漫画で歴史に残る女   作:充椎十四

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待たせたな、円堂


愛と正義を描く女2

 プリンセスショップで先日の彼――忍者(しのは)くんと偶然の再会を果たし、楽しく推し語りを交わしながら列の進行を待っていた、そんな時だ。

 列の進行方向から一人、その後方に二人。どこぞのVIPでも訪れたのか、熟練のSPと思われる気配を一瞬ピリッと感じた。不自然ではない程度に周囲に視線を走らせるもそれらしい(・・・・・)姿はない。人混みに溶け込むのが上手いようだ。

 

 と。忍者くんが「あ」と声を上げた。

 

先生(センセー)

 

 担任か教科担当でも見つけたのか? ただの教師相手にしては声に親しみがこもっているが……仲が良いのならありうる。忍者くんの視線を辿った先にいたのは、しっかりした体躯の青年二人が護衛についた少女だ。さっきの気配はこの二人だろう。

 しかしこの少女、先生と呼ぶには若すぎるというか、どう見ても忍者くんと同年代。あだ名かな。彼女は自分が呼ばれたことに気付いたのだろう、忍者くんへ振り返ると目を瞬かせる。

 

「忍者くん? 偶然だね」

 

 少女は私にも軽く頭を下げてくれ、気軽な言葉遣いで忍者くんと二三言葉を交わす。そして「これ、良かったら見に来てよ。私の作品はないけど凄い人の凄い作品がたくさんあるから、お友達の方も是非に」と何かのチケットを渡して去っていった。

 私と忍者くんはまだこれでも二度目ましての仲なんだが……そうか、仲が良さそうに見えるのか。

 

「ね、忍者くん。彼女はどなたなのか聞いてもいいかい。護衛みたいな人がいたし、君も彼女のことを先生といっていたけど……」

「っあー、そっすね……。ちょっと周囲に聞こえるとアレなんで、耳貸してもらえます?」

「うん」

 

 腰をかがめて耳を寄せれば、忍者くんはぺらりとチケットを見せ、ひそひそと押さえ気味な声量でこう言った。

 

「さっきの、同じ中学(おなちゅー)で勉強とか色々世話になったんすけど……習志野のヒトなんっす」

 

 チケットにある「習志野派書展」「宗家」の字と忍者くんの言葉に目を見開いた。

 習志野といえばおよそ六百年前から続く家の一つ。日本の文化芸能のパトロンとして名が知られる家だが、血統で続く家ではない。芸術家としての能力を持つ者に跡を継がせながら世間の上澄みに今なお居座る、怪物のような家名だ……たしか今代で五十代目だったか。

 

 でも、そうか、ふむ。「先生」は習志野宗家主催のチケットをホイホイ人に渡せる才能と立場の持ち主で、クラスメイト(しのはくん)相手に勉強を教えたということは面倒見も成績も良い、と。忍者くんってば大人物と(いいツテ)知り合いなんだ(をもってる)なぁ。

 

 とはいえ私と「先生」は袖擦り合う程度の多少の縁、私は既に晩の仕事(・・)を予定していたし、のんびり書を眺めるような暇はない――そんな余裕があるならプリンセスシリーズを無印から観る方が有意義だ。

 が、偶然の再会(・・・・・)は人を変え場所を変え繰り返すものらしい。

 

「『先生』! ええと、忍者くんの友達の! どうしたんだい、こんなところに一人で」

 

 翌日。東京駅の壁際に死んだ目で立ち尽くす「先生」を見つけてしまった。周囲に護衛の姿がない――明らかに迷子だ。彼女は立場からして普段電車を使わないものと思われる。東京駅は蟻地獄か何かのように感じられるだろう。

 

 顔を知っているだけの相手だし無視しても良いのだが……彼女はただの顔見知りではなく(ダチ)たる忍者くんが世話になった相手。見て見ぬふりは仁義に反する。

 「先生」に向かって大げさな身ぶりと態とらしいほどに困惑しきった声をあげながら駆け寄れば、「先生」は目を丸くして私を見て、得心がいった様子で小さく頷いた。

 

「昨日キャラクターストリートにいらした、忍者くんの友達さんですね」

「そうそう、忍者くんの友達でーす」

 

 そうおどけてみせれば緊張が解けたようだ。ふすりと気の抜けた笑い声を漏らす。

 

「昨日は名乗りもせずすいません。習志野と言います」

「輝村極道です。輝く村で道を極めると書いて、キムラキワミと」

「んだら輝村さんって呼ばせてもらいますね」

 

 習志野を名乗ることを許された者か――何らかの分野の第一人者ってことじゃないか。予想以上の大人物だ。昨日のチケットからして書道かな?

 昨晩忍者(にんじゃ)の爺さんが自爆した時に他の荷物ごと焼けちゃったんだよな……もう少しちゃんと読んでおけば良かったか。

 

 これも何かの縁だからと事情を促せばやはり、連れと(はぐ)れて途方に暮れていたのだという。迎えがここに着くのにあと十分はかかると言うので、合流するまで座って待とうよと習志野さんを近くの喫茶店へ誘い通路から見える席に座らせる。

 

「失礼な質問と感じさせたら申し訳ないけれど……どうして迷子になったんです? 昨日は護衛に二人だか三人だかが一緒だったでしょう」

「いえ、今日は別行動だったんです。主にこちらで活動している方が東京案内をしてくれるという話になって、それで」

 

 逸れた、ということらしい。まあ、この人混みならそうなるか。

 

 忍者くんの中学時代の話を――忍者くんと習志野さんは部活動で知り合ったのだという――聞いていれば十分などすぐだった。店に現れた男は昨日キャラクターストリートにはいなかった顔だ。身軽さを重視した鍛え方をしている。

 頭を下げ合い挨拶をして交換した名刺には「黄昏市役所 土木課 年末忍者 諸泉尊奈門」。

 

「忍者……」

 

 名刺に忍者と書いている。だが「年末」忍者という意味が分からないし、勤め先は市役所の地方公務員。なんだこれは。

 男はどんぐり目をまっすぐ私に向けて頷いた。

 

「はい。去年に殿堂入りしましたので、もう大々的に名乗ってしまえと上司が」

「忍者で殿堂入り? ええっとそれは」

「はい。……そうですね、テレビをあまりご覧にならない方ならご存知ないかもしれません。年末にサ◯ケという番組があるんです。そこでオールクリアを数年続けて取りました」

 

 あーなるほどなるほど、分かった。あれか。デカいアスレチックをタイムアタックすることで身体能力を競う番組だ。何度か見た覚えがある。確かにあれをオールクリアできる人なら忍者と呼ばれておかしくない。

 私の思う「忍者」とは別物だが。

 

 習志野さんたちと別れたあと、夢澤(ゆざわ)らにポチポチとメッセージを打ち名刺の写真も送る。

 

『年末忍者なんてものがいるらしい』

 

 殺島(やじま)から早速の返信。昨晩呑み明かしたのに起きていたようだ。……いや、起こしてしまったのかもしれない。すまないことをした。

 

そっちの界隈(ギョーカイ)じゃ有名人っすよ

その諸泉って(やつ)、去年もその前の年もサス◯出てました』

 

 番組の企画から生まれた公認忍者。……世間一般でいう「忍者」とはそういうものなのだろう。

 

「ふーん。まあ、忍者を自称する本物の忍者なんているわけがないしな」

 

 そう独り言ち、コーヒーを飲み干して席を立つ。

 紙コップと一緒に名刺もゴミ箱に流し込んだ。




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