幼馴染はもう幼馴染じゃない。   作:ただの片栗粉

5 / 23
幼馴染の攻防戦

昼休みが終わり、午後の体育の時間。

 

「よし、今日は二人組でペアを作れー!」

 

 体育教師の掛け声に、自然と俺は隣の莉々華と目を合わせた。

 

「……組む?」

 

「組む!」

 

 莉々華は当然のように頷く。というか、俺たちはいつもこうだ。行動が自然とシンクロする。

 

 今日の種目はバスケットボールの1on1。軽く攻守を交代しながら、スキルを磨く練習らしい。

 

「薫、手加減なしだからね」

 

「いや、お前運動得意だろ。俺が本気出したら勝てないぞ?」

 

「それはやってみないと分かんないじゃん!」

 

 莉々華はボールを受け取ると、自信満々の笑みを浮かべた。こういう時の彼女は、社長モードではなく、普通の高校生の顔をしている。

 

 (楽しそうだな……)

 

 俺はボールをドリブルしながら、ふとそんなことを思った。

 

 けれど、ゲームが始まると、莉々華は意外と鋭い動きを見せる。

 

「っ、速っ!」

 

「ふふん、どう? 莉々華の実力!」

 

 華麗なフェイントで俺を抜き去り、あっさりとシュートを決める。

 

 「……強くない?」

 

「えへへ、ちょっとは練習してるしね」

 

 誇らしげに胸を張る莉々華。なんか悔しい。

 

 俺は次のプレーでわざとスピードを落とし、簡単にシュートを決めさせてやった。

 

 すると——

 

「ちょっと待った!!」

 

 莉々華がボールを両手で抱え、俺をじっと睨みつける。

 

「……なに?」

 

「今、手を抜いたでしょ!」

 

「いやいや、そんなこと——」

 

「ウソ! だってさっきの動き、さっきまでの薫より遅かったもん!」

 

 ……さすが、鋭い。

 

 俺は肩をすくめ、「いや、お前が喜ぶ方がいいかなって」と、軽く流すように言った。

 

 ——その瞬間。

 

 莉々華がぴたりと動きを止めた。

 

 「え?」

 

 顔が少し赤くなってる。え、なんで?

 

「……そ、そーいうこと、さらっと言うのズルくない?」

 

「別にズルくはないけど?」

 

「ズルい!」

 

 莉々華は頬を膨らませ、むすっとする。でもその様子が可愛すぎて、俺はつい笑ってしまった。

 

 周りを見渡すと、クラスの連中がニヤニヤしながら俺たちを見ている。

 

「……お前ら、またイチャついてんな?」

 

「いや、違うし!」

 

「違わない!」

 

 莉々華が即座に否定する。が、クラスの視線は冷やかしのままだ。

 


(莉々華視点)

 

 昼休みが終わり、午後の体育の時間。

 

「よし、今日は二人組でペアを作れー!」

 

 体育教師の声が響くと、自然と莉々華は薫の方を見た。

 

「……組む?」

 

「組む!」

 

 薫と目が合い、お互いに言葉を交わす。こういう時、莉々華たちは当たり前のようにペアを組むのだ。まるで息をするように。

 

(……こういうの、なんかいいよね)

 

 そんなことを考えながら、体育の先生の説明を聞く。

 

 今日の種目はバスケットボールの1on1。交互に攻守を入れ替えながらプレーする練習らしい。

 

「薫、手加減なしだからね」

 

「いや、お前運動得意だろ。俺が本気出したら勝てないぞ?」

 

「それはやってみないと分かんないじゃん!」

 

 負けず嫌いの血が騒ぐ。

 

 薫は運動神経がいいけど、莉々華もそこそこ自信がある。これは本気でやるしかない!

 

 ——そして、ゲーム開始。

 

 莉々華はすぐにフェイントをかけ、素早く薫を抜き去る。

 

「っ、速っ!」

 

 彼の驚いた声を聞きながら、勢いよくシュートを決める。

 

「ふふん、どう? 莉々華の実力!」

 

 自信満々に言うと、薫は思ったより素直に「……強くない?」と驚いてくれた。

 

 その反応が嬉しくて、ちょっと得意げに胸を張る。

 

(やっぱり、薫に褒められると嬉しいな……)

 

 そう思っていたのも束の間。

 

 次のプレーで、薫の動きがなんか遅い。

 

(……え?)

 

 莉々華はすぐに違和感に気づいた。

 

 確かにボールは奪えた。でも、さっきまでの薫より明らかに遅いし、シュートも簡単に決めさせてくれた。

 

「ちょっと待った!!」

 

 思わず試合を止める。

 

「……なに?」

 

「今、手を抜いたでしょ!」

 

「いやいや、そんなこと——」

 

「ウソ! だってさっきの動き、さっきまでの薫より遅かったもん!」

 

 薫は肩をすくめ、「いや、お前が喜ぶ方がいいかなって」と、軽く流すように言った。

 

 ——その瞬間。

 

(え……?)

 

 莉々華の思考が止まった。

 

 (い、今、何て……?)

 

 顔が一気に熱くなる。

 

「……そ、そーいうこと、さらっと言うのズルくない?」

 

「別にズルくはないけど?」

 

「ズルい!」

 

 自分でも意味が分からないまま、思わずムッとしてしまう。

 

 薫はそんな莉々華の反応を見て、面白そうに笑っている。

 

 ——ずるい。ずるいずるいずるい!

 

 こうやって不意打ちみたいにドキドキさせてくるの、反則だと思う!

 

 すると、クラスの視線が集まっていることに気づいた。

 

「……お前ら、またイチャついてんな?」

 

「いや、違うし!」

 

「違わない!」

 

 即座に否定するけど、クラスメイトたちはニヤニヤしてる。

 

(もう! 薫のせいだよ!)

 

 莉々華はぷくっと頬を膨らませ、薫を睨みつけた。

 

 でも、薫はただクスクス笑っているだけだった。

 

(くっ……! 今日は負けた……!)

 

 負けず嫌いの莉々華にとって、この日の試合は色んな意味で完敗だった——。

 


(薫視点)

 

 放課後。

 

 いつも通り莉々華と一緒に帰るはずが、なんだか様子がおかしい。

 

「ねぇ、秘書見習い君?」

 

「……またその呼び方かよ」

 

 体育の授業が終わってから、莉々華の機嫌が微妙に悪い。いや、正確にはムスッとしながらも、どこか拗ねたような表情をしている。

 

「で、なんのご用ですか、お嬢様?」

 

「さっきのバスケの話!」

 

「さっきの?」

 

「薫、絶対わざと手抜いてたでしょ!」

 

「あー、まあ、そうかも?」

 

 ごまかすつもりもないので、素直に認めると——

 

「やっぱり!」

 

 莉々華はムッとした顔をした。

 

「ずるいよ! 莉々華、本気だったのに!」

 

「別にずるくないだろ? 俺がどうプレーしようが自由だし」

 

「違う! そういうことじゃなくて!」

 

「じゃあ、どういうこと?」

 

「その……」

 

 莉々華は何か言いかけて、少し頬を膨らませた。そして、腕を組んでじっと俺を見つめる。

 

 (……かわいいな)

 

 そう思った瞬間、自分で自分にツッコミを入れた。

 

(いや、待て。俺は何を考えてるんだ)

 

 なんか最近、莉々華を見てると変にドキドキする。前はこんなことなかったのに。

 

 俺は咳払いをして、話を戻した。

 

「そんなに悔しいなら、今からもう一回勝負するか?」

 

「……え?」

 

「公園に行けばバスケゴールあるし、放課後のリベンジマッチってことで」

 

 そう言うと、莉々華は驚いた顔をした後——

 

「する!!」

 

 パァッと表情を輝かせた。

 

「絶対手加減しないでね!」

 

「はいはい、分かってるって」

 

 こうして俺たちは、帰り道にある公園へ向かうことになった。

 

 ……が、その途中で、莉々華はふと俺の顔を覗き込んできた。

 

「ねぇ、薫ってさ」

 

「ん?」

 

「なんで莉々華の考えてること、いっつも分かるの?」

 

 ——ドキッ。

 

(……え?)

 

 一瞬、心臓が跳ねた。

 

 俺は自然に誤魔化そうとして、「え、分かってるとは限らないけど?」と肩をすくめる。

 

 でも、莉々華はじっと俺の目を見つめたまま、真剣な顔をしていた。

 

「でも、当たってることが多いんだもん」

 

「……それは、まあ」

 

 俺が言葉を濁していると、莉々華は突然ニヤッと笑った。

 

「もしかして……エスパー?」

 

「んなわけあるか」

 

「じゃあ……」

 

 莉々華はそこで何かを考え込むように、少しだけ視線を落とした。

 

「……え?」

 

 そして、唐突に立ち止まると、俺をジッと見つめたままこう言った。

 

「薫って、莉々華のこと好きだったりする?」

 

「っ……!」

 

 心臓が一瞬止まりかけた。

 

 こっちの思考が追いつく前に、莉々華は「あははっ、冗談だけどねー」と笑いながら先を歩いていく。

 

「……冗談かよ」

 

「え、なに? もしかして動揺した?」

 

「するわけねぇだろ」

 

「怪しいなぁ〜」

 

 振り返ってニヤニヤしてくる莉々華に、俺は適当に肩をすくめた。

 

「そっちこそ、俺が手加減してたの気づいてたんだろ?」

 

「え? まあ……ちょっとは?」

 

「じゃあ、俺のこと分かるってことじゃん」

 

「うっ……!」

 

 莉々華が固まる。

 

「ほらほら、そういうことならお互い様なわけで」

 

「む、むぅ〜!」

 

「じゃあ、公園着いたら本気出すか」

 

「ぜ、絶対に負けないんだから!」

 

 莉々華はプイッとそっぽを向いて先を歩き出す。

 

 ……けど、俺には分かってる。

 

 さっきの「冗談だけどね」の言葉の奥に、ほんの少しの本気が混ざっていたことを。

 

 ……まあ、俺も人のこと言えないけど。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。