「お疲れ様、休憩にして」
喫茶ウペペサンケ、バイト中。
やっと客足が落ち着いて休憩を貰えたのは午後の二時過ぎで、へろへろとカウンター椅子に座り込む果々子。
「賄い、ピザトーストでいい?」
「マスターが作るんですか?」
「それくらいなら」
マスターは椅子を降りて動こうとした。
「私がやりますよ、指示して下さい」
果々子は言って、失礼しますとカウンターに入り、マスターの後ろを通って、冷蔵庫を開けてさっさと材料を取り出した。
「……何故場所が分かる?」
「昨日、一番弟子さんたちがやるのを見ていました。これ、ピザソース手作りですか、凄いですね」
「うん……」
「ピーマン一杯乗せていいですか」
「好きにしてくれ」
チンと音がして、オーブンを開けるともわっとチーズの香りが広がった。
マスターのコーヒーと共に熱々のピザトースト(ピーマン山盛り)を頂いて、バイトに来ている事も忘れて幸せをかみしめていると、奥の席にいたグループが騒いだ。
「その匂い反則だよ。こっちにも作ってぇっ!」
じゃあお前らだけだぞと、マスターの指示の元に果々子が作る。しかし新たに入店したお客さんが匂い連鎖で注文し始めて、果々子大忙し。
「パンが切れたから打ち止めだ!」
「パンがあればいいんだな、よし買って来る!」
「コーヒー運びなんか俺らがセルフでやるから、マナスルちゃんピザトーストお願い」
「ひえぇ」
ピザソースが底をついて、やっとピザトーストラッシュもおさまった。果々子は再び椅子にヘタり込む。
「明日もピザトーストは出そうか。一時間早く来て貰ってもいい?」
「それはOKですけれど、あんな見よう見マネ調理でいいんですか」
「はは、あれだけ出来れば心配はないかな」
「あ、食品衛生責任者の講習は受講済みです、一応」
「え、何だって?」
「実家が飲食なので」
「…………」
「う、受けただけで、調理とか出来ませんよ、出来ませんからねっ」
何か言い出しそうなマスターの思惑を先回りして潰したのに、カウンターの端にいた男性客が口を挟んで来た。
「俺、マナスルちゃんのカレー食べてみたいな」
「なんでっ!?」
果々子は全身の血が足元に落っこちた。カレーの話なんか昨日も今日も一言もしていない。
「俺のブログ友達の姪っ子がマナスルちゃんと同じ寮でさ。何か今年の寮のカレーコンテストで伝説を残したみたいじゃん」
えす えぬ えす~~っ!!
伝言ゲームで偉い誤解が生じている。
「ち、違いますから。ヘボい方面で悪目立ちしただけですからっ!」
「でもコンテストにエントリーする自信はあったんだろ?」
「ないですっ、賑やかしで出ただけですっ。先輩がたに思いっきり困った顔をさせてしまいましたっ」
「逆に食べてみたくなるぞ」
何で皆さんそうなるのっ?
「まあまあ、無理強いするのも何だから」
良かった、大人なマスターで。
「でもいつか食べさせてね」
だからあ~~
***
寮の門限のある果々子は閉店までのバイトは無理。夜には、用事を済ませた一番弟子さんたちが来て交代してくれる予定だ。
その少し前の時間に、何と、みかんと瀬戸先輩が現れた。
「ヤッホ! 果々子を奪ったマスターに喧嘩売りに来た!」
開口一番言って、先輩に「こら」と怒られている。
タマ先輩の運転で、タチバナ先輩と四人で温泉ドライヴに行って来たらしい。
そのメンバーで物怖じしないみかん、羨ましい。
「タマが穴場知っててな。マイナーやけどいい温泉やった」
「次は果々子も行こな!」
「先輩がたは?」
「車置きに行ってる」
みかんが油性マジックをキュポンと抜いて、マスターのギプスに有無を言わさず『爆速回復祈願、風輪みかん参上!』と書いている間に、タマ先輩とタチバナ先輩が入って来た。寮以外で会うのが新鮮。
「うちの寮の一回生がお世話になります」
「ええっ、今時の大学生ってそんな感じ? 寮の上級生が保護者みたいに挨拶しに来るの?」
「いいえ、この人だけです」
「ナッツ大袈裟やねん」
「だって遠山さんは大切な、その……放っておけない感じで……」
「……それは、分かるけど」
分からないでくださいっ、マスター!
タチバナ先輩はその上に、「昨日のシュークリーム大変美味うございました」と温泉まんじゅうを差し出した。
おかあさんかっ!?
やっている間に一番弟子さんたちが来て、果々子はお役御免になる。
「じゃあまた明日ね、マナスルちゃん」
タマ先輩が乗せてくれ、五人乗りミニクーパーにギュムっと詰まって、先輩三人「マナスルちゃん・・!」と笑いを堪(こら)えてプルプル震える中、帰った。