幼馴染はもう幼馴染じゃない。   作:ただの片栗粉

1 / 23
いつも通りだけど何かが違う

 朝の通学路。澄んだ空気が肌を撫でる中、俺――宮近薫は、いつも通りの時間に家を出た。

 

 途中、見慣れた背中を見つける。長い黒髪が朝日に照らされ、風になびいていた。すらりとした立ち姿。誰もが振り返るような雰囲気を纏っている。

 

「おはよう、莉々華」

 

 俺が声をかけると、その背中の主、一条莉々華が勢いよく振り返った。

 

「おはよう! 薫!」

 

 相変わらずの元気な声。そして、そのまま駆け寄ってきて、俺の肩を軽く叩く。

 

「ちょっと聞いてよ! 今朝、うちの会社の新人がさ、契約書の数字打ち間違えててさー、危うく大損するところだったんだから!」

 

「……朝っぱらから社長業かよ。てか、そんな話を高校生がするなよ」

 

「えー? 今更?」

 

 莉々華は頬を膨らませながら、歩調を合わせる。学校では才女として一目置かれる存在だけど、こうやって話してると、ただの元気な幼なじみにしか見えない。

 

「で? 結局どうしたんだよ、そのミスは」

 

「気づいたのが早かったから、取引先に連絡して修正したよ。もう、新人くんたちにはしっかり教育しなきゃ!」

 

「……本当に高校生の会話じゃないな」

 

「ふふん♪ ま、それが莉々華の“日常”だからね」

 

 莉々華は得意げに胸を張る。

 

 彼女は若くして企業を立ち上げ、成功を収めた才女だ。でも、周囲の人間は彼女のこういう性格のせいで、その凄さをいまいち実感できていない。

 

 もちろん、俺もその一人だった。

 

「そういや、今日は迎えに来なかったんだな」

 

「たまには一人で歩こうかと思って」

 

「へぇ、珍しいな。何かあったのか?」

 

「別に。ただ、気分。」

 

 莉々華はそう言って前を向いた。横顔が少しだけ、何かを考えているように見えた。

 

 俺と莉々華は昔からずっと一緒だった。学校でも家でも、いつも隣にいるのが当たり前だった。

 

 だからこそ、俺は彼女のほんの小さな変化にも気づく。

 

「最近、ちょっと変じゃないか?」

 

「何が?」

 

「いや、なんとなく……お前、前より静かになったっていうか。何か考え事でもしてる?」

 

「……そんなことないよ」

 

 莉々華は少しだけ視線をそらした。その仕草が、俺の胸に妙な引っかかりを残す。

 

 いつも通りのはずなのに、何かが違う。

 

 言葉にできない違和感が、心の奥底にじわじわと広がっていく。

 

 でも、それが何なのか、俺はまだ気づいていなかった。

 

 ◇◇◇

 

 学校に着くと、俺たちはいつものように靴を履き替え、廊下を並んで歩いた。

 

「おはよー、一条、宮近!」

 

 クラスメイトの何人かが莉々華と俺に声をかける。

 

「おはよう!」

 

 莉々華は明るく手を振る。そんな様子を見て、俺は少しホッとした。

 

 さっきまでの違和感も気のせいかもしれない。

 

 でも、教室に入った瞬間、俺はまた別の違和感を覚えた。

 

 莉々華が、自分の席につく前に一瞬だけためらったのだ。

 

「……ん?」

 

 小さな仕草だったけど、俺はそれを見逃さなかった。

 

「どうした?」

 

「え? あ、ううん、なんでもないよ」

 

 莉々華はすぐに笑顔を作って席に着く。

 

 でも、その笑顔が、いつもの笑顔と少し違う気がした。

 

 なんだろう、この感じ。

 

 俺の中の違和感が、また少しだけ大きくなった気がした。

 

◇◇◇

 

 一日の授業が終わる頃には、朝感じた違和感はすっかり薄れていた。

 

 莉々華は相変わらず授業中に仕事のメッセージを確認して先生に注意されたり、昼休みに俺の弁当を覗き込んできたり、放課後には「今日の予定は?」と軽く訊いてきたり。いつも通りの莉々華だった。

 

 けれど、俺の中にはまだ小さな棘が刺さったままだった。

 

 それは、些細な仕草や視線の変化。ほんの一瞬、彼女が考え込むような表情をする瞬間。それらが、いつもの莉々華と“少しだけ違う”と感じさせる。

 

「薫、帰ろっか!」

 

 放課後、莉々華が俺の肩を軽く叩いた。

 

「ん、あぁ」

 

 俺たちは並んで昇降口へ向かう。窓の外は夕焼けに染まり、校舎の影が長く伸びていた。

 

「今日さ、久しぶりにコンビニ寄ってかない?」

 

「お、珍しいな。いつも「仕事が〜」とかで急いで帰るのに」

 

「たまにはね。久々にアイスでも食べたい気分」

 

「……何かあったのか?」

 

「もー、何でもないってば」

 

 莉々華は苦笑しながら、俺の腕を軽く小突く。

 

「ただ、今日はちょっと……薫とゆっくり話したい気分」

 

 その言葉に、俺の心臓が小さく跳ねた。

 

 けれど、莉々華は何でもないように笑って、先を歩いていく。

 

 俺はその背中を見つめながら、また一つ、小さな違和感が心の中に積もっていくのを感じていた。




既に数話は書いたのですが、ドが付くほど攻めて行くのでよろしくお願いします
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。