明星の意思、常闇の暁光   作:瑛慈 翔

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【第12話】愛が陰って、暴走したら

私がフレン小隊に入隊してから、かなりの月日が過ぎた。

若き小隊長フレン・シーフォが率いる帝国騎士団小隊。

評議会や貴族たちは平民出身の彼を煩わしく思っているようだが、同じ貴族である私は尊敬の念さえ抱いていた。

 

 

彼は他の者とは比べ物に無いほど気丈で心優しく、剣の腕はもちろん魔術も嗜む文武両道の騎士だ。

誰にでも公平で、決して悪事を許さない、騎士の資質に溢れた人。

 

周囲の妨害をものともせずに数々の功績を挙げ、現在一小隊をまとめるまで昇り詰めた。

彼ほどの実力があれば、近い将来隊長、果ては騎士団長など夢ではないだろう。

 

フレン小隊長はこれ以上ないほど完璧な存在だ。

彼の部下であることを誇らしく思う。

劣悪な貴族に掌握された国を内側から正す為、ひたむきに努力し続ける彼をずっと支えていこうと心に誓った。

 

なのに。

なのに、あの日。

騎士団長直々の任務を終えてから、彼は徐々に変化し始めていた。

 

 

原因は聞かなくてもわかる。

シャイコス遺跡から救出した少女と関わったせいだ。

 

 

外見年齢は15,6。見たこともない服装していて、身寄りがなく、また身分も身元も知れない。

性格は陽気だが、どこか不思議な雰囲気を持ち、何か秘密を抱えているようだった。

 

 

小隊長はそんな彼女が気掛かりで仕方ないらしい

朝も夜も四六時中、時間が許せば、少女のことばかり想いを巡らせていた。

私はそれでも構わなかった。

これから始まる長い旅路に彼女を連れてはいけない。

会って間もない彼女相手に入れ込む小隊長の気持ちはわからないが、城の中に少女一人残していく心境は理解できなくも無い。

 

幸いなことに親衛隊が管理する手はずとなっているので、小隊長の心労も杞憂に終わりそうだけど。

どこにでもいるような少女の為に、騎士団がここまで動く必要があるのだろうか。

 

小隊長の想い、少女の存在、騎士団の動向。不明確な部分が多いが、私に詮索できる資格はない。

帝都を発てば、彼女から離れてしまえば、小隊長も任務に集中してくれるはず。

 

 

 

――だが、その考えは甘かった。

 

1日目。

ザーフィアスを発ってからというもの、何度も帝都の方を振り返る小隊長。

私が知る限り、5時間に計20回以上は振り向いてます。

本人は隠しているようですが、ため息も数回ありました。

その時の彼の切ない表情と言ったら、激しく萌え――周囲の勤務態度に関わりますので、控えていただきたいです。

 

 

2日目。

ハルル到着早々、小隊長に買い物の付き添いをお願いされた。

アイテムの在庫は十分足りているはず。

まさか隠密デート?! 他の騎士たち目もあるのにそんな!

……という期待を裏切り、例の少女宛ての手紙に使うレターセットを私に選んで欲しいとか。

小隊長本人が選べばいい話なのだが、プライベートで異性に形式的な手紙を送ったことがないので、女性の趣向というものがわからないらしい。

そんな小隊長も初心で可愛――自由行動はまだです。公私混同しないで下さい。

 

 

3日目。

ハルルの結界魔導器を直すために、アスピオへ向かうことになった。

その日の小隊長は一見問題がなさそうであったが。

宿屋のゴミ箱が紙くずで山盛りになっていたのと、出発前の自由時間にこっそりレターセットを大人買いしていたのを私は見逃しませんでした。

 

 

4日目。

アスピオのモルディオ宅にて、リタ・モルディオの奇襲を受ける。

何やら、例の少女絡みで小隊長に恨みがあるらしい。

その為か彼女の協力は得られなかったが、小隊長に牙を向くような魔導士を仲間に入れる方が危険だろう。

 

 

いや、本当の危機はハルルで待っていた。

こちらが魔導士を探している間に、エステリーゼ様御一行がハルルの結界魔導器を修復していたのだ。

評議会との争いの渦中にある存在が何故帝都を出て旅に?

 

問題はそれだけじゃない。

その御一行の中に、例の少女が同行していたのだ。

 

小隊長はその場で卒倒してしまった。

 

それだけなら、私が小隊長を手厚く介抱して事済んだのに。

騎士団の荒波で培ってきたタフネスは、彼を余計な方向に加熱させた。

 

こともあろうに単身で少女を迎えに行くと言い出したのだ。

私たちは重大な任務遂行中であり、少女を追いかけている暇はありません。

他の小隊に任せるべきだ。

そう進言しても、少しだけ時間をくれの一点張りの小隊長は止める騎士たちを払いのけ、結界の外に飛び出し、立ちふさがる魔物たちを片っ端から葬り去っていった。

流石小隊長、キレっぷりも半端ではないです。

ギガントモンスターも一撃粉砕ですね。

 

こうなっては私達凡人では手が付けられない。一か八か少女を案じるような説得を試みた。

無計画に追いかけたところで、この広い世界行き違いになるに違いない。

ここは冷静に対処すべきです、と。

 

根気よく説明するつもりだったが、以上ですんなり納得した。

エステリーゼ様御一行に関しては、ノール港で落ち合うように置手紙を用意することで話は済んだ。

 

少し首をかしげそうになるが、とりあえず任務に専念できればいい。

……と安堵した矢先、小隊長は私たちが少し目を離した隙に大量のアイテムを用意してきた。

"彼女にとって必要な物だから"と容易く言ってのけてましたが、どう頑張ってもこの大陸では収集できない物体が混ざっています。

まさかこの短時間で、ハルルの街から海を渡り他の大陸からかき集めてきたのではないでしょうね。

我が小隊長ながら、得体が知れません。

 

 

小隊長。

貴方は元から底知れない力の持ち主でしたが、少女が来てから、その力を暴走させているように見えます。

少女が悪いわけじゃない。

小隊長を想う私を気遣ってくれる、気のいい娘だと思う。

 

ただ彼女が関わると小隊長が冷静で居られなくなる。

なんとか穏便に彼を元に戻す方法はないのだろうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

愛が陰って、暴走したら

 

最終兵器で君を撃沈するよ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

今日も剣と魔法と残念なイケメンが生息する世界から、こんにちは。私です、女子高生です。

ここテルカ・リュミレースに来て数日間、私は元の世界に帰るため、いろんな所をめぐりに巡りました。

 

その立ち寄り件総数、デイドン砦にクオイの森を2回、ハルルが3回、アスピオに行った後再びシャイコス遺跡なんつう、絶叫上げたくなるような効率の悪さ。

 

アホだバカだと言わないで欲しい。

これはひとえに世界中を巡回してる帝国騎士フレンをストーキング……もとい、私が旅に出た事を伝える為であって、わんこラピードとアハハうふふムツ○ロウの旅を楽しんでいたわけではない。

 

とはいえ、旅路は決して平ではなかった。

いつの間にフラグがたってたのか、行く先々に魔物とエンカウントしたり、変態やストーカーと出くわしたり、エアルで昇天しそうになったり、ユーリの膝枕や夜のおかずにフェイスロック食らったり、心臓に悪いことばかり多発する。

……いや、後半はユーリのただの暴走だけれども。

苦難の連続だったが、途中で魔狩りの剣の自称エースカロル、天才魔導士リタが加わり、最初に比べてかなり心強い面子になったと思う。

 

何より、私がここまで頑張ってこれたのはユーリがいてくれたから。

 

彼はとても信頼できる存在だった。

少し乱暴で強引なところはあるが、優しくて強くて、いつだって傍で守ってくれる。

彼の親友であるフレンだって、きちんと説明すれば、私が帰る事だって賛成してくれるはず。

 

そう思っていた時代もありました。

いや、正直なところ、少しは怒るんじゃないかと覚悟していたけれども。

 

カプワ・ノールの宿屋で二人きりになってから、彼が私の想像を遥かナナメ逝く劇的な変化をみせた。

温かい眉目は氷のように冷たくなり、口元から笑みが消え、言葉に抑揚が無くなる。

フレン・シーフォは騎士団のおはようからオヤスミまで見つめる爽やかな騎士から、少女を扱下ろす背徳の騎士へと変貌を遂げた。

 

原因は言われなくともわかる。

私がついうっかりユーリの忠告もコロッと忘れて、前置き無しに帰宅宣言してしまったからだ。

 

 

 

小雨がしとしとと宿屋の窓を撫でる中、冬でもないのに鳥肌が立つほどの冷気が部屋中に充満する。

悪寒の発生源であるフレン・シーフォ氏は硬直する私の前で、異様な威圧感を放っていた。

 

 

「駄目だ。いけない。――帰るなんて、僕が許さないよ」

 

 

金髪碧眼イケメン騎士は、まるで感情全て抜け落ちたような顔で低く、だが強く言い放った。

うん、怖い。

怖いという言葉では足りなくらいの情動が胸に押し寄せてきて、即座に逃げてしまいたい気分だ。

しかし彼に背中を向けたら最後、光速で捕らえられ、永遠に閉じ込められてしまうだろう。

多分彼の自室のクローゼットあたりに。

 

 

「お、落ち着け私。刺激しないようにキレてる理由を聞きださないと。

……、……、……よし!ふ、フレンさーん?」

 

「なんだい、桜」

 

「こっちから呼びかけといてなんですが、精気の無い顔で無理矢理笑顔作らんでください。

激しく心臓に悪いです」

 

「僕がついているのに、怖がる必要なんてないだろう」

 

「そのお前が強烈に怖いんだよ、気付けええええ!

とか言ってる傍から、前進すんな、近づくな、直ちにお引取り願います!」

 

「桜……」

 

 

全力でたじ退く私を見たフレンは、悲しそうに顔を歪めた。

完全にキレているわけではないようだ。これなら、まだ意思疎通をはかれるかもしれない。

頑張ろう私。

 

 

「フレンさんがここまで怒る理由はなんですか。

帰っちゃだめって、遺跡の事情聴取がまだだっていうなら、前に話したので全部ですよ」

 

「違うよ」

 

「じゃあ、現場検証? アレクセイさんが私と直接話がしたいとか」

 

「そうじゃない。問題なのは、ここに至るまでの君の行動にある」

 

「私の? お城を抜け出したのは不可抗力ですから。

あのまま居続けたら、殺されていたかもしれない」

 

「わかっている。仕方ないと思うよ。

腑に落ちないのは、君が僕に何の相談もなく帰るなんて言い出す事だ」

 

「相談って……、私は異世界の人間です。

間違ってここに来ちゃったからには、元の世界に帰るのが筋じゃないですか」

 

「固定概念に捕らわれてはいけないよ」

 

「法と秩序を重んじる騎士が、物の道理を覆しちゃ不味いだろ」

 

「君を引き止めてはいけないという道理はない」

 

「真顔で凄い理論ブッ飛ばしてきましたよ。

私が居なくなると、フレンさんの任務に支障きたしたりするんですか?」

 

「僕の心と胃に支障きたしまくりだ」

 

 

無表情で言ってのけたフレンさんの胃酸は、只今絶賛フィーバー中らしい。

エリート騎士が小娘相手に胃腸大打撃なんて、この先騎士団やっていけるのだろうか。

一抹の不安が過るが、プッツンしている相手に気を回している余裕は無い。

 

 

「フレンさんにしてみれば、私が帰るなんて話は唐突だったかもしれません。

でも、いつかは絶対伝えなきゃいけない事だから……」

 

「永遠になくていいよ。君が居なくなるなんて不吉な知らせなんていらない」

 

「う゛。ゆ、ユーリに手伝ってもらう約束しちゃったし」

 

「彼には僕から言い聞かせておくよ。

ユーリなら、きっとわかってくれるさ。――刃物で語れば」

 

「心配しないで堪るかああ! 何そのオブラードで不気味に包装された殺人予告?!

なんだかんだいったところで、私がこの世界に延々居続けてもしょーがないでしょ!」

 

「しょーがないことは無いよ。少なくとも僕は嬉しいよ」

 

「平均的な女子高生に何求めてんだ貴様!

私がここに来たのは、自分の意志ではなく事故なんです!」

 

「本当に事故だと思っているのかい?」

 

 

フレンから淡々と問われて、ブチ切れ寸前の思考が一瞬停止した。

私がこの世界にきたは事故じゃないといいたいのだろうか

彼は真摯な眼差しで呆気にとられる私を見つめたまま、更に話を続けた。

 

 

「桜はテルカ・リュミレースに来たことを不慮の事故だと片付けたいみたいだが。

君の存在を知る者からは、真逆の意見が出ているんだよ」

 

「私がここへ来たことに意味がある……?」

 

「可能性は高い。評議会が動く前に、親衛隊とアスピオの研究員が連携して調査する予定だったんだが」

 

「キュモールはそれに興味を持って、私を襲ったとか」

 

「それはないな。

君が異界の人間であることは、騎士団でも一部の人間にしか伝えていないからね。

そうでなくとも、親衛隊とシュヴァーン隊に君を預けてきたんだから、情報規制はおろか、命の危険だってなかったはずなのに」

 

 

そのワリに、キュモールはきっちり私のこと知ってて監禁してきた。

シュヴァーン隊にしたって、ルブランやデコボコの勘違いと使えなさは異常だろう。

残りの親衛隊というのも、ファンクラブの代名詞みたいで、なんか怪しい。

 

 

「本当に信用できるんですか?

シュヴァーン隊の人には何度か会ったことあるけど、民間人に進路妨害されるわ、クオイの森で迷子になるわで、話通じないわで、少し頼りないというか……。なんなんです、あの隊って」

 

「シュヴァーン隊は、騎士団首席隊長シュヴァーン・オルトレインが指揮している。

彼は10年前の大戦を生き抜いた数少ない騎士の一人で、戦闘能力もさながら多くの騎士から羨望と尊敬を集めている素晴らしい人格の持ち主だ」

 

「へえ……、そういう人の部下なら、真面目な人が多そうだよね。

ルブランさんも脱獄犯捕まえるより、私の安全を優先するくらい堅実だったから。

後、親衛隊ってのは何です?」

 

「騎士団長アレクセイ・ディノイアが指揮している。皇帝の警護の為に組織された精鋭部隊だよ。

騎士団選りすぐりの騎士たちだから、君の元へ総動員させるわけにはいかなかったけど」

 

「皇帝の為の部隊って……!

んなもん動かした日には、評議会じゃなくても一発でバレる!」

 

「シャイコス遺跡の異変を調査した時点で、君の存在は認知されている。エアルや異界の人間であることを除いてね。

要は君に手出しができないよう抑止力になれば良かったんだが、まさか同じ騎士が君を襲うなんて……、迂闊だった」

 

 

あの短期間でフレンなりに手は尽くしていたようである。

しかし、実際危ない目に遭ったわけだし、帰るのはこの世界に来た時点で既に決定事項だ。

 

 

「深刻になってるところ申し訳ないですけど。

私の意志は変わりませんから」

 

「桜……!」

 

「仮に世界が今日明日崩壊するかも知んなくて、私に救う力があるってんなら解らないでもないですけど。

どこにでもいる一般女子が政治家と治安にかなり難があるファンタジー世界に滞在しても意味が無いでしょう」

 

「あれだけの異常現象を調べもせずに放置するなんて、軽率すぎる。

この世界じゃなく、君自身の命に関わるものだったらどうするんだ」

 

「私みたいな小娘一人の命が? わざわざ異世界にきてまで、大げさな……」

 

「シャイコス遺跡で君を見つけた時は虫の息だった。

世界の行き来はかなりのリスクを伴うものかもしれない。

そもそも、帰れる保証は? 見込みはあるのかい?」

 

「リタさんが協力してくれると約束してくれました」

 

「彼女は魔導器やエアル専門の魔導士だ。

異世界とは分野が違うし、だいたい前例がない。

結果がでるまで、十数年、いや数十年は覚悟した方がいいだろう」

 

「……」

 

 

フレンから真剣に次から次へと正論を返されて、何も言い返せなくなる。

帰るという欲求だけ先走って、マイナス要素を見落としていた。

いつ終わるか解らない旅を続けるのか、大人しく彼の元で調査に協力するべきか。

 

 

「そんなの今すぐ決められない」

 

「辛いだろうけど。エアルに弱く、知識も無い君にとって、この世界の旅はもっと辛くて厳しいよ」

 

「フレンさん。それでも、私は……」

 

「慣れない生活を強いられて戸惑ったり、悪意のある人間や魔物に襲われて怖くて、不安になるのはわかる。

けれど、君のやろうとしていることは途方もなく、そして命を脅かすほど危険なんだ」

 

 

フレンは私の心を察するように始終穏やかな口調で、懸命に諭した。

こんな色男に気に掛けてもらうなんて、女冥利に……いや、子供冥利だと思うが。

 

 

「やっぱり帰りたいものは帰りたいんです。

フレンさんの言ったこと全てが事実とは、まだ決まったわけじゃありませんから」

 

「――ダメだって言っているだろう」

 

「こ、怖い顔して睨んでもダメですよ。帰る方法、やるだけやらせて下さい。

ユーリだってついてるから平気、まだ死ぬと決まっていません」

 

「許可できない」

 

「ちょっとだけですから」

 

「却下だ」

 

「強行します」

 

「閉じ込めるよ」

 

「何処に?! アレも無理これもダメって、なんなんですか。私が納得できません。

どれを譲ればOKなの? どうしたら、フレンさんは納得してくれるんですか?」

 

「君が帰ること自体納得できないんだ」

 

「んなもん私が納得できるか。もっと具体的に説明して下さい」

 

「……」

 

 

終わらない押し問答にイライラしてきて逆に問い詰めると、フレンは目を逸らし、口を閉ざした。

ここまで私が強情とは思わなかったのだろう。

よし、この調子で押して押して押し捲って、強引に頷かせてやろうとしたら、先に彼が質問を返してきた。

 

 

「つかぬ事を訊ねるけど、君は本当に帰るつもりで旅にでたのか?」

 

「最初から何度もそう言ってるじゃないですか。なんですか、急に」

 

「再会する今日まで、引っかかっていることがあるんだ」

 

「今話したことが、私の真意ですよ。

ほかに何があるって言うんですか」

 

「何がと言われても……、君は本当に知らないのか?」

 

 

言い辛いことなのか、フレンはまるで気になる男の子にラブレター渡そうとしている思春期の女の子のようにモジモジし始めた。

剣呑な雰囲気は欠片もない。

初々しいその姿に拍子抜けしそうになったところ、彼はその凛々しい顔を真っ赤にして私が常々恐れていたことを口にした。

 

 

「桜、あの……これは噂で聞いたんだが」

 

「なんでしょう」

 

「君が僕の恋人だというのは事実なのか?」

 

「ちげええええええ!」

 

 

フレンが全力で投げ掛けた質問に対し、私は全身全霊をこめて否定した。

ええ否定しましたとも! その前に聞くもんじゃねーだろ!

――ああああああああ、やっぱり本人の耳に入ってた! いや、再会時にエステルが目の前で叫んでたけど!

恐るべき現実に身もだえする私、一方痛恨の一撃を食らった騎士は足腰砕いて撃沈した。

 

 

「そんな精一杯否定しなくたっていいじゃないか……っ」

 

「すみません。エステルのノリでつい。フレンさんこそ、そんなに落ち込まなくてもいいじゃないですか。

貴方ぐらいのイイ男なら、年中女性に困らないでしょうに」

 

「何を唐突に根拠の無いことを……」

 

「眉目秀麗、秀才で腕も立つ、質実剛健。

どうせ、毎日女性の方からわんさか集まってくるんでしょう」

 

「君がどれだけ僕のことを買っているか知れないが、皆親切にしてくれるだけだよ。

中には僕と目が合って挙動不審になったり、逃げだす子もいたけど」

 

 

何故だろう、と首をかしげるフレン青年。

リア充が、超人が、私とは到底理解し合えない生物が目の前に居る。

微かに殺意を覚える私に気付いていないのか、彼は少し照れながら更に問いかけてきた。

 

 

「桜は、僕が女性から好まれるようなタイプに見えるのかな?」

 

「高スペックハンサムさんじゃないですか」

 

「そうなんだ。君に認めてもらえるなんて嬉しいな」

 

「まあ、凄すぎて、私じゃ到底手が届かない存在ですけど」

 

「え?! そんな……っ、あまり自分を卑下してはいけないよ。全然遠くない」

 

「どこにでもいる女子高生と容姿端麗将来有望なエリート騎士ですよ。

どっからどうみても釣り合わないってのに、任務とはいえ親切にしてもらえただけでも恐れ多くてたまりません。

このままだと明日か明後日くらい、あんたのファンに後ろから刺されます」

 

「君に襲い掛かる不埒な輩は僕が成敗するよ」

 

「粛清すんなあああああ! 例によって目が全然笑ってねえところが正に殺る気全開だ!」

 

「本気だからね」

 

「止めて隠さない殺意。法的に成敗ですよね。

月の無い夜にサクッとか、物陰に連れ込んでグサッとか、無人の廃墟で追い掛け回してスパスパッとかじゃないですよね」

 

「言われてみると、殺すだけなんて生ぬるいかもね」

 

「そんな発言がホイホイでてくるところが問題だと思うんだ。

あ、でも、フレンさんの耳にまで噂が届いているなら、話が早くて済むかも」

 

「なんの事かな」

 

「恋人の噂ですよ」

 

 

きょとんとするフレンに、私は自分たちの噂について説明した。

彼が耳にした通り、知らぬうちに私たちの関係が改変されて、騎士団中に広まっていること。

エステルがやたら強調しているが、問題の出所が不明。

根拠のない噂なんて晴らしてしまいたいが、私一人では手が付けられなくて、誠実と名高いフレンの協力を考えていたのだ。

 

 

「騎士団の間では、フレンさんが夜這いしたんじゃないかって噂まであるんですよ」

 

「よ、夜這い?! 僕が君に……っ、しない! してないよ!

僕が、外道な……君を悲しませるような酷いこと!」

 

「ですよね。どう考えてもおかしいのに、ユーリや私が何度否定しても、まったく効果なくて。

でも、フレンさんみたいな影響力のある人だったら、皆聞く耳もつと思うんです」

 

「僕に誤解を解いてほしいのか」

 

「お願いできないでしょうか」

 

「……」

 

「あの、何考え込んでいるんです?

ひょっとして、噂をふれまわった犯人に心当たりがあるとか」

 

「無いな」

 

「そっか。フレンさんでもわからなんですね。

一体誰が何したくて、こんな嘘流したんだろ」

 

「それなんだけれど。このまま放っておいていいんじゃないかな」

 

「何をです?」

 

「君と僕が恋仲だという噂だよ」

 

 

フレンがのうのうと放った提案を聞いて、私は顎が外れそうになった。

 

 

「……冗談?」

 

「本気だ」

 

「多分それは血迷ったって言うんですよ。でなきゃ、頭が沸いたというんです」

 

「ユーリから、また悪い言葉を吹き込まれたんだね。

いけないよ、女の子がそんな辛辣な言葉を口にしては」

 

「地ですから、いちいちケチつけないで下さい」

 

「君に言われると、物凄く傷つくんだ」

 

「知るかよんなもん。

愛と正義と真実の帝国騎士が性質の悪い噂放置するなんて正気? どういうつもりです?」

 

「僕と繋がりがあると思わせておけば、君に危害を加えようとする輩は減るだろう」

 

「余計ハードだと思いますよ。デンジャラスです、バイオレンスです、寧ろカオスだ。

多分しなくてもエネミー量産しますよ、キュモールとかザギとかこの世に蔓延るフレンFANとか」

 

「もちろん、僕の力で牽制するつもりだ。

今回みたいに離れ離れになっていたならともかく、傍に居る以上は絶対に手出しさせない」

 

 

フレンは私から一切目を逸らさず、そう固く誓った。

ユーリが認めるほどの実力者で、帝国騎士団小隊長とくれば、そこそこの牽制力になるだろう。

本人も至って真剣なのだろうが、私はこのバクチのような作戦にイマイチ得心いかなかった。

 

 

「私の身を守ろうという心意気は大変助かりますが、恋人ってのはちょっといきなり過ぎませんか。

噂にはなっていますけど、実際は出会ってから数日しか経ってないし、一緒に過ごした時間なんてほんの少しじゃないですか」

 

「愛は時空を超えるって言うよ」

 

「私は時空到達以前にドン引きだ。既に当人である私の理解を得ていない」

 

「気後れしているのかな。

5歳程度の年の差なんて、周りから見ても特に問題ではないと思うよ」

 

 

ニコニコと受け答えするフレンお兄さん。貴様らの価値観など知ったことか。

私は偽装恋愛について訴えてるのであって、なんでここまで会話が通じないんだ。

いや、根本から理解してもらおうとするから無理かも。まずは断ろう、全力で断ろう。

 

 

「私、フレンさんの恋人のフリなんて高難易度な芸当できませんから」

 

「僕がリードするよ」

 

「何をする気だ貴様」

 

「まず手始めに、半径2メートル以内から離脱禁止をやってみようと思うんだ」

 

「凄い無茶振りがきましたよ」

 

「大丈夫。こんな事もあろうかと、いつも手錠付きロープを常備している」

 

「にこやかに如何わしいもん取り出すんじゃない! 私の中のフレンさん像がどんどん変態に……!」

 

「いかがわ……へんたい? ごめん、桜が何を言っているのかわからない。

これは悪いヤツを捕縛した際に使うものだよ」

 

「そ、そうなんだ。そうだよね、騎士は悪者ひっ捕らえてお城に連れてかなきゃいけないんだよね。

でも、そんなもん私達が付けた日には、別の方向に噂が立ちます」

 

「ん? そう? 心配しなくても、君のような女の子を悪人だと妄想する下賎な輩は、二度と君の視界に現れないと思うよ」

 

 

柔和な面で下賎なんつう暴言を吐いてきた。殺る気だ。こいつマジで殺る気なんだ。

平静を装っているようだが、微かに例の威圧臭がする。

だからといって、ここで弱気になって頷いたら、こいつのことだ、有言実行しかねない。

 

 

「よく考えてください。例の噂にはさっき話したような世間体に関わるような怪しいものもあるんです。

フレンさんの立場もありますし、せめて友達にしませんか?」

 

「友達?」

 

「噂の出所が知れないし、短期間でここまで広がるのは異常です。

下手に合わせるより、相手の出方を伺ったほうが良いですよ」

 

「そうかな。調子を合わせておけば、向こうから尻尾を出してくるんじゃないか?」

 

「ともかく、この作戦は無し、没、却下です。やるなら友情路線でいきましょう」

 

「……わかった。君がそういうなら」

 

 

私の申し出に対し、フレンは難しい顔をしながらも、あっさり頷いた。

これで例の噂もなくなるといいんだけれど。エステルもいることだし、しばらくは様子を見るしかない。

 

 

「協力を仰ぐだけのはずが、ここまで梃子摺るなんて」

 

「君を守るためなら、これぐらいしないと心置けないよ」

 

「アレクセイさんに頼んで、親衛隊のことをもっと広めてもらえばいいのに」

 

「もちろん、騎士団長に君の身に起きたことを含め、警備の見直し、改善策を進言するつもりだ」

 

「だったら、いちいち噂利用しなくてもいいじゃないですか」

 

「君と友達になったのは情報操作や護衛の為だけじゃないからね」

 

「どういうことですか?」

 

「僕はね。君の帰る場所になりたいんだ」

 

 

暖かな眼差しを送り続けるフレンから突然告白されて、私は言葉に詰まった。

 

 

「……脈略無さ過ぎて、意味がわかりません」

 

「君はここにいても意味が無い。居場所がないと言いたげだったから」

 

「それは……」

 

 

事実だ。

今の私は正に迷子になった子供のようなもの。

元の世界に帰りたいと言うのは当然、自分の居場所がそこにあるからであって。

 

 

「意味が違いません?」

 

「何処が違うんだい?」

 

「素で聞き返しやがりましたよ、この成人。

居場所というのは、自分の家や生活や親や友達が居るようなところであって、そうホイホイと移動できるもんじゃないでしょう」

 

「居場所は作り出すものだよ」

 

「漫画とかドラマとかで、そんな理屈を聞いたことはありますけれども……」

 

「君の帰る場所は僕が作る。家族が恋しいのなら、僕が傍に居る。だから、ね」

 

「待って、待って下さい。いきなり過ぎて話がついていけません」

 

「君の帰る気が失せるまで、僕は出来うる限りのことはするつもりだ」

 

 

物柔らかに何を言い出すのかと思えば、なるほど、そういうことか。

頭からダメだと言っても聞かないのなら、妥協案出してきやがりました。

実直な性格が祟ってか、頭カチンコチンなのか、しつこい、本当にしつこい。

 

 

「フレンさんの執ね……もとい、気持ちはわかりました。

ひとまず、さしあたって、今のところ、当面は! フレンさんを私の帰宅先候補に入れておきましょう」

 

「果てしなく落選させる気満々のようだけど、君に選択肢はないからね。

我侭言わずに、僕の元へ帰ってくるんだ」

 

「"お帰り"は"行ってきます"の為にあるんですよ。

私たちはカプワ・トリムにいる魔核泥棒を捕まえに行かなくちゃいけないから、フレンさんとはここでお別れです。さようなら」

 

「それは"行ってきます"ではなくて、別れのあいさつだよね。

聞きたくないよ、君の口からそんなエグイ言葉。

君は僕たちと共に、しばらくカプワ・ノールに滞在してもらう」

 

「往生際が悪いですよ」

 

「それは僕のセリフだ」

 

「……どさくさに紛れて逃げようと思ったのに」

 

「桜」

 

「ううっ。フレンさん、何言っても、首を縦に振ってくれないじゃないですか」

 

「当たり前だ。それにしても、人が真面目に話をしているのに騙そうだなんて。

やはり君から目を放すべきではなかった」

 

「やっぱり会いに来るんじゃなかった」

 

「君が来なくても、僕が会いに行く。

どこに行っても、隠れても、閉じこもっても、必ずね」

 

「そーいや、この人、私を連れ戻す為に止める部下たち振り払って、魔物数匹を軽く滅ぼしちゃうくらいアグレッシブなんだよね」

 

「逃げても無駄だよ」

 

「帰らせてもらいます」

 

「いくら君のお願いでもダメだ」

 

「お願いじゃありません。これは決意表明です」

 

「君の意思はできるだけ尊重するつもりだが、これだけは譲れない」

 

 

フレンは厳しい調子で私の言い分を退け続ける。

一時世話になったとはいえ、なんでここまで却下されなきゃいかんのだ。

 

 

「フレンさんの意地悪」

 

「……意地悪じゃない」

 

「わからずや」

 

「君を危険に曝したくないんだ」

 

「いけず、頑固者、へそまがり」

 

「桜、なんだか物言いが稚拙に……」

 

「バカ、かたぶつ、すっとこどっこい」

 

「フフッ、こんな可愛いやつあたりで気が済むなら、いくらでも罵るといいよ。

僕の考えはかわらないからね」

 

 

指摘されなくとも陳腐な罵倒であることは自覚しているが、嬉しそうに煽れると余計癪に障りまくる。

どうすれば、何て言えば、ヤツに決定的なダメージを与えることができる――?!

 

 

「――フレンさん、なんて……」

 

「僕が、なんだい?」

 

「嫌い、フレンさんなんて大嫌い!」

 

「……っ」

 

 

終いにはやけになって子供みたく癇癪起こしたところ、苦笑いしていたフレンが固まった。

ひどく衝撃を受けたようで、彼は胸を押さえて、フラフラと床に四つん這いになり、ぐったりと落胆。

その姿は正にネットでよく見かけるアスキーアートそっくりだった。

 

 

「て、関心している場合じゃない。

フレンさんが静かになったのはいいけど、再び会話不可能な状態に……!

フレンさん、フレンさん!」

 

「……嫌い、ついに嫌いと言われてしまった。

僕はただ傷つく君をみたくないだけなのに、あんまりだ……」

 

「何かうわ言言ってる。この後エステルの用事が待っているのに、あー、どうしよう……」

 

 

行動不能になったフレンを目の前にして、一人右往左往するが、事態が変わるわけでもない。

 

 

「こうなったら、幼馴染ユーリの出番なのかな。

呼びに行きたくても、フレンさんから目を放すのは怖いし、エステルあたりが首突っ込んでこられたらなあ……」

 

「――こんなこともあろうかと。勝手に乗り込んでて良かったなっと」

 

 

突如後ろから飄々とした声がしたので振り向くと、そこには見慣れた長髪の青年が一人、気だるそうに立っていた。

 

 

「ユーリ、いつの間に?!」

 

「ついさっき」

 

「嘘……、全然気づかなかった。

私はともかく、帝国騎士小隊長フレンさんの目を掻い潜って部屋に忍び込むなんて。

ユーリ、衝撃波打つだけじゃなくて、ステルス機能とかあったりする?」

 

「なんだそれ。全身全霊傾けてヘコんでるフレンに注意力なんてあるわきゃないだろ」

 

「大丈夫なのか、帝国騎士団」

 

「それこそオレの知ったこっちゃない。

つーか、お前、とうとう最終兵器発動したんだな」

 

「最終兵器?」

 

「"フレンさんなんて大嫌い!"ってやつ」

 

 

いぶしがってオウム返しすると、彼は呑気に私を真似て答えた。

決して似ているわけではない。

ただ、漆黒のストレートにしなやかな肢体、すこぶる美人なだけに、ほんの少しのしとやかな振る舞いをするだけでも魅力が際立ってしまう。うん、物凄く女性的な。

 

 

「ユーリって、男なんだよね」

 

「今更再確認することなのか。てか、物凄く残念そうな目でオレを見るな」

 

「ユーリ見る時ってさ。

最初に美顔見て、次にあられもない魅惑の胸板を直視しないと、野郎だと判断出来ないよね」

 

「なんならこのオレ直々野郎であることをお前の頭に叩き込んでやろうか。本格的に身体使ってよ」

 

「遠慮しときます」

 

 

ジト目で胸元を突き出すユーリから、身の危険を察して、私は慌てて自分の身体を庇った。

こいつはやると言ったら、私の想像を絶するほど飛んだ行動をする男だ。

身構える私を見たユーリは肩を落として、一つ安堵をついた。

 

 

「その様子だと、大したことはされなかったようだな。

お前の大声が聞こえた時には、あいつがまさかって、慌てて駆けつけたんだぜ」

 

「あいつ? どういう意味よ」

 

「フレンが21年目初、理性失くして、お前を押し倒したんじゃねーかと」

 

「今日日の帝国騎士はどんだけ欲求不満なんだ」

 

「大方、フレンの場合はお前と再会できて感激する暇も無く、帰宅宣言くらってパニクったってところだろ。

んでもって、必死で反対しまくったら、お前の最終兵器が火を噴いた」

 

「あ、ユーリ、鋭い」

 

「一杯一杯だな。やっぱり二人きりにさせんじゃなかった」

 

「よくわからないんだけど。ユーリ、フレンさんとの話し合いは賛成だったでしょ」

 

「こいつ、しばらくお前に会えないせいか、妙に殺気立ってたからな。

エステルや下町の魔核の話なんざ、まともに出来る状態じゃねーみたいだったから、ひとまず気が済むようにお前とタイマンはらせたんだよ」

 

「要するに私は生贄か! ユーリが居なくて、どんだけ恐怖したと思ってるの?!」

 

「オレが恋しかったんだな。しょーがないヤツめ」

 

「緩和剤が欲しかった」

 

「全力のフレンにビビったかもしれねえが、あいつに限って、お前に危害加えるなんて事ぁない。

オレだって壁挟んで見守ってたんだし、実際駆けつけてやっただろ。んな拗ねるなよ」

 

「そんなの見守るなんて言わない」

 

「こりゃ手厳しいな。じゃあ、朝から晩まで、メシもフロも寝る時も傍にいた方がいいのか。

オレは一向に構わねぇけど」

 

「ユーリってホンッットにデリカシーないよね」

 

「冗談真に受けるな。

で、フレンのヤツはなんて反対したんだよ。

頭ごなしに言いくるめるようなヤツじゃないし、何か手を打ってきたんじゃないか」

 

「えっと――」

 

 

ユーリが呆れた様子で尋ねられて、素直にありのままを説明しようとしたが止めた。

内容が内容だし、私の立場を知らないカロルやフレンを快く思わないリタに聞かれたりしたら、いろいろと面倒になる。

 

 

「そういえば、他の皆、リタさんは?

ユーリが部屋に突入したんだから、リタさんも続いて出てきてフレンさんブッ飛ばすと思ったのに」

 

「あー、それな。忘れるところだった。オレ、追われてんだよ」

 

「は?」

 

「猫目の姉ちゃんに。

リタに因縁あるのか、表でドンパチやってっけど、もうそろそろ切り抜けてくるんじゃねえのかな」

 

 

ユーリは思い出したようにポンと手を叩くと、徐に私を抱いて横に避けた。

何事なのか、彼に問いかけるより先に、一人の女騎士が部屋へ飛び込む。

年は私より2,3上、なかなかの美女で、猫のように釣りあがった瞳は怒気に溢れかえっている。

 

 

「ユーリ・ローウェル! 大人しく縛につけ!!」

 

「ソディアさん!」

 

 

斬りかかる勢いで剣の切っ先をユーリに突きつけたのは、フレンの部下にして女騎士ソディアだ。

彼女はその鋭い眼光で私の肩を抱くユーリを視認すると、更に目尻を引きつらせた。

 

 

「おのれ! 少女を人質にとるとは卑怯だぞ!」

 

「ちげーよ。オレはコイツの保護者だ」

 

「世迷言を……!

賞金首と少女のツーショットなど小隊長に見つかりでもしたら、今度こそ手に負えなくなるというのに」

 

「この姉ちゃん一人勝手に怯えてっけど。大丈夫なのか」

 

「私もよくわからんけど、誤解は解かなきゃいけないでしょ」

 

 

震えるソディアの内心は知れないが、帝国騎士が賞金首であるユーリを追う理屈はわかる。

ただし、彼が賞金首にかけられたのは下町の魔核奪還や私の救出のため。情状酌量の余地はあるのではないか。

 

 

「ソディアさん。ユーリがやったことは法律違反かもしれませんけど、ちゃんと理由があるんです。

捕まえるのは、話を聞いてからでもいいんじゃないですか」

 

「いくら貴方が庇い立てしても、そこの男が賞金首であることは事実です。

優しさと甘さは別。犯罪者に情をかける必要はありません」

 

「情じゃなくて、本当にユーリは悪くないんだってば!

剣なんか抜かないで、穏便に話し合いましょうよ」

 

「そこの男と交わす言葉はありません」

 

「フレンさんに負けず劣らず頭固い」

 

「類は友を呼ぶってヤツだな」

 

「ユーリ・ローウェル。必ず貴様をひっ捕らえて、フレン小隊長の前に突き出してやる」

 

「フレンなら、そこでブッ潰れてるぜ」

 

「バカな。我らが誇る小隊長がそう易々と潰れるはずがなぃ―――フレン小隊長おおおおおお?!」

 

 

ユーリの指摘を鼻であしらおうとしたソディアだったが、実物を見て発狂した。

誇れると胸張っておきながら、今の今まで視界に入らなかったのだろうか。

憧れの小隊長の無残な姿を見せ付けられた彼女は、血走った目でユーリを睨んだ。

 

 

「貴様か! 貴様の仕業だな、ユーリ・ローウェル!!」

 

「オレじゃねーんだけど」

 

「嘘をつけ! こんな血も涙も無い所業を誰がしてのけるというのだ?!」

 

「私がしてのけました」

 

「よりにもよって貴方かああああ?! いつから犯罪者の味方になったのです?

もしや、その男から溢れる卑猥な色香に騙されたのでは……?!」

 

「卑猥だって、ユーリ。その胸元やっぱり犯罪なんだよ。猥褻物陳列罪」

 

「ふざけんな。この格好のせいで捕まったことたぁ、一度もねえよ」

 

 

はんと鼻で笑うユーリであったが、目前の騎士はちゃっかり"そのエロい胸元で私を誘惑した"というアホな妄想をユーリ余罪リストに追加した模様だ。

現に今の会話は華麗にスルーして、必死に私へ訴えかけてきた。

 

 

「正気に戻って下さい。

確かにルックスは良い方かもしれませんが、女と遊んでいそうな下品でヒモでジゴロで泥沼な香りがします。

そんな色情犯罪者よりも、爽やか系健全美青年フレン小隊長の方が何億光年もマシ!」

 

「酷ぇ言われようだな」

 

「下品かどうかは置いといて。ユーリってクール系だけど、見方によっては妖艶系だもんね」

 

「そうやってお前に自分の容姿を観察されると照れちまうな」

 

「だったら、その胸自重しろ。それにしても、ソディアさんが私にフレンさん推して来るなんて意外。

帝都にいた時は世間の目があるからって、牽制してきたのに」

 

「こうなっては、手段を選んではいられませんから。

相手がお尋ね者では、小隊長が諦めるわけがない……」

 

「ソディアさん?」

 

「いずれにしても、貴方に賞金首は不釣合いです」

 

「よくわかんねーですよ。不釣合いって何? ユーリは最初から味方です」

 

「最初から……? 貴方は私達を謀っていたというのか。

小隊長の純粋な心を弄ぶとは、なんて恐ろしい子……っ!」

 

「昼ドラの姑かアンタは」

 

「キレたり、ビビッたり、人の話聞かなかったり、忙しいヤツだな。

桜。フレンをなんとかしろ。じゃねえと、話は進まねえ」

 

「何とかしろって言われても。前みたいにユーリがなんとかするんじゃないの?」

 

「お前でもなんとかなる。オレの言うとおりにすりゃあな」

 

「あ、怪しいな……」

 

「平気平気。ちょっと耳貸せ」

 

 

ユーリに指で誘われるがまま耳を貸すと、彼は極手短に手段を伝えてきた。

 

 

「……それだけでいいの?」

 

「そんだけ」

 

「貴様、何をこそこそしている? いい加減、少女を解放しろ」

 

「ソディアさん、すみません。フレンさん起こしてみるんで、ちょっと待っていて下さい」

 

「桜、待ってろとは……」

 

 

戸惑うソディアを他所に、私は項垂れるフレンの傍まで来てその肩を揺すった。

 

 

「フレンさん、フレンさん、いい加減立ち直って下さい」

 

「……」

 

「やっぱダメか。……ええっと。

ひどいこといって、ごめんなさい。

でも、わたし、フレンさんがどれだけしんけんか たしかめたかったんです」

 

「すげー棒読みだな」

 

「そんなもの、小隊長に通じるわけが――」

 

「桜。顔を上げて、君が謝る必要なんてないよ。

わざわざ君にそんなことをさせる僕がいけないんだ」

 

「通じたぞ」

 

「小隊長おおおおお?!」

 

 

ソディアが全力でつっこむのも無理は無い。

私でさえ予想だにしない復活速度に思わずビビって逃げようとしたが、フレンはその手を光速で掴んで引き寄せ、慰めるように柔らかく微笑んだ。

唖然とする私を傍らに置いた彼は、先程の落ち込みっぷりを微塵も感じさせない精悍な井出達でソディアへ目を配る。

 

 

「ソディア。彼を捕らえるのは待ってくれ。私の友人なんだ」

 

「賞金首ですよ?!」

 

「桜から話は全て聞かせてもらった。

確かに軽い罪は犯したが、手配書が出されたのは濡れ衣だ。

後日、帝都に連れ帰り、私が申し開きする」

 

「そ……そうでしたか。失礼しました」

 

「流石フレン。話が早くて助かるぜ」

 

「話は終わってないよ、ユーリ。

どんな事情であれ、公務の妨害、脱獄、不法侵入を帝国の法は許していない。

相応の処罰を受けてもらうが、いいね」

 

「フレンさん?!」

 

「あー、いいんだよ、桜」

 

 

頑なに役目を貫くフレンに驚き、慌てて非難を浴びせようとしたところ、ユーリにやんわりと止められてしまった。

しかし、本人は許しても、私の腹の虫は納まりはしない。

 

 

「いいことない。

不法侵入だって下町の魔核を取り戻す為だし、ユーリが脱獄して助けに来てくれなかったら、私死んでたかもしれないのよ?」

 

「お前の気持ちはわからんでもないが、やったのは事実だ」

 

「フレンさん……」

 

「すまない。君の件については、僕が不甲斐ないせいだ。

だけど、ユーリが犯した罪を見逃すわけにはいかない」

 

「不条理だよ。じゃあ、あの時どうすればよかったの?」

 

「桜、本当にごめん」

 

「あまりフレンを責めてやるな。筋が通らなくて不満なのは、こいつも同じだろうよ。

だけど、相手は帝国、小隊長一人でどうにかなる問題じゃない」

 

 

再度ユーリから辛抱強く諌められて、私は言葉を飲み込んだ。

そうだった。ユーリを指名手配したのは帝国だ。

 

 

「……当り散らしてごめんなさい。フレンさんだって、友達と帝国で板ばさみなのに」

 

「気にしなくていいよ。ユーリの悪事はいつものことだからね」

 

「悪事って、お前なあ……」

 

「君はいつもそうじゃないか。

今回は少々度が過ぎたけど、毎回大なり小なり公務の妨害はしてるだろう」

 

「毎回って、ひょっとしてユーリ、今執行猶予中? ホントに大丈夫?」

 

「ああ、ごめん、桜。不安にさせたかな。

僕が責任をもって彼を弁護するから、君は何も心配しなくてもいい」

 

「そういうこった。だから、この世の終わりみたいな顔するなよ」

 

 

ユーリは苦笑いして、私の頭を乱暴に撫でた。

自分も無関係ではないのに、平気な顔をしていられるわけはない。

フレンのお墨付きを貰った安心感か、大人しくユーリの大きく温かい手のひらの感触を受け入れていると、不意にその手が止まった。

 

 

「フレン、話しついたところ悪ぃけど。捕まえるのは、ちょっと待ってくんない」

 

「下町の魔核を取り返すのが先決、か」

 

「まあな。それとコイツなんだけど……」

 

「それはダメだ」

 

 

ユーリが弄んでいた私の頭をポンポンと叩いて申し出たものの、当然の如くフレンに却下された。

 

 

「下町の魔核を取り返すまでに関しては何も咎めない。

だが、桜を連れて行くのは別だ」

 

「お前が面倒見れる立場なのか」

 

「巡礼に同行してもらう。僕が傍に居る以上、キュモールも手出しできないだろう」

 

「で、城に戻った後は?

例えば評議会あたりに桜を差し出せと言われたら、帝国騎士であるお前はその命令を突っぱねられるのか」

 

「騎士団長に陳情する」

 

「上に泣きついて、必ず通る保証は? 桜を守りきれるのか。

いざとなったら、なんもかんも捨てて、こいつと一緒に帝都飛び出す覚悟はあるのか」

 

「……」

 

「貴方はそれでも小隊長の友人ですか?! 彼の気も知らずに――」

 

「ソディア、待て。彼の言うことは正しい」

 

 

問い詰められるフレンに堪りかねてソディアが言葉を荒げたが、即当人に止められた。

 

 

「後日騎士団長と打ち合わせをするが。

彼の言うような状況に追い込まれたら、……私は……僕は何をしでかすかわからない」

 

「フレン小隊長。どうか冷静にお考え下さい。ハルルの二の舞はいけません」

 

「ソディアさん。そのハルルの二の舞とは言われると、猛烈にただならぬ予感しかしないんですけど」

 

「押して察して下さい」

 

「何故そこで目を逸らす。

正直言って、私がいない方がフレンさんのためじゃないですか」

 

「君は言うに事欠いて、なんて酷いことを言いだすんだ」

 

「私の今の発言のどこに酷い部分があったんだ、フレンさん」

 

「まあ、フレンが桜の旅の理由を知ったのは今さっきだ。

帝国も絡んでるだろうし、具体的にどうするかってのはすぐに決められねえだろ」

 

「悪いね、ユーリ」

 

「いいって。どうせ、オレら、しばらくはここで立ち往生だから」

 

「あれ? カプワ・トリムは?」

 

「沖の方が荒れてて、船が出せねえんだとよ。

フレンはその間にこいつをどう説得するか考えときゃいい」

 

「ユーリまで何言い出すの? なんて言われようが帰るもんは帰るよ」

 

「お前が断言したところで、こいつ納得しなかっただろ。

お互い気持ちにケリつけるために、考える時間やった方がいい」

 

 

んなもんくれた所で、私の意思は変わらないし、フレンが折れるとは到底思えない。

かといって、これ以上言い争っても不毛な押し問答のループなので、とえりあえず私の話はここで終了することにした。

 

 

私の次はエステルの番。

彼女を呼びに部屋を出たところ、宿屋のフロントから誰かの叱責が聞こえてきた。

 

 

「――貴方、帝国で義務付けられている協力要請を断ったそうじゃないですか!」

 

 

幸いその声は、私たちに投げ掛けられたものではないようだ。

一先ず安心して声の主へ視線をやると、そこにはメガネの少年が魔法少女リタに向かって、果敢にも叱り飛ばしているところだった。

 

 

「リタ! 魔導士としての責務を忘れ好き放題していた貴方が、ここで何をしているんです?!」

 

「あんたが知る必要なんてないでしょ」

 

「必要あります」

 

 

リタはうんざりしながら答えたが、メガネ少年はしつこくつっかかった。

この少年、会った事はないが、ぶかぶかの白いロープを身にまとい、背に杖をさしていることから、リタと同じ魔導士と考えていいだろう。

彼は横槍を許さない勢いで、どんどんリタを責め立てる。

 

 

「認めたくありませんが、貴方も僕と同じアスピオの魔導士ですからね。知る権利があります」

 

「アスピオの魔導士?

ここにアホ騎士がいるってことは、――ああ、あんた、あたしの代わりにスカウトされたんだ」

 

「代わり?! 失礼な! 僕はフレン様に認められて小隊と同行しているんです。

自分勝手な貴方とは違うんですよ」

 

「あーあー、もーうっさいわね。あたしが気に入らないなら、放っておいてちょうだい。

同じ魔導士だからって、しつこく―――、ところであんた誰だっけ?」

 

「ウィチルです! さっきから名乗ってるでしょう!」

 

「バカね。アスピオの人間かどうかなんて、あたしを見た時のリアクションでしか分別してんだから、いちいち顔と名前なんて覚えてるわけないでしょ」

 

「アホなこと自慢しないで下さい!」

 

 

ギャラリーに見守れる中、めげずに説教かますウィチルと、それを適当にあしらうリタ。

とても割り込める雰囲気ではない。寧ろ、近づきたくない。

だからといって、見捨てるわけにも行かず、事情を聞ける人を探してみると、隅の方でのどかに茶をしばくエステルを発見した。

明らかに巻き添え回避している。

注目すべきは、彼女の傍らでお座りしているラピード――の足元で、ススだらけの姿で気絶しているカロルだった。

 

 

「カロルの人権が文字通り墨屑に!!」

 

「あ、桜、ユーリも。フレンとの話は済んだのです?」

 

「済んだです? じゃない! 新たな問題が発生してるよ、あんたの足元で!!

幼いリーゼントに何してんの?!」

 

「……その様子では、フレンとあまり進展はなかったようですね。残念です」

 

「私の疑問は華麗にスルーですか。そうですか」

 

「黒焦げってことは。聞くまでも無く、リタの仕業だろうが」

 

「わあ、ユーリ、よくわかりましたね。

リタとソディアが喧嘩し始めてから間もなく、壁役のカロルに何故かファイアボール直撃したんです」

 

「故意だな」

 

「態とだね」

 

「その後でしょうか。

ユーリがいないのことに気付いたソディアが、フレンと桜のいる部屋に飛び込んでしまって。

後はご覧の通りの有様です」

 

 

仲間のトラブルを前にしても、エステルは人事のように説明した。

ここは旅人の憩いの場だ。営業妨害だ。カロルを使って威嚇している時点で悪質だ。

 

 

「エステルも見てるだけじゃなくて、せめてカロルに治癒術かけてやりなよ」

 

「一応これでも魔狩りの剣のエース、甘やかしてはいけないと思います」

 

「戦闘不能に陥っている時点で、甘やかすの次元突き抜けてると思うよ」

 

 

面倒臭いだけじゃないのか。

いけしゃあしゃあと言ってのけるエステル相手に、私はげんなりし、ユーリは小さく溜息をついた。

 

 

「この期に及んでも容赦ねーのな。

エステルが治したくねーなら、フレンから貰ったアイテムでなんとかするか」

 

「ダメです。それは桜専用ですよ。いわば、フレンの愛の結晶。

彼のアイテムが使われるくらいなら……致し方ありません。カロルの怪我はわたしが治しておきます」

 

「なんという動機」

 

「事態が解決するなら、なんでもいいよ。

カロル治したら、さっさと自分の用事も済ませてこい。フレンが部屋で待ってる」

 

「はい。そうさせて頂きます。

お二人とも、これからの予定はあるのです? リタたちのお話に付き合うのですか?」

 

「いや、関わりたくないんだけど」

 

「言ってる事のほとんどが内輪話で、聞いててもつまんねーしな。

オレら、こいつらが大人しくなるまで、ちょっと外をぶらついてくるよ」

 

「で、デートです?!」

 

「デートなの?」

 

「デートかな」

 

 

一遍の迷いもなくユーリにニッコリ答えられ、思わずドキリとしてしまう。

デートとはあれか、男と女が二人きりでイチャイチャする、アレなのか?!

ドギマギする私とは裏腹に、エステルは驚きつつも空かさず非難の声を上げた。

 

 

「フレンがすぐ傍にいるのに、なんて大胆な! 親友の彼女を拐かそうなどとは不潔です!」

 

「フレンさんの彼女になった覚えはないと何度言ったらわかんだよ!

言っとくけど、照れじゃないよ、寧ろ恐れだよ!」

 

「ツンデレですね」

 

「ちげえええええ! どこが? どこがツンで、どこにデレ?!」

 

「お前ら、ほんの気晴らしだから、そこまで警戒しなくていいだろ。

遠出するつもりはねーし、んなことした日にゃ、エステルでなくても、フレンが飛んでくる」

 

「フレンなら、その首狩り落としに飛んでくるかもしれませんね」

 

「恐ろしい事を真顔で頷きながら言わないで」

 

「たかが数十分のデートくらいで揺らぐような魅力なのか、フレンは。

この程度で目くじら立てるような器の小さい男は、桜でなくとも女に嫌われちまうぞ」

 

「……わかりました。桜の気持ちを確かめる機会も必要です」

 

「何を確かめろというんだ」

 

「いいじゃねーか。折角OKくれたんだから、下手に詮索しないでさっさと出ちまおうぜ」

 

 

割とすんなり了承したエステルが激しく怪しいものの、ユーリに促されて宿屋を後にした。

外は相変わらずの雨模様であったが、幸い小ぶりで、散歩程度なら気にはならない。

ただ例の悪代官の影響で、出歩く人はほとんどおらず、街は閑散としていた。

 

 

「天気が良ければ、キレイな町なのにね」

 

「デートするにゃ、ちょっと場違いだったかな」

 

「で、デートって……! 冗談でしょう」

 

「オレとじゃイヤか?」

 

「い、イヤじゃないけど、そうじゃなくて!」

 

「なら、いいじゃねーかよ。

まずは街中ぐるっと回って、次に港の方行ってみるか」

 

「誤魔化さないで。

私に用があったから、外へ連れ出したんじゃないの? よもやフレンさんに黙って出発するとか?」

 

「折角二人きりを楽しもうってのに、雰囲気ブチ壊すようなこと言うなよ」

 

「ふた……っ! どこかで誰かが見てるかもしれないでしょう!」

 

「見られて困ることはしちゃいねえ」

 

「賞金首のあんたが言うか。

道具屋以外まともに稼動していないゴーストタウン且つ、いつ役人が難癖つけてくるかわからん状況で楽しめるわけねえーでしょ」

 

「ん。お前の言うとおり、お高い連中に水差されるのは胸糞悪ぃよな。

例の話、今のうちに聞いとくか」

 

「フレンさんとの話ね」

 

「そ。それ全部だ」

 

 

軽い調子だったユーリは、少し真顔に戻って本題を突いてきた。

人気もなく、リタやカロルが居ないこの場なら、話の内容を全て伝えることが出来る。

早速私はユーリにしか聞こえない程度の声で、一番危惧している異世界への移動に伴うリスクを説明したのだが、彼は頷くどころか、怪訝そうに眉を潜めた。

 

 

「命に関わる、時間がかかる、ね。

論外だな。そのためのリタ・モルディオだろ」

 

「だよね。あの子も協力してくれるって約束してくれたのに」

 

「旅先の危険に関しちゃ、オレがついてる。

得体の知れない連中がのさばってて、袋小路が明白な城ん中の方が、よっぽどおっかないと思うがね」

 

「皆がいるから安全だって話しても、フレンさん、ひとつも聞きいてくれないんだよ」

 

「そんだけあいつも必死だってわけだ。

この後お前をなんて説得してくるか、……まあ、期待できねぇが、こればっかりは相手の出方を待つしかないな。

んで、他に話してきた?」

 

「私が帝都にいる間、誰に預けるつもりだったか。

後は恋人の噂くらいかな」

 

「例の噂をよりにもよって、お前がフレンへ直に伝えたのか……」

 

「ううん。とっくにフレンさんの耳に入っていたみたい」

 

「へえ、通りでフレンのヤツ、あんなに暴走していたのわけだ」

 

 

フレンの言動を鑑みて何かを悟ったのか、ユーリは何度も頷き、少しほくそ笑んだ。

 

 

「あのカタブツがどんな反応したか、非常に興味あるけど。

先にどこのどいつがお前の世話役仰せつかったか、聞いとくべきかな」

 

「シュヴァーン隊と親衛隊だって」

 

「……ちょっと待て。シュヴァーン隊と、後なんつった?」

 

「親衛隊」

 

「聞き間違いじゃないよな。マジでフレンがそう言ったのか。

……て、聞く方が野暮か。あいつ、嘘つかねえし」

 

「ユーリからみても、この配役はおかしいのね。

じゃあ、私がここにきた意味というのも、あの人たちの思い込みなのかな」

 

「なんだって?」

 

「私が異世界からきたことを知る人たちが。

アスピオの研究員と調査するから、評議会に邪魔されないよう抑止力に親衛隊とシュヴァーン隊をつけたんだとか話してたけど……」

 

「……」

 

 

ユーリは私の答えを聞いて、ただ無言で俯いた。

こちらからでは、彼の表情は読み取れない。

ただじっと何かに耐えているようにも見えて、隣にいる私はどうしていいのか分からず、一人居た堪れない気分になった。

 

 

「あ、でも、意味があるかどうかは憶測の域出てないし。

親衛隊はともかく、シュヴァーン隊だよ。あのデコボコと勘違いのヒゲがいたとこ。信憑性低いよ」

 

「――ああ、そうだな」

 

「ユーリ?」

 

「少し考え事してただけだ。気にすんな。

ところで話はガラっと変わるが、お前、あいつにあのことは喋ってねえよな」

 

「あのこと? 何よ、珍しく神妙な顔して」

 

「クオイの森でお前が倒れた時、膝枕しただろ。

それとアスピオ行く前に腕枕」

 

 

ユーリに言われて、ふんぐほぐれつ赤裸々の日々を思い出してしまった。

あの頭にいつまでも残る生暖かくて硬いスジ肉の感触、星空の下、美しい成人男性を真横において眠れないフェイスロック。

 

 

「喋れるわけねーでしょ」

 

「そいつぁ良かった。

フレンに知れたら、オレ確実に息の根止められっからな」

 

「フレンさんどころか、あんな赤面モノ、誰にも明かせないわよ!

エステルやカロルが口滑らしたりしたら、私、ユーリの隣歩けない!」

 

「オレは平気だぞ」

 

「羞恥心ないんかお前!」

 

「フレンにバレたらそれどころじゃないぜ。

"ユーリみたいな、だらしがなくて節度のない男に桜を任せておけない"とか頭堅ぇ口実で、この旅強制終了させられっかもな」

 

「堅いかどうかは別として。

わりかし言ってる事は正しいよ、それ」

 

 

かといって、元の世界に帰る為のこの旅を終わらせたくはない。

カロルはともかく、エステル辺りが進んで口を割りそうなので、今後から警戒するべきだろう。

 

 

「宿屋に戻る時は要注意だね」

 

「だな。後、噂の件はどうなった。解決しそうか?」

 

「あー、それがややこしくなっちゃって。

恋人じゃなくて、お友達になったの」

 

「なんだ、結局フレンふったんだ」

 

「そういう言い方されると、なんだか誤解を生みそうなんだけど。

フレンさんは噂を利用して、誰にも私に手出しできないようにしたいみたい」

 

「あいつにしては、かなり無茶な作戦だな」

 

「彼、私の居場所になるんだって」

 

「………そこまでして帰したくないのか」

 

「そうみたい」

 

 

沈痛な面持ちで訊ねるユーリに、私は脱力しながら頷いた。

親友であるユーリでさえ、理解に苦しむような強行作戦らしい。

価値観の違いかもしれないし、人為的に世界と世界を移動するなんて簡単に出来ない、諦めろ言うなら、多少これらの行為を頭で受け止めることはできる。

納得は出来ないが。

 

 

「ユーリは反対しないの?」

 

「あ?」

 

「帰る方法。探すのも実行するのも、多分生半可じゃないと思うよ」

 

「お前が帰ることを選んだんだろ」

 

 

私がおずおずと投げかけた質問に対し、ユーリは事も無げに答えた。

昨日までの私なら、ここで話は終わったのだろうが。

フレンとぶつかったことで、最初のころに抱いていた不安が膨れ上がり、そう簡単に拭えないものになっていた。

 

 

「私の意志じゃなくて、ユーリのこと。

面倒くさいとか、途方もないとか思わない?」

 

「何を言い出すかと思ったら、お前……」

 

「真面目に答えて」

 

「桜が帰りたいっつーなら、オレは最後まで付き合うまでだ」

 

「私に気を使わなくていいんだよ。

実際のところ、エステルやフレンさんみたいに、この世界に留まった方がいいって考えてるんじゃないの?」

 

「疑り深いヤツだな。あいつに諭されて、弱気になったのか」

 

「違……ううん、そうかもね。

フレンさんと話をして、頭に過ぎったの。

もしも帰る方法がなかったらって」

 

「……」

 

 

私の言うことなすこと、笑って退けていたユーリだったが、今度は笑わなかった。

ただ無表情にじっと見つめるだけ。

それが怒っているように見えて怖気づきそうになるが、私は最後まで続けた。

 

 

「ユーリやリタのことを疑ってるわけじゃない。

私一人のことで二人を……。

世の中どうしょうもないことってあるでしょう」

 

「前に例がない。絶対といえる目に見えた補償もない。いつになるかわからない。

んなもん、言い出したらキリねえな」

 

「そうだよね。なのに私、帰る一択しか頭になかったから。

リスクどころか、その選択肢が失われた時のことなんて、想像すらしなかった」

 

「んで、お前は諦められるのか」

 

「どうだろう。ここで一生を終えることになるんだったら、フレンさんのお世話に……なんて都合のいいことできないな」

 

「あいつなら、喜んでお前を引き取ってくれると思うがね」

 

「頼れないよ。帝国の治世を良くしようなんて、大きなことしようとしてる人なのに。

……敷居高すぎるし」

 

 

ぼそぼそグジグジ泣き言垂らす私を、ユーリは文句ひとつ零さず耳を傾ける。

一通り話し終えたところで、彼はゆっくり雨雲を仰ぎながら唸った。

 

 

「オレはもしもとか、そういう確証のねえ仮定の話はあんま好きじゃねーんだけど」

 

「ごめんなさい」

 

「いや、責めてんじゃねえよ。実りのない話に興味ねえってこった。

お前はオレの意思確認と、自分の考えをまとめたかったんだろ」

 

「うん」

 

「いろんな可能性を視野に入れて、身の振り方を考えるのも必要なことだ。

特にお前はな」

 

「そう……、だよね。よく考えないと。

いい加減なつもりはなかったけど、皆に付き合ってもらっているんだから」

 

「まあ、そんなに深刻になんなくても。

帰れなくなった上にフレンのところは嫌だってなら、オレんところに来ればいい」

 

「ユーリのところ? 余裕あるの?

下町の生活、結構切迫してるって話じゃない」

 

「どうにかしてみせるさ。なんせ永久就職させんだからな」

 

 

ユーリからニヤリと告白されて、一コンマ間、私は理解できなかった。

ユーリのところへ行く。

えいきゅうしゅうしょく。

この手の謳い文句、一昔前のドラマでよく耳にしたような。

そう、男役がヒロインに婚約を――

 

 

「ゆゆゆゆユーリぃぃ?!」

 

「あっはっは、お前、耳真っ赤だぞ」

 

「笑うな! こっちは真面目な話してんのよ!」

 

「なぁに、娶るからにはちゃんと養ってやるから、大船にどっしり大の字でマグロになった気でいろ」

 

「私にどんな負い目を感じてるのか知れないけど、そんな責任の取り方いらない!」

 

「は? お前に後ろめたい気持ちなんてねえぞ。

それとも何か、やっぱお前、なんだかんだ言ってフレンがいいのか。

んー、男の目で見ても、あいつの奥さんやった方が将来安泰だしな」

 

「あーう……違っ、そうじゃなくて、うんと、あああ……。

なんなの? なんのつもりなのよ?!

宿屋出てから、デートだの、永久就職だの?! 」

 

「お前がここで暮らすことを考慮して話をしてんだ」

 

「いらない、そんな生々しい話」

 

「身を固めるかどうかってネタはともかくとしてな。

どう言葉を取り繕ったところで、全部自分のことだ。

最終的には、お前自身が決めなくちゃならねえ」

 

「う……」

 

「結論急かしてるわけじゃない。この旅ん中でじっくりゆっくり悩めば良いさ。

オレはお前が下した決断に力を貸すだけだ」

 

「当面は帰るつもりだけど。最終的な答えはいつになるかわからないよ」

 

「オレはもう腹ぁ括った。

納得のいく答えが出るまで、ずっと待ってるよ」

 

 

物柔らかな黒い瞳に見つめられ、三度胸が熱くなる。

ここまで私を世話してくれる彼は本当に良い人だ。

面倒見がいいだけじゃ言葉が足りないくらいで、ほんの少しの言葉でもグラグラと心が揺れて、その胸に飛び込んでしまいたい衝動に駆られる。

彼は何故、こんなに優しくしてくれるのだろう。

私に負い目は感じてないと言っていたが……

 

 

「なら、どうして……」

 

「さて、お前の面白い顔も拝めたし。

後そこら辺少しブラついてから宿に戻るか」

 

「私の面白い……? おま、ユーリ!」

 

「何怒ってんだよ。

――あ。オレら、デートの続きだったか」

 

「違うっつの! 一昨日の方から余計なネタ戻してくんな!

そして仮にデートだったとしても、忘却している時点で恋人としてアウトだ!」

 

「はいはい、すまなかった。この通り」

 

「謝罪を棒読みすんな」

 

「わかった、わかった。ほれ、時間もったいねえし、とっとと行くぞ」

 

 

ユーリは煩わしそうに私の抗議を流すと、こともあろうに私の左腕に自らの右腕を強引に引っ掛けて、街の西側へ進み始めた。

カップルの腕組みのつもりなんだろうが、半ば私を引き摺るように歩く姿はおもちゃ売り場で駄々こねる子供を強制離脱させる母親のようだ。

 

 

「腕はなしてよ。こけるでしょ!」

 

「オレがしっかり腕挟んでるから、こけたりしねえよ」

 

「一馬力で移動している時点で腕組みじゃない!」

 

「男が女背負って進んでいく。人生の縮小図だと思うんだけど」

 

「愛が微塵も感じられんわ」

 

「愛、愛ねえ。なるほど。フレンみたいに、オレにもお姫様ダッコされたいとか」

 

「雨空の下、人っ子一人いない寂れた街でお姫様ダッコって、どんだけシュールな絵図らなんだよ!」

 

「疾走感がねえな」

 

「男女の憩いのひと時に、疾走感求めてどうする。

ユーリの言うことなすこと突拍子無さ過ぎて、振り回される私の身になってよ。

貴方の中で一体どんな心境の変化が――て、あ……」

 

 

ユーリとぎこちなく腕を組みながら漫才していると、街中で一際大きな屋敷が見えてきた。

海のすぐ傍、広い庭付きの立派な家で、いかにも貴族や病弱のお嬢様が住んでいそうなイメージがあるのだが。

入り口に場違いな傭兵が二人立っているのを見て考えを改めた。

 

 

「あれって……」

 

「豪邸の門番に一目でわかるような荒れくれ者を置くとはね。

街の入り口で取立てしてた下衆と同じ狢か」

 

「ひょっとして、ここが執政官の屋敷?」

 

「だろうな。宿に戻るぞ。変な因縁つけられたら厄介だ」

 

「待って、誰かが屋敷の方に……女の子?」

 

 

私たちが警戒する中で、一人の少女がのこのこと屋敷に向かっていた。

年は私より下、だいたい13,4歳くらいだろうか。

眩しいブロントのお下げにし、小柄な身体を包み込む海賊の船長のコスプレは、なんだか背伸びをしているようで可愛らしい。

 

 

「何故かおでん咥えてるんですけど」

 

「好きなんだろ」

 

「何故か屋敷に直進してるんですけど」

 

「余程死にたいらしいな」

 

「止めなくちゃ……っ! そこの女の子、待ちなさい!」

 

 

門番に注意を払いながら、海賊少女の腕を掴み、屋敷から遠ざけた。

幸い敷地から離れていたせいか、目に付かれはしなかったが。

間一髪を潜り抜けて安堵する私を、海賊少女は珍しい動物に遭遇したように丸い目で見つめてきた。

 

 

「なんじゃ、おぬし。いきなり、うちを人気の無いところに連れ込んで。

一体全体何を企んでおるのじゃ」

 

「幼女のクセに何、貫禄全開の喋り方。

企むも何も、あんな怖そうな屋敷、女の子一人で行くようなところじゃないでしょう」

 

「うちのような可憐な少女を連れ去るなどとは……もしや、おまえ、百合主義者か?!」

 

「人の話聞けえええ!」

 

「百合って、花の名前だろ」

 

「ユーリは黙ってて」

 

「うぬぬ……。おまえもなかなかイイ線いっとるんじゃが。生憎うちは男が好きなのじゃ。

そうじゃのぅ、隣にいる静かな海の水面ような黒髪の美青年が正にストライクじゃ」

 

「あ、そう」

 

 

海賊少女から好意的な瞳を向けられるも、ユーリは面白くなさそうに生返事をするだけだ。

ロリコンは範疇外だったのか。

 

 

「貴方の好みなんて、どうでもいいのよ。

なんでまた、あんなところに単身乗り込もうとしたの? 危ないでしょう」

 

「危なくは無いぞ」

 

「え?」

 

「そうか、そうか。うちのことを気に掛けてくれたのじゃな。

時化のように世知辛い世の中には珍しい、とても親切な娘じゃ。

うち、その気はなかったのじゃが、ちびっとだけ目覚めそうになったぞ」

 

「頬赤らめてモジモジすんな。永眠してろ、そんなおぞましい感情」

 

「しかーし、うちは心配無用じゃ。冒険する美少女の前に敵はあってないも同然なのじゃ。

いざ突き進め、宝の元へ! アデュー! なのじゃ、親切な娘と色男よ!」

 

 

支離滅裂なセリフをのたまった少女は、性懲りもなく再び屋敷に突っ込んだ。

止めるべきなのに、彼女のよくわからんテンションとノリに押し負けて見逃してしまう。

隣で見守っていたユーリは私と同じ目でく海賊少女を追いつつ、やはり止めはしなかった。

 

 

「いいのか、放っておいて」

 

「訊ねるくらいだったら、貴方が止めればいいんじゃないの」

 

「お前らの会話で止める気力がゴッソリ殺がれた。

とか言っている間に、早速門番に捕まったようだな」

 

「言い争ってるみたいね。

てか、門番が一方的に食って掛かってるみたい」

 

「先の会話聞いてたら、何話してるのか大体想像付くけどな。

――あ、投げられた」

 

「ユーリ!」

 

 

私が促すよりも早く、ユーリはいち早く反応し、門番に投げられた少女をキャッチする。

 

 

「おおっと……、大丈夫か?」

 

「よくやったのじゃ。流石イイ男はちがうのう」

 

「……」

 

 

ユーリは腕の中でキャッと喜ぶ海賊少女を無言で捨てた。

そして何事も無かったかのように、門番に不機嫌な眼光を向ける。

 

 

「子供相手に随分乱暴な扱いだな」

 

「あんたが言うな!!」

 

「なんだ、お前らは。そのガキの親父と姉ちゃんか?」

 

「ユーリがお姉ちゃん? 勘違いしても無理ないけど、彼は正真正銘男よ!」

 

「誰が勘違いするかよ、お前だけだバカ。

この場合、姉貴はお前で、オレは親父じゃないのか」

 

「ユーリにこんな大きい子供がいるわけないでしょ」

 

「あ、うーん……。そうなんだけどな。なんか違わなくないか。

お前の性別を見極める基準ってのが、イマイチわかんねえんだけど」

 

「お前ら、人の話を聞いてるのか――?!」

 

 

私とユーリが明後日な掛け合いを始めて、蚊帳の外に放り込まれた門番がキレところ、ボンと大きな炸裂音と共に黄色い煙幕が辺りに充満する。

 

 

「う、お前ら、何しやがる?!」

 

「うぷ……っ」

 

「桜、こっちだ!」

 

 

何が起こったのかわからないまま、私はユーリに肩を抱かれ引き寄せられた。

門番がこんなことするわけないし、誰がこんなことを。

彼にがっしりと抱かれたまま、口元を押さえて煙に耐えていると、目前に小さな人影がすり抜ける。

私が声を上げるより先に、ユーリが逃がすまいと迷わずそれを掴んだ。

 

 

「こんなことやっといて、尻尾巻いて逃げる気か」

 

「立ち去る美少女を呼び止めるには、それなりの覚悟が必要なのじゃ」

 

「貴方……!」

 

 

ユーリに腕を捕らわれたのは、先程の海賊少女だった。

トラブルを引き起こした張本人が至って平然としている。

彼女の図太い神経を目の当りにしたユーリは、やれやれとばかりに苦笑いを浮かべた。

 

 

「周り引っ掻き回しといて、よくもまあ大きな口が叩けるもんだ。

どんな覚悟かご教授願いたいもんだね」

 

「残念じゃが、今はその時ではない。

何、おまえほどの良い男なら、女がついておっても気にしないぞ」

 

「言ってることがサッパリだ」

 

「男と女が公衆の面前で抱き合って。見せ付けよるの」

 

「違う、これは……!」

 

 

海賊少女にいやらしく言われて、思わずユーリの腕から離れようとしたが、彼の体はピクリとも動かず私を離そうとしない。

煙幕が晴れていない、危険な状況だからだろう。

 

 

「あんまオレのお嬢さんをからかわないでくれ」

 

「恋愛というものは、ライバルがいた方がより燃え上がるのじゃ」

 

「おい、待――」

 

「さらばじゃ」

 

 

ユーリの言い分をスルーして、海賊少女は一方的に捲くし立てた。

ユーリどころか、私でさえ、何を言っているのかわからない。

改めて問い詰めようとしたものの、煙がはれた頃には海賊少女の姿はどこにも無かった。

 

 

「なんなの、あの子」

 

「やってくれるぜ」

 

 

嘆息するユーリの手には、海賊少女の代わりにソックリの人形が握られていた。

彼の隙を突いたり、執政官の屋敷に真正面から一人で乗り込もうとしたり、煙幕で逃走したり、なかなかパワフルな少女だ。

門番に屋敷前から追い払われた後も、それとなく姿を追ってみたが、結局彼女を見つけることはできなかった。

 

 

「あの子海賊のコスプレしてたけど、本当は忍者かアサシンじゃないの?」

 

「さてね。面白そうなヤツではあるが、あんま係わり合いになりたかねえな」

 

 

ユーリはそう言うが、彼女の言葉から察するにまた近いうちに再会しそうである。

こっちはフレンとの問題がまだ片付いていない手前、これ以上面倒ごとは増やしたくないのに。

私がどんなに願っていても、波乱のひと段落さえ、まだまだ見えてきそうには無かった。

 

 

 

 

 

 

■続く■




前回勢いで作成して、そのまま12話に突入したものの、読み返したら支離滅裂してて、いろいろ改変していくうちにこうなりました。
アクションシーン皆無、会話だけの回なので、躍動感が欠片もないです。
フレンが大変なことになっていたり、ユーリが爆発していますが、楽しかったからいいんです。一生懸命な小隊長萌えです。ロンゲハァハァです。
なんか全体的に説明&説教臭くなったけれども。
次回はリブガロ戦とかレイヴン登場とか出来たらいいなと思います。
それではまた。


瑛慈 翔
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