰す方法はわかんないわ。

そもそも異世界なんて想像すらしなかったもの。

異世界の存在、場所の特定、移動方法もろもろ全部を一から研究しなくちゃなんない」

 

「ゼロから出発だよね。資料もないし、前例もないんだから」

 

「厳しいけど、諦めるのは早いわよ。

あんたがここに来た時の状況とか、あんたとあたし達の相違点とか、細かく調べていけば、手がかりが見つかるかもしれない」

 

「手がかりか。私だけじゃ、どうすればいいのかわからなかったよ。

リタさんが居てくれて助かる。ついてきてくれて、ありがとう」

 

「お、お礼なんて言われる筋合いはないわ。あたしも異世界に興味があるから。

その代わり、あんたも協力しなさいよ。いいわね」

 

 

胸張って講釈していたリタ嬢は、私がお礼を言った途端、慌てて目を逸らしてしまった。

調子に乗りすぎただろうか。

戸惑う私に代わり、隣で胡坐をかいていたユーリが話を促した。

 

 

「何はともあれ、地道にやってくしかねーってわけだ。

んで早速なんだが、オレたちと桜が違うところってのは、やっぱエアルか?」

 

「今のところはね。

エアルの影響を受けやすくて、拡散魔導器つけててもエアルを肌で感じることができる。

あたしたちじゃあ、逆立ちしてもできないことよ」

 

「ユーリたちはエアルを感じないの?」

 

「技使うときに力が漲ってくる感があるが、流れとか肌でってのはまったくだ。

空気中に紛れてる魔導器のエネルギーって認識だけで、特に意識はしなかったからな」

 

「それが普通ね。

エアルが桜の身体にどう影響しているかわからない以上、迂闊に魔導器に触れない方がいいわ。

物によっちゃあエアルの出力が違うものがあるから、触れただけで動けなくなるってこともありえるのよ」

 

「魔法もダメなんだよね。エステルの治癒術でも、ダメージ食らったから」

 

「というより、エステリーゼの力が異常なのよね。

遺跡で石像に襲われた時だって、拡散魔導器無視してあんたの傷にエアルを干渉させた。

他の治癒術に比べてかなり強力って証拠よ」

 

 

よくわからんが、エステルの魔法は特別らしい。

フレンも治癒術を使うが、彼女のものとどう違うのか、私には見分けがつかない。

いまいち理解できないでいると、リタはハルルの大樹を目で指しながら、私達に問いかけてきた。

 

 

「この子もエステリーゼが直したんでしょ」

 

「この子?」

 

「ハルルの結界魔導器のこと。

ユーリが誤魔化そうとしてたみたいだけど、カロルがしっかり口滑らしたでしょ。

こんなマネされたら、あたしたち魔導士は形無しよ」

 

「お前がオレたちについてきたのは、桜だけが目的じゃねーわけだ。

商売敵は早めに消しとこうって魂胆か」

 

「見損なわないで。あたしには、解かなきゃいけない公式が……」

 

「リタさんがエステルを? なんて恐ろしいことを……!

日常会話は5割しか通じないし、隙あらば武力行使だし、困ったときには権力行使する天然少女だよ」

 

「あんた、あの子と友達なのよね……?」

 

「いろいろと目を瞑れば、すごく良い人だから」

 

「いろいろと目を瞑った時点で、すごく良い人じゃなくないか?」

 

「ユーリだって、粗野で強引でデリカシー無いところ抜いたら、良い男じゃない。

人間誰しも欠点があるもんなんだよ」

 

「オレは比率の問題を指摘しているのであってだな……。

粗野で強引でデリカシーが無くて悪かったな」

 

「怒らないで。言い方変えれば、ワイルドだってことだから」

 

「物凄く無理な補正だな、おい」

 

「エステルもちょっとおせっかいが暴走するだけ。だから、喧嘩とかは無しの方向で。

リタさん、華奢なんだから、エステルの衝撃波一発で大怪我しそうだもの。傷ついてほしくないよ」

 

「う、うん。わかった」

 

「なんでそこで赤くなるんだよ」

 

「黙れ」

 

 

私の訴えに大人しく頷いたリタであったが、ユーリの突っ込み食らい、少女とは思えぬドスの利いた声でこれを返し睨んだ。

 

 

「あたしが桜をどう想おうと勝手でしょう。

そのせいで被害被ったのなら何言われても仕方ないけど、的外れな因縁つけられる筋合いはないわ」

 

「前に魔導器は自分を裏切らないから楽だとか言っていたが、桜は魔導器じゃない、人間だ。

エステルやお前だって同じだろ」

 

「へえ、あたしン家で桜にしてた話、盗み聞きしてたの。いい性格してるわね」

 

「ああ、仲間想いのいい男だろ。

残念ながら、お前の話は人間魔導器のくだりだけで、全部聞けたワケじゃねーけどな」

 

「研究や実験で桜を蔑ろにするんじゃないか、気が気じゃないんだ。

仲間があたしに傷つけられないか心配?」

 

「ユーリ、何考えてるの? リタさんは私たちの味方でしょう」

 

 

私が注意すると、ユーリは反省するどころか、やれやれと肩を竦めた。

 

 

「ご覧の通りだ。こいつ、なんの疑問もなく、言い切っちまうだろ」

 

「失礼な、根拠ならあるわよ。

貴重な魔導器くれたし、石像に殴り飛ばされた時クッションになってくれたし、こうして私が帰る手立てを一緒に考えてくれてる。

リタさんのどこに疑う要素があるの」

 

「オレはその楽観的な思考が羨ましく思うよ」

 

「酷い皮肉がきましたよ」

 

 

彼女といた今日までの時間、リタは少し怖いところがあるが、いいところも見ている。

泥棒容疑もなくなったのに、まだ怪しい目で持てるユーリの性格が歪んでいるんだと思う。

ヘラヘラしているユーリを睨んでいると、リタはひとつ溜息をついた。

 

 

「大丈夫よ、桜。あんたとエステルに危害を加えるつもりはないから。

同行者からの信頼を損なうようなバカなマネはしないわ」

 

「ほら、ユーリ。リタさんを疑うだけ無駄だって」

 

「野郎共の命までは知らないけど」

 

「んなこと言ってるぞ」

 

「リタさああああん!」

 

「冗談よ。但し、あたしの研究の邪魔するってんなら、半殺しは覚悟しておくことね」

 

「リタもほどほどにしとかねーと、後ろから刃が飛んでくるかもしんねーぞ。オレとエステルともう一人のな」

 

「もう一人の方はやられる前に殺るつもりだから、ご心配なく」

 

「二人とも。薄ら笑い浮かべながら、仲間内でバトルロワイヤル計画すんのやめてくれません。

あんたら武力行使以外に交渉の余地はないんかい」

 

「そん時になりゃあ、なんとかなるだろ。

ほら、戻るぞ。エステルたちが待ってる」

 

 

楽観的なのは寧ろユーリの方じゃないのか。

なんとも言えない複雑な思いをうちに秘めつつ、エステルたちのいる街の入口まで戻った。

 

 

 

 

 

リタとの話に少々時間を食ってしまったかもしれないが、エステルたちが考えをまとめるには十分だっただろう。

必要なアイテムは揃っているし、彼女たちと合流したら、ノール港へ出発しなければ。

帰りがてら、ユーリたちと一緒に今後のプランを巡らせていると、聞き覚えのある声が喧騒に紛れて聞こえてきた。

 

 

「やっと見つけましたぞ、エステリーゼ様! 城にお戻り下さい!」

 

「嫌です! わたしにはやらなければいけない事があるのです。それまで城に戻れません」

 

「なりません。皆も心配しております。無理矢理にでも、城にお連れしますぞ!」

 

「エステリーゼ様を見つけたら、後はユーリを捕まえて、桜殿を保護するだけであーる」

 

「我々はヤツの魔の手から、淑女を救い出さねばならないのだ!」

 

 

エステルを囲む中年、ヒョロ男、寸胴短足の三人の騎士。

以前、ザーフィアスの下町で見かけたことがある。

名前は確か――

 

 

「ルブランのおっさんに、デコボコじゃねーか。

マジでここまで追ってきたのな。ご苦労さん」

 

「デコではないのであーる!」「ボコではないのだ!」

 

 

ユーリが軽薄に皮肉を飛ばすと、ヒョロ男と寸胴短足は地団駄を踏んだ。

初見のリタは特徴のありすぎる物体2名に目を細めた。

 

 

「何よコイツら、デコボコってコンビ名?

なるほど、マッチ棒に団子虫。コンビ名に恥じない脱人類系な容姿してるわね」

 

「リタさん。容姿をけなしちゃいけないよ」

 

「これでもかなりオブラード包んだつもりよ」

 

「水に浸した感がある。

でも、この人たち、クオイの森で引き返したんじゃなかった?」

 

「愛と正義の前では、クオイの森の呪いなど、霞と変わらんのだ!」

 

「クオイの森を丸一日飲まず食わず全力で探索し続けていたら、天の導きにより入口に戻ったところ、デイドン砦が開通していたのであーる」

 

 

ここまでの経緯を堂々と言ってのけるデコボコだったが、ユーリは要所だけを的確に捉えていた。

 

 

「……それってつまり、何の準備も無くクオイの森に入ったものの、ハルルへの出口が見つからなくて泣く泣く一日潰したってのに結局入口に戻っちまって、行く当ても無くなり立ち往生してたところ、偶然にもデイドン砦が開いてたって話だろ。

愛と正義はどこで活躍したんだよ」

 

「今からなのであーる! ユーリ・ローウェル、お前が攫った薄幸の少女を返すのであーる!」

 

「そして大人しくお縄につくのだ!」

 

 

薄幸の少女って私のことか。……幸が薄いのは認めるが。

クオイの森に迷ってUターンとは、このデコとボコ、聞きしに勝る間抜けらしい。

けれども、曲がりなりにも騎士だから、下手にこちらが手を出して事を大きくされたら厄介だ。

寧ろこの機を逆手にとって、ユーリの濡れ衣を晴らせないだろうか。

 

 

「待ってください、ルブランさん。ユーリは悪くないんです」

 

「桜殿。フレン殿を差し置いて、何故そのような輩の庇い立てを……?」

 

「いやあのフレンさんは欠片も関係なんです。

今ユーリの話してるんですけど、もしかしてこれは話を聞かないフラグ?

ユーリは私がキュモールっていう悪い騎士に監禁されたところを助け出してくれた、恩人なんですよ!」

 

「よもや、フレン殿を凌ぐテクニックで落とされたというのか?!

ぅおのれ! ユーリ・ローウェル、うら若き少女になんとハレンチな行為を!

昔のよしみとはいえ、許さんぞ!」

 

「やっぱり聞いてねええええええ!」

 

「年中オレを追い掛け回して、肝心の市民の為の仕事がお留守な堅物暇人野郎が人の話聞くわけねえだろ。

てか、フレンのテクニックに落ちたのか、お前」

 

「落ちるかああああ! そんなモンは端からない!

深意味したら、とんでもねーネタを公衆の面前で平然と聞いてくんな!」

 

 

ダメだ。こいつら説得する以前に話が進まない。

エステルはそれでも諦めずに、ユーリの無罪を訴え続けた。

 

 

「ルブラン、桜の言うとおり、ユーリはただ彼女をを助けただけです。

わたしも自分の意思で城を出たのであって、彼は関係ありません。手配書は何かの間違いです」

 

「手配書は帝国から正式に発行されたものです。

不法侵入に公務の妨害、脱獄に桜殿の誘拐、更にはエステリーゼ様をそそのかした罪の釈明は、城でお聞きしましょう」

 

「そんな……っ」

 

「エステルの話も聞いてくれないの?」

 

「わたしのような、所詮なんの権限も持たない皇族の小娘の言うことは聞けないと。

お上の命令は絶対、お役所仕事だということですね、わかりました。

……ここはわたしの力で思い知らしめる必要があるようです」

 

「"ここはわたしの力で始末する必要があるようです"って幻聴が聞こえたんですけど、エステルさん」

 

「今回ばかりはオレも同意見だ。

こいつらみてえな融通の利かないやつは、ゲンコで殴った方が早い」

 

「そうね。こういう大人はこっちがいくら懇願しようと聞いちゃくれないから。

足腰立てないくらいに魔術叩き込めば、しばらくの間は大人しくしてるでしょ」

 

「え? ええ? 本気で騎士団とやりあうの? 桜、なんとかしてよ~」

 

 

カロルに泣きつかれても、私一人でこの三人を止められるはずも無い。

ラピードまでも、主人に触発されて臨戦態勢だ。

ユーリのことだから、エステルを助けた時みたいに気絶で済ませてくれると思うけど。

 

平和な街の中で、場違いに剣呑な空気が漂い始める。

今にもデコボコが飛び掛ろうとしている時、後ろに居たカロルが「ひゃあ?!」と情け無い声を上げて、私にしがみついてきた。

 

 

「ちょ、どうしたのカロル? 動けないんだけど」

 

「う、うし、後ろに変なのが――」

 

 

カロルが震えながら後ろを指差した刹那、隣に居たユーリが私達の手を掴み、自分の方へ引き寄せた。

つい先ほどまで自分達が居た場所に黒い影が横切る。

背中が冷たくなるのを感じながら、恐る恐る目で追うと、そこには記憶から抹消したくて止まない物体が奇声を上げて身悶えしていた。

 

 

「ふははははははっ! 見つけた! 見つけたぞ! 異界の女! フレン・シーフォおおお!」

 

「ザギ!」

 

「面倒な時に、面倒なヤツが出てきやがった」

 

 

長閑な日和のハルルの街で、歪んだ哄笑が木霊する。

「静かな湖畔」の替え歌が脳裏に過るが、ヤツの強烈な存在感によって現実へと引戻される。

全身黒尽くめ、奇抜な髪、狂喜の瞳、言動が明後日、間違いない、ドM暗殺者ザギだ。

 

この予期せぬ襲撃者に、私達はおろかルブランたちまでも唖然としている。

辛うじて、冷静なリタが沈痛な面持ちで現実に立ち向かおうとしていた。

 

 

「あのキ○ガイ、あんたたちの知り合い?

フレン・シーフォって、あのアホ騎士のことでしょう。

なんでユーリをガン見して、嬉々とほざいてんの?」

 

「元々フレンを狙う暗殺者でしたが、城での一戦以来、ユーリをフレンと勘違いしているみたいなんです。

何故か桜にも目をつけていて……」

 

「何ごちゃごちゃ喋っている?!

こっちは久方ぶりに上がりたくて仕方ないんだ! さっさとあの夜の続きをやろう! さあ、早く!」

 

「あの夜の続きですと?!」

「さ、最近の少年少女は進んでいるのである」

「フレンが泣くのだ!」

 

「騎士たるもんが、揃いも揃ってやらしい目で私を見るな!

やましいことなんてねーよ! エステルの話聞けよ!

てか、フレンさんに言うのは止めて。

現状を曲解した貴方たちが、現在進行形で暴走し始めているフレンさんに斜め上な説明したりしたら、私、世間から消される……!」

 

「いや、消されるのはオレだと思う」

 

「監督不行き届きです?」

 

「そんなことどうでもいいじゃないか。

皆が暢気な事言ってる間に、だんだん増えてきたよ、黒尽くめ!」

 

 

ザギ襲来を筆頭に物陰からぞろぞろと黒装束が現れ、カロルがミジンコハートはち切れんばかりに悲鳴を上げた。

結界魔導器を直した時に潜んでいた連中なのだろうか。

皆が得物を構えている間にも、黒い影達は両手に刃を引っさげ、私達に襲い掛かる。

 

 

「ここ街中なのに、あいつら本気で戦うつもり?!」

 

「一般市民が巻き添えになってしまいます。わたしたちで食い止めなければ……っ!」

 

「しょうがないわね。あのキチガ○まとめて、一発でかいで吹き飛ばしてあげるわ!」

 

「ひははっ! 他の連中など知ったことか!

異界の女、まずはお前の唇でオレの心をいたぶり、拳でオレの身体をしごいてくれ!」

 

「真昼間から如何わしい要求するな!

私みたいな非力な女子高生が暗殺者の相手なんて無謀過ぎる!!」

 

「なせばなる!」

 

「なしてもできません!」

 

「できなくてもオレがする!」

 

「させるかよ! 押しが強すぎると女の子に嫌われるぞっ!」

 

「くくくっ、フレン・シーフォ、貴様が相手をしてくれるのか?!

誰からでも構いはしない! 互いに上り詰めようじゃないか!」

 

「んじゃあ、おっさん頼む」

 

「なぬ?!」

 

「あぐほお?!」

 

 

私の前に躍り出たユーリは迫るザギ目掛けて、ルブランをけしかけた。

正確には呆けたルブランを有無言わさず捕まえて、背中から蹴倒したんだろう。

中年騎士に押し倒されるドM暗殺者を尻目に、ユーリは私の腕を掴んで駆け出した。

 

 

「おい! 今のうちに逃げるぞ!」

 

「ちょっと待って、エステルがまだ!」

 

「エステリーゼ! 何グズグズしてんの?!」

 

「わたし、わたしは……」

 

 

騒乱に囲まれたエステルは、揺れる瞳でユーリを見つめていた。

このまま旅を続けたら、ユーリに迷惑が及ぶ。

自分が周りを振り回している、その気持ちはわからないでもないが、今引き下がる時だろうか。

 

 

「エステル! せっかくここまできたのに、諦めちゃうの?!

フレンさんに伝える事は、もうないの?」

 

「桜……でも、わたしはまだ……」

 

「ここで立ち止まったら、もう二度とお城から出られないかもしれないんだよ! それでもいいの?!」

 

「……私も行きます! 貴方とフレンの晴れ姿を拝むまで、城へは戻れません!!」

 

「そっちかよ!」

 

「そっちです!」

 

「どっちでもいい! 早くここからずらかるぞ!」

 

「待て、ユーリ・ローウェル! ドサクサに紛れて逃げるなど、卑怯であーる!」

 

「エステリーゼ様と桜殿を引き渡すのだ!」

 

「おいおい、オレの相手している場合じゃねーだろ。

騎士団心得のひと~つ! 『その剣で市民を護る』だったよな!」

 

「そのとお~り! アデコール、騎士団の意地を見せてやるのだ!」

 

「言われなくとも、みせてやるのである!」

 

 

ユーリの口車にのっかったボコとデコは、果敢にも黒装束たちに立ち向かっていった。

暗殺集団と小隊の戦いが切迫する中、私はユーリに手を引かれ、皆と共に死に物狂いでハルルの街を脱出。

カロルの道案内を頼りに街から西の方角、フレンのいるカプワ・ノールを目指してエフミドの丘へ向かったのであった。

カプワ・ノールにもフレンが居なかったら、今度こそスルーだと心中で誓いながら。

 

 

 

 

 

 

■続く■




いろいろとかっ飛ばしています。
いや、面倒な説明部分加えてるから、かなり抑えた方だと思う。
ともかく、話は二度目のハルルです。
ハルルの長がネタを小出しにするという手際の悪い行動を取ったことに関しては、目を瞑ってください。
あんなもん一度に出されたら、ネタにしにくいです。
特にフレンの酷さが際立っていますが、久しぶりに扱えるぜヒャッホーイとハイテンションになった結果なので目をt(略
……うん、まあ、実は10話と11話をまとめて1話だったんですけど、例によって80KB越えたので、2話に分裂させました。
愛って凄いですね。それではまた。


瑛慈 翔
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