明星の意思、常闇の暁光   作:瑛慈 翔

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【第22話】まずはここから、全力で超えるんだ!

 

騎士団長との合流場所、新都市ヘリオードに辿りついて早々、桜が熱で臥せてしまった。

慣れない旅路に野営を乗り越えてきたんだ、体調も崩しはするだろう。

 

 

寝床を用意し、一通りの応急処置を済ませたが、武骨な騎士が病人にできることなんて知れている。

目の前で苦しんでいる彼女にしてやれることは、驚くほど少ない。

 

 

しかも、これから騎士団長との会合もある。

この小さな肩に、どれだけのプレッシャーが伸し掛かっているだろうか。

想像するだけでも、胸が痛む。

 

 

何か、彼女の為にできることはないか。

僕は医者でもない、騎士だ。

 

 

騎士にできること、騎士団長に今一度、彼女のことをお願いしてみよう。

桜は城内で傷害と監禁。暗殺者やギルドに狙われ、心も体も疲れ切っている。

どうか手厚く、丁重に扱ってほしいと。

 

それから、精を付けるくらいできないか。

体力さえ取り戻せば、少しは楽になるはずだ。

 

久方ぶりに張り切って料理を振る舞ったんだけど、残念ながら、桜の口には合わなかったようだ。

住む世界が異なると、味の好みも変わるのだろうか。

今後もこともあるから、じっくり調べてみようと思う。

 

 

 

 

そして、迎えた騎士団長との話し合いは、想像以上に穏やかな雰囲気で進んだ。

……まあ、謂れのない、意味不明な話も多かったが。

 

雑談はさておき、問題の護衛については平行線で、団長の過剰ともいえる接待護衛も、桜は首を縦に振らなかった。

見目麗しい男性騎士の接待と護衛。

例え、騎士団長の決断であろうとも、彼女に這い寄って不吉なフラグ建設を企てる有象無象のクズ野郎は下心が芽生える前に、抹殺すべきだ。

そういう点では、桜は冷静だったと思う。頑なに断っていた。

もしも、君が"うん"と言っていたら、僕はひたすらゴミ処理に明け暮れていただろう。

 

 

ただし、決断しなければ、前へ進めない。

何かしら手を打たなければ、元の木阿弥だ。

 

 

そこで突然、僕に白羽の矢が立った。

騎士団の中で、一番彼女と同じ時間を過ごした騎士は僕だけだ。

 

事前の打合せもなかったので当惑はしたが、正直本望でもあった。

自分以外に、彼女を任せられる騎士なんていない。

シュヴァーン隊や親衛隊であっても。

この手で、自分の傍で、彼女を守っていきたい。

ずっと思い描いていた望みが実現する。

 

 

胸を膨らませていたのもつかの間、ユーリがドアを蹴破って部屋に乱入してきた。

 

ああ、まただ。

自由奔放な彼らしい登場だが、騎士団長がいる手前、乱暴を放置するわけにはいかない。

急いで諌めようとしたら、ユーリはなんと無断で桜を連れ去ろうとしたんだ。

当然止めにかかった僕たちに、ユーリは苛立ちながら、こう言い放つ。

 

 

証拠だの法だのつって、悪人を野放しにする悠長な連中の元に、うちのお嬢さんを預けるほど、オレは心が広くないんだよ

 

 

返す言葉が見つからなかった。

止めに、桜は旅を続けたいのだという。

 

互いに譲れない局面に立たされ、時間だけが過ぎようとした時、騎士団長が「明後日までに、桜の体調不良を治す」ことを条件に、彼女の希望を飲む約束をつけた。

 

彼女が元気になるなら、これ以上のことはないが、危険な旅を許すのは別だ。

騎士団長もよくわかっているはず。

なのに、なぜ?

 

 

騎士団長の真意がわからないまま、夜が明け、桜たちは行動を移した。

――彼女を犯す、結界魔導器の調査。

ヘリオードの結界魔導器の調子がおかしいので、近々専門家に診てもらうとは聞いていたが。

魔導器の専門家リタが診てくれるなら、渡りに船だ。

桜の為ともなれば、希望以上の働きを期待できる。

もしかして、騎士団長はこれも見越していたのだろうか。

 

しかし、当のリタは些細な原因で怒りだし、調査は進みそうもなかった。

これでは、桜の病気を治すのも難しそうかな。

 

複雑な気持ちで皆を見守っていたら、突如、結界魔導器が唸り声を上げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

まずはここから、全力で超えるんだ!

 

図られたシチュエーション!その手に乗るな!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

パチン……

 

パチッ

 

何かが弾ける音が、耳をつつく。

眠気眼をゆっくり開くと、闇の中でゆらゆらと揺れる光が瞳孔を刺激した。

 

(まだ眠い……)

 

光を避けるように身をよじると、誰かが頭を撫でてきた。

頭から肩へ、ゆっくりじっくり、でもほんのちょっぴり力強く。

それがとても心地よくて、甘んじて受け止めつつ、枕に顔をうずめようとしたら……違和感が襲った。

 

(枕が硬い。なんか弾力があって、……生暖かい?)

 

やや寝心地の悪さを感じた途端、忌まわしい記憶がよみがえった。

過去、これと同じ感触を味わった事があるのではないか。

封じ込めていた思い出が鮮明になるとともに、頭上からなじみの声が降りかかった。

 

 

「人の足触るのは構やしねぇが、他でするなよ。変な気起こさせるからな」

 

「ユばああああああ!?」

 

 

デジャヴか。

見上げた先には、意地悪く笑うユーリの顔があった。

変な声が出てしまったではないか。

即座に逃げようと身を起こしたが、私の頭を撫でていた手に妨げられてしまった。

 

 

「病み上がりがいきなり立ち上がるなよ。またぶっ倒れるぞ」

 

「そうはいくか!

恥ずかしげもなく野郎の膝枕食らってる姿を公共の場で晒すなんて、文字通り憤死する……っ!」

 

「男の膝枕なんざ、好き好んで見るヤツなんていねぇだろ」

 

「晒すことに問題があるのよ!」

 

「晒すも何も、街の外の、森ン中で何言ってんだ」

 

 

ユーリに肩を竦められて、初めて周囲を見回した。

空はすでに真っ暗、穏やかなフクロウの鳴き声と木々が揺れる音だけが辺りに響く。

暖かい焚火の周りには、私、ユーリ、ラピード、カロルがそれぞれ腰を下ろしていた。

 

 

「……今、二足歩行の知的生命体と思しき物体が視界に入った。

というか、明らかにカロルさんですよね。そこにいんの」

 

「うん、いるな」

 

「いるなじゃねーわよ!言った傍から人目ある! 至近距離に鎮座してる!

大変申し訳ない様子でいらっしゃる!」

 

「慌てるな。偉大なるカロル先生は、大人の事情くらい理解してる」

 

「うん、理解してるな。嫌な方向に!

ご、ゴメンね、カロル。見苦しいところ見せちゃって」

 

「ボクの方こそ、2人きりで良いところを邪魔してゴメンね。

ボク空気になるから、いないと思っていいから、生まれてきてスミマセン……」

 

 

彼は今にも闇にフェードアウトしそうな、か細い声で答えた。

知らんうちに、ウザ熱いカップルアピールして、多感な少年のガラスのハートを粉砕したようだ。

私とて、好き好んでユーリの筋張った太ももに頭を乗せて、体温感じてるわけじゃない……んだが。

彼が頭を押さえつけてくるので、逃げることもかなわない。

彼が枝を手に取る、焚火に投げ入れる、そのちょっとした動作が事細かに伝わってきて、何とも言えない気分になる。

 

 

「イケメン枕って、乙女が憧れるシチュエーションのひとつだよね。

何、この胸の内からほとばしる羞恥心と闘争心は」

 

「トキメキじゃねーの」

 

「これがトキメキだったら、すべてのデートスポットが世紀末と化すわ!」

 

「なるほど、もっとしてほしいってことだな!」

 

「ちげぇえええええ! やめてよ、その押せばどうにかなる理論!

私はもう平気だから、起きていいでしょう?」

 

「だめだ」

 

「うう……っ、タイヤのような弾力が、電車の座席に残ったあの生温さが……!」

 

「よしよーし、おとなしく休んでろ。オレの足のしびれなんか気にするな」

 

「なんで己を犠牲にしてまで、私に膝枕行使するんだこのロン毛。

もう夜になってるってことは、結構時間経ってるのよね。私が眠っている間に何があったの?」

 

 

現状を打破できないと悟った私は、さっさと頭を切り替えることにした。

満点の星空、鬱蒼とした木々に囲まれているところから察するに、ここが街の外なのはわかる。

現に、大量のエアルは微塵も感じない。

私の質問にユーリはすぐに答えず、何か引っかかったように頭をかきながら、記憶をたどるように口を開いた。

 

 

「なんて話せば、いいんだか。

結界魔導器の光と音が強くなって、高濃度エアルが押し寄せてきたんだ。

お前はピクリとも動かなくなるわ、身体は重くなるわ、いよいよって時に、なんだか……あれは、なんて言やいいんだ?」

 

「エアルが弱くなった……のかな」

 

「弱く? ホントなの、カロル」

 

「き、気のせいかもしれないよ。ボクがそう感じただけかも……」

 

 

私に問われたカロルは、自信なさ気に言葉尻を小さくした。

エアルが弱くなる、なんてあるんだろうか。

単純に結界魔導器が機能しなくなって、エアルの収束が収まったとか。

 

 

「リタさんが結界魔導器を直してくれたのかな。

なら、街に戻った方がいいんじゃないの」

 

「街の様子が分からねぇし、お前は病み上がりだ。今夜は野宿だよ」

 

「うう、もう平気なのに」

 

 

ユーリに今日は休めと肩を叩かれ、抵抗しても無駄だと悟った私は、不本意ながら受け入れた。

膝枕。

元来ロマンティックなシーンになるはずなのに。

男の子と犬が見てる中、当のユーリが私を子ども扱いしてたら、右往左往しているコッチの方がバカバカしいではないか。

意識するのも恥ずかしくて、石のように固まっていると、焚火の音に紛れて、カロルの溜息が聞こえた。

 

 

「どうしょうもない奴だって、思ってるよね」

 

「誰のこと? ま、まさか私のことか」

 

「違う違う! ボクのことだよ」

 

 

自分のことを指摘されてドキリと肝を冷やしたが、どうやらカロルは自嘲していたらしい。

小さな方肩を落とし、視線は何もない地面を見つめている。

 

 

「桜が倒れてから、リタとエステルは魔導器を調べて、フレンは街の混乱を収めようとして。

そして、ユーリは桜を抱えて、ラピードは魔物を蹴散らしてくれた。

ボクは、一緒にいるだけで、何もできなかった」

 

「今回のことは、まぁ仕方ねぇよ。

大人のオレでさえ、桜担いで街の外に行くので手一杯だった」

 

「ボクは、その隣であたふたしてただけだけどね」

 

「それを言ったら、ブッ倒れた私はどうなるの。

皆の足を引っ張ったから、どーしょうもないどころか、とんでもない奴よ」

 

「桜はエアルに弱い体質なんでしょ。健康体のボクと比べたらいけないよ」

 

「じゃあ、健康な時の私と比べたら?

ハルルの薬やアスピオの鍵開けとか、カプワ・ノールの魔物とか、カロルって色々できたじゃないの」

 

「そ、そうかな? いやぁ、えへへ」

 

 

私がカロルの活躍を羅列すると、照れ笑いするものの、天狗なカロルには発展せず。

小さな芽が萎れたように、再びシュンと肩を落とした。

 

 

「そうだった。桜はカルボクラムのこと知らないんだ」

 

「再会してから、様子がおかしいとは思っていたけど。何かあったの?」

 

「えっとね。

ボクたちがカルボクラムに行った理由って、魔核泥棒の紅の絆傭兵団を追ってだったよね。

でも、そこにいたのは紅の絆傭兵団じゃなくて、魔狩りの剣だったんだ」

 

「魔狩りの剣って、確かカロルが所属しているギルドだったような」

 

「うん」

 

 

私の問いに、カロルは重々しく頷いた。

クオイの森でカロルと出会った当初、彼は魔狩りの剣のエースと声高に謳っていたはず。

事実かはさておき、魔狩りの剣に所属している可能性はあった。

ならなぜ、カロルがギルドに合流せずに、私たちの一緒にいるのか。

彼はその疑問に答えるように、苦々しくこう続けた。

 

 

「ボク、魔狩りの剣を辞めたんだ」

 

「ギルドを脱退したの?」

 

「ううん。脱退っていうか、その……クビって言われて」

 

 

カロルがその一言振り絞った途端、空気がずんと重くなった。

おとなしく横になってるラピードはもちろん、あのユーリでさえ言葉一つ発しないせいだろう、息遣いさえ気遣うほど重い。

ギルドのクビってあれか、バイトのクビと同じなのかな?

よくわからないが、カロルの表情の暗さからして、程度の軽いものではない、と思う。

 

 

「よ、世の中、自分の思った通りにいかないもんだよ。

ほら、私なんか役に立ちたくて毎回頑張るけど、空回りか体調崩して、結局迷惑かけまくってんじゃない。

失敗を恐れちゃだめよ。寧ろ笑い飛ばさなくちゃ! はは、はははは…………はぁ」

 

「お前が落ち込んでどーすんだよ」

 

「ホント、私って何しても上手くいかない。

もっと、こう、ユーリやフレンさんみたいに、ばばっと華麗に立ち回れたらいいのにな」

 

「オレはわからねぇが、フレンはああ見えて騎士団の中でもがいてる。

上手くいってるとは、言い難いかな」

 

「あ、うん。……そうだったね」

 

 

そうだ。フレンは帝都の圧政を何とかするために、下町を出て騎士になったんだ。

カプワ・トリムでのラゴウを逃した件といい、思うようにいってないに違いない。

ユーリも同じ志を持って騎士になったけれど、結局上手くいかなくて辞めたんだっけ。

 

 

「皆、なんだかんだ言って、いろんな局面にぶつかって、ヘコんでるんだよね」

 

「だからって、いちいち頭抱えてちゃキリがない。

後ろ向いて悩む暇があるなら、前を見ろ。

さっさと次のことに考えた方が、よっぽど建設的だ」

 

「次のこと……うん。そうだね」

 

 

ユーリの言葉に触発されたように、カロルはまっすぐ立ち上がった。

 

 

「ねえ、ユーリ」

 

「うん?」

 

「ボクと……ボクとね」

 

「なんだ、トイレか?」

 

「違うよ!」

 

「桜の前で気まずいってなら、気にするな。

日々オレの発言で、羞恥心の壁はかなり薄くなってるはずだ!」

 

「ぶ厚いわ、ぼけえええええ!

日々私の羞恥心を攻撃していた自覚はあったんだな? あったんだよな!?

なんてヤツだ! 美形のクセにセクハラとか、ありえん!」

 

 

セクシャルハラスメントを堂々と告白する美形に、危機感を覚えた私は、光の速さで飛び起き、距離をとった。

それを目の当たりにしたユーリは、一瞬茫然としていたが、ああと手を打つ。

 

 

「わりぃ、言い間違えた。距離感だった」

 

「かなり違うよソレ。どうやって間違えるんだ。

もしや、ユーリの潜在意識がサド……いや、やめとこう。

あのね、きちんと空気読みなさいよ。この状況下で、トイレ宣言する青少年がいるワケないでしょ」

 

「そうか」

 

「そうだよ。ボク、ユーリとギルドを作りたいって言いたかったのに」

 

 

カロルは出ばなを挫かれて気が紛れたのか、ふてくされた様子だった。

何かを決心したようだったから、トイレではないのは気づいたけど、まさかユーリとギルドを結成を考えていたなんて。

 

 

「ていうか、ギルドって、簡単に作れるもんなの?」

 

「誰にでも作れるよ」

 

「誰にでもってのが、どーもひっかかるね」

 

「そう、ギルドは作ってからが大変なんだ。

立ち上げても、沢山依頼を受けて成功して、名を上げないと見向きもされないから」

 

「ギルドを作るには、具体的に何をすりゃいんだ?」

 

「ええと、ギルドを作るには、名前や掟を作って、いろんな人の依頼を引き受けたりして……。

ユーリ、さっきはボクと組みたくなくて、はぐらかしたんじゃないの?」

 

「まあな」

 

 

カロルが好機の目を向けられたユーリは、顔を反らした。

それはノーというより、別のことに思考を巡らせているように見える。

 

 

「ユーリ、カロルとギルド作るんだ」

 

「オレがカロルに取られそうで、拗ねてんのか?」

 

「いや、働くユーリが意外で」

 

「今、お前がどんだけオレをニート認識しているのか痛感した。

認識している以上、最終的にお前がオレを養ってくれるんだよな」

 

「主夫のユーリも良いって言ったよね、私」

 

「働かねぇってことは、家事もしないってことだぞ」

 

「残念ながら、美形がヒモする時代は終わったんだよ、ユーリ」

 

「あの……2人とも、仲睦まじいトコ悪いんだけどさ。

ユーリはボクとギルド作ってくれるんだよね、ね?」

 

「まぁ、考えとくよ」

 

 

ユーリが適当に答えると、カロルは目を輝かかせ、身を乗り出した。

 

 

「ホント? 嘘じゃない!?」

 

「保留ってことだぞ。そんなに喜ぶところか」

 

「すっごく嬉しいよ!

ユーリは魔核や桜のこともあるから、これ以上厄介ごとはゴメンだって、キッパリ断るかと思ってたもん」

 

「桜や魔核が優先なのは変わらねぇが。

ま、こっちにも考えるところがあるんだよ」

 

「よかったね、カロル」

 

「うん! そうと決まれば、ボクも桜の旅に協力するよ!

ユーリは大切なギルドメンバーだからね。力を合わなきゃ!」

 

「オレ、もう一員にされてんのな」

 

 

年相応に喜ぶカロルに、ユーリがげんなりしつつも、あながち嫌ではなさそうに苦笑した。

出会った頃から、どことなく挙動不審だったカロルが吹っ切れ、前向きになったのだ、無理もない。

私も喜んでないで、自分の問題を片付けないと。

 

 

「私の旅に協力ね……。

ありがたいけれど、まず先にアレクセイさんとの約束を済ませなきゃね」

 

「うーん。顔色は良くなったように見えるよ。治ったんじゃないの?」

 

「単にエアルから離れて、体力を持ち直しただけかもな。

結界魔導器が直ってないまま街に戻ったら、振出しに戻っちまうか、最悪悪化だ。

魔導器が直ってて、体力維持が出来たとしても、あんだけお前を帝都に戻したがってた輩が、すんなりOK出すとは思えねぇんだよな」

 

「あー、帝国騎士団だもんね。きっと、あれこれ難癖つけて、桜を連れ戻すかも」

 

 

経験則なのか、ユーリとカロルは私が帝国騎士団と会うのに、難色を示した。

今は元気でも、エアル体質が改善されたワケではないので、「道中エアル酔いしたら危険なので、安全なところへ~」とかなんとか言われて、帝都に直行という線もありえる。

昨日、アレクセイとフレンの説得というサンドバックを思い出し、憂鬱になった。

なんとか、アレクセイを説き伏せなければ、最終的に隣の男が何を仕出すかわかったもんじゃない。

ない頭で打開策を捻り出そうとしてたら、問題の隣の男が悪戯っぽく笑った。

 

 

「いっそのこと、このままダングレストに行くのはどうだ」

 

「ダングレストって、ギルドがたくさんある街だっけ。何を考えているの、ユーリ?」

 

「ギルドってのは、あの幸福の市場のカウフマンみたいに、帝国のやり方に不満があって出てったヤツらの集まりなんだろ。

その溜まり場なら、騎士団から身を隠しやすいんじゃないか」

 

「ユーリの言うとおり、ダングレストは帝国に属してないから、他の街に比べて、融通は利くとは思う。

ボクとしても、ギルドを始めるには、いいスタート地点だとは思ってるけど」

 

 

などと、ユーリの悪巧みをフォローするカロルは、困惑の表情で続けた。

 

 

「たださ、皆に黙っていくのは悪いよ。

桜って、有名人なんだよね。勝手に連れてったりしたら、大騒ぎになっちゃう。

それに、今帰ったら、みんなからバカに……」

 

「私もカロルと同意見かな。ユーリ、また指名手配されちゃうよ」

 

「後で連絡すりゃいいだろ。今まで放置してたんだ。事後報告でも問題ない」

 

「問題大ありだ。

ダングレストが帝国に属さないってことは、帝国の命令も無視できる別国家ってことよね。

騎士団からすれば、逃げられたようなもんじゃないの。反感買うわよ!」

 

「桜は硬過ぎンだよ。もう少しフリーダムになった方が良いぞ」

 

「お前がアウトロー過ぎんだろ!

すごい忘れてるようだけど、レイヴンさんが私をダングレストに連れて行きたがってたでしょ。

ギルドの首領が、私に用があるとか何とか言って!

絶対、強制イベント発生するわよ! Uターン不可のヤツ!

面倒くさいお使い頼まれてボスフラグ立つような!」

 

「レイヴンのギルド?

それってもしかして「天を射る矢」の首領ドン・ホワイトホースが桜に会いたがってるの!?」

 

 

ダングレスト行阻止のため、以前レイヴンが自分を狙っていたことを持ち出したら、カロルが私に迫ってきた。

そういえば、ノール港でレイヴンの所属ギルドを聞いた時、彼、羨望のまなざしを向けてたっけ。

忘れかけていた記憶を辿っていると、カロルが勢いに任せて私の両肩を掴んできた。

 

 

「行こう! ドンに会いに、ダングレストに行こうよ! 今すぐ!」

 

「目の色が変わってるよ、カロル!

さっきは止めといた方が良いって、言ってたじゃないの」

 

「ドンが会いたがっているなら、話は別さ。

騎士団なんて、ドンにかかればイチコロだよ!

桜の旅だって、きっと協力してくれる!」

 

「張り切ってるところ悪いけど、ドンの用がなんなのかわからないんだよ?」

 

「ドンが桜に酷いことするもんか。

紅の絆傭兵団の件だって、情報を聞き出せるかもしれないし、上手くいけば手伝ってくれるかも」

 

「……ユーリ、ドンって、どんな人?」

 

「知らね。ダングレストに関しては、お前のことや、紅の絆傭兵団の件で多少期待はしてたんだが。

一応、そいつは5大ギルドの内「天を射る矢」の首領なんだろ。

ちょっと都合が良すぎやしねぇか」

 

「いいなぁ~っ、ドンが会いたがっているなんて。

ボクもついてったら、お話しできるかな」

 

 

ダメだ、完全に夢見る少年と化している。

ドンっていう人。カロルが尊敬してやまない存在なんだろうが、私にしてみれば、怪しさ全開男レイヴンの上司で5大ギルドの一翼を担う首領、まったく人物像が見えてこない、得体の知れない人物だ。

 

そんな人が、善意で私を助けてくれるだろうか。

紅の絆傭兵団の情報くらい得られそうだが、見返りを要求されるかもしれない。

 

かといって、止めた方が良いと訴えても、1vs2、状況は不利だ。

思い悩んで夜空を見上げると、半分に欠けた月が、一つの影を照らした。

 

鳥か? いや、鳥にしては大きい。

大きい鳥がこっちに落ちてくる?

 

鳥は近づくにつれて、徐々に人型へと変わり――帝国騎士団小隊長が剣をかざしたまま空から滑降し、カロルの一歩手前に突き刺さった。

 

 

「飛天翔駆!」

 

「ほぎゃああああああああ!?」

 

 

下町の希望にして人知を脱皮しつつある超美青年騎士登場に、カロルは自慢のリーゼントを数本剃られて、腰を抜かした。

しまった。私の拒否権以前に、騎士団以前に、コイツという存在がいた。

泣く子も叫ぶ小隊長登場に、流石のユーリとラピードも立ち上がる。

戦慄が走る中、フレンはゆったりと地面から剣を引き抜くと、カロルの前で姿勢を正した。

もとい、鬼神のごとく見下した。

 

 

「少年。君には桜に勝手をする義理も権利もないんだよ。

彼女に何かをする覚悟が君にあったとしても、物理的に行使されたら最後、僕の剣が君の息の根を止めることが確定するんだ。

わかるかい? 右も左も知らないか弱く無垢な彼女を振り回す行為は、老若男女関わらず、万死に値する。人類みな平等に無慈悲な制裁が待っているんだ。

これは法以前の問題で、木の枝からリンゴが地面に落ちる理論と同じなんだよ」

 

「フレンさんが現在進行形で、私の心臓を振り回しているんですけど、その場合は自害するんですか。

とりあえず、カロルが失禁しそうなので、剣と殺気を収めて頂けません?」

 

「桜、無事だったんだね」

 

 

私が恐る恐るお願いすると、フレンは剣を収めて、さわやか笑顔を振りまいた。

その変わり身の早さと言ったら、さっきまでユーリに膝枕されていたのがバレた瞬間、即血の海になってもおかしくないほどだ。

彼はまっすぐ私の元までやってくると、両手を握り、頬に触れ、くまなく私を観察する。

その澄んだ青い瞳と、触れる手がくすぐったくて、ついつい身を引いてしまう。

 

 

「フレンさん、私は大丈夫ですから」

 

「少し疲れているようだけれど、怪我やエアル酔いはないようだ。

どこか辛いところは? 痛いところはないかい?」

 

「いいえ。結界魔導器の外のせいか、街にいるより体が軽いです」

 

「それはよかった。と、言いたいところだけれど、野営はいけないな。

一度、街に戻った方が良い」

 

「戻って平気なのか」

 

 

今まで黙ってみていたユーリが問うと、フレンはもちろんと首を縦に振った。

 

 

「結界魔導器はリタが修理したはずだ。現にエアルの異常も見られない。

ただ、修理の際にリタが怪我を負ってしまって」

 

「リタさんが……!?」

 

「落ち着いて。エステリーゼ様が治療して下さったお蔭で、大事には至らなかった。

今は君たちの宿屋で休んでいるよ」

 

「そ、そっか、エステルの治癒能力なら安心ね。

女の子のリタさん相手に、殺人衝動起こさないだろうし」

 

「男か女か以前に、オレかそうじゃないかじゃねーのかな、あの姫さんの判断基準。

……しかし、リタに治癒魔法か。面倒になってなきゃいいが」

 

「何かあるの?」

 

「いいや、何でも。

2人が無事で、魔導器が直ったなら、早いところ、オレたちも宿に戻らないとな。

でなきゃ、フレンに続いて、第2、第3の刺客が飛んでくるぞ」

 

 

リタとエステルが、月に代わってお仕置きスタイルに。

 

 

「怖いこと言わないでよ!」

 

「冗談だよ」

 

「冗談に聞こえないんだよ! 彼女たちだからこそ、安易な戯言こそがフラグになる!

ここまできて、ユーリはまだわからないの!?

"いやぁ、まさかぁ"などと言う想像を現実にしてしまう、とんでもイノセントな連中なのよ」

 

「話引っ張る方がヤバくないか」

 

「おおう……っ!」

 

「心配しないで、桜。僕が傍についているから、怖がることなんてないさ」

 

「恐怖の対象に、怖がるなと言われても」

 

「とりあえず、ここで喋ってないで、まっすぐ帰ればいいんじゃないかな」

 

 

カロルの言う通り、無駄口叩いてないで、街に戻るべきだ。

リタの容態が気掛かりだし、結界魔導器の暴走の原因もひっかかる。

何より、本当に彼女らが降って湧いてきたら、今度こそカロルが発狂するかもしれない。

私たちはヘリオードへと足を戻した。

 

 

 

 

 

夜の森林浴を楽しんだのもつかの間、真新しい門が私たちを再び出迎えてくれた。

結界魔導器が通常運転に戻ったおかげか、何事もなかったかのように街は静寂に満ちている。

元々人口比率が一般人より兵士が多いから、沈静化も早かったんだろう。

ぼんやりと夜の街を眺めていると、ユーリが顔を覗いてきた。

 

 

「桜、街の中に入ってから、具合はどうだ」

 

「なんともないよ。絶不調だったのが、嘘みたい」

 

「やはり結界魔導器が原因か。リタが目を覚ましたら、詳しく聞いてみる必要があるね」

 

「結界魔導器のせい、ね。それって、ラゴウの屋敷にあった魔導器と同じなのかな。

あの時は、きちんと調べる前に、竜使いに魔導器を壊されて、よくわからないけど」

 

 

あの竜使い、エフミドの丘やラゴウの屋敷の魔導器を壊して回っているのに、今回はスルーなのか。

それとも、前は偶々遭遇しただけなのか。

当時のことを思い出していると、また胸のあたりがざわつき始め、反射的にわが身を庇った。

 

 

「桜、寒気がするなら、強がったりせずに素直に言え。

風邪か? 早く宿屋に戻って、身体温めないとな」

 

「ううん、違う」

 

「でも震えているよ。何か怖いことでも思い出したのかい?」

 

「違う。なんだろ、前より強い。近くにいる」

 

 

感じるがままに顔を上げた先は、リタたちがいる宿屋。

その宿屋の向こう、闇夜の彼方から、まっすく迫ってくる、何かを目が捉えた。

近づくにつれ、月明かりに照らされて、輪郭がはっきりしてくる巨大な影。

それは夜空を泳ぐ姿はサメのようだが、人を背負い、時折光を跳ね返す鱗はゴツゴツしていて、姿さながらRPG定番のドラゴンのようだ。

 

 

「竜使い!」

 

「え、えええ!? カルボクラムで会ったばかりだよね。またなの!?」

 

「しつこいアプローチは嫌われるってのにな。

あいつの狙いはわかんねぇが、高さからするに、オレたちの部屋か?

エステルとリタがやばいぞ」

 

「ユーリ、悪いけど、君たちは先に宿屋へ行って、エステリーゼ様とリタを。

僕は騎士を集めて、近隣住人を避難させる。

あれは火を放つ。周辺が火事になるかもしれない」

 

「了解。桜はフレンと一緒に行ってこい」

 

「え……?」

 

「ラゴウの屋敷であいつと遭遇した時、お前、動けなかっただろ」

 

「動けないっていうか、なんだか変になるっていうか……」

 

「桜、考えるのは後にしよう。僕とおいで」

 

「は、はい」

 

 

言い訳して、状況が変わるわけでもない。

私はフレンに従い、手を引かれて、その場を離れようとした。

胸の疼きが前よりも、ずっと強い。

竜使いに反応しているのだろうか、確かめるように、もう一度、竜へと視線を戻した。

 

 

「今、目が、合った?」

 

 

大きな双眼が、私の目を射ぬいたような気がした。

一般人が竜に睨まれたりしたら、口から心臓に飛び出して腰抜かすところだろうが、私の心は不思議と穏やかだった。

まるでクラス替えで、友達も同じクラスになった時の安心感。

向こうも同じだったのか、以前のように一瞥すると、優雅に闇夜へ消えていった。

 

 

「帰ってったね」

 

「何しに来たんだ、アレは」

 

「何もないなら、今はそれでいい。

リタとエステリーゼ様が気がかりだ。部屋に行ってみよう」

 

 

遠目で見えなかったが、一番近くに居たエステルたちの身に、何かあったかもしれない。

カロルの言う通り、カルボクラムでも遭遇したのなら、竜使いの目的はあっちの方かも。

危機の連続で狼狽しつつも、彼女らの部屋へ急いだ。

 

 

「皆、無事だったのですね」

 

「エステルたちも、なんともなくて安心したよ」

 

 

焦燥感にかられつつ、いざ部屋に踏み込んだら、リタがベットに、エステルがそばの椅子に腰を掛けていて、逆に心配の声をかけられてしまった。

ぐるりと部屋を見回してみたものの、ベットが2台、他に大きなソファや観葉植物、テーブルと椅子などの家具一式が揃っており私が来た時から荒らされた様子はない。

位置から察するに、大きなベランダから竜使いがコンバンハなんつう恐ろしい状況だったはず。

 

 

「エステリーゼ様、リタ。御無事でしたか?」

 

「もう少しで、トライスラッシュの射程範囲でした」

 

「エステリーゼ様?」

 

「リーチが足りませんでした。

正直にフォトンで撃ち落として、ピアズクラスターで滅多刺しが確実でしたね」

 

「あの、恐れながら、お一人で殺る気……、いえ、討伐するつもりで?」

 

「目障りなハエは、見つけ次第叩き落として滅するのが世の常です」

 

「うん、いつものエステルだ。

きっと怖くて震えてたんだろうと、心配していた私がバカだった」

 

「ハッ!? ここは怖がって、桜の胸に縋り付くところでした……っ!

今からでも遅くありません! さぁ、熱いハグをするのです!」

 

「遅いよ!」

 

「エステルだけ?

リタが真っ先にブチキレてると思ったのに、妙に静かだね。

いつも、これくらい落ち着いてくれれば、……て、あ! しまった!

ゴメン、そんなつもり言ったんじゃ……、……、……あれ? リタ?」

 

 

カロルの本音に、いつものリタのげんこつ制裁が飛んでこない。

竜使いに一番因縁があるはずなのに、エステルと足並みそろえて殺意の業火を滾らせるわけでもない。

不気味なほどの静かな魔法少女に怖気づきながら、今一度よく観察してみると、彼女はまるで帰り道にUMAと出会ったように目を見開き、口をパクパクさせていた。

 

 

「リタさん? 結構ビビった顔してますけど、私に何か憑いてます?」

 

「なんで? なんで、あんた、平気な顔してつったってるの!?」

 

「リタさんが魔導器直してくれたお陰ですよ」

 

「フッ、バカね、桜。

魔導器のエアルを抑えただけで、根本的な解決をしていないのに、なんであんたが元気に突っ立ってるのか聞いてるの」

 

「……直ってないんですか?」

 

「エアルは止めたわ。けど、原因が分からないから、直しようがない」

 

「それは、いつ何かがきっかけて、また暴走する危険があるってことです?」

 

 

エステルが小首を傾げて放った一言に皆が硬直し、私は全身の血の気が引いた。

とどのつまり、直っていないという事か!?

思わぬ不意打ちに動揺する私を、ユーリとフレンが私の両サイドから腕を組んで持ち上げた。

 

 

「う、動けない。私をどこに連れてくの?」

 

「一旦街の外に出るぞ」

 

「そ、外!?」

 

「そうだね。彼女にとって、野営は辛いだろうけど、結界魔導器の被害に遭うよりマシだ」

 

「え? ええ!?」

 

「何、野宿がまだ慣れないってのなら、オレが覚えるまで手取り足取り教えてやるよ」

 

「如何わしいよ、ユーリ。僕がついているから、君は何もしなくてもいいんだからね」

 

「待って、私は平気だから」

 

「待てコラ」

 

 

私を担ぐ180センチ2人の後頭部にリタが投げた花瓶が直撃し、堪えきれず頭を押さて屈んだ。

鈍い音、相当痛かったのだろう、2人は私を解放し、揃ってリタに抗議の声を上げた。

 

 

「ってぇな、リタ」

 

「打ち所が悪ければ、意識が飛んでいたところだよ」

 

「常人なら、命がふっ飛んでだところよ。

素人の自己判断で、桜を連れ回さないの」

 

「だからって、暴力で訴えるヤツがいるか」

 

「ここにいるわ」

 

 

ユーリの抗議に、リタは仁王立ちで答えた。

ここにいる大半は、大抵物理攻撃から始まるのに、何を今更である。

……そこが異常なんだけど。

彼女はユーリとフレンの恨み辛みの視線など物ともせずに、ない胸を張った。

 

 

「桜を気遣うのは良いけど、早とちりしないで、あたしの話を最後まで聞きなさい。

あの子、結界魔導器がおかしくなった原因は不明だけど、ひとまずエアルを吸収する力を抑えたから、あんな異常は起こらないわ」

 

「でも、私見て、すっごく驚いてましたよね」

 

「それは……その。桜、気を悪くしないで聞いてね。

あの子がおかしくなった原因が、もしかしたら、貴方かもしれないと思ったからよ」

 

「私が、……私のせい?」

 

 

私がヘリオードに来たから、結界魔導器が暴走した?

一気に心拍数が上がり、息をのむ私の肩をユーリが優しく叩いた。

 

 

「あんま気に病むな。今回の騒動で一番大変だったのは、お前だろ。

オレたちや、この街の連中はなんともなかったんだ」

 

「ユーリ」

 

「ち、違うの、桜が原因じゃなかったから!

あんた普通に戻ってきたし、魔導器もなんともないから、あたしの考えが間違ってたのは確定したから!

わ、悪くないから、桜は悪くないのよ。

………ごめんね、変なこと言って」

 

「い、いや、私の方こそ。異常に動揺しすぎてゴメンなさい。

ちょっと、エアルに当てられすぎて、不安定になってたのかも」

 

「あの苛烈なエアルの嵐の中に晒されていたんだ。

君のような、繊細な女の子が情緒不安定になっても仕方ないよ」

 

「その繊細な私の前で、12歳児を剣で脅して見せる鬼畜な青年騎士が今まさにそこに居るですけど」

 

「心身共に疲れているようだね。今夜は僕がついているから、すぐに休んだ方が良い」

 

「なんだろう。根拠もないのに、今、"ついてる"が、"憑いてる"に聞こえた」

 

「幻聴よ。バカ騎士が添い寝なんて瞬殺もんだけど、苛烈なエアルは良い得てるわ」

 

 

フレンのデットボール食らいまくって幻聴きたす私に、リタは静かに突っ込みつつも、しみじみ頷いた。

 

 

「あんたが結界魔導器から離れて、ちょっと経った頃かな。

結界魔導器がエアルを蓄積し始めて、まさに熱した鉄のように真っ赤になった。

大方、吸収したエアルの量に対して、魔核の容量を超えたのね。

下手すれば、魔核が大量のエアルに耐えきれず爆発。

結界魔導器周辺、ううん、街ごと吹き飛んでたかもしれないわ」

 

「そ、そんなに……?」

 

「あのエアルの量は、あたしたちでも相当きつかった、苛烈なエアル量よ」

 

「私なら、即死ですね。逃げて正解だったかも」

 

「……。まぁ、なんだかんだあったけど、ね。

途中でエアルが弱くなったから、速攻術式いじって大人しくさせたの。

あんたがケロってしてるなら、もう大丈夫ってコトなんでしょ」

 

 

リタは少し口を閉ざした後、何事もなかったかのように適当に説明した。

途中でエアルが弱くなったのは、恐らくカロルが言っていた時と同時期なんだろうが。

魔導器の専門家はスルーしてたし、これで良いというなら、良いんだろう。きっと。

 

 

「後はアレクセイさんだよね……。

元気になりました! よし行って来い!で片付けばいいのに」

 

「どうやって、説得して、ドンに会いに行こうか」

 

「カロル先生の心は、もう偉大なるダングレストかよ」

 

 

私が自分の行く末を案じてる傍で、カロルはドンとの華麗なるご対面を夢見ていた。

私は出汁にされるのか。

ギルドに誘われたユーリがため息をつくのも無理はない。

事情も知らないリタたちにとってはまったく脈略がない話で、露骨に眉を顰められた。

 

 

「はぁ? ダングレスト? あたしたちと離れている間、何してたのよ」

 

「桜はダングレストに行きたいのです?」

 

「私というか、どっちかというとカロルがね……」

 

「ドンに何を聞こうかな~っ。ギルドの名前も決めてもらおうかな」

 

 

案の定、カロルは聞いていない。

笑って済ませていたユーリも、これには頭をかく。

 

 

「こりゃあ、朝一番に桜連れてダングレストへ直行するかもな」

 

「僕の前で、騎士団長を裏切る算段はしないでくれよ」

 

「お前のいないところでいいんだな」

 

「この街にいる限り、桜の傍に僕がいないことはないんじゃないかな」

 

 

ニッコリと言ってのけるフレンに、冗談半分だったユーリは身震いした。

涼しげにストーキングを公言した男は、鳥肌立ててる私の肩に優しく手を添えて、変わらぬ笑顔を向ける。

 

 

「今日はもう遅いから、早く横になった方がいい」

 

「フレンさんは騎士団に帰るんですよね、ね!」

 

「寂しがらなくても、僕は隣の部屋で君を見ているよ」

 

「寂しくないので、騎士団にご帰還願えますか。

というか、別室で見るって透視? 部屋とってたの!?」

 

「ほら、昨日、ベランダから失礼したのを覚えているだろう。

あんなこともあろうかと、事前に手配していたんだ」

 

「壁に全神経集中して聞き耳立てて、有事とわかれば外壁伝って、ベランダから突撃とか。

帝国騎士団て、忍者かアサシンですか。

鎧なんて重装備して隠密行動とか、フルメタル・ジャケッ○のハート○ン軍曹さえ実行しないですよ」

 

「まぁ、そう固まるなよ、桜。

フレンだけじゃない、オレたちも一緒だ。ほれ、ラピードも」

 

「ワフゥ」

 

 

サブ職にアサシンが付与しつつある騎士に恐れおののく私を見たユーリは、場の空気を和ませようとラピードをけしかけた。大きな欠伸は狙っているのか、このワンコ。

リタもつられて欠伸をし、ベットに潜り込む。

 

 

「桜の元気な顔も拝めたし、あたし、もう寝るわ。

……騒いだら殺すわよ」

 

「お、おやすみ、リタさん」

 

「うん、おやすみ~。

あんたもアホに構ってないで、さっさと寝なさいよ」

 

「う、うん。寝れたらいいんだけどね」

 

「大丈夫です。

桜の安眠妨害する全ての畜生は、わたしとリタで立ち退きを強行します。

ベランダから広がる遠い空へ、静かな深い海へ、遥か永遠の旅に出てって頂ければ、桜の安眠が守れます」

 

「守れてないだろ、私の良心が。

エステル、私の精神力がオリハルコンだと思って平然と鬼畜してない?」

 

「桜の心はマシュマロです。ふわふわですよ」

 

「わけわかんないこと言って、桜を困らせるんじゃないわよ。

あんたも眠いんだったら即寝るの、エステル」

 

「そうそう、リタさんの言うこと聞いて、エステルも寝て――え? リタさん?」

 

 

リタの微かな変化に耳を疑い、再度彼女に確かめようとしたが、既にベットに潜り沈黙していた。

今、エステリーゼではなく、エステルって呼んだ?

呼ばれた当人は、目を丸くしていたが、しばらくして感極まったように私の両手をとってブンブン振り回した。

 

 

「聞きましたか、桜!

リタが、リアがわたしのことをエステルと呼んでくれました!」

 

「聞いたから、聞こえたから、う、腕がもげる……っ」

 

「おいおい、あんま煩くしてっと、エステリーゼに戻っちまうぞ。

リタにとっては、渾身の一言だったんだからな、っとぉ」

 

 

図星だったらしく、皮肉を言うユーリ目掛けて、リタが枕を飛ばしてきたが、あえなく空を切った。

 

 

「火の玉飛んでくる前に、寝た方がいいな」

 

「ユーリが余計なこと言うからでしょ。もう、私も寝るからね」

 

「明日の件は、もういのか」

 

「時間ないし、皆疲れてるでしょう。

出たとこ勝負で、なんとかするしかないよ」

 

「そうかい。ま、考えが変わったら言えよ。

隣の部屋で、横になってっから」

 

 

私が空元気を出してると、ユーリは何気なく意味ありげな言葉を残して身を翻した。

また何か企んでたりするのか。幼馴染がこれを聞き逃すはずはない。

 

 

「寝るんじゃなかったのかい、ユーリ。

まさかとは思うが、また彼女を連れ回す気じゃないだろうね」

 

「昼間は結界魔動機、夜は竜使いで、繊細なお嬢さんの胸は不安ではち切れそうなわけだ。

……日頃、誰かさんから、やれ"デリカシーがない"、やれ"オトメゴコロがわからない""トーヘンボク"なんて、手厳しい指摘受けてたからな。

少しは、株上げとかねぇと」

 

「なるほど、一理あるな。じゃあ、僕はベランダで待機しているよ」

 

「なんでだよ」

 

「また竜使いが襲ってくるかもしれない。

桜に何かが起こった時、桜が僕を必要とした時、いち早く駆けつけられるよ。

これで、桜もぐっすり眠れるはずだ」

 

「ベランダから放たれる異様な存在感に、私の尊い安眠が消し炭になりそうだよ」

 

「風邪ひくかもしんねぇのに、潮風ビュンビュン吹き荒ぶベランダに居座ってまでして、オトメの寝顔を覗き見したいのか。

凄まじい下心だな、帝国騎士団小隊長さんよ」

 

「ち、違……っ!」

 

「静かにしろよ。リタがキレるだろ。

年頃の女の子が、野郎同室でグースカ寝れるわけねぇんだから、オレたちはとっとと退室、退室」

 

「わかった、わかったよ、ユーリ。押さなくてもいいから――」

 

 

顔を赤らめて否定するフレンをユーリは無遠慮に押しながら、部屋から退出していった。

取り残されたカロルもハッと、我に返る。

 

 

「じゃ、ボクも部屋に戻るね」

 

「おやすみ、カロル」

 

「おやすみなさい」

 

「おやすみ。あ、桜、明日頑張ろうね」

 

「うん」

 

 

やる気に満ちた彼を見送り、最後尾のラピードが後ろ足で器用にドアを閉じて、やっと静かになった。

……頑張って、解決できればいいんだけどね。

アレクセイの課題自体はクリアしたし、これ以上考えてもキリがない。体力を取り戻すために就寝しよう。

そう何度も自分に言い聞かせ、疲れに身を任せ、ベットに横になった。

 

 

 

 

 

 

 

そして、迎えた期日の朝。

旅立ちには相応しい快晴を迎え、新都市ヘリオードは清々しい空気に満ちていた。

人通りはまだ乏しく、警備の騎士が目立つこの街、この広場で、アレクセイとの対話の場を設けられたんだが。

 

 

「昨日に比べて、随分顔色が良くなったな」

 

「お、お陰様で」

 

 

対面する30歳後半くらいの凛々しいおじ様から笑顔を受けて、私は緊張のあまりボソボソと返した。

スーツ姿のおじさんでも構えてしまうのに、朝日に輝く白銀の甲冑に身を包み、溢れるカリスマ性を惜しむことなく醸す、帝国騎士団イケメン騎士団長に話しかけたら、どこの女子高生だってビビるだろ。

私の傍に、ユーリ、リタ、エステル、おまけにカロルとラピード、向こうはアレクセイ、秘書でクリティア族のクロームだけだとはいえ、張り詰めた空気は変わりない。

物々しい雰囲気に飲まれる私を、アレクセイはまるで娘の背中を押すように促した。

 

 

「そう硬くならずに、肩の力を抜いて、リラックスしてくれたまえ。

別に私は君をとって食おうとしているわけじゃない」

 

「毎度毎度スマイル対応して頂いて、大変申し訳ないですが、非常に威圧感マックスです」

 

「困ったな。隣のローウェル君みたいにはいかないか」

 

「うちのお嬢さんは、オレと違って繊細なんでね」

 

 

話題を振られたユーリは、ひょいと肩をすくめた。

よくもまあ、この重い状況で軽い口が叩けるもんである。

フレンにまた叱られはしないかと、目で彼の姿を追ってみるものの、その金髪美形騎士が見当たらない。

キョロキョロしだす私に、アレクセイは鋭い洞察眼を働かせて、フムと頷いた。

 

 

「愛人の姿を探しているのかね」

 

「ちげえええええええ!」

 

「失礼した。フレンが本命だったのだね」

 

「なんでだああああ! 驚くほど遠のいた! マントル遠ざかった! 」

 

「ハズレか。そうすると、誰が君の意中の男性なのか……。

巷では美形と有名なローウェル君やフレンを否定して、美形騎士団の護衛は断る。

ただしかし、私とは数回会っているのに、未だ緊張が取れず。なるほど、本命は私か……っ!?」

 

「ンなワケあるかあああ!

恐ろしく斜め上な結論打ち出してきたよ、帝国騎士団長! ロリコンか貴様!?」

 

「愛に種族も年齢も性別もないのだよ。

ついでに世の中には"一目ぼれ"と言う怪奇現象がある。回数は関係ない」

 

「変な釘刺すな! そして恋愛定番、奇跡の事象を怪奇現象いうな。

クロームさんも何か言って下さい!」

 

「これは騎士団長と貴方の話し合いの場です。

私に口を出す権限はありません」

 

「これ会議なの!?」

 

「これが会議であってたまるか!

おっさんが真顔でのろけてるだけでしょ!?」

 

 

恐れていたアレクセイとの恋バナに、リタまでもが青筋を立てた。

エステルが「アレクセイもありです」と親指をおったててるのは、あえて見なかったことにする。

騎士団長のあまりのけったクソぶりに、ユーリとカロルは呆然としていたが、辛うじてユーリが口を開いた。

 

 

「まさかと思うが、昨日の話し合いもこんな感じだったのか」

 

「うん、まぁ、なんというか……」

 

「緊張はほぐれたか、如月君」

 

「疲れただけです。てか、冗談だったんですか?」

 

「想像に任せる」

 

「え」

 

「フレンに関しては、別の任務を与えた。明朝出発して、ここにはいない」

 

「は、はぁ。えと、さっきの話……」

 

「本題に入ろう。君の処遇についてただ」

 

 

アレクセイは気遣いもつかの間、私に考える暇を与えず、本題を持ってきた。

わかっていたとはいえ、ついにやってきた運命の時に全身の筋肉が委縮し、リタとカロルが息をのむ。

アレクセイは私の目をまっすぐ見て、ゆっくり、しっかりとこう告げた。

 

 

「帝国騎士団は、桜 如月を経過観察とする」

 

「けいかかんさつ……て?」

 

「帝国騎士団の許可する範囲でのみ、自由行動を許可する、という意味です。

事故及び事件の際は、帝国騎士団の介入、貴方の護衛、保護を最優先とします」

 

 

クロームから解説を受けても、具体的に理解、解釈ができない。

黙考する私だけでなく、ユーリもいまいち納得できていない様だった。

 

 

 

「騎士団の許可する範囲でのみってことは、騎士団の目が届く範囲なら、旅を続けてもいい。

何かトラブルがあったりしたら、有無言わさず騎士団が連行って、解釈で良いんだな」

 

「そうだ」

 

「つまり、こいつに首輪つけるってわけだ。ザーフィアスに連れ戻すのと大して変わらねぇじゃねーか」

 

「そういきり立つな。

こちらとしても、如月君の傍に騎士を置いて、世間の注目を集めるようなマネはしたくない。

極力、直接関わらないように、見守らせて頂く」

 

「騎士団には透明人間でもいんのか。それともストーカーでも忍ばせる気かよ」

 

「これでもかなり譲歩したつもりだがね。

本来ならば、エステリーゼ様と一緒に帝都にお連れするところだったのだ。

不満があるなら、この話は無しにしてもいいが」

 

「帝国騎士団長様が一般人に脅しか、見上げた騎士道だ。反吐が出るぜ」

 

「ユーリ、ちょっといい?

私もアレクセイさんに聞きたいことがあるんだけど」

 

 

前回同様、雲行きが怪しくなってきたので、私は控えめに待ったをかけた。

私のため、相手が上から目線とはいえ、権力者相手に突っかかったところで、状況が好転するわけじゃない。

ユーリは深い息を吐いて、「わかった」と引き下がってくれた。

 

 

「アレクセイさん。その騎士って、どこまで私たちに干渉するんですか?

事故や事件って言っても、ピンからキリまでありますし」

 

「君たちにも気づかれない程度とだけ。

詳細を言えば、君たちは警戒して、避けようとするだろう」

 

「や、やっぱり、アサシン? ス、ストーカー?」

 

「はっはっは。我々は騎士だ。淑女の安寧を犯すつもりはない」

 

 

今日まで、お前の部下たちの奇怪な言動により、幾度ととなくSAN値ガリガリやられてるんだが、それはカウントしないのか。

ヒステリー騎士やエキセントリック騎士とその部下たちとのめくるめく地獄の日々が脳裏を過ぎり、その全責任者の穏やかに笑う様を睨みつけたら、ビクッと身震いして額に脂汗をにじませた。

 

 

「……君を大切にしたいのは、こちらとて同じだ」

 

「ヘー、……そうなんですか?」

 

「とはいえ、こちらの誠意が必ずしも、如月君の要望に添えるとは限らない。

結果、影ながら見守る形をとったのだよ」

 

「なるほど。守るにしても、守ってもらうにしても、お互いの信頼関係が大切ですものね。納得しました」

 

「ああ。だからこそ、こちらの出番がないよう、ローウェル君が全てを解決してほしい」

 

 

 

アレクセイから期待の視線を向けられたユーリは、まんざらでもない笑みを浮かべた。

 

 

 

「とりあえずは、信用されてるのかね。オレ」

 

「ただし、君の身に余る事態が起きれば、問答無用で介入すると考えてくれ。

状況によっては、彼女には帝都、城に滞在してもらうことになる」

 

「了解しましたっと」

 

「如月君もあまり気負いはせずに、いつでも我々を頼ってくれたまえ。

それは君の義理や権利の関係なく、我々が望んでいることだ」

 

「わかりました。いろいろしてくれて、ありがとうございました」

 

「君もよく頑張った。しばらく会えないと思うと、胸が張り裂けそうだが。

……君につける騎士、彼の日報を糧にするとしよう」

 

「やめてくれません。真顔で言うの」

 

 

アレクセイの本気とも冗談とも取れない発言に、私は真意が測れず悪寒がした。

少々混乱する私を差し置いて、彼は次にリタへと視点を移す。

 

 

「君には昨日の魔導器の調査を依頼したい」

 

「あれ、これ以上調べても無理。

朝、もう一回調べてみたけど、わかんないことだらけよ」

 

「いや、ケーブ・モック大森林に行ってもらいたい。

最近、森の木々に異常や魔物の大量発生、それに凶暴化が報告されている」

 

「あたしは魔導器専門。植物は管轄外。

それに、今回の魔導器騒動とどんな関係があるのよ」

 

「エアル関連ならば、管轄外ではないはずだ」

 

「エアルのせいねぇ。

……大森林って、ダングレストから近いの?」

 

 

「はい。ダングレストはここより西へ、ケーブ・モック大森林はさらに西へ進んだところにあります。

荷支度をするなら、最寄のダングレストで済ませることをお勧めします」

 

 

 

リタの質問に、クロームが丁寧に答えた。

ここから、更に西か。

ヘリオードへの旅路に現れた謎のクリティア女性の「西へ行くなら気を付けろ」という忠告を思い出す。

西へ西へ進んでいるけれど、もう気を付けなくてもいいよね。

今回みたいな件は、もうないと思いたい。

 

 

「ともあれ、リタさんと別行動にならなくてよかった」

 

「まぁね、貴方はあたしがいないと駄目なんだから」

 

「リタもダングレストに来るんだ。

また面倒起こして、大事件になったりしたら……ドンに会えなくなったらどうしよう」

 

「何? あたしがついてきたら、まずいって言うの?」

 

「ひぃっ! ……ないよ、全っ然ない!」

 

 

ドンとの障害予備軍登場に震えるカロルのミジンコハートは、リタの刺すような視線によって射抜かれ、更に縮み上がった。

この調子では、カロルの描くドンとの逢瀬は上手くいかないような気がする。

……私としては、レイヴンの一件もあるから、極力関わりたくないんだけどなぁ。

ユーリのために、紅の絆傭兵団の情報を聞き出せるなら、話は別だけど。

私たちが次の目的地ダングレストに思いをはせている間に、アレクセイはエステルへ話題を移していた。

 

 

「姫様、騎士団の準備が整い次第、帝都へ向けて出発致します。

それまでに、御用をお済ませ下さい」

 

「あ、あの、わたしも桜と同行させて下さい!」

 

「姫様、あまり無理をおっしゃらないでいただきたい」

 

 

エステルが無理も承知で頼んでも、当然アレクセイは首を縦に振らない。

そもそも彼女はフレンに用があって、城を飛び出してきた皇女だ。

 

その用も、ノール港でフレンに会ったことで済んだはず。

エステルは何を固執しているのか、諦めずにアレクセイに食いついた。

 

 

「エアルの調査なら、わたしの治癒術がきっと役に立ちます。リタを手伝わせて下さい!」

 

「しかし、危険な森に、姫様を行かせるわけには」

 

「危険などありません。

わたしにかかれば、有象無象からそこの社会のゴミまで、この剣でちょちょいと千年殺しです」

 

「なぜ、オレを見る」

 

「お願いです……っ。わたしも桜を守りたい」

 

「エステル」

 

 

彼女の絞り出すような懇願に、私は衝撃を受けた。

ザーフィアスの城で出会った頃から、並外れた異常さと友達への執念を発揮していた彼女ではあるが、ここまでの同行は先に述べたとおり、用事があったからだ。

騎士団と合流した時点で、大人しく帰るものだと思っていたのに。

彼女なりに、この旅路の中で思い悩んでいたんだ。

 

 

「エステル。私のために……」

 

「わたしが城にいる間に、桜とリタの友情度だけがUPしてしまいます。ずるいです。わたしだけのけ者です。

いいえ、もっと恐ろしいのは、ユーリとの恋愛度が上昇することです」

 

「……エステルさん?」

 

「フレンの恋愛度を上回る事態だけは避けなくてはいけません」

 

「心配しなくても、ユーリとフレンさんに恋愛度はないよ」

 

「ないのかよ」

 

 

ビックリ呆れる、ロン毛。

一方エステルは脳内で必死に好感度を演算中しているのか、うつむいてブツブツと独り言を並べていた。

 

 

「フレンは、今現在任務でどこにいるのかわかりません。

いいえ、目の前の騎士団長を締め上げれば、聞き出すことは容易いでしょうが、これから桜とフレンの恋愛イベントを起こすにしても、時間があまりにありません。

せめてフラグくらい立てておきたいですが、手回しにも時間が。

かくなる上は、先に邪魔者を消すしか……。

――アレクセイ、すみません、この場で御用を済ませますので、少し待っていて下さい」

 

「済ませるなあああああ! 軽やかに殺人予告するなよ!

ユーリに向けた剣仕舞え!私の感動を返せ! そして、その無意味で緻密な人間関係魔改造計画は捨てろ!」

 

「これは桜の輝かしい未来設計のためなのです。

ユーリは初めからいなかったものとして、涙を飲んで凌いで下さい」

 

「尊い犠牲の上になりたつ未来を強制するとか、お前は私に重大なトラウマ叩き込みたいのか。

ユーリも少しは動揺しなさいよ」

 

「いや、お前が止めてくれるかなと思って」

 

 

それは私を信頼していると理解していいのか。

 

 

「とにかく、わたしは桜たちについていきます」

 

「………。わかりました」

 

「本当です!?」

 

「この件のみ。くれぐれも無茶はされぬよう」

 

「はい!」

 

 

アレクセイが渋々承諾するのに対し、エステルが満面の笑みで返し、頭を下げた。

OKしちゃうんだ。

いくら目上とはいえ、いやいや皇族だからこそ、目を離してはいけない気がするが。

私の危惧は外れてはいないようで、アレクセイは再びユーリに目くばせした。

 

 

「青年。一度は騎士団の門を叩いた君を見込んで頼みがある」

 

「エステルの護衛か。なんでもかんでも見込んで勝手に押し付けやがって」

 

「エステリーゼ様が間違いを犯さないように、見張っていてほしい」

 

「な」「え?」

 

「フレンはこの結果を予期していたようだな」

 

「おい、見張るって何を、――フレン? はぁ!?」

 

「フレンから伝言だ。

『桜とエステリーゼ様を頼む。特にエステリーゼ様の思考がまったく読めない方向に進んでいるので、桜に危害が及ばないよう、くれぐれも注意しろ』だそうだ」

 

「桜に危害? 一体誰がです!?」

 

「お前だよ」「あんたでしょ」「エステルじゃん」

 

 

戦慄の走るエステル目掛けて、ユーリとリタ、カロルの総突っ込みが入る。

フレンよ。この短時間でそこまで洞察力が働いてたなら、なぜ無理矢理にでも城にバシルーラしなかった。

 

 

「けど、これでまた皆と一緒にたびを続けられるのよね」

 

「こりゃあ、のんびりとはいかねぇかもな。ラピード」

 

「アウ!」

 

「よーし! ダングレスト経由でケーブ・モッグ大森林だね! 早速出発しよう!」

 

「なんであんたがノリノリで仕切ってんのよ!」

 

「カロルは、自ら先陣を切ると言ってくれているのです。

私たちはのんびりまったり生盾……もとい、カロルの後に続きましょう」

 

「え、ボク先頭なの!? 魔物凶暴化してるって、大量発生してるって言うのに! もしかして殺す気!?

あ、でもユーリも一緒に来てくれるよね? ね!」

 

「カロル先生が夢の都ダングレストまで、全力で道案内してくれるんじゃねぇの?」

 

「"え? 当然でしょ?"って、顔で言わないでよ!

道案内はするけどさ、するけどね? 先頭でなくてもよくない?」

 

 

頼りのユーリに手を払われ、カロルは半泣きになった。

ギルドを作ると言ってた時とは大違いだ。少年は退化していた。

この調子では、ギルド立ち上げたところで、ユーリにおんぶにだっこじゃなかろうか。

そんな彼が憧れるドンって……。

一抹、いや絶大な不安を抱え、私たちはダングレストの旅路へと足を運んだ。

 

 

 

 

■続く■




これにてヘリオード魔導器暴走編は完結、次回はダングレスト突入です。
なんとか次に駒を進めることが出来ました。

アレクセイの妄想人物像が「年頃の娘と恋愛話をして盛り上がる親父」に固まりつつあり、掛け合いを作成してる時はニヤニヤしております。
皆様も「威圧感と威厳漂う美顔おじ様が、女の子をいじって楽しむ様」を妄想頂けると幸いです。
フレンは飛天翔駆でワープが定着しつつあります。

180センチの兄ちゃんが両刃剣突き出し、空から降ってきたら、カロルでなくてもインパクト絶大かと。
そのうち鳳凰天駆ダイナミック入場にグレードアップするかもしれない。

次回はダングレストですが、ドンの妄想が固まっておりません。
物語自体、ああしたい、こうしたいとか勝手に考えてるのですが、キーキャラであるドンが固まらないです。
とりあえず、シナリオ本片手に頑張ってみようと思います。

それでは。



瑛慈 翔
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