次の日の放課後。
コンビニでアイスを買い、店の前のベンチに腰を下ろす。
莉々華はチョコ味のアイスバーを、俺はバニラのカップアイスを選んだ。こういうところでも、いつもと変わらない。
「んー、おいしい!」
莉々華は嬉しそうにアイスを頬張る。
「そんなに美味いか?」
「うん、こうやってのんびり食べるの、久しぶりかも」
「まあ、お前は毎日忙しそうだしな」
「そうなんだよー。でも、今日はちょっと息抜きしたくてさ」
莉々華は足を軽く揺らしながら、アイスをかじる。けれど、その笑顔がどこか儚げに見えるのは、気のせいだろうか。
「……最近、何かあったのか?」
「え?」
「なんか、お前、時々ぼーっとしてるし、少し元気ない気がする」
「そんなことないよ!」
莉々華は慌てたように笑う。
「仕事で忙しいだけ! それに、こうやって薫と一緒にいる時間は楽しいもん」
「……そうか」
そう言われると、それ以上は追及できなくなる。
けれど、俺の胸にある違和感は、まだ消えなかった。
莉々華は本当に「いつも通り」なのか?
「ねえ、薫」
アイスを食べ終えた莉々華が、ふと俺の方を向いた。
「もしさ、莉々華が……宇宙人だったらどうする?」
「……は?」
思わずスプーンを持つ手が止まる。なんだその突拍子もない質問は。
「いや、だってさ、ほら。もし莉々華が地球に来た宇宙人で、密かに人間社会に溶け込んでるんだとしたら、どう思う?」
「いやいやいや。お前、さっきまで普通にチョコアイス食ってたじゃん。宇宙人がそんなにチョコ好きなわけ?」
「宇宙のどこかに、チョコレート文明ってあるかもしれないよ?」
「どんな文明だよ。絶対、惑星ごと甘ったるい匂いするだろ」
「ふふっ、なんかそれ面白そう!」
莉々華は手を叩いて笑う。なんだかさっきまでの儚げな雰囲気はどこへやら、すっかり楽しそうだ。
「じゃあさ、もし本当に莉々華が宇宙人だったら、薫はどうする?」
「うーん……そうだな。まずは証拠を見せてもらわないとな」
「証拠?」
「例えば、変な超能力が使えるとか、言葉が急に逆再生になるとか?」
「なるほど……それなら、こんなのはどう?」
そう言うと、莉々華はわざとらしく目を閉じ、両手を胸の前で組む。そして——
「アブラカタブラ、ヒラメキメキメキ〜!」
「ダサっ」
俺は思わず吹き出した。
「なにそれ、どこの魔法少女だよ」
「えー、今の呪文で私の正体を知ることができるはずなんだけどな〜」
「全然わからないわ、むしろ怪しさが増したぞ」
「えへへ、それなら成功かな?」
莉々華はニコッと笑って、俺を小突く。なんだか本当に宇宙から来た変な生き物みたいだ。
「まあ、もしお前が本当に宇宙人だったとしても、俺は別に気にしないけどな」
「え、そうなの?」
「だって、お前はお前だろ。チョコアイス食って、変なこと言って、すぐ笑う宇宙人なら、それはそれで面白いじゃん」
「そっか……じゃあ、もし薫が宇宙人だったら、莉々華はどうするかなぁ……」
「お前はどうするんだよ?」
「うーん……そしたら、薫の母星まで一緒に行ってみたい!」
「おいおい、俺の母星に行ったら、地球に戻れないかもしれないぞ?」
「それならそれで、向こうで新しい会社でも作るよ!」
「どこでも社長やる気かよ……」
「もちろん! 宇宙進出って、なんかカッコよくない?」
「いやもう、発想が壮大すぎるわ」
二人で笑い合うと、どこかすっきりした気分になった。
莉々華はやっぱり、こうやってふざけてる方が似合う。
でも、その楽しそうな笑顔の奥に、ほんの少しだけ何かを隠している気がするのは……俺の考えすぎ、なのか?
「薫と話してたら薫の家に行きたくなった!」
莉々華が突然そんなことを言い出した。
「は?」
俺は思わず聞き返す。
「いやいや、どういう流れでそうなるんだよ?」
「だって、なんか今日は楽しいし、このまま帰るのもったいないじゃん!」
「いや、それと俺の家は関係なくない?」
「あるある! ほら、薫の部屋って、きっと秘密がいっぱいありそうだし!」
「お前、俺のこと何だと思ってんの?」
「ふふっ、わからないから気になるんじゃん?」
莉々華はイタズラっぽく笑う。何かを企んでいる顔だ。
「……お前、俺の部屋見ても何も面白くないぞ? ただの男子高校生の部屋だし」
「でも、莉々華、薫の部屋に行ったことないもん」
「そりゃそうだろ。普通、女子が気軽に男の部屋に来るか?」
「うーん……でも幼なじみだし?」
「いや、俺たち幼なじみじゃねーよ!」
「ほぼ幼なじみでしょ! 小学生の頃から一緒にいるんだから!」
「“ほぼ”ってなんだよ、“ほぼ”って!」
「細かいことは気にしないの!」
莉々華は勝手に話を進めながら、ニコニコと俺の顔を覗き込んでくる。
「だーめ?」
「……そんな顔してもダメなもんはダメ」
「むぅー……じゃあ、今度はお土産持っていくから!」
「何、その“家に行く権”を買収しようとする感じ」
「だって、薫の家に行ってみたいんだもん!」
「そんなに俺の部屋が気になるのかよ……」
「気になる!」
莉々華は自信満々に答える。
「じゃあ、薫の秘密とか探してもいい?」
「おいおい、何を暴こうとしてんだよ」
「例えば……好きな人の名前が書かれたメモとか?」
「そんなもん、ねーよ!」
「うーん、じゃあベッドの下に何か隠してるとか?」
「定番ネタすぎるだろ!......てか、隠してねぇし!」
「……ふふっ、なんか怪しい」
「勝手に疑うな!」
莉々華は俺の慌てぶりを楽しむように笑っている。
この調子だと、こいつ、本気で家までついてきそうだ。
仕方ない——
「……まあ、いつかならいいけど」
「ほんと!?」
「ただし、“勝手に漁らない”って約束できるならな」
「えぇ〜! つまんなーい!」
「当たり前だろ!」
そう言うと、莉々華はちょっと不満そうに頬を膨らませたけど、すぐにまた笑顔に戻った。
「じゃあ、約束ね!」
俺の腕を軽くつかんで、小指を絡めてくる。
「……はいはい」
なんか、めちゃくちゃペースを乱されてる気がするんだが……
でもまあ、こうやって莉々華に振り回されるのも、悪くない。