昼休みが終わり、午後の体育の時間。
「よし、今日は二人組でペアを作れー!」
体育教師の掛け声に、自然と俺は隣の莉々華と目を合わせた。
「……組む?」
「組む!」
莉々華は当然のように頷く。というか、俺たちはいつもこうだ。行動が自然とシンクロする。
今日の種目はバスケットボールの1on1。軽く攻守を交代しながら、スキルを磨く練習らしい。
「薫、手加減なしだからね」
「いや、お前運動得意だろ。俺が本気出したら勝てないぞ?」
「それはやってみないと分かんないじゃん!」
莉々華はボールを受け取ると、自信満々の笑みを浮かべた。こういう時の彼女は、社長モードではなく、普通の高校生の顔をしている。
(楽しそうだな……)
俺はボールをドリブルしながら、ふとそんなことを思った。
けれど、ゲームが始まると、莉々華は意外と鋭い動きを見せる。
「っ、速っ!」
「ふふん、どう? 莉々華の実力!」
華麗なフェイントで俺を抜き去り、あっさりとシュートを決める。
「……強くない?」
「えへへ、ちょっとは練習してるしね」
誇らしげに胸を張る莉々華。なんか悔しい。
俺は次のプレーでわざとスピードを落とし、簡単にシュートを決めさせてやった。
すると——
「ちょっと待った!!」
莉々華がボールを両手で抱え、俺をじっと睨みつける。
「……なに?」
「今、手を抜いたでしょ!」
「いやいや、そんなこと——」
「ウソ! だってさっきの動き、さっきまでの薫より遅かったもん!」
……さすが、鋭い。
俺は肩をすくめ、「いや、お前が喜ぶ方がいいかなって」と、軽く流すように言った。
——その瞬間。
莉々華がぴたりと動きを止めた。
「え?」
顔が少し赤くなってる。え、なんで?
「……そ、そーいうこと、さらっと言うのズルくない?」
「別にズルくはないけど?」
「ズルい!」
莉々華は頬を膨らませ、むすっとする。でもその様子が可愛すぎて、俺はつい笑ってしまった。
周りを見渡すと、クラスの連中がニヤニヤしながら俺たちを見ている。
「……お前ら、またイチャついてんな?」
「いや、違うし!」
「違わない!」
莉々華が即座に否定する。が、クラスの視線は冷やかしのままだ。
(莉々華視点)
昼休みが終わり、午後の体育の時間。
「よし、今日は二人組でペアを作れー!」
体育教師の声が響くと、自然と莉々華は薫の方を見た。
「……組む?」
「組む!」
薫と目が合い、お互いに言葉を交わす。こういう時、莉々華たちは当たり前のようにペアを組むのだ。まるで息をするように。
(……こういうの、なんかいいよね)
そんなことを考えながら、体育の先生の説明を聞く。
今日の種目はバスケットボールの1on1。交互に攻守を入れ替えながらプレーする練習らしい。
「薫、手加減なしだからね」
「いや、お前運動得意だろ。俺が本気出したら勝てないぞ?」
「それはやってみないと分かんないじゃん!」
負けず嫌いの血が騒ぐ。
薫は運動神経がいいけど、莉々華もそこそこ自信がある。これは本気でやるしかない!
——そして、ゲーム開始。
莉々華はすぐにフェイントをかけ、素早く薫を抜き去る。
「っ、速っ!」
彼の驚いた声を聞きながら、勢いよくシュートを決める。
「ふふん、どう? 莉々華の実力!」
自信満々に言うと、薫は思ったより素直に「……強くない?」と驚いてくれた。
その反応が嬉しくて、ちょっと得意げに胸を張る。
(やっぱり、薫に褒められると嬉しいな……)
そう思っていたのも束の間。
次のプレーで、薫の動きがなんか遅い。
(……え?)
莉々華はすぐに違和感に気づいた。
確かにボールは奪えた。でも、さっきまでの薫より明らかに遅いし、シュートも簡単に決めさせてくれた。
「ちょっと待った!!」
思わず試合を止める。
「……なに?」
「今、手を抜いたでしょ!」
「いやいや、そんなこと——」
「ウソ! だってさっきの動き、さっきまでの薫より遅かったもん!」
薫は肩をすくめ、「いや、お前が喜ぶ方がいいかなって」と、軽く流すように言った。
——その瞬間。
(え……?)
莉々華の思考が止まった。
(い、今、何て……?)
顔が一気に熱くなる。
「……そ、そーいうこと、さらっと言うのズルくない?」
「別にズルくはないけど?」
「ズルい!」
自分でも意味が分からないまま、思わずムッとしてしまう。
薫はそんな莉々華の反応を見て、面白そうに笑っている。
——ずるい。ずるいずるいずるい!
こうやって不意打ちみたいにドキドキさせてくるの、反則だと思う!
すると、クラスの視線が集まっていることに気づいた。
「……お前ら、またイチャついてんな?」
「いや、違うし!」
「違わない!」
即座に否定するけど、クラスメイトたちはニヤニヤしてる。
(もう! 薫のせいだよ!)
莉々華はぷくっと頬を膨らませ、薫を睨みつけた。
でも、薫はただクスクス笑っているだけだった。
(くっ……! 今日は負けた……!)
負けず嫌いの莉々華にとって、この日の試合は色んな意味で完敗だった——。
(薫視点)
放課後。
いつも通り莉々華と一緒に帰るはずが、なんだか様子がおかしい。
「ねぇ、秘書見習い君?」
「……またその呼び方かよ」
体育の授業が終わってから、莉々華の機嫌が微妙に悪い。いや、正確にはムスッとしながらも、どこか拗ねたような表情をしている。
「で、なんのご用ですか、お嬢様?」
「さっきのバスケの話!」
「さっきの?」
「薫、絶対わざと手抜いてたでしょ!」
「あー、まあ、そうかも?」
ごまかすつもりもないので、素直に認めると——
「やっぱり!」
莉々華はムッとした顔をした。
「ずるいよ! 莉々華、本気だったのに!」
「別にずるくないだろ? 俺がどうプレーしようが自由だし」
「違う! そういうことじゃなくて!」
「じゃあ、どういうこと?」
「その……」
莉々華は何か言いかけて、少し頬を膨らませた。そして、腕を組んでじっと俺を見つめる。
(……かわいいな)
そう思った瞬間、自分で自分にツッコミを入れた。
(いや、待て。俺は何を考えてるんだ)
なんか最近、莉々華を見てると変にドキドキする。前はこんなことなかったのに。
俺は咳払いをして、話を戻した。
「そんなに悔しいなら、今からもう一回勝負するか?」
「……え?」
「公園に行けばバスケゴールあるし、放課後のリベンジマッチってことで」
そう言うと、莉々華は驚いた顔をした後——
「する!!」
パァッと表情を輝かせた。
「絶対手加減しないでね!」
「はいはい、分かってるって」
こうして俺たちは、帰り道にある公園へ向かうことになった。
……が、その途中で、莉々華はふと俺の顔を覗き込んできた。
「ねぇ、薫ってさ」
「ん?」
「なんで莉々華の考えてること、いっつも分かるの?」
——ドキッ。
(……え?)
一瞬、心臓が跳ねた。
俺は自然に誤魔化そうとして、「え、分かってるとは限らないけど?」と肩をすくめる。
でも、莉々華はじっと俺の目を見つめたまま、真剣な顔をしていた。
「でも、当たってることが多いんだもん」
「……それは、まあ」
俺が言葉を濁していると、莉々華は突然ニヤッと笑った。
「もしかして……エスパー?」
「んなわけあるか」
「じゃあ……」
莉々華はそこで何かを考え込むように、少しだけ視線を落とした。
「……え?」
そして、唐突に立ち止まると、俺をジッと見つめたままこう言った。
「薫って、莉々華のこと好きだったりする?」
「っ……!」
心臓が一瞬止まりかけた。
こっちの思考が追いつく前に、莉々華は「あははっ、冗談だけどねー」と笑いながら先を歩いていく。
「……冗談かよ」
「え、なに? もしかして動揺した?」
「するわけねぇだろ」
「怪しいなぁ〜」
振り返ってニヤニヤしてくる莉々華に、俺は適当に肩をすくめた。
「そっちこそ、俺が手加減してたの気づいてたんだろ?」
「え? まあ……ちょっとは?」
「じゃあ、俺のこと分かるってことじゃん」
「うっ……!」
莉々華が固まる。
「ほらほら、そういうことならお互い様なわけで」
「む、むぅ〜!」
「じゃあ、公園着いたら本気出すか」
「ぜ、絶対に負けないんだから!」
莉々華はプイッとそっぽを向いて先を歩き出す。
……けど、俺には分かってる。
さっきの「冗談だけどね」の言葉の奥に、ほんの少しの本気が混ざっていたことを。
……まあ、俺も人のこと言えないけど。