明星の意思、常闇の暁光   作:瑛慈 翔

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【第30話】何を信じて 誰を頼って

桜の手料理が食べられる。

宿屋の厨房にて、あたしは浮足立つ心を抑えながら、調理に取り組む桜を眺めていた。

規則正しく野菜を刻む音、手際よく具材を炒めて、あっという間にカレーを作るそのさまは、とっても手慣れているようだったわ。

この食欲をそそるスパイスの香りが堪らない。

 

 

桜は自信がなさそうにグジグジ言ってたけど、なかなかいい出来じゃないの。

美味しいに決まってる。このあたしが保証するわ。

……ケチつけるヤツは、皆まとめて地獄行きよ。

 

 

見たところカレーは完成してると言ってもいい。

なのに、桜にはこだわりがあるのか、一味つけたいとあたしにそれを押し付けて、ケータイを取りに部屋へ戻ってしまった。

 

 

食材を適当にぶった切って炒めるぐらいしかしたことないあたしが、桜の料理なんて引き継げるわけないでしょ。

あたしに、無茶なことさせんな!

断固拒絶したかったけど、あの子がせっかくやる気を出しているんだし、手伝ってあげなきゃ悪いわよね。

 

 

自分に言い聞かせて、桜が戻ってくるまで、カレーをかき混ぜながら、待つこと数分。

……遅い。遅すぎる。

ケータイってのは、そんなに時間がかかるものなの?

 

 

身動きとれなくてイライラしていると、宿屋のドアが開いた。

戻ってきたのは、クタクタになったガキんちょだけか。

こいつ、ユーリを探していた時から、おかしかったけど、何か不味いことでも起こったわけ?

またトラブル? 災難の元は、やっぱりあの男か。

 

当のカロルにユーリの行方を聞いたら、アホ騎士に会った後ではぐれたとか。上手いこと撒かれたようね。

ユーリも桜も何しているんだか。

もうこうなったら、カレーはカロルに任せて……ダメダメ。これは桜にお願いされたんだ。あの子が戻ってくるまで、あたしが管理していないと。

ガキんちょにつまみ食いなんてされたら、この手でぶっ飛ばさないといけないわ。

 

 

あたしは、辛抱強くカレーを焦がさないよう慎重にかき回した。

傍でガキんちょがやたら桜の名前を連呼するから、あたしも段々怪しくなってきたじゃないの。

居ても立っても居られなくなった頃、宿屋の扉が重く開いた。

 

 

そこには、ユーリに連れられて神妙な面持ちで立っている桜の姿があった。

部屋に戻ていた桜が、なんで宿屋の外から、しかもユーリと一緒に戻ってきたの?

「待たせてごめんなさい」と、ユーリから逃げるようにあたしの元へやってきたその子の目が赤い。

 

 

カレーを桜に委ねたあたしは、脇目を振らずにあの子の保護者にパンチをお見舞いした。

腹を狙ったはずが、易々と片手で受け止められてしまう。ええい、往生際の悪いヤツめ。

 

 

こいつの生き死になんて、どーでもいいわ。

問題すべきは、ケータイを取りに行ったはずのこの子が、何をどうして泣きはらした顔してあんたと一緒に帰ってきたのかってことよ。

ユーリは「緊張の糸がほどけただけだ」とか誤魔化していたけど、誰が信じるか、そんな見え透いた嘘。

 

 

きっとこいつに意地悪されて、桜を泣かせたんじゃないの?

……まさか、この子と一線を越えたとかないでしょうね!?

 

 

怒りが収まらないあたしがもう一発拳をお見舞いしようとしたけど、桜から「なんでもない」と笑顔で止められて、何も言えなくなってしまう。

あんたにそう言われると、これ以上言及できないじゃない。

 

 

腑に落ちないまま、あたしは皆と一緒に食卓を囲って、桜の手料理を頂いた。

ユーリは、後で桜がいないところで必ず絞める。

胸の内で固く決意をして、お手製カレーを一口頬張った。

具材の甘い食感、口に広がるコクと香り、まろやかさが辛みを程よく和らげてくれて、旨味が際立つ。

 

 

――美味しい。

 

 

思わずこぼしたあたしの賛辞に、桜は顔をほころばせた。

良かった。やっぱり、あんたは笑顔の方が良いわよね。

 

 

カレーだって、これなら誰も文句はないでしょうと、高をくくっている傍から、ユーリのお代わりが入った。

ガキんちょも急いでカレーを掻き込んで、遅れまいと、お代わりを要求する。

 

 

お、おのれ、あんたたち、あたしを差し置いて、カレーを横取りする気?

あたしの分までなくなったらどーすんの!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

何を信じて 誰を頼って

 

ツッコんでは まだ揺らいだ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数々のギルドがひしめき合う、夕暮れの街ダングレスト。

時刻は昼前だというのに、空はまるで私の今の心境のように、赤とオレンジのコントラストに染まっていた。

私が人間やめかけていて、始祖の隷長なんて未知の生物に進化しつつあるのは、デュークの遠慮の欠片もない説明で理解はした。実感ないし、納得していないけど。

今日、何かの拍子で私の正体が暴かれるかもしれない。私を見る目が変わるだろう。もう皆とはいられない。

いつも私に守り、助けてくれた彼だって、きっと離れてしまう。ずっと一人で思い悩んでいた私であったが、更なる事件が目の前で起こった。

 

 

(彼が……彼が、あの時ラゴウを)

 

 

昨晩、宿屋で呆気なくラゴウの手下に攫われた私は、突如闇夜から現れた彼に救出された。

4度も窮地から救い出してくれた彼に微笑みかけられ、私は安堵し、彼の言うままに目と耳を塞いだ。

ダングレストの結界魔導器で暗殺者を退けたように、易々とラゴウを懲らしめるのだろう。

私はなんの疑いもなく、無邪気に彼を信じていた。彼がこれから惨劇を引き起こすとも予期せずに。

 

 

(約束を破るんじゃなかった。見るんじゃなかった)

 

 

あの時、私が彼を信じて目を閉じていれば、こんな感情が芽生えることはなかっただろう。

彼が怖い。彼がわからない。そもそも私は彼の全てを知っているわけなかったんだ。

 

 

(殺した。人を殺した)

 

 

月光の下、私が目を見開いたのも知らず、彼は躊躇することなくラゴウを斬って捨てたのだ。

これまで私を守ってくれていた一振りの刀から、真っ赤な鮮血が滴る。

彼がどんな顔をしていたかわからない。彼が何を考えているか、わからなくなった。

ついさっき人を殺めた手で私を掴み、笑顔を送る彼が理解できなくなった。

優しくて強くて心の拠り所であった彼が、まったく異質のものに見えた。

彼が彼でなくなってしまった――。

 

 

 

 

 

「――桜。桜。 どうかしたのです?」

 

 

今にも発狂しそうになる私に、鈴の音のような声が届く。

ハッと顔を上げた先には、エステルの心配そうな顔が間近に飛び込んできた。

 

 

「ちょっ! ……びっくりさせないでよ」

 

「脅かすつもりはありませんでした。

何度も声をかけたのに、ずっと俯いていたままでしたので。具合でも悪いのです? 」

 

 

彼女に小首をかしげられて、私は慌てて周囲を見回した。

ここはダングレストの大橋、近くには、荘厳な馬車が停まっている。そういえば、私たちは帝都ザーフィアスに帰るエステルを見送りに来たのだ。

私はしつこくフラッシュバックする忌まわしい記憶を頭の片隅へ追いやり、平静を装いながら、回復魔法をかける勢いで近づいてくる彼女を押し戻した。

 

 

「ごめん。どこも悪くないから。

ここのところ、怒涛の日々だったでしょ。まだ緊張してるみたい」

 

「そうなのです? また無理をしていませんか?」

 

「してないしてない」

 

「嘘がバレバレよ。昨日も眠れなかったんじゃないの」

 

 

尚も迫るエステルを抑えていると、私と寝所が同室だったリタが追撃してきた。

例の事件の後、眠れなくて、何度も寝返り打っていたから、気づかれて当然だったかも。

思わぬ総攻撃に目を泳がせていると、エステルは更に私のパーソナルスペースを侵して迫ってきた。

 

 

「聞捨てなりません。リタの話は事実なのです?」

 

「一晩くらい眠なくても、平気だってば」

 

「いけません。桜はこれから自分の為の旅を続けるのです。

体調管理を怠ってはいけませんよ」

 

「子供じゃないんだから、寝れる時には、寝るよ」

 

「眠れないと言うならば、フレンを抱き枕に」

 

「するかああああっ! 何を根拠にそんな如何わしい発想がわいてくるんだ貴様!

金髪碧眼イケメン騎士傍らに設置なんつう暴挙にでたら最後乙女回路が理性諸共爆破するわ! 別の意味で眠れそうだよ、永遠にな!!」

 

「ではやはりジュディスの言っていた、女の子の日です?」

 

「違うつってるでしょうが!

なんの恥ずかしげもなく新たに刻まれた私の黒歴史を掘り起こしさないで!

私の残り少ない尊厳が羞恥心で消滅しそうだ!

てか、ここまで引っ張ってくるか普通!?」

 

「フレンなら理解してくれました」

 

「しなくていい」

 

「そんな。ユーリがいないこの時がチャンスなのに」

 

 

いや、あんたは彼がいよういまいが、構いはしないだろ。隙あらばフレンをごり押ししてくるエステルに私はあきれながらも、別の意味でホッとしていた。

常に私の隣にいた彼は今、ラピードと共に宿屋で休んでいる。正直に「あんたの殺人を見てました」なんて言えず、彼も彼で普段通りに接してくれるものだから、正直辛くてやりづらい。

悩む私が余程疲れたように見えたのだろう、カロルが物思わし気に私の袖を掴んだ。

 

 

「桜。やっぱり休んだ方がいいよ。宿屋に戻れば、ユーリだってついてるんだからさ」

 

「ありがとうカロル。緊張だって、皆といれば、そのうちほぐれるでしょう」

 

「ユーリ呼んでこよっか?」

 

「う、うーん……。休んでいる彼を起こすのも悪いし」

 

「桜のためなら、疲れなんてへっちゃらだよ。

どんなことがあってもユーリは、桜のところへバーンとやってきて、悪い奴をズバババッってやっつけてくれるんだから!

ユーリがいれば、桜も安心だよね!」

 

 

無邪気に笑うカロルから彼の名前をばんばん突きつけられ、私の心は激しく揺れた。

ひょっとして、ラゴウを殺したのは、私のせいでもあるのか。ラゴウから、完全に私を守りきるために。

一抹の不安が過るも、カロルはぐいぐいと私の手を掴んで引っ張った。

 

 

「何を今更遠慮してるのさ。ユーリだって、絶対桜がいなくて寂しいに決まってるよ。

エステルが行っちゃう前に、早く宿屋に戻って連れてこようよ、ねえってば」

 

「い、いいって! そんなに引っ張らないで。彼は私が居なくても、平気だから」

 

「平気なわけないでしょ。スタンドプレイが常習化してるんだから。

あんたが一人にでもなろうものなら、窓から天井から空から降ってわいてくるわよ、あいつは」

 

「リタさん、まるで彼が糸吐く節足動物のようですよ」

 

「害虫駆除してくれる点では同じよ。

あんたを狙うバルボスもラゴウもいなくなったんだから、気が抜けてるようだけど。

あいつのことなんて、放っておけばいいのよ。あたしがいるんだから、身構えなくていいの」

 

「リタさん、ありがとう」

 

「べ、別に……。あんたの傍にいるのは、当たり前なんだから」

 

「わたしも桜をお助けしたいのですが。残念です。ここでお別れですね」

 

 

私とリタのやり取りを傍で黙って見守っていたエステルであったが、評議会の人間だろうか、ラゴウによく似たローブの老人が彼女の隣に来たのに気づいて、寂し気に微笑んだ。

その強がりが痛々しくて、私たちを包む空気がずんと重くなる。

誰か場を盛り上げなければ、笑顔で彼女を送ってあげなければと考えているうちにも、カロルは堪えきれないように本音をこぼした。

 

 

「ここでお別れなんて、ちょっと残念だったな。

クオイの森から、ずっと一緒だったんだもん。寂しいよ」

 

「その気持ちだけでも嬉しいです。カロル。

今度、桜とリタと一緒にお城へ遊びに来てください」

 

「エステル、ガキんちょ相手に常套句を使わないの。本気にするわよ、こいつ」

 

「ダメなの? ギルドと帝国で友好協定が結ばれたら、ギルドだって帝都に入りやすくなるよ」

 

「限度ってもんがあるでしょ。空気読みなさいよ」

 

「帝国がおちつけば、桜も重要参考人として召喚されるでしょう。

リタもカロルも、同行者として認められるかもしれません」

 

「ホント!? じゃあ、また皆でエステルに会えるんだ!」

 

「エステルが保証してくれるならいっか……」

 

 

お姫様スマイルを傾けてるエステルに、カロルとリタは色めき立ち、逆に私はさらに沈み込んだ。

そういえば、私はシャイコス遺跡の参考人で、帝国騎士団の管理下にあるんだった。

ヘリオードの一件で、条件付きで自由にさせてもらっているだけで、私もいつかは帝都に行かないといけないのだろう。

押し黙る私に気付いたのか、エステルはきゅっと握拳を掲げた。

 

 

「心配は無用です。わたしがついています!」

 

「まさか殺す気では」

 

「貴方に危害を加える評議会の腐った方々は一人残らず、私とフレンで成敗して、最後にはハッピーエンドです」

 

「やっぱり抹殺かよ! バットエンドの間違いだろ!?

可愛らしいガッツポーズから、絶叫と血生臭い未来を彷彿させるとか、どんなミステリー!?」

 

「物の全てを片付けて、めでたくフレンとバージンロードではないのです?」

 

「めでたくないわ! なんでコミュニケーションがドッジボールな帝国騎士団小隊長とくっ付くなんて末恐ろしい妄想するんだよ! フレンさんの意志を蔑ろにすんな!

私の精神が秒で消し飛ぶだろ! 察しろお前!

私とフレンさんは潔白だって、何度言わせれば済むの!?」

 

「フレンは昨日付けで隊長に昇進しました」

 

「え? 出世したってこと? 何かお祝いした方がいいのかな」

 

「貴方をプレゼントですね、おいしく頂かれてください」

 

「頂かれて堪るか。フレンさん嘔吐させっぞ」

 

「バルボスもラゴウも退けた今、貴方を脅かす輩はいません。

フレンと一緒になって、存分に仲良くなって下さい」

 

「……姫様、そのことなのですが」

 

「はい?」

 

 

ドヤ顔で殺る気を振りまくエステルであったが、傍にいた評議会員に呼び止められて、眉をひそめた。

彼からただならぬ雰囲気を察したのか、エステルは私たちから離れてこそこそと何か話し始める。

耳を立てていれば、十分聞こえてしまう距離だったのだが、問題なのはその内容であった。

 

 

「ラゴウ様は昨夜から行方不明なのです。

詳しくはわかりませんが、今も足取りを途中なものでして……」

 

「どういうことなの……」

 

 

捕らえていたはずの執政官の現状を耳にして、エステルの不安げな表情が焦燥の色へ変わる。

ラゴウは彼の手によって殺され、この大河に落とされたのだ。この急流から察するに、探し出すのは困難だろう。

そんなことなど知りもしないリタは、怯える私の肩を優しく叩いてきた。

 

 

「どうせ処罰が怖くて逃げ出したんでしょ。

性懲りもなくあんたの前に現れようものなら、ちゃちゃっと墨屑すればいいじゃない」

 

「た、頼りになるわ……」

 

「まぁね。あんたは、自分のことだけ考えてればいいの。余計なことは考えない。

あたしがついてるからには、絶対あんたのことを解明してみせるわ」

 

「ええ……、まあ。ところで、カロルはどうするの?

流れでここまで来ちゃったけど、確かギルド作るって言ってたよね」

 

「うん。でも、まだユーリからきちんと返事もらってないんだ」

 

「何をバカなこと考えてるの、ガキんちょ。

あいつは桜の保護者みたいなもんなのよ。おいそれとあんたのギルドに下ると思う?」

 

「もちろん! 桜だってギルド要員だよ。一緒に来てもらうんだから」

 

 

ね!とカロルから輝かしい目で同意を求められて、私は大いに戸惑った。

ギルドと言われると、天を射る矢や紅の絆傭兵団を連想してしまう。

戦いに長けた彼を仲間に引き入れるならともかく、私に何を期待しているんだか。

 

 

「非戦闘員である私に何ができるって言うの」

 

「料理人だよ」

 

「冗談だよな。冗談だと言ってくれ、ミジンコも笑えんわ。

一介の女子高生にシェフなんて物クソ重いプレッシャーを与えるな。柔なハートが今にも瓦解する」

 

「だって、あんなに美味しいカレー作れるんだよ。皆だって、朝もお代わりてたじゃないか」

 

「たかが小娘のカレーで胃袋懐柔されてるんじゃないよ。

家庭料理がちょっとできる程度の私に何を求めてるだ、この少年は」

 

「ギルドは何も戦うばかりの集団じゃないさ。

武器の生産や商人、魔導器の発掘とかいろんなギルドがある。料理人もそのひとつだよ」

 

「つまりは、世間に通用する以上のものを私に求めているんだな、私の尊い胃はストレスマッハで決壊しそうだよ」

 

「ねー、桜、ボクのギルドに入ってよ。ユーリだってついて来てくれるからさ」

 

「待ちなさい。桜はあたしのところで面倒をみるのよ。勝手言わないで」

 

「毎日、ボクたちに手料理振舞ってくれるだけでもいいからさ」

 

「……桜の料理が毎日食べられる。それもいいわね」

 

「よくないよ、リタさん」

 

 

あわよくばカロルの馬尻にのろうとしたのか、リタは喉を鳴らして頷いた。

お前まで胃袋を犯されたのか。テルカ・リュミレースも末だな。

新たに降りかかった難題に右往左往する私と、にじり寄る2人の光景を眺めていたエステルは、嬉しそうに両手を合わせた。

 

 

「桜の手料理ですか。是非わたしも頂きたいです」

 

「ごめん、カレーは今朝食べた分で全部なの」

 

「そうなのですか……。あ、でも、次の機会があれば」

 

「姫様、そろそろ……」

 

 

言葉を取り繕うエステルであったが、評議会員が時間だとばかりに一歩前に出てきた。

私たちがあれこれ掛け合っているうちに、引き止めていたよううだ。

一瞬表情を暗くした彼女は、しずしずと私たちへと向き直った。

 

 

「ごめんなさい、もう行きます」

 

「こっちこそ、最後の方はカロルのギルド話になっちゃって、ごめんね」

 

「構いません。楽しそうな皆の姿が見れて、ホッとしました。

これで心置きなくお城に帰れます」

 

「桜の面倒はあたしが見てるから、それまで大人しくしてるのよ」

 

「はい。わたしの代わりは、リタに任せました。

どうか、リタの魔術で、桜に近づく有象無象の野郎たちを屠ってください」

 

「任せて。この子に言い寄るバカどもは、あたしがこの手で一人残らず消し炭にしてくれるわ」

 

「止めて、私の前で手と手を握り合って殺意全開で歪んだ友情育むの」

 

 

エステルとリタが固く握手する様を見て、挟まれた私は悪寒が走った。

エステルのように、リタも暴走するのか、ボケ要員が彼女一人に集中するのか。

魔法少女の取扱説明書が欲しい。

今後迎えるだろう新たなカオスに、内心頭を抱える中、エステルは私たちに深々と頭を下げて、評議会員とともに騎士団の元へと歩いて行った。

彼女の背中があんなにも遠い。文字通り遠くの人になってしまう。

名残惜しそうに眺めてしばらくすると、リタがくるりと踵を返して、私を指さしてきた。

 

 

「さて、エステルを見送ったことだし、桜のことを調べないとね」

 

「ははは……っ。そうなるんですね」

 

「何引きつった顔してんのよ。注射じゃないんだから、怖がらなくてもいいでしょ。

アスピオで調べたっきりだから、一旦宿屋に戻ってから徹底的にやるわよ」

 

「リタさん。私、実はかなり疲れていて……」

 

「バイタルチェックもしたいわね。桜は寝てて。あたしがその間に調べるから」

 

 

私が暗に延長をお願いしても、リタは一貫して調査を優先してきた。

ついに、私の正体が白日の下にさらされる時がやってきたのか。高校入試とは比べ物にならない緊張が両肩にのしかかる。

宿屋へ向かう足が鉛のように重くなった。

そんな私の隣を鼻歌交じりで歩くリタ、反対側で軽い足取りで並ぶカロル。

今すぐ脱兎のごとく逃げ出したい気分だが、んなことした日には、両端の2人から腕をロックされるだろう。

そうでなくとも、あの彼が追いかけてくるに違いない。全ては彼らの善意によって行われるんだ。

宿屋が処刑台の入り口のように見えて、自然と頭まで痛くなってきた。

 

 

(四面楚歌、五里霧中……私の人生が終わった)

 

 

こんな時にデュークがいてくれれば。いや、コミュニケーション能力が怪奇な彼を隣においたところで、話が銀河へ飛んでくだけだ。

一歩また一歩先へ進む度に、胸がすんずんと沈んでいく。

やがて宿屋の入り口までやってきた頃、困り果てた私を追い打つように、異変が起きた。

なんの前触れもなく、全身の毛がよだつような胸騒ぎがして、形容し難い感覚が体の芯から湧きだしてきた。

 

 

「うう……っ!」

 

「桜!」

 

 

唐突な衝撃に耐えきれず、私は胸を押さてよろめくと、リタとカロルが両脇でさせてくれた。

竜使いとは比較にならないほどの何かが、胸の内で激しく暴れまわり、私の感情を掻き立てる。この苛立ちはなんだ。

滾るような怒りの波が、だんだんと強くなってくる。

釣られるように空を見上げる私であったが、リタにすごい剣幕で両肩を鷲掴みにされ、叶わなかった。

 

 

「桜! どうしたの? 胸が痛いの!?」

 

「いきなりどうしちゃったの、桜! いきなりフラフラしちゃって、どこ見てるのさ!」

 

 

リタは私の様を見て焦り、カロルがオドオドし始める。2人とも、私の為に声をかけてくれているのに、肝心の私の意識は空の彼方だ。

こうしている間にも、着々と波が近づいてくる。

彼女たちの声を聞きつけたのか、宿屋の扉が大きく開いて、彼とラピードが飛び出してきた。

 

 

「おい。 桜がどうした?」

 

「ユーリ! 桜がなんか変なんだ!」

 

「はぁ?」

 

「突然胸を掴んで苦しみだしたと思ったら、この通り上の空なのよ! 見りゃわかるでしょ!!」

 

「リタはどいてろ」

 

「あ、ちょっと!」

 

 

彼はリタを引きはがすと、入れ替わる形で私を抱えた。

頭はグラグラして、意識が遠退きそうになる。エアル酔いなのか。

焦点が定まらない中、彼の真剣な表情、黒い瞳が私の視界に入った。

 

 

「桜、オレだ。わかるか」

 

「くる。近づいてくる」

 

「来る? なんでもいい。しっかりしろ、桜」

 

 

私の不可解な発言にも、彼は辛抱強く私の目を見て、意識を引き戻そうと肩を強く握った。

人を殺した手。彼が人を殺した、あの恐ろしい記憶が再び脳裏でフィードバックし、私の心が大きく揺らいだ。

――私……私は。

急に静かになる私の異変に気付いたのか、彼は一度私を揺さぶった。

 

 

「気を確かに持て、真っ直ぐオレを見るんだ」

 

「……」

 

 

艶やかな黒髪に、整った眉目、その闇色の瞳が、必死に私の心を捉えようとする。

そんな彼を差し置いて、私は今まさに急接近する何かを捉えていた。

行かなければ。あれが来ている。

 

 

「桜! 待て!」

 

「どこ行くの!?」

 

 

私は滑るように彼の腕から逃れると、一目散に道を引き返した。

後ろから3人が追いかけてきているが、私の意識は完全にあれの側にいっている。

早く駆け付けなければと考えている矢先に、前方から大きな爆音が鳴り響き、大きな黒煙が立ち上り始めた。

続けて、1発2発と振動がして、立ち上る煙が増えていく。

近い。あそこか。

あれの気配を追っていると、1匹の大きな鳥、火の鳥のようなあれが燃えるような大きい翼をはためかせ、大空を旋回しながら、目下騎士たちを襲っていた。

 

 

「桜。なぜここに!?」

 

 

大橋までやってくると、傷だらけのフレンが剣を杖にして、膝まづいていた。

見れば、あれの攻撃に巻き込まれたのだろう騎士たちが、ところどころで呻き声を上げながら倒れている。

逃げずに真っ向からあれに挑んだのだろうか。

彼は重い身体を押して立ち上がると、私の元までやってきた。

 

 

「君1人で、ユーリたちはどうしたんだ」

 

 

私1人で問題ない。

彼らだって、放っておいても追いついてくるだろう。

問題なのは、エステルの方だ。この流れは非常にまずい。

私があれの方へ向かおうとすると、フレンが私を倒れるように私の前に立ちはだかった。

 

 

「あの魔物は、僕たち騎士団が引き受ける。君はユーリたちの元へ戻るんだ」

 

「……」

 

「桜?」

 

 

私はフレンを一瞥すると、呆気にとられる彼の脇を通り過ぎて、私はさらに進んだ。

今の私には猶予はない。この間にも思考がぶれてしまいそうだ。

私である間に、あれと上手く話が出来ればいいんだが。などと思考がまた鈍った時、何者かが私の腕を掴んで止めた。

 

 

「やっと追いついたぜ。いつの間に、かけっこが得意になったんだ?」

 

 

彼は私の腕を引き寄せ、あっという間に自身の背中へとまわした。

ああ、また私を庇うのか。また思考が揺れてしまう。

続いて、リタ、カロル、ラピードが私の行く手を阻むように前へ出てきた。

 

 

「こんな時にこんな状況で何渦中にとびこんでるのよ!?

死にたいっていうなら、あたしがひっぱたくからね!」

 

「桜1人で危険なところへ行っちゃうなんて、ダメじゃないか!」

 

 

2人が私にしつこく糾弾してくる。

私はただあれと話がしたいだけなのに。

彼らは、私の思いに反して、話を進めていた。

 

 

「ユーリ! ここは危険だ。早く、桜とエステリーゼ様を……安全なところまで、頼む」

 

「騎士団隊長様がなんてざまだよ。言われなくとも、2人まとめて頼まれてやる」

 

 

再び地に膝をつくフレンの願いを、彼は得意げに引き受け、あれに目をやった。

彼の横顔、警戒色が濃い。

 

 

「カロル先生、あの魔物はなんだ?」

 

「ううん。ボクも見たことがないよ」

 

「なんでもいいわ。ぶん殴られたら殴り返す! やられる前にやる! 黙っていようがぶっ飛ばす! 要はとっとと倒しちゃえばいいって話よ!」

 

 

胸を張って断言したリタが、早速火球の魔術の詠唱に入る。

無駄だ。あれはファイヤーボール程度で傷付いたりしない。

それより急いで、エステルを探し出さなければ。私の時間は有限だ。

エステルの気配を辿ってみれば、彼女は大橋の真ん中で、倒れた騎士に治癒術を行使していた。

急ぎ彼女の元へ駆け出そうとするも、彼に腕を捕まれたままならない。

 

 

「っと、行かせねぇよ。エステルが心配なのはわかるが、ひとまずオレたちに任せろ」

 

「……」

 

「やけに無愛想だな、お前。どうしちまったんだ」

 

 

再び彼の眼光が私に注がれる。彼によって三度揺れる思考。

今の私はどうでもいい。エステルの命の方が危ない。

ゆっくりと彼女の近くまで舞い降りてきたあれだったが、妨げるようにリタとウィチルの火の玉が1発2発と被弾する。

だが、その体躯を揺るがすこともできなった。

 

 

「バカ鳥! 相手はあたしよ!」

 

「こっちにこい!」

 

 

2人が尚も魔術を当てるものの、あれは見向きもしない。

あれが見ているのは、エステルのようだ。

私たちが目を見張る中で、あれはとうとうエステルの前までやってきてしまった。

 

 

「わたしを狙っているの?」

 

 

エステルも自身が直面している危機を察したのか、身体を強張らせ、恐怖で動けないようであった。

この局面で、あれは今の私よりエステルの方が優先というワケか。私に黙って見ていろと。

さてどうしてくれようと思案していると、後ろから新たな騎士団の増援がやってきた。

その中には、見知った顔の男アレクセイの姿もある。帝都へ戻ったのではなかったのか。

これには、話していた当のフレンも、目を見開いて驚いた。

 

 

「騎士団長……。どうしてここに」

 

「騎士団の精鋭が……! やむ得ないか。ヘラクレスでヤツを仕留める!」

 

 

アレクセイが厳しい表情で指示を出すと、騎士たちが動き出した。

ヘラクレスが何かは知らないが、やむ得ないということは、……嫌な予感が脳裏に過る。

エステルだけでなく、あれが傷つく可能性が出てきた。

そうなれば、こちらとしても、やむを得ない。

――私はエアルを食って力を得ると、彼の腕を振りほどいた。

 

 

「な!? 桜、お前!」

 

 

手を伸ばす彼を大きく振り切り、一直線にエステルに元へ走る。

私を逃して呆然とする彼に、カロルの非難の声が届く。

 

 

「何やってるのさ、ユーリ!」

 

「なんだあのバカ力は、細腕でどうにかなるわけねぇだろ」

 

「ぼやっとしてないで、桜が行っちゃうわよ!」

 

「わかってる! 考えるのは後回しだ。桜を追うぞ!」

 

「ローウェル君、待ちたまえ! もう手は打った!」

 

「冗談! あいつらが食われるのを黙ってみてられるか!」

 

 

後ろの方が騒がしい。微弱とはいえエアルを吸収したせいか、代謝が上手くいかないこの身体がなんともどかしいことか。

問題のエステルは、駆け付けた私を見るなり、破顔したのもつかの間、意を決したように武器を取ってあれと対峙した。

 

 

「桜は下がっていてください……っ! あの魔物の狙いは、わたしです!

フレンが倒れている今、わたしが桜を守ります」

 

 

そういうわけにもいかない。

あれは私たちを威嚇するように大きく翼を広げ、殺意のある声で予想通りの台詞を人の言葉で綴った。

 

 

「忌マワシキ、世界ノ毒ハ消ス」

 

「人の言葉を喋った……?」

 

 

やはり殺しに来たのか。

今なら理解できる。エステルの力が今の私とあれにとって、死に至らしめる脅威であることを。

けれど、ここまで世話になってきた縁だ。何も知らず、理解も覚悟もできずに、彼女をやらせるわけにはいかない。

 

 

「あ、桜、前へ出てはいけません!」

 

 

私はエステルの制止を遮って、彼女の前に出た。

今のうちにあれを退かせなければ、私が私でなくなる。

小さな私に、あれは羽ばたきながら、静かに忠告してきた。

 

 

「邪魔ヲスルナ」

 

 

できない。早く去って行ってくれ。

私には、時間がないのだ。

密かに苛立つ私を察したのか、心なしか目を細めて、こう囁いてきた。

 

 

「ソナタトハ、事ヲ荒立テタクハナイ」

 

 

ああ、私はもう時間が――

 

 

「――幼キ同胞ヨ」

 

「――、 ……なに、これ?」

 

 

我に返った"私"は、目の前の喋る魔物を凝視した。

後ろには、険しい表情で私と魔物を見やるエステルがいる。

風が吹きすさぶ中、私は髪とスカートをはためかせ、仁王立ちで魔物とご対面していた。

 

……うん? なんで私は、喋る魔物とタイマン張ってたんだっけ。

確かエステルを助けに……いや、その前に何故彼女がピンチだって気が付いたんだろう?

むしろピンチなのは私の方だ。

エアル酔いでもないのに疲労困憊だよ、あちこちが痛いよ、立ってるのがやっとだよ、なにこれ不思議。

さっきまでの私は、一体なんだったのか?

 

私が疑問符を連打しようとも、この居心地の悪い雰囲気が邪魔をする。き、きまづい。

私は思い切って、生まれたての小鹿のように膝をカクカクさせながら、喋る魔物に恐る恐る挙手をした。

 

 

「えーっと、すみません」

 

「ナンダ」

 

「何がどうなって、今の状況に陥ったのかなぁなんて」

 

「……」

 

「黙殺しないで! 憐れむような眼で私見ないで! 自分を疑いそうなんだよ! 痴呆的な意味で!

この年で若年性認知症とかありえん!! 私は――」

 

 

そっと目を伏せる魔物に私が心の悲鳴をぶつけていたところ、視界がぐらりと回ってブラックアウトしかけた。

頭がフラフラする、足腰が浮き立つようだ、全身筋肉痛で身体に力が入らない。

懸命に頭や膝を押さえて踏ん張ろうとするが叶わず、私はその場で崩れ落ちたかに思えた。

内臓が浮く感覚、重くなった私の身体をしっかり抱きとめたのは、いつもの彼だ。

 

 

「おっと、我ながらナイスキャッチだ。大丈夫か、桜」

 

「ユーリ」

 

「やっと、オレの名前を呼んでくれた。

てっきり、オレがお嬢さんのご機嫌を損ねたかと思ったぜ」

 

「私、私――」

 

「桜?」

 

 

目元を緩めるユーリの顔を見て、私は自分の胸に手を当てた。

今現在私を劫かすのは、ユーリじゃない、私自身だ。

エアルを吸収するだけでも人外だってのに、皆を引き離すほどの脚力、彼の手を振り払う腕力、エステルを見つけ出すことができる能力。

どれもこれも、通常の私では到底発揮できない力だ。――これが始祖の隷長の能力だと言うのか。

私は確かめるように、喋る魔物を見上げた。

じっと私を見つめるその目が、まるで幼子を見る父親のようで、不思議と親近感が芽生える。

途端、耳を劈くような音と爆撃が魔物の身体を蹂躙した。

 

 

「いけない! あれは――」

 

「落ち着け、桜。そんなよたついた身体をじゃ立つのもやっとなんだろ、あんま無理すんな」

 

「そうです。あんな無茶をしたのですから、どうか安静にしてください!」

 

 

身を乗り出そうとする私をユーリは抱き締めて止める。

魔物の方はというと、少しよろめいていたものの、すぐに体制を整え、私たちから大きく離れて、再び襲い掛かる砲弾を空を泳ぐように回避していた。

砲弾の元、街の外へ目をやれば、大きな要塞の影が見える。

あれがアレクセイの言っていたヘラクレスなのだろうか。

要塞と魔物対戦を見物をしていると、ラピード、続いてリタとカロルが息を切らしながら、私たちの元へ駆け寄ってきた。

 

 

「ここにいちゃ、砲弾に巻き込まれるわ!

桜を捕まえたなら、さっさと離れる!」

 

「桜、ユーリに抱き抱えられて、またエアル酔い? 辛いの?」

 

「なんとか生きてるよ」

 

 

カロルから気を掛けられて、私は弱々しくガッツポーズをとった。

正直私も教えてほしいところだが、この混乱の中、あれこれ追及している暇はない。

そうこうしている間にも、外れた球がすぐ傍まで飛来してくる。

いつこちらにも降りかかってくるかもしれないって時に、ユーリは私を抱き上げる両腕を強くし、当惑するエステルへ視線を向けた。

 

 

「オレはこのまま街を出て、桜と旅を続ける」

 

「行ってしまうのですね」

 

「エステル。帝都に戻るってんなら、今すぐフレンのところへ戻れ。

オレらについてくるなら、ここを立つぞ」

 

「え?」

 

「選ぶのは、お前だ」

 

「わたしは……」

 

 

ユーリから究極の選択を迫られ、エステルは更に困惑した様子で俯いてしまった。

砲弾が彼女を急かすように次から次へと降り注ぎ、足元を揺るがす。

ザーフィアスへ帰る時、あんなに寂しそうにしていたんだ、答えは一つに決まっている。

彼女は目に涙を溜めながら、私たちへ一心に答えた。

 

 

「ユーリを殺ります!!」

 

「なんでだああああああ!!」

「おい!!」

 

「フレンを差し置いて、ユーリに桜を預けることはできません!!

わたしがフレンの代わりに、ユーリの魔の手から桜を守るのです!!」

 

「帝国騎士団隊長と皇女の立場を天秤にかけるなよ!

さっきのシリアスなシーンはなどこへ飛んでった!? 私の純情を返せよ!!」

 

「現に公衆の面前で恥ずかしげもなく桜にプリンセスホールドを決めているのが、何よりの証拠です!」

 

「うわああああああっ!

私があえてツッコまなかった現実を突きつけきたよ何この皇女! お願いです後生です逃避させて」

 

「結局のところは、オレらについてくるってことだよな、そうだよな」

 

「ユーリは殺ります」

 

「ぶれねぇのな……」

 

 

私を抱き抱えるユーリは、エステルの明後日な回答に沈痛な面持ちで大きなため息をついた。

私たちが呑気に掛け合いしている間にも、一発の砲弾が大橋を貫き、彼女の決意を試すようにフレンたち騎士団と私たちを分断する。

崩れ落ちる大橋、足場を失いつつあるそこから、ユーリは私を抱えながら、皆と逃げ出した。

 

 

「降ろして、ユーリ。私が荷物になってる」

 

「余裕! 満身創痍になってる女の子をこんなところで降ろせるかよ。

……またさっきみてぇに、オレから逃げられちゃあ、目も当てられねぇ」

 

「ユーリ?」

 

「おてんば姫は、捕まえておかなきゃなって話だよ」

 

「あのね……」

 

「走るか、バカやるかどっちかにしなさい!……って、あそこに人が、さっきの魔物も!」

 

 

私たちが崩れいく大橋を駆けている最中、リタが目をやった先には、一人の人影と先ほどの喋る魔物が対峙していた。

長い耳に綺麗な横顔、羨ましいまでのナイスボディのクリティア族の女性。

あの巨大な魔物に物おじせず、平然と見つめるそのクリティア人は、私たちに気が付くと、その2本のふわふわな触覚を揺らして振り向いた。

 

 

「昨日ぶりね、皆」

 

「ジュディス!?」

 

 

魔物に襲われるかもしれない状況下で、彼女はのほほんと手を振った。

魔物の方も何か仕掛けてくる気配はないようだが、こんなに近くにいたら、流れ弾が当たるかもしれない。

慌てふためきながら、ジュディスの元へ駆け付けた私たち。

当の彼女は、ユーリのプリホル決められている私と目が合うなり、意味深に頷いた。

 

 

「進展はあったようね」

 

「ほっとけぇぇええ! 不可抗力だ! 防御無効なんだ! この兄ちゃんが無神経っていう無敵貫通持ちなんだよ!」

 

「オレの両腕はいつだってお前の為にあるんだぜ」

 

「うわー棒読みだー」

 

「ああー。お前が喜ぶならいくらだって言ってやらー。

……オレにこんなこと言わせんなよ照れるじゃねえか」

 

 

一応羞恥心はあるのか。ここまで来て、意外な新事実である。告白するのが恥ずかしいのか。それを言い訳すんのが恥ずかしいのか。

熱い眼差しでこっ恥ずかしいセリフを棒読みする彼の心境に関心を抱いていると、目を覚ませとばかりに砲弾が近くで着水し、大きなしぶきを上げた。

喋る魔物だっている、この場は危険だとエステルはジュディスの手を掴んだ。

 

 

「ジュディス、 早くこちらへ!」

 

「心配ないわ。貴方たちは先に行って」

 

「さぁ、早く!」

 

「あら強引な子」

 

「あ! 待って皆! あの魔物、帰ってくよ!……なんで?」

 

 

朗らかにのたまうジュディスを引っ張るエステルであったが、カロルが指をさした先にいた魔物は天高く舞い上がり、やがて彼方へと去って行ってしまった。

エステルのことは諦めたのか。砲撃もいつの間にか止んでいるし。予期せぬ急展開に私たちが目を合わせ、首をかしげていると、新たな問題が街の方からやってくる。

大きく割けた大橋の先端、今にもこちらへ飛び移らんばかりの勢いで、フレンが身を乗り出していた。

 

 

「待つんだ、ユーリ! それにエステリーゼ様も!」

 

「面倒なのが来ちまったな。さすがにこの距離だ。いつかみたいに飛んではこないみてぇだが」

 

 

昨日のガスファロストで華麗のぶっ飛んできたフレンの狂気を思い出したのか、私を抱えたまま警戒するユーリ。

エステルは彼の横を通り抜け、真摯な面持ちでフレンへ向き合った。

 

 

「ごめんなさい、フレン。わたし、やっぱり帝都へ戻れません。

まだまだ学ばなければいけないことがたくさんあるんです」

 

「学ぶならば、お戻りになっても……」

 

「ダメです。帝都にいた時、ノール港で苦しんでいる人々の声は届きませんでした。

自分から歩み寄らなければ、何も得られない……」

 

「エステリーゼ様……」

 

「はい! この旅で! 桜を積極的に押さなければ、ユーリに奪われるのも知りました!」

 

「おいこらまて」

 

「この堂々と見せつけてくるプリンセスホールドが動かぬ証拠です!!」

 

「ああああああああああああああああああああ」

 

 

エステルが「はい注目!」とばかりに、私をプリホル決めているユーリを差し出した。

再び身体中の血液が沸騰しそうで顔を覆う私、ほとばしるフレンの殺気。

その先には、私を強く抱えて冷や汗を垂れ流す幼馴染の姿が。

 

 

「ユーリ」

 

「視線が痛いぜ、フレン」

 

「なので、わたしは旅を続けることにしました!」

 

「話を無理やり完結させんなエステル!!」

 

「フレンと貴方のためです」

 

「毎度の如く私とフレンさんにクソ重い責任押し付けないで」

 

「エステリーゼ様……」

 

「なんだその諭された顔は。フレンさん帝国騎士だろ、そこの爆裂のーてんスカピーなお姫様を止めなさいよ。お陰で私の常識が迷子だよ」

 

 

エステルの最後が破綻しまくった説得に、フレンはそこまでとばかりに言葉を切った。

ユーリはともかくとして、フレンまでエステルを放置する気なのか。

頭が痛くなる私を抱えたユーリは、フレンの注意から逃れると、呆けているカロルへ近づいた。

 

 

「カロル。オレの荷物から下町の魔核取り出して、フレンに渡してやってくれ」

 

「え? いいの?」

 

「この通り、今手が放せねぇ。代わりに頼むわ」

 

「わかった。じゃあ、いくよ」

 

 

カロルはユーリの荷物から、拳大の魔核を取り出すと、大振りで空高く投げ飛ばした。

魔核は大きな弧を描き、急いで差し出したフレンの手に収まる。

彼が魔核を受け取ったのを見計らって、ユーリは声を張り上げた。

 

 

「フレン、その魔核、下町に届けといてくれ!」

 

「ユーリ!」

 

「オレには、桜の件がある。帝都にはしばらく戻れねえ」

 

「それはそうだが……」

 

「んでもって、オレ、ギルド始めるわ。ハンクスじいさんや、下町の皆によろしくな」

 

「ギルド……。それが君の言っていた、君のやり方なのか」

 

「ああ、腹は決めた」

 

 

フレンが確かめるように問いかけると、ユーリは一切迷いもなく頷いた。

ヘリオードの森でカロルに誘われた時は保留にしていたが、今この時を選んだきっかけは何だろう。

一瞬、昨夜の事件が過ったが、感極まったカロルの歓声で吹っ飛ばされた。

 

 

「ユーリ! その気になってくれたんだね!」

 

「返事が遅れちまったけど、桜ともどもよろしくな、カロル」

 

「私も入るんだ……」

 

「いいだろ。お前、料理得意じゃねえか。花嫁修業にはもってこいだぞ」

 

「生恥苦行の間違いだろ。揃いもそろって適当なこと言って私のハードル上げるのやめて。自尊心が音速で落下する」

 

「オレは毎日お前の手料理をごちそうになりてぇんだけどな」

 

「また見え透いた芝居を」

 

「本気だぜ」

 

 

屈託のない微笑を傾けてくるユーリを睨みつけていると、リタが割り込むように私に近づいてきて、両手を腰に当てた。

 

 

「あたしもついてくわよ」

 

「リタもギルドに入るの?」

 

「まさか。桜について行くって言ってるのよ。

あんたたちだけで、この子を何とかできると思ってるの?」

 

「はい。わたしもリタも一緒です」

 

「……エステリーゼ様。貴方はこちらに」

 

 

皆で賑わっている間にも、向こう岸のフレンがエステルを引き留めようとする。

彼の周りをよく見ていると、騎士たちがこちらの様子を窺いながら、あちこち駆けずり回っていた。

もしかしなくとも、こちらへやってこようと言うのか。

ユーリも勘づいたのか、私を強く抱きしめ、街の外へ駆け出した。

 

 

「フレンが本気で飛んでくる前に、さっさと街から離れるぞ。

もたもたしてっと、騎士どもと追いかけっこが始まっちまう」

 

「ユーリ、絵面的に辛いので、私を降ろしていただけません?」

 

「薄幸の美少女を抱えて、颯爽とかけるオレ。様になるだろ」

 

「幸がマジでかすみそうだよ。美少女は単に語呂合わせだろ」

 

「どうだろうな?」

 

「疑問符打つなよ」

 

「オレに期待してくれてんのか? こりゃあ、頑張らなきゃな」

 

「安心しろ、ユーリの株が只今絶賛急下落してる」

 

「敷居高いのな、お前」

 

「ユーリが無神経だって言ってんの」

 

「2人とも、夫婦漫才なんてやってないで、とっととずらかるわよ!」

 

「夫婦て――」

 

「そうだな。ひとまず腰が据える場所まで、皆走るぞ」

 

 

ユーリが先陣を切ると、リタ、その後にエステル、彼女に手を引かれたジュディス、カロルとラピードが続いた。

息をつく暇もなく、私たちは森の中を突き進み、日が傾くころには皆足を緩め、少し開けた場所に出る。

皆、息も絶え絶え、疲労困憊といった様子で、カロルがその場でもうダメだとばかりに腰を下ろした。

 

 

「つ、疲れた、もう休もうよ~」

 

「そうしましょうか。もう追ってこないようだし。ね、桜?」

 

「なんで私に聞くんだジュディス……」

 

「それより、あんたをいつまでも捕まえて離さないまま、ここまでやってこれた男に疑問を抱きなさいよ」

 

「超人か……」

 

「愛だろ」

 

「嘘でも断言しないで」

 

「悲しいこと言うなよ。ま、ここなら大丈夫だ。とりあえず、ここで野営するぞ」

 

 

ユーリは皆に言うなり、そっと私を降ろしてくれた。

やっと解放された私であったが、めまいはともかく筋肉痛がまだ残っていて、足元が少しおぼつかないまま、よろよろと彼の胸に縋りついてしまう。

びっくりして離れようとする私を彼はすかさず背に手を回して、支えてくれた。

 

 

「やっぱ完全に回復してなかったか。無理すんな、オレに掴まってろ」

 

「まるで登山数往復したような痛さだよ。筋肉痛い」

 

「おかしいわね。エアル酔いは疲れはするけど、筋肉痛なんて症状はなかったはずよ。

……おかしいといえば、あんた、単身でバカ鳥につっこむなんて暴挙しといて、何考えてたワケ?」

 

「わたしを庇うなんて無茶までして、どうしてしまったのですか?」

 

 

リタとエステルに詰め寄られて、私はたじたじになった。

何度もいうが、あの時のことはこっちが聞きたい。私が私でなくなってたあの時、私の身体がどうなっていたのか。

恐らく始祖の隷長と関係しているのだろうが、皆に話していいものか。

うろたえる私に、リタは無遠慮に私へ両手を突き出して、何もない空間から円盤に近い立体映像展開し、パソコンのタイピングのように円盤を弾き始めた。

 

 

「うだうだ言ってないで、調べちゃえば済む話でしょ」

 

「リ、リタさん!」

 

「動かないで。ユーリ、その子きちんと支えてて、ちゃんとスキャンできないわ」

 

「私はなんともないから! 調べなくっても元気だから!」

 

「こんなにひどい状態なのに、放っておけるわけないでしょ。

皆の前で悪いけど、一刻も早く……え?……これは」

 

 

私の制止の声も届かず、真剣に円盤の操作盤を指で叩いていたリタであったが、その表情が見る見るうちに青ざめていった。

いつも暴虐無人な彼女の類を見ない動揺に、皆もすぐさま緊張が伝わる。

私を支えるユーリは怪訝な表情で、円盤を食い入るリタに詰め寄った。

 

 

「リタ、こいつに何があった。首横に振ってないで、なんとか言え」

 

「嘘……ありえない」

 

「桜に何があったのです?」

 

「なんで桜の身体、魔核を内包してるの……!?」

 

 

驚愕に打ち震えるリタの発言に、私はおろか、ユーリやエステル、カロルの表情が凍り付く。

私の中にに、あの下町の魔核のようなものがあるのか。

そんなもの飲み込んだ覚えもない。あんなものが何故、私の中に。

胸を抑え震える私の手をユーリがぎゅっと握りしめた。

今も尚「嘘」「ありえない」と呟きながら血眼で私を調べるリタに、彼が真に迫る勢いで食いつく。

 

 

「順を追って説明しろ。こいつの中に、魔核があるだって?

どこにもそんな形跡はねぇぞ。

……まさか、バルボスに捕まった時に、埋め込まれたりしたんじゃねぇだろうな!?」

 

「筐体じゃあるまいし、人間相手にんなことしたら、普通死ぬわ! だからありえないって言ってんの!」

 

「じゃあ何をどうしたら、桜の中に魔核なんてもんができるんだよ。こ

いつに影響はあるのか? エアルは? 答えろ」

 

「あたしが知りたいわ! これ、小さい、けど、なんて高密度な魔核……っ!

これで人体に影響がないなんて、おかしいわ。違う、そうじゃない?」

 

「リタ! 」

 

「うっさい!」

 

「2人とも、落ち着いて」

 

「ジュディス」

 

 

私たちを落ち着いて眺めていたジュディスは、切迫するユーリとリタの間に割って入って、私の肩に手を添えた。

 

 

「この中で、一番困っているのは桜なのよ」

 

「尚更だ。リタに調べてもらって原因を突き止める」

 

「大切な子が大変なことになって、焦る気持ちはわかるけれど。

もっと気遣う方法があるんじゃないのかしら」

 

 

原因の追究より気持ちが大事とジュディスに諭されたユーリとリタは、面食らっている私を見つめた。

リタは開いていた円盤を閉じて、しゅんと項垂れてしまう。

ユーリは一瞬渋い顔をするも、私と目が合うなり、深いため息をついた。

 

 

「肝心の桜は置いてけぼりか。フレンにあんな啖呵切った傍から、これかよ。世話ねぇな」

 

「……ごめん。あたし、目の前のことばかりで。桜の気持ちをわかってなかったわ」

 

「いや、ユーリもリタさんも悪くはないよ。私は、……私もよく判ってないし」

 

 

神妙な面持ちのリタに、私はなんでもないと両手を振った。

実のところ、始祖の隷長になりかけていることと、私の中の魔核の存在が合致しているかわからない。

始祖の隷長だって、デュークとクロームの僅かな情報しかないのだ。

……または、ダングレストでエステルを襲った魔物がそれなのかもと本能的に察してはいるが、この混乱に話題を突っ込む度胸も空気もない。

とにもかくにも、私の魔核を解決しなくては、話が進まないだろう。

私の心情を代弁するかのように、エステルがリタへ控えめに訊ねてきた。

 

 

「それで、桜は今どのような状態なのです?

とても疲れているようですが、エアル酔いも、その……桜の中にあるという魔核のせいなのしょうか」

 

「エアル酔いは、高濃度のエアルを受けて、キャパ以上の代謝を促された結果、引き起こされる症状よ。

疲労や頭痛、倦怠感はあるとしても、筋肉痛はないわ。

……魔核のせいと言うより、寧ろ桜と魔核が親和性があるって言った方がいい」

 

「じゃあ、桜の魔核は? さっき人の中に魔核を入れるのは無理だって言ってたよね。

魔核なんて貴重品、自然と湧いて出るものじゃないし。そもそも魔核って、どうやってできてるの?」

 

「わかんない。現代技術では、簡単な魔核の復元は出来ても、一から完全なものを生成することは不可能よ。

それもこんな高純度の魔核見たこともない。前に調べた時はなかったのに……」

 

「んで、その魔核は桜にどんな影響があるんだ」

 

 

ユーリに核心を突かれたリタは口を止め、私の方を窺った後、質問者へ向き直った。

 

 

「……。多分、それ、エアルから桜を守っているわ」

 

「守ってる? 魔核がか?」

 

「ここからは、あたしの憶測になるけど。その魔核は、桜が受けたエアルを吸収してくれていたのよ。

最初のアスピオで診た時は、目に見えない程だったけど、これまでたくさんのエアルを受けたことで、今じゃ豆粒大になってる」

 

「取り出すことはできるんだな」

 

「物理的には可能よ。……けど、そんなことしたら、桜は……」

 

 

リタは表情を曇らせて、最後の方は言い淀んでしまった。

私の魔核を取り外したら、どうなってしまうのか。流石の私も気づいてしまう。

まるでがん告知を受けたような気分だ、実感がわかない。

ただ、エアルを吸収したということは、やはり始祖の隷長関連につながるのではないか。

 

 

「ユーリ。私……」

 

「守るって腹括ったってのに、なんて様だ」

 

 

意を決した私を遮って、ユーリはやるせない表情で拳を握りしめた。

リタの話を聞く限り、この魔核は彼のせいではないはずだ。責任を感じなくてもいいのに。

じっと見つめる私に気付いたのか、ユーリはいつものようにポンポンと私の頭を撫でてきた。

 

 

「心配するな。魔核を取られなきゃいいわけだ。お前はいつも通りでいいんだよ」

 

「ユーリ。でも、私」

 

「この期に及んで、まだうだうだ言うなよ。

迷惑上等、いつでも何でもかかってこいってんだ」

 

「いや、私は……」

 

「わたしたちに引け目を感じることはありません。わたしたちはいつでも桜の力になります」

 

「問題ないわ。わからないなら、徹底的に調査すればいいだけだもの。

とーぜん、桜には付き合ってもらうわよ」

 

「桜はボクたちギルドメンバーなんだから、助け合わないとね!」

 

「じゃあ、私も加わろうかしら」

 

「えーっと」

 

 

この重い流れに乗っかって、始祖の隷長の話を切り出そうと思ったんだが、物凄い勢いでやり過ごされた気がする。

この盛り上がった雰囲気に水を差すのが、すごいつらい。

私がまごまごしているうちにも、話は自動的に進んでいく。

 

 

「ジュディスもギルドに入ってくれるの?」

 

「何をするかに、よってくるわ」

 

「何をする、か」

 

「ボクはギルドを大きくしたいな。それでドンの跡を継いで、ダングレストを守るんだ。

それが街を守り続けているドンへの恩返しになると思ってる」

 

「立派な夢ですね」

 

 

胸を張るカロルに、エステルは両手を合わせて頷いた。

ドンの天を射る矢って、結構な規模だと思うんだけど……、夢で片づけてしまうエステルはやや酷な気が。せめて目標と言ってあげて。

ユーリは話に乗れてない私を促すように、肩を軽く叩いた。

 

 

「オレは桜の問題を片付けるとすっかな」

 

「あんた。あたしの説明聴いてたの?」

 

「理解したが、納得したわけじゃねぇよ。

必ず桜を助ける方法があるはずだ」

 

「……そういうと思ったわ。エアルをコントロールできれば、或いはデュークの剣を調べれば、糸口が見えてくるはずなんだけど」

 

「デュークか。バルボスと戦ってる間に、いなくなったんだよな。

目立つ格好してたから、探し出せればいいが」

 

 

生憎、彼の行く宛がわからない……まあ、朱色の笛を吹けば、飛んできてくれるかもしれないが、あんなにリタに渡すのを拒否していた男である。

呼んだところで同じこと繰り返しだろう。

それより、始祖の隷長だ。

 

 

「ねえ、ユーリ」

 

「なんだ、辛いのか。また膝枕すっか?」

 

「しねーよ! やらねーよ! 3度もお前の固い筋張った枕なんぞお見舞いされた日には私の脳が昇天する! なんだそのニヤニヤは!?

じゃなくて、あの、えっと……」

 

「もったいぶってないで。何でも言ってみろよ」

 

「私は、あのダングレストに来た喋る魔物に会ってみたいんだけど……」

 

「駄目だ」

 

「速攻撃墜された……っ! なんでもって言ったクセに」

 

「聞くとは言ってない。ダングレストの時もそうだったが、なんでまたあんなおっかないもんに好き好んで会いに行くんだよ」

 

「いろいろ知ってそうと言うか……」

 

「わたしもその魔物に会いたいです」

 

 

ユーリに詰め寄られてオロオロしていると、エステルが助け舟を出してくれた。

 

 

「あの魔物は、わたしを世界の毒と言って、狙ってきました。わたしはその理由を知りたいのです」

 

「自分が狙われる理由がわからなきゃ、枕を高くしてねむれねぇってか」

 

「桜も何か言われていませんでしたか」

 

「うーん、何か重大なことを言われたような気がするけど」

 

 

あの時は私が私でない、例えるなら夢の中で鳥になったような不思議な感覚がしていて、当時の記憶が混濁してしまっている。

原因は、あの喋る魔物が握っていると思うんだが。

私とエステルから期待の眼差しを受けたユーリは小さく嘆息すると、面倒くさそうに頭をかいて、カロルの方へ向かった。

 

 

「仕方ねぇな。そういうことで、首領はどうする?」

 

「え? ボク?」

 

「お前が言い出しっぺだからな」

 

「そ、そうだよね! じゃあ、困ってる桜とエステルの為にも、その魔物を……さ、ささ探すの?」

 

「なんでそこで足をガクガクさせるのよ」

 

「だだだって、リタ。あんなおっきくて喋るんでしょ、そんな化け物見たことないんだもん!」

 

 

首領に祭り上げられ胸躍らせるカロルであったが、私たちの目的を鑑みて、小さい体を震え上がらせた。

たった一体で、騎士団の精鋭たちを全滅寸前まで追い詰めた魔物である。怖がるのも無理はない。

彼の小さな背中を押したのは、私でもユーリでもない、ジュディスだった。

 

 

「なら、私も協力しようかしら」

 

「ジュディスもギルドに入るのです?」

 

「いいの? ご一緒させても」

 

「ボクはいいけど、ギルドに入るからには、掟が絶対なんだよ」

 

「掟って? 私も適用するの?」

 

「もちろんさ、桜。ギルドは掟が一番大事なんだ。掟を破れば厳しい処罰が待っている。

それが友達でも、親兄弟でも。それがギルドの誇りなんだ。

だから、掟に誓いを立てずには、加入できないんだよ」

 

「私、そこのロン毛に強制加入されたんですが」

 

「いいじゃねぇか。楽しそうで。指切りげんまん何とやらだ」

 

「カロルの今の話から面白い要素が微塵も感じられないんですけど。

……ユーリって、ホントにマゾなの?」

 

「んなワケあるかよ。そんな目で見るな」

 

 

私に小指を差し出してくるユーリであったが、思わぬカウンターを受けて不機嫌になる。

私たちのやり取りをニコニコ眺めていたジュディスは、思い出したように、カロルへ訪ねてきた。

 

 

「それで、私が入るギルドは、どんな掟なのかしら」

 

「あ、そうだった。もう3人もメンバーがいるんだから、決めておかないと」

 

「お互いを助け合う。ギルドのことを考えて行動する。人として正しい行動をする。

それに背けば、お仕置きだな」

 

「え? ユーリ、それ……」

 

「一人はギルドのために、ギルドは一人のために。

義を以てことを成せ。不義には罰を。ってことですね」

 

「そういうこった」

 

「つまりは、皆は桜のために、犠牲になるのですね」

 

「なって堪るか」

 

「別にいいわよ」

「別にかまわねぇが」

 

「2人も承諾しないで、マジでこのお姫様やりかねないから。カロルの立ち上げたギルドが一晩とせずに消滅するから。目も当てられないから。今度こそ私の良心が逝く」

 

「そ、それは困るなぁ」

 

 

相変わらずツッコミが弱いカロルは、小さく気持ちを吐露した。

エステルのせいで、出だしから危ないんじゃないか、このギルド。

一メンバーとして、不穏な空気を察知していると、ユーリがカロルの背を叩いた。

 

 

「ひとりはギルドのために、ギルドはひとりのために、だ。

掟に反しない限りは、個々の意思は尊重する。だろ、首領」

 

「ひとりはギルドのために、ギルドはひとりのために……。

……うん! そう! それがボクたちの掟!」

 

「今から、私の掟でもある。そういうことね」

 

「簡単に決めてもいいのか?」

 

 

ユーリが尋ねると、ジュディスは私をチラ見してゆっくりと頷いた。

 

 

「ええ、気に入ったわ。ギルドはひとりのため、……いいわね」

 

「ジュディス?」

 

「掟を守る誓いを立てるわ。私と……貴方たちの為に」

 

「相棒はどうすんだ?」

 

 

と、これもユーリ。ガスファロストで別れる時、離れ離れになっていると聞いたが。

私に忠告を寄越してきたり、何か私に迷惑をかけたらしいのだが、その実態はいまだ不明だ。

 

 

「お友達。元気にしてるんですか?」

 

「ええ、彼は平気よ。彼のことより、桜はいいの? 掟のこと」

 

 

ジュディスに問われて私は大いに迷った。

ユーリに無理やり入らされた経緯もあるし、掟も後出しじゃんけんだ。

ユーリが何を考えているのか。私の秘密。喋る魔物。諸々問題目白押しだというのに、掟とやらが守れるのだろうか。

 

 

「個々の意思は尊重する……んだよね? 一応」

 

「そういうことになっているわ」

 

「桜。何か考えがあるの? 参考にしたいから、ボクに言ってみてよ」

 

「参考にならないと思うな……」

 

「喋る魔物の件だな。エステル同様、お前もあいつが言ってたことが気になって夜も眠れねぇってか」

 

「そうそう、それ!」

 

「オレが添い寝してやってもいいぜ」

 

「フェイスロックですね。止めてください」

 

「マジなんだけどな」

 

「マジで止めてください」

 

「2人とも、ホント仲がいいよね……」

 

「仲睦ましいことは良いことよ」

 

 

「腕枕にするか」などと上腕二頭筋を差し出すユーリに、私が全力で首を横に振っていると、カロル少年がジト目で見られ、ジュディスは微笑むだけだった。

エステルとリタが、ユーリに向かってシャドーボクシングしているのにも知らずに。彼が本気で仕掛けてきたら、彼女たちはやる気だ。

結局私たちは、全ては明日に放り投げて、ここで野営することとなった。

 

 

 

 

 

満点の星空の下、虫や梟の鳴き声をBGMにして、煌々と燃える焚火を中心に、私たちは各々思い思いにくつろいでいた。

何せ、ダングレストに見たこともない魔物が襲来し、騎士団の精鋭を壊滅寸前まで至らしめ、エステルに死の宣告をしてきたと思ったら、私の中から魔核がこんにちはなんという怒涛の1日だったのだ。

昨日でも十分濃厚な日だというのに、一息つく暇もない。

結局、私に始祖の隷長の兆しがあること、ユーリの殺人事件、あの私の件は話ができないままだ。

 

 

(私、ユーリを振り切ったんだよね)

 

 

運動神経抜群で戦闘センスもあるユーリの腕をいとも簡単に振り払った左腕。

試しに軽く動かしてみるも、筋肉に痛みが走るだけだ。

今の私には、あのような力はない。それどころか、全身の痛みと疲労が抜け切れてない。

早く眠ってしまえば回復しそうなんだが、目が冴えて、横になっても眠れそうになさそうだ。

こんなに焚火が温かいのに、このまま夢の中に逃げ込めたら、どんなに心地よいか。

 

 

「ただいま。桜」

 

「お帰り、ユーリ」

 

 

物思いに耽っていると、皆と話していたユーリが戻ってきて、私の隣へ遠慮なく腰をついた。

火の光を浴びて浮き彫りになる、漆黒のしなやかな髪、輝く闇色の瞳、眉目秀麗な横顔。

思わずため息が出そうなる私であったが、昨日の出来事や今日の自分のことがチラついて、ままならない。

 

 

「……そう簡単にはいかないか」

 

「ん? 何か言ったか」

 

「なんでもない」

 

「なんでもない、ね。

……口癖になってるぞ、それ」

 

「う」

 

 

膝に肩ひじ付きながらユーリに指摘されて、私はぐも言えなくなった。

そんなに多用していただろうか。自覚がないから、何度も使ってるんだろうが。

彼は焚火に薪をくべながら、努めて平静を装う私へ問いかけてきた。

 

 

「オレにも、言いたくないことなのか」

 

「なんのことだか」

 

「桜が言いたくないなら、構わねぇが」

 

「いいんだ」

 

 

てっきり、言及してくるものだと身構えていたら、あっさりスルーされて肩透かしを食らってしまう。

ポカンとする私に気付いたのだろう、ユーリはやれやれと肩を竦めた。

 

 

「誰にだって、秘密のひとつやふたつあるだろ。

お年頃の女の子に、あれこれ問い質すってのもな」

 

「その女の子を躊躇することなくプリホル決めたのは誰だ」

 

「フレンか」

 

「あんただよ! なんだあの公開処刑第2弾は! 皆の前でお姫様抱っこした披露した挙句、ここまで突っ切るとかありえん! 私を悶え殺す気か!?」

 

「照れ屋さんだな」

 

「お前の羞恥心はどこへ置いてきた。さっきまで持ってただろ、今すぐ取ってこい」

 

「オレ、前になんでも1人でかかえこむなって言ったよな」

 

 

ユーリから新たに指摘を受けて、さっきまでの勢いはどこへやら、私は恥ずかしさのあまり、身を小さく丸めた。

あのケーブ・モック大森林で、誰もいないと思い込み、彼の胸で大泣きしたのを思い出してしまう。

 

 

「止めろ。忘れたい黒歴史が再び……っ」

 

「なんで顔を覆うんだよ。当たり前だったんだから、仕方ねぇだろ」

 

「私にとっては、心身ともに粉みじんになって宇宙の塵になりたいくらい」

 

「そんなに嫌だったのか」

 

「嫌じゃないけど……」

 

「そうか。ならいいか」

 

 

私がボソボソと答えると、ユーリは微かに口元を緩めた。

しばらく、2人で焚火を見つめる。

ただ彼と黙って見ているだけなのに、居心地は悪くない。

ユーリはどうなのだろうか、ふと彼の方へ目をやると、合ってしまった。

 

 

「ユーリ?」

 

「いや、眠くねぇのかと思ってな。疲れて身体も痛いんだろ」

 

「うん。昨日からずっと連戦だったでしょう。神経が張り詰めちゃって」

 

「そういうところなんだよな……」

 

「どういうところ?」

 

「恥ずかしがり屋さんには言えねぇな」

 

「……。ユーリはどうしてギルドを始める気になったの?」

 

 

今日まで旅を続けていたのは、下町の魔核と私を帰すためだ。

下町の件は解決したし、残すは私のみなんだが、そこからギルドとは、動機が見えてこない。

頭に引っかかっていた疑問を投げかけると、ユーリは迷いなく真っ直ぐ即答した。

 

 

「守りたいものを守るためだ。その為に、オレはギルドを始めることにした」

 

「守りたいもの……。下町、とか?」

 

「そう来たか」

 

「ハズレ?」

 

「かもな。さて、夜も更けてきた。早く寝ないと、明日が辛いぞ」

 

「私、眠たくないんだけど」

 

「横にでもなってろ。そうすりゃ少しは楽になるさ。

オレが傍についててやっから」

 

「余計眠れないんですが」

 

「眠れるようにしてやろうか」

 

「いや、いいです。寝ます、睡眠します、だから永眠させないで」

 

 

軽快に自分の太ももを叩くユーリに戦慄が走った私は、即座に横になった。

どうして下町の青年たちは、こうもデリカシーがないのだろうか。

時折感じる彼の視線にビクビクどきどきしながらも、焚火の音と地面の冷たさが心地よくて、私はいつの間にか眠りについていた。

 

 

 

 

 

清々しい青空、気持ちのいいそよ風、木々の騒めきや鳥の鳴き声が気持ちいい。

私は思い切り背伸びをして、身体の具合を改めて確かめた。

足良し、腕良し、頭は……まあ、悩みの種はまったく尽きる様子はないけれども。

軽く体操をする私に、ずっと隣で寝ずの番をしていたユーリが軽快に挨拶してきた。

 

 

「よう。その調子だと、身体の方は回復したようだな」

 

「なんとか間に合ったわ。また足手まといになるところだった」

 

「あんましょい込むなって。ったく、それで今日はどうするんだ、カロル?」

 

「わかってて聞いてるでしょ、ユーリ。

桜とエステルのために、喋る魔物を探しに行くに決まってるじゃないか」

 

「そりゃあ、助かるぜ。流石は首領だ」

 

「バカっぽい。どこにいるかもわからない化け物、どうやって探し出すのよ」

 

「化け物ではなく、あの子はフェロー」

 

 

リタがうんざりしていると、ジュディスが異を唱えてきた。

あの魔物に名前があったのか。種族名じゃなさそうだけれど。

皆から、好奇の視線を浴びる彼女は、説明を続けた。

 

 

「このトルビキア大陸の南西にあるデスエール大陸。

その中央に広がるコゴール砂漠で見かけた、とお友達が言っていたわ」

 

「そのお友達って」

 

「ええ、あのお友達よ」

 

 

私が尋ねるも、ジュディスはニッコリ微笑むだけだ。

本当にどんなお友達なのだろうか。魔物の個体名知ってて、しかも砂漠で見かけたとか。

砂漠って、カラカラで朝は熱くて、夜はすごく寒いところだよね。女子高生やってた私がこの世界の砂漠を優雅に旅できるものなのか。

新たな目的地が発覚し、私だけではなく、ユーリが眉をひそめていた。

 

 

「砂漠か。ただ見たというだけで、ほいほい行くような場所じゃねぇぞ」

 

「本で読んだことがあります。コゴール砂漠には、言葉を喋る魔物の物語を」

 

「マジかよ」

 

「火のないところには煙は立ちません。わたしと桜とリタだけでも行きます」

 

「勝手にうちのお嬢さんまで連れてくなって。そんな危ない場所にお前らだけ行かせられるかよ。

初仕事がいきなりハードモードだな」

 

「そっか、初めてのお仕事なるんだね。エステルから報酬もらわないと」

 

「依頼料です?」

 

「殺ります? なんて聞こえたような気が。

あの、エステルさん、おもむろに武器構えないでくださいませんか」

 

 

報酬を請求されたエステルが一心の狂いなく抜剣なされたことによって、カロル少年の繊細なハートは木っ端みじんになった……と思いきや。

首領カロルは負けない。足を震わせながらも、懸命に説得を試みた。

 

 

「ダメダメ、いくらエステルでも、ギルドの運営にはお金が必要なんだから」

 

「わたしには、持ち合わせがありません。桜、どうしましょう」

 

「私に聞くんだ……。カロル、後払いとか無理なの?」

 

「いいよ。ホントは信頼と実績がないとダメなんだけど、エステルは今日まで一緒に旅をしてきた仲間でもあるからね」

 

「ありがとうございます! 報酬、必ず払います――ユーリが」

 

「おい」

 

「フレンが立替てくれますので」

 

「止めなさい。フレンさんこれ以上困らせるの……っ」

 

 

払う気ないだろ、このお姫様。まあ、彼女が払うお金はきっと血税だから、躊躇うのも……そこまで、意識してるんだろうか。

帝国の行く末が気になっていたところ、カロルが元気いっぱいに先頭を切り出した。

 

 

「よーし、目的地も決まったことだし! 行くよ、皆!」

 

「はいはい、首領についてくぜ」

 

「じゃあ、勇気凛々胸いっぱい団、出発!」

 

「ゆ、ゆうきりんりん?」

 

「何よ、そのクソダサイネーム」

 

「ひどいよ、リタ! ボクたちのギルド名!

昨日、ユーリと一緒に考えたんだから」

 

「ユーリのネーミングセンスって一体……」

 

「文字通り胸いっぱいだろ」

 

「いろんな意味で胸がいっぱいだよ。私たちも名乗るんだよ?

カロルなら可愛げあるけど、私とかあざと満点でキモイですよ正気か貴様!?」

 

「女の子が元気いっぱい可愛らしく"勇気凛々胸いっぱい団"……。

なかなか様になるんじゃねぇか。カロル先生みたく実践してみろよ」

 

「どんな羞恥プレイだ! 想像するだけでも死ぬ……っ!」

 

「桜が死にそうに! ダメです! 名乗り上げる時に、こうズバッと言えるような名前にしないと!」

 

「そ、そう? エステルがそういうなら、何か提案してみてよ」

 

 

エステルに気おされて、カロルは渋々承諾した。

彼女のセンスは知れないが、たくさ本を読んできたようだし、レパートリーは豊富だろう。

私たちが見守る中、エステルはうんうんと考え込み、間もなくして、ひとつの名前を持ち出してきた。

 

 

「凛々の明星なんてどうです?」

 

「ブレイブヴェスペリア?」

 

「夜空にあって、最も強い光を放つ星です。

これなら、名乗りやすいと思うのですが」

 

「一番星かぁ、格好いい! 皆もいいよね」

 

「凛々の明星……ね。気に入った。これなら、桜もできるだろ」

 

「名乗り上げるだけでも、私は大いに恥ずいんだけど」

 

「本当に恥ずかし屋さんなのね」

 

 

ユーリもジュデイスも平然と、名乗り上げることを受け入れているようだ。

思い返してみれば、今まで出会ってきたギルドは皆、普通に名乗っていたので、おかしいのは私の方となる。

いやでも、と躊躇う私に構わず、カロルは決断してしまった。

 

 

「大決定! トリム港で船を調達して、デスエール大陸まで船旅だ!」

 

「勝手に決めんな、ガキんちょ! 途中でヘリオードに寄るわよ」

 

「なんで?」

 

「あの子、結界魔導器の様子を診に行かなくちゃなんないわ。

前に行った時は抑えるだけで手一杯だったけど、も一度調べれば、何かわかるはず……」

 

「わたしも結界魔導器が暴走した後、街がどうなったのか気になります」

 

「確かに、ありゃ凄かったからな。桜の件があるから、あんま長居はしたくねぇんだけど」

 

 

ヘリオード行きについて、ユーリはあまり快く思っていないようだ。

結界魔導器の暴走で、私が酷いエアル酔いに襲われたのもあるが、今は私の中にある魔核を気にしているのだろう。

当時は結局わからず終いだったが、リタからすれば放置できない対象らしい。

 

 

「私がどうなるかは、リタさんの調査次第かな」

 

「ああ。どっちにしろ、ヘリオード通んなきゃ、トリム港へいけねぇしな」

 

「決まりね」

 

「じゃあ改めて……凛々の明星、出発!」

 

 

ガロルが元気よく拳を上げたのを合図に、私たちは歩み始めた。

まず目指すは振興都市 ヘリオード。私たちが初めて立ち寄った時は、ヨーデルやエステルといった皇族が立ち寄った為に、騎士団の警備が厳重だったけど、現在は解放されて、新しい街の風景が拝めるはず。

私の抱える問題は山積みだけど、逃げる場所なんて、ここにはない。私は進むしかないんだ。

私は昨夜ユーリが投げかけてくれた忠告を華麗に忘れ、新設ギルド凛々の明星のメンバーの一人として初々しい第一歩踏んだのだった。

 

 

 

 

 

 

 

■続く■




ついに30話きました! 長い長かった!
ついにここまで……あれ、シナリオブックがこんなに分厚い……?

ここのところ急ピッチでシリアス進めて、マジで羞恥心でいっぱいであります。
主人公の設定は、1話からずっと考えていたものなので、今更軌道修正することもできずに、ここで爆発しました。
ギャグで通すのもいいですが、息切れしそうになると思われたので、そこそこシリアス挟んで、物語の起伏を作ればなと。
頭で考えていることを文章にするって、死ぬほど大変で難しいですね。
語彙の少なさがつらい。

Twitterでも呟きましたが、フェローは登場時はカタカナで喋っていたのですが、物語の終盤になると普通にひらがななんですよ。何故……?


ともあれ、次回はついにヘリオードで色仕掛けの回です。
皆様、多分どうなるか見当ついているのかもしれませんが、文章にするとまた違うと思います……思いたい、ので、お付き合い頂けると幸いです。


瑛慈 翔
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