明星の意思、常闇の暁光   作:瑛慈 翔

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【第48話】君の姿を求めて急かして

デズエール大陸の北部に並んでいる父なるムゼリ山脈。その一角に位置するテムザ山。

太古の厄災のあと、地上に残ったクリティア人が街を築き、繫栄を極めたけれど、10年前の人魔戦争によって、ことごとく滅ぼされてしまった。

 

 

今でも戦争の傷跡が残っていて、とても人が暮らせる環境ではないし、この山からの風景を見ていると大切な記憶が蘇ってしまうから、あまり長居したくないのだけれど。

私には、友達のバウルの身を隠せる場所が他に見つからなかった。

 

 

ここはかつて、私の父が魔導器の研究に没頭していた場所。

忙しい毎日だったけれど、早くに母親を亡くした私に父はめいいっぱいの愛情を与えてくれたの。

父は私のたったひとりの肉親で、わたしも父にとってたったひとりの娘だと思っていた。

この世界には、私と父しかいないと信じていたのに……。

 

 

父にとって私はは飽くまでも「もうひとりの娘」でしかなかった。

バウルと出会って、心を通じているうちに、物の情報を読み取るナギークの能力が発達してしまった結果、私は父の思いを読み取ってしまったの。

 

 

私以外にも父に愛されている娘がいる。私の妹がいる。

父の愛情は私にだけ注がれているのではなかった。

戦争で亡くなった父の裏切りよりも、妹の存在が憎くて仕方がなかった。

妹の存在を知った途端、父の中の自分の居場所を奪われたような気がしたから。

 

 

私には、もう友達のバウルしかいない。

でも、亡くなった父に認めてほしかった。

だから、バウルと一緒に、父ヘルメスの娘として、父が残した厄災の魔導器を破壊することが私の使命になったの。

この世から、ヘルメス式魔導器を無くすことだけが、私の生き甲斐で私が選んだ道だった。

 

 

……皆に出会うまでは。

灰色だった私の世界は、皆に触れたことで、より色鮮やかになっていった。

 

エステルは自分の目的も見失ってでも、誰かを放っておけない困った娘。

私もそんな娘を放っておけなくて、ついつい嫌なことを口にしてしまう。

ごめんなさいね。私はただ、貴方にも自分の道を見つけて欲しかった、

 

カロルは本当は弱虫なのに頑張り屋さんで、見ていると微笑ましく感じてしまう。

多感な少年で、これからいろんな壁にぶつかって、成長していくのでしょうね。

私もカロルの道を見届けたかった。

 

リタは人間関係にはドライに見えて、初心なところもある魔導器好きの女の子。

皆のことが大切で心配で、いつも誰かのために怒ってばかり。

大丈夫、貴方の本当の気持ちは皆にも伝わっているわ。

 

おじさまはいつも楽しいひと。暢気なふりをして、何気なく場の空気を呼んでいるような気がするの。

何かと桜に好意を伝えようとしているけど、見えないところで私を色目で見るのは良くないと思うわ。桜のような年頃の女の子は一途な男性に惹かれるものよ。

 

パティは付き合いこそ短いけれど、あの自由気ままな性格は見習うべきね。

記憶喪失なのに、祖父の汚名で虐げられても、めげずに前を向く彼女の姿勢は眩しいわ。

私も一緒に貴方の記憶を拾ってあげたかった。

 

ラピードは言葉を交わさなくても分る。いつも私たちを見守っている頼もしい存在よ。

皆の中で、一番私たちのことを理解しているのかもしれない。

主人はああだから、きちんと傍でついてやってね。

 

桜はお年頃の可愛らしい女の子で、反応がとても面白いから、私もついつい構ってしまう。

何かと行動力はあるのに、我慢が過ぎて自分の気持ちには奥手。

ユーリと一緒にいる彼女を見ていると、もどかしくて仕方ないわ。

だから、いつも彼女にちょっかいをだしてしまうの。楽しいから仕方ないでしょう。

私がいなくなっても、貴方にはユーリがいる。どうか素直に向き合ってあげて。

 

ユーリは頼り甲斐があって、よく私と意見が合ったけれど、皮肉屋で素直じゃないのが難点ね。

桜への気持ちを打ち明ければ、もっと事はスムーズに済みそうなのに、なぜ隠そうとするのかしら。

必死に彼女を守る彼を姿が、今の私にとってすごく羨ましい。

私の代わりに桜を守ってあげてね。

……ユーリなら、きっと「言われなくてもわかってる」なんて、勝ち気な笑顔で返されそうだけれど。

 

 

私も壊すだけではなく、誰かを守れる何かになりたかった。

ひょっとしたら、父と妹への確執がなければ、仲間のひとりとして、皆を大切にできたかもしれない。

今も桜を背にして、槍を構えていたもしれないのに。

 

もっと桜の傍にいて、姉のように彼女を守り、助けてあげられたかもしれない。

彼女に力になれる、求めれられる、存在を認められるのが、とても嬉しくて。

 

 

でも、もうおしまい。

私は仲間より、自分の道を選んだから。

 

 

山の中央にある廃墟でひとり思いにふけっていると、山の麓から魔狩りの剣の追手の姿がちらほらと見えてきた。

また、バウルの命を狙いにやってくる。

私は今一度、槍を構えて立ち上がった、

皆はもういない。私にはもうバウルしか残されていない。

私ひとりで、この場を切り抜けなければいけないのだから。

 

 

近い未来、こうなるのはわかっていた。

覚悟はしていたけれど、槍を振るうたびに、私の中で切り捨てられない想いが再びあふれ出す。

 

 

ああ、最期に桜の内緒話を聞いておけばよかった。

彼女の悩みを聞いて、なんてことはないでしょうって、笑って返してあげたかった。

そうだよねと微笑む彼女を見届けたかった。

 

 

もっと、ちゃんと、沢山、桜や皆と一緒に旅をしたかった。

他愛ない話で盛り上がって、笑って毎日を過ごしたかったのに。

 

 

それは私の我儘。現実から逃げてはいけない。

万が一仲間がやってくる時があるとすれば、そんな希望に満ちた理由じゃない。

 

 

ユーリはそんな生易しい男ではないのだから。

きっと私の選んだ道を見定めにくるだろう。

そして、私を置いて、前へ進んでいくのでしょうね。

 

 

「皆。どうか、良い旅を」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

君の姿を求めて急かして

 

青空の雲が虚しい

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

夕焼けに染まるダングレストはまだ、天を射る矢の首領ドンの死に沈んでいた。

亡くなったドンを悼む気持ちは私も同じだが、立ち止まってはいられない理由がある。

魔狩りの剣からバウルを守るため、たったひとりで戦っているジュディスを放っておけない。

 

ジュディスは仲間で、私と同じ凛々の明星の一員だ。

彼女が私たちの仲間になったきっかけは、エステルの存在、そして私が始祖の隷長であるかどうか確かめるためだったが。彼女は自ら竜使いだと明かしてまで、私の信頼を得ようとしていたんだ。

 

まあ、いつもいつもユーリや私で遊んで、からかってきたりするし。

そうかと思えば、私が困ったときは、助け舟を出してくれた。

 

今思えば、ヘリオードの色仕掛けの作戦も懐かしい。

見張りの兵士を罠に嵌めるはずが、いつの間にか私がユーリをおとす方向になって、痴女にお召し替えされた挙句、ユーリの胸にダイレクトアタックさせられたのだ。

ユーリの肌と肌が合わせた感触と恥は今でも忘れられない。

……ジュディス、見捨てた方がいいのでは?

 

いやいや、彼女には助けてもらってきたんだ。

ヨームゲンでも私を守ると約束してくれて、レイヴンの腹を探るためにジュディス提案のおっさんと仲良くデート作戦が決行され、そのおっさんに襲われそうになったのだ。

あの胸糞の悪さは今でも忘れられない。

……本当に見捨てるべきでは?

 

待て待て、彼女は私を必要としてくれたんだ。

暴走するベリウス戦後、ユーリやフレンに抱かれて、右往左往する私の様を彼女はパティと一緒に見物していたのだ。

あのこっぱずかしさは今でも忘れられない。

……うん、これは見捨てる案件だな。

 

 

思わず殺意の波動が漏れそうになった私は一心に堪えた。

ちょっぴりジュディスの存在を疎ましく思っちゃったものの、多分愛嬌だ。さらに本音を言えば、私は彼女が恋しい。

 

 

初対面の時は、女の私でさえ、彼女の魅惑的な身体と色を誘うような言葉にドキドキしてしまったが。

旅を共にしてみると、彼女はこちらの意図を察して言葉を投げてくれたし、傍に寄り添ってくれたこともある。

戦いの時の勇ましく槍を振るう姿は、正に優しくて頼もしいお姉さんだと思ってた。

 

けれど、あの夜、船で別れた時の彼女はとても寂しそうな顔をしていた。

今の状況は彼女にとって不本意なのかもしれない。

私が思ってるほど、彼女は強くないのだろう。

そんな弱さもまたジュディスなのなら、私は彼女を受け入れて助けたい。

 

 

それに、ジュディスに内緒話をする約束したのも放りっぱなしだ。

ジュディスになら、私の真実を打ち明けても構わないとさえ考えている。

 

正直に話したところで、きっと彼女に厳しいことを言われるかもしれないけれど、それは間違いなく私のためだから。

 

ジュディスは、いつも私を助けてくれる。支えてくれる。

発破もかけることがあったが、それも私のことを考えてのことだろう。

 

そう。彼女なら、磁石のごとく私に付きまとうこの男をうまく引き離してくれるはずだ。

 

 

「私は大丈夫。ラピードが傍にいるから。

ユーリはその荷物持って、先にエステルたちのところに行ってなよ」

 

「行くわけねぇだろ。オレはお前から離れないっつたよな。何度言わせる気だ」

 

 

幸福の市場から食材を購入がてら私がそう促すも、荷物持ちの美青年はやれやれと肩を竦めるだけで、私の傍から動こうとしない。

この美青年、ユーリ・ローウェルは美しい女性を見紛う容姿をしているのに、中身は頼れる兄貴で、性別はれっきとした男だ。開けた胸元から溢れる色気、しなやかな四肢や挑発的な美貌が嫌が応にも相手の情欲を誘う恐ろしい存在で、しつこいようだが、これでも立派な男気溢れる野郎なのである。

こんなイケメンが傍にいるなんて、女冥利に尽きそうだし、さぞ巷の女性たちから羨望と嫉妬の目で見られそうだが、残念。私と彼とでは中身外見の偏差値が差が激しい上に、私の真実を考えれば、なるだけ距離を取った方がいいと思う。

 

 

ユーリが嫌いになったわけじゃない。

背徳の館で彼の謝罪は確かに受け取った。けど、私の真実は変わらない。

彼が知っている元の私はもういないんだ。

その事実が彼を傷つけてしまう。

私にこれ以上付き合ってほしくないから、つかず離れずを通そうと思ったのだが。

 

 

先ほどの鬼ごっこと呼ぶには恐ろし過ぎる行為が原因で、私は考えを改めさせられた。

彼は獲物を狩る狼の如く、強引に私を捕まえ、その胸で抱き締め拘束するほどの執着心を見せつけてきたのだ。

お陰で彼の胸肌と温もりをイヤというほど堪能させられた私は、悲鳴とともに乙女心と羞恥心と理性がお空の彼方へ飛んでってしまった。帰ってこい、私の心。

今の私は辛うじてジュディス救出だけ考えるの肉人形。

否、頬に彼の胸板の感触が残ってる時点で、私の憤怒がこもっている。

 

 

「これが拒絶せずにいられるか! 公衆の面前で女の子追いかけまわしてハグした上に、その胸にこすりつけてきたんだぞ変態さんかあんた!?

いくらイケメンでもやって良いことと悪いことがあるわ! その胸閉じて猛省して退場しろ」

 

「オレの潔白を証明するためには、ああするしかなかったんだよ」

 

「ないわけない! いい加減その"押したらなんとかなる"的な思考をなんとかしろ! 羞恥心ないんか貴様!? いやなかったなこいつ!!」

 

「わかってるなら、話は早え。諦めろ」

 

「諦めんなよ! 諦めんなよ、お前! どうしてそこでやめるんだ、そこで!! もう少し頑張ってみろよ!

私の自制心が限界だ。そんな綺麗な顔して恥じらいもないとか世の女性たちを片っ端からその美顔と胸で魅了して、世界を滅ぼす気か!?

エステルもスルーして去ってくし、何がどうなってんの?」

 

 

驚くべきことに、エステルはこの男の蛮行を目の当たりにしたのにも関わらず、殺り何もしなかったのだ。

逆にユーリの胸の中に沈んでいく私を見捨てて、彼女はスキップしながらリタとラピードを呼びに行く始末だ。

おまけに、ユーリと買い物に行くように指示してきたのも彼女だったりする。

 

 

「なんとかラピードだけ確保できたけど。エステルの変化は何?

ユーリとフレンさんの喧嘩の立会人は何を考えてるの?」

 

「やっとオレの魅力に気付いたんだろ」

 

「じゃあ、そのエステルとよろしくやってなよ」

 

「お前のそういうところだぞ。ドンの残した言葉忘れたのか」

 

「だから、ボディーガードとしてラピード連れてきたんでしょう。

ラピード、リュックに荷物入れるから、向こう向いて」

 

「ワフ!」

 

 

私がお願いすると、ラピードは背にあるリュックをこちらに向けてくれた。

この犬、本当に人の言葉がわかるではないか。

勇ましいワンコの首を撫でてみても、ワンコは嫌がったりせず、甘んじて受けてくれた。

 

 

「ラピードは偉いよね。主人と違って聞き分けいいもの」

 

「お前もこれぐらい素直だったらいいのにな」

 

「自分に正直になった結果がユーリの幸せなんだよ。

ユーリが私のこと考えてくれるのと同じくらい、私もユーリのこと考えるんだから」

 

「桜……」

 

「だから、早く好きなひとと一緒になってね。私のために」

 

「なんでそうなるんだよ。お前はどうなるんだ」

 

「私は……。ほら、私は元の世界に戻らなきゃだから。

仲良くしたところで、ユーリとお別れすることになるでしょう」

 

「……。だからって、いきなりよそよそしくなる必要ねぇだろ。

先は長いんだ。仲良くやって行こうぜ」

 

「ユーリの"仲良く"は、私の考えてるソレとは違うよな。

さっきの奇行を認めたりしねーぞ、私」

 

「オレがお前と仲良くする分には、間違ってないと思うけど」

 

「だったら、私に食らわしたディープなハグをカロルやレイヴンさんにも実践できるよな!?

ユーリの"仲良く"だもんな! 喜んで少年やおっさんをその魔性の胸で包み込んでスリスリしてくれるんだろうな!?

容易にBでLなアレの行為へ突入できるよな、ユーリ・ローウェルくん!! お前の美貌なら余裕で絵図らになる!!」

 

「そんなキモいことできるかよ」

 

「そんなキモいことを私にしてのけたお前は何だよ!?」

 

「……お客様。痴話げんかは他でやって頂けませんか?」

 

「す、すみません」「悪い……」

 

 

カウンター越しの店員さんが申し訳なさそうに注意され、私とユーリは揃って謝った。

狭い店内で言い争ってたら、迷惑だよな。そうだよな。

だがしかし、決して痴話げんかではないと気付いたところで、私たちは街の入り口で待っているエステルたちと合流した。

 

 

「ごめん。待たせちゃって」

 

「構いません。桜、ユーリと仲良く買い物できましたか?」

 

「普通だよ。あ、卵が安かった」

 

「この通りだ」

 

「これはフレンの不戦勝でしょうか」

 

「なめんなよ。これからがオレの腕の見せ所だ」

 

「ユーリの腕で何を見せる気だ。いや、嫌な予感がする。

別に聞きたくない、知りたくない、ご遠慮します……っ!」

 

「桜。エステルとむっつり男で何わけわんないこと喋ってるのよ。あたしに説明しなさい」

 

「なんか、ノードポリカの闘技場でユーリとフレンさんが喧嘩して、エステルが立会人になったんだって」

 

「あー……。なるほど。色気づいた野郎どもならやりかねないわ」

 

 

私の話で何が分かったのか、リタは疲れた顔で頭を抱えてしまった。

 

 

「リタさん。今ので何が分かったの?」

 

「面倒が増えたのがわかったわ。エステル、あんたも大変ね」

 

「いいえ。とても名誉ある役目を頂きました」

 

「サンキューな。立会人がやる気出してくれっと、こっちも助かるよ」

 

「これでわたしの裁量でユーリやフレンを好きに殺れます」

 

「中立じゃなかったのかよ」

 

「公平に殺ります。負け犬には死あるのみです」

 

「過激過ぎんだろ」

 

「ユーリは自分が負けたら、大人しく引き下がるのです?」

 

「まだ負けてねぇ。負ける気もしない。必ず勝って見せるさ」

 

「フレンもきっと同じなので、わたしの判定を覆される前に殺しますね」

 

「いや、そうなんだけどな……。エステル、立会人の意味わかってんのか?」

 

 

未だ話が理解できない私を差し置いて、皆の会話はスルスルと進んでいく。

ユーリとフレンの勝負はまだ続いていて、勝敗がついていないのはわかるんだが。

ふたりの様子を見ていた無敵の魔導少女は手をうちわにして、露骨に呆れかえっていた。

 

 

「あーっ、熱い。クソ熱い。口から砂糖吐くほど熱いわ」

 

「リタはユーリとフレンの勝負に興味ないのです?」

 

「……。個人的にアホ騎士はないわね」

 

「お。リタに応援される日が来るとはな」

 

「勘違いしないで。別にあんたを支持してるわけじゃないわ。

あたしは、あたしが思うようにしてるの。この子のことも同じよ。

桜、こいつらの勝負事なんかに構う必要なんてないから」

 

「いや、端から関わる気ないけど。カロルとパティはまだ戻って来てないんだよね」

 

 

リタに話を振られても意味がわからなかったので、私はこの場にいない仲間の話題を持ち出してみた。

パティは地下通路でユニオンの誓いを見に行っているんだろう。

カロルはユーリに手荒い活を入れられてから、姿を見ていないが。

 

 

「カロル、戻ってくるかな」

 

「心配すんなって言っただろ。カロルを信じろよ」

 

「うん、私たちは待つしかないよね。準備も整ったところで、ユーリ」

 

「ああ。オレと桜はジュディを探しにテムザ山へ向かう。

リタとエステルもついてくるか?」

 

 

私が膨れた鞄を抱えると、ユーリも自分の荷を背負って、リタとエステルを誘った。

彼女たちもジュディスと苦楽を共にしたんだ、

だが、リタは頷きもせず、ユーリを見て不機嫌な表情を浮かべた。

 

 

「当たり前でしょ。エアルクレーネの調査もあるけど、桜の面倒を見るって約束したはずよ。

この子の正体を知った以上、あのバカ鳥から人間に戻す方法とベリウスの言葉について聞き出さないといけないわ。

放っておいたら、この子ずっと狙われ続けることになるのよ。むっつり男だけじゃ心許ないわ」

 

「言ってくれるぜ。桜にはオレひとりで十分だ、と言いたいところだが。

リタがいてくれると、こいつも助かるよ」

 

「桜がいちいち危なっかしいから、仕方ないでしょ」

 

「なるほど。リタもふたりきりの旅路は許されないということですね」

 

 

エステルが納得したようにポンと両手を叩く。

ふたりきり。まさかユーリと私のことか。

 

 

「いや、ふたりだけじゃないよ。ラピードの存在を忘れないで」

 

「犬がいるけど、このむっつり男はあたしたちの目の前で、あんたをハグした前科が2度もあるのわかってる?

ふたりきりになったら、いよいよこいつの理性に歯止めが利かなくなるわ。あんたの貞操の危機よ」

 

「ひょっとして、オレ、試されてんのか」

 

「おかしなこと言わないで。お姉さんなユーリが私をそんな目で見るわけないでしょう」

 

「マジでその身でわからせるぞ、桜」

 

「本当に殺りますよ、ユーリ」

 

「エステル、オレだけ潰すのはルール違反だろ」

 

「桜を襲うのがルール違反です。反則です。アウトです。

桜の純潔を犯す者はユーリであろうとフレンであろうとも、私の鉄槌が下るのです。血の雨を降らせます」

 

「フレンも桜をそういう目で見てるって話してただろ。叩くならフレンだ」

 

「フレン"も"?」

 

「……」

 

 

エステルにぐいぐい迫られたユーリは失言だったのか、ますます追い詰められてしまった。

私の身の危険について話しているのは理解できるんだが、話の元が見えない。

ただ、ユーリはエステルの剣の錆になるのは間違いないと踏んでいたのだが、彼女はスッと身を引いた。

 

 

「ペナルティとして、わたしとリタがついて行きます。いいですね、ユーリ」

 

「オレに拒否権なんてねぇんだろ」

 

「いい心構えです。ユーリの覚悟をわたしに見せて下さい」

 

「あんた。エステルに弱み握られたわね。いい気味よ、少しは自重しなさい」

 

「これでも結構セーブしてる方なんだけどな」

 

「あの……皆、どういう流れなのコレ? エステル?」

 

「桜の操が心配なので、わたしもついて行くことにします」

 

「ユーリはイヤらしい目で私を見てないって」

 

「オレ、顔に出ないからな」

 

「なんで墓穴掘りにくるんだ。エステル煽るんじゃない! マジで殺りにくるぞ!!

……て、待て。顔に出てないだけで、私に過度なスキンシップしてる間、ユーリは……」

 

「ありがたく思えよ」

 

「あれ以上の何をする気!?

いや、このイケメンに限って下心なんてあるはずない!」

 

「どうだろうな?」

 

「どうだろうもこうだろうもないだろ! なんで笑ってんだよ、逆に怖えよ!!」

 

「桜はひとりの女の子なんですよ。そして、ユーリは飢えた狼です。

襲われる前に、サクっと殺るべきです。ええ、わたしが確実に息の根を止めます」

 

 

お姉さんなユーリが私を襲うはずがないのに、エステルとリタが同伴するらしい。

そうでなくとも、ユーリがエステルの手にかかりそうなんだが、これはスルーしてもいいのだろうか。

私の懸念に気付いたのか、エステルは剣を収めて、私に向き直った。

 

 

「桜の身も気掛かりですが、わたしもジュディスを助けに行きたいです。

ユーリからバウルの話を聞いた以上、放ってはおけません」

 

「エステルには悪いが、オレは何もジュディを助けにいくわけじゃないぜ。

凛々の明星の一員として、けじめをつけにいくだけだ」

 

「けじめって、もしかして、ドンさんみたいに?

ジュディスは友達のためにひとりで戦ってるんだよ」

 

「先にギルドを裏切ったのはジュディだ。

あいつが何を知って、何を知らないのか、全部吐かせて確かめる必要がある」

 

「結果、あの女を助けることになるワケね。素直にじゃないんだから」

 

「リタがそれを言うのかよ」

 

「ふたりともジュディスが心配なのですね」

 

「――そして、俺様は桜ちゃんの貞操が心配」

 

「レイヴンさん!?」

 

 

知った声がして振り向くより早く、胡散臭いおっさんが背後にサッと現れ、私の両肩を捕まえた。

いつの間に……!? 彼はドンの死後、参謀として天を射る矢の対応に追われていたんじゃないのか。

それより、ユーリの鉄壁ガードをすり抜けて私を捕獲する気配遮断能力に注目するべきか。

驚き固まる皆を置いて、レイヴンは私を捕まえたまま、ユーリをじろりと見据えた。

 

 

「ついに青年の本性がむき出しになっちまったワケ?

やーね、下心見せないのが青年のいいところだったのに、結局青年もただの男じゃないの。

好感度がぐんぐん駄々下がりだわ」

 

「おっさん。なんでここにいんだよ。いやまずその前に桜を離せ」

 

「なぜって、おっさんだって桜ちゃんを愛する権利はあるっての。

ねぇねぇ桜ちゃん、本格的に俺様に乗り換えない?

おっさんほど誠実でダンディな男はそういないわよ」

 

「ふざけてないで答えろよ。天を射る矢やユニオンの後始末で動けないんじゃなかったのか。まずは桜を離せ」

 

「ユーリの言う通りですよ。お仕事どうしたんですか」

 

「……」

 

「ドンの最期の言葉を守りにきたんだな。

イエガーの後始末と桜の護衛だったか」

 

「……」

 

「レイヴンさん?」

 

「桜ちゃん。俺疲れたぁーっ! 皆して俺様をこき使うんだーっ」

 

「あああああああ!?」

 

 

レイヴンは私を後ろから抱き締めるなり、私の左肩に顔をこすりつけてきた。

脊髄反射で逃げようとしたが、ラゴウの屋敷同様、謎のおっさんマッスルによって叶わない。

ユーリもこれだけ密接されては手が出せないのだろう。どこへ攻撃するべきか迷っているようだ。

おののき凍り付く私であったが、レイヴンが耳元でこう囁かれて、我に返る。

 

 

「……ごめん。桜ちゃん」

 

「え?」

 

「少しだけ、このままでいさせてくれ」

 

「あの……」

 

「……」

 

 

レイヴンは私の肩に頭を預けたまま、静かになってしまった。また様子がおかしい。

いや、彼の言う通り、ドン亡き後、悲しむ間もなく事後処理で追われていたんだ。彼は無理をしている。

現に私を拘束する彼の丈夫な両腕が微かに震え、苦しそうに乱れた吐息が私の耳に触れた。

彼だってひとりの人間なんだ。感傷に浸りたい時だってあるはず。

 

 

「レイヴンさん、お疲れ様。貴方の気が済むまで、私の肩を」

 

「ああっ。この華奢で柔らかい身体、この花のような香り、おっさんの疲れた心身に染みわたる……っ!

もう天を射る矢に戻りたくないよーっ。動きたくないよーっ。俺様、今夜は桜ちゃんとおねんねするんだーっ」

 

「おっさんんんんんッ!!」

 

「おっさん、このっ、離れろ……っ」

 

「隙ありなのじゃ!!」

 

「ぎゃん!?」

 

 

ユーリが引きはがすより早く、レイヴンの尻にパティの銃口がザックリ突き刺さる。

カエルのようにジャンプしたレイヴンは尻を抑えながら、地面の上をのたうち回った。

 

 

「ぐおおお……っ!? 銃でカンチョーとかないわ……っ!!

パティちゃん、おっさんの貴重な穴に鉛玉ぶち込む気!?」

 

「なんのこれしきことで参っておるのじゃ。

ラゴウの屋敷でさんざんっぱら鍛えてやったはずなのじゃ」

 

「そういえばそうね。って、おい」

 

「ありがとな、パティ。桜、大丈夫か?」

 

「桜の姉御のピンチは、ユーリのピンチなのじゃ。礼には及ばんのじゃ」

 

「ありがとう、パティ。そして、ユーリも。

私は平気……でもない。おっさんの残り香がする」

 

「ひどいん!」

 

 

私が被害報告をすると、レイヴンが半泣きで抗議してきた。

別に嫌ではない。ただ胡散臭いおっさんに似合わず、シトラスウッディの香りがしたのが逆に不気味である。

私が無事だとわかったユーリは、地面でいじけるレイヴンを尻目にパティに声をかけた。

 

 

「おじいさんの足跡はちゃんと見れたのか?

記憶の手掛かりになれば儲けもんだが……」

 

「ユニオンの誓いは、しかとうちの心に刻んだのじゃ。

しかし、記憶の方はそううまくはいかないようじゃの」

 

「手掛かりがここだけってわけじゃねぇだろ。

前を向いてりゃ、そのうち答えに行きつくさ」

 

「ユーリはやはりいい男なのじゃ。

気遣いはすごく嬉しいが、うちはこれしきのことでめげたりしないのじゃ」

 

「ふっ。……だな」

 

「そう! 桜の姉御の言う"ユーリの好きなひと"をこの目でぐっくりとっくり確かめるまで、うちは諦めたりしないのじゃ!」

 

「おい」

 

「だよね、パティ! 一緒にユーリの好きなひとを探そう」

 

「桜。お前、また性懲りもなく」

 

「合点承知なのじゃ! 早速獲物をゲットしに出発なのじゃ!」

 

「その前に、ジュディス助けに行かないと。

エステル、確かテムザ山ってコゴール砂漠の北西にある山脈だよね?」

 

「はい。コゴール砂漠の北にそびえるムゼリ山脈の中かと思われます」

 

「ゴーゴーパティ! ユーリの女が待ってる!」

 

「イエスマムなのじゃ! その女にフィエルティア号をぶちかますのじゃ」

 

 

私とパティは意気投合すると足並みそろえて、フィエルティア号に向かった。

エステルはあらあらまあまあとユーリを流し見、リタも彼にバカを見る目を送りながら、それに続く。

その後をやれやれと首を振るユーリと復活したレイヴン、ラピードの順で付いて来た。

 

 

「どうしたら、うちのお嬢さんは正気に戻ってくれるんだ。

ちっとばかり元に戻ったと思ったら、これだよ……」

 

「一種の呪いなんでない? 王子様のキスで元に戻るかもよ。

おっさんでよかったら喜んで接吻するけど。してみよっか。いやしよう。するわ」

 

「おいコラ待て斬るぞおっさん。何勝手にやる流れになってんだよ。

しかし、呪いか、言い得てるかもな……」

 

「まあ、桜ちゃんの考えてることくらい、大体検討はつくけどねぇ」

 

「……。元の世界に帰る時のこと考えてんだろ。まだまだ先の話だってのに」

 

「いんや。桜ちゃんが俺様への新しい愛に目覚めて、青年を捨てにかかってるとか」

 

「ふざけんな」

 

「冗談ジョーダンよ。桜ちゃんは青年のこと考えてんの。青年が大切なのよ」

 

「桜がオレのこと……」

 

「ベリウスの言葉、桜ちゃんは理解してるんでしょーよ。船でも話したじゃないの」

 

「ああ……。そうだったな。桜は……あいつはとんだお人好しなんだ」

 

 

後ろの方から、ユーリの深いため息が聞こえた。

レイヴンとの内緒話だろうか。振り返って聞こうとも思ったが、男ふたりの会話に入るのも気が引ける。

私はパティと並んで歩きながら、ちょっとだけ耳を傾けた。

 

 

「あーあ、桜ちゃんってば、ホントいじらしくて一途な女の子ね、青年にはもったいないくらいよ。

おっさん、ひとりの男としてジェラシーマシマシだわ」

 

「あいつなりに考えがあるんだろうが。オレはオレのやり方でやらせてもらう」

 

「……青年がおっさんの忠告無視して、自分流貫くのは勝手だけども。

あんまり桜ちゃんを追い詰めちゃあダメだ。かわいそーよ」

 

「桜には保護者が必要だ。だが、今の桜の相談相手に必要なのは、オレじゃねぇのかもな」

 

「ジュディスちゃんなら、桜ちゃんの心を溶かしてくれるかもよ。助けにいくんでそ」

 

「オレはけじめつけに行くんだ。助けに行くわけじゃねぇよ。

……だが、バウルって始祖の隷長が厄介だな」

 

「あー……。もうひとりの桜ちゃんね。今まで大丈夫だったんだろ。

船でも豹変しなかったし、今更気にするだけ無駄なんじゃない?」

 

「なら、あれになる危険はないか……」

 

 

などと、後ろで男ふたりが会話している間にも、私たちはダングレストを後にした。

街道を進み、森を突っ切って、トルビキア大陸の砂浜に着けたフィエルティア号に乗り込む。

皆で淡々と荷物など準備を済ませるものの、帆は開かず、錨はおろしたままで、出航する様子はない。

皆、コンサートを控えたバンドメンバーのように、各々静かに誰かを待っている。

そろそろさざ波の音も聞き飽きたところで、ひとりの少年の呼ぶ声がこちらに届いた。

 

 

「――皆、待ってーっ!」

 

「カロル!」

 

 

少年カロルが全力で駆けてきて、船に飛び乗ってきた。

ダングレストからここまで走ってきたのか、息も絶え絶えだ。

そんなカロルを待ちくたびれたとばかりにユーリが迎えた。

 

 

「やっとオレたちの首領の登場だぜ」

 

「……はあ、はあ……っ。その呼び方は止めてよ。

ボクは、資格はないんだ」

 

「逃げる気か?」

 

「違うよ。ボク……。もう自分がダメなんて言わない……。

ただ、ここで……皆と別れて、見捨てたら、もう戻れないような気がして。

まだドンが伝えたかったこと、まだわかってないから、まだ首領は名乗れない」

 

「カロルはどうしたいんだ? ここでお別れの挨拶ってわけじゃねぇだろ」

 

「ボクは首領としてじゃなくて、凛々の明星の一員として、皆と一緒に行きたいんだ。お願い、ボクを連れてってよ」

 

「もちろんだ。それでいいよな、桜」

 

「うん。カロルがいてくれると、私も嬉しい」

 

「ありがとう、ふたりとも。ボク、ふたりにちゃんと首領と認めてもらえるように頑張るよ。

ユーリや桜に胸を張れるような立派な首領になるんだ」

 

「頑張れよ、カロル」

 

「うん。だから、まずは大切な仲間を守れる、強くて頼りがいのある男になりたんだ。

一度に全部は無理でも、ひとりずつ、大切していきたいって思う」

 

「ギルドの首領を目指す男がまずはひとりから、となると、最初の相手はさしずめナンか。

好きな女の子にカッコいいところ見せたいもんな」

 

「ナ……っ!? ユ、ユーリなんか、人前で堂々と桜とイチャイチャしてるじゃないか! デレデレユーリにだけは言われたくないよ」

 

「ガキんちょにも言われてるわよ。少しは自制しなさい」

 

「オレはいいんだよ」

 

「いいわけないだろ。何スルっと胸張って自慢してるんだよ。

毎回毎回あんたの過度なスキンシップで私のメンタルポイントは赤点滅状態だ。この後どうしてくれる!?」

 

「オレがお前を抱けばいいんだろ」

 

「それはない!」

 

 

かくして、カロルが再び私たち元へ戻ってきて、フィエルティア号は出発した。

私がユーリから逃げようと四苦八苦する様をエステルが観察している間にも、パティが駆動魔導器無しでフィエルティア号をさばく。

潮風を操り、海流に乗りつつ、船を動かした地平線の先には、デズエール大陸が見えていた。

 

 

 

 

 

デズエール大陸の北西部に船を着岸した私たちは、レイヴンの案内でムゼリ山脈の内の一山の麓に辿り着いた。

山と言っても、草木はほぼほぼ枯れ果てており、むき出しの岩肌の間から見える石畳が辛うじて私たちを頂上へ導いてはくれている。

以前コゴール砂漠に踏み込んだ時、ジュディスはここにこのあたりの街に住んでいたと話していたが。

 

 

「なに? あのクレーターの数……。隕石の流星群でも落ちたの?」

 

「ぶつかって穴が開いたと言うより、爆発の後って感じね。それもとんでもない数よ」

 

「ここに何があったんだろう。ボクたちがくるずっと前のことだと思うけど」

 

「本当にここに街があるのでしょうか」

 

 

私たちの行く先に現れたのは街ではなく、巨大なクレーター群だった。

そこらかしこの山肌がえぐれており、とても人間が安心して暮らせる環境ではない。

 

 

「レイヴンさん。ここまで案内できたってことは、街の場所も知ってますよね?」

 

「うん、まあ、10年前には確かにあったんだがなぁ」

 

「あった? レイヴンさん、10年前までに、ジュディスの街に来たことがあるんですか?」

 

「……。若い頃にちょっとね」

 

 

私が尋ねると、レイヴンは視線を私から荒れたてた大地へと移した。

彼は私たちの倍ほど生きてきたんだ。ここで何かあったかくらい知っているはず。

皆とともに答えを待っていると、レイヴンはいやいやと片手を振って全力で拒否反応を示した。

 

 

「ご、誤解しないでよね!? ジュディスちゃんとは、ガスファロストが初対面だから!

浮気なんてないない。そもそも10年前つったら、ジュディスちゃん10歳前後でしょ!

幼女は守備範囲外だわ」

 

「おっさんの守備範囲なぞ知ったことじゃねーですよ」

 

「もちろん、成熟前の青い果実な桜ちゃんは、俺様のどストライクなんだぜ。

果実か熟れるまで、俺様直々に丹精込めて育ててやろうじゃないの!!

……熟したジュディスちゃんの揺れる胸に、おっさんの心もちょぴっと揺れたけど」

 

「視線も揺れてるな。私の目を見ろ」

 

「おっさんは桜ちゃんの立派なお胸を見届けたい」

 

「何真剣に私の胸をガン見してるんだ。その腐った両目握り潰すぞ」

 

「桜ちゃんのあの写真見たけど、バスト合ってる? きつくない?

出すもん出しとかないともったいないよ。俺様的に」

 

「胸なんてどーでもいいよ、私的に! この期に及んでセクハラかこの変態おじさんが!

いいだろう、今すぐそのゆるっゆるのドタマ突き出せ、私直々怨念込めて踏みつぶしてやるわ!!」

 

「青年だって、ありのままの桜ちゃんを拝みたいんでない?」

 

「……」

 

「ユーリ。なんで目を逸らすの。私はいつもありのままよ」

 

「……。足跡があるな。それも複数だ」

 

 

私に詰め寄られたユーリは、足元に点々と残った足跡に視線を移した。

言われてみれば、くっきりといくつかの足跡が残ってはいるが。

もちろん、うざいおっさんレイヴンは彼の挙動を見逃さない。

 

 

「あ。これ桜ちゃんのあの姿を思い出してムラムラしちゃったのを誤魔化すパターン?」

 

「おっさんしつこいぞ。……この足跡、麓から向こうまでずっと続いてる」

 

「やっぱり、女の子の傍にいるって、そういうことなんだね……」

 

「蔑んだ目でオレを見るなカロル。……これは魔狩りの剣か」

 

「ユーリ。我慢できない時ぐらいあっていいのですよ。

桜、頑張ってください」

 

「何を頑張れと? エステル、私の背中ぐいぐい押さないで。

私でユーリの何を狙ってんの……っ!?」

 

「ユーリには英気を養う必要があるようです。

ここは桜が一肌脱いでユーリの養分に」

 

「なして!?」

 

「ちょっとユーリの腕に抱きつくだけでいいので」

 

「やだよ」

 

「真顔で断るなよ。流石のオレも傷つくぞ。

……この足跡、もしかすっと、フレン隊かもな」

 

「フレンさんが、ここに?」

 

 

フレンも聖核を狙っていたのは知っていたが、まさかここでかち合うことになるなんて。

彼は本当に私を殺そうとしているのだろうか。

強張る私を察したのか、エステルは私の肩にそっと手を添えた。

 

 

「フレンが貴方を傷つけることはしません。決して、ありえません」

 

「そうは言うけど。フレンさん、ノードポリカで聖核と私を寄越せって言ってきたんだよ」

 

「わたしが保証します。フレンは貴方を守り通します」

 

「エステル……」

 

「フレンが血迷って貴方を押し倒すようなことがあれば、私の剣が唸るだけです」

 

「よかったな! 今根こそぎフレンさんへの信用が失ったわ!!」

 

「なぜです!? わたしはフレンの潔白を示そうとしただけなのに……っ」

 

「あんたの殺意が上回っただけだよ! 察しろ!!」

 

「わたしのどこに失態が……はっ!?

こうしている間にも、フレンも桜に会えなくて、ひとり我慢を強いられているはずです。

フレンと再会した暁には、桜がその身をもってフレンに熱い抱擁を」

 

「しないよ! 何恐ろしいこと言い出すの!?

私がそのフレンさんに殺されるかもしんないって話だったろ!!」

 

「それは一旦置いといて」

 

「させるか。こっち持ってこい」

 

「桜。エステルを信じろ。フレンはお前を裏切ったりしないよ」

 

「本当なの、ユーリ?」

 

「まあ、ある意味、桜を裏切るかもしれねぇが……」

 

「どっちだよ」

 

「さあな。それはフレンに会ってからのお楽しみだ。

オレとしては、もう二度とお前をあいつに会わせたくないところだが……」

 

 

ユーリは少し困った顔したかと思うと、レイヴンへと鋭い視線を投げかけた。

 

 

「おっさん。ここで人魔戦争があったんだろ」

 

「そういう話だったわね」

 

「とぼけるなよ。ダングレストでおっさん自身が話したじゃねえか」

 

「"戦いは人の勝利に終わったが、戦地に赴いた者に生存者はほとんどおらず……。

その戦争の真実は闇に包まれている"。

公文書にも詳しいことは書かれていないのに、なぜレイヴンが知っているのです?」

 

「俺はまあ……じいさんのツテみたいな。

嬢ちゃんの言う公文書も情報操作されてんのかもね。

帝国にとって、知られたくないことがいろいろあるんでない?」

 

「桜、あんた、ベリウスと会った時にその話してくれたわよね。もっと詳しく教えなさい」

 

「詳しいのは私じゃなくて、デュークだって。

ドンさんの話じゃ、彼は英雄と呼ばれていたけど、本人は嫌がってるみたいだし……」

 

 

なんせ人間に裏切られて親友エルシフルを失ってしまったんだ。

事の詳細を話すとなると、無断で彼の古傷に触れてしまう恐れがある。

 

 

「ベリウスの時に話したのと一緒だよ。

人魔戦争は魔物じゃなくて、始祖の隷長との戦いなんだって」

 

「じゃあ、このたくさんある大きな穴は始祖の隷長の仕業なんだ。

ボクたち、よくベリウスと戦えたね。不思議に思うよ」

 

「これは凄まじいわ。ベリウスとまともやり合えた思ってたけど、あれでも本来の力じゃない。あいつ、あたしたちに倒されるために全力で手加減してたってわけか……」

 

「桜の姉御の活躍があったのじゃ。

桜の姉御の中のもうひとりの方も、あの人魔戦争に参加したのかの?」

 

「……わからない。もうひとりの私は、私の知識や記憶は把握しているようなんだけど」

 

「そうか。もうひとりの方の記憶があれば、人魔戦争の状況がより鮮明にわかったの思ったのじゃが」

 

「私がベリウスの戦いの記憶を持っているのも、もうひとりの方が渡してくれたから理解できただけ。

多分、私の記憶を掌握しているのはもうひとりの方だと思う」

 

「それって、もうひとりの桜は、桜本人の意識だけじゃなくて記憶をいじれるってことだよね」

 

「……」

 

 

カロルから恐る恐る指摘されて、私は反応に迷った。

意識が乗っ取られる危険性はあったが、記憶操作は想定外だ。

ベリウス戦後の記憶を差込まれた時点で気付くべきだった。

 

 

「ベリウス戦の記憶が私に無かったのって、彼女の幻想世界に入ったからであって……。

ううん、その前にもうひとりの私は"私の意識を切り離すしかない"って言ってた。

……となると、今ある私の意識って、もうひとりの私の勝手にできるんじゃあ……」

 

「桜、ここから離れるぞ」

 

 

私がひとり混乱していると、ユーリが真剣な表情で私の手を掴んできた。

彼の足が山の麓へ向いているのに気づいて、私は慌てて踏みとどまる。

 

 

「ジュディスは?」

 

「やっぱダメだ」

 

「ユーリ?」

 

「バウルは始祖の隷長なんだろ。下手に近づいたら、またもうひとりのお前になっちまう。

そうなる前に、ここから離れるべきだ」

 

「今まで平気だった。ベリウスだって気遣ってくれたお陰で何もなかったのに」

 

「そのベリウスの暴走で、お前はもうひとりのお前になった。

お前がお前でなくなるくらいなら、オレは――」

 

 

ユーリが言い終わる前に、山の頂上の方から竜の鳴き声がこちらに届いた。

同時に胸の内がざわつき始める。

フェローの時と同じシンパシーか、彼の苦痛が私にも伝心した。

 

 

「バウル……っ?」

 

「桜!? クソッ、急いで引き返すぞ」

 

「待つのじゃ、ユーリ。ジュディ姐はどうするのじゃ?」

 

「桜が優先だ」

 

「ユーリ!?」

 

 

究極の選択にもかかわらず、ユーリは一切迷わず私を選択した。

ジュディスやバウルがピンチなのに、私のせいで助けに行けない。

私はまたユーリの邪魔をしているか。

 

 

「そんなのイヤだ。私はジュディスを助けに行く」

 

「自分の状況わかって言ってるのか。我儘言うな」

 

「行くったら行くの! ここまできたんだから、もう引き返せないでしょう。

最初にけじめつけに行くって言ったのはユーリだよね?」

 

「ああ。ジュディに会うだけなら良かったんだが、状況が変わった」

 

「状況……。 私の記憶や意識の操作のこと?」

 

「それもあるが、さっきのお前の反応。ただ事じゃないだろ」

 

「ちょっとくらい平気! お願い、ユーリ。ジュディスのもとへ連れてって。

バウルは……まあ、自分でなんとかしてみせるから」

 

「今一瞬目を逸らしたな、逃がさねぇぞ。

いくらお前の願いでも、これだけは聞けねぇな」

 

「青年。焦る気持ちはわかるけどさ。桜ちゃんのこと、信じてやってもいいんじゃない」

 

「おっさんまで何言い出すんだ」

 

 

ユーリと綱引きしていると、レイヴンが間に入って来てくれた。

彼には、この状況を切り抜けるいい案があるのか。

レイヴンは飄々とした足取りで私の隣までやってくると、パンパンと私の肩を叩いた。

 

 

「青年は桜ちゃんのことが信じられないのかい?」

 

「その質問の仕方は無しだぜ、おっさん。

桜がもうひとりの方をコントロールできないってのなら、避けるしか方法がねぇだろ」

 

「うん、そうだね。ユーリがそう言うなら……」

 

「カロル!?」

 

「桜。わかって下さい。ユーリは貴方のことを考えて……」

 

「エステルまで……っ? それがダメなのに」

 

「仕方ないわ、桜。こいつの気持ちを察してあげなさい。

あの女のことはあたしたちに任せて」

 

「それがもっとダメだって言ってるの!

私がこんなんだから、ユーリは……っ!」

 

「桜?」

 

「青年。俺は忠告したはずだ。桜ちゃんを追い詰めるなって。

おたくの心境も相当だとお察しするけど、これじゃあダメだ。俺はお前を許せない」

 

 

レイヴンはいつになく厳しい表情で、ユーリの目を見据えた。

彼は私たちの仲裁に入ってくれたのではないのか。

息を呑む私を差し置いて、レイヴンとユーリが睨み合う。

 

 

「おたくが桜ちゃんの傍にいるのは、何のためだ。

女心がわかんないようじゃあ、彼女の傍にいる資格はないね」

 

「わけのわかんねぇこと、うだうだ喋ってる場合じゃないだろ」

 

「桜ちゃん。俺がジュディスちゃんのところへ連れてってやるよ」

 

「おっさん!?」

 

「なぁに。もうひとりの方にならないように、桜ちゃんが踏ん張ればいいのさ。

つらくなったら、俺がジュディスちゃんを連れてきてあげる。

もう無理ってのなら、俺がなんとかしてやるさ」

 

「レイヴンさん……」

 

「君はジュディスちゃんとお話はしたいんだよね。

始祖の隷長の影響だって、バウルってのに干渉されなきゃいいわけなんだしさ」

 

「楽観的過ぎるぜ、おっさん」

 

「それが俺様流よ。自分の気持ちばっかり押し付けて、相手の女の子の気持ちを汲めなくなったら、男として終わりだ。……ったく、俺様に男の心構えなんて語らせないでよ。おっさん、エモいだろ」

 

「……」

 

 

講釈の後、レイヴンが調子よくキメるものの、ユーリは黙って私を見つめるだけだ。

私はただ、ユーリの足かせになりたくない。皆の足手まといはもうイヤだ。

彼はレイヴンの話を聞いて、どう思っているのか。

 

 

「ユーリ……」

 

「不安そうな顔するなよ。オレがついてる」

 

「……いいの?」

 

「ジュディに会いたいんだろ。連れてってやるよ」

 

「ごめんなさい」

 

「なんで謝るんだ。オレはお前にそんな顔させるために頷いたわけじゃねぇんだけどな」

 

「一応、ありがとうの気持ちも込めたんだけど」

 

「正直にそっちの言葉を貰った方が嬉しいよ」

 

「自責の念が上回った結果ございます……っ」

 

「自覚あるなら、ちゃんと責任もって行動しろよな」

 

「本当にごめんなさい」

 

「二度も謝るな。オレが好き勝手してるだけだ。

お前がもうひとりの方になったら、オレは必ずお前を取り戻す。お前も自分を確かに持てよ」

 

「もちろん、頑張るよ。絶対ユーリのところへ戻ってくる」

 

 

ユーリの強い眼差しを受けて、私は笑顔で答えた。

戻ってくるのが彼が思っている元の私ではなく、今の私であっても、ここは笑ってないといけない。

皆と一緒に私とユーリの光景を見守っていたパティは小首を傾げた。

 

 

「うーむ。これは桜の姉御とおっさんの勝利なのかの?」

 

「いやいや今回はおっさんの負けよ。桜ちゃんの手を握ってるのは青年だしね。

後、おっさんが勝ったことになっちゃったら、青年へそ曲げるでしょ」

 

「おっさんから見たらオレはガキかもだが、そこまで心狭くねぇよ」

 

「青年ったら、女の子に鈍ちんだもん」

 

「フレンとは大違いです」

 

「いや、あのアホ騎士も相当バカでしょ」

 

「青年もフレンちゃんもあんなんだからこそ、俺様が付け入る隙があるってもんだけどね。

桜ちゃん、山道はしんどいし、魔物がいて危険だろうから、おっさんが背負ってってあげる」

 

「ラゴウの屋敷みたいに、パティにお尻突かれながら爆速ダッシュですね、わかります」

 

「いやん。おっさんの黒歴史もってこないで」

 

「やるならいつでも受けて立つぞ、おっさん」

 

「やめてパティちゃん! 何が楽しくておっさんをいじめるの?

執拗に俺様の貴重な尻を狙わないで。割れた尻が更に割れる」

 

 

パティが拳銃を構えるなり、レイヴンはお尻を庇って後ずさりした。

このおっさん、ユーリを説得した時は見直したというか、男性としていいなぁと思ったりしたが、やはり私の気のせいのようだ。

こうやって紆余曲折あったものの、私たちは改めてテムザ山を登り始めた。

 

 

 

 

 

足がそろそろくたびれてきたところで、やっと中腹付近まで差し掛かる。

人が去ってかなり経っているせいか、レイヴンの懸念通り魔物と遭遇することはあったものの、ユーリたちが片付けて事なきを得た。

ただその途中で、魔狩りの剣のギルド員とばったり会ってしまい、剣を交えるハメになってしまう。

首領クリントやティソン、ナン程ではないので難なく撃退できたが、これで確信してしまった。

 

 

(ジュディスはまだ戦い続けている。ひとりで堪えている)

 

 

彼女が立っているまでに、間に合うかどうか。

そんな私を急かすように、バウルの苦しみも少しづつ胸に圧し掛かってくる。

逸る気持ちを抑えながら、山道を進んでいると徐々に石造りの廃墟が見えてきた。

 

 

「何とか建物は残ってるんだね。ジュディス、近いのかな」

 

「桜。気分はどうなんだ。バウルに近づいてんのはわかるんだろ」

 

「バウルの痛みが伝わる。近づいてる……バウルがいるのは、もっと先、頂上だと思う。

ただ、あれになる感じは全然しないかな」

 

「そりゃあ、一安心ってところなのか?」

 

「フェローのような、感情をを叩きつける気配がないから平気かと」

 

「もうひとりの方が出てこないのはいいんだが……記憶か……。

おっさん。人魔戦争の当事者なんだろ。桜の中のあれについて、覚えはないか」

 

「おっさんが戦争に? あんた、突拍子もないこと言い出すわね。あたしをビックリさせないでよ」

 

「10年前、おっさんも人魔戦争に参加してたんだろ。

桜のあれと一戦でも交えても不思議じゃねぇよな」

 

「ドンとは別に、レイヴンも戦争に参加してたってこと? 本当かなぁ。

あ。でも、レイヴンがここに来たのも10年前、戦争も同じ時期にここで起きたから、ひょっとして……」

 

「私が知る限りでは、戦争の生き残りはドンさんにベリウス、デューク、後シュヴァーンって人らしいけど。レイヴンさんもそうなの……?」

 

 

まさか、このとらえどころのない胡散臭いレイヴンが人魔戦争に参加していたなんて、想像しがたい。

しかし、カロルが話を整理してくれた通り、ユーリの指摘はあながち間違ってはいない。

ユーリは少しでも、もうひとりの方の手掛かりが欲しいのか、黙るレイヴンをさらに促した。

 

 

「で、どうなんだ。もうひとりの桜の戦いは目にしてるだろ。心当たりはないか」

 

「さあね。俺様が言えるのは、人間が束になっても勝てるかどうかのわかんないほど強い始祖の隷長が、人間の戦術まで使い始めたら、俺様たち人類はいよいよ年貢の納め時だってことさ」

 

「暴走したベリウスも強力だったが、もうひとりの桜はあれ以上になるだと?」

 

「桜ちゃんのあれが人魔戦争で人間の敵として現れてみ。

敵味方の戦い方どんどん学習されて、簡単に人間様は全滅するだろうね」

 

「とすると、桜の中のあれは人魔戦争に参加していないのか」

 

「それは早合点じゃない。桜の中に取り込まれたことによって、あたしたちが考えてる始祖の隷長とは違ったものになってるのかもしれないわ」

 

「ベリウスは、桜は人間と始祖の隷長と混ざった力を持っていると言っていました。

レイヴンたちが戦った始祖の隷長たちとは、性質が違うのかもしれません」

 

「ということはじゃ。人魔戦争のように桜の姉御の中のあれは、人間のうちらと戦うことはないのじゃの?」

 

「私が皆を相手に戦うわけないじゃない。私の中のも、そういった感情はなかったよ。

人魔戦争の参加者のレイヴンさんにとっては、始祖の隷長に片足入れた私を守るのは複雑だとは思うけど」

 

「桜ちゃんの護衛と戦争は別よ。こうして楽しく面白く愛でながら可愛い女の子を守れて、俺様は役得さ。ああ……っ。また君をこの腕の中に仕舞い込んでしまいたいん」

 

「止めろ。そうやって誤魔化して、本当はレイヴンさん、無理してるんでしょう」

 

「別ったら別なのさ。まあ、当時、始祖の隷長にはコテンパンにされはしたけどね。

本当に死ぬかと思ったわ。あ〜っ、あの時死んでりゃもっとマシだったのに」

 

「レイヴンさん……っ!」

 

 

容易く自分は死ねばいいなんて言い出すレイヴンに、私は思わず声を荒げそうになった。

私も一度死を経験しているとはいえ、戦争に身を投じた彼と同じにしてはいけない。

ハッとする私に、レイヴンはニコニコと受け流した。

 

 

「怖い顔しないでよ、桜ちゃん。そんだけひどい戦いだったって意味さ。

こうして可愛い女の子に出会えたんだ。生きてて儲けもんだわよ。おっさん幸せ」

 

「おっさんもなかなか飽きないわね。

さっきのむっつり男と桜の熱っぷりにあてられたんじゃないの?」

 

「おっさんはしぶといんだよ」

 

「うんそれ知ってる」

 

「わかってるなら、少しは俺様の気持ちを受け取ってよ、桜ちゃん。

荒廃した街の中で、俺様とふたりだけで恋の花を咲かせてみようじゃない。

そして、可憐な花が燃え上がるほどの愛を語ろうじゃないか。愛してるぜ、桜ちゃん」

 

「胡散臭いおっさんを炎上させればいいんだな、わかった」

 

「あん。ケチ」

 

「フルボッコで足腰立てなくすればいいんだな、わかる」

 

「そんな歪んだ理解いらないよ、おっさん、ただ桜ちゃんの愛が欲しい。

……ま。桜ちゃんに殺されるなら、俺様も本望かな」

 

「レイヴンさん、何を……?」

 

「ガルルルッ!!」

 

 

レイヴンが意味不明な事を呟いたかと思ったら、ラピードは廃墟の建物の方を向いて唸りだした。

つられて廃墟の方へ目を走らせると、男がふたりがぶっ飛んできて、地面に叩きつけられる。

身なりからして、魔狩りの剣のものだろう。

続けて、彼らを追うように、廃墟の中からクリティア人が現れた。

 

 

「ジュディス!」

 

「貴方たち!? 私を追ってきたのね。……けど」

 

 

ジュディスは一瞬私たちに視線を傾けたものの、すぐさま敵意をむき出しにする男たちへ槍を構えた。

 

 

「話はこの後にしてもらえないかしら」

 

「クソッ! 魔物に与するクリティア人め!」

 

「ティソンさんとナンに知らせに行くんだ」

 

 

ここにティソンとナンが来ているのか。カロルを思えば、ナンだけでも戦うのは避けたいところだが。

私がそんな心配をしている間にも、男たちは起き上ってジュディスに襲い掛かろうとする。

しかし、男たちは彼女に近づく前に、ユーリが刀を片手に立ち憚り、カロルも隣に続いた。

 

 

「おい、てめえら! うちのモンに手ぇ出すんじゃねぇよ。

掟に反しているなら、けじめはオレたちがつける。引っ込んでな!」

 

「そうだ! ジュディスはボクたち凛々の明星の一員だ。

他のギルドに手出しさせない!」

 

「なんだ、この男とガキは? 我々魔狩りの剣は、奥にいる魔物を狩りたいだけだ」

 

「邪魔をするな!」

 

「こいつら、話が通じないタイプよ。ぶっ飛ばしてちゃおうか」

 

「そうねぇ。おっさん的には、こいつらに桜ちゃんとジュディスちゃんの禁断の百合展開に水差されちゃ堪ったもんじゃないし」

 

「ねーよ!!」

 

「やはり桜の姉御はそういう路線もありなのか。うちもぼやぼやしてられんのじゃ」

 

「なにを!?」

 

「ひとが真面目に眼飛ばしてる最中に、そういう掛け合いすんのやめろよ……」

 

「とにかく、貴方たちは、これ以上ジュディスを襲わないで! それにバウルにも……っ!

さもないと、ここにおわす綺麗なお姉さ……」

 

「おい」

 

「怖いお兄さんが貴方たちをめった斬りにするわよ!

跡形も残らずみじん切りにさせられるんだから!」

 

「そういうこった。てめえら、消えとけ。ホントにオレらと一戦やらかすつもりか」

 

「なるほど、この流れはそこのザコおふたりを切り刻んで血祭りにあげればいいということですね。

――お覚悟です」

 

「ひ、ひいっ!?」「ああっ!?」

 

 

殺戮のマリオネットと化したエステルから、本能的な死を察した男たちは、こけそうになりながらも山を下りて行った。

男たちの姿が見えなくなったところで、各自武器を収めたものの。

ジュディスは私たちとの再会を喜ぶどころか、表情は重いままだ。

 

 

「私に聞きたいことがある。そうなのね」

 

「ああ。けじめをつけに来た」

 

「ジュディス。ボクたちに全部話してほしいんだよ」

 

「ギルドの掟。不義には罰を、だったかしら」

 

「そっちはそうなんだろうけど。あたしにも説明してもらうわよ。

聖核のこと、フェローのこと、ヘルメス式魔導器を壊す理由」

 

「流石はリタ。もう気付いていたのね。

それが貴方たちにとって、いいことなのかわからないけれど。

貴方たちはここまできたのだから。ついて来て」

 

「ついてって、桜に影響はないのか」

 

「バウルのことね。桜、今は平気なの?」

 

「バウルの感覚がちょっと……。それ以外はなんともない」

 

「そう。バウルの貴方への気持ちを考えたら、きっと桜は大丈夫じゃないかしら。

彼は貴方に対して、友好的だから」

 

「そのバウルは、今どうしてる?」

 

「この先で話すわ。私の知っていること全て」

 

「逃げない覚悟はあるわけか。だが、事と次第によっちゃ、ジュディでも許すわけにはいかない」

 

「……。こっちよ」

 

 

ジュディスはユーリの決意を受けながらも、私たちを山の奥へと促し、歩み始めた。

皆も次々に彼女を追う中、ユーリだけ鋭い視線を向け続けているのに気づいて、私やカロルまで立ち止まってしまう。

最初はなんだかんだ言って、ユーリもジュディスを助けるんだと踏んでいたんだが、彼は本気でジュディスにケリをつける気なのか。

カロルも同じだったようで、戸惑いながら彼に声をかけた。

 

 

「ユーリ。ジュディスを殺すなんてことはないよね?」

 

「……。ドンの覚悟を見て、オレはまだまだ甘かったことを思い知らされた。

討たなきゃいけないヤツは討つ。

例えそれが仲間でも、始祖の隷長でも、友でも」

 

「それがフレンやフェローでもってこと」

 

「ああ、それに……」

 

「ユーリ?」

 

「それが、オレの選んだ道だ」

 

 

ユーリは決意の表情で私を見つめると、深く頷いて、カロルへ向き直った。

今、彼は何を思って私を見ていたのだろう。

私には理解できないまま、ユーリとカロルとともにジュディスの後を追っていったところ、彼女は待っていたかのように語り始めた。

 

 

「人魔戦争のことは、桜やベリウスから聞いているわよね」

 

「ヘルメス式魔導器が原因だって話ね。あたしも調べてみたけど、聞いたこともないわ」

 

「新しい魔導器なのか? けど、魔導器を作ることはできないはずなのじゃ」

 

「パティ。極めて難しいってだけで、完全に無理じゃないのよ」

 

「リタの言う通り、ヘルメス式魔導器は魔導器の革命になった……はずだった」

 

「完成じゃなかったの?」

 

「完成はしたわ、だけど、ヘルメス式魔導器はエアルを効率的に活動へ変換するもので、その術式は大量のエアルを消費するの。

消費されたエアルを補うために、エアルクレーネが活発化して、異常なエアル量は発生した」

 

「そんなの、人間どころかすべての生物が生きていけなくなるわ」

 

「ケーブ・モック大森林やカドスの喉笛で見たやつね。ありゃあヤバかった。桜ちゃんも危なかったけど」

 

「ヘルメス式魔導器のせいで、エアルクレーネの活性化……。"歪んだ知識に溺れ、世界を穢した結果、守護者たる始祖の隷長が動かした"のは、そういう……」

 

 

私は再びデュークを話を思い出すため、彼の言葉を復唱した。

世界を穢すとは、ヘルメス式魔導器がエアルクレーネを刺激したという意味か。

ジュディスはデュークの言葉を紐解くように、話を続けた。

 

 

「人より先にヘルメス式魔導器の危険性に気付いた各地の始祖の隷長は、魔導器の破壊に動いた」

 

「やがて、争いは大きくなり、人魔戦争へと……。

始祖の隷長は世界のために戦ったわけだ」

 

「始祖の隷長の中には、ベリウスのような存在がいたはずです。

なぜ、人間と話し合って解決しなかったのです?」

 

「嬢ちゃん。ベリウスに会った時のこと思い出してみなよ。初見さんにしてみりゃ魔物と同じだ。

互いに相容れない存在同士、譲れないものでもあったし、義理もなかったってことだろうな」

 

「あるいは他に理由があったかもしれん。

戦争が終わったということは、ヘルメス式魔導器もなくなったのじゃろ?」

 

「確かにヘルメス式魔導器を生み出した私の故郷は戦争で滅んだ。でもね……」

 

 

ここで、やっとジュディスが言わんとしていることが明るみになった。

 

 

「そのヘルメス式魔導器は今でも残っているって言うの?」

 

「あ……っ。竜使い、ジュディスに初めて会った時の。

ボクたちが見つけたラゴウの屋敷の天候を操る魔導器とか」

 

「ええ。エフミドの丘、ガスファロスト、そしてフィエルティア号の駆動魔導器がそうだったのよ」

 

「じゃあ、ジュディスは始祖の隷長の代わりに、ヘルメス式魔導器を壊して回っていたの?」

 

「それならそうだと最初から言ってくれればいいじゃない! なんであたしたちに黙ってたの?

ひとりで世界を救ってるつもり!?」

 

「……。それもあるけれど、私はバウルの友達だから」

 

 

リタに問い詰められたジュディスは少し黙った後、バウルがいるであろう頂上へと目を運んだ。

 

 

「バウルは始祖の隷長だけれど、人の言葉を話せない、まだ若いの。

今のバウルには、私がついていないと」

 

「付き合いが長いんだ。始祖の隷長であるバウルとは、どこで出会ったの?

ここがジュディスの故郷なら、人魔戦争に巻き込まれたんだよね。

なら、バウルは敵だったんじゃ……」

 

「いいえ。敵どころか、バウルは戦争で死にそうになった私を助けてくれたのよ」

 

「バウルに救ってもらったってのはそういうことだったのか。

ここに篭城してる理由もバウルだな」

 

「彼は今、始祖の隷長として――」

 

 

ジュディスが険しい表情を浮かべた瞬間、そのバウルがいるであろう山頂から眩しい光が瞬いた。

同時に、私の心にもさらなる痛みと苦しみが襲い掛かってくる。

彼女は山頂の光と私を交互に目を走らせると、必死な形相で槍を構えて、山頂へと駆け出した。

 

 

「バウル!」

 

「ったく、ジュディ、ひとりで行かせねぇぞ!

桜、無事か!? ……まだ桜なんだよな?」

 

「意識はね。でも、この感じ、バウルに何が起こってるの?

もしかして、攻撃を受けている? わからない……行かないと」

 

「桜……」

 

「この子が行くって言ってんだから、さっさとあの女を追いかけるわよ!」

 

「ちょい待ち。追いかける手間は省けたけど。面倒なことにりそうだわ」

 

 

レイヴンの言う通り、私たちが急いで追いかけるまでもなく、ジュディスは足を止めていた。

彼女の目の前には、暗い栗色の髪の少女とローブの男が道を阻んでいる。

魔狩りの剣の少女ナンは身の丈半分もある半月状の武器、男ティソンはローブの裾から自身の赤く鋭い爪を覗かせていた。

 

 

「クリティア人。人の身でありながら、魔物を守るなんて信じられない」

 

「その魔物は山頂にいるようだな」

 

「貴方たち……っ。私が行かせない。私の命に代えてもバウルは守る……っ!」

 

「ナンにティソンだっけか。てめえらの仲間には、うちのに手ぇ出すなって言っておいたんだがな。

魔狩りの剣はただの暴れるのが好きな連中ってだけで、まともにお使いも出来ねぇのかよ」

 

「今、バウルが今大変なことになってるのがわかる。急がないと……っ!」

 

「無理しないで、桜。あんたたち、あたしたち急いでるのよ。邪魔すんな!」

 

「いくらナンたちが相手でも、ボクのギルドの仲間たちを傷つけさせたりしない」

 

「空気読めない愚か者たちなのじゃ。

うちらの行く手を阻む無粋な連中は倒れていろなのじゃ」

 

「おっさん。アツイのは桜ちゃんだけにしたかったんだけどね。

とんだ困ったちゃんが出てきたもんよ」

 

「貴方たちの行為を見過ごすわけにはいきません」

 

「皆……、エステルまで」

 

 

ひとりで立ち向かおうとするジュディスの前に、ユーリを初め私たちが躍り出た。

彼女から話を聞いた以上、助けないわけにはいかない。

中でも、エステルはより一層表情を引き締め、ナンとティソンに一歩近づいた。

 

 

「この数を見て下さい。貴方たちに勝ち目はありません。

……大人しくレイヴンとともにお星さまになっていただけませんか」

 

「なして俺に飛び火!?」

 

「桜の心を射止めるのはふたりだけでいいのです」

 

「あ。それって桜ちゃんが俺様に惚れそうってこと? やったぜ俺!」

 

「定員オーバーです。ハーレムになったらわたしが男どもを殺戮の海に変える他ありません。

それでもなお桜を求めるなら、わたしを倒してみせなさい」

 

「みせて堪るかあああっ!

なんでエステルの刃がおっさんに向くんだよ? 今ナンとティソンを止める場面じゃないの!?

何内部紛争起こしてるの!? これ以上事態をややこしくすんなよ!!」

 

「わたしは心配しているのです。

さきほど、ユーリを説得するのレイヴンの姿に桜の心が揺れたのを察知しました」

 

「ありもしない気配察知するな! 心配するなら、自分の斜め上な思考鑑みろ!!

そもそも、私、おっさんのこと微塵も惹かれてないのに何故!?」

 

「なにそれひどくない桜ちゃん? おっさん泣くよ」

 

「咽び泣くがいい! エステルは変な気使わないで、空気読む! さっさとティソンとナンを止めるの!」

 

「息の根を止めろと」

 

「止めるなよ! 話進まないだろ!

ちゃんと現実に立ち向かえっての、賢い子ならわかるでしょ!!」

 

「それはそれ、これはこれ」

 

「それもこれ、これもそれ!!」

 

 

なんか知らんが、エステルレーダーにレイヴンが引っかかって、抹殺対象にされたようだ。

置いてけぼりのナンとティソンはちょっぴり呆気にとられていたが、すぐさま殺気を漲らせた。

 

 

「何の話をしているかわからないが、我々を無視して通すわけにはいかない」

 

「すみません。只今うちの皇女が暴走してるんです」

 

「それはどうもお忙しいところを……って、違う!

お前たちの事情など知ったことか。我々を止めるなら、この場でその命を刈り取ってくれる」

 

「貴方も桜の心を狙う不届き者なのですね。彼女の貞操を奪う輩は老若男女問わず成敗です」

 

「エステルさーん!?」

 

「私は立会人として、桜の盾と矛になるのです!」

 

「どっちもいらん!」

 

「では鉛玉に」

 

「なるな! 殺ったっきり帰ってくるつもり全然ないだろ!!

わざわざ玉になって敵に突っ込まなくても最初っから思考が明後日に飛んでってるだろ、戻ってきてエステルさん!!」

 

「おい、我々を無視するな!」

 

「おたくら、魔物討伐専門のギルドだって聞いてたが。

戦士の殿堂に引き続き、なんで人の命まで狩ろうとするんだ。

飯のタネには困ってないだろうに」

 

「魔物に与するものは人間とは呼べんだろう」

 

「あたしたちは山頂の魔物を狩りに行かせてもらう」

 

 

いよいよ斬りかかってこようとするティソンとナン。

戦闘は避けられないのか、皆も武器を手に取る。

この一触即発の場面でも、カロルはノードポリカの闘技場のように訴え始めた。

 

 

「ナン。始祖の隷長は魔物じゃないよ。世界のために頑張ってるんだ」

 

「ノードポリカでも世迷言吐いてたわね、カロル。

魔狩りの剣の信念を忘れたんだ」

 

「魔物は悪。魔狩りの剣はその悪を狩る者。

だけど、始祖の隷長は、世界を守ろうとしてくれてるんだ。

ボクたちと同じ感情をもってる」

 

「そんなこと、我々の知ったところではない」

 

「ナン……っ!」

 

「ごろつき集団がカッコつけるなよ。どうせ雇われて見境なくなってるんだろ。狙いは聖核か」

 

「話にならんなぁ。どうあっても我らの邪魔をするなら、ここで死んでもらう」

 

「得体の知れないものが全て悪なんて短絡的な思考だな。

その凝り固まった頭を柔らかく砕いてやるよ。

桜、ここから前に出るな。……もうひとりのお前の出番は無しだぜ」

 

「わかった。ユーリ、お願い。ジュディスを、……私もバウルの元へ」

 

「お前が望むなら、どこへでも連れてってやるさ。

ジュディス、オレの代わりに桜を守ってやってくれ」

 

「私、試されているのかしら」

 

「けじめがまだだ。お前だって、桜を人質にとって逃げるなんてマネできないだろ」

 

「私のこと、まだ信用してくれるのね。嬉しいわ。

じゃあ、お言葉に甘えて、女の子同士の内緒話でもしていようかしら」

 

「オレの活躍も見てろよ。皆、さっさとこいつら黙らせるぞ!」

 

 

ユーリは刀を構えて、皆とともにナンとティソンを迎え撃った。

魔狩りの剣のふたりの戦闘スタイルはノードポリカでも見たことはあるが、もともと魔物たちを狩っていただけあって、多勢にも変わらず立ち回りは手慣れたものだった。

ナンは大きな武器を踊るように振るまわしながら、ユーリとカロルの相手をし、ティソンもその俊敏な動きで、レイヴンやパティを翻弄する。

エステルが治癒や援護魔術を行使し、リタは隙あらば攻撃魔法で追撃しているものの、この乱戦と足場の悪さから大技は撃てない。

非戦闘員の私はというと、ジュディスとラピードの二段構えで守られていた。

 

 

「皆、戦ってる。私は……」

 

「ごめんなさい。もどかしい思いをさせてしまって。

でも、ベリウスの言葉を聞いたからには、貴方を戦わせるわけにはいかなくなったわ」

 

「もうひとりの私のせいよね」

 

「あれが貴方の心を侵すとは思えなかった。

少なくとも、私の知る始祖の隷長は思慮深い存在だったから。

……取り返しのつかないことをしてしまったかもしれない。本当にごめんなさい」

 

 

私を背に庇うジュディスは、重い口調で謝罪を重ねてきた。

顔を見なくても、ひどく落ち込んでいるのがわかる。

彼女が悪いわけじゃない。あの時は安易に引き受けた私のせいだ。

これ以上ことこの件を追求しても彼女を追い詰めるだけだし、私には他に話したいことがあった。

 

 

「ジュディス。こっちを向かなくてもいい。

聞いて欲しいことがあるんだけど」

 

「内緒話がしたくなったのかしら。是非、私に聞かせてちょうだい。

他にも敵がやってくるかもしれないから、あまり多くは聞けないけれど」

 

「ごめん。こんな時に」

 

「ユーリの耳に入らない絶好のチャンスでしょ。貴方の話を聞かせて」

 

 

ジュディスに言われて、ユーリたちの様子を今一度確認してみる。

かなりの接戦だ。こちらの話に耳を貸している余裕もないだろう。

私はずっと抱えていた不安をオブラートにつつんで、ジュディスに投げかけてみた。

 

 

「……もし、もしもよ。

親しくしていた人が、ちょっと目を離した隙に亡くなって。

代わりにそっくりさんが現れたら、ジュディスはどう思う?」

 

 

元の私が死んで、今の私を知ったらどうなるか。

他人からすれば突拍子もない質問をだったが、ジュディスは振り向きもせず、落ち着いた口調でこう答えた。

 

 

「そっくりさんによるわね。そのそっくりさんはどんな気持ちで仲間に近づいたと思う?」

 

「そっくりさんは、死んでしまった人と同じくらい、とある……仲間のことを信じている。

力になりたい、一緒にいたいって思ってる」

 

「でも。仲間は親しかった人が亡くなって悲しむでしょうね。

そして、そっくりさんを死んだ人の成り代わりと思ってしまう」

 

「……ごめん。もういい」

 

「でも、そっくりさんは今日までずっと皆と苦楽を共にしたのでしょう?

それとも、今まで泣いて笑って過ごしてきた日々は嘘なのかしら」

 

「嘘じゃない。私は本気で」

 

「なら、貴方はただのそっくりさんじゃない。

貴方の心は偽りできていない。本当の貴方。私の知ってる桜よ。

決して蔑んだりしない、見捨てたりしない。貴方と向き合って一緒に歩いて行くわ」

 

「本当の私……」

 

 

今日までユーリや皆と過ごしてきた日々は嘘偽りじゃない。

元の私はもういない。けれど、今の私は本気で今までの旅に臨んできたんだ。

 

 

「少しは貴方の相談相手になれたかしら?」

 

「ありがとう、ジュディス。少し勇気出てきた」

 

「もっと詳しく貴方と内緒話をしたかったけど、潮時ね」

 

 

ジュディスが私に振り向いて、いつものように微笑む。

彼女の後ろを見ると、ユーリたちが武器を収めてこちらにやって来ているところだ。

ナンとティソンは道端に横たわって呻き声を上げているが、立ち上がる気配はない。

ユーリは真っ直ぐ私の元までやってくると、柔らかい表情を投げかけてくれた。

 

 

「内緒話は済んだか?」

 

「少しだけだけどね。ユーリたちは大丈夫?」

 

「心配ないよ。……少しは晴れた顔になったか。ありがとな、ジュディ」

 

「私も、少しでも桜の力に慣れて嬉しいわ。

まだ世話し足りないところだれど。……バウルのもとへ行かないと」

 

「そうですね。先ほどの光が気になります」

 

「バカドラに何が起こってるのよ」

 

「山頂に行けばわかるわ」

 

「いよいよバウルとご対面か……。桜、行けそうなのか?」

 

「危なくなったら、ユーリが私を引っ張り上げてくれるんでしょう」

 

「当然だ。カロル、ナンたちはそっとしておいてやれ。行くぞ」

 

「うん……。ナン、ごめん」

 

 

カロルがナンを一瞥するのを待ってから、私たちはバウルのいる山頂へと駆け出した。

それにつれて、苦しい気持ちが胸に襲い掛かる。バウルの身に何が起こっているのか。

私は急き立てられるように、懸命に駆けた。

 

 

 

 

 

テムザ山の山頂は一匹の竜の始祖の隷長を隠すように、険しい崖に覆われていた。

私たちの目の前には、ジュディスの友達の竜が身の内から光を放ちつつ、苦しみ横たわっている。

ベリウスが蒼穹の水玉になってしまった時に、少し似ているかもしれないが。

 

 

「これは……。バウルに何が起こってるんだ」

 

「彼は成長しようとしているの。始祖の隷長としてね」

 

「進化……? なりたい自分になれるっていう。

でも、この痛みや苦しみの声は何……?」

 

「進化には苦痛が伴うの。桜、貴方にも始祖の隷長のバウルの姿を見届けて欲しい」

 

「うん。私、目を離さない」

 

「安心しろ。お前にはオレがついている」

 

「わたしもついています。バウルが苦しいというなら、私……」

 

「エステル、ダメよ」

 

「わかっています。わたしの力はバウル、始祖の隷長にとっては毒なのですね」

 

「エステルの力はそれだけじゃないだろ」

 

「ベルウスの言葉、覚えてるでしょ。

あいつが亡くなる前、フェローに会えって伝える前に、エステルになんて言葉をかけてくれたの」

 

「"力はひとを傲慢にする。他者を慈しむ優しい心を大切にしなさい"。

わたしの気持ちがバウルに伝わればいいのですが……」

 

 

ベリウスは死に際、エステルの力に対して、そう励ましてくれていたのか。

彼女たちの話を耳にしている間にも、バウルが放つ光は徐々に大きくなり、辛く苦しい感覚が私の胸をえぐってくる。

私は表に出そうになるその気持ちをぐっと抑えて、バウルに声援を送った。

 

 

「バウル、頑張って!」

 

「ファイト、バウル!」

 

「ここで諦めたらブン殴るわよ、バカドラ!」

 

「頑張れ頑張れなのじゃ!」

 

「頑張ってください! 」

 

 

私に続いて、カロル、リタ、パティ、エステルの声がバウルの力を後押しする。

特に放っておけない病のエステルは、満月の子の力が使えない分、全力でバウルを応援した。

 

 

「頑張って強くなってください!」

 

「エステルも見てるよ、バウルも耐えて!」

 

「そして桜によってたかる男性どもをバウルの怒りの鉄槌を下すのです! ゴミ虫は消毒です!!」

 

「止めろよ! ひとが真面目に応援してる傍から、何物騒な野望ブチ込んでくるんだこの皇女!!」

 

「それがわたしの気持ちです!」

 

「そんな邪な気持ちはいらない! バウルさんがお困りなっていらっしゃる!!

エステルが余計な事言うから、バウルの進化がお止まりに!!」

 

「桜がユーリかフレンのどちらかを選べば済む話です」

 

「なんの!?」

 

「あら、桜がユーリを選べば、バウルも心置きなく進化できるのね」

 

「なんでだよ!?」

 

「究極の選択を迫られているのじゃ」

 

「くだらないの間違いだろ!!」

 

「あ。おっさんもそこに入れて」

 

「こうなったら手段は選んでいられません。

桜はユーリとフレン、レイヴンの誰を選ぶのです?」

 

「バウルの正念場って時に、なんで意味不明な選択しなきゃいけないんだよ、脳内お花畑にも程があるだろ!! おろおろしているバウルさんに謝れ、祈れ、応援しろ!!」

 

「桜の恋を応援すればいいのですね」

 

「なんでだってばよ!!」

 

「オレらのことはひとまず置いといて。バウルのしたいように応援してくれねぇかな。

でないと、桜の血管が限界迎えそうだ」

 

「仕方ありません。今だけは桜ではなくバウルを応援します」

 

 

ユーリにたしなめられたエステルは、意外も素直に従った。なんでだよ。

皆が見守る中、バウルが放つ光が頂点に達し、辺りを眩しく照らし始める。

光が目を覆い、胸が苦しみや痛みから解放されたかと思った瞬間、光の中から竜の雄たけびが聞こえた。

 

 

「バウル!?」

 

「おほーっ。たまげたわ」

 

「こりゃあ、またでかくなったな……」

 

 

私たちが目を見開いた先、空を見上げたところに巨大に進化したバウルが佇んでいた。

フィエルティア号の倍はあるだろうか。準備期間があったとはいえ、急にでかくなるなんて、始祖の隷長の進化は驚異の域を超えている。

バウルがゆっくり私たちの目の前まで下りてくると、迎えるようにジュデイスが彼に寄り添った。

 

 

「がんばったわね。バウル」

 

「どうやら相棒は大丈夫のようだな。

桜、もうなんともないのか?」

 

「大丈夫みたい。解放された気分」

 

「桜、お前はお前のままなんだよな」

 

「……うん」

 

「桜……」

 

「ジュディ?」

 

「いいえ。バウルも桜が心配みたい。どうか自分を怖がらないでって。

ベリウスの暴走の時ようなことにはならないと思うわ」

 

「ありがとう。バウル。私は私だから」

 

 

私が手を伸ばすと、バウルは深く目を閉じ、そのごわごわの毛並みをしている首元を触れさせてくれた。

今の私の心は穏やかな気持ちだ。彼も私と同じならいいのだが。

……でっかい進化だけはゴメン被りたいところだが。

私が内心複雑な気分になっていると、エステルが安堵の息を漏らした。

 

 

「バウルが無事に進化できて良かったです」

 

「ええ、ありがとう。バウルを助けてくれて。

私だけだったら、きっと守り切れなかったわ」

 

「ジュディスはボクたちの仲間だもん。助けるのは当たり前だよ!」

 

「仲間……。そうね。それで、貴方たちはフェローに会いにいくの?」

 

「オレと桜はな。エステルはどうするんだ?」

 

「わたしもフェローに会いに行きます」

 

「いいの? 桜は異世界人で始祖の隷長でもあるから大丈夫だとは思うけど。

エステルの場合は問答無用で殺されるかもしれないわ。知らない方がいいこともあるのよ」

 

「わたしは自分のことを知る必要があります。

それが旅の目的だから……わたしも覚悟を決めなくちゃいけません」

 

 

エステルは決意の眼差して、そっとバウルに触れた。

バウルは満月の子に触れられても、恐れず、逃げず、暴れず、じっと受け止めてくれる。

 

 

「ふふっ。わたしを認めてくれるのですね」

 

「フェローに伝わると良いわね」

 

「なごんでるところ悪いけど。そろそろ魔狩りの剣の増援がきそうよ。

ややしくなる前に、どっか腰を据える場所まで移動した方がいいんじゃない?」

 

「移動って、ボクたちここまで一本道しかなかったよね。どうやって?」

 

「上が空いとるの」

 

「え。上? 待って、まさか」

 

「そのまさかよ、桜。皆、バウルに乗って、上でお話の続きをしましょう」

 

 

嘘だろ。

ジュディスが親指でバックのバウルを指さし、バウルもバウルで私たちを受け入れるべく、地面に着地した。

身を粉にして世界を救い、苦しい思いをして進化を遂げた始祖の隷長の背中に大所帯が飛び乗ってトンズラ。

バウルの扱いひどすぎやしないか。

 

 

「いやいや待て待て! 正気かあんたら!? 安全ベルトもなしに、でかい竜の背に乗って飛ぶ行為そのものがヤバイんですけど!!

普通に風圧抵抗で飛ばされるだろ!!」

 

「途中でフィエルティア号拾って行けばよいのじゃ」

 

「そこまでどうすんの!?」

 

「オレがお前を捕まえておいてやるよ」

 

「なんだその自信? 武醒魔導器ってスゲーな!

って、え? あ、止めて、ユーリ、どーして私の腰に手を回すの!? 待って待って!!」

 

「んじゃあ、オレと桜は先に乗ってるから。皆も続いてくれ」

 

「何をおっしゃる青年よ。ここはレディーファーストと行こうじゃないの」

 

「おじさま。女性たちを下から覗き見るなんていけないわ。

私、足を踏み外して、おじさまのそのいやらしい顔に蹴りを入れてしまうかも」

 

「ご褒美です! ささっ、まずは桜ちゃんから行ってみようね。

おっさんが下からしっかり支えてあげるから。

大丈夫、桜ちゃんの蹴りくらい、顔面で受け止めて見せるぜ。

……あ、魔導少女は後でいいから」

 

「死ね、おっさん」

 

「あだっ!?」

 

 

リタに蹴りを入れられるレイヴンを尻目に、私はユーリに抱えられながら、バウルに飛び乗った。

強烈な向かい風に飛ばされそうになるも、ユーリがしっかりと私の身体を抱いてバウルの背にしがみ付く。

彼の温かく力強い腕の中で耐えていると、徐々に世界が広がってきた。

地平線を挟んで、青い空とコバルトブルーの海が私たちの視界を覆いつくす。

私たちを背に乗せた竜はフィエルティア号を拾い上げると、さらに空高く舞い上がった。

 

 

 

 

 

始祖の隷長バウルの下に固定されたフィエルティア号、その船に乗って、私たちは空を漂っていた。

この前までは駆動魔導器もない船で海上移動を強いられていたが、これで移動手段の幅が各段に広がる。

わざわざコゴール砂漠を越えなくても、簡単にフェローの元へ行く方法は確保できたのだが。

 

 

「ジュディス……」

 

 

船室のベッドで、彼女は死んだように眠っている。

バウルの船に乗って空へ飛んで間もなく、毅然としていた彼女が突然倒れたのだ。

無理もない。私たちが背徳の館突入やドンの死を経験している間も、彼女ひとりで魔狩りの剣を相手に戦っていたのだから、疲労困憊にもなるはずだ。

 

 

「ごめんなさい。私、自分のことばっかりだ」

 

 

いくら約束していたとはいえ、いっぱいいっぱいの彼女に内緒話を持ち出すなんてどうかしていた。

後悔しても始まらない。私は私で自分のやるべきことを考えるべきだろう。

エステルの治癒術で彼女のけがは完治した。後は消耗した精神と体力を取り戻すため安静にしてもらう他ない。

私は静かに横たわる彼女を置いて、そっと船室の外にいる皆へ顔を出した。

 

 

「よく眠ってる。今はこのままおいた方がいいよ」

 

「魔狩りの剣の連中がいつ襲ってくるかわからない状況だったんだ。

バウルが進化するために動けない間、ずっとひとりで寝ずの番をしてたんだろうな」

 

「そして、やってくるバカどもをひとりで捌いてたと。ほんとバカ、不器用なんだから」

 

「ジュディスちゃん。割と平然としてたけど、今まで無理してたんだねぇ」

 

「……。私、ジュディスが大変だって時に甘えちゃった。

ユーリが気を利かせて、ナンとティソンとの戦いから遠ざけてくれたのに」

 

「オレはそこまで器用じゃねぇよ。ジュディスがお前と話したがってそうだから、そうしただけだ」

 

 

なんてことないとユーリは片手を腰に当てて、斜めに構えた。

彼の言う通り、ジュディスは私との約束を守ろうとしてくれたのか。

 

 

「だったら、まだ私は話し足りない。ジュディスともっと話がしたい」

 

「妬けるぜ。ジュディスの何がお前をそこまで素直にさせるんだよ。

保護者として、是非ともご教授願いたいところだ」

 

「ユーリには無理だと思うよ」

 

「期待ぐらいさせろよ」

 

「期待しない方が幸せだよ。鈍感無神経デリカシーないユーリには到底無理」

 

「言ってくれるぜ。もちろん、そこまで大口叩くなら、オレの面倒もみてくれるんだろうな」

 

「私にユーリを受け入れられるほどの度量があると思う?

毎回毎回過度なコミュニケーションで私の心が蒸発しかかってんの理解してる?

そろそろ私も限界なんだよ、マジで後生だ」

 

「いつもオレの愛情を受け止めてるから平気だろ」

 

「ユーリお姉さんのライクはキツいんですよ」

 

「煽りにきてるな、お前。いいぜ、乗ってやる」

 

 

私が逃げの姿勢をとると、ユーリはかかってこいと手招きしてきた。

これが本当にお姉さんだったら、勇気を出してその開けた胸に飛び込んでいただろうが、厄介なことに相手は野郎だ。

私とユーリの間で、小さな攻防をしていると、エステルが両手を広げて私に迫ってきた。

 

 

「ユーリは無理でも。わたしなら桜を受け止められるでしょうか」

 

「最近のテルカ・リュミレースではハグが流行ってるの? 止めてお願い勘弁して」

 

「逃げないでください。わたしの胸の中で、思い切り好きなひとの名前を叫ぶだけでいいので」

 

「するかああああっ! なんだその罰ゲーム!? あんたの胸は学校の屋上かよ!?」

 

「わたしには知る必要があるのです。満月の子、桜を人間に戻す方法、桜の意中の男性を」

 

「最後は余計だ! 断固黙秘する! いやその前に私にそんな男は存在しない!!

……とか言ってる傍から、私に抱きつくんじゃありません!!」

 

「あの夜、桜から私の胸に飛び込んでくれたではありませんか」

 

「止めて、私のブラックヒストリーもってくるの!

エステル、近い、近いって、顔が、これはまずい……っ!!」

 

「桜、わたしは貴方の答えが欲しいのです!」

 

「答えを急かすなよ、エステル。

後、桜も声を抑えないと、ジュディスが起きちまうぞ」

 

「わかりました。ユーリがそういうなら仕方ありません。わたし、待ちます」

 

「何を」

 

「さてな。今日はここまでにしておこうぜ。

ジュディの話はまた明日だ。オレたちも休むとするか」

 

 

ユーリが仲裁に入ると、エステルはすんなり私を解放してくれた。

そろそろこの関係に驚かなくなってきた自分が怖い。

ユーリの薦めにより、私たちは明日まで休むことで一時解散となったが、この船の広さはたかが知れている。

もちろん、私は保護者の目の届くところ、というか、ほぼ強制的にあの男の傍にいるわけだが。

 

 

「なんで逃げるんだよ」

 

「ユーリが来るからでしょう。心配しなくても、空の上じゃ誰も私を襲ってきたりしないよ」

 

「誰かに狙われてないと、オレはお前の隣に立っちゃダメなのか」

 

「ユーリと話すことはないよ。カロルが悩んでいるようだから、相談に乗ってあげたら?」

 

「話すことはなけりゃあ、オレはお前の傍にいちゃダメなのかよ。

どうしたら、お前は隣を空けてくれるんだ」

 

「ユーリは私に関わり過ぎなんだよ。私は……。

貴方の気遣いもわかるよ。とってもありがたいと思う。だけど……」

 

「警戒しなくても、あの話はしない。お前が話す気になるまではな。

背徳の館でも、そう言っただろ」

 

「わかってる……ごめん。私をひとりにさせて欲しい」

 

 

いつも通りユーリのペースに流されれば、彼に甘えて、上面だけの関係が続いてしまう。

後悔するのを知っているのに、毎回彼に乗せられてしまうんだ。

いい加減、踏ん切りつけたいと考えてる傍から、彼はいつものように私の隣で挑発的な微笑を送ってくる。

 

 

「今の謝罪は聞かなかったことにするぜ。オレはお前の傍から離れる気はさらさらないからな。

それにお前ひとりにさせると、また考え込んで妙な事言い出すだろ」

 

「私はそんな変人じゃない。絶対きっと……多分」

 

「尻つぼみになってんぞ。文句があるなら聞いてやる」

 

「ユーリがしつこい。私をひとりにしてくれない」

 

「ふっ……お前には参ったもんだ」

 

 

私が簡潔に文句を言うと、ユーリは困ったような微笑を返してきた。

まるで、我儘な妹の世話を焼いているお兄さんのようだ。

内心頷いている私を余所に、ユーリは少し思案した後、ゆっくりと口を開いた。

 

 

「そうだな。……カロルは凛々の明星の掟について悩んでるようだ」

 

「カロルがギルドの掟を?」

 

「ジュディの件で、どう落とし前つけるか考えてるんだろ。

ジュディは確かに掟を破ったが、それは世界を守るためだ。

ドンのようなけじめをつけさせるわけにはいかないって、カロルは悩んでるんだろうな」

 

「そう。難しいところね。エステルはもう心の整理はついたのかな。

ユーリが行った方が」

 

「エステルはフェローに会う決意を固めた。もう前を向いてる。

それに、オレは"もしもあの時ああしたら……"なんて、実りのない話すんの苦手だからな」

 

「私もそんなこと言いそう」

 

「パティは皆を気に掛けてる。何が真実なのか迷っているんじゃないな、不安じゃないか……」

 

「世の中、知らない方がいいこともあるよ」

 

「そうも言ってはいられねぇだろ。リタはあいつらしくヘルメス式魔導器を気にしてる。

ジュディのように壊すって手は使わないだろうが」

 

「リタさんなら何かいい方法をみつけてくれそう。

……レイヴンさんの様子見に行った方がいいんじゃない? 静か過ぎるでしょう」

 

「おっさんが怪しいのは確かだ。なんせ人魔戦争の生き残りだからな。

ヘルメス式魔導器が世に出回ってる経緯を知ってるかもだ」

 

「じゃあ、私はジュディスの様子見てくるから、ユーリはレイヴンさんのところへ」

 

「ラピードがジュディを看てる。おっさんもこの空じゃ逃げられねぇだろ。

つまりは、オレと桜が自動的に一緒になるわけだ」

 

 

どんどん外堀を埋めてきたユーリは、勝気な目で私を見据えた。……やられた。

思わず睨もうとするものの、彼を目にして改める。

そよ風で靡く艷やかな長い黒髪、見惚れてしまいそうな美しい微笑が青空をバックによく映える。これで彼の熱い視線など喰らおうものなら、世界中の女の子はイチコロだろう。何度見てもため息が出るほどの美青年だ。

なんもかんもかなぐり捨てて、彼に全てを打ち明けたい気持ちにかられたが、私は耐えた。

 

 

「ユーリもひとりで黄昏てたらいいよ」

 

「なんでだよ……」

 

「絵図らになるからだよ、やったね、ユーリ。

私のようなチンケな女の子に構ってないで、どっかいい女性ひっかけてきなよ」

 

「オレはそんな軽い男じゃねぇって知ってるだろ」

 

「そうだね。ユーリには好きなひとがもういるんだっけ」

 

「それなくならねぇ限り、オレはお前から離れないっつったよな」

 

「なんでそこまで頑ななの」

 

「堪え性のお前には言われたくねぇな」

 

「私は普通だよ」

 

「平気じゃないって顔してる」

 

「そんなこと……」

 

「桜が何を抱えてるか、話したくないならそれでいい。

けど、辛いなら、尚更傍にいさせてくれよ」

 

 

なんでユーリはここまで私に構うんだろう。

現実のユーリは、幻想のユーリのように思い通りにいかない。

いや、あっちの彼もこうして傍に寄り添ってくれるただだろうか。

私が考えている、信じているユーリなら、真実を受け止めてくれるのではと心が揺れてしまう。

 

 

「ユーリ。私のこと、信じてるの?」

 

「もちろんだ」

 

「もしかしたら、ずっとウソをついてるのかもしれないよ」

 

「理由があるんだろ」

 

「こうしている今だって、ユーリにひどいことしているかもしないし」

 

「ああ。ひとがざんざん隣にいたいっつってるのに、あれこれ理由つけて遠ざけようとしてる強情なお前は確かにひでぇな」

 

「そうじゃなくて。いやそうだけど」

 

「まだ迷ってるな。オレは急かしてるわけじゃない。

お前はお前でじっくり考えればいいさ。オレはお前の下した決断に力を貸してやる」

 

 

ユーリからカプワ・ノールでの言葉を持ち出され、私の思考はさらに迷路になった。

あの時もそうだ。彼は何の見返りもなく、私に支えてくれる。そして今も。

旅を続けて信頼関係が生まれたのは事実だが、それは彼のたゆまぬ努力と実力があってこそだ。

 

 

「ユーリはどうしてそこまでして私に構うの?

もしも、こっちに来た原因がユーリの責任というなら、それは違う。

私が向こうで、ユーリに深入りし過ぎたせいで、自業自得だから」

 

「お前がオレを重荷に感じてるなら、とんだ勘違いだ。

お前が不安なら、何度でも言ってやるぜ、オレが好きでやってるんだ。気にするな」

 

「本当にそればっかり」

 

「今オレがお前の傍にいる理由ならあるさ。

お前はひとりで考え悩んで、辛そうにしてる。けど、お前は悩みを話せない。

なら、せめて傍にいてやりたいと思うだろ」

 

「ユーリだけだよ。そういう思考してんの。

そっとしておこうとか思わないの?」

 

「いつも思考が迷路になってるお前に言われたくねぇな」

 

「悩ます原因の大半がお前の奇行だってことに気づけよ」

 

「なんだよ。また抱けばいいのか」

 

「なんでそうなる?」

 

「お前のやる気スイッチなんだろ」

 

「残念それは私の地雷スイッチだ」

 

「ああ。ここをつつけばよかったんだっけ」

 

「私のおでこはスイッチですらない!!」

 

「ふっ、あっはっはっ。そうでなくちゃあな」

 

 

ユーリはおでこを突かれて憤慨する私を見て、文字通り腹を抱えて笑い出した。

からかわれて腹が立ったが、彼の爽快な笑顔の方が勝ってしまい、私は脱力してしまう。

ああ、彼に流されてるな、私。

私が船縁に両肘ついてもたれると、彼も背を預けて、私に微笑みかけた。

 

 

「さて、我慢比べは終わりだ。ジュディに話したいこと、まとまったか?」

 

「内緒」

 

「厳しいな。いつかオレにも話してくれるんだろ」

 

「わからない」

 

「こりゃあ、ジュディ次第か」

 

「ねえ、ユーリ。ジュディスがギルドを裏切ったら、けじめつけるんだよね」

 

「そうだ。ジュディにもそれ相応に償ってもらう」

 

「ドンさんに思い知らされたって話してくれたけど。相手が誰であっても例外はないって」

 

「オレが選んだ道だからな。例え罪人の道でも、オレは筋を通すよ」

 

「……じゃあ、私も仲間を裏切ったら、ユーリは制裁するの?」

 

「するだろうな」

 

「だよね……」

 

 

真顔のユーリにきっぱり言い切られて、胸と頭がグンと重たくなった。

彼は私の保護者のような存在だから、自分は対象外なんて、勝手に思ってた私がバカだ。

ジュディスと再会した時、彼の目には一切迷いはなかった。相手が私であろうとも、彼は躊躇いも容赦もなく自分の正義を振るうだろう。

 

 

(真実が明かされたら、元の私ではない今の私はユーリに殺されるのかもしれない。

私とユーリは相容れない)

 

 

これ以上、親しくするべきじゃない。近づくべきじゃないんだ。

やっぱり距離を置くべきだと、船縁で俯く私に、ユーリは変わらず続けた。

 

 

「そして、オレも罰を受けるかな」

 

「なんでよ。ユーリは関係ないでしょう?」

 

「オレはお前の保護者だ。面倒見てきた責任がある。それに……」

 

「それに?」

 

「痛みは半分こした方がマシだろ」

 

「いや、ふたり揃ってに自殺する時点で痛みもクソもないでしょう」

 

「あの世でも一緒になれるかもな」

 

「い、いやだなぁ」

 

「いやがるなよ。オレとお前の仲だろ。

まあ、冗談はさておきだ。オレは、お前を安易に制裁するつもりはねぇよ。必死にもがくさ」

 

「私の罪にあらがうつもりなの?」

 

 

私が躊躇いがちに尋ねると、ユーリは顔を綻ばせた。

 

 

「オレはお前と楽しんでるんだ。高望みもしてる」

 

「テムザ山みたいに、いつもユーリを困らせてばかりなのに?」

 

「お前がいないとオレが困るんだよ」

 

「なんでよ」

 

「なんでもだよ。例え、お前がオレに嘘ついて、ひどいことをしているとしてだ。

それでお前が罰を受けていなくなるくらいなら、オレはまずそうならない理由を探すだろうな」

 

「でも私の真実は変わらない」

 

「桜なら、真実なら仕方ないって受け入れちまうのか。

オレには到底無理な話だ。納得できない真実なら、あがいてでも覆さなきゃ気が済まねぇよ」

 

「私は……」

 

「回りくどいことは、もう止めにしようぜ」

 

 

ユーリはため息をついたのを見て、私はさらに落ち込んだ。

もともと彼は考えるよりまず行動、面倒な駆け引きは好まないだろう。

このままずるずる話していても、問題が解決するとは思えない。

 

 

「これで終わりだね」

 

「違うよ。オレはもっとお前と話がしたいんだ。

ただ、話せば話すほど、お前は自分の沼に落ちてくだろ。

そういう湿っぽい話は抜きにしようって言いたいんだよ」

 

「どういう意味?」

 

「お前はどうしたい?」

 

「どうって言われても……」

 

 

フェローに会って、人間に戻る方法を教えてもらって、元の世界に戻る手段を見つける。

それは、私が元の世界の私だと思い込んでいた頃の目的だ。

なら、今の私は何がしたいんだろう。また"わからない"のだろうか。

 

 

「ユーリはどうしたい?」

 

 

質問に質問を返してしまった。

しかし、ユーリは嫌な顔せず、いつもの決まり文句を口にする。

 

 

「オレはオレのやりたいようにしてるだけだ。

お前がバウルに会いたいって言うから、連れてってやっただろ」

 

「うん。レイヴンさんの後押しがあったけど。魔狩りの剣を退けて、連れてってくれた」

 

「お前がフェローに会いたいってのなら、引っ張ってでも連れて行く。

人間に戻りたいってのなら、フェローを締め上げてでも吐かせる。

お前に……もしものことがあるってのなら、オレが全力でお前の未来を切り開く」

 

「ユーリ」

 

「……桜が、お前が元の世界に帰りたいなら、オレは笑顔で見送ってやるさ」

 

「笑顔で……」

 

「……辛いか?」

 

「……」

 

「お前がいいなら、オレももう一度向こうの世界に行ってみようかな」

 

「よくない! ユーリがそこまでする必要ない!」

 

「やっぱ迷惑か。オレも嫌われたもんだな。残念だ」

 

「そうじゃなくて……」

 

「お前は何がしたいんだ。今抱えているもの取っ払って、自由に考えてみろ」

 

 

今の私がしたいこと。

元の私とか、今の私とか、そんなの無しにして、私がしたいのは何なのか。

こちらを真っ直ぐ見つめるユーリの闇色の瞳を確かめて、私は思わず零してしまった。

 

 

「私、こんなに面倒くさいやつで」

 

「よく知ってる。だからこうして構っちまうんだ」

 

「足手まといだし」

 

「オレがついてる。引っ張ってってやるさ」

 

「迷惑かけちゃうけど」

 

「それもまた一興だろ」

 

「……今は……今だけはユーリと旅を続けたい」

 

「ああ。オレはいつだってお前と一緒だ」

 

 

私の言葉をひとつひとる受け止めたユーリは私を見つめたまま。私の頬に手を添えてきた。

固くて、でも温かくて、彼の手のひらを意識するほど、私の世界がぐっと狭くなる。

ユーリがこんなにも近くにいる。私のすぐ前にいる。

 

 

「ユーリ。私……」

 

「桜」

 

 

私の頬にあてられた手がするすると滑って、顎へと到達する。

ユーリの瞳に私が映った――その時だった。

ボロボロになったおっさんが顔面スライディングしながら船縁にぶつかり、私たちの間を引き割いた。

 

 

「レイヴンさん!?」「おっさん!?」

 

「あてててっ。あ、桜ちゃん、俺様を助けて」

 

「ちょっ!? 私にしがみ付かないで……っ!

一体何が起こってるんですか?」

 

「冷たいこと言わないでよ。俺様と桜ちゃんの仲じゃないの」

 

「残念だったな。おっさんの不信頼と如何わしい実績によって、私とお前の間には難攻不落の鉄壁が完成した」

 

「俺様の燃えるような愛の力で、鉄壁なんて溶かしちゃうわよ」

 

「しつこいぞ、おっさん」

 

「青年ったら、良いところ邪魔されちゃってご立腹なのはわかるけど。

生憎ここは人口密度がわりかし高い空の孤島よ。おたくの覚悟は時期早々だってのさ。

やるなら誰もない密室でふたりきりの時にやりなさいな。とーぜん、俺様が邪魔するけどね」

 

「ありがたい忠告は確かに受け取った。覚悟は良いかブッた斬るぞ」

 

「まあまあ、さっきの甘い雰囲気はどこいったの?

熱い眼差して桜ちゃんをじっと見つめて"ああ。オレはいつだってお前と一緒だ"なんつって、キメちゃってさあ。おっさんもうハラハライライラ怒髪天よ」

 

「見てたのかよ……」

 

「おうおう。俺様の恋敵にゃ容赦しないぜ。……て、言いたいところだけど。マジでピンチなのよ。助けて!」

 

「――桜の道を穢す者は、皆成敗です」

 

 

私に縋りつこうとするレイヴンの後方から、狂気と殺意に満ちた皇女様がおなりに。

レイヴンのくたびれた姿、彼女の片手に剣が握られている辺り、大体の察しはつく。

 

 

「レイヴンさん。貴方の胡散臭い所業の数々は忘れない。有効期限は明日までだけど」

 

「あ、短い。俺様との濃密な愛をそんなあっさり忘却しないで!

おっさん何もしてないのよ。ホントマジで」

 

「これから何かしようとしてたんだよね?」

 

「あらやだ」

 

「おっさん……」

 

「ちょっと桜ちゃんと青空のランデブーで深い愛を語ろうと思っただけじゃん。青年のケチ。

それに俺様の大切な桜ちゃんが青年の魔の手にかかるところを見逃すほど、俺様寛大じゃないのよ」

 

「こいつ……っ」

 

「現在進行形でおっさんに迫られてる私もかなり危険なのでは。

魔の手って、ユーリは私に何しようとしたの?」

 

「知らない方がいいんでない。俺様としては知ってほしくないつーか」

 

「ああ。オレもチャンス逃したって意味では、そうして欲しいところだ」

 

 

また私を置いて、男ふたりが知らない話をしている。

しかし、忘れてはいけない。あの皇女が近づいていることを。

 

 

「はい。ユーリ。素敵な雰囲気でしたが減点です」

 

「桜の貞操には触れてないぜ」

 

「桜の純潔を穢そうとする者は、例えユーリでも許せません」

 

「そっちもダメなのかよ。どんだけガード固いんだ。……まあいいけど」

 

「妙に潔いわね、青年」

 

「面倒な駆け引きは苦手だが。桜をいじくる分には楽しませてもらってるからな。

こんくらいのハンデがあった方が、断然面白いだろ」

 

「怪しいです。怪しさマシマシです。

これはわたしが見ていないところで何かしたのかもしれません。

情報収集が必要です。まずはカロルから、ユーリのこれまでの経歴を確認しましょう」

 

「エステル自身の目でオレたちを見届けるんじゃなかったのか」

 

「では、わたしの目の前でやってください」

 

 

何をやれというのだ。

エステルの意図がわからないでいる私に反して、ユーリは嬉しそうに私の肩に手を添えた。

 

 

「だそうだ、桜」

 

「だそうだじゃないよ。なんなの?」

 

「さっきのやり直しだ」

 

「なんでだよ」

 

「エステルやおっさんに見せつけてやらねぇと」

 

「何をだよ」

 

「オレはお前を抱くところからだな」

 

「された覚えはないんだけど」

 

「なんだ。もう何度も抱いてやっただろ」

 

「またそれか、しつこいぞ! 抱くじゃなくて、抱っこ!何度私が訂正しなきゃいけないだ学習しろよ!!

そして皆の前で誤解を生みそうなこと言うんじゃない!!」

 

「仕方ねぇな。思い出させてやる」

 

「いらないよ! お願い忘れさせて! また私の心がお空の彼方に飛んでってしまう!!

ダングレストでもう気が済んだんじゃ……っ!? エ、エステル!!」

 

 

思わず破壊神エステルに助けを求めたのだが、返ってきたのは満面の笑みだった。

 

 

「桜、ユーリとよろしくしてください」

 

「今観念しろって幻聴が聞こえたぞ、おい!?」

 

「ちょい待ち。愛しの桜ちゃんの危機だ。俺様の存在忘れちゃダメよ」

 

「おお! レイヴンさんが神々しく見える! お願いしますだ神様!!」

 

「俺様、キマってるだろ! 惚れていいんだぜ!

……というワケで、桜ちゃんのハグすんのは俺で」

 

「それはナシで!!」

 

「レイヴンの相手はわたしです」

 

「嬢ちゃん、なして執拗に俺様を妨害すんの?

さっきも桜ちゃんに会いに行こうとしたら、いきなし攻撃してきたよね。

あ、ひょっとして、嬢ちゃんもおっさんラブ?

悪いね、おっさんにはもう桜ちゃんという心に決めたひとがいんのよ」

 

「今はユーリのターンなのです。レイヴンはその後で」

 

「あ。青年が派手に爆死した後、俺様が桜ちゃんを慰める流れね。おっさん、がってん承知」

 

「残念ながら、おっさんの出番はなしだ。

さあ、桜。逃げてばかりいないで、オレの胸にどんと来い。がっちり受け止めてやる」

 

「そして胸筋地獄なんだな! やっぱりこのパターンか! いい加減飽きろよ!!」

 

「お前相手に飽きがくるわけないだろ。

ただ待ってるってだけが性に合わねぇオレが、お前のためにここまで長々付き合ったんだ。

……もう待てねぇぞ」

 

 

始祖の隷長の下、青空の中、船の上で、男女2組が睨み合ったまま、間合いを取り始める。

レイヴンから私を守ろうとするエステル。

エステルの隙をついて、私に襲い掛かろうとするレイヴン。

私を捕まえようとするユーリ。

そして、ユーリから逃れようとする私。

 

しばらく膠着状態が続くかと思われたが、強い向かい風によって私が怯んだ瞬間、男ふたりが動いた。

空かさず皇女の衝撃波を放ち、レイヴンを妨害しようとしたのだが。

勢い余って、ユーリまでふっ飛ばされてしまった。

 

ジュディス。

早く元気になって、ユーリとの仲立ちしてくれないだろうか。

私には、到底この男の制御なんて不可能だ。

 

ジュディスなら、このわけわからん状況が読めるのだろうか。

今もユーリが「このままじゃ終わんねえぞ」と立ち上がり、エステルが「来ても無駄ですよ」と煽る状況が私には飲み込めません。

 

ジュディスに全てを打ち明けたら、ユーリを自重させることができるのだろうか。

ラスボスエステルが「眠って下さい」と立ち憚っているのにも関わらず、ユーリが「選ぶんじゃねぇ……もう選んだんだ」と迎え撃とうとし、その横でレイヴン「この戦いに終わりはない…!」と身構える。

 

……ジュディスと言う名の緩和剤が欲しい。

白熱するユーリたちについて行けず、かといって、ここで背を向ければ、3人揃って追いかけてくること請け合いだ。

私はひとり蚊帳の外で、ただぼんやりとユーリとレイヴンがエステルに倒されるのを待っていた。

 

 

 

 

 

■続く■




今回もお付き合いいただきありがとうございました!!
テムザ山のお話です! ほぼほぼ説明とラヴなお話になってしまったが、これは仕方ない!! 多分。
登場人物が増えると、自動的に文章も長くなるんですよね!!
かなり長文になりましたが、これでも結構削った方なんです。
戦闘シーンとかもっと入れ込みたいところがあったのですが、自分でも目が潰れるほどだったので、省略させて頂きました。

後半のユーリとのお話も談長になった感じです。
いろいろ詰め込もうと無理した結果ですよ、テイルズキャラはどんな愛を語るのですか!? しかも即決即行動のユーリですよ。こういった駆け引きはしないのでは? しかし相手を考えて我慢するのでは? と、でもでもだってで本当に悩みました。

次回はいよいよフェローとご対面です。
シリアス不可避だ、年貢の納め時です自分。

それではまた!


瑛慈 翔
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