漫画で歴史に残る女   作:充椎十四

12 / 15
ここから現代編という名前のクロスオーバー編
スプラッター要素が増えます


愛と正義を描く女

 いま璃刃(あきば)壊左(かいざ)の手にあるのは一冊のぶ厚い本――同人誌だ。発行者は大川学園中等部『日本史愛好会』。

 本のタイトルは「鎮西時代・1」とある。およそ六百年前から四百年前までの二百年ほどの時代について書いているようだ。

 

 壊左は「ふむ」と一つ頷いて表紙をめくる。

 

 遊び紙の後にタイトルと日本史愛好会の字だけ書かれたページ、それを更にめくると目次。

 目次によれば一つめの作品は「愛と正義のドクタケ忍者隊(リメイク版)」。何処かで聞いたようなタイトルだ――漫画らしい。作者名は権兵衛。

 二つめは「当時の前線におけるトリアージの価値とその基準」。論文だと思われる。作者名はイサク。

 三つめ四つめと次々見ればどれも興味深いタイトルばかり。自費出版のものということもあって値は張ったが、良いものを買ったのかもしれない。――喫茶店の客が「増刷してくれてマジ(ゴッド)」やら「生まれ変わりレベル」やらと興奮して話しているのを聞いてどんなものかと興味が湧き、ネットに詳しい病田(やまだ)に頼んで通販してもらったのだ。

 

 漫画はさして興味がないため飛ばし、二つめの論文から。

 読み始めた途端、のめり込んだ。激闘の戦場を知る者(バトルジャンキー)の書いた(ソレ)だと一瞬で理解させられたのだ。

 

 壊左は万を壊し百を救ったが、この男は――イサクを名乗る者は億を壊し万を救った(マジでケタちがいな)のだろう。どうしようもないほどに、あまりにも圧倒的な症例数(けいけんち)の差! 気が遠くなるほどの(ひと)を壊し、数多(そのいちぶ)を治したからこそ書けるはずのこれを、このイサクという人はどうして書けるのか。表面上は平和(ハッピー)なこの世界で、日本で、何故。

 まさか「これが大川学園(オーカワ)だ」ということか?

 

 大川学園をただの私立校と侮るなかれ、なんせ帝都八忍の覇世川(はせがわ)の母校である。小中はありふれた私立だが、エスカレーター不可の高専に進めばがらりと雰囲気が変わる。

 大川高専は忍術学園式と呼ばれる教育が六百余年続く、忍者のための教育機関。むろん忍者としての技術だけでなくありとあらゆる知識技術の選択肢が用意されており、卒業できればどんな進路も思いのままとなる。影に潜む忍者として暮らすもよし、表の仕事で大成するもよし。

 

 この論文からしてイサクも高専に進むに違いない。

 

 論文を読み切ったところで本を閉じ、長嘆息して眉間を揉む。十ページ読むだけでかなりのエネルギーを持っていかれた。

 今日はこのあたりで読むのをやめよう。

 

 そんなとき、ドアベルが控えめに鳴った。

 

「ただいま、壊じい」

「おお忍者(しのは)坊、おかえりなさいませ」

 

 授業のコマ数が少ない水曜日、寄り道せず帰ってきた忍者(しのは)から視線を上にずらせば時計は二時前を指している。

 

「清掃の人もう帰ったの」

「ええ。プロらしくテキパキと済まされましたので昼前には帰られましたよ」

 

 この店――喫茶店「でいびす」は壊左一人で回している。清掃が行き届かないところや見落としがあるだろうと半年に一度の頻度で清掃業者を入れており、ちょうど今日がその日であった。

 ランドセルを背中から下ろしながら自分のもとへ寄ってくる忍者の頬が赤いのを見て、壊左は目を柔和に細める。

 

「外は寒かったでしょう。コーヒーをお淹れ致しましょうね」

「うん」

 

 喫茶店をするだけはあり、壊左はコーヒーを淹れるのが好きだ。ドリップもするしサイフォンもするし、もちろんマシンも使う。

 成長期かつ舌が若い忍者にはブラックよりミルク入りの方が良い……というわけで、淹れるのはカフェ・ラテだ。カウンター奥のコーヒーマシンにマグを置く。――デロ◯ギやらカ◯タやら色々とマシンを試し、一番気に入ったのはイタリアのイリ◯社のもの。フォームミルクを優しく注いだあとラテアートとして描くのは四つ葉のクローバー。

 忍者の毎日が幸多いものでありますように、と。

 

 壊左が振り返れば、忍者は本を開いていた。さっき壊左のエネルギーを吸い尽くさんとしたあの同人誌(ほん)をである。

 開いているページを見るに、忍者は漫画作品を読んでいるようだ。

 

「面白うございますか?」

「うん」

 

 忍者の返事はしっかりしたものだが、漫画に意識を取られていることは明らか。微笑ましい気持ちでカフェ・ラテをテーブルに置いた壊左は――紙面に踊る絵柄を視界に入れるやカッと目を見開いた。

 

 でいびすの立地は銀座。日本国内の情報や物や人材や……ありとあらゆるものが集まる東京にある。国立博物館のみならず、企業の私設美術館、著名なデザイナーのアトリエ、明治から大正にかけて建てられた歴史的建造物など、芸術や歴史などの文化に触れる場や機会があふれている。

 故に、壊左は、この絵柄に見覚えがあった。

 

 五年ほど前、この目で見たのだ。ある美術館で開催された絵草紙の歴史展に出陳された、大川学園所蔵の重要文化財「あさきゆめみし」初版本――習志野良時による絵草紙の絵柄まさにそのもの。

 ちなみに原稿は国宝である。

 

「もしや……」

 

 大川学園は【……】の乱で消失したとされる「ドクタケ忍者隊」を持っているのでは。絵柄を真似るには見本が必要、また、現存しないとされる「ドクタケ忍者隊」のリメイク版を名乗るからにはリメイク()を知っているものと思われる。

 

 読みたい。読みたくないはずがない。この世で初めて「忍者」を主役として描いた作品だ。しかし大川学園は「ドクタケ忍者隊」の所蔵を明らかにしていない――さて、どうしたものだろう。

 

 壊左の眼前で漫画を楽しむ子どもの年齢は、十一歳。

 中学受験するには一年ある。しかし壊左一人の都合で忍者の進路を決めてしまうのは如何なものか。一人の若者の人生をそんな簡単に決められるわけがない。

 いや、そうだ。逆に考えるんだ――壊左一人の都合で無くせば良いのだ、と。

 

「是非とも読んでみたい(のう)!」

「恩師に紹介状を書きましょう」

 

 忍者以外全員の都合により、忍者の進学先は決まった。




あの独特の言い回しを真似るのは私には難しすぎた――

話は変わりますが結婚しました。四年くらい前にも「結婚するね♡」と割烹を書いたのですが、その数日後に話が流れた(というか流した)ので験担ぎのために黙っていました。
新生活に金がかかりすぎて辛いです。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。