「カレー大会ぃ?」
瑞々しい顔の行き交う、新年度の寮の玄関。
今年の新寮生は、一回生だけでなく、二回生、三回生も混じっている。
古ボケた掲示板の前で、数名の女学生がさざめき合う。
「新寮生の歓迎なら、ジンギスカンとか、もっとこう、ゴージャスな物があるでしょうに。カレーって地味ね」
「ま、東側と違って貧乏人の集う寮だし」
「これから住む者が言う?」
「え――、私は建物で選んだんだもん。だってイケてるじゃない、このレトロな木造。ジブリのアニメに出て来そう。こんな所に住めるなんてこの機会逃したら無いじゃん」
「個室で格安だからじゃないの?」
「寮食堂まであるもんね、今時」
「うちは母親が、この寮に入るならって、寮住みを許してくれたの」
「へぇ、なんで?」
「例の都市伝説……」
「ああ……」
食堂の方でざわめきが立った。
「えっ、風輪(ふわ)選手?」
「スプリントの?」
厨房で野菜カゴを抱えた跳ね髪女子が、振り返ってちょっとだけマスクをズラして顔を見せた。
「そうやで、南紀白浜ジェットみかんちゃんや」
「うわ、マジマジマジ!?」
「えっ、なに? 風輪選手がカレー作るの?」
「うっそ!」
「はいはい、密禁止、密禁止~~ とりまストップ。今年のカタコユリ寮生はラッキやで。なんせこのみかんちゃんが直々にカレー作ったるんやさかいな」
「風輪先輩は、玉ねぎの皮を剥くだけでしょうが」
後ろから、みかんと同じくよく日焼けした女子が、タブレットを抱えて現れた。
「失礼やな、玉ねぎの皮剥きって奥深いんよ!」
「分かりましたから、早く野菜を奥へ持って行って下さい。先輩がいると人が集まって大変なんです。
皆さ――ん、新入生歓迎カレー大会は夕方から、入れ換えの二部制で行います。寮のホームページを確認して希望する時間を……」
「ホントに風輪選手の手料理が食べられるの?」という弾んだ声を背中に、みかんは野菜を持って厨房へ入った。
奥の調理台で黙々と肉の下処理をするのは、同学年の途中入寮の女子。
「広告塔役ご苦労様です、みかんさん」
「なんのなんの~~、そっちの進捗はどう? サスマタちゃん」
「もう終わるけど……新入生の前でもそのあだ名で呼ぶんスか? さすがにハズいですよぉ」
「隠しても、どっちみち果々子がポロッと呼んでしまうやろ。逃れられへん思ぅとき」
「はあ……遠山さんには感謝してるからいいんだけどさ」
彼女は三年前、生協前の大立回りで、サスマタを持ち出して来てその場のオチを付けた張本人だ。次に会った時、果々子に「サスマタの人!」と覚えられていたのが運の尽き。
争っていた二人とは無関係だったが、何を思う所があったのか、三日後に荷物を抱えてカタコユリ荘の玄関をくぐった。
彼女だけではなく、あの時の騒ぎを目撃して中途入寮を希望した一回生が少なからずいた。動機はそれぞれだが、今の寮の運営の中心は彼女たちだ。