明星の意思、常闇の暁光   作:瑛慈 翔

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【第45話】心が離れて 私を放して

華奢な身体、白魚のような四肢、風に靡く艶やかな髪に、きめ細かく張りのある肌。

思わず触れたくなる唇、彼女の声が、僕の心を弾ませる。

穢れを知らない純真無垢、堪え性で、時折強情なところもある、世界でたったひとりの少女、桜。

君の穏やかな笑顔、イタズラ心をくすぐる驚いた顔、庇護欲を誘う戸惑った顔、身を乗り出して怒る顔が、四六時中僕の頭の中で駆け巡る。

 

 

桜に会いたい。会って、聞きたいこと、話したいことがたくさんあるんだ。

ノードポリカの港、星空の下で、彼女と過ごした時間全てが忘れらない。

プライベートの話なんてほとんどなかったけれど、桜との一分一秒が尊いんだ。

 

 

桜の隣で、永遠の時を過ごせればいいのに。

そんな邪な想いさえ抱いてしまう。

 

 

けれど、僕は秩序を守る帝国騎士団隊長だ。

悪党の蔓延るこの乱世を正すために、下町を飛び出して帝国騎士団に入団し、研鑽と実績を重ねて、ここまでのし上がった。

彼女への感情に身を任せて、自分の課した使命を放棄するわけにはいかない。

 

 

ノードポリカの魔物騒動で桜と別れてから、僕は気持ちを切り替えて、とある任務に専念した。

人類の脅威である始祖の隷長ベリウスを討伐し、聖核を手に入れ、人々に平穏をもたらす。

帝国騎士団団長から与えられた重大な責務だ。

失敗も中断も許されない。成功だけが、唯一求められた結果だ。

 

 

しかし、ノードポリカに暮らす人々の笑顔、活気にあふれる市場、絶えない街の光を目の当たりにして、決心が揺らいでしまう。

帝国の圧政に苦しむザーフィアスの下町や、かつてのカプワ・ノールとは比べ物にならない幸福が、そこにはあった。

 

 

本当に魔物が治める人間の街なのだろうか。

ユーリは、この幸せな街を見て、僕になんて言うだろうか。

平和な世界で生まれ育った桜は、僕をどう見るのか。

 

 

ふたりのことが脳裏を過って、僕は迷い、そして渇望した。

桜。今すぐにでも、僕を確かめて欲しい。

その澄んだ瞳で、僕の目を逸らさず捕まえて欲しい。

 

 

僕のやろうとしていることは、果たして正しいのか。

 

 

いやいや待て、何を考えているんだ、僕は。

自分の使命を忘れたのか。

桜に任務の正悪を委ねるなんて、思った以上に疲れているのか。

 

 

桜だって、危険な旅をしいるんだ。

今この時この瞬間、彼女は苦境に立たされいるかもしれない。

桜は大丈夫だ。僕の代わりにユーリが彼女についている。

粗野で乱暴で、女性の扱いに疎いあいつが、桜の傍に……。

本当に桜は無事なのか。僕の代わりに、あいつを置いてきて。

 

 

も、問題な、はず! ……駄目だ、いけない、考えるだけで、胃の調子が……っ。

ここで挫けるな、気と胃を確かに持て、フレン・シーフォ!

 

 

桜を想う余り、僕の胃に切り刻まれるような痛みが走って、胃薬片手にひとり堪えていると、見かねたソディアが彼女の旅路を調査してくれた。

おかしい。ソディアには、帝国で桜を利用しようと暗躍する悪党を調べろと命令はずだ。

どこから仕入れていたのだろうか。

 

 

とにかく、桜はユーリたちととも、ダングレストを襲撃した例の始祖の隷長に会いに行ったらしい。

危険な魔物が巣食うカドスの喉笛を通り、オアシスの街マンタイクで一泊し、灼熱のコゴール砂漠に挑んだと。

頑な彼女が僕の忠告を無視し、危険に飛び込むのは予想できた。

必ずユーリが彼女を守ってくれると信じていたから、我慢はできた。

しかし、マンタイクの執政官に就任したキュモールの存在は無視できない。

 

 

僕のベリウス討伐と同様に、キュモールもコゴール砂漠の始祖の隷長の聖核を目的にしているのだが。

ベリオードやこれまでの悪行からして、あの男がまともに任務を遂行するとは思えないし、桜を見逃すはずはないだろう。

ユーリだって、彼女に危害を加える輩に容赦はしない。

あいつは相手を殺めてでも、桜を守り切る。

 

 

僕は、執政官ラゴウの死亡報告書を強く握りしめた。

あいつは、ついに僕が恐れていたことをやってしまったんだ。

法を顧みず、桜を守るその手で、人を殺めた。

キュモールが彼女に触れるような時がきたら、あいつは必ず刀を振るう。

 

 

いますぐ桜の元へ駆けつけなければ、彼女の置かれた状況は、あまり芳しくない。

僕はノードポリカ及び周辺に小隊を配置し、ベリウスの退路を断つと、数人の部下を連れてマンタイクへ赴いた。

 

 

元々士気の低いキュモール隊だ、制圧に時間は掛からなかった。

その中に、肝心のキュモールが、さらにはエステリーゼ様一行の中にも、桜とユーリ姿が見えなくて、焦燥感に駆られてしまう。

僕は考えるよりも早く、ソディアに部下たちの指揮権を託して、砂漠の街を奔走した。

 

 

キュモールの魔の手が桜の身にかかるかもしれない。

間に合ってくれ、ユーリがまた間違いを犯す前に止めなければ。

 

 

程なくすると、風に乗って、キュモールの悲鳴が僕の耳に届いた。

遅かったか――っ。いいや、まだだ!

焦る気持ちを動力に変えて砂漠を駆けていると、流砂に飲み込まれていくキュモールと、それを見下すユーリ、彼に抱えられた桜が見えてきた。

なんてことだ。よりにもよって、彼女の目の前でやったのか。

ユーリに失望しそうになるが、それを上書きするような信じがたい光景が僕の目に飛び込んできた。

 

 

桜が魔術を使っている!?

 

 

彼女は重力魔術と植物を操る魔術を行使して、流砂からキュモールを救出していた。

エアルに弱いはずの桜が、エアルを消費して発動する魔術を操れるわけがない。

なら、僕の目に映っている彼女は誰だ。

 

 

ひとり動揺していても始まらない。

数々の疑問とあいつの所業は、直接本人から問い質すべきだ。

 

 

罪人の道に、桜を連れてはいかせない。

 

 

ただ、ユーリを信頼している桜の前で、あいつの犯行を持ち出しても、怯えさせるだけだ。

ユーリが人を殺めたと聞けば、この世界を忌避し、嫌悪し、帰りたい気持ちを募らせるだろう。

だから、僕はあえて、ラゴウ暗殺の話を伏せて、説得に挑んだ。

魔物からも、悪党からも、恐怖からも、僕が彼女を何もかもから守ってみせる。

 

 

そう決意して告白しても、桜は僕ではなく、ユーリの手をとってしまった。

突然、彼女と僕の間に、大きな溝ができた気がして、胸が重く苦しくなる。

 

 

諦めるな。まだ、まだ間に合う。

彼女に考え直させる機会はあるはずだ。

 

 

桜が僕の道と分かつなら、僕は騎士として彼女の盾と矛になろう。

帝国騎士団の騎士には、人々の平和と治安を守る義務がある。

罪人ユーリ・ローウェルをこの手で下し、桜を取り戻さなくてはいけない。

 

 

彼女への想いを凍てつかせ、剣を抜こうとしたその時、ノードポリカの封鎖完了の報告が入る。

ベリウス討伐の準備が整った。もう後には引けない。

僕は遠くなっていく彼女の背を脇目をふり、ノードポリカへ来た道を引き返した。

 

 

――僕は間違っていないはずだ。

法の下でユーリを罰し、ベリウスを討ち取り、騎士として功績をあげて、さらに上をいく。

騎士団の頂上にのぼり詰めれば、念願の夢も、下町の皆、彼女だって救えるんだ。

 

 

そう自分に言い聞かせる僕の元に、ひとつの知らせが届く。

厚く丈夫な封筒に収められていたのは、帝国騎士団団長アレクセイ・ディノイアから僕へ宛てられた密書だった。

直属の部下とはいえ、任務遂行中の僕だけ、しかも急ぎ連絡を寄越すのは、どう考えても奇妙だ。

 

 

自分ひとりになるのを見計らい、急いで密書の封を切った。

慎重に取り出し、開いたその手紙には、簡潔に一行だけ綴られている。

たったのそれだけなのに、僕に衝撃を与えるのには十分だった。

 

 

――桜には聖核を探し出す能力がある。

 

 

僕は自分に突きつけられた、たった数文字の羅列を何度も読み直した。

嘘だ。なんの悪ふざけかは知らないが、こんな世迷い言があって堪るか。

どんなに否定しても、封書は帝国騎士団のもので、丁寧な筆跡は見間違うこともない騎士団長のものだ。

 

 

彼女の力が本当なら、事態はさらに悪化してしまう。

ただでさえ、シャイコス遺跡の重要参考人として注目を浴びている彼女が、これまで以上の危険に晒されてしまう。

始祖の隷長が、ギルドが、欲に目のくらんだ連中が、彼女を利用しようと奪いに来る。

 

 

罪に手を染めたユーリは、もう頼れない。

桜には僕しかいないんだ。

彼女を救えるのは、僕だけだ。

 

 

桜がノードポリカに戻ってきたとの報告を聞いて、僕はいてもたってもいられず、街中を駆け回った。

始祖の隷長ベリウス、魔狩りの剣が彼女を脅かす前に、僕のこの手で助け出さないといけない。

必死の思いで、彼女の姿を追い求めた。

 

 

そして、僕は目撃してしまう。

戦士の殿堂と魔狩りの剣、エステリーゼ様たちが火花を散らす闘技場の片隅で、ふたりが。

桜とユーリが重なる瞬間を。

 

 

頭が真っ白になった。

胸に突き刺さるような痛みが走り、息がつまりそうになる。

引いたはずの血の気が、裏切られた怒りと嫉妬で沸騰し始めた。

 

 

「ユーリ。これはどういうことだい?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

心が離れて 私を放して

 

幾千も挑戦した

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

幻術と私の夢で作られた幻想世界は、ベリウスの死によって、跡形もなく消滅してしまった。

人間だった私はもういない。けれど、心はここにある。生き残った。生きているんだ。

苦くて辛くて、とても甘い夢を見せてくれた泡沫の彼は、今も私の中で生きている。

これから立ち向かうであろう厳しい現実を前に、彼は徹底的に私を甘やかしにやってくるんだろう。

 

それが夢幻の存在でも。

妄想の産物でもだ。

 

許してほしい、彼は年頃の女の子が描いた理想の男性像なんだ。

それが、たまたま頼りにしている美青年の姿をして、私の都合のいい事ばかり並べてきて、抱き締めた挙句、「自分を好きにしろ」とその身の全てを捧げきてみろ。

普通の女の子なら、理性と羞恥心なんぞ放り出して、その開けた胸にダイブしてるところだ。

私の堅固な自制心を労ってほしい。

いや、自制心以前に、私にはユーリにそんな感情はひと欠片もないけれども。

 

信じて欲しい、私はユーリに信じて頼っているだけなんだ。

そこに恋愛の"れ"の字もなく、カロルの巨大ハンマーでも砕けない強固な信頼関係しかない。

私をからかったり、手や腕を握ってきたり、抱きしめたり、しまいには口移ししてくるような、保護者の風上にもおけない所業は捨て置けないが、それも一重に彼が史上始まって以来のずば抜けた無神経の持ち主だからだ。

私のような、ちょっと少し、いやかなり、すんごい面倒な並の女の子に、外見も中身もイケメンなユーリの相手が務まるはずがないだろう。

 

現実を見て欲しい。その信頼関係もこれから一気に瓦解するかもしれないんだ。

人間だった私はテルカ・リュミレースに来た時点でエアルによって死亡しており、今の私は聖核で動く肉人形。

ユーリと出会った頃の私、彼の知る私はもういないんだ。

心があるとは言われたものの、その事実は変わらない。

 

 

(私の存在が、ユーリを失望させてしまう)

 

 

苦しみ悩む私に、現実は容赦なく迫ってくる。

放たれた闇の中で、私はもうひとりの私と再び繋がったことにより、身体の所有権が私へと切り替わった。

 

 

(ユーリに辛い思いをさせたくない。けど、彼に会いたい。会って、それで、それから……)

 

 

どっちつかずの気持ちまま、身体に重力が戻る。

吹きすさぶ風が耳を掠め、未だ熱のこもった身体を冷たく撫でてくれた。

ぼやけた視界と意識が、徐々に鮮明になっていく。

両手の中で青く輝いていた聖核 蒼穹の水玉は、私が目覚めるのを待っていたかのように、徐々に光を失っていった。

 

 

「私……帰ってきた?」

 

 

顔を上げた瞬間、現実世界が私の目に飛び込んできた。

満天星空の下、激戦でくたびれた静寂の闘技場、そのど真ん中に立ち尽くす私。

少し遠くを見渡せば、へたり込んだエステルが、じっと私を見つめている。

加えて、彼女の隣にいるジュディスの赤い目が、パティのまんまると開いた目が、固まっているリタやおろおろするカロルの目、お座りしているラピード、膝を落としたナッツを支えるレイヴンまでもが、黙って私を見つめていた。

私の近くにいたフレンに至っては、その整った顔を悲痛に歪ませてまで、こちらを目でとらえている。

まったく事態が読めず、戸惑う私の頬に一筋熱いものが流れた。

 

 

「あれ? ……どうして……?」

 

 

それは止める間もなく、次から次へと瞳からこぼれ落ちる。

 

 

「あれ? なんで、私、泣いて……?」

 

 

今初めて自分が涙を流していることに気付いた。

胸が痛くて熱くて、少し息苦しい。

もしかして、夢の世界の気持ちまで、現実へ持ってきてしまったのだろうか。

エステルたちを心配させまいと、がむしゃらに手で涙を拭って堰き止めようとしたが、なかなか叶わない。

白昼堂々と泣き虫を披露する自分にうんざりしていたところ、誰かが私を後ろから抱き寄せてきた。

 

 

「戻ってこい」

 

 

ずっと欲していた彼の声、体温、力強い両腕が、私の心に安らぎを与えようと包み込む。

間違えるはずがない。見て確認するまでもない。私を守り続けていた男 ユーリ・ローウェルがすぐ後ろにいる。

いつものように身を委ねかける私であったが、夢の中で体験したことを思い出して、咄嗟に彼から身を離した。

 

 

「駄目!」

 

「おい!?」

 

 

揺れる気持ちに身を任せて、私は追いかけてくるユーリの腕を振り払ってしまった。

しまった、何を今更動揺しているんだ。

彼を拒絶したところで、現実は変わらない。逃げてはいけない。彼を騙し続けることになる。

――怯えてないで立ち向かえ。

震える心を鼓舞し、改めて現実に向き合おうとしたが、ユーリの夜風に流れる長い黒髪、綺麗な顔、闇夜の瞳から、青空に包まれた学校の屋上で、穏やかに私へ微笑みかける夢の彼がフラッシュバックし、私の涙腺が崩壊した。

 

 

「私、彼に言われたのに……っ」

 

「誰に何言われたんだよ。誰がお前を泣かしてるんだ。

今すぐそいつを殴り倒してやるから、名前を言ってみろ」

 

「ユーリが、ユーリが……」

 

「オレ? オレがお前に何かしちまったのか?」

 

「ユーリは何もしてない」

 

「ああ。ひょっとして、戦闘でお前に構ってやれなかったことを怒ってるのかよ。

守りたくても、もうひとりのお前が逃げまわって、目で追うのがやっとだったんだ。悪かったな」

 

「そーじゃなくてぇ……っ」

 

「辛いことでもあったのか?」

 

「なんでもない」

 

「またそれかよ。ま、元のお前に戻れたんだな。

ひとり泣いて突っ立ってないで、オレのもとに戻ってこい」

 

「私は、もういないのに……っ」

 

「桜?」

 

 

安堵の息を漏らすユーリの口から「元の私」的なニュアンスの単語が出てきて、私は咄嗟に否定してしまった。

彼が知っている、彼が守りたかった私はもういない。

その事実に加え、何も知らないユーリがいつも通り、私の名前を呼んだことで、懸命に持ちこたえていた私の決心は、今度こそぽっきり折れた。

 

 

「やっぱり無理ぃ」

 

「泣くな。泣くな。泣くなら、こっち来て、オレの前で思いっきり泣き叫べ。

って、言っている傍からなんで逃げるんだよ」

 

「ユーリは無理なの」

 

「なんでだよ」

 

「無理ったら無理なの。もう無理」

 

「理由くらい教えろ」

 

「理由は……ない」

 

「おいこら逃げるな」

 

「私のことは、どうか放っておいて」

 

「オレにできないこと言うな。お前が大粒の涙流して泣いてるのを見たら、余計放っておけないよ。オレんとこに戻ってこい」

 

「お願い、ユーリ」

 

「そそられるおねだりだが。

誰がなんと言おうと、お前がオレの腕の中に収まるこに変わりないからな。

諦めろ、腹ぁ括れ、さあかかって来い」

 

「来ねーよ! 流石皆のトーヘンボクまったくもってブレないな!

その心諸共コゴール砂漠のど真ん中に埋めてやるから、大人しくそこになおれ!!」

 

「オレの燃えたぎるお前への想いは、コゴール砂漠の太陽より熱いんだぜ。

お前の涙を吹き飛ばしてやっから、さっさと来い」

 

「来ねーって言ってるだろ!

どんだけしつこく粘るんだよ、お前の脳みそは餅でできてんのか、おめでたいな! この手で握り潰すぞ!!

あっ。デリカシー皆無なユーリに、フツーの女の子のあしらいなんて無謀だったか、ごめん! 謝る!!」

 

「謝るわりには、反省の色がちっとも見えないんだけど。

まさか、オレを試してるのか? 誘ってるとか? いいぜ、乗ってやる」

 

 

挑発的な笑みを浮かべるユーリとカバディし始める私。

美青年と少女が真剣に見つめ合ったまま、じりじりと間合いをとりつつ、右へ左へ反復するなんて異様な光景、ギャラリーの皆が奇異の目を向けるのも無理ないが、こっちは真実を話すか否かで心がブレブレなんだ。

 

 

「む、無理無理無理……っ!

そんなにじっと私を見つめないでよ。私も見ちゃうでしょ!」

 

「少しは恥ずかしがれよ。ムキになっちまうだろ」

 

「子供相手に大人げない!」

 

「オレはいつだって、お前に全力投球だぜ」

 

「変化球の間違いだろ」

 

「強情なやつだな。流石のオレも力づくで」

 

「今!」

 

「あ、待て、桜!」

 

 

ユーリが痺れを切らすの見計らって、私がアメリカンフットボールのように蒼穹の水玉を抱え込み、彼の横をすり抜けようと目論んだところ。

逃すまいと手を伸ばすユーリの目が、一瞬私から反れた。

わけもわからず、彼の視線を追うのが早いか、誰かが私を後ろから包み込んだ。

 

 

「ああ! 桜が、あの君がここにいる……っ!」

 

「フレンさん!?」

 

 

私を背中から抱き止めてきたのは、先ほどまで悲しそうに私を見つめていたフレンだ。いつの間に復活した。

彼は身を強張らせる私の頭に頬を擦りつけ、硬い二の腕で、私を自身の胸にしまい込もうとする。

私の髪に降り掛かる彼の吐息、精悍で端正な顔、幸せを噛み締めるように閉じた瞼と、黄金色の長いまつ毛、私の身体にぶつかる生暖かい胸が、一斉に私に襲い掛かってきて、堅固なはずの自制心が早くも崩れかけた。

 

 

「フレンさん、いけません! 正気に戻って下さい!!」

 

「僕は至って正常だよ」

 

「公衆の面前で帝国騎士団隊長が女の子を抱き締めた上に、じっくりとっくり頬擦りしてる時点で正気沙汰じゃねーだろ!! 目を覚ませ!! 刮目せよ!!」

 

「僕は我慢してるんだよ」

 

「何を!? いや聞きたくない! 詮索するものか! 何か邪なものを感じる!!」

 

「僕の気持ちを汲み取ってくれたんだね。嬉しいよ」

 

「怖いんだよ、あんた騎士だろ、品行方正の下町の星だろ! ひとの乙女心くらい察しろ!

現在進行形で、フレンさんの存在が私の理性を犯してふっ飛ばしてる!!」

 

「泣かないで、傷つかないで、どうか僕を怖がらないで。

君の胸で受け止めてくれないか。桜」

 

 

私をじっと見つめるフレンの誠実な瞳から、私を守るという意志とは別の熱い何かを感じて、心の中から淡い気持ちが浮き彫りになってきた。

ユーリの言う通り、私って、気の多い女なんだろうか。

いや、普通の女の子がこんなイイ男に抱かれて、見つめられて、甘い告白されたら、ただじゃすまないだろ。

 

 

(マジでフレンさんに飲まそう。だ、誰か……っ)

 

 

思わず、保護者のユーリに助けを求めかけだが、先の件があって、躊躇してしまう。

考えてみれば、ユーリと違って、フレンはこの世界の私だけを見てきたんだ。

元の世界の話はすれど、この世界の私しか知らない。

ここにいる私だけしか知らない。

 

 

「もしかして、フレンさんなら……」

 

「僕なら、なんだい? 桜」

 

 

フレンの透き通るような青い瞳に、彼を見つめる私の姿が映る。

微かに残った理性が彼の熱意に陥落しかけたその時、フレンとの間に黒い影が強引に割り込んできて、私たちの甘い雰囲気を引き裂いた。

恐る恐る見上げたところ、私を守り続けてきた頼もしい背中が聳え立ち、続いて聞きなれた皮肉っぽい声が私の耳に届く。

 

 

「ふたりで熱くなってるとこ悪いが、こいつはオレが蝶よ花よと面倒見てきたお嬢さんだ。

いくら相手がフレンでも、ほいほいと渡せねぇな」

 

「ユーリ」

 

「桜も桜だ。何があって情緒不安定になってんのかしれないけど、頭ん中がお花畑になってるフレンに身を投げるのは早合点だろ。

ひとまずクールになれよ」

 

「だ、だって、私は……」

 

「だってじゃない。あんなもん見せつけられた、オレは……」

 

「どうしたの、ユーリ。こっち向いてよ」

 

「オレじゃなくて、周りを見たらどうだ。

お前のやることなすことに、皆が引いてるぞ」

 

 

ユーリに促されて、私は恐る恐る周囲の様子をうかがってみた。

ずっと落ち込んでいるエステルが気掛かりだが、カロルは目のやり場に困ってるし、リタは不機嫌に両腕を組んで貧乏ゆすりをしている。

部外者のナッツは見ていられないとばかりに顔を逸らし、レイヴンは物欲しそうにこちらを眺め、ラピードは、私たちのやり取りなど見飽きたんだろう、大きな欠伸をしていた。

尚、ワクワクと目を輝かせてこっちを観察しているジュディスとパティは、この際いないものとする。そーしたい。させてくれ。

 

 

「わああああああああああっ!!」

 

「今頃赤くなるのかよ」

 

「皆がドン引きしてる理由は、私がボロ泣きとか、ましては私が動揺しているのでもないだろ! この期に及んでわかんねーのか、貴様!?

平々凡々な女の子に対して、男2人がやり合ってる異常な光景を見せつけられたからだよ、いい加減気づけよ、鈍感トーヘンボクむっつり残念なイケメン野郎ども!!」

 

「お前のためだろ」「君を想ってこそだ」

 

「当然の如く、全責任を私のちんまい両肩に乗っけるな!

私の両肩に添えられた貴様らの手のひらからすんげー重力感じるのはなんで!? カッターぶっ刺すぞ!!」

 

「君が背負わなくても。僕は君の全てを受け止めるよ、さあ、おいで」

 

「私のショルダーアタック受け止めるって何のマゾですか。本気で殺りますよ」

 

「やるなら、オレの胸の中だろ」

 

「貴様にやるのは裏拳だ」

 

「なんでだよ……」

 

 

自信満々に親指で自分を指すユーリであったが、私の殺意を前にして、不機嫌そうにふてくされた。

ふたりは、何を必死に私の気を引こうとしているんだ。

だんだん皆の視線がいろんな意味で痛くなってきて、私の頭が羞恥心で弾けそうになる。

 

 

「ていうか、なんで私がこんな目に遭わなくちゃなんないのか説明しろよ、ふたりとも!!

下町の美青年が揃いも揃って、公の場で女の子を抱いてまわすとか、どんなキテレツプレイなんだよ!!

いや聞かないよ、そんなの聞きたかねーですよ! 仮もお年頃の私にんなこと言わせんな!!」

 

「オレとフレン。どっちに抱かれて良かったんだよ」

 

「言わせんなっつってるでしょ!!」

 

「僕も聞きたい」

 

「スルーしろよ!!」

 

「オレはお前の貞操を考慮してやってんだぞ」

 

「だったら、毎回毎回遠慮なく性懲りもなく配慮もなくハグしてくんなよ! 私の理性がもたねーよ!

お前の神経はダイアモンドか!? 今すぐ抜き出せ、ここで叩き割ってやる!!」

 

「ユーリは、いつも君にこんな不埒な蛮行を働いているのかい?」

 

「殺意の目でユーリを刺すのはお止めなさい、フレンさん、 まず真っ先に私が心労でやられる。

というか、自分が不埒な行為をしてる自覚はないんだな!

騎士の品格はどこへ飛んでった? 即刻ザーフィアスに帰って拾ってこい!!」

 

「まあ、どっちの感想を貰ってもだ。誰にもお前を渡す気はないけどな」

 

「え……?」

 

 

ユーリから勝気な微笑みを受けて、もともと脆くなっていた私の心がさらに跳ね上がった。

落ち着け、彼はきっと保護者か後継人として、私を心配しているんだ。思い上がりも良いところ。

冷静に努める私であったが、ユーリの幼馴染フレンからきっつい凍てつく波動を感じて、肝が冷えるどころか凍り付く。

ユーリの言葉が引き金になったのか、これまで度重ってきた私への過度な干渉を見かねたのか、フレンは鋭い眼光をユーリに向けた。

 

 

「ユーリ。桜を返してもらう」

 

「いつどこで何があって、こいつがお前のもんになったんだよ」

 

「彼女を僕のもとへ」

 

「ホントにノール港で交わした約束を忘れちまったんだな。

今回は見逃してやるから、とっとと自分の部隊ひっこめて、頭冷やしてこい。

オレとかわした決意を度外視するんじゃねぇよ」

 

「彼女を僕へ渡してくれ」

 

「しつこいぞ。桜に熱を上げるのも大概にしろ。皆引いてるだろうが、空気読めよ」

 

「桜と、彼女の持っている聖核を僕に渡すんだ」

 

「聖核を、だ?」

 

 

冷たい表情のフレンが淡々と放ったその言葉に、暢気に構えていた私たちに緊張が走った。

帝国騎士団の隊長フレンも、漏れなく聖核を狙っていたか。

即座に状況を読んだユーリは、私を後ろに回して、目前に立ち憚る騎士と間合いをとった。

 

 

「冗談が過ぎるぜ、フレン。街を武力制圧したのは、桜だけじゃなく、聖核のためにってか。

……意味、わかって言ってるのか」

 

「……」

 

「今のお前は、オレたちが嫌ってた帝国そのものだ。

オレや桜、下町の皆の前で、それが自分が選んだ道だって胸張ってほざけるのかよ、反吐が出るぜ」

 

「……」

 

「黙ってないで、なんとか言えよ。

自分が嫌ってる帝国に、聖核や桜まで差し出すつもりか」

 

「彼女は違う」

 

「何が違うんだ。お前の目指していたものはなんだ。守りたかったもんはなんなんだ。

――桜を失望させるな。オレにこんなこと言わせるなよ」

 

「桜の名を持ち出して、僕の気を揺さぶるつもりのようだが、無駄だ。

キュモールの件で、彼女を振り回した君に説得力はない」

 

「いいや、あるね。フレン、お前がやってることは、ラゴウやキュモールと同じ悪行だ。

そのまま、自分で決めた道から足踏み外して、悪道に突っ込むつもりか」

 

「なら、僕も消すのか。ラゴウのように、君の独善的な判断で僕を消すのか」

 

「フレンさん……!?」

 

 

立ち入るのとさえ憚られる、下町の青年たちの重たい論争、その片割れのフレンが予想だにしない切替しをしてきて、真顔のユーリ以外、全員に動揺が走った。

冷静に考えてみれば、腐っても帝国騎士団、評議会の重鎮の行方をいつまでも放置するようはずないだろう。イエガーも、ラゴウの死体が見つかったと言ってたんだ。

バレるのは火を見るより明らかだったが、フレンの「ユーリが自分を殺す」発言は聞き捨てならない。

 

 

「フレンさん。落ち着いて、まずは私の話を聞いて下さい!」

 

「ごめん、桜。君とは、後で話の場を設けるから、少しの間だけ静かにしてくれるかな」

 

「これが静かにしてられるか!!

考えてもみて下さい。常日頃あんたの血色とりどりな殺気を受けては流し、軽く往なし、快く浴びてきた、あのユーリがですよ!?」

 

「あれは決して気持ちいいもんじゃなかったぞ」

 

「ユーリは黙ってて」

 

「あのな、桜」

 

「ちょっと、すこーし、かなり、180度横道逸れたとは言え、腐っても幼馴染のユーリが、貴方を消すなんてありえないです。

それはフレンさんが一番知ってますよね?」

 

「君がこいつのために、心を砕くことはないよ」

 

「心砕くわ普通。あの、フレンさん。場違いな笑顔浮かべつつ剣に手をかけるとか止めて頂けません?

まさかのあんたが殺る気? やられる前にやったれ思考? 友の屍を越えていくパターン? いらないよ、そんな演出!」

 

「この先は、暴力と流血が飛び散る過激でセンシティブなシーンがあるから。桜は見ないで隠れていてね」

 

「恐ろしい前置きいらねーよ! この修羅場ほっぽって優雅に現実逃避したくても、そーもいかない流れだろ、これ! 回避不能な絶叫伴う大惨事が終点でお待ちになってる!!」

 

「君の目と心を穢すようなことはしないよ。すぐに終わらせて、君を迎えに行くから」

 

「その"桜が見てないところなら、何やっても大丈夫だよね★"なんて恐ろしい思考は今すぐ直ちに混沌の彼方へ投げ捨てろ!

そして、その沸いた頭をノードポリカの海に沈めてクールダウンする!!」

 

「君まで、僕が間違っているというのかい?」

 

「う……っ」

 

 

美青年騎士フレンから、捨てられた子犬のような瞳を向けられ、私の良心が痛んだ。

こいつの甘いフェイスが、ここでクリティカルヒットするとは思いもしなんだわ。

当人に自覚はないのが返って悪質だが、私が心を鬼にして対応しないと、彼のためにはならない。

 

 

「……フレンさんのやろうとしていること、私にはわかりません」

 

「きちんとふたりで話し合おう。だから、桜、僕とおいで」

 

「私どころか、ユーリだって納得できていません。皆の前で説明して下さい」

 

「君は自覚がないから、危ういんだ」

 

「フレンさん?」

 

「ユーリはラゴウを手にかけた。法を顧みず、自分勝手な正義を振りかざす男だよ」

 

「自分勝手じゃありません。ユーリは人助けのために」

 

「君は、自分の価値観で人の生死を決めるこの男に、何の抵抗も抱かないのかい?

自己中心的だと思わないのかな?」

 

「それは……その……。あ、あの時は仕方なかったんです。

ほら、ラゴウが私を攫ってきて、それをユーリが止めようとして……」

 

「君の目の前で、人殺しをしたのか!?」

 

 

慌てて言葉を選んだのが悪かったのか、真摯に私と向き合っていたフレンは一変し、鬼の形相でユーリの胸倉を掴んだ。

 

 

「何も知らない桜の前で、彼女を守るためのその手で人を裁いたのか。ユーリ……っ!」

 

「そうするしかなかった。オレが決めた。オレが選んだ道だ」

 

「桜に触れる何もかもを斬り捨てるつもりか? ともに彼女を守ろうと約束した、この僕も全て!」

 

「お前が悪党になるならな」

 

 

今にも殴ってきそうな剣幕で睨みつけるフレンに対し、ユーリは一切怯まず、真っ向から睨み返した。

彼の「一緒に私を守る約束」という言葉が引っかかったが、今はそれどころではない。

このままでは、下町コンビの聖戦が勃発してしまう。

なんとか、ふたりを鎮めようと試みたが、うまい言葉も見つからず右往左往していると、見かねたリタが私の手を掴んで、渦中のふたりから引き離した。

 

 

「何を悠長にひとりでキョドってんのよ」

 

「見ればわかるでしょう。ユーリとフレンさんが喧嘩通り越して、殺し合いに発展しそうなんですよ。早く止めないと!」

 

「落ち着きなさい。あんたには、何よりも優先することがあるでしょ」

 

「そうそう、フレンさんを説得しないと」

 

「時間の浪費よ」

 

「ですよね!」

 

「違うわ。あんたのお願いを聞き入れない耳の腐った野郎どもは、このあたしが片っ端から燃やし尽くすから気にしないで」

 

「気にしないで堪るか。そんな恐ろしい気休めはいらない。

あ。私、ユーリに伝えることがあったんだ。けど……」

 

「違う違う。言うに事欠いて、何言い出すのよ。

あのむっつり男相手に、あんたが告白なんてしようものなら、所構わず喜び発情して押し倒してくるわよ。絶対止めなさい。いいわね?」

 

「リタさんこそ、まじめに何言ってるんですか。

ユーリに限ってそんなこと……。私に発情とかない」

 

「あるわよ」

 

「ユーリの尊厳を蔑ろにしないで」

 

「あんな男の存在意義なんて、どーでも良いのよ。

それより、やることあるでしょ」

 

「あ。この蒼穹の水玉を、ドンに渡しにいかないといけないんだっけ」

 

「違うわ」

 

「一体何を」

 

「逃げるのよ」

 

 

リタは言うなり、皆を置き去りにして、私の手を引き、疾風の如く闘技会場を飛び出した。

薄暗く長い廊下をフレン隊の騎士や戦士の殿堂の人たちの間をすり抜け、時には掻い潜り、魔導士と思えないほどのスピードでひた走る。

彼女の小さな背中が頼もしく見えたのもつかの間、後ろの方から、ジュディスの涼しい声が聞こえてきた。

 

 

「女の子同士の逃避行、私も連れてって」

 

「うっさい! 桜連れて全力で走ってるのに、ふざけたこと言うな! この子の足が止まるでしょ!!」

 

「待ってよ、リタ、桜! ユーリとエステルを置いてっていいの!?

レイヴンもいつの間にかいなくなってるし、こんな時にどこ行ったんだろ」

 

 

ジュディスに続くカロルから、とんでもない現状を明かされて、足を止めそうになった。

ユーリやエステル、レイヴンが、まだ闘技会場に残されたまま!?

急いで踵を返そうとした私であったが、空かさずリタに力いっぱい引っ張っられて、闘技場の出口へと方向修正された。

 

 

「リタさん!?」

 

「エステルはユーリが何とかしてくれるでしょ!

心配しなくても、あんたのことしか頭にないあの男なら、あんたが海の果てで泳いてようが、山頂で茶をすすってようが、あの世でスキップしてようが、すっ飛んでやってくるわよ!!」

 

「レイヴンさんは?」

 

「知らん!!」

 

「やっぱし!!」

 

「桜の姉御も後ろ髪引かれる思いじゃろうが、ここは黙ってリタ姐に従うのじゃ」

 

「パティ!? いくらなんでもユーリたちを置いて逃げちゃまずいでしょう!」

 

「リタ姐は桜の姉御の身を案じているのじゃ。

桜の姉御が始祖の隷長の幼生で、騎士団の目的が聖核なら、桜の姉御はベリウスと同じ目に遭ってしまうのじゃ」

 

 

ぐつぐつ煮え立った土鍋とおでんを携えたパティから恐ろしい未来を告げられて、今度は足腰が砕けそうになった。

会うたびに、守る、助けると私に優しい目を投げかけていた、あのフレンが、自分を殺す。

私と話したいことがあると言ったのも、傍にいて欲しい、必要だって言ってくれたのも、全ては私の身体の中にある聖核のためか。

少し考えれば出てくる真実に、私の心に入ったヒビが、より一層深くなる。

 

 

「そんな現実も知りたくなかった」

 

「そんな現実"も"とは、他にもあるのかの?」

 

「ないない! そ、それより、パティはなんでおでん食べてるの?」

 

「育ち盛りの乙女には、定期的なカロリーの摂取が必要なのじゃ」

 

「本音は?」

 

「桜の姉御を賭けた男同士の熱血バトルのおかずに、ほっかほかのおでんは欠かせないのじゃ」

 

「おでんに沈むがいい」

 

「おわちゃーっ!?なのじゃ!!」

 

 

美味しそうにおでんを頬張るパティ目掛けて、私は土鍋をひったくって投げつけた。

クソ熱いおでん汁を浴びて、床でのたうち回るパティを置き去りにし、私たちは走り続ける。

ユーリたちならきっと、大丈夫だと、自分を説得しながら。

アディオス、パティ。

お前のさして尊くもない犠牲を切って踏んて投げ捨てて、私たちは前へ進むのだ。

 

 

 

 

リタに手を引かれて、ジュディスとカロル、ラピード、蘇ったパティとともに闘技場の門を潜り抜け、街を突っ切って、港に停泊している私たちの船フィエルティア号に飛び乗った。

幸福の市場の社長カウフマンから依頼の報酬でもらった船で、少しガタがきているが、これでもカプワ・トリム港から幽霊船、そこからノードポリカへ渡った実績がある。

甲板に立つと、冷たい潮風が走って、私の火照った身体を冷ましてくれるが、頭は全然冷えない、それどころか心はまだ闘技場に置いてけぼりだ。

フレンが私を殺そうとしていて、そのフレンをユーリが殺すかもしれない。

手元に残った蒼穹の水玉が励ますように輝いた気がしたが、私にしてみれば、ただ虚しく星明りに反射しただけの石の塊に見えた。

 

 

「こんなことになるなら、私、生き残るんじゃあ……」

 

「桜。内緒話があるなら、私が後でたっぷり聞いてあげるわ」

 

「ありがとう、ジュディス。でも、私は」

 

「だから、出航の準備を手伝ってくれないかしら。

操舵士のパティは舵から手が離せないし、リタは新しい駆動魔導器の点検をしなくてはいけないから。

残った私たちが急いでやらないと」

 

「でも、ユーリたちがまだ来てないよ」

 

「この船まで騎士たちに抑えられたらおしまいよ。

カロル、錨を上げてちょうだい」

 

「ボク?」

 

「男の子でしょう?」

 

「働け、ガキんちょ。あたしたち女の手を借りるなんてもっての外よ、あんたが踏ん張りなさい」

 

「リタまで! ボクひとりじゃ無理だよーっ」

 

「――ほれほれ、少年。おっさんも手伝ってやるから、頑張れ頑張れ」

 

 

カロルが批難の泣き声を上げると、どこからわいてきたのか、胡散臭いおっさんことレイヴンが鼻歌交じりに錨の引き揚げ作業していた。

このおっさんは、この混乱の最中どこへとんずらしていたんだろうか。

今までの葛藤が怒りへと変わり、作業を終えて一息ついているおっさんへ、その矛先を向けた。

 

 

「なんでレイヴンさんがここにいるの?

私たちが大変だって時に、今の今までどこほっつき歩いてた!?」

 

「あらぁ? 桜ちゃん、ひょっとして、俺様がノードポリカのレディたちに現を抜かしてたと思ったの?

妬いちゃって、かわいーっ! ふくれっ面の頬をツンツンしちゃいたい!

おっさん、青年の気持ちがわかっちゃったかも。ふひひっ」

 

「その可愛い拳で、お前の卑猥な気持ちもろとも脳みそカチ割ってやるから、今すぐドタマ差し出せ。

って、レイヴンさんはいいんですよ。ユーリたちは? 一緒じゃないんですか!?」

 

「俺様はどーでもいいなんて、寂しいこと言わないでよーっ。

青年たちに後れは取ったけど、今度は俺様が君を温かく包み込んであげようじゃないか。

ぐっすり眠れるかもしんないよーっ! ヘイッ! 翔ちゃん、カモン!!」

 

「うんぽっくり逝くな、悪い方向に! ユーリたちのことをほっぽって、キモイ戯言抜かさないで」

 

「照れなくてもいいのにーっ! 桜ちゃんったら、ホント初心なんだから。

これは俺様も青年たちみたく積極的に攻めるべき?おっさん覚悟決めた!

今夜は桜ちゃん抱き締めておねんねする!! 」

 

「ここは海の上だ。ウザいおっさん沈めるにはうってつけだぞ。死んで詫びろ」

 

「桜ちゃんったら、ひどいん! 助けて、リタっち〜っ!!」

 

「母なる大海原へダイブよ。喜べおっさん、あたしが地獄までぶっ飛ばしてあげる」

 

「これは相手を間違えたわ……っ。

俺が死ぬ時は、桜ちゃんがおっ死んだ時って、約束したじゃないのーっ!

死が俺たちを分かつまでって、俺様と永遠の愛を誓ったじゃーん!」

 

「普段から怪しい言動絶えないんだから、反故されても仕方ないだろ。日ごろの行いを悔いろ、おっさん」

 

「んっ! まあ、俺様が目を離してる間とは言え、桜ちゃんがけがしたのにかわりないし、しゃーないか。

後で、青年にこの背中ぶった斬ってもらおーっと」

 

「ええ!?」

 

 

知人に買い物を頼むがのごとく、恐ろしい事を言ってのけたレイヴンに、私は目をひん剥いて驚いた。

ヨームゲンでの約束があるとはいえ、本気で私への殺傷に付き合うつもりか。

 

 

「冗談ですよね。いつもの軽ーいおふざけですよね、レイヴンさん」

 

「マジもマジだよ。桜ちゃんが痛い目に遭ったってーのに、いい男が平気な面して愛を語れるわけないわ。

何、青年だってわかってくれるでしょ。死ぬことはないから、ヘーキヘーキ」

 

「平気なわけない。レイヴンさんまで傷つく必要ないですよ」

 

「君の痛みは、俺の痛みだぜ。可愛い女の子を守れなかった代償にしちゃあ、軽いもんさ」

 

「私がいいって言ってるの。レイヴンさんは気にしないで」

 

「君がよくても、青年は許してくんないでしょうよ。

……約束を違える、裏切りは許さない。ギルドの基本だよ」

 

 

へらへらしていたレイヴンが、一転、まじめな顔でギルドの決まりを突きつけてきて、私は出かけた言葉を飲み込んだ。

当の私が許しているのに、ユーリもフレンもカロルもレイヴンも、男という生き物はどうして頑なに義や我道を押し通すのだろう。

黙り込む私を見かねたのか、レイヴンは柔らかに微笑んで、私の顔をうかがってきた。

 

 

「俺様が心配?」

 

「当たり前でしょう」

 

「男冥利につきるねぇーっ! ご飯5杯はいけるかも、おっさんうれしーっ!

そいじゃあ、桜ちゃんにもひとつ約束してもらおうかな?」

 

「約束? ヨームゲンのとは別の? レイヴンさんが助かるならいいけど」

 

「青年に斬られた俺様を桜ちゃんがやさしーく介抱してちょうだいな。

そのクロークでひた隠ししている豊かな胸で俺様を包み込み、小さな唇でレモングミを口移して、熱の籠った声で俺様の名前を呼びながら、ふたりの世界へランデブー」

 

「死ねおっさん」

 

「ぎゃーっ!? ソーサラーリングぶっ放すことないでしょ、動けなくなった俺様を犯す気!? 桜ちゃんのエッチ!!」

 

「なんで避けるんだ。大人しく私の殺意を受け入れろ」

 

「待ちなさい、桜。こんなちゃらんぽらんなおっさん、まともに相手にしちゃダメよ。

あたしが桜の代わりに、そこのおっさんでばばっと汚い花火撃ち上げてくるから。ちょっとそこで待ってて」

 

「リタっち、なんで腕鳴らしてるの? もしかして、痛くて熱くて火だるまぼうぼうってやつ!? 生憎おっさんの腰の温熱療法は間に合ってるから!!

ジュディスちゃん、ベルプ! ベルプミーっ!!」

 

「駄目よ、おじさま。私の断りなしに、ユーリやかわいい騎士さんの恋敵を船に乗せるような無粋な人は、リタの手で墨屑になってもらわないと。ね。桜」

 

「そうそう墨屑に……って、なんでハリーさんが船に乗ってるの!?」

 

 

私がうんうんと頷いていると、ジュディスが目で指した先、レイヴンの後ろから、ドンの孫ハリーがバツの悪そうな顔で現れた。

この男、ユニオンの依頼とか言って、魔狩りの剣を使い、ベリウスのいるノードポリカを襲撃しただけでなく、聖核を探し出すために私を攫いに来た経緯がある。

思わぬ敵の襲来に、操舵士のパティを除いた皆が得物を構えようとしたが、レイヴンがハリーを庇うように間に入ってきた。

 

 

「皆、たんまたんま。もうこいつは敵じゃないよ。

桜ちゃん攫おうなんて気は綺麗さっぱりなくなってるから、ダイジョーブ」

 

「本当なんですか、ハリーさん?」

 

「お前を傷つけるつもりはない」

 

「私を使って、聖核を探す気はもうないんですよね?」

 

「お前を諦めたわけじゃない」

 

「この人まだやる気じゃないですか。マジで簀巻きにして海に沈めるぞ、おっさん」

 

「桜ちゃんったら、可愛い顔を怖くしてまで睨まないでよ。

……どういう了見だ、ハリー。お前さん、海凶の爪に偽情報を掴まされて先走ったんだろ。

俺様を騙そうったってそうはいかないぜ」

 

「彼女のことは諦めてない」

 

 

レイヴンから刺すような視線を受けたハリーは、ムッとしたかと思うと、私にチラチラ見ながら、ポロリとそう零した。

なにがどうしたか理解できないが、彼が何らかの形で、私に関わろうとしているのは確かだ。

また厄介事がやってきたのかと、レイヴンや皆に聞こうとしたところ、返ってきたのは、好奇な視線の集中業火だった。

 

 

「あらーっ! これは甘酸っぱい青春の予感?」

 

「なんなんですか、レイヴンさん。にやけた顔しないで、私の精神が根こそぎもげる」

 

「これは盛り上がってきたわ」

 

「私の気分はただ下がりだ。私で遊ぶの止めろ、ジュディス」

 

「桜の姉御は魔性の女なのじゃ」

 

「残念な女の間違いだろ。なんだこの生暖かい言葉の応酬。皆の気は確かなのか」

 

「バカっぽい」

 

「ほんとにそーな!!」

 

「でも、桜にはユーリがいるからダメだよ」

 

 

背中がかゆくなりそうな会話の中で、カロルの口から当然のように保護者の名前が出てきた。

皆して私で遊んでいるのは把握できたが、なんでそこに彼が持ち上がるのかがわからない。

 

 

「カロル。どうしてユーリがでてくるの? それ以前に、皆何の話してんのよ」

 

「桜の恋人の話てしょ」

 

「こ……っ!? だったら、尚更ユーリは関係ないじゃないの。

ベリウスの謁見の時に説明したでしょう。

彼は異世界から来た私を元の世界に戻すために、ずっと頑張って守ってきたのであって、決してそういう関係じゃないの」

 

「とぼけないでよ。ふたりでやってたじゃん」

 

「何を?」

 

「フレンがすごく怒ってたよ」

 

「な、なんで?」

 

「フレンが言ってたじゃないか。

闘技場の戦いのどさくさに紛れて、ライバルのユーリが桜とキ――」

 

「うわああああああああっ!!」

 

 

カロル少年が悪びれた様子の欠片もなく、ただ純粋に平然と恐るべき過去を引っ張り出してきて、私は雄たけびを上げながら勢いよくその口を塞いだ。

魔狩りの剣との騒乱の最中、重症の私を救うためとはいえ、ユーリはこともあろうに、ありえんほどきつい口移しを強行したのだ。

あれはキスにカウントされない。されて堪るか。するなら私自らの手でユーリを倒して羞恥心ととも自分も蒸発する。

私の上気する頬から何かに感づいたのか、レイヴンはちょっと不機嫌そうに顔をしかめた。

 

 

「あれま。また青年と何かあった感じ?

桜ちゃん。戦いの後、青年の顔を見て大泣きしてたし、ふたりの間にあったってーのよ?」

 

「な、なんでもない」

 

「なしてそこで目を逸らすの、怪しいさビンビン急上昇よ!」

 

「察しろ! いや、おっさんの場合は察しなくていい!!」

 

「ま、まさか、青年ったら、桜ちゃんの白いうなじ、そのたおやかな身体に、とうとう欲情……げふんげふん! 我慢していたうっぷんがついに爆発したの!?

そして、嫌がる桜ちゃんを力づくで押し倒し、あれよあれよとあられもない姿にして、あんなことやそんなことを!!

けしからん! 君の護衛にして、心の恋人レイヴン様が桜ちゃんに代わってお仕置きよ!!」

 

「お前の脳天に天誅だ!! 私の身体を舐めるように見といて、何如何わしいことのたまってるんだよ!! そのぎらついた両目もろとも海に投げ捨てるぞ!!」

 

「って、これ以上、桜ちゃんを突いたところで、どーせ話す気ないんでそ。

となれば、君にこんな愛らしい顔させる青年本人から聞き出せばいっか」

 

 

レイヴンが私から目を逸らしたので、釣られて波止場の方へ目をやると、フィエルティア号を追いかける黒衣の男を捉えた。

自分でも、心が躍るのが分かる。

ユーリが間に合ってくれた。駆け付けくれた。

彼の元気な姿に胸をなでおろした私は、船後部の船縁から身を乗り出して、いつものように名を呼んだ。

 

 

「早く、船に乗って! ユーリ? ……エステル?」

 

 

勢いよく声を上げた私であったが、ユーリたちの様子を目の当たりにして、トーンダウンしてしまう。

ユーリが、沈んだ表情のエステルと手をしっかり繋いで、気遣い、リードしながら、こっちに駆けてくる。

ちくりと何かが胸を掠めたが、私は構わず、彼らを急かした。

 

 

「ふたりとも、早く!!」

 

「桜、そこをどけ! エステル連れて飛び乗る!!」

 

「わ、わかった!」

 

 

ユーリは私にそう叫ぶなり、エステルとこそこそと話した後、驚き固まる彼女の腰に片腕を回し、強引に抱き寄せた。

かつてノール港で私にしたように、彼はエステルを抱えたまま、この船目掛けて、大きく飛躍する。

私が目を見張る中、ふたりの身体は空を踊り、風を切って船端を掴むと、勢いよく船内へ転がり込んだ。

 

 

「いつつ……っ」

 

「……」

 

 

甲板の上で横たわって、呻き声を上げるユーリと、彼の腕の中で静かになってるエステル。

私の中で、未知の感情がふつふつと沸いてきたが、今はふたりの無事を確認するのが優先だ。

 

 

「ユーリ、エステル。ふたりとも、けがはない?」

 

「危うく置いてかれるどころだったぜ。大丈夫か、エステル?」

 

「はい。わたしは……。でも、ユーリが」

 

「オレのことはいいんだよ」

 

 

私の呼びかけに、ユーリは一瞬こちらへ目配らせるものの、すぐ腕の中のエステルへ心配そうな声を投げかける。

エステルも素直に頷き返して、彼と見つめる様が、私には異質に見えた。

いきなりふたりの存在が遠くなったとうか、しいて言うなら、誰にも踏み入ることのできない、ふたりの世界がそこで出来上がったというか、なんだろう。胸がきしむ。

 

 

「え、えーっと、とりあえず、ふたりとも無事でよかったね。カロル」

 

 

居たたまれなくなって、適度な緩和剤を探したものの、当のカロルはジュディスと一緒に荷物を確認していた。

一か八かリタに声をかけようとしたら、彼女は船の動力である駆動魔導器に釘付けになっている。

船の舵を握るパティは論外だ。彼女はユーリの言動に寛容で、今も興味津々で私たちを眺めているあたり、助けは期待できない。

唯一手持ち無沙汰のハリーを頼れるわけもなく、最後の砦ワンコのラピードは、敵がいないとわかっているのか、床に寝そべっている。

なすすべもなく、じっとふたりの様子を眺めていたら、ハリーに付き添っていたはずのレイヴンが私の背後からひょいと顔を出して、口を尖らせた。

 

 

「あらあらまあまあ。保護者を名乗る青年が見せつけてくれるねぇ」

 

「レイヴンさん?」

 

「桜ちゃん、ここは激おこプンプンなところよ。

いくら人間関係に寛大な俺様でも、これは見てらんないわ」

 

「怒る? 何に?」

 

「何って、桜ちゃん……。青年、おたくの腕と胸は誰のためにあるの。

俺様、怒りに任せて、お前のその緩んだ頭に矢の雨をぶっ刺しそうだ」

 

「はあ? 何怒ってんだよ、おっさん」

 

「とぼけてる場合? 自覚ないなら相当の女オンチよ、青年」

 

「だから、言ってる意味が――」

 

「あろうことか。保護対象の桜ちゃんの目の前で、他の女の子とイチャラブなんてないでしょーよ。

こんな最低最悪なシチュエーション、まずくて全然頂けないわ」

 

 

レイヴンのジト目を受けて、ユーリとエステルはハッとすると、互いに顔を背けた。

 

 

「いちゃ……? ああ、これは、なんでもねぇよ」

 

「そうです。なんでもありません!

わたしとユーリとは、何もありません。本当に全然何もありませんから、桜は心置きなくフレンと一緒になってください!」

 

 

ユーリが腰を上げるより早く、エステルは彼の胸を押しのけ立ち上がると、私に詰め寄ってきた。

そこにはいつもの狂気はなく、頑張って私の恋を応援する可愛らしいお姫様しかいない。

どこか乙女になってる彼女は、若干引き気味なる私に尚も迫ってきた。

 

 

「桜にはフレンが必要で、フレンは桜が必要なんです!

互いに求め合ってるのなら、きちんと話し合って和解すべきです!」

 

「エステル。なんか目が潤んでるんですけど。その……、本当に何もなかったの?」

 

「あ、当たり前です! わたしは桜の親友ですよ。信じて下さい!

ユ、ユーリとは、……えっと、ちょっとお話をしたくらいで、桜には、貴方には、その、あの、か、関係ありません!」

 

「話した? 何を?」

 

「とにかく、ユーリとは何もなかったのです!」

 

 

そこまで必死に否定されたら、尚のことさら、ふたりの間に何があったのか気になるじゃないか。

私と離れている間に、女性の扱いがド下手クソなユーリと狂瀾怒濤の殺人鬼エステル嬢の仲を深まるような何かがあった。

考え込む私とレイヴンの発言から、何かを察したのか、ユーリは短いため息をついて、人差し指で私の額をグリグリしてきた。

 

 

「レイヴンの話を真に受けるなよ」

 

「エステルの変貌が凄まじいだろ。正直に吐きなさいよ。

どうやってこの殺戮の暴風皇女をこんなに丸く、しをらしく、私がドン引きするくらい沈静化させたの!?」

 

「エステルも言ってただろ。ちょっと話しただけだ。お前が気にすることじゃないよ」

 

「気にしてないよ」

 

「本当か?」

 

「ユーリの女性関係なんて、私、知らないし」

 

「怒ってんじゃねえか。焼きもち妬くな」

 

「本当に知らないんだってば。

私は、どうせ……とか、ひとが真剣な話してるのにおでこツンツンするな! その指を止めろ! 握ってへし折るぞ!!

何嬉しそうな顔してんだよ、むかつくわ!!」

 

「お嬢さんの可愛い一面を拝めたんだ。嬉しいに決まってんだろ。

ほら、お前の気が済むまで、よしよししてやるから、そう睨むなよ」

 

「私は至って平常だ! あえて言うなら毎回懲りずに子供扱いするてめーだよ!!

度の超えたスキンシップを止めろ! にやけたその美しい顔に憎悪が沸くわ!!

そもそもユーリはしつこい……て、そっか。その手があったか」

 

「ん?」

 

 

飽きずに私に構い、微笑みかけてくるユーリを見て、ふと私は妙案を思い付いた。

彼は私にかかりきりで、他に気をかける余裕は、ほぼほぼないに等しい。

だからこそ、私がすでに亡くなったと知った時の喪失感は、凄まじいものになるだろう。

 

 

(だったら、ユーリに私以外の誰か、例えば、大切な異性ができたら?)

 

 

今のエステルみたいな、可憐な女性を彼に宛がえば、少しは精神ダメージが軽減されるのではなかろうか。

要は私への執着心をなくして、ユーリ自身の幸せを見つければ良いのだ。

一石二鳥。我ながらナイスなアイデアではないかと納得していると、ユーリは怪訝な表情で、私の顔を覗き込んできた。

 

 

「うんうん頷いているとこ見ると、オレの誤解は解けたのか?

……いや、この顔は、何か余計なことを企んでいるな」

 

「なんでもないよ」

 

「なんでもあるだろ。何もかも自分ひとりでなんとかしようってところ、お前の悪い癖だぞ。

闘技場でベリウスを倒した後、オレの顔見て泣いたのも関係してるのか」

 

「なんでもないってば。ユーリはもっと視野を広めるべきなんだよ」

 

「いつも思考が袋小路になってるお前が言うのかよ。……ひょっとして、まだお怒りか?

うちのお嬢さんは、どうしたら機嫌治してくれるんだ。

オレはただ、お前のことを考えて……」

 

「ユーリはぐずぐず言い訳しとらんで、桜の姉御に誠心誠意全力で謝るのじゃ。

桜の姉御は、うちと違って男の浮気には厳しいからの」

 

 

ユーリの弁明を遮って、舵を操るパティが間違った解釈をぶち込んできた。

にやにやしてるレイヴンや渋い顔してるハリーはともかく、ユーリに気がありげのエステルは複雑な表情はしてるのは頂けない。

「ユーリに好きな女の子を作る」作戦に支障が出ること請け合いなので、私は急ぎ釈明を試みた。

 

 

「パティ。私はユーリにそんなもん求めてないよ。

ユーリが誰を好きになろうと、私の知ったことじゃないから」

 

「おい」

 

「寧ろ、さっさと恋人を作ってくれたら、私はすごく嬉しい」

 

「桜。お前、何言い出すんだ」

 

「うちに気を遣わなくていいぞ。モテモテユーリも美味しく頂けるのじゃ。

なんてったって、うちはユーリにゾッコンなのじゃ」

 

「……パティもありか」

 

「何がありだよ。何したり顔してんだよ。なあ、オレ、お前に何かしたか?」

 

「何もしてない。闘技場での時、私のことは放っておいてとも言ったよね。

いいよ、私のことなんて。ユーリはユーリの好きなようにしなよ」

 

「あのな。ったく、頼むから、そんな素っ気無い態度すんな」

 

 

ユーリの未来を考える私の意に反して、当人は少し苛立ったように頭を掻いた。

彼にとって、私の反応は好ましくないかもしれないが、私の真実を知るよりマシだろう。

何事も最初が肝心と覚悟を決める私へ、堪りかねたユーリが手を伸ばそうとしたその時、調子のいいおっさんがここぞとばかりに彼を煽ってきた。

 

 

「やーい。青年ったら、不思議少女に塩対応されてやんのーっ!」

 

「おっさんうるさいぞ」

 

「いい気味よ。浮気する方が悪いのにねーっ。

耳にタコができるほど大口叩いといて、浮気とか、桜ちゃんも青年に幻滅しちゃうわ。

それに比べて、俺様の桜ちゃんへの一途な想いを見てみなよ! 眩しくて目が潰れるだろ!」

 

「おっさんは黙ってろ」

 

「桜ちゃん、桜ちゃん、青年なんて放っておいて、俺に乗り換えない?

俺様の大人の魅力で君の心の傷を癒し、埋めて差し上げよう!

今なら熱い抱擁に、深いベーゼもついてるぜ!」

 

「おっさん埋めるぞ」

 

「へぶしっ!?」

 

 

浮気者ーっとユーリをからかうレイヴンであったが、矛先が私に傾いたところで、例のごとくユーリに鞘で殴り倒され、勢い余って頭を床にぶっ刺し、沈黙した。

なんかいろいろ誤解されたままのような気がするが、ユーリの気持ちが私から離れるなら、それでいい。

胸が少し苦しくなったが、私は気を確かにもって、ユーリから逃れるべく、パーソナルスペースを広げた。

 

 

「私、リタさんのところに行ってくるね。ユーリはエステルと一緒に休んでて」

 

「待てよ、桜。ベリウス戦から何があった。本当に、あれからお前に戻ったんだよな」

 

「……。私は私だから。私に構わなくていいってば」

 

「やっぱ、お前、戦いの後からおかしいぞ。

始祖の隷長以外に、オレにまだ隠していることがあるな」

 

「私のことはいいの。それより、急いでノードポリカの海域から出ないと」

 

「桜。ちゃんとオレの目を見て話を聞け。おい」

 

「パティ、ここはかっ飛ばして行こう!」

 

「了解した、桜の姉御! 全速前進なのじゃ!!」

 

 

こっちに詰め寄ろうとするユーリを差し置いて、私が景気よくGOサインを出すと、パティは気持ちいいくらいに快諾してくれた。

星が散らばる夜空の下、私たちの乗るフィエルティア号が風を割き、海原を走る。

これからどこへ向かうか。私たちの旅路に何が待ち受けているのか。ユーリの恋の運命や如何に!?

 

 

……とか、能天気なこと考えつつ、ユーリから逃げ回っていると、突然視界がぐらつき、声を上げる間もなく、全身が鉛のように重くなった。

船中に響き渡る激しい駆動音が鼓膜を侵して、弱った私にトドメを刺そうとする。

堪らず崩れ落ちそうになった瞬間、ユーリが片手で私の肩を掴んで防いだ。

 

 

「桜! 顔が真っ青だぞ。この音、魔導器のエアル酔いか!?」

 

「近くから、エアルが、行かないと……っ」

 

「無理して立ち上がるな。オレが船室まで運んでやるから、じっとしてろ」

 

「私は、平気。自分で歩ける」

 

「そろそろ、オレの言うこと聞いてくれよ」

 

「私に構わないで。ユーリは先に……」

 

「いい加減にしろ!」

 

「ユーリ?」

 

「オレが気に入らないならそれでもいい。お前が元気でいるなら、嫌われても構わない。

けど、自分で自分を追い込むな! 自分を蔑ろにするんじゃない!」

 

 

真剣な表情のユーリにぴしゃりと叱られて、私は竦み上がってしまった。

ユーリが傷つかないように行動していたつもりだったが、私が自分を追い込むとか、自虐なんてしていない。

わけがわからず、当惑する私の隙をついて、ユーリが私の両肩を掴んで引き寄せた。

私と彼の距離が一気に狭くなって、私の目と闇色の目がぶつかる。

 

 

「これで逃げられないだろ」

 

「力づくなんて、卑怯だ!」

 

「卑怯で結構。お前のためなら、どんな手でも使う」

 

「放して!」

 

「言ってる場合か。お前が嫌でも、オレはお前に付き合うぞ」

 

「いいって言ってるのに!」

 

「こら、駄々っ子みたいに身体を伸ばすな。抱えにくくてしょうがないよ」

 

「――この術式! やっぱりヘリオードのと同じだわ!!」

 

 

ユーリが暴れる私を横抱きにしたところで、リタの驚愕の声がこちらまで届いた。

彼女のいる方向、駆動魔導器から過度なエアルの収縮を感じる。

この異常な駆動音とリタの声で、カロルを始め、船に乗っている皆が当惑し、ますます混乱に陥ってしまう。

リタの発言からヘリオードの詰所の騒動を思い出した私は、一刻も早く状況確認すべく、ユーリの腕から離れようともがき続けた。

 

 

「早く駆動魔導器を止めないと、この船が吹き飛んじゃう!!

だから、ユーリ、早く私を放してって!!」

 

「お前を船室に連れてくのが先だ。リタと駆動魔導器は、皆がなんとかしてくれるさ」

 

「私がエアルを吸収すれば済む話なのにーっ!」

 

「お前に、何度もあんな危険なマネさせられるかよ!って、ジュディ?」

 

 

言い争いを始める私とユーリの前を、ジュディスが颯爽と横切った。

彼女の片手には、星明りに輝く一振りの槍が握られている。

まさか、と胸に不安が浮かんでいる間にも、リタの悲鳴が船内に響いた。

 

 

「――いやっ! 止めて、何をする気!?――」

 

「リタさん!?」

 

「オレから身を乗り出すな! チッ、仕方ねぇな!」

 

 

思わず身を起こす私を、ユーリはさらにきつく抱きかかえて、船室ではなく、エアルの収縮の大元、駆動魔導器の元へ駆け出した。

急く気持ちと動悸を抑えなら進行方向に目を走らせると、壊れて静かになった駆動魔導器、そのすぐ傍で呆然とひざを折るリタの姿が飛び込んでくる。

彼女の悲鳴が聞こえたんだ、けがを負ったのかもしれない。

 

 

「リタさん、大丈夫!?」

 

「大丈夫も何も、この子が……っ。

いいえ、あんたがユーリに抱えられてやってきってことは、やっぱり……っ!」

 

「けがはないんですか?」

 

「あたしは平気よ。心配させて、悪かったわね。

駆動魔導器が停止したから、あんたも元気になってるはずよ」

 

「あ……っ!」

 

「ほら、そこで動かない!

今、あんたにむっつり男から離れられると厄介なのよ。お願いだから、大人しくしてて」

 

 

軽くなった身体を起こして、ユーリから逃れようとする私であったが、間髪入れずにリタに止められて、静かに身を縮こませた。

理由はなんとなくわかる。不吉な行動をとっていた彼女の姿が見えない。

しかし、私が焦って探すまでもなく、意外と近くに彼女はいた。

 

皆が釘付けになっている先、夜空と海の地平線をバックに、船縁に立つ、ひとりのクリティア人。

彼女は、片手に槍を携え、私たちを見据えたまま静かに佇んでいた。

 

 

「ジュディス!?」

 

「……」

 

「あたしの駆動魔導器ぶっ壊しといて、黙ってるんじゃないわよ!!

何考えているのか、四の五の言わずに白状しなさい!! 今すぐ速攻、直ちに吐く!!

正直に話すなら、腹に一発叩き込むだけで済ませてあげるわ! いいえ、魔導器を壊した時点で釈明の余地はない」

 

「どっちだよ、リタさん」

 

「あたしの前で呼吸できることに感謝しなさい」

 

「容赦ないな貴様」

 

「探られて痛くもない腹かかえてるやつなんて、この世にはいないわよ。

ジュディス、黙ってても、待ってるのは、あたしの制裁よ。腹を掻っ捌いて説明しなさい」

 

「それが私の道だから」

 

「意味不明なこと言って誤魔化すな! 説明にもなってないわよ!!」

 

「ジュディス。もしかして、フレンやユーリみたいなこと言ってるの?

槍を使って、魔導器を壊すなんて、まるで竜使いじゃないか」

 

「……」

 

 

不安そうに顔をしかめるカロルの問いかけに、ジュディスはまた沈黙してしまう。

彼女が何を言うのか、なんて取り繕うのか。

私たちの間に、張り詰めた空気が支配し始めたところで、それらすべてを振り払うかの如く、私の胸がざわつき始めた。

 

 

「これ、は……っ!」

 

「桜、船室で休むぞ。ジュディ、話は後で必ず――」

 

「いけない、ジュディスから目を離さないで!」

 

 

嫌な予感が脳裏を過り、私はぎゅっとユーリの胸倉を握りしめて、彼の足を止めようとした。

これは始祖の隷長のもの。カプワ・ノールやヘリオード、ダングレストで感じたものと同じだ。

誘われるように見上げると、優雅に夜空を舞いながら、私たちの船に近づく一匹の竜と目が合う。

目を見開く私、リタは怒りに燃えて身構えた。

 

 

「バウル……?」「あのバカドラ!!」

 

「私のお友達を傷つけないで」

 

 

リタが魔術を発動するよりも早く、ジュディスが毅然と私たちの前に立ち憚った。

私たちとジュディスの間に生まれた緊張が、今にも破裂して、戦闘に突入しそうだ。

私を抱えたユーリ、既に臨戦態勢のリタを除き、皆が得物に手を添えようか迷っていると、ジュディスは場違いな微笑を浮かべ、名残惜しそうな目で私を見下ろした。

 

 

「ごめんなさい、桜。貴方の内緒話を聞くって約束したのに、私、守れそうにないわ」

 

「ジュディス、今からでも遅くない。戻ってきてよ」

 

「ユーリと上手くやってね」

 

「何をだよ!? 親指立てる場面じゃねーだろ!?

絵面的に映え過ぎて、返って不気味だ、やり直せ!!」

 

「言われてみれば、貴方、ユーリに浮気されたのよね」

 

「その話題はもーいい!!」

 

「ジュディ。オレとの約束はどうした。

こいつを守るってのは、口から出まかせだったのか?」

 

「貴方がいるじゃない」

 

「ああ、桜にはオレがついてる」

 

「もう二度と、彼女を裏切っては駄目よ」

 

「オレはこいつを見捨てた覚えはないだけどな」

 

「誤解は解かないといけないわ」

 

「手伝ってくれるか。強がりの桜には、お前も必要なんだ」

 

「嬉しいわ。桜に求められるなんて、素敵」

 

「だったら――」

 

「……さようなら」

 

 

ユーリの呼び止めも虚しく、ジュディスは竜バウルの背中に飛び乗り、空高く飛んで、闇夜に消えてしまった。

ヘリオードで正体は知らされていたが、この時、この場所、皆の前で、こんな暴挙にでた彼女の真意が見えない。

本人に聞きたくても、相手は空の彼方、この夜の闇、、何より、壊れた駆動魔導器を積んだこの船が、私たちをどこへ運ぶかわからない状況だ。

私たちは、やむを得なく、今を受け入れ、遅い休息をとることにした。

 

 

 

 

 

たった一夜にして、波乱万丈、怒涛の展開を駆け巡った私たちに、やっと一時の休息が与えられる。

だだっ広い海の中で漂流なんて形だけど、収拾がつかなくなった皆には時間が必要だ。

ベリウスに最期を与えるきっかけになったエステル、そして凛々の明星の首領のカロルは、心の整理がしたいと夜風にあたり甲板へ行った。

パティは潮の流れを調べに船縁へ、リタは壊れた駆動魔導器の修理をしているし、レイヴンはハリーと話をつけるために船の隅に行ってるから、皆が皆、心身ともにじっくり休めているわけではない。

――漏れなく、私を含めて。

 

 

「わ、私も、エステルやカロルと一緒に心の整理がしたんですけど」

 

「オレの前で、思う存分すればいいだろ」

 

 

木造の壁や床がむき出しになっている、この質素な船室にて、ユーリとふたりきりになった私は、いよいよもって年貢の納め時かもしれなかった。

明々と光を放つランプが、ユーリの真摯な顔と、私を見つめる黒い瞳を鮮明に照らしている。

即刻ここから逃げ出したいが、唯一の出入口であるドアの前には、ラピードが居座っていて叶いそうにない。おわた。

 

 

「これって、ひょっとして軟禁ってやつ?

フレンさんに言いつけるよ。召喚するよ。大声で呼んだらマジで飛んでくるから、あのスーパーテルカ・リュミレース騎士」

 

「ああ、本当に来るかもな。オレは構わないけど」

 

「私が構うんだよ」

 

「誰が何してようと、オレはお前しか見てないよ」

 

「ご、誤解しそうなこと言わないで」

 

「本当のことだろ」

 

「だったら、現在進行形で自分が放ってる居たたまれない雰囲気を察しろよ!

いっぱしに超人フレンさん目掛けて空気読めとか無理難題押し付けといて、当のあんたが読めてないとか、どんだけ無神経なんだ!?

私にプライバシーとか、黙秘権とか、なんもかんも取っ払って、軟禁強行とかない!!」

 

「いまいちツッコミにキレがないな。やっぱ何か抱え込んでるだろ」

 

「う」

 

 

ユーリの鋭いツッコミが私の胸に刺さって、私はその場で固まってしまう。

ま、まずい。早く話題を変えないと、芋ずる式で私の真実が白日の元に晒される。

 

 

「そ、そういえば、あんな険悪なムード出しといて、よくフレンさんから逃げてこれたね」

 

「パティから貰った煙幕で撒いたんだよ」

 

「だから、闘技場にユーリたちを放置しても、パティは平常運転だったんだ。

いや、あの娘のことだから、何があっても動じないか。私がおでんで倒したけど」

 

「おでんで成敗とかどんな状況だったんだよ……。

パティの話はいいんだ。お前の話を――」

 

「結局、フレンさんとは別れることになったんだよね」

 

 

話の軌道修正を図るユーリに、私はさせまいと別の話題を突っ込んで阻止した。

彼の眉尻がピクリと跳ねたような気がして、ちょっぴり引きそうになる私。

さらに目が泳ぎ始めた私を見て、呆れたのか、はたまた溜飲が下がったのか、ユーリは力んだ肩を落とした。

 

 

「あいつとは、マンタイクでとっくに決着はついてた。お前もその場にいただろ」

 

「諦めちゃ駄目だって。ゴタゴタに流されて、フレンさんと袂をわけちゃったら、後悔するのはユーリなんだよ?」

 

「お前から目を離して、傷つけられる方がよっぽど後悔するよ。

オレの話はいいんだ。もう済んだことだからな」

 

「よくない。ユーリはもっと自分のことを考えて」

 

「オレ自身のことを考えた結果が、今だろ」

 

「私のことはもういいの。放っておいてって、何度も言ってるのに」

 

「待てよ、桜。その"もういい"ってなんだ。

ここまで引っ張っておいて、何勝手に終わったことにしてるんだよ。

お前の未来のために作った時間だぞ」

 

 

上手くかわそうとしたつもりだったが、ことごとくユーリに言葉を拾われて、私は次の言葉に迷った。

今日まで、私をよく見てきた彼なら、私の些細な言動から、心の機微を読み取るなど容易ことだろう。

それなら、それで、毎度毎度乙女心をぶん捕って振り回すような行為は慎んでほしいんだが、……この男、わざとやってるんじゃないだろうな。

睨み返したいところだが、そんな彼がこんな私を捕まえて離さない意味を考えれば、微塵の度胸もわかない。

 

 

(ユーリは覚悟を決めたんだ。そして、私にもそうしろと。だけど、それは私にとって逆効果だ)

 

 

彼が私に向き合えば、向き合うほど、向かえる結末は苛烈極まりないことになる。

しかし、私が黙っていようとも、時と彼の堪忍袋の緒を擦り減らすだけだ。

どう言い繕っていいのかわからず、困りに困った私は、胸の中で燻るひとつの疑問を彼に投げつけた。

 

 

「ユーリだって、私に話してないことがあるでしょう」

 

「なんのことだ?」

 

「エステルとふたりで何を話していたの?」

 

 

少しだけ、迷いと苦い感情が胸をつついたが、私は平静を装って、ユーリに問いかけた。

所構わず殺意を振りまいていたエステルが、少し目を離した隙に、ユーリに気を傾けるようになるなんて、天地がひっくり返るほと異常だろ。

予想通り、彼は頬を掻いて、露骨に目を逸らした。

 

 

「何もなかったんだって。エステルも言ってただろ。ちょっと話してただけだよ」

 

「ちゃんと私の目を見て話して」

 

「お前がそれを言うのか。

エステルがベリウスのことで落ち込んでたから、励ましてやっただけだよ」

 

「それだけじゃないよね」

 

「オレを信じろよ」

 

「今の話だけじゃ、エステルの豹変は片付かないよ。

ユーリが隠し事する時は、大抵真実を小出しにしたり、さりげなく話題を変える時だよね。

きっと大切なことをまだ話してない」

 

「本当にオレをよく見てるんだな」

 

「喜んでないで、教えてよ」

 

「オレが話したら、お前も素直に話してくれるのか」

 

「話せない」

 

「おい」

 

 

じっとユーリに目を見据えられても、私は首を横に振って、断固拒否した。

そうしたところで、事態は変わらないどころか、彼に追い詰めるのがオチだが。

ここはさらに話題を変えるべきである。そう、「ユーリに彼女を作る作戦」は現在も絶賛継続中、ユーリの未来を考えたら、私の胸の挙動なんて、いちいち気にしていられない。

 

 

「ユーリは、エステルをどう思っているの?」

 

「天真爛漫おてんばお姫様」

 

「おてんばで片付けていいのか、あれ……」

 

「オレは、お前のように言葉を選べるほど、器用じゃないからな」

 

「この際正直に行くけど、エステルのユーリを見る目が大きく変わってたよ。

えと……、ユーリのこと、……好きになったんじゃないかな」

 

「神妙な顔して、何を言い出すかと思えば、お前」

 

「なんで呆れた顔して、大きなため息までついてんだよ。

私は、ユーリの幸せな未来を見据えて話をしてるんだよ」

 

「急な話だな」

 

 

詰め寄るユーリに対して、今度は私が彼に迫る。

ユーリは一瞬目を見開くものの、私の考えに興が乗ったのか、懐まで押し入る私を甘んじて受け入れた。

 

 

「自分のことさえままならないお前が、オレの未来図まで描いてくれてるとは光栄だ。是非ともお聞かせてもらいたいもんだね」

 

「貧相な私は置いといて」

 

「置いとくな、オレの前に持ってこい」

 

「鏡を見なさいよ。ユーリは素材が良いんだから、もっと積極的に女の子にアプローチしても良いと思う。

その顔で流し目されたら、道行く乙女たちの十人中九人は見惚れて襲い掛かってくるよ」

 

「襲われて堪るか。言い切るからには、当然、その中にお前も含まれてるんだよな」

 

「いない。私は十人中の一人だから。気にしない気にしない」

 

「こっちが気に……いいや、桜。オレがそんな歯の浮くような挑発しないのわかってるだろ」

 

「あ。男の人もありか」

 

「ねえよ!」

 

「フレンさんとか」

 

「あいつとは決別したって、今話してただろ」

 

「カロルとか」

 

「カロル先生とは、オトコノユウジョウしかないよ。

その前に、ナンの存在を忘れたのか?」

 

「間男かぁ」

 

「何納得した顔してんだよ。勘違いも甚だしいぞ」

 

「大穴でレイヴンさん」

 

「想像させるなよ、おぞましいだろ、吐き気がしてきたぞ、やめろ」

 

「経験豊富なおじさまだよ」

 

「怪しさ満載なおっさんだろ。やめろっつってるだろ、その口塞ぐぞ。

オレにそんな趣味はない。トリム港からの船出の時の話、いつまで引っ張る気だ」

 

「ああ、ユーリは年上のお姉さんが好みだったっけ」

 

「そんなこともあったな」

 

 

私が「これだ!」と手を打つものの、ユーリは動じることもなく、まるで他人事のように受け流した。

ケーブ・モック大森林の時は、彼の煮え切らない態度でうやむやになってしまったが、いつのまにか好きなタイプが変わったのだろうか。

これは徹底的に追及しなければいけない。

 

 

「大人の女性と言ったら、包容力にあふれる母性的な女性、それとも成熟で魅惑的なのがタイプなの?

例えば、ジュディスとか。少し前にお空の彼方へ飛んでっちゃったけど」

 

「お前に話してなかったけど。ジュディスとは、バルボスの塔ガスファロストの牢屋で、殴り合った仲だぞ。

友情こそあれ、恋愛感情はないな」

 

「ユーリって、相手が女の子でも殴るんだ」

 

「怖がらなくても、お前に暴力を振るったりしないよ」

 

「いやあんたは既にセクハラという暴挙で……ごほん!

じゃ、じゃあ、リタさんは? 下町の魔核泥棒の時に比べて、随分息が合うようになったじゃない」

 

「あのツンケンとオレが? ナンセンスだな。

息が合うのは、大切なものがたまたま同じだったってだけだ。

オレのこと、むっつりだのなんだの言って、上から目線で命令してくるだろ。女として見れないよ」

 

「パティはどう? なんだかんだ言って、猛烈にアタックされて揺れてるとか」

 

「見当違いが過ぎるぞ。あいつ、妙に悟ったところはあるが、まだまだ子供だ。微塵も興味がわかなねぇな」

 

「てことは、散々子供扱いしてきた私も守備範囲外ね。よし!」

 

「何が、よし!だ。オレはそういう意味で言ったんじゃなくてだな……」

 

「さっき聞き逃したエステルが本命なの?

船に乗り込んだ時も、なんだかいい雰囲気だったし。

ユーリ的には、世間知らずな箱入り娘もありだったりして」

 

「当たらずといえども遠からずって、ところだが……。なあ、いつまでこの話続くんだ?

お前がずっと隠し事してるから、一旦、好き勝手させてはみたが、これはなんて拷問だよ。

浮いた話なら、後でエステルやリタで、いくらでも盛り上がれば良いだろ」

 

 

私の徹底的な恋バナの嵐に、とうとう根を上げたユーリは、疲れたようにがっくり両肩を落として、溜めに溜めた息を吐いた。

 

 

「オレの生末を考えてるなら、お前の隠していること全部話してくれよ。

そしたら光明がみえてくるかもしれねぇぞ」

 

「私のことを話すためには、まずユーリの幸せをみつけることが重要なんだよ」

 

「お前が望むことこそが、オレ幸せだ」

 

「私以外で幸せになってほしいんだけど」

 

「オレは、お前以外考えられないよ」

 

 

一生懸命幸福を訴ていたら、真顔のユーリから思わぬ返し言葉が出てきて、私の心拍数が急上昇した。

私以外考えられないということは、この男は寝ても覚めても私のことで頭がいっぱいということか。

旅路を歩いている時も、街で買い物してる時も、仲間と談笑している時も、戦ってる時も、私の隣で、ずっと。

 

 

「病院行った方がいいよ」

 

「オレの渾身の台詞から導き出された答えがそれかよ」

 

「私のような困ったちゃんに構ってる暇があったら、さっさと誰かとくっついて、ゴールインした方がいいよ」

 

「それが本音なのか。オレの心を弄んでんのか、挫きにきてんのか。

オレを幸せにしたいってのは嘘だろ、桜」

 

「私以外で幸せ掴む分には、OKだって言ってるの」

 

「勝手にOKするなよ。お前はどうなるんだ」

 

「私のような金魚のフンなんて忘れるくらい、愛せる女性を捜しなよ」

 

「……わかった」

 

「わかってくれて、私も嬉しいよ。

やっと折れてくれた……ユーリ? なんで難しい顔してるの?

眉間にしわ寄せて、折角の美形が台無しだよ」

 

「わかったからだ。今の言葉ではっきりした。

お前が話をしたがらない理由の中に、お前の生死とオレが含まれていることが、よくわかった」

 

 

ユーリに核心を突かれて、私はとうとう言葉を失った。

どうしよう、どこでバレた? 逃げなきゃ、早く逃げないと、彼の言葉巧みな言い回しによって、私の真実が明るみになってしまう。

素早く身を引こうとする私の腕を、ユーリは掴んでその身ごと引き寄せた。

駆動魔導器の件に続いて、再び私の揺れる目とユーリの真っ直ぐな目が衝突する。

 

 

「逃げようとするってことは、オレの推理は当たった。で、いいんだよな」

 

「……。ユーリも知ってるでしょう。帝国が聖核を狙ってて、フレンさんが私を殺すかもしれないって、不安で不安で!

よかったね、ユーリ! 今まで自分に向けられたフレンさんの殺意の波動が私に向くよ!!」

 

「フレンはお前に手をかけたりしない。オレがさせない。ヨームゲンで約束しただろ」

 

「そうだったね。走馬灯のような夜に中てられて、すっかり忘れてた。

でも、ユーリも悪いんだよ。フレンさんと寄ってたかって、パニくってる私を抱き締めてきたんだから、いろいろ記憶が飛んじゃっても仕方ないでしょう」

 

「笑って、誤魔化すなよ。無理して笑顔作るほど、辛いことなのか」

 

「なんでもないって」

 

「もう一度、聞く。ベリウス戦で何があった?」

 

「ちょっと目覚めの悪い夢を見ただけだよ。心配しなくても大丈夫。

それより、いなくなったジュディスやフレンさんのこと考えないと」

 

「なあ、いつから、オレのマネして、話逸らすようになったんだ」

 

「本当のことだから。すごく悪い夢を見たの」

 

「それだけじゃないだろ……っ」

 

 

ユーリは吐き捨てると、私の腕を握る手が一層強くした。

いけない、これはユーリのターンだ。彼が自分のペースに私を引きずり込もうとしている。

壊れそうになる心と涙腺に耐える私へ、真剣な表情のユーリは容赦なく詰問し続けた。

 

 

「帝国やギルドのほかにも、お前の命を狙っているやつらがいるのか?

オレが関係してるってことは、お前の力にもなれるってことだよな」

 

「ユーリは自分のことを第一に考えて。私は大丈夫。ひとりでも大丈夫だから」

 

「大丈夫そうに見えないから、オレがお前の傍にいるんだろ。

お前をひとりにさせられるかよ。こんな時に、虚勢を張るな」

 

「私がそんなに信用できない?」

 

「その質問は卑怯だぜ。自分を第一にって、オレに何がしたいんだ、桜」

 

「私、ユーリに幸せになって欲しい。生きててほしい。

私のことなんて、もう考えないでほしい」

 

「そりゃあ、無理な相談だ。お前を忘れるなんて出来ないよ。絶対に忘れない」

 

「ユーリに傷ついて欲しくない」

 

「桜のためについた傷なら、勲章ものだ。

お前のために戦うのも、傷つくのも、オレの勝手だって、何度も言ってるだろ」

 

「違う。そうじゃない」

 

 

私が震える声を上げて、大きく首を横へ振ると、ユーリは掴んだ手を少し緩めた。

諦めてくれたのかと期待を膨らませたが、彼は諦めるどころか、決意に凝り固まった目で私を見据えている。

静かな船室にて、ラピードが見守る中、私とユーリの激しい言葉の殴り合いが始まった。

 

 

「何がそうじゃないんだ。オレが信用できなくなっちまったのか!?」

 

「言いたくない!」

 

「堪え性も大概にしろ! オレとサシで我慢比べしても敵わないのは、お前が一番わかってるだろ!」

 

「リタさんも言ってたじゃない! 探られたくない腹は誰にもあるって!

もうこれ以上、私に深入りしないで。私を解放してよ!」

 

「お前が本当のことを全て話すまで、オレはお前を逃がさない!」

 

「酷いよ!」

 

「酷くていい。お前が駆動魔導器のエアルに中てられた時、オレがなんて言った覚えてるか?」

 

「興味ない!」

 

「お前が無事なら、嫌われたっていいって、忘れたとは言わせないぞ」

 

「本当に嫌いになりそうだよ!」

 

 

本当は、嫌いになりたくない。

私が内心で訴えていても、彼の耳には届かない。

 

 

「ああ、嫌いになれ。嫌いなヤツに、嫌なこと全部、吐いちまえよ」

 

「嫌だって言ってるでしょう!」

 

 

私の気も知らずに。

 

 

「お前をここまで頑固にさせるものは一体何なんだよ」

 

「ユーリがしつこいだけだよ!」

 

 

いい加減、私のことは諦めて。

 

 

「お前のためなら、なんだってやってやる」

 

「またそんな勘違いさせるようなこと言って! 私はもう……っ」

 

 

ユーリの知ってる私はもういない。

 

 

「また"もういい"か。お前にそんな悲しい顔させるものはなんだよ。教えてくれ」

 

「気付いてよ……っ」

 

 

私を痛めつけてるのは。

 

 

「お前を苦しめるのは何なんだ?」

 

 

ユーリのその一言が私の胸に突き刺さった途端、いっぱいいっぱいに膨らんだ感情が風船のように破裂した。

ありとあらゆる感情が胸に錯綜する中、強いふたつの感情が表へこみあげてくる。

 

 

ユーリが私を傷つけているのに!!

 

 

無遠慮で鈍感で無神経な彼への怒りが、弱い自分への憤りが、活力となって全身に駆け巡る。

私は余った方の片手を大きく上へ挙げると、ユーリ目掛けて、全力で振り落した。

 

 

「ユーリのバカッ!!」

 

 

船中に景気のいい音が響くとともに、ユーリの頬をひっ叩いた手にしびれが走る。

私が涙目で睨んだ先には、平手打ちを喰らって頬を赤くした彼が、魂が抜けたかように放心したまま、こちらを見つめていた。

そのただならぬ主人の様子に、ドアと沈黙を守っていたラピードがすくっと立ち上がり、歩み寄ってくる。今だ。

 

 

「ユーリなんて、知らない!!」

 

 

興奮の冷めない私は、今だピクリともしないユーリを背にして早足でその場を離れると、思い切りドアを押し開いて、船室から飛び出した。

そのまま遠くへ行ってしまいたかったが、ここは海の上だ。

さほど広くない船内で、人気のない場所を探しだすのは難しく、案の定、エステルに呼び止められてしまった。

 

 

「桜。さきほど貴方の大きな声が聞こえましたが、その顔……っ。

もしかして、ユーリにひどいことをされたのです!?」

 

「エステル……」

 

「――ユーリを信じたわたしが愚かでした。桜にこんな顔をさせた罪は万死に値します。

ええ、闘技場で熱くかわした、わたしとフレンとの誓いを裏切るようなマネをしておいて、ただでは済ませません。逃すわけにはいきません。生かしてはおけません。

即刻わたしの手でユーリを首切り息の根を――」

 

「エステル……っ!」

 

「あ……っ、桜!?」

 

 

我慢の限界だった私は、人目もエステルの殺気もはばからず、彼女に飛びついた。

小さな子供のように、すんすん泣き始める私を彼女は拒むどころか、強く抱き返してくれる。

彼女の温もりと優しい香りに包まれた私は、緊張の心が弛んで、いろんな泣き言を零してしまう。

辛かった、怖かった、悲しかった、なんて、まったく要領の得ないものばかりだったが、エステルは何度も頷いて、快く聞き入ってくれた。

 

 

そこからの記憶はあいまいになっている。

カロルが一生懸命元気を振り絞って私を励ましてくれて、パティが労わるように私の背中を撫でてくれた。

皆に続いてハリーが私に手を出そうとした時はビビったが、空かさずレイヴンが止めてくれて、ホッとしたのは覚えている。

皆が私をちやほやする中、彼だけが、あえて余計なことは言わず、ただ春の日差しのような眼差しで見守ってくれたのは、正直意外だったけど。

 

 

この一晩で、私が異世界人で、始祖の隷長になりかけているとを知ったばかりなのに、それぞれ問題を抱えて困惑しているはずなのに、皆は私に惜しみなく温かい感情を寄せてくれてる。

私の傷ついた心は完全に癒えなかったが、それ以上の喜びや嬉しさが胸の中をいっぱいになった。

 

私ひとりで大丈夫、構わないで、放っておいてと、何ひとりで頑張っていたんだろう。

今頃、皆の存在がこんなに尊く感じるなんて、私はなんてバカだったんだろう。

ユーリやラピードだけじゃない、エステルやカロル、パティ、レイヴン、皆が――待て、誰かが欠けているぞ。

 

……まもなくして、私がいなくなった船室から、リタの罵声と怒声と爆発が船体を大きく揺るがし、黒い煙がのぼった。

 

グッバイ、ユーリ。

ごめん、ユーリ。

私を恨むなよ、ユーリ。

 

私のことは、どうか忘れて。

他の女の子と幸せになってくれ。

 

ぷすぷすと黒煙を上げてくすぶる船室から、ひとり、ちょっと焦げた黒衣の男がぶっ倒れながら出てきて床にひれ伏し、ピクピクと痙攣しているその背中を、憤怒の魔導少女が踏みつけ、にじるなんつう過激でセンシティブな光景が視界の端に入ったような気がするが。

私は華麗に流して、エステルに抱かれたまま、夜空に一段と輝く凛々の明星にそう願いをかけた。

 

 

 

 

■続く■




44話から、ありがとうございます!
ベリウス戦後から、ジュディス離脱、フィエルティア号の漂流までのお話でした。
驚くほど、本編進みませんね! 流石夢小説!!

いろいろ反感を買いそうなオチだったけど、悩みに悩んだ末なんです。
言い訳させて頂くと、元はすごく重たいシリアスだったんです。
夢小説とはいえ、これを人様に読んで頂くには、自己陶酔がすぎるんじゃないかと思ったのと、どうしてもギャグにもっていきたくて、結果こうなりました。後悔はないです。多分きっと。

次回は、漂流するフィエルティア号からダングレスト、欲を言えば背徳の館までいきたいところです!!
それでは、また。


瑛慈 翔
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