朝起きたらご飯食べて漫画を描いて、昼はご飯食べて漫画を描いて、夕方はご飯食べて風呂入って寝る。――なんていう、運動不足気味なところを除けば健康的な毎日を過ごしているのは、冬休みから漫画作成にリキを入れているから。
次の休みまでに桐壺とそれに続く三帖――帚木、空蝉、夕顔を描き切ろうという無謀な戦いを挑んでいるところなのだ。これまでも暇を見つけては下描きを描き進めてきたけれど、製本まで終わってるのは若紫だけだからね。
「ね〜ね〜ゴンベせんせ〜。この光の君ってひと、作法委員長で得意武器は宝烙火矢の六年生、立花仙蔵先輩に似てませんか〜?」
「分かっちゃったかあ。そうだよ。仙蔵くんは目元が涼し気で雰囲気が華やかな色男だから、つい似せて描いちゃった。おかげで若紫も描き直しだよハハッ」
「確かに! イケメンだもんね〜」
「分かるぅ。なんせ女を泣かせていそうな男ランキング一位だし……学園内サラストランキングでも一位だもんね」
「この光の君、まだ二十歳にもならないうちからあっちの女こっちの女と引っ掛けてるから、うん、似合う!」
「なにその不名誉の極みと何がなにやら分からないランキング」
「忍たまとくノたま全員で投票した結果です!」
「わあ……」
学園の外へバイトに行ったきり丸くんとその手伝いでついて行った乱太郎くん、しんべヱくんを除く一年は組のみんなが「この間あられを作って楽しかったお礼」と称してアシスタントに来てくれたのだけれど、春休みまであと半月と迫っているのにまだ夕顔の冒頭だ。
間に合う気がしない。これまでもかなりの強行軍をしてきたのに。
でも皆との会話がいい感じに気晴らしになって筆がサクサク進み、一時間半ほどでペン入れならぬ筆入れが五枚進んだ。しかし、これに背景と効果線を描き加えて、トーンを貼って文字入れもせねばならない。――間に合うとか間に合わないとか以前に過労死する気がしてきた。
「ゴンベ先生。ここに描かれてる馬、なんだかおかしいです」
「ヒエッなんですって……主にどのあたり?」
「体が大きいのに足が細すぎます。こんな脚だと荷運びも鎧武者を乗せて走ることもできません」
「え、あ……ああー」
そうだ、そうだった。サラブレッドを描いたら駄目なのだ。競走馬として見慣れたサラブレッドはまさに「速く走る」ための馬であって、脚が細すぎるから荷運びに向かないのだ。日本の固有種はもっと脚が太く体高も低い、どっしりした体形をしている。
「上から紙貼って描きなおすかぁ……それにしてもよく気づいてくれたね、団蔵くん。団蔵くんは馬が好きなんだね」
「はにゃ〜? ゴンベ先生知らないの〜?」
「団蔵は馬借の子なんですよ! 馬のことなら何でも知ってるんです!」
「えーっ、知らなかった! そっか馬借なら馬を毎日見てるもんね」
今こそ動物園で読んだ豆知識を披露するときではないか――そう。
「それなら、馬について私が知ってる面白い話を教えてあげよう。海を越えた明の国には汗血馬と呼ばれる馬がい」
「先生汗血馬を見たことあるんですか!?」
「……いると言われていますが、残念ながら明にも血の汗を流す馬は居ません」
「えっ、そんな……!」
「代わりに、明よりももっともっと西の方、天竺を超えて更に西の方に、カバという生き物がいます」
カバは牛と同じくらい大きくなりますが、水辺の生き物だから荷運びはできないし、鎧武者を乗せて走ることもできません、と話を続ける。
「そのカバは血の汗を流すんですよ」
「汗血馬ではなくて……カ
実生活で全く役に立たない豆知識だけど、こういうのを一つ二つなと知っているとなんだか自分の頭が良くなったような気分になれる。
とまあ、そんな話で気分転換しつつ筆を進めること更に三十分くらい。ふと思い出したことがあって、団蔵くんに一つ頼み事をした。春休みに運んでほしい荷物があるのだ。
「もちろん任せてよ!」
「助かるー!」
きり丸くんたちが「ハマグリを掘ってきたから一緒に焼いて食べよう」「あられのお礼です〜!」と大漁の成果を手に走って帰ってくるまで、そんな雑談をしつつどうにか七枚のペン入れを終えた。
――源氏物語は結局春休みまでに四帖描き上げられなくて、桐壺から空蝉までの三帖でダウンした。
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今においては古事記を川の流れるがごとく読める者は稀で、万葉集を読み下せる者はいなくなって久しい。文字や文というものは時の流れとともに読み手を喪っていくものである。これは人々が常に先を求めるが故であり、今我々が話す言葉も文字もいつかは誰も使うことがなくなる。
しかし、「学ばねば読めぬもの」以外の手を使えばどうか。絵巻を詳細にすれば――絵草紙にすれば一目で何を描いたものか分かり、絵だけでは不足するところに文を組み合わせればお互いがお互いを補強してくれるのではないか。
そう考え、幼少のころ学んだ物語を絵草紙にしてみたが、年月とともに記憶は褪せるうえ、手元に資料となるものもない。
そこで、有職故実の大家たる太閤様に、物語の写本の貸出や年中行事その他に関する監修をお願いできないかと考え、不躾ながらこのような手紙を差し上げた。云々。
習志野が京へ送らせた荷物には、摂政を経て関白を何度も経験してきた男――二条
背後にぬるりと下りてきた雑渡昆奈門がボソリと訊ねる。
「お困りごとですか」
「いいや。だが、まさかそう来るかと驚くような手を打ってきた」
習志野のこれは二条の立場を知っていてのあえての人選だろう。彼は北朝と南朝の両方に仕えた男であり、南北に顔が利く。
つまり、二条の下にいれば、どちらが転んでも生き延びられる。
すぐに二条を訪ねなかったのは機を伺っていたためか、それとも別に理由があるのか。黄昏甚兵衛は髭をしごいてフムと鼻を鳴らす。
そしてこの文の内容についてだが……頼まれたからと言ってそう簡単に写本を貸し出すわけもないし、監修としてついてやることもあり得ない。身内が相手でも貸し渋るものを他人になど。
普通ならば。だが。
「二条良基は顔が広く有能だが自尊心と出世欲の塊。他の者に手前の専門、有職故実の監修をさせるなど決して許さんだろう。それを知っていてのこの手紙か」
「あの人なら自分でやりたがるかもしれない」と、身近であればあるほど、京に詳しい者であればあるほど違和感を持たない。
つまり、二条良基が習志野を庇護することを誰も不思議がらないだろうということだ。
「今は畿内のある国人の支援を受けている」の一文をなぞり、黄昏甚兵衛は目を細めた。
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夕顔まで仕上げたいとギリギリまで粘って――どうにもならず失意体前屈で迎えた春休み。帰省する団蔵くんに荷物を頼み、「身内や知り合い相手にこそ相場より多く払え」という母の教えに従って多めに包んだ。忍術学園に来てからこのかた懐を出ていくより入ってくる割合がかなり多く、余裕があるからできる。
いや、言葉を飾るのは止めよう……今の私は小金持ちだ。旅籠だか料亭だかで「そら明るいだろう」なんて言いながら紙幣に火を点けるような成金だ。毎日食べる野菜なんて最寄りのスーパーで買えばいいのに百貨店で買って、味の違いを理解できないままなんとなく食べて終わるタイプの俄大尽だ。
――つまり、私はいま、散財できる。
そろそろ昼食の準備を始めた方が良い頃なのだけれど、窓の外を見れば、井戸の傍で土井先生がおばちゃんたちに何やら詰め寄られている。
あそこに割り込んで水を汲むのは遠慮したい。
「……きり丸くん、ご飯を食べに行かない? 私と二人で」
「え、土井先生はいいんすか?」
「うん、あの状態だからね。井戸も使えないし」
というわけで置き手紙だけ残してきり丸くんとコソコソ市に向かう。
この三年で分かっていたことだけれど市には春キャベツがないしセロリもないしアスパラガスや新ジャガも当然なくて――現代人からすると縛りプレイみたいな野菜環境だ。「これで……何を作れば……!?」と頭を抱えてしまう種類の少なさよ。
キョロキョロ見回したら筍を売っているのを見つけた。筍の刺身いいよね。醤油がないから塩振るしかないけど、間違いなく美味しい。
「ご飯を食べたら筍を買って帰ろうか。うちで茹でて夕飯にしよう」
「いーっすね! あ、ゴンベ先生おれアレが食べたい。筍ご飯」
「筍ご飯、いいねぇ。じゃあお豆腐屋さんにも行かないと」
「豆腐?」
「豆腐もね、一手間加えて混ぜるんだよ」
屋台ですいとんを食べ、一抱えもある筍をきり丸くんに任せて豆腐屋に足を向ける。と。
「豆腐小僧の美味しい豆腐……?」
入荷しました、というノボリが立っている。柱に貼り付けられた紙には、「脳天直撃」「勅撰並み」「衝撃的」「五臓六腑に染み渡る」「食らわんか」という、豆腐の売り文句ではこれまで見たことも聞いたこともない文字も躍っている。
時代の先取りをし過ぎではなかろうか。
「ゴンベ先生、豆腐小僧のってことは間違いなくうまいっすよ! めっちゃラッキー!」
「へー、そんなのがあるの。きり丸くんは物知りだねぇ。じゃあ三丁……いや、四丁買おうか」
一丁は油揚げに、残る三丁を鍋と田楽にして食べれば良い。
だってきり丸くんが太鼓判を押す豆腐なのだ。二日連続で豆腐料理になっても飽きずに食べられるに違いない。
「ええっ、四丁も買うんすかぁ!? おれたち三人ですよ、一人一丁でも多すぎるんじゃ?」
「ふっふっふっ、一つは油で揚げるから問題ないのだよきり丸くん。おあげさんのあるなしで炊き込みご飯や鍋の味が変わることを教えてあげよう……」
そう話しながら豆腐屋に近づいたら――横からすっと現れた美少年が一人。
「その油で揚げる豆腐の話、詳しく聞かせて下さい」
「あっ久々知兵助先輩」
学園の外で学園の知り合いが増えた。
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タソガレドキの面々からの挨拶、あれのお礼、ほんの気持ち、ご機嫌伺い、ということが繰り返された結果――習志野の部屋が物で溢れた。運搬役の諸泉は年若いせいもあって「いいから持っていけ」と強引に押し付けられ、習志野もそれらを断れば諸泉に持ち帰らせることになるからと受け取り……気がつけば部屋の床にはもう一畳ほどの余裕しかない。
あれやこれやと物を贈られる習志野を始めこそ羨んでいたくノたま達だが、どんどん積み上げられていく荷の山にはもはや嫉妬より先に不安が来る。
よく見れば、一番下の物などは上の重みで押し潰されているようだ。上の荷も傾いている。そろそろ崩壊しそうな予感にくノたまの誰もが恐怖した。
昼間に崩れれば誰かが気づくだろうし、習志野も不在。しかし夜間に、寝ている間に崩れれば――下敷きになって圧死してしまうかもしれない。鍛えているくノたまなら多少の重みにも耐えられるけれど、習志野は鍛えておらず歩くのも遅いので簡単に死ぬ。確実にだ。
――学園内での「一般人の死者」初めての例になってしまう、かも。
学園に通うくノたまとして、同じ長屋に暮らす仲間として、荷を処分した方が良いと勧めたその結果。
「そりゃあ処分したいんだけどね、頂き物を捨てたり売ったりするのはくれた人に申し訳ないから……。あ、そうだ。欲しい物があったら譲るよ!」
習志野がそう口にした途端、簪などの装飾品や化粧小物の類がごっそり消えた。なんせ習志野の持つそれらは、くノたまの――まだ収入のない身分では手を出せない価格のものばかりなのだ。勝者から欲しいものを得ていくという熾烈で陰湿な総当たり戦(※学年別)が行われ、幾人かが高笑いし、幾人かが泣きながら地面を殴った。
それでもまだあるあんな物こんな物によって習志野の部屋は狭い。六畳一間で抱えられる物の量を超えている。夕飯の後くノたま長屋に戻るたび繰り返されるこの問答――「いい加減断りなさいよ」「そうしたいけど、断ったら尊奈門くんがまた重たい思いをして持ち帰ることになると考えると……」「それで自分が圧死しても良いって訳?」「それはそう」「隣の部屋で死なれるのはちょっと」。そんな場に山本シナの鶴の一声が放たれた。
「習志野さんはタソガレドキに屋敷を頂いているんでしょう? これからはそこに運び込んでもらいましょう。学園には目録の写しだけ持ってきてもらえばいいわ」
「なるほどその手が!!」
――ということが春休みの前に起きていた。
加藤村の馬借へ依頼し、学園の長屋から大量の荷をタソガレドキの屋敷へ運ぶ。……その知らせを諸泉尊奈門経由で受けていたタソガレドキだからこそ、習志野からの包みを持ったまま途中で別の道に逸れた馬に早々に気づいた。
積み上げられた荷の多さもあり、はじめ盗難を疑った。が、それにしては足取りに迷いがない。馬借が寝入った夜に荷を
押都は監視する者だった。
詰所に音もなく現れた押都は雑渡に一言声を掛けた。雑渡は目だけスゥと押都に向ける。
「組頭」
「……どうだった?」
「は。始め不審がる様子でしたが……次第に貪るようにして読むように。感触は悪くないようです」
「そう。その上機嫌がずっと続くといいんだけどね。ひとまずは安心ということかな」
「はい。あちらには三人残しましたから、何かあればまた報告します」
タソガレドキは武家の習いには詳しいが公家の作法には疎い。今はタソガレドキの領主として采配を振るう黄昏甚兵衛だが、鎌倉殿の混乱で勢力を拡大した新興勢力の一つでしかないのだ。
片膝を立てた
「良い方向に転がってほしいものだよ。――我々にとってね」
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春休みが終わって忍術学園に戻れば、休み前と変わらず六年生がいて、きり丸くんはまだ一年生らしい。
忍術学園って秋入学だったのか。解剖を急がなくても良かったのかも――いや、暑くなってきたら腐るのが早い。寒いうちに実習できて良かったと思おう。
秋入学にしては一年生みんな打ち解けていたし結束も強かったけれど、大人と違って子どもは仲良くなるのが爆速だからだろう。
仲良きことは美しきかな。
歩くのが遅過ぎるからと土井先生に背負われて忍術学園の門をくぐった私が真っ先に連れて行かれたのは学園長室だった。
「加藤村の者から聞いたのじゃが、習志野殿は京に文を送ったとか」
「はい! 送りました!」
「それはまた、どういった理由で……」
学園長先生と山田先生が心配そうな顔をしているのを見て、どうやらかなり心配をかけたらしいと気づいた。私にとっては勝算しかない一手だったからのほほんとしていたのだけれど、公家に手紙を送るなんてのは他人から見ればハラハラ物だったのだろう。
「今のまま『無位無官』で『どこぞの馬の骨』という立場ではいられないからです」
――ドクタケにいた時は身分なんてあると逆に不便だった。尊奈門くんは隠しているつもりだっただろうけれど、尊奈門くんが私のためにあれこれと手を回してくれたことはちゃんと知っている。
ドクタケに仕えていたのではないとはいえ私は敵地に暮らす人間だ。普通に考えれば仲良くなったらヤバい……例えば人質になるとか弱みになるとかなんとか色々あるだろうし、「ヨソの子と付き合っちゃいけません」という扱いだったはず。なのに雑渡さんたちが尊奈門くんとの付き合いを許してくれたのは尊奈門くんがきっと何か言ったのと、私が元々「根無し草の絵師」だったからだと思う。困ったらまたどこかに移ればいいし、親戚や恋人もいない。友達も少ない。突然姿を消しても誰も気にしない。
私が柵のある立場や身分だったらきっと
でも黄昏甚兵衛さんと文通するようになって、相談やら雑談やらをして――黄昏さんから色々貰いまくって――はたと気づいたのだ。
これ、黄昏さんが「怪しげな女に集られている」図になってないか、と。
ただでさえ黄昏さんは
これに気づいてからはもう落ち着かないと言おうか何と言おうか。初めは「すごーい」とか「高そう!」とかキャッキャとはしゃぎながら受け取っていた贈り物の山も、尊奈門くんや雑渡さんからの物以外は怨念がこもっているように思えてきて触れるのが怖くなった。なのにその「触りたくない物」ほどどんどん増えるものだから――部屋の中が悲惨なことになっていくという。
だから身につける類の小物だけでもくノたまの皆が引き取ってくれたのは本当に助かった……古来から「呪い」というのは気の持ちようだし、私と無関係な彼女たちには何ら問題ないだろう。大丈夫大丈夫きっと問題ない。きっとね!
「このところ黄昏さんには色々と良くしていただいていて――本当に良くしていただいているので、黄昏さんと私の仲を誤解している方もいるんじゃないかと思うんですよね」
「城主の側近は誤解しとらんと思うが、まあ……おるじゃろうなぁ」
「そういった人たちを黙らせるには身分が一番効果的でしょうし、官位を貰うことにしました」
「いやいや、そう簡単なことではあるまい。文一つで官位を得られるものかな? 無位無官から官位を得るには銭を積み上げるか長年勤めるかしかないと聞くが」
そう。この時代、売官はわりとありふれているのだが――官位を買うには金がいる。
「そうですね。でも……二条の御方は有職故実の
「……ほお」
「北の治天の君も、将軍からの執奏があったとはいえ、勅撰和歌集の御
勝算があるからあれを送ったのだ。学園長先生の不安が吹き飛ぶようにと殊更に明るい笑顔を向ける。
「大丈夫です、学園長先生。安心して下さい!」
飼い殺しにはなるかもしれないけど、命を取られることはない――はず!
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習志野と案内役の五年生が豆腐料理の話をしながら庵を去る、その足音が渡り廊下の向こうへ消えた後。
「京の都に坐す帝は三種の神器を持たず
「神器は奈良の帝が持っているんでしたな」
「うむ。ゆえに……輝かしき時代をいま再びと、己の手にこそと望む気持ちがより強くあろう」
正直なところ、畿内の者にとっては南朝も北朝も悩みの種だ。京を取ったり取られたり京から逃げたり追い出したりと綱引きしているため、周辺は常に一定の緊張が保たれている。忍術学園が京の近くにあるのもひとえに南北の様子を間近で監視するためである。
近さのおかげで情報は早く、正確だ。二人は二条の屋敷の様子ももちろん知っている。
習志野は目論見通り官位を手に入れるに違いない。
「――いやはや、それにしても困ったのぉ。習志野殿はすっかりタソガレドキに心を寄せておる。彼らならば自分を利用しても良い、と覚悟を決めたようじゃ」
ため息をつき肩を落とす学園長に吊られ、山田も眉をハの字にする。
「一年は組の子どもたちと仲良くしておりますが、やはりタソガレドキには諸泉尊奈門がおりますからな」
「付き合いの長さかのお」
「いえいえ学園長先生。こういうのはどれほど長く付き合いがあるかではなく、付き合いの濃さが物を言うもんでしょう。まだ時間はあるかと。それに――」
山田の頭に、習志野に可愛がられている筆頭の顔が浮かぶ。
「それに?」
「きり丸たちがいますからな、なんとかなるでしょう。一年は組は土壇場を切り抜けるのが上手いですから」
「なるほどの」