強面男が幻想入り   作:疾風迅雷の如く

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今回は6600文字オーバー…短期間でここまで仕上げられるとは思いませんでした。


第44話

黒い帽子に長い青髪が特徴の少女は勇姿と霊夢の弾幕ごっこの様子を覗いていた。

「へえ…面白いことやっているじゃない。」

彼女の名前は比那名居天子。地を操る程度の能力を持つ天人であり、博麗神社に地震を起こさせた張本人である。

 

何故彼女が地震を起こしたのかと言うならば、退屈だったから。この一言に尽きる。

 

彼女は超がつくほどの不良であり、暇であれば他の者の迷惑など知ったことではないと言わんばかりにやりたい放題。しかも親がかなりの親バカであったため誰も叱ることが出来ず我儘に育ってしまった。

 

我儘に育ってしまった彼女や彼女の家を良く思わない天人達は彼女や比那名居一族のことを不良天人と陰口を叩き、彼女は捻くれてしまい本当に不良のような行動を取るようになってしまった。

 

「そんなに面白いならば俺とやってみるか?」

後ろから聞こえた声に対し、天子は舌打ちした。

「(どこの誰だか知らないけど私の後ろに立ってんじゃないわよ!)」

彼女の心境は概ねそんなものであり、腰にある剣を抜き、話しかけてきた人物に斬りかかる。

「なんだその屁っ放り腰は?そんな屁っ放り腰で俺を倒すところがかゆみを与えることすらも出来ないぞ。」

しかしこの人物は指一本でそれを止めてしまった。

 

「あんた…死にたいようね。」

天子は剣を構え、その大男を睨む。その目は完全に座っており、殺人犯のような目つきだ。

「止めておけ。その剣を捨てることになるぞ。」

「それはないわよ。この剣は緋想の剣。気質を集めたり、確実に相手の弱点をついたりできる剣よ。そんな剣をわざわざ捨てると思う?」

「面白くもなんともない剣だな。だから捨てることになる。」

「この剣の恐ろしさを今わからせてやるわ!」

天子は先ほどの振りよりも速く、しかも滑らかに振りその男を斬りかかった。天子は不良ではあるが座学が嫌いなだけで身体能力の高さは天人の中でも優れている。その上的確に弱点を突くことの出来る緋想の剣だ。通常であれば天子の剣の餌食となりその男は死んでいただろう。

 

「ふんっ!」

しかし男はまるでハエを叩くかのように緋想の剣を叩くと天子の手や腕が痺れ、剣を落とした。

「なっ…!?」

 

天子はそれを見て目を見開く。確かに剣の腕前は匠とは言わないがそれでも相当な自信があった。妖夢同様に軽く素早く切るという剣術の形ではあるものの、天子の場合妖夢とは違い天人である。天人は人間よりもはるかに身体能力が高い。勇姿の親族並(勇姿曰くその気になれば勇姿を差し置いて格闘で世界が狙える)と言えば話が早いだろう。天子はその天人の中でも身体能力が高い方なのだ。剣を握る力、即ち握力も相当なものであり、軽く素早く切るスタイルであっても力で押し切るのと同じようなものだ。

 

「だから言っただろう。その剣を捨てることになると。」

男はそう言って剣を持つと剣がボロボロの錆び付いた剣へと変わった。

「馬鹿ね。緋想の剣は天人にしか扱えない剣。つまりあんたのような亡霊に扱えるわけがないのよ。」

「柄を持つと使えないゴミクズになるが柄を離して刃を持つと元に戻る、となれば話は簡単だ。」

男は剣の刃の部分を持ち、驚愕の行動を起こした。

「返してやる!ただし受け取れたらの話だがな。」

男は刃先を天子に向けたまま投げた。確かにこれならば元の状態のままで天子を傷つけることが出来る。

 

「うぐっ!?」

案の定、天子は腹に剣が突き刺さり、腹をくの字に曲げた。

「この程度では傷をつけることも出来ないあたり、腐っても天人だな。」

先ほども記述した通り天人は身体がかなり丈夫に出来ている。故にナイフなどでは傷を負わない。天子もその例に当てはまり、剣が突き刺さったかのように見えたがそれは男が投げた緋想の剣が天子の身体を曲がらせるほどのスピードを持っており、突き刺さったように見えたのだ。

 

実際に天子は血を流していない。

 

「っ…!よくもやってくれたわね!」

天子は怒りに任せ緋想の剣を握る。

 

だが、カラン…という音が天子の耳に響き、天子は気がついた。己の手がまだ痺れて続けていることに。

 

「どうした?いらないのか?あんなに価値があると言っておきながら床に捨てるのか?まあもっとも塵が塵を持ったところで何の意味もないとは思うがな。」

「殺す…!!!」

天子の殺意はこれまでにないほど高まった。

 

「死ねぇぇぇぇ!!!」

天子は痺れていない方の手で拳を作り、殴りかかる。

「この時点で実力差を理解して貰いたいものだ。」

「がっ…!?」

しかし男の拳が天子の腹に突き刺さると天子の口から血が飛び出した。内臓が破裂したのだ。天子は天人であり身体も鋼のように出来ており外からの衝撃で内臓が破裂するということは滅多にない。だがこの男は拳一つで鋼の内臓を破裂させたのだ。どれだけの力が込められているかご理解出来るだろうか?少なくとも日本刀を力づくで壊すだけの力を込めているのだ。

「まだまだ行くぞ。」

そして天子の顔に蹴りが入る…かと思われた。天子はどこにもおらず、代わりにいたのは壮年の男だった。

「…次郎。何の真似だ。」

男はそういって次郎と呼ばれた壮年の男を睨む。

「何の真似もくそもやり過ぎですよ。(はじめ)の兄貴。」

天子と戦っていた男の正体は勇姿が探している男、(はじめ)。彼は暇つぶしに天人の街を襲ったがいかんせん歯応えがなく、残っている天人を全滅させようとして天人の良家のお嬢様である天子に話しかけたのだ。

「時間が経つにつれ、穏やかな性格にでもなるのか?お前は?」

「そんなことはないですよ。」

「我が父に聞いた話によると平安時代の聖白蓮封印の時、一番過激だったのは次郎だと聞くが?」

「あの時はああでもしなければ士気が下がって、逆に貴方のご先祖様以外全滅という事態にもなりかねませんでしたから。」

「…それで何の用だ?」

(はじめ)の兄貴は博麗の代行とお会いになりましたか?」

「無論だ。」

「それは良かった。それでは準備した甲斐がありました。」

「準備だと?」

(はじめ)の兄貴。生身の身体欲しくありませんか?」

「生身の身体か。」

「ええ。もし生身の身体が手に入れば食べること、寝ること、そして女の身体も味わえるだけでなく、ありとあらゆることができるようになるんですよ?亡霊となった兄貴ならわかるでしょう?生身の身体がどれほどいいものなのか。」

「そのためにあいつの身体を乗っ取るというのか?くだらん…」

「勇姿が貴方の弟の生まれ変わりだとしても戦いたくないんですか?」

「…なに?」

「勇姿は貴方の弟が生まれ変わった姿です。ここで戦わなければ逃げたということと一緒ですよ。もう二度も負けているのにこれ以上負けたらなんて言われるか想像出来るでしょう?」

「次郎、そこまでいうなら良いだろう…あの男と戦ってやる。だが俺はあの男が本当に俺の弟なのかを確かめるだけのこと。それ以外に興味はない。」

「流石兄貴。それでは勇姿が来る守矢神社へ行きましょう。」

「任せた。」

次郎と(はじめ)がその場から消えると気絶した天子が代わりに現れた。その後天子は部下である永江衣玖に保護され自身が無傷だったことに首を傾げた。

 

〜守矢神社〜

 

守矢神社の階段の麓に着いた(はじめ)達は階段を登っていた。

「相変わらず便利な能力よな。次郎。」

次郎は何故、守矢神社に直接移動せず階段の麓に移動したのか。(はじめ)は理解していた。この次郎という男はお喋りが好きな性格なのだが移動する際は一瞬で済んでしまう。故に時間をかけて話をする為に階段の麓に移動したのだ。(はじめ)もそのことがわかっていて階段を上りながら話かける。

「それほどでも。ですが兄貴達のようなイレギュラーだと俺に負担がめちゃくちゃくるんですよね。」

「ここの幻想郷風に例えるならば、ありとあらゆるものを移動させる程度の能力といったところか?」

「本当は、全てのものを移動させる程度の能力としたいんですが兄貴達のようなイレギュラーがあってはそんな感じでしょうね。兄貴達のようなイレギュラーには触れないと効果がありませんし。」

「それでも強力な能力であることには変わりあるまい。少なくとも幻想郷の住民共が全員次郎を襲ったとしても返り討ちにすることくらいは容易かろう。」

「それはそうですが兄貴には勝てませんよ。」

「生前ならば弱点も少なかったが今は亡霊の身。亡霊を倒す術などいくらでもある。」

「兄貴を成仏させられる人間が何人いることやら…では俺はこのへんで失礼しますよ。勇姿とはまだ会う時ではありませんので。」

次郎が消え、(はじめ)は階段を上る。

「次郎、少なくともこの幻想郷に一人いるぞ。」

 

そして階段を上った先にあったのは金髪の幼女が大男に対物ライフルを頭に突きつけられ、尋問をされている様子だった。

「でも本当に知らないんだって。私は確かに坤を操る程度の能力を持っているけど博麗神社に地震を起こすなんてことはしないし、それにそんなことをするくらいなら畑でも作って秋姉妹と連携した方が良いに決まっているよ。」

「嘘をつくな。」

それを聞いた大男は幼女の言っていることを信じず対物ライフルの引き金を引こうとした。

 

しかし(はじめ)がそれを止めた。

「その娘の言っていることは本当だ。大和勇姿。」

「お前は…(はじめ)!?何故お前がそんなことがわかる?」

「地震を起こした犯人を知っているからとしか言いようがないからだ。」

「わざわざ俺にそいつの場所を教えに来たのか?」

「それでなくて何だというのだ?奴は天界にいる。」

「天界…?地震とは縁がないような奴が引き起こしたのか?」

「そうだ。お喋りはここまでだ。天界まで行きたければ俺と戦って勝て。」

そして(はじめ)が服を脱ぎ、上半身裸となった。

「そのようだな。」

そして勇姿も同じく早脱ぎをして上半身裸となった。

 

「この二人なんで上半身裸になっているの?」

「男の意地って奴かね?」

「私は女だからわからないよ…」

「安心しな諏訪子。私もだ。」

 

そんな二柱の戯言はさておき、勇姿と(はじめ)は互いに向き合いにらみ合う。

「その前に一つ聞いていいか?」

「言ってみろ。」

「幻想入りした俺に能力を付け足したのはお前か?」

「違うな。だがその人物に心当たりはある。いずれ会うことになるだろう。」

「いずれか。なら今聞くことでもなかったな…行くぞ(はじめ)!!」

そして勇姿は異変を解決する為に、(はじめ)は弟の生まれ変わりかを確かめる為に、それぞれの思いが激突した。

 

「大和空掌砲!」

勇姿が放つ圧力による大砲は目に見えない。それもそのはず空掌は空気を素手で素早く押し込み圧力をかける技だ。早い話が空気による衝撃波を利用したものである。

「甘い!」

しかし(はじめ)は勇姿と同じ家系であり、その技も知っているが故に避けることも容易い。

 

「変幻自在の自動銃-オートキルガン」

勇姿は霊夢との戦いに使った自動銃を取り出し、それを鳥居に向かって投げる。

すると自動銃が鳥居にくっつき(はじめ)の方に向かって弾幕を放ち始めた。

「ふむ。これほど未来だとそのような武器もあるのか。だがその弱点見切った!!大和空掌砲!!!」

(はじめ)は勇姿と同じ、いやそれ以上のパワーの空掌砲を放ち鳥居ごと自動銃を破壊した。この自動銃の弱点はオートモード、つまり自動で狙いをつけて弾幕を放つようなモードになった場合耐久性がなくなる。(はじめ)は初見でそれを見切ったのだ。

(はじめ)が鳥居を破壊したことによって神奈子や諏訪子がなにやら騒いでいるがこの戦いには関係ない。強いて言うならば障害物が増えたとしか言いようがない。

「流石だな。(はじめ)。それでこそ戦いがいがあるというものだ!」

勇姿の内心はそうではなかった。勇姿の内心は「(はじめ)…どれだけ馬鹿力なんだ?」と言った具合に驚愕していた。

守矢神社の鳥居は丈夫かつ硬く出来ている。かつて勇姿が守矢神社の異変の際に何度も鳥居に弾幕がぶつかったがそれでも無傷だった。しかしそれを一発で壊すということは一体どれだけの力を込めているのだろうか?故に勇姿が驚愕し、想像してしまうのは無理なかった。

だが勇姿の言葉は嘘でもない。勇姿はそれまで無双、いわゆる敵なしの状態だった。確かに制限をつければ勇姿も危うくなるだろう。暇な時に天魔や萃香などの強者相手に制限付きで戦ったこともある。しかしセーブとロードを繰り返し使って何度も戦っていくうちに、相手の動きが本能でわかるようになり、もはや勇姿は天魔や萃香すらも敵ですらなくなってしまった。

しかし能力をフルに使って本当の本気で戦ってみたい。そう思うようになり、勇姿は寂しくも思っていた。このような強者が相手となり、歓喜もしていたのだ。

だが勇姿は銃を棄てた。このような相手に銃が通じるとは思えないからだ。ましてや遠距離攻撃で守矢神社の鳥居をぶっ壊すような相手に遠距離で挑むとは無謀というものだ。

 

「戦闘狂め。」

(はじめ)はそう呟いていたが同時に笑っていた。それは勇姿と同じ歓喜だった。(はじめ)は薄々であるが勇姿と戦えば成仏してしまうことに気づいていた。それ故に最後の最後まで勇姿と戦うことを避けていた。

 

勇姿と戦えないことから暇つぶしに洗脳して妖忌を弟子にし、幻想郷最強クラスと話題となっていた勇姿とも対決させ強くさせた。その後(はじめ)は妖忌と戦い、少し満足はしたものの(はじめ)の理想の強さに届かなかった。

 

妖忌の洗脳を解いた後、(はじめ)は幻想郷ではなく魔界を旅し、僧侶から魔神まで様々な強者と戦ってきた。だがそれでも満足出来なかった。あまりにも弱すぎた。

 

そして今度は天界の天人達を一網打尽にしたところで、次郎に誘われ勇姿と戦うことを決めたのだ。

 

結論で言えば(はじめ)は勇姿と戦えてよかったと思っている。

 

「それはお互い様だっ!」

勇姿は(はじめ)の腹を殴り、(はじめ)をふらつかせる。

「…っ!互いに戦闘狂、結構だ!」

今度は(はじめ)が勇姿の顔を殴り、勇姿の脳を震盪させる。

「ヌァァァッ!!」

勇姿は一瞬、目眩を起こし前が見えなくなるが気合で持ちこたえ、(はじめ)の顔へ拳を向ける。

「オォォォーッ!!」

そして二人の拳と拳が顔に直撃する。

 

「くっ…」

「流石だ…」

互いに膝を付き、その場に倒れ仰向けになった。

 

「楽しかったぞ。大和勇姿。」

「いきなりなんだ?」

勇姿が(はじめ)を見ると(はじめ)の身体が透け始め、徐々に消えていく。

「天に昇る時が来た、それだけのことだ。」

「成仏するのか…だが約束通り教えろよ。異変を引き起こしたのは誰だ?」

勇姿が問い詰めると(はじめ)は苦笑した。

「俺の素性は聞かないのか。まあいい。異変を起こしたのは比那名居天子。天界に住む天人だ。」

「天界だと?」

「天界はこの地上よりもはるか上にある場所だ。」

「霊夢の勘もあながち間違いじゃないってことか。」

勇姿が頭を掻くと(はじめ)が口を開け、警告し始めた。

「勇姿、一つ言っておく。金銭に関わること以外であれば博麗の巫女の勘は十中八九当たる。もし博麗の巫女と結婚するのであれば浮気はせんことだな。」

「霊夢と俺が結婚か。夢のようだな。」

「…やはりお前は弟の生まれ変わりではないか。我が弟であれば浮気しても幸せにしてみせるくらいのことを言うのだがな。」

「ならその弟と会ってこいよ。そして俺のことを話してくれよ?」

「残念ながらそれは出来ん…弟の場所とは別の場所に行くことになるからな。」

そして(はじめ)が完全に消え去り、勇姿は空をぼうっと見ていた。

 

「あれじゃ鳥居を壊したことに関して請求できないじゃないか。大馬鹿者め。」

「全くだよ。でも勇姿に請求するのも筋違いだし、勇姿にそのお金があるとは思えないよ。いっそのこと早苗の婿になってもらう?」

「やめておけ。こんな空気でそんなことを言えばぶっ飛ばされる。触らぬ神に祟りなし。邪魔者はおとなしく去ろう…」

「祟り神は私なんだけどね。」

「諏訪子、あいつの渾名知らないのか?博麗の魔神だ。だからあながち間違いでもないのさ。」

「それもそうだね。でも魔力も霊力も妖力も持っていないから案外すぐに神様になっちゃうかもね。」

そんな漫才をしながら、二柱が去って行くと勇姿は立ち上がり、天界へ向かった。




あと2回…あと2回で緋想天編が終わる。そんなことを考えていたらこんな内容になってしまいました。

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