昼休み、俺は屋上でため息をついた。
「はぁ……」
「ため息ついてどうしたの?」
隣にいた奏が、不思議そうに俺を見る。
「いや……なんかさ、今日の莉々華、冷たくてさ?」
「冷たい?」
「うん。今朝も挨拶したのに、そっけなくてさ……なんかしたかな、俺」
「うーん……」
奏は腕を組んで少し考え込む。
「昨日、しゃちょーに何か言ったとか?」
「いや、普通だったと思う。むしろ、昨日の放課後は……」
そう言いかけて、俺は口をつぐむ。
昨日の放課後、俺は奏と莉々華の誕生日プレゼントを選んでいた。
まさかそれが原因……?
(いや、でも俺、莉々華に何か誤解されるようなことしたか?)
「……もしかして、昨日のこと?」
奏が俺をじっと見つめる。
「え?」
「だって、昨日は奏と一緒にいたじゃん。しゃちょー、それを見てたとか」
「——えっ!?」
俺は思わず声を上げた。
(まさか、そんなことで……!?)
「いや、でも、俺たちただの買い物だし!」
「そうだけど、しゃちょーからしたら……ね?」
奏が意味深に微笑む。
俺は頭を抱えた。
(じゃあ、莉々華……昨日の俺と音乃瀬さんのこと、気にしてたってことか?)
「……やべぇ、なんか誤解されてるかも」
「ちゃんと説明したほうがいいんじゃない?」
奏がクスクス笑いながら言う。
俺は軽く頭をかきながら、大きく息を吐いた。
(やっぱ、何かしら言った方がいいよな……)
俺は莉々華にどう話そうか考えながら、昼休みが終わるまでずっと悩んでいた。
放課後、俺はできるだけ自然を装って莉々華に声をかけた。
「なあ、莉々華」
でも——
「何?」
そっけない。
いつもなら「秘書見習い君」とか茶化してくるくせに、今日は呼び方すら普通だ。
(マジで怒ってる……)
奏の言った通り、昨日のことが原因ならちゃんと説明しないとまずい。
「昨日の放課後さ」
そう切り出すと、莉々華が一瞬ピクリと肩を揺らした。でも、すぐに何でもないような顔をして「何が?」と返してくる。
(やっぱり気にしてるよな、これ)
莉々華がここまで露骨に態度に出すのは珍しい。今までもちょっとした拗ね方は見たことがあるけど、ここまで分かりやすく不機嫌なのは初めてかもしれない。
「いや、その……奏と買い物行ってたの、実は——」
最後まで言いかけたところで——
「別に気にしてないし」
莉々華がピシャリと遮った。
(絶対気にしてるやつ!)
そっぽを向く莉々華の耳がほんのり赤いのを見て、俺は内心苦笑いした。
(こいつ、わかりやすいんだよな……)
でも、ここで俺が強引に説明しようとすると、逆に拗れそうな気がする。
(こういう時、どうしたらいいんだ?)
奏に相談したときは「ちゃんと説明した方がいいんじゃない?」って言われたけど……実際に莉々華の前に立つと、どう切り出せばいいか分からなくなる。
(このまま誤解されたままでも……いや、それはダメか)
莉々華の誕生日のためにプレゼントを選んでたのに、そのせいで機嫌を損ねさせるなんて本末転倒だ。
俺は小さく息を吸い込んで、もう一度口を開いた。
「まあ、気にしてないならいいんだけどさ」
少し間を置いてから、わざと軽く言う。
「でも、あんまり機嫌悪そうだと気まずいんだけど...」
莉々華は「は?」と睨んできた。
「誰のせいで機嫌悪くなったと思ってるの?」
「知らないけど?」
「……」
ジト目で見られた。でも、少しだけいつもの莉々華が戻ってきた気がする。
(うん、たぶん、ちゃんと誤解を解くタイミングはある……はず)
俺は内心でそう思いながら、莉々華の機嫌をどう直そうか考えるのだった。
その日は結局、最後まで莉々華の機嫌を直せずに終わった。
放課後、少しでもフォローしようとしたけど、莉々華は「仕事があるから」とさっさと帰ってしまったし、メッセージを送ろうにも、何て送ればいいのか分からず、俺はただスマホを握りしめたままため息をついた。
(……マジでどうすりゃいいんだよ)
そう思いながら歩いていると、不意にポケットの中でスマホが震えた。
——奏からのメッセージだった。
『どう? しゃちょーの機嫌、直った?』
(……なんでお前がそんなに楽しそうなんだよ)
そう思いながら、俺はため息混じりに返信を打った。
『いや、ダメだった。むしろ悪化したかも』
送信して数秒も経たないうちに、すぐ返信が来た。
『そっかー。まあ、しゃちょーって割と頑固だもんね』
『それは知ってるけどさ』
『じゃあ、いっそ誕生日当日までそのままにしとく?』
『……それは流石にマズいだろ』
俺は額を押さえた。
誕生日にちゃんとプレゼントを渡して、喜ばせようとしてたのに、その前の時点で険悪なままだったら、何の意味もない。
(てか、そもそも誕生日プレゼントを買いに行ったせいで機嫌悪くなったって、めちゃくちゃ本末転倒じゃないか?)
『だよねー。じゃあ、どうするの?』
(どうする、か……)
正直、いつもの莉々華だったら、少し茶化してやればすぐに元通りになる。けど、今回ばかりはそうもいかない気がする。
(これは……ちゃんと話すしかないか)
俺はスマホを握り直し、次のメッセージを打った。
『明日、ちゃんと話す。誤解されたままじゃ困るし』
すると、奏からすぐにスタンプが送られてきた。拍手してるやつ。
『おー! ついに直接話すんだね。頑張って!』
なんでお前がそんなに楽しそうなんだよ、と思いながらも、俺はスマホをしまい、大きく息を吐いた。
(明日……ちゃんと話そう)
そう決意しながら、俺は家へと足を向けた。