カタコユリ荘 春の選抜カレー大会   作:西風 そら

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寸胴いっぱいのスライム

   

 

「失敗その一。不要な大人数を集めてしまう事」

「大人数……」

 コミュ症の果々子には縁遠い失敗だ。

 

「多分エントリーの切っ掛けは一人の男子学生……今回は群野(むらの)って子ね……の、『俺なら究極のカレーが作れるぜ』的な自慢だったと思う。

 それに藤田さんみたいに能天気な子が便乗して、じゃあ()()()も誘って参加しましょになって。あの娘(こ)が来るなら俺も、あの男(ひと)がいるなら私も、せっかく大学に入ったんだからつるみたい、何々、なにやるの? この子も入れてやって~、って感じで人が集まる。ああいう集団は、真ん中がいれば集まりやすいのよ」

「はい……」

「でも末端になると、カレーを作る事ぐらいしか伝わっていなくて、おそらくコンテストである事や、他の調理者がいて譲り合わねばならない事も知らない。

 けれど実働……買い物をするのも野菜を切るのもフライパンを握るのも、そういう端っこの人間なの」

 

「真ん中のムラノさんは何をするんですか?」

「う――ん、現場監督のつもりではあるんだろうけれど」

「はい……」

「そこで群野が本当に『烏合の衆を指揮して思った通りの料理を作れる能力』があれば問題ないんだけれど、まあ確実に無い。

 だってそんな難しい事が出来る優秀な人間なら、最初から一人で参加するよ。たかが八人前のカレーを他人に指示を飛ばして作る方が面倒くさいもの」

「そういえばそうですね」

 

 果々子は先輩に食べて貰いたいという動機でエントリーしたのだが、自分好みに拘ったカレーを、知らない大勢と作るなんてとても無理だと思った。

 

「じゃあなんで大人数……特に女子を誘って参加するかって、ウンチクはあっても()()()()()()()()()()()からよ。要するに料理スキルのある労働奴隷が欲しい。

 本当は事前に集まって作業行程の共有くらいはしておかなきゃならないのに、ぶっつけ本番で丸投げする。

 なのに『俺様のセオリーが常識』の謎プライドはあって、所々で思い出したようにダメ出ししてウンチク垂れる。実働している衆は『あれあれ? 究極のカレー作れるんじゃなかったの?』となって行く」

 

「ココナは見て来たように言うんな」

 隣のポニテ先輩がクスリと笑った。

 ココナさんっていうのか、ビタミンカステラ先輩。ココナッツもビタミン豊富だよね。

 

「パターンよ、パターン。当たらずとも遠からずでしょ」

「はいはい」

 

「ねぇ遠山さん、貴女は今回、どんな算段で材料を買って来た?」

「えっと、玉葱が三人で一個、人参が四人で一本、手羽元が一人一本、ぐらいな計算で買い物しました」

 最後にレシートを提出せねばならないので、なるたけピッタリの材料を買った。

 

「自分もだいたいそんな感じっス」

 二回生で初エントリーというドラゴンフライ先輩も、横から口を挟む。

「だからあの人らの買い物を見てビックリしたっス。野菜だけで大きいレジ袋二つに山盛りで。それを調理台の上にドカドカ広げられてさ。こっちも使ってんのに」

 ドラゴンフライ先輩はまさにその現場に遭遇して厨房から押し出される被害に遭ったらしく。

「ああ、これが話に聞いていた糊カレーグループか、って納得して、慌てて作りかけの材料を抱えて逃げたっス」

 

 その時点でもう糊カレー確定なの?

 

「失敗その二。アホみたいに材料を買って来る」

 ビタミンカステラ先輩は、指を二本立てた。

 

「応募要項にある『八人前』すら共有していないのよ。買い出しに行かされた子は、『何か大勢で食べるカレーイベント? じゃあ沢山だね』ぐらいな感覚で買って来る。開始直後のやる気に溢れた人間が手当たり次第に刻み始めてボールに幾つものカット野菜が積み上がる。

 その時点でやっと群野が、『八人前なのにそんなに刻んでどうすんの』とか言い出して皆を愕然とさせる。一時が万事そんな調子の後出しの責任転嫁で、どんどんメンバーに不信が溜まって行く」

 

「ちょっとココナ、それもみんな想像でしょ」

 と横からポニテ先輩。が、否定はしないでニコニコしている。

 

「そうとでも推理しないと、八人前であの野菜の量は不可思議でしょ、ねえ遠山さん」

「はい……」

 藤田麻美子って何でいつもそういう場所に当たり前みたいにまざっているんだろう……

 

 

   ***

 

 

   

 

「うう、哀しい、折角カレー許可が出たのに、そんな産物を食べさせられとるなんて……」

 スポーツ女子みかんが、もったりカレーをもそもそと処理しながらふて腐れた声を上げ、果々子は皿を引き寄せて残りを引き受けてやった。

 

 ビタミンカステラ先輩は続ける。

「で、全部の野菜を詰め込もうとすると大きい鍋になっちゃうよね。そしてその容量のでかい鍋に、誰かがなみなみと水を注いでしまうの」

 料理をやりなれている者なら、野菜がどれだけあろうと、ルウの分量以上の水分は投入しない。増やすだけなら後から幾らでも可能だからだ。

 しかし、たとえ十人中九人がそう思っていても、残りの一人が何故か、本当に、不思議な事に、必ずいつも誰か、()()()()者が混じっているのだ。

 

「失敗その三、水をすりきり一杯入れたがる者がいる」

 

「は、はあ。でもそれならすぐに修正出来るのでは? 汲み出せばいいだけだし」

 

 先輩は「ここが肝心」と人指し指を立てて振った。

「多すぎる水分を掬って減らすような真似をやってごらんなさい。『人がやった事をやりなおす神経質な人』ってレッテルを張られる」

「分かる!」とドラゴンフライ先輩が叫んだ。

 

「ああいう烏合の衆の中で一度修正作業をやってしまうと、その後の責任を全部背負わされる。なのに感謝もされず陰口を叩かれるだけ。だから、たとえ地雷が見えていても誰もやらないの」

「分かる分かる!」ドラゴンフライ先輩は何だか嬉しそうに手を叩いた。

 

「本当はそういう時こそ、リーダーがウンチクを発揮して矢面に立たなきゃならない。でも多分やらない、気が付きもしない。

 だいたいその辺りで利口な人ほど泥船から逃げるネズミのように退(しりぞ)いて行って、どうしようもない人材ばかり残る。

 なんせ無能な働き者の中には、『他人の鍋に勝手に持って来て手を加えるのが親切』だと本気で思っているような危険人物まで混ざっているのよ。おお怖い怖い」

 

「本気で親切のつもりだったのでしょうか……?」

 果々子にはまだ、麻美子の所業が、嫌がらせなのか思い込みの激しい勘違いなのか、判別がつかない。

 

「本気だったみたいよ、夕方しばらくフラフラと、貴女の所在を聞き回っていたもの」

 ポニテ先輩に言われて果々子はゾッとした。

 

「でも、自分の事もロクに出来ないのに、他人を手伝ってあげようとする?」

「手伝ってあげるフリをして、それ以上の労働を押し付けるパターンじゃない? うちのバ先にもいるよ、その手の人間」

「あ、いるいる。どこにでもいるんだねぇ」

 

 ……なるほど……

 そうして『やらかし』ばかりが煮詰まって行くのか。

 

「そういう訳で、ルウが全然足りないシャバシャバカレーになる」

「煮詰めたり、他の調味料で味を整えるとか……」

 果々子はとりあえず言ってみる。

 

「そう、そこでまたパターンなんだけれど、『俺様のカレー男子』は大体が、味よりも、とろみが無い事が許せないのよね。

 のんびり煮詰めようと言っても聞かない、今すぐ思った通りにならないと気が済まない、ブツブツ五月蝿い、他の者はいい加減終わらせて落ち着きたいのに。

 で、失敗その四、面倒くさくなった誰かが、『じゃあ片栗粉入れれば?』と言ってしまう」

 

「ホンット、見て来たように言うね~~」

 ポニテ先輩が毎度の突っ込みを入れる。

「まあ、おかあさんたちが南瓜餅作るから、厨房に沢山あるのよね、片栗粉」

 

「そしてまたまたパターンなんだけれど、その時点で残っているような人間は、片栗粉の特性を知らないのよ。

 あれだけ水分量があると全体に熱が伝わって反応するまでに時間が掛かるのに、投入したら即とろとろになると思っているから、まだ足りないまだ足りないって入れ続けるの」

「はあ……」

 

 そして糊みたいになったカレーを水で薄める、容量が足りなくなるから寸胴に移し変える、また水分投入……

 果々子の黄色い鍋のカレーは、途中で足りないルウの代わりに投入されたらしく。それで『元々はアナタのモノ』と言われても……

 

「ほだされてちょっとでも手伝ったら、後片付けから、全部押し付けられたでしょうね」

 先輩の言葉に、またまたゾッとした。

 

 聞けば、ビタミンカステラ先輩は入学当初入っていた野外料理サークルで、ドラゴンフライ先輩は高校時代のワンゲル部で、散々そんな現場を味わったそうだ。

 

「『料理は見え張りじゃく、食べる人の事を考えて作る』・・その当たり前を忘れちゃうのが、どこへ行っても失敗の大原因なのよね・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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