明星の意思、常闇の暁光   作:瑛慈 翔

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【第9話】天然ボケにこだまする突っ込み

 

あたしは魔導器以外に興味はない。

人間関係だって、最低限。

一日中、ずっと研究室に篭って、本に囲まれた生活を送っている。

 

 

昨日。

いつものように本を読み漁っていたら、あの青臭い金髪騎士があたしの家にやってきた。

あの一生の恥が過去のものになろうしてるところを穿り返すように、ヤツは降って沸いて出た。

 

 

怒りのあまり、騎士の傍にあの子がいないのを確認してから、即行ファイヤボール放ってやったわ。

……避けられたけど。

「後もう少し早く撃ってたら」ってのが聞こえたのか、猫目女がブチ切れてたけど知らない。

人が研究に勤しんでる時に訊ねてくる方が悪いの。

 

 

金髪騎士が「桜を取られたことを根に持ってるのか」とか寝言ほざいたので、もう一発叩き込んだら、また避けられた。

下らないこと言いに来たなら帰れというあたしの忠告に対し、騎士はハルルの結界魔導器の修繕と盗賊団の討伐の協力要請を申し出る。

 

 

「どの面下げて頼みに来たんだ一昨日きやがれ」という旨をオブラードに包んで水に浸して魔術にして返したんだけど、全部避けられた。

こいつはこの世の全ての不愉快で出来ているに違いない。

 

 

性懲りもなく頼んでくるので、そこまで言うなら対価を払えと言ったら「桜以外なら何とかしよう」と世迷言をのたまったので、殴りかかったら受け止められた。

続けて騎士は口を開く。

彼女は医者に診せているから、あたしは必要ないんだと。

 

 

只者ではないと思っていたが、医者に診せるなんておかしくはないか。

あの子、何かの病に冒されているの?

元々身体が弱いのか?

まさか、シャイコス遺跡で何かあったんじゃないのか?

 

 

いいえ、あたしには関係ないはずよ。

あの子とは、もう繋がりはないはず。

なのに、考えなくてもいいことが、グルグルと頭の中にひしめいてくる。

 

 

どうすればいい。

どうしればいいんだろう。

あたしは、何をするべきなんだろう。

 

今日。

あたしが結論を出す前に、あの子の方からやってきてしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

天然ボケにこだまする突っ込み

 

遠過ぎる そう遠過ぎる

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

私は基本的に好奇心旺盛な方だと思う。

興味があれば調べようと思うし、人に尋ねたりする。

学生の常識範囲内なら、足を伸ばしたり、小遣いはたいたりするだろう。

行動力があるというのは、好奇心が起因なのかもしれない。

 

異世界に来たきっかけも、あるいは行動力と好奇心なのかもしれないが。

マゾなアサシンに遭遇したり、エリート騎士との関係を増長されたり、ストーカーが現れたり、イケメンとフェイスロックで一夜を過ごしたりするのは私個人の問題ではなく、フレンの日頃の行いとエステルの暴走とユーリの判断力のせいだと思う。

……帰りたい。

 

 

本日。

私の体質解明と下町の魔核泥棒を捕まえる為にアスピオへ行ったら、変人と呼ばれるリタ・モルディオ嬢と再会した。

女の子なのに変人と呼ばれる所以は知らないが、彼女の勘違いと迷言は現役。

おまけにユーリからの魔核泥棒疑惑もあり、ますますカオスと化したが、ここでフレンと盗賊団の存在が浮上。

彼に会う為、リタの濡れ衣を晴らす為、私たちはアスピオからシャイコス遺跡へ出発。

 

 

 

 

長い年月を越えて風化した遺跡は、太陽に照らされ、青空の下より鮮明に広がっていた。

リタの案内で乳白色の石柱と割れた石畳を西へと縫っていくと、女神像と行き止まりにぶち当たる。

ザーフィアス城の地下水路を思い出して、試しに女神像を押してみると、下から地下遺跡への階段が出現。

階段を下りた先は以前とは違い、所々灯りがついていて、そこそこの視界が確保されていた。

私と年の変わらない可愛い魔法少女こと変人リタ・モルディオは、怪訝に辺りを見回し、大きな溜息を漏らす。

 

 

「発掘終わった地上の遺跡くらい盗賊団にくれてやってもよかったんだけど。

――先に誰かが入った後があるわ。

どこからか、地下遺跡の情報漏れてるわね」

 

「フレンさんやソディアさんも、盗掘者のこと気にしてたからね。

てか、前来た時は暗くてよく判らなかったけど、中ってこうなってたんだ。

なんか、リタさんのところと似たようなオブジェが一杯あるね」

 

「これ全部筐体よ。……でも、ダメだわ。ここにある子、魔核がない」

 

「魔核は貴重品だからな、泥棒が盗むわけだ」

 

 

傍らに立つユーリが、リタに向かって嫌味っぽく呟いた。

漆黒の長髪と鋭い瞳が印象的な色男で、刀の腕は立つし面倒見がいいものの、やることなすことかなり乱暴。

下町の魔核を取り戻す為、マントに小柄にモルティオという情報だけでリタを泥棒だと疑っているのか、彼女に対しての発言が刺々しい。

これでフェミニストで礼儀正しければ、本当にいい男なのに。

 

 

「ユーリ、まだリタさんが犯人だと決まってないでしょう」

 

「言わせておきなさいよ。さっさと盗賊団締め上げて、あたしを疑ったこと謝らせるから。

あたしは魔導士よ。

盗みなんてバカなマネするくらいなら、魔核完全復元の研究に時間費やしてるわ」

 

「口ではいくらでも言えるからな」

 

「そうね。口だけじゃ足んないから、真犯人捕まえた暁には、泣いてごめんなさいって土下座してもらおうかしら」

 

「居た堪れない雰囲気醸しだすのやめてよ、二人とも」

 

 

刺々しい言葉を交わす二人へ、カロルは控えめに抗議した。

今日のリーゼント少年はいつもの見得はなく、蟻ン子ハート全開のようだ。

無理も無い。リタとユーリを見てたら、マジでドサクサに紛れて、パーティが一名欠けるかも知れない。

剣呑な空気に包まれる二人を差し置いて、エステルが首をかしげて私に問いかけてきた。

 

 

「前来た時と話していましたが、桜は遺跡は初めてじゃなかったのです?」

 

「前にフレンさんに助けられたって話したでしょ。ここがそう。

リタさんと初めて会ったのもここだった」

 

 

エステルには、フレンと出会った経緯を話していなかったっけ。

彼女と初めて会ったのはザーフィアス城で、その時はフレンは命の恩人だとしか説明していない。

桃色の髪にエメラルドグリーンの瞳、清楚な装束と仕草から察することができるように、彼女は皇族のお姫様。

城からあまり出たことが無い為にいろんなものに興味を示すのだが、私とこの遺跡に関しても例外ではないようである。

 

 

「桜もリタもここに来たことがあるのですね。

わたし、遺跡に入るのも初めてで。是非とも、二人の出会いも含めて詳しく聞かせて下さい」

 

「えっと、じゃあ、遺跡の奥で、リタが闊歩しながら初登場するシーンから……」

 

「桜! 過去のことは、忘れなさい!

エステリーゼもムダ口叩いてないで、足元注意しながら歩く。

ここ、滑りやすいところ多いし、盗掘者用の仕掛けとかあるから、下手に遺跡内の物に触らないでよ!

そこの野郎ども、ジロジロ見てないでさっさと行きなさい」

 

「モルディオさんはおやさしいなあと思ったら、野郎はさっさと行けか。

これだけ薄暗いと、後ろから刺しに来てもわかりゃしねーか」

 

「そこの水辺へ突き落として、どざえもんって手もあるわよ」

 

「ユーリもリタも、この暗がりで不気味に笑い合うのはやめてよ」

 

 

目が笑ってない二人に、カロルは半泣きだ。

しばらく異様な空気を漂わせていた二人だったが、ここで立ち止まっても埒が明かないとユーリは肩を竦めた。

 

 

「まあいいさ。お前についてきた以上、多少の危険は覚悟の上だ。

桜、オレんとこ来い。ころばねえように支えてやるよ」

 

「あ、うん。ありがとう」

 

 

優しく右手を差伸べられて、おずおずと自らの左手を添えた。

鈍感ユーリが騎士らしいことを率先してやるなんて珍しい。

彼の大きな手に左手をしっかり握られ、サラサラと靡く黒髪を横目に瓦礫の坂を下り、細い橋を渡って、薄暗い地下遺跡を慎重に進んでいく。

彼が徐に足を止めたので、振り返ってみれば、かなり後ろの方に皆の姿がちらほら見える。

皆を待つつもりなのかと大人しくしていたら、ユーリは私にしか聞こえないくらいの小声で問いかけてきた。

 

 

「その首輪どうした」

 

「首の? ああ、リタさんがくれたの。

私が受けるエアルをこの魔導器が代わりに拡散してくれるとかどうとうとか」

 

「不調を軽減するようなものか。

一応、それも魔導器なんだろ、つけてて気持ち悪くねーの?」

 

「ちっとも。実際に効果があるのか、試したことはないけど」

 

「まあ、進んで試すもんじゃないよな。

ただあいつの譲り物ってのが、引っかかる。

泥棒ってのもあるが、あいつ、お前を見る目が少し妙だった」

 

「怖い事言わないでよ」

 

「あいつに何言われたかは後で聞かせてもらうが、マジでやばくなったら言えよ」

 

「あたしにね」

 

 

ユーリに返事をしたのは、私ではなく、その後ろに現れたリタだった。

いつの間に憑いたんだろう。

私の背後にべっとりついた少女から、ジト目で睨みつけられたユーリは短く嘆息した。

 

 

「お前は背後霊かよ」

 

「下手な気休めはやめておくことね。

素人にどうこうできるようなもんじゃないのよ。この子は」

 

「泥棒容疑かかってるやつに今後の面倒みさせるなんてゴメンだね。

それとも、オレが易々桜を手放すとでも思ってるのか」

 

「自分の望みをかなえるためなら、多少のリスク伴うのは当たり前じゃない。

何も犠牲を払わずに、どーにかしようって方が贅沢ってもんよ。

桜も理解したうえで、一度しか会った事のないあたしの元を訊ねたんでしょう」

 

「いや、他に頼れる人いなかったし、漠然とリタさんは悪い人じゃないからいいかなーっと」

 

「だそうだが」

 

「あんた危機感なさ過ぎよ!

自分の世界じゃ通用したかもしれないけど、ここじゃあんたホントに一人にしとくと危ないわ!

そこの男! この子の傍にいたなら、少しは教育しときなさい」

 

「オレ、基本放任主義だから」

 

「あんたらがますますもって危険なのがよくわかった」

 

「私もなんだか危ないのがわかった」

 

「自覚がある分、まだ救いようがあるわね。

この際だから聞いとくわ。桜、もしもって時、こいつとあたし、どっちについてくの?」

 

「どっちって……」

 

 

リタからの唐突な質問に私は言葉を詰まらせた。

エアルの件に関してだけならリタにつくべきだが、結局一番信頼できるのはユーリだ。

だが、真剣な眼差しを送ってくる彼女に対して、バカ正直に答えるのは酷ってモンだろう。

天秤にかけられたユーリは自信からか関心がないのか、気だるそうにしているが。

いざ彼女を立てるような返事したら、それこそ何をしてくるかわかったもんじゃない。例、腕枕。

悩みに悩んでいたら、突如、右腕を拘束された。

 

 

「二人係で桜を困らせて、何しているんですか」

 

「エステル?」

 

「ユーリ、あまり彼女を苛めるなら、そのロン毛をボブカットにしますよ。切り落とした髪は丸めて合成素材にしますよ。奇妙な塊として申請してワールドチェック作成します!」

 

「オレは何もしてねーだろ。リタがどっちか選べっつーからだ」

 

「リタ。残念ながら、桜にはフレンという男性がいます。

お二人とも、手を引いてください」

 

「たかが帝国騎士一人で桜をどうにかできるはずな……い…?

まさか、あの時胸張って彼女とか言ってたのは本当だったの?!」

 

「リタさん、んな思いっきし衝撃受けた顔されても違うから。

つか、なんでソコでビビるんだ」

 

「ビックリなんてしてないわよ。あんたに男がいよーが、女がいよーが、あたしには関係ないわ。

あんたと一緒にいるのは研究の為であって、不確かなあんた個人情報に興味ない。

その点、魔導器は裏切らないから、面倒なくて楽だもん」

 

「あれだけ桜に構っておきながら、魔導器だけなんて言い切ってしまうのですね。

リタは凄いです」

 

「よくわからんが、赤面に肩プルプルさせて言うセリフじゃねーな」

 

「あ、あんたら、まとめて沈めるわよ」

 

「皆止めて。これ以上リタさん刺激するの、超止めて。

それよか、カロルは? さっきから、姿が見えないんだけど」

 

「ボクなら、ここにいるよ!」

 

 

ヨロヨロと物陰から出てきたカロルは息を切らして私達に元にやってきた。

 

 

「カロル先生。慌てなくても、置いてったりしねーよ」

 

「違うよ! 君達だって、魔物のエキスパートがいなきゃ困るクセに。

ところで皆、ここにくるまでなんともなかった?」

 

「は?」

 

「どういう意味です? カロル」

 

「エステルが聞くの?!

しょーがいないな。

さっき、桜を追いかける弾みで、壁にあった怪しいボタンぶつけてったの覚えてないんだ」

 

「……え?」

 

 

皆の視線が一気にエステルへ向いた。

当人は覚えが無いのか、キョロキョロ見回して瞬きするだけだ。

 

 

「何のことでしょう?」

 

「……言った傍から、仕掛けに触ったのね。あんた……っ」

 

 

リタが沈痛な面持ちでキレたところで、時は既に遅し。

どこからともなくギシリギシリと重い岩が擦れる音がした。

仕掛けと言ったら、インディジョーン○の落石か、または落とし穴か。

音のする方へ首だけ回すと、壁に沿って立っていた石像が次々に動き出していた。

 

 

「魔物? でなくて、ゴーレムていうの、これ?!」

 

「そうそう、ゴーレムっていうんだよ、これ。

1…2、全部で3体か。

ちっとばかし数が多いが、やるぞラピード」

 

「ワフ!」

 

「ちょ、ユーリ、アレと戦う気?! あんな大きなの相手なんて無謀過ぎるよ!」

 

「カロル先生の見解としては、逃げる方が良いのか?

この狭い通路をゴーレムたちが通せんぼしてるってのに」

 

「む、無理だよね、無謀だよね、五里霧中だよね」

 

「泣き言言ってる暇があったら、戦うか隠れてなさいよ、ガキンチョ。

桜、あんたはコレ使ってみて」

 

 

リタが投げて渡してきたのは一つの指輪だった。

プラチナの質素なリングに大きな赤い宝石がついている。

これも魔導器なのだろうか、指にはめるべきか迷っているとユーリが横目でチラ見した

 

 

「エンゲージリングか?」

 

「ぶっ飛ばすわよ、あんた!

桜、それ利き手の人差し指にはめて」

 

「薬指じゃないの?」

 

「アホなこと言ってないでさっさとやる! ゴーレムに潰されたいの?!」

 

「桜ーっ! まじめにやってよ!」

 

 

私は至って真面目に聞いたつもりだったのだが、何故かカロルが涙目だ。

ジリジリと迫るゴーレムにユーリやラピード、エステルも臨戦態勢を取っている。

リタが何を企んでいるかの知れないが、この危機を脱せるならやれるだけやってみるしかない。

 

 

「はめたよ。この後どうするの?」

 

「指輪の赤い部分をゴーレムに向けて撃ってみて」

 

「撃つって――」

 

 

発射ボタンもないのにどうやって?

などと訊ねるより先に、指輪へ空気が流れ込むような感覚が押し寄せてきた。

肌に触れるわずかな違和感、肥大していくエネルギーに微かな怯えが生じた時、赤い宝石から小さな光弾が飛び出し、目の前のゴーレムの胴に直撃!

その硬い胸板が木っ端微塵に――ならなかった。

 

 

「見掛け倒しかよ!……て、あ? ゴーレムの動きが止まった」

 

「その指輪『ソーサラーリング』で大気中から吸収したエアルを対象にぶつけ、気絶させたのよ。

見たトコ問題なく使用できるみたいね」

 

「そうみたい。撃つ前にぬるま湯みたいな感覚はあったけど」

 

「感覚って、その状態でもエアルを感知したって言うの?」

 

「よくわからねえが、話は後だ。このまま一気に畳み掛けるぞ!

桜、残りのヤツにも、ソレ頼むわ」

 

「うん。わかった!」

 

 

ユーリに応えて、残りの2体にもソーサラーリングの光弾を放ち、その動きを奪う。

リタの反応が気掛かりだが、まずは目前の敵を片付けなければ、話にならない。

並居るゴーレムたちを片っ端から袋叩きにしていく。戦いは一方的にコチラの勝利で幕を閉じた。

特に親の敵とばかりにフルボッコにしていたカロルは、ソーサラーリングの能力にご満悦のようだ。

 

 

「指輪の光線一発でダウンするなんて、ソーサラーリングって便利だよね。

まあそんなものなくても、ボクなら1体ぐらい楽勝だったけど」

 

「じゃあ、次来たらガキンチョ一人で死んできてね」

 

「あ、ちょ……っ、ボク一人?! しかも死亡確定?!

パーティ組んでるから、一緒に戦わなくちゃ。

団体行動って大切だよ! 協調性持たなくちゃ!」

 

「あんた一人で逝った方が、一瞬で勝負つくし、静かになるから一石二鳥じゃないの」

 

「それ一瞬で潰されるって意図だよね。とっとと死んで来いって意味だよね。

つか殺意以外なんでもないよね! 酷いよ、リタ!!」

 

「あーもーうっさい! 桜、具合はどうなの、気分悪くない?」

 

「なんともないよ。ソーサラーリングって、魔導器とは少し違うんだね」

 

「桜がつけている指輪、本で見たことがあります。

本物は初めて見ましたが、遺跡などのカギ以外にも相手を牽制するような使い方あるのですね」

 

「バンバン撃ちまくってたよな。桜」

 

「こういうの初めてだったんだから、自分が使っても支障ないか試してみたかっただけよ。

別にハッスルしてたとか、ざまあとか、これなんてスタイリッシュとかウハウハしてないから、決してまったくこれっぽっちも」

 

「はいはい。お前が元気で何よりだ。オレは言うことねーよ」

 

「元気、ね」

 

 

やれやれと息をつくユーリ、反面リタの表情は曇ったままだ。

ソーサラーリングと私の関係を聞きたいが、皆の前で訊ねるわけもいかない。

後でこっそり教えておうと一声かけようとしたら、すぐ傍にいたはずのリタが忽然と消えていた。

 

 

「まさかの神隠し……っ」

 

「だったら、流石のオレもお手上げだったかもな。リタはあっちだよ。

ついでに先生も」

 

「――うわ! すごい! これも魔導器?!」

 

 

ユーリが指差した先から、カロルの歓声が聞こえてきた。

はしゃぐカロルの隣で、リタが釘付けになって固まっている。

彼女が見上げた先には、先のゴーレムの2,3倍あろう巨大な石像が佇んでいた。

 

 

「というより、ここまでくるとロボットよね」

 

「ロボットだ? オレはこんな木偶の坊より、水道魔導器欲しかったんだけどな」

 

「はいそこ触らない! ガキンチョも近くで暴れるな! 次やったら叩き潰す!

これを調べれば、念願の自立術式が完成するかもしれない……って、嘘ぉ、これも魔核なくなってる」

 

 

当てが外れたのか、落胆するリタ。

術式とかはよくわからないが、魔核がないとなれば、この石像も元々は魔導器なのだろうか。

ここで行き止まりのようだけど、途中でフレンや盗賊団と鉢合わせすることはなかった。

別のルートへ向かったのだろうか。例えば私がいた場所とか、隠し通路があるかもしれない。

何気なく辺りを見回していたら、石像の頭の部分、その後ろの渡り廊下で蠢く影をとらえた。

 

 

「ユーリ、あそこ!」

 

「お! ローブ姿のしこたま怪しいヤツ。リタ、お前の友達がいるぞ」

 

「誤解されるような事言わないでよ!

桜、あたしにあんな不審者知らないんだから!」

 

 

何故私に断り入れる必要がある。

気付かれた不審者も隠れるのは無駄だと判断したのか、姿を露にし、私たちを見下して理路整然と忠告してきた。

 

 

「私はアスピオの研究員だ。

この地下遺跡は関係者以外立入禁止となっている。早々立ち去れ!」

 

「あんたが去ね! あたしはアスピオの連中の顔なんて、面倒臭いからいちいち覚えてないけど、アスピオの人間があたしを知らないワケがないでしょ!」

 

「凄い理論展開し始めましたよ。この人」

 

「む、無茶苦茶言うな……」

 

「リタは顔が広いのです」

 

「そう言われると身も蓋もないんだけど。なんか違わない? エステル」

 

 

私たちが呑気に漫才している間に、不審者は石像の裏に何かをはめ込んだ。

するとどうだろう、ピクリとも動かなかった石像が節々から青白い光を放ち、ゆっくりと立ち上がったではないか。

 

 

「う、動いた?!」

 

「あいつ、魔核を……っ! さては石像であたしたちを始末するもりね!

皆、ここは任せたわ! あたしはあのバカはり倒しに行く!」

 

「テメェだけ行かせるかよ!」

 

 

逃げる不審者の後を追うリタをユーリが制止にかかる。

魔核泥棒の疑いが晴れていないし、何より、動き出した石像に一番近いのはリタだ。

石像の巨大な横払いが、射程範囲内にいる小さな少女に迫る!

 

 

「リタ、避けて!」

 

「桜、何を……っ?!」

 

 

咄嗟にリタの前に入って、差し迫る石像の腕目掛けてソーサラーリングを放った。

――果たして、ゴーレム同等の効果はあるのか?!

答えは強い衝撃となって、身体全身へと返ってきた。

 

 

「ぐっ?!」

 

「ああ!」

 

 

一回り3メートル程の豪腕が私をリタ諸共横薙ぎに叩き飛ばした。

身体は後ろに持ってかれ、慣性で頭だけ前に折れて、首がもげそうになる。

まるで胴体だけ吹き飛びそうだ。意識も飛びそうにあったが、全身を駆け巡る激痛が許してくれない。

空中でリタが私を抱きしめ、彼女自らがクッションになってくれたおかげで、地面の衝突ダメージは逃れられた。

 

 

「んぐ……っ!」

 

「リタ?!」

 

 

なんとか彼女の上から降りたものの、痛みが邪魔してそれ以上動けない。

動く石像を前に皆が立ちすくむ中、ユーリが我先にこちらへ駆け寄ろうとした。

 

 

「桜! そこ動くな、今そっちに行く!」

 

「強く打たれただけよ、命に別状はないわ!

この子はあたしが看てるから、あんたたちは石像をなんとかしなさい!」

 

「……っ、わりぃ、そいつを頼む。

ただし、この期に及んで妙なマネしやがったら、そん時ゃ覚悟しとけよ」

 

 

しばらく私を見つめたユーリは厳しい表情で告げると、荒れ狂う戦渦へと駆け出していった。

任されたリタは私の肩を触り、腕をめくり上げて、肌の状態を見てから、ほっと息をつく。

 

 

「ただの打撲ね。両親に感謝しなさいよ、あんた頑丈に出来てるわ。

ったく、巨体相手に、こんなちっぽけなソーサラーリングが通用するはずないじゃない」

 

「……ごめん。リタさんが危ない。でも今の私なら、って……すんごい調子乗ってました。

お陰でリタさん下敷きにしちゃって……。重かったでしょ」

 

「潰れるかと思ったわ」

 

「……減量ですか。そうですか」

 

「じ、冗談よ。決してあんたが重いとかじゃなくて、攻撃受けた分と落下速度を加えればそんなもんだし、あんたのダメージに比べたら大したことないわ。胸が若干ムカつくけど、充分標準体型だろうからダイエットなんてしなくていーの。

戦闘経験のないあんたが、あんな無茶なマネして、下手すれば死んでたかもしれないのよ。庇われたあたしはどんなに……て、言いたいのはそうじゃない、そうじゃなくて、その……! なんて言えば良いのか、――……。あ、ありが……」

 

「蟻が?」

 

「もういい! グミ出すから。ソレ食べて、ここで大人しくしてなさい!」

 

「リタ、それでは間に合いません。わたしが!」

 

 

突如リタの前に割って入ってきたのは、なんとエステルだ。

一体何をしに来たのか、状況と彼女の詠唱が全てを物語っていた。

治癒術――エアルで患部を干渉し、怪我を治す術。この状態でンなもん食らったらどうなるか……!

止める間もなく、彼女の両手が私の体に触れた瞬間、全身の血液が一気に蒸発するような発熱、冷や汗、めまいが襲い掛かる。

 

 

「う、ああ……っ!!」

 

「桜? 治癒術が……どうして?!」

 

「拡散魔導器つけてるのに、エアル酔い?!

エステリーゼ、その力――」

 

「桜?! 桜は無事なのか?!」

 

 

戸惑い焦燥する二人、私の悲鳴が耳に入ったのか、石像と対峙しているユーリの気がこちらに向いてしまう。

私も激痛やらエアル酔いで大変よろしくなく、エステルの拡散魔導器貫通する治癒力に意識が吹き飛ぶかと思ったが、皆が私にかまけて石像全身プレスで全滅したら吹き飛ぶどころの話ではない。

足手まといはもうイヤだ。

 

 

「私は大丈夫!ここでユーリのふつくしい姿を拝んでるから!」

 

「……ふつくしいってお前。オレに見惚れて、ポックリ逝くなよ」

 

 

あらん限りの力を振り絞って手を振って応えると、ユーリは苦笑して、再びカロルと共に石像に立ち向かっていった。

それを見たリタは全身の毛が逆立つくらい怒って、道具袋からグミを取り出し、私の口に突っ込み始めた。

 

 

「あんた、また無理して……っ!

怪我した上にエアルかっ食らって、『大丈夫!』なわけ、――ないじゃない!」

 

「おぶす! ホント、大丈夫だから。エステルのお陰で、痛みが少し引いたみた、い――おぐっ」

 

「代わりに絶不調になってりゃあ、世話ないわ!」

 

「ホーリィリングつへへるし、放って置ひてもなほうんじゃなひ、ぼふっ。

んぐ、んん。……待って、リタさん、どんだけ食わすの?

詰め込みすぎです、口内MAXです、このままではグミで嘔吐か、窒息死の二択です……!」

 

「バカね、あたしがいるんだから、絶対死なせはしないわよ」

 

 

嘔吐か。

ツンと言ってのけると、彼女はユーリたちへ視線を向けた。

巨大像相手に刀に剣は通り難いのか、かなり切迫しているようである。

 

 

「……あいつらだけじゃ、難しいか。

しゃーない、あたしも加勢にいくから、エステリーゼはしばらくこの子を看てて。ただし術は厳禁よ。

桜はここで自分のしたこと反省してなさい」

 

「ダイエットね」

 

「違うわ! いい? あたしは魔導士なの、頼られることあっても、守られる筋合いは無いの。

今度あたしの生シールドなんてアホな行為したら、クジグミで悶絶させるわよ!」

 

「リタ、何を言っているのか、意味不明です」

 

「意訳すると、危ないことすんなって言いたいんだと思う」

 

 

何度も何度も振り返って怒鳴りつけるリタを、私とエステルは呆けたまま見送った。

言っている事はサッパリだったが、彼女の力はハッキリしたものだった。

彼女の詠唱に応え、何もないところから火炎球や水流が発生し、石像に叩き込まれる。

戦況はこちらの優勢に変わり、炎と爆音に紛れながら、「さっさと片付けるわよ!」と言うリタの激がこちらまで聞こえてきた。

 

 

「あれが攻撃魔法。治癒術もあるから、多分あるんだろうなとは思ってたけど」

 

「桜、わたし……わたし」

 

「エステル、何泣きそうな顔してんの?」

 

「わたしの力のせいなのですか?

リタの言うように、桜はエアルを食らうと大丈夫ではなくなるのです?」

 

「ああ、治癒術の事ね。ごめん、エステルのせいじゃないよ。

説明するのをしぶってた私のせいだから」

 

「何故話してくれなかったのです?

ユーリとリタは知っていて、わたしはダメなのですか?」

 

「気付いてたんだ……」

 

「幾度となくユーリを締め上げて聞き出そうと思いましたが、貴方の口から聞きたかったので止めました」

 

「その自制心は尊敬に値するが、その前に脅迫するという概念は捨てろ」

 

「よろしければ、わたしに聞かせてもらえないですか」

 

「話してもいいけど。物凄く胡散臭いよ」

 

「信じます。貴方のことだから。

それに貴方が話すことは貴方が帰ることにも関係している、――そうではないのですか?」

 

 

図星だった。エステルの勘が鋭いのか。

内心動揺しつつ、私は黙って彼女の話に耳を傾けた。

 

 

「ザーフィアス城から、ずっと気になっていたんです。

貴方が帰るという話。難しいみたいな物言いでしたが、場所が遠いとは意味が違うようでした。

いつもユーリと隠し事をしていて……。

このまま桜は、わたしの手の届かないところまで行ってしまうのではないかと不安になって」

 

「ごめんなさい。気分悪かったよね」

 

「いいえ。わたしは待っていただけだから。

貴方と親しくなれば、いずれ貴方の方から話してくれるんじゃないかって。

無我夢中で貴方と仲良くなりくて、力になりたくて、助けたくて、振るった力が逆に貴方を傷つけてしまいました」

 

「それはもういいよ。時間経てば、元に戻るから」

 

「よくありません。お願いです。

わたし、桜と友達でいたい。桜のこと知りたいです」

 

 

エステルは声を震わせながら訴えてきた。

ユーリは黙ってろと言われたが、ここまできて口を閉ざすべきなのだろうか。

戦いの場へ目をやると、石像はダメージを受けて動きが鈍くなり始めている。

そろそ佳境だろう。ユーリが駆けつけてくるまで、果たしてどれだけ時間が残っているだろうか。

私は大きく空気を吸い込み、ぐっと腹をくくった。

 

 

「エステル。私がコレから話すことは事実よ。

時間ないから、手短に話すけど、嘘だーとか鼻で笑ったりしないでね。

多分しなくとも、私が挫折するから」

 

「話してくれるのですね、ありがとうございます。

わたし、鼻で笑いません。真剣に聞きます」

 

「二言は無いわね。

じゃあ、思い切って告白するけど、私、実はこの世界の人間じゃない。異世界から来たの」

 

「宇宙人です?」

 

 

彼女は目を丸くして即答した。

……。そうくるとは思わなかった。

 

 

「う、宇宙人? 住んでる世界が違うから、星も違うだろうし、そうなるのかな?」

 

「うわあ……、嬉しいです。わたし、知らない内に宇宙人とお友達になれました。

やはり、宇宙人は肺呼吸とエラ呼吸を使い分けるのでしょうか。

離れていてもテレパシーで意思疎通を図ったり、指先から光線なんかも――はっ!

桜が宇宙人だったら、フレンと結婚はどうなるのです?!」

 

「できるかあああ!!

いや、生物学的に可能だけど、いつから私がフレンさんと婚約することになってんだ!

私は常に肺呼吸だし、電波飛ばせないし、指先からレーザー発射も出来ん!

ノーマル平凡絶賛標準値更新中の女子高生だっての!」

 

「そうなのですか……」

 

「なんでガッカリするんだ」

 

「あ、でも、フレンとの障害は何も無いのですね」

 

「本人の意志という難攻不落の鉄壁がある」

 

「フレンは優しくて誠実で、良い人ですよ」

 

「そのフレンさんの意思は何処へ行った。

そーでなくても、皆と違って私はエアルに弱いし、何より自分の世界に帰らないといけないの」

 

「やはり帰ってしまうのですね」

 

 

私の話を聞いて喜ぶなんて予想外の反応を見せていたエステルは、私の今後を聞いて項垂れた。

やっと友達ができたのに、期限付きとなれば、落ち込んで当然かもしれない。

 

 

「私がこんなこと言っても信用ないかもしれないけど。

離れ離れになっても、友達だから。

この旅で新しい出会いがあるかもしれないじゃない、ね?」

 

「今生の別れみたいなこと言わないで下さい。

わたしは挫けません」

 

「は?」

 

 

ぐあば!と顔を上げてたエステル嬢は力強い表情で、意図の読めない私に熱弁をふるった。

 

 

「お友達に境界線はありません! 要は気持ちの問題なのです!……と本で読みました。

とどのつまり、桜がこの世界から離れたくないようにすればいいのです。

わたしが桜を惹きつけてみせます!」

 

「話が見えないよ」

 

「桜がこの世界を好きになれば、帰りたくなくなりますよね。

もちろん、エアルの問題も放っておけません。

一緒に頑張りましょう」

 

「いや、そーじゃなくてね。

私には帰る場所も、戻るべき生活もあるから、何言われても無理」

 

「――桜、生きてるかーっ!」

 

 

エステルがヤバイ方向にヤル気を出してると、皆が戻ってきた。

ドンパチしていた遺跡内も今では静まり返っており、暴れまくっていた石像は膝を折って停止している。

どうやら皆の勝利で幕を下ろしたようだが、激戦だったのだろう。

各々ボロボロで、エステルが片っ端から治癒に取り掛かる中、ユーリは真っ先に私の元までやってきて、顔色を窺ってきた。

 

 

「なんとか生きてるようだな。身体、平気か? 痛みはないか?」

 

「もうなんともないよ。私より、ユーリの方が酷い。

早くエステルに治してもらいなよ」

 

「これくらい、どーってことねーよ」

 

「やせ我慢しない。エステル、ユーリの傷もお願い」

 

「はい! 任せて下さい」

 

 

笑顔で頷いたエステルは、いそいそとユーリに術を施す。

彼女の張り切り様を見たカロルはこの短時間に何があったのか、興味深く尋ねた。

 

 

「なんだか、エステル嬉しそうだね。桜といい事でもあったの?」

 

「はい。桜が宇宙人でした」

 

「え?」

 

「なので、もっとテルカ・リュミレースを好きになってもらう事にしたんです」

 

「え、エステル、とりあえず、頭大丈夫?」

 

 

決意を固めるエステル。カロルは電波な人とご対面したように、奇異の目で眺めて退いた。

傍目でみていたユーリとリタもなんとなく事態を飲み込めたのか、私へと刺さるような視線を向ける。

 

 

「お前、エステルと何があった?」

 

「あんた、エステルになんて説明したの?」

 

「二人して睨まないでよ。

私は異世界から来てエアルに弱いって話しただけで、彼女の脳内錬金術まで手を加えたわけじゃない。

なんで私がエイリアンになって、テルカ・リュミレース愛好家にならなきゃならんのかサッパリだよ!」

 

「なるほど、またお姫様が一人暴走してるわけな。

この世界を好きになる、ね。桜の身の上も平和な世界も知らずに、無茶なこと言いやがるぜ」

 

「……その手もありね」

 

「リタさん?」

 

「なんでもないわ。それより、魔核泥棒を追いかけないといけないんじゃない。

まだ遺跡の中にいればいいんだけど、外出て行かれちゃ厄介だわ」

 

「ラピードに追わせてある。ここまできて逃がしゃしねーよ」

 

 

不敵に笑うユーリの言うとおり、不審者こと魔核泥棒は来た道を引き返したところにいた。

丁度、ラピードに掴まれローブの裾を引っ張って悪戦苦闘しているところを発見。

やっとの思いでラピードを引き剥がし、さあ逃げようとしたところで、リタの火球がいく手に被弾し、ユーリの刀の切っ先が頬を掠めた。

 

 

「あたしに成りすまして魔核泥棒なんて、いい度胸してるわ。

それなりの体罰は覚悟してるんでしょうね。――してなくても、殺るけど」

 

「死刑は下町の魔核を取り返してからだ。――それまでは私刑な」

 

「ひ、ひいい! やめてくれ……っ! ……し、下町の魔核なんて、俺は知らねえ!

仲間がやったんだ!」

 

 

殺意の剣幕でにじり寄る二人に恐れをなした魔核泥棒は、腰を抜かして、ベラベラと喋り始めた。

 

 

「俺らは頼まれたから、やっただけだ! 魔核を持ってくれば、報酬をやるって……!」

 

「報酬? 依頼人は誰だ?」

 

「トリム港にいるってだけで、詳しいことは知らねぇよ。

顔に傷のある、隻眼の大男だ!」

 

「そいつが魔核を集めてるってことかよ。場所はトリム港か」

 

「どこにあるの?」

 

「アスピオから西に行ったところにあるよ」

 

 

私の問いに答えたのは、ユーリではなくカロル。

ただ場所を聞いただけなのに、彼は何故か得意気だ。

 

 

「トリム港なら、行ったことがあるんだ。

魔核泥棒たちの魔核引渡し場所になっているなら、黒幕の親玉だってそこにいる。

絶対行ってみるべきだよ」

 

「どっちにしたって、他にアテがねーからな。

アスピオに来たからには、桜のことを調べてやりてーんだけど」

 

「そういえば、桜はリタに用事があったんだっけ。

まだ済んでなかったんだね」

 

 

カロルにそう言われて、私は返事を飲み込んだ。彼には何も説明しないままだった。

いつまで私たちについてくるつもりなのか知れないし、そうホイホイ喋っていい話ではないだろう。

 

 

「――私は後でいいよ。

リタさんがよければ、アスピオに残って、帰る方法探してみたいんだけど」

 

「お前を置いて行けねえだろ。

何処に行くにしたって、ずっと一緒だ」

 

「ふーん。魔核が見つかるまで、あんたは桜を引きずり回すんだ」

 

 

と、突っ込んだのは、リタ。

ユーリは煽りに乗らず、これを冷静に返した。

 

 

「こいつは帝国に狙われてる。四六時中出入口に騎士がはっているような街に置いてけない。

それとも、何だ。アスピオでも有名な魔導士様がなんとかしてくれるのか?」

 

「なんとかしようじゃないの」

 

「……マジか?」

 

「帝国に目を付けられてるなら、管理下にあるアスピオに残るのはまずいわ。

だったら、あたしがこの子ついてって、少しずつ徹底的に調べていけば、帰る糸口だって見つけられるはずよ」

 

「リタさん、ついてきてくれるの?!」

 

「だ、だから、そう言ってるじゃない。

こいつらなんかにあんた任せてらんないし、あんた自身もいろいろ危険でほっとけないでしょ。

けど、勘違いしないでよ、一番の理由はあんたの身体なんだから!」

 

「か、身体って……っ。

リタと桜ってやっぱりボクの知らない世界の住人だったんだね」

 

「同性愛の上に肉欲のみか。ますますもって、桜の傍にはおけねぇな」

 

「違うよ。カロル、ユーリ。

リタさんは私の体質を言っているのであって、決して偏った性癖をアピールしてんじゃないからね。

てか、私まで百合な世界に巻き込むんじゃねーわよ、カロル」

 

「桜、精神的な愛も必要だと思うのです」

 

「エステル。なんでそこで大きな誤解をするの?

もしかして、ボケなの? 深読みなの? 会話が未来に飛んでるの?」

 

「かなり心が病んでいるのですね。安心して下さい。

フレンがきっと真実の愛を教えてくれます。でなければ、わたしが!」

 

「でなければ、とかない」

 

「桜の愛の行方はおいといてさ。この人どうする?」

 

 

カロルが目を傾けた先には、いつの間にか柱に縛り付けられた魔核泥棒の姿があった。

 

 

「必要な情報は聞き出したし、ここに放置しとくか」

 

「あ、それ、いいわ。あたし、賛成」

 

「いいのか、それ」

 

「いいのよ。このアホより、桜はどうするの?

ユーリと一緒にトリム港に行くのもいいけど」

 

「フレンさんはアスピオにも、ここにもいなかったよね」

 

 

ハルルの結界魔導器を直す為にアスピオに向かい、盗賊団を討伐する為にシャイコス遺跡に赴いたらしいが、彼の姿は何処にもなかった。

彼の為にやっとの思いで城を出て、あちこち飛び回ったエステルの表情は重い。

 

 

「フレンは無事なのでしょうか」

 

「元気にしてんじゃない。

少なくとも、あたしに会いに来た時はしつこいくらい無駄にエネルギーあったけど。

あたしが協力要請断っても、他の魔導士が引き受けただろうから、今頃ハルルの魔導器直しに行ってるかもね」

 

「ハルルの結界魔導器なら、ボクたちが直したよ」

 

「はあ? 素人が、どうやって?」

 

「そりゃあ、ババ~んといっきにエステ――」

 

「素人も舐めたもんじゃないぜ」

 

 

カロルがここぞとばかりに説明しようとしたところで、ユーリが横から口を開いた。

ユーリがこういうことをするのは、何かしら隠し事がある時だ。

不思議そうに彼の得意気な横顔を見つめていると、こっちに向かって軽くウインクしてきた。

 

 

「オレたちも頑張ったもんな、桜」

 

「う、うん」

 

「……。ますますひっかかるわ。念のために見に行った方が良さそうね」

 

「勝手にしてくれ。エステルもハルルに行くつもりなんだろ」

 

「はい。フレンを追わなくてはいけません」

 

「んじゃ、オレたちも行くか。桜もフレンに断っとかなきゃなんねーしな」

 

「そだね。リタさんの話聞くかぎり、恐らく一波乱ありそうだけど……」

 

「え? なんで? 皆行っちゃうの? 悠長にしてたら、泥棒逃げちゃうよ」

 

 

私たちがハルル行きで一致する中、カロルだけまごついた。

彼の動揺っぷりに、ユーリは眉を潜める。

 

 

「アスピオから西なら、どの道ハルルは通り道だ。

少し立ち寄るくらい、どうってことねーだろ」

 

「で、でもぉ……」

 

「ははーん。もしや、好きな子がトリム港の出航寸前の船に乗って、カロルが飛び乗ってくるのを今か今かと待ってるとか」

 

「ははは……そんな健気な子ならどんなにいいか。

船に乗って待ってるくらいなら、飛び乗ろうとしたところを殴り倒す子なんだよね……」

 

「どんなバイオレンス少女なんだ……」

 

「カロルにも事情があるのですね。

寂しいですが、ここでお別れです」

 

「もー! ボクも行くよ! 行くってばー!」

 

「満場一致だな。ハルルでフレンに会って、そっからトリム港ってことで」

 

 

ユーリが確認すると、皆が頷いた。

各々目的が違うものの、果たして上手くまとまって行けるだろうか。

不安が過る私を他所に、リタはユーリへひとつの疑問を投げ掛けた。

 

 

「あたしの同行を許すって事は、泥棒の疑いは晴れたわけ?」

 

「お前は泥棒より、研究の方が似合ってそうだからな」

 

「何よ、それ。答えになってないわ」

 

「ユーリは素直じゃないんです」

 

「変なヤツ」

 

 

まっすぐな答えを返さないユーリにエステルは苦笑し、リタは呆れた。

モルディオの泥棒騒ぎは一件落着したようだ。

ほっと胸を撫で下ろしたのもつかの間、ユーリが「ただし」と付け加えた。

 

 

「桜と二人きりになる時は、くれぐれも背後には気をつけろよ。

下心出した瞬間、真っ二つってのもあるからな」

 

「あんた、本っっ当ーに歪んでるわ。

ご心配なくとも、常にファイアボールをスタンバっとくから。

あんたも精々墨にならないよう注意することね」

 

「オレは常日頃身の回りには注意してるぜ」

 

「あの子に危機管理も教えてないあんたが何言っても信用できないわ」

 

「言ってくれるじゃねーか」

 

「あんたもね」

 

 

不気味な笑い声を合唱する二人から、相変わらずの殺気しか感じません。

エステルはこの世界を気に入ってくれさえすればいいみたいだが、混沌とした仲間たちに囲まれた私は早くもホームシックです。

まだフレンと一対一ならマシだっただろうかなんて、世迷言まで脳裏に浮かぶ。

この面子でハルルに向かい、フレンと再会して、帰る旨を伝える。

 

……

 

……

 

……どうしよう、未来が見えない。

 

 

 

 

 

 

 

■続く■




どうしよう、文章がまとまらない。

作成まで紆余曲折ありましたが、後半は夜のテンションでどうにかしました。
なんとかリタ加入まで完了。
石像(ゴライアース)戦は、主人公とリタとエステル中心で、戦闘シーンは省きました。
戦闘シーン下手の横好きなんですが、ギャグ入れようと思ったら、色々と無理があったので断念です。
9話UPしといてなんですが、ユーリとリタのコンビはわりと好きです。
というか、TOVではかなり好きです。
けれども、夢小説ってのと、出会ったばかりってのがありまして、険悪な感じにしてしまいました。今後面白くしていきたいです。
次回はハルル再び。
早くフレンと再会するシーンでシャウトしたい。
ではまた。


瑛慈 翔
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